日本一の高さを誇る名峰・富士山。この山の北西麓には、およそ4キロ四方にわたって手付かずの原生林が広がっている。
青木ヶ原樹海——通称「富士の樹海」だ。散歩や洞窟散策を楽しめる観光地の側面もあるが、いつからか自殺スポットとして全国に知れわたり、いまもここを訪れる自殺“志願者”は後を絶たない。
そんな“負の名所“に20年以上通い続けるルポライター・村田らむさんが『樹海怪談』を上梓した。
本書に心霊現象の類は一切出てこない。代わりに多く登場するのが、樹海巡りをするなかで発見した亡骸や生前を物語る遺留品だ。村田さんは自死を遂げた者の結末を淡々と描写していく。その生々しさには思わずゾクっとする。
前回記事「アメリカの超有名人」から《富士の樹海》で奇妙なリクエストが...いま、大量のインバウンド客が「探しているもの」に引き続き、村田さんに禍々しい森のリアルを聞いた。
樹海を広めた“有名作家”
そもそもなぜ青木ヶ原樹海は自殺スポットとして全国に知られるようになったのだろうか。そのきっかけについて、村田らむさんは次のように語る。
「日本で初めて樹海での自殺シーンを描いたのは、松本清張の小説『波の塔』だとされています。この作品はこれまで8回ドラマ化されていて、そのたび『樹海=自殺』のイメージが広まっていったのでしょう。決定打になったのは、1993年に発刊された『完全自殺マニュアル』です。自殺に適した場所として青木ヶ原樹海が紹介されていました」
ただ、樹海は呪われた土地でもなんでもないという。
「始まりは約1200年前に起きた富士山の噴火です。周辺に流れ出た溶岩が固まり、その上に樹木が生い茂るようになりました。いまも手付かずの原生林が残っているのは、地面の硬さゆえに長いあいだ開発することができなかったからです。
人目につかない場所なので昔から自殺をする人もおそらくいたでしょう。綿密な取材を重ねることで有名な松本清張もそういった情報を得た上で作品に反映したはずです。とはいえ、最初は地元の人間だけが知るような自殺スポットだったのではないかと思います」