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2009年ねん　11月23日にちの新作しんさく昔話むかしばなし



宝船たからぶねを買かってくる
鹿児島かごしま県けん薩摩さつま郡ぐんの民話みんわ → 鹿児島かごしま県けん情報じょうほう

　むかしむかし、お父とうさんが冗談じょうだんで、とても素直すなおな男おとこの子こに言いいました。
「お金かねをやるから、それで宝物ほうもつを乗のせた宝船たからぶねを買かってきてくれないか？」
　いくらなんでも、そんな物ものを買かえるはずがありません。
　でも、男おとこの子こは、
「はい。では買かってきます」
と、わずかなお金かねをもらって、家いえを飛とび出だして行いったのです。
　男おとこの子こは町まちへ行いくと宝船たからぶねを売うっているお店みせを探さがしましたが、どこにも宝船たからぶねは売うっていません。
　そこで男おとこの子こは人形にんぎょうを売うっているお店みせに入はいると、お店みせにいたおばあさんに尋たずねました。
「おばあさん、ぼくは宝船たからぶねを買かいに来きたのですが、どこにも売うっていないのです。どこに売うっているか、知しりませんか？」
「おや、宝船たからぶねをかい？　それは大たいした買かい物ものだね。それで、お金かねは持もっているのかい？」
「はい、これだけあります」
　男おとこの子こはそう言いって、お父とうさんにもらったお金かねを見みせました。
　するとおばあさんは、困こまった顔かおをして言いいました。
「それじゃ、宝船たからぶねなんて無理むりだよ。この店みせじゃあ、この起おき上あがりこぼししか買かえないね」
「では、それを下ください」
　こうして男おとこの子こは、もらったお金かねで、おきあがりこぼしを二ふたつ買かいました。
　そして男おとこの子こが町まちを出でてしばらく行いくと青あおい原はらっぱがあって、ヒューヒューと涼すずしい風ふうが吹ふいていました。
　するとふところから、二ふたつのおきあがりこぼしが飛とび出だして、
「ここは、気持きもちの良よいところじゃ。ひとつ相撲すもうでもとるか」
と、二ふたつのおきあがりこぼしが、相撲すもうをはじめたのです。
「不思議ふしぎな人形にんぎょうだな。よし、これでお金かねもうけをしよう」
　そこで男おとこの子こはおきあがりこぼしをふところにしまうと、この村むらの長者ちょうじゃのところへ行いきました。
「長者ちょうじゃさん、明日あしたおもしろいものを見みせますから、村むらの人ひとたちを集あつめてください」
「なに？　おもしろいものだって？」
「はい、この土どで出来できた人形にんぎょうに、相撲すもうをとらせます」
　男おとこの子こは、ふところから二ふたつのおきあがりこぼしを取とり出だしました。
「なるほど、それはおもしろそうだ。でも、どうやって相撲すもうをとらせるのだ？」
「それは、明日あしたのお楽たのしみです」
　そう言いわれると、長者ちょうじゃは人形にんぎょうの相撲すもうが見みたくてたまりません。
「よし、わかった」
　そこで長者ちょうじゃは、広ひろい庭にわのまん中なかに小ちいさな土俵どひょうをつくり、
《人形にんぎょうの相撲すもうを行おこなうので、見みたい者ものは見物けんぶつ料りょうに、お金かねか品物しなものを持もってくるように》
と、書かいた立たて札ふだを立たてたのです。
　するとそれがうわさになり、次つぎの日ひの朝あさには、大勢おおぜいの村人むらびとたちがお金かねや品物しなものを持もって集あつまりました。

　長者ちょうじゃの作つくった小ちいさな土俵どひょうの上うえには、おきあがりこぼしが二ふたつ、ちょこんとのっています。
「あの相撲すもうが、相撲すもうをとるというのか？」
「まさか、人形にんぎょうが相撲すもうをとるなんて」
「でも、もしかすると」
　みんなが話はなし合あっていると、男おとこの子こが大おおきな声こえで言いいました。
「東ひがし、おきの山やま。西にし、こぼし川かわ。見合みあって、見合みあって、はっけよい！」
　そのとたん、二ふたつのおきあがりこぼしが動うごき出だして、押おし合あいをはじめたのです。
　どちらも強つよくて、なかなか勝負しょうぶがつきません。
「いいぞ、いいぞ」
「どっちも、負まけるな！」
　村人むらびとたちは大だい喜よろこびで、持もって来きたお金かねや品物しなものをどんどん投なげてくれました。
　おかげでたちまち、宝たからの山やまが出来できてしまいました。
　長者ちょうじゃも大だい喜よろこびで、男おとこの子こに宝たからの山やまを積つむ舟ふねをつくってくれました。
　こうして男おとこの子こは、ついに宝船たからぶねを手てに入いれたのです。
　そして家いえで待まっていたお父とうさんも、男おとこの子こが本当ほんとうに宝船たからぶねを買かってきて大だい喜よろこびです。
　おかげで男おとこの子この家族かぞくは、村むら一番いちばんのお金持かねもちになりました。

おしまい