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10月26日にちの世界せかいの昔話むかしばなし



最後さいごの真珠しんじゅ
アンデルセン童話どうわ　→　アンデルセンについて

　むかしむかし、あるお金持かねもちの家いえで子こどもが生うまれ、家中いえじゅうが幸しあわせに包つつまれていました。
　絹きぬ(きぬ)のカーテンをひいた部屋へやには、お母かあさんと子こどもがぐっすりと眠ねむっています。
　子こどもの上うえには真珠しんじゅを散ちりばめた、アミの様ような物ものが広ひろげてありました。
　それは親切しんせつな妖精ようせいたちが持もってきた幸福こうふくの贈おくり物もので、一ひとつ一ひとつの真珠しんじゅが『健康けんこうな体からだ』や『おいしいごちそう』や『楽たのしい遊あそび』や『仲なかの良よいお友ともだち』などを現あらわしているのです。
　この家いえを守まもっている神かみさまが、にっこり笑わらって言いいました。
「これで、全部ぜんぶの贈おくり物ものがそろいましたね」
　すると、子こどもを守まもる神かみさまが答こたえました。
「いいえ、まだ一人ひとりの妖精ようせいが、贈おくり物ものを持もってきていません。最後さいごの真珠しんじゅが足たりないのです」
「何なにと言いう事ことだ。この子この幸福こうふくに、足たりない物ものがあってはならない。今いますぐに、その妖精ようせいを探さがさなくては」
　家いえを守まもる神かみさまの言葉ことばに、子こどもを守まもる神かみさまが落おち着つくように言いいました。
「そんなにあわてなくても、いつか必かならず来きますよ」
「いいや、待まっているぐらいなら、わたしが取とりに行いこう。どこへ行いけば、良よいのだ？」
　すると子こどもを守まもる神かみさまは、仕方しかたなく言いいました。
「そこまで言いうのなら、最後さいごの妖精ようせいのいるところへ連つれて行いってあげましょう」
　子こどもを守まもる神かみさまは、家いえを守まもる神かみさまの手てを取とって飛とんで行いきました。
　そして飛とびながら、最後さいごの妖精ようせいの事ことを言いいました。
「最後さいごの妖精ようせいは、決きまったところにいません。王おうさまの家いえにも、貧まずしい人ひとの家いえにも、誰だれの家いえにも必かならず最後さいごの贈おくり物ものを持もって行いくのです。確かくか今いまは、この辺あたりの家いえに来きているはずです。・・・ああ、ここです」
　子こどもを守まもる神かみさまが案内あんないしたのは、町外まちはずれのお屋敷やしきの大おおきな暗くらい部屋へやでした。
　その部屋へやには、お父とうさんと子こどもたちだけしかいません。
　一番いちばん小ちいさい子こは、お父とうさんに抱いだかれています。
　実じつは、この家いえのお母かあさんがたった今いま、病気びょうきで死しんでしまったのです。
　子こどもたちのほっぺたは涙なみだにぬれて、しくしくと泣なく声こえが部屋へやを包つつんでいます。
　家いえを守まもる神かみさまが、子こどもを守まもる神かみさまに言いいました。
「ここには、いい贈おくり物ものを持もっている、最後さいごの妖精ようせいはいませんね」
「いいえ、ここにいますよ」
　子こどもを守まもる神かみさまは、部屋へやのすみを指差ゆびさしました。
　それは、お母かあさんが子こどもたちをひざに乗のせて、歌うたを歌うたって遊あそばせていた椅子いすです。
　その椅子いすには、見知みしらぬ女おんなの人ひとが長ながい服ふくを着きて腰こしかけています。
　子こどもを守まもる紳しんさまは、そっと言いいました。
「あの人ひとが最後さいごの妖精ようせい、悲かなしみの妖精ようせいです」
　その時とき、悲かなしみの妖精ようせいの目めから涙なみだがひとしずくこぼれ落おちて、みるみるうちに七なな色しょくにかがやく真珠しんじゅ(しんじゅ)になりました。
　子こどもを守まもる神かみさまは、その真珠しんじゅをすくい取とって言いいました。
「この真珠しんじゅは、悲かなしみです。これであの子こどもの贈おくり物ものは、全部ぜんぶそろいました。人ひとは悲かなしみを知しると本当ほんとうの幸福こうふくがわかるようになり、自分じぶんにも他たの人ひとにもやさしくしてあげられるのです。それが、最後さいごの真珠しんじゅなのです」
　子こどもを守まもる神かみさまと家いえを守まもる神かみさまは真珠しんじゅを手てに乗のせると、子こどもの眠ねむる家いえへと飛とんで帰がえりました。

おしまい