世界せかいの有名ゆうめいな話はなし　第だい２８話わ



人魚にんぎょ姫ひめ
アンデルセン童話どうわ　→　アンデルセン童話どうわの詳細しょうさい
人魚にんぎょ姫ひめのぬりえ

　深ふかい深ふかい海うみの底そこに、サンゴの壁かべとコハクのまどのお城しろがあります。
　そのお城しろは、人魚にんぎょの王おうさまのお城しろです。
　王おうさまには六ろく人にんの姫ひめがいて、その中なかでも、とりわけ一番いちばん末まつの姫ひめはきれいでした。
　その肌はだはバラの花はなびらのようにすきとおり、目めは深ふかい海うみのように青あおくすんでいます。
　人魚にんぎょたちの世界せかいでは、十じゅう五ご歳さいになると海うみの上うえの人間にんげんの世界せかいを見みに行いくことを許ゆるされていました。
　末すえっ子この姫ひめは、お姉ねえさんたちが見みてきた人間にんげんの世界せかいの様子ようすを、いつも胸むねときめかして聞きいています。
「ああ、はやく十じゅう五ご歳さいになって、人間にんげんの世界せかいを見みてみたいわ」
　そうするうちに、一番いちばん末まつの姫ひめもついに十じゅう五ご歳さいをむかえ、はれて海うみの上うえに出でる日ひがきました。
　喜よろこんだ姫ひめが上うえへ上うえへとのぼっていくと、最初さいしょに目めに入はいったのは大おおきな船ふねでした。
「わあー、すごい。人間にんげんて、こんなに大おおきな物ものを作つくるんだ」
　人魚にんぎょ姫ひめは船ふねを追おいかけると、甲板かんぱんのすき間まから、そっと中なかをのぞいてみました。
　船ふねの中なかはパーティーをしていて、にぎやかな音楽おんがくが流ながれるなか、美うつくしく着きかざった人ひとたちがダンスをしています。
　その中なかに、ひときわ目めをひく美うつくしい少年しょうねんがいました。
　それは、パーティーの主役しゅやくの王子おうじです。
　そのパーティーは、王子おうじの十じゅう六ろく歳さいの誕生たんじょう日びを祝いわう誕生たんじょうパーティーだったのです。
「すてきな王子おうじさま」
　人魚にんぎょ姫ひめは夜よるになっても、うっとりと王子おうじのようすを見みつめていました。
と、突然とつぜん、海うみの景色けしきが変かわりました。
　稲光いなびかりが走はしると風ふうがふき、波なみがうねりはじめたのです。
「あらしだわ！」
　 水夫すいふたちがあわてて帆ほ(ほ)をたたみますが、あらしはますます激はげしくなると、船ふねは見みるまに横倒よこだおしになってしまいました。
　船ふねに乗のっていた人ひとびとが、荒あれくるう海うみに放ほうり出だされます。
「大変たいへん！　王子おうじさまー！」
　人魚にんぎょ姫ひめは大急おおいそぎで王子おうじの姿すがたを探さがしだすと、ぐったりしている王子おうじのからだをだいて、浜辺はまべへと運はこびました。
「王子おうじさま、しっかりして。王子おうじさま！」
　人魚にんぎょ姫ひめは王子おうじさまを、けんめいに看病かんびょうしました。
　気きがつくと、もう朝あさになっていました。
　そこへ、若わかい娘むすめが走はしってきます。
「あっ、いけない」
　人魚にんぎょ姫ひめはビックリして、海うみに身みをかくしました。
　すると娘むすめは王子おうじに気きがついて、あわてて人ひとを呼よびました。
　王子おうじはそのとき、息いきをふきかえしました。
「あ、ありがとう。あなたが、わたしを助たすけてくれたのですね」
　王子おうじは目めの前まえにいる娘むすめを、命いのちの恩人おんじんと勘違かんちがいしてしまいました。
　人魚にんぎょ姫ひめはションボリして城しろに帰かえってきましたが、どうしても王子おうじのことが忘わすれられません。
「ああ、すてきな王子おうじさま。・・・そうだ、人間にんげんになれば、王子おうじさまにまた会あえるかもしれない」
　そこで魔女まじょ(まじょ)のところへ出でかけると、人間にんげんの女おんなにしてくれるようたのみました。

　魔女まじょは人魚にんぎょ姫ひめの願ねがいを聞きくと、こう答こたえました。
「そうかい、そうかい。人間にんげんの王子おうじに会あうために、人間にんげんの女おんなにねえ。なるほど。まあ、わたしの力ちからを持もってすれば、人魚にんぎょのしっぽを人間にんげんのような足あしにかえることは出来できるよ。でもそのかわりに、足あしは歩あるくたびにナイフをふむように痛いたむよ。それと、もしお前まえが王子おうじと結婚けっこんできなかったら、お前まえは二度にどと人魚にんぎょには戻もどれない。いや、それどころか心臓しんぞうが破やぶれて、お前まえは海うみのあわになっちまうんだ。それでもいいんだね」
「いいわ。王子おうじさまと、一緒いっしょにいられるのなら」
「よしよし、ああ、それから。願ねがいをかなえるほうびに、お前まえの声こえをもらうよ。お前まえの声こえは、海うみの世界せかいで一番いちばん美うつくしいと評判ひょうばんだからね」
　魔女まじょの力ちからで人間にんげんの女おんなになった人魚にんぎょ姫ひめは、口くちのきけない身みで人間にんげんの世界せかいへ戻もどり、王子おうじの城しろをたずねました。
「おお、なんと美うつくしい娘むすめだ」
　王子おうじは人魚にんぎょ姫ひめをひと目め見みて気きに入いり、妹いもうとのようにかわいがりました。
　しかし王子おうじの心しんは、命いのちの恩人おんじんと思おもいこんでいる、あの浜辺はまべで会あった娘むすめにうばわれていたのです。
　やがて王子おうじと娘むすめは、結婚式けっこんしきをあげることになりました。
　二人ふたりは船ふねに乗のりこむと、新婚しんこん旅行りょこうに向むかいます。
　王子おうじと結婚けっこんできなかった姫ひめは、次つぎの日ひの朝あさ、海うみのあわになってしまうのです。
　しかし人魚にんぎょ姫ひめには、どうすることもできません。
　ただ、船ふねの手てすりにもたれているばかりでした。
　そのとき、波なみの上うえに人魚にんぎょ姫ひめのお姉ねえさんたちが姿すがたを見みせました。
「魔女まじょから、あなたのためにナイフをもらってきたわ。これで王子おうじの心臓しんぞう(しんぞう)をさしなさい。そしてその血ちを足あしにぬるのです。そうすれば、あなたは人魚にんぎょに戻もどれるのよ」
(もう一度いちど、人魚にんぎょに！)
　人魚にんぎょ姫ひめはナイフを受うけ取とると、王子おうじの眠ねむる寝室しんしつへと入はいっていきました。
(王子おうじさま、さようなら、わたしは人魚にんぎょにもどります)
　人魚にんぎょ姫ひめは王子おうじのひたいにお別わかれのキスをすると、ナイフをひといきに突つき立たてようとしました。
「・・・・・・」
　でも、人魚にんぎょ姫ひめには、愛あいする王子おうじを殺ころすことができません。
　人魚にんぎょ姫ひめはナイフを投なげ捨すてると、海うみに身みを投なげました。
　波なみにもまれながら人魚にんぎょ姫ひめは、だんだんと自分じぶんのからだがとけて、あわになっていくのがわかりました。
　そのとき、海うみからのぼったお日ひさまの光ひかりの中なかを、すきとおった美うつくしいものが漂ただよっているのが見みえました。
　人魚にんぎょ姫ひめも自分じぶんが空気くうきのように軽かるくなり、空中くうちゅうにのぼっていくのに気きづきました。
「わたしは、どこに行いくのかしら？」
　すると、すきとおった声こえが答こたえます。
「ようこそ、空気くうきの精せいの世界せかいへ。あなたは空気くうきの精せいになって、世界中せかいじゅうの恋人こいびとたちを見守みまもるのですよ」
　人魚にんぎょ姫ひめは、自分じぶんの目めから涙なみだが一いちしずく落おちるのを感かんじながら、風ふうともに雲くもの上うえへとのぼっていきました。

おしまい