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2013年ねん　10月11日にちの新作しんさく昔話むかしばなし

エコーとナルキッソス
ギリシア神話しんわ　→　ギリシアの情報じょうほう

　むかしむかし、ギリシアの森もりに、エコーというおしゃべりな妖精ようせいがいました。

　ある日ひの事こと、夫おっとのゼウスが森もりの妖精ようせいたちと楽たのしく遊あそんでいると聞きいた奥おくさんのヘラは、怒おこって森もりに入はいっていきました。
「大変たいへんだ、ゼウスを助たすけないと」
　エコーはヘラのところへ行いくとあれこれとうるさく話はなしかけて、その間あいだにゼウスと一緒いっしょにいた妖精ようせいたちをうまく逃にがしてやったのです。
　その事ことに気きづいたヘラは、たいへん怒いかりました。
「エコー、おだまり！
　これからはお前まえは、決けっして自分じぶんからしゃべってはいけません。
　人ひとの言いった言葉ことばを繰くり返かえす以外いがい、しゃべる事ことを禁止きんしします」
　おしゃべりが大好だいすきなエコーはびっくりして、ヘラに一生懸命いっしょうけんめい頼たのみました。
「ヘラ様さま、どうかそればかりは許ゆるして下ください。お願ねがいです。もう、おせっかいな、おしゃべりはしませんから」
　でもヘラはき入きいれようとはせず、エコーはがっかりして森もりの奥おくへ姿すがたを消けしました。

　それから数すう年ねん後ご、ナルキッソスという美うつくしい青年せいねんが森もりへやってきました。
「まあ、何なにて素敵すてきな人ひとでしょう」
　エコーは思おもわず、木陰こかげから飛とび出だしました。
「見事みごとな金髪きんぱつ、青あおくすんだ瞳ひとみ。あんな素敵すてきな人ひと、今いままでに見みた事ことがないわ」
　エコーはたちまち、ナルキッソスに夢中むちゅうになりました。
「一いち度どでいいから、わたしに話はなしかけてくれないかしら？　そうすれば、彼かれとおしゃべりが出来できるのに」
　その日ひからエコーは、ナルキッソスのあとをついてまわりました。

　ある時とき、ナルキッソスは山やまで道みちに迷まよい、友ともだちとはぐれてしまいました。
　ナルキッソスは、大声おおごえで友ともだちを呼よびました。
「おーい、どこへ行いったんだい？」
　するとエコーが、声こえ真似まねをします。
「おーい、どこへ行いったんだい？」
　それを聞きいたナルキッソスが、答こたえました。
「わたしは、ここだよ」
　するとエコーが声こえ真似まねをしながら、ナルキッソスの前まえに飛とんでいきました。
「わたしは、ここだよ」
　ナルキッソスは、声こえ真似まねをするエコーに驚おどろきました。
「誰だれだ、お前まえは？」
「誰だれだ、お前まえは？」
「なぜ、真似まねをする」
「なぜ、真似まねをする」
「真似まねをするな！」
「真似まねをするな！」
「だまれ！」
「だまれ！」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
　エコーの声こえ真似まねに腹はらを立たてたナルキッソスは、エコーをにらみつけてどこかへ行いってしまいました。
　ナルキッソスに嫌きらわれたエコーは、泣なきながら森もりの奥深おくふかくに隠かくれました。
　そして悲かなしみのあまり体たいがどんどんやせていき、ついには声こえだけになってしまいました。

　エコーの悲かなしい結末けつまつを知しった他ほかの妖精ようせいたちは、ナルキッソスに仕返しかえしを考かんがえました。
「ナルキッソスだって、つらい目めにあってみればいいのよ」
「そうだわ、そうだわ」
「復讐ふくしゅうの女神めがみさまに、お願ねがいしましょう」
「でも、どんなお願ねがいをするの？」
「自分じぶんに恋こいをして、他たの誰だれも好すきになれない様ようにするのよ」

　ある日ひ、喉のどが渇かわいたナルキッソスは通とおりかかった池いけの水みずを飲のもうとして、はっとしました。
「誰だれだろう、この美うつくしい人ひとは？」
　ナルキッソスは水みずに映うつっている自分じぶんの姿すがたを、美うつくしい妖精ようせいと思おもい込こんだのです。
「何なにと素敵すてきな妖精ようせいだ。妖精ようせいよ、池いけからあがっておくれ。ぼくの前まえに出でてきておくれ」
　当然とうぜんのこと、水みずに映うつった自分じぶんは何なにも返事へんじをしません。
「外そとに出でてきてもらえないのなら、せめて、ぼくがあなたをずっと見みつめていよう」
　自分じぶんの姿すがたに恋こいをしたナルキッソスは、その池いけから離はなれられなくなりました。
　そして食たべる事ことも寝ねる事ことも忘わすれてしまったナルキッソスは、ひどくやせおとろえてしまいました。
　それを知しったエコーは、じっとしていられません。
　エコーはナルキッソスのそばにやって来きて、ナルキッソスが小ちいさなため息いきをつくと自分じぶんも同おなじようにため息いきをつきました。

　ある春はるの事こと、すっかりやせ衰おとろえたナルキッソスは、美うつくしい自分じぶんの姿すがたが映うつっている池いけに手てを伸のばしました。
「美うつくしい妖精ようせいよ。今日きょうこそは、ぼくのところに来きておくれ」
　そしてそのままバランスを崩くずして、ナルキッソスは池いけの中なかに落おちてしまったのです。
　体からだの弱よわっていたナルキッソスは、池いけの底そこに沈しずんで二度にどと浮うかんではきませんでした。

　エコーはもちろん、復讐ふくしゅうの女神めがみにお願ねがいをした妖精ようせいたちも、池いけの底そこに沈しずんだナルキッソスを探さがしました。
　でも、どんなに探さがしてもナルキッソスは見みつかりませんでした。
　その代かわり、黄色きいろいおしべの白しろい花はなが、池いけのほとりに咲さいていました。
「きれいな花はな」
　その花はなの上品じょうひんで、どこかさびしそうで、死しんだナルキッソスにそっくりでした。
「この花はなは、ナルキッソスの生うまれかわりだわ」

　その時ときから妖精ようせいたちは、その花はなをナルキッソス(水仙すいせん)と名なづけて大切たいせつにしたそうです。

おしまい