福ぶく娘むすめ童話どうわ集しゅう > きょうの新作しんさく昔話むかしばなし > 医者いしゃになった靴くつ職人しょくにん

2010年ねん　10月6日にちの新作しんさく昔話むかしばなし



医者いしゃになった靴くつ職人しょくにん
イソップ童話どうわ　→　福ぶく娘むすめ童話どうわ集しゅうのイソップ童話どうわ

　ある腕うでの悪わるい靴くつ職人しょくにんが、仕事しごとがうまくいかないので、医者いしゃを始はじめました。
　そして、
「これは、あらゆる毒どくを消けし去さる解毒げどく剤ざいです。虫むしや蛇へびの毒どくはもちろんの事こと、食しょくあたりや毒殺どくさつからも身みを守まもることが出来できるのです」
と、たくみな話術わじゅつで、自分じぶんが適当てきとうに作つくったインチキ薬やくを売うり始はじめました。
　するとこれが大当おおあたりで、彼かれはたちまち町まちの有名人ゆうめいじんとなりました。
　しかしある時とき、この元もと靴くつ職人しょくにんの医者いしゃが重おもい病気びょうきにかかったのです。
「どんな毒どくでも消けし去さる薬くすりを売うる医者いしゃが、病気びょうきになるとはおかしいぞ」
　これを不審ふしんに思おもった町長ちょうちょうが、彼かれが作つくった解毒げどく剤ざいに毒どくを混まぜるふりをして、
「褒美ほうびをやるから、これを飲のみ干ほしてみろ。この解毒げどく剤ざいが本物ほんものなら、問題もんだいはないだろう」
と、命令めいれいしました。
「それは、その・・・」
　医者いしゃは死しぬのを恐おそれて、
「ごめんなさい。本当ほんとうは、薬くすりの知識ちしきなど持もち合あわせていません。この解毒げどく剤ざいはインチキです」
と、白状はくじょうしたのです。
　これを知しった町まちの人ひとたちは怒おこって、医者いしゃの元もとへお金かねを返かえせと押おし寄よせました。
　すると町長ちょうちょうは、集あつまった市民しみんにこんな事ごとを言いったのです。
「この元もと靴くつ屋やのインチキ医者いしゃは、たしかに悪わるい。だが君きみたちは、このインチキ医者いしゃを責せめる前まえに、自分じぶんたちを責せめるべきではないのか？　なにしろ、足あしに履はく靴くつさえも注文ちゅうもんしなかった男おとこに、自分じぶんたちの命いのちを委ゆだねたのだからね」

　人ひとにだまされて文句もんくを言いう人ひとは大勢おおぜいいます。
　たしかに、人ひとをだました悪人あくにんは、罰ばっせられるべきでしょう。
　でも、相手あいてのうそを見抜みぬけずに、だまされた方ほうにも責任せきにんはあるのです。

おしまい