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6月26日にちの日本にっぽんの昔話むかしばなし



船ふねゆうれい

　むかしむかしの、ある浜はまでのいいつたえです。
「お盆ぼんの夜よるには、けっして舟ふねをだすでねえ。あかとりをとられて、舟ふねの中なかへ水みずを入いれられて、おぼれ死しにさせられてしまうからのう」
　あかとりというのは、舟ふねの底そこにたまった水みずをくみだすひしゃくのことです。
　年としよりたちは、このいいつたえをまもっていましたが、若わかいものはそんなことは聞ききはせん。
「なあに、迷信めいしん(めいしん)じゃ、迷信めいしんじゃ」
「さかなをとるのに、盆ぼんも正月しょうがつも、あろうかい」
と、とうとう十じゅう人にんばかり、いせいのいい若わかいものが、お盆ぼんのむかえ火ひをあとに、沖おきへこぎだしていってしまいました。
　海うみはおだやかで、星ほしは空そらいちめんに光ひかっています。
　若わかいものたちは沖おきにでると、はなうたをうたいながら、さかな取とりのアミを流ながしていきました。
　アミを流ながしおわったころ、
「おい。ありゃあ、なんじゃ！」
と、ひとりが沖おきのほうを指ゆびさしました。
　見みると、沖おきあいから黒くろい雲くもがやってきます。
「こいつは、まずいことになったぞ」
　若わかいものたちは、いそいでひきあげるしたくにかかりました。
　すると、沖おきからだんだんこっちへやってくる雲くもの中なかから、
「まってくれーい」
「まってくれーい」
と、なにやら、気味きみのわるい声こえが聞きこえてきます。
「おいっ、まってくれと、いってるぞ」
「くそっ、まってたまるかい。ひきあげろ、ひきあげろ」
　黒くろい雲くもは、だいぶ近ちかくまできてしまいました。
　グルグルッと、空そらに大おおきなうずをまいたかと思おもうと、見みるまに大おおきな形かたちのかわった船ふねになって、海うみの上うえをすべるように、こっちへとやってきます。
　その船ふねといったら、それこそいままでに見みたこともない、ふしぎな形かたちをしていました。
「ありゃあ、異国いこく(いこく→外国がいこく)の船ふねだぞ」
「へさきに、竜りゅう(りゅう)の首くびがついとるわい」
「おう、見みろ。万まん燈とう(まとび→東日本ひがしにっぽんで盆ぼんにもやす松明たいまつ)だ」
「万まん燈とうだ、万まん燈とうだ」
　その船ふねには、いつのまにやら、船ふなべりにも甲板かんぱん(かんぱん)にも帆柱ほばしら(ほばしら)にも、万まん燈とうがあかるくかがやいていました。
　そのあかりが、海うみにキラキラキラキラうつり、なんともいない美うつくしさです。
　みんなが思おもわず見みとれていると、船ふねはグングン近ちかづいてきます。
「みょうだ。あの船ふねには、だれものっておらんぞ」
　船ふねが、ぶつかりそうなほど近ちかづいたとき。
「あかとりがほしいー」
「あかとりがほしいー」
　泣なくような、うめくような声こえがきこえてきました。
　若わかいものたちは、背せすじがゾクゾクしました。
　あかとりをとられたら、いのちをとられる。
　村むらのとしよりの言葉ことばを思おもい出だしました。
「あかとりを、わたしてはならんぞ」
「おい。かくせ、かくせ。あかとりをかくせっ」
　そうさけんだとき、船ふねいっぱいについた万まん燈とうが、ふわりと浮うきました。
　そして、フワリフワリと、とんできたかと思おもうと、若わかいものたちの舟ふねをグルリとかこんでしまったのです。
　そして、一ひとつ一ひとつの万まん燈とうから、ぬーっと白しろい手てがでてきていいました。
「おぼれ死しぬもんは、だれじゃー」
「おれたちのなかまになるもんは、だれじゃー」
と、
「助たすけてくれー！　船ふねゆうれいだ」
「船ふねゆうれいだ！」
　叫さけんだときには、もう何なん百ひゃくという白しろい手てが、船ふねをしっかりとつかんでいて、船ふねは動うごくことができません。
「あかとりを、よこせー」
「あかとりを、よこせー」
　船ふねゆうれいの手てが、すーっと、ひとりの漁師りょうしの顔かおをなでました。
「ギャアァァァー！」
　その男おとこは、むちゅうであかとりを海うみへなげてしまいました。
と、その一ひとつのあかとりが、何なん十じゅう、何なん百ひゃくというあかとりになりました。
　そして船ふねゆうれいのながい手てが、ひとつのこらずあかとりを持もつと、海うみの水みずをくんでは、ザブーリ、ザブーリと、船ふねの中なかへ入いれたのです。
「たすけてくれーっ！」
「船ふねゆうれいだーっ！」
　若わかいものたちは、くるったようにさけびました。
　でも、さけんでもさけんでも、白しろい手てはザブーリ、ザブーリと、あかとりで水みずを入いれます。
　船ふねは、いまにもしずみそうです。
　そのとき、浜はまのほうで大おおきなほのおが、いくつもいくつもあがりました。
　浜はまでたいていた、お盆ぼんのむかえ火ひです。
　そのほのおが、ボーッと空そら高たかくもえあがったかと思おもうと、まっ赤あかな雲くものようなかたまりになって、とぶようにこっちへ走はしってきました。
　そして、船ふねゆうれいたちの上うえまでくると、空そらいっぱいにひろがって、パチパチッ、パチパチッ、パチパチッと、火ひの粉こをちらしながらさけぶのです。
「異国いこくの亡者もうじゃどもよ。しずまれーっ！」
「浜はまにもえておる火ひを見みるがいい」
「おれたちは、海うみではたらいて死しんだもんじゃ」
「おまえらも、海うみで死しんだ仲間なかまじゃろう」
「おんなじ仲間なかまじゃあないか」
「消きえるがいい、消きえるがいい」
「わるさをするでねえだ！」
　その声こえをきくと、白しろいながい手てはパーッと、ちって、うつくしい万まん燈とうにかわりました。
　そして、フワリフワリと、もとの船ふねにもどっていったのです。
　それから、船ふねいっぱいに万まん燈とうをともした異国いこくの船ふねは、キラキラと波なみにあかりをうつしながら、沖おきへ沖おきへと消きえていってしまいました。

おしまい