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ごゆっくり <福娘童話集 きょうの江戸小話>
今日の江戸小話 福娘童話集
 


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9月くがつ21にち小話こばなし

ごゆっくり

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♪おはなしをよんでもらう(html5)
朗読ろうどく : あおのぷよの世界せかい

 あるときやまおく田舎いなかからおきゃくがきて、まることになりました。
 あるじはいえもの風呂ふろ用意よういさせ、おきゃく風呂ふろをすすめました。
 おきゃくは、よそのいえ風呂ふろはいるのははじめてです。
「では、おさきにいただきます」
「どうぞ、ごゆっくり」
 ところがおきゃく風呂場ふろばはいってから、小一時間こいちじかんたってもてきません。
 あるじは心配しんぱいになって、風呂場ふろば入口いりくちまであしはこびました。
 なかからお使つかっているおとがします。
 よほど、風呂ふろきなおきゃくとみえます。
 そのおきゃくに、
「はやくあがりなさい」
と、うのもわるいので、あるじはこえをかけました。
「どうぞ、ごゆっくり」
 するとおきゃくはおきゃくで、風呂ふろというものは『ゆっくりはいっていないと、わるいのではないか』と勘違かんちがいして、
「へい、ゆっくりと、いただきますだ」
と、こたえました。
 あるじはおきゃく返事へんじにひとまず安心あんしんして、座敷ざしきにもどりました。
 けれどまたしばらくたっても、おきゃく風呂ふろからあがりません。
 あるじはふたたび、風呂場ふろばあしはこんで、
「どうぞ、ごゆっくり」
と、こえをかけました。
 おきゃくはそれをまにうけて、
「へい、ゆっくりいただいておりますだ」
と、こたえ、なおもしんぼうをかさねました。
 あるじがまた安心あんしんして座敷ざしきにもどると、しばらくしておきゃくがエビのようにあかくなって風呂ふろからてきました。
 あしもとが、ふらついています。
風呂ふろはごちそうというが、ごゆっくり、ごゆっくりと、むりじいさせられるのは、なんともつらいもんじゃ。ふーっ、もうだめだ」
 ばったり、たおれてしまいました。

♪ちゃんちゃん
(おしまい)

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