安達あだち泰盛やすもり

凡例はんれい 安達あだち 泰盛やすもり
『蒙こうむ古こ襲来しゅうらい絵詞えことば』の安達あだち泰盛やすもり（45歳さい）
時代じだい	鎌倉かまくら時代ときよ中期ちゅうき
生誕せいたん	寛ひろし喜き3年ねん（1231年ねん）
死没しぼつ	弘安ひろやす8年ねん11月17日にち（1285年ねん12月14日にち）
改名かいめい	泰盛やすもり→覚さとし真しん（法名ほうみょう）
別名べつめい	城じょう九郎くろう（通称つうしょう）、陸奥みちのく入道にゅうどう
官位かんい	秋田あきた城じょう介かい、陸奥むつ守まもる
幕府ばくふ	鎌倉かまくら幕府ばくふ引付ひきつけ衆しゅ、引付ひきつけ頭あたま人じん、評定ひょうじょう衆しゅ、越訴えっそ頭あたま人じん、御ご恩おん奉行ぶぎょう
主君しゅくん	藤原ふじわら頼よりゆき嗣→宗尊親王むねかたしんのう→惟おもんみ康かん親王しんのう
氏族しぞく	安達あだち氏し
父母ちちはは	父ちち：安達あだち義景よしかげ、母はは：小笠原おがさわら時長ときながの娘むすめ
兄弟きょうだい	頼よりゆき景けい、大室おおむろ三郎さぶろう、泰盛やすもり、時どき盛もり、重じゅう景けい、顕あらわ盛もり、長ちょう景けい、時どき景けい、公義きみよし、長井ながい宗そう秀しげる妻つま、宇都宮うつのみや景綱かげつな妻つま、北条ほうじょう朝ちょう直じき妻つま、覚さとし山やま尼あま
妻つま	北条ほうじょう重しげる時ときの娘むすめ（藤岡ふじおか）
子こ	宗景むねかげ、盛もり宗はじめ、千代野ちよの 養女ようじょ：覚さとし山やま尼あま

安達あだち 泰盛やすもり（あだち やすもり）は、鎌倉かまくら時代ときよ中期ちゅうきの武将ぶしょう。鎌倉かまくら幕府ばくふの有力ゆうりょく御家人ごけにんで流人るにん時代じだいから源みなもと頼朝よりともの側近そっきんとして仕つかえた安達あだち盛長もりながの曾孫そうそんである。上野うえの、肥後ひごの守護しゅご。安達あだち義景よしかげの三男さんなん（嫡男ちゃくなん）。評定ひょうじょう衆しゅ、御ご恩おん奉行ぶぎょう。

鎌倉かまくら幕府ばくふ第だい8代だい執権しっけん・北条ほうじょう時宗じしゅうを外戚がいせきとして支ささえ、幕府ばくふの重職じゅうしょくを歴任れきにんする。元もと寇・御家人ごけにんの零細れいさい化か・北条ほうじょう氏しによる得とく宗むね専制せんせい体制たいせいなど、御家人ごけにん制度せいどの根幹こんかんが変質へんしつしていく中なかで、その立たて直なおしを図はかり、時宗じしゅう死後しごに弘安ひろやす徳政とくせいと呼よばれる幕政ばくせい改革かいかくを行おこなうが、内うち管領かんりょう・平頼綱たいらのよりつなとの対立たいりつにより、霜月しもづき騒動そうどうで一族いちぞくと共ともに滅ほろぼされた。

元もと寇にあたって御ご恩おん奉行ぶぎょうを務つとめ、自邸じていで竹崎たけざき季き長ちょうの訴うったえを聞きく姿すがたが『蒙こうむ古こ襲来しゅうらい絵詞えことば』に描えがかれている。

生涯しょうがい

青年せいねん期き

寛ひろし喜き3年ねん（1231年ねん）、安達あだち義景よしかげの三男さんなんとして誕生たんじょう。母ははは甲斐かい源はじめ氏しの一族いちぞく伴野ともの（小笠原おがさわら）時長ときながの娘むすめ。父ちち・義景よしかげは22歳さい、2人ふたりの兄あにがいるが、泰盛やすもりは当初とうしょから安達あだち氏し嫡子ちゃくしの呼よび名なである「九郎くろう」を名乗なのっており、安達あだち家かの跡継あとつぎとして周知しゅうちされていた。生うまれた当時とうじ、幕府ばくふは第だい3代だい執権しっけん・北条ほうじょう泰やすし時ときの時代じだいで、泰たい時じの孫まごで泰盛やすもりの従兄弟いとこにあたる第だい5代だい執権しっけん・時どき頼よりゆきの4歳さい下かでほぼ同どう世代せだいである。

『吾妻あづま鏡きょう』における初はつ見みは泰盛やすもりが当時とうじ15歳さいであった寛ひろし元もと2年ねん（1244年ねん）6月がつ17日にち条じょうで、父ちち義景よしかげの代役だいやくで大番おおばん役やくを務つとめる上野うえの国こくの御家人ごけにんらの番頭ばんがしらとして上洛じょうらくした記録きろくである。この記述きじゅつに｢城じょう九郎くろう泰盛やすもり｣の名なが明確めいかくに見みられることから、この時ときまでに元服げんぷくしている筈はずであり、｢泰たい｣の字じが付ついていることから、仁じん治ち3年ねん6月15日にち（1242年ねん7月がつ14日にち）まで執権しっけんであった北条ほうじょう泰やすし時じから偏へん諱いみなを受うけたことが分わかる。弓馬きゅうばに優すぐれた泰盛やすもりは将軍しょうぐん興行こうぎょうの遠とお笠懸かさかけ、犬追物いぬおうものなどの射手しゃしゅとして頻繁ひんぱんに名なが見みえる。泰盛やすもり17歳さいの宝たから治おさむ元年がんねん（1247年ねん）、有力ゆうりょく御家人ごけにん三浦みうら氏しと執権しっけん・北条ほうじょう時じ頼よりゆきの対立たいりつによる宝たから治おさむ合戦かっせんが起おこり、祖父そふ・景盛かげもりの叱咤しったを受うけた泰盛やすもりは、安達あだち家かの命運めいうんを賭かけた戦たたかいの先鋒せんぽうとして戦たたかった。三浦みうら氏しの滅亡めつぼうにより、執権しっけん北条ほうじょう氏しの外戚がいせきとして時とき頼よりゆき政権せいけんを支ささえる安達あだち氏しの地位ちいが確立かくりつした。

建けん長ちょう5年ねん（1253年ねん）6月がつに義景よしかげが死去しきょし、泰盛やすもりは23歳さいで家督かとくを継ついで秋田あきた城じょう介かいに任にんずる。父ちちの後のちを受うけて一番いちばん引付ひきつけ衆しゅとなり、康かん元はじめ元年がんねん（1256年ねん）には5番ばん引付ひきつけ頭あたま人じん、同時どうじに評定ひょうじょう衆しゅとなって執権しっけん時じ頼よりゆきを補佐ほさした。翌よく康かん元もと2年ねん（1257年ねん）には、甘あま縄なわの安達あだち邸ていで誕生たんじょうした時とき頼よりゆきの嫡子ちゃくし・時宗じしゅうの元服げんぷくの際さいには烏帽子えぼしを持参じさんする役やくを務つとめる。父ちちの死しの前年ぜんねんに産うまれた異母いぼ妹いもうと（覚さとし山やま尼あま）を猶子ゆうしとして養育よういくし、弘ひろ長ちょう元年がんねん（1261年ねん）に時宗じしゅうに嫁とつがせて北条ほうじょう得とく宗むね家いえとの関係かんけいを強固きょうこなものとした。弘ひろ長ちょう3年ねん（1263年ねん）に時とき頼よりゆきが没ぼっすると、泰盛やすもりは時宗じしゅうが成人せいじんするまでの中継なかつぎとして執権しっけんとなった北条ほうじょう政まさし村むらや北条ほうじょう実みのる時ときと共ともに得とく宗むね時宗じしゅうを支ささえ、幕政ばくせいを主導しゅどうする中枢ちゅうすうの一人ひとりとなる。文ぶん永ひさし元年がんねん（1264年ねん）から同どう3年ねんまで実み時じと共ともに越訴えっそ頭あたま人じんを務つとめる。

蒙こうむ古こ襲来しゅうらい期き

文ぶん永ひさし3年ねん（1266年ねん）6月がつ、連署れんしょ時宗じしゅう邸ていで執権しっけん政せい村むら・実み時じ・泰盛やすもりによる「深ふか秘ひの沙汰さた」が行おこなわれ、謀反むほんを理由りゆうに将軍しょうぐん・宗尊親王むねかたしんのうの帰洛きらくが定さだめられた。代かわって3歳さいの惟おもんみ康かん親王しんのうが新しん将軍しょうぐんとして鎌倉かまくらへ迎むかえられ、幼少ようしょうの親王しんのうを将軍しょうぐんにつけることで時宗じしゅうの権力けんりょくを固かためる意図いとであった。泰盛やすもりは将軍しょうぐんへの救すくい心性しんせいを持もちながらも時宗じしゅうを支持しじしたと見みられる。文ぶん永ひさし5年ねん（1268年ねん）、幕府ばくふが蒙こうむ古こ襲来しゅうらいの危機ききを迎むかえる中なか、18歳さいで時宗じしゅうが執権しっけんとなる。

泰盛やすもりは文ぶん永なが11年ねん（1274年ねん）の文ぶん永ながの役やく後のちに御ご恩おん奉行ぶぎょうとなり、将軍しょうぐん・惟おもんみ康かん親王しんのうの安堵あんどの実務じつむを代行だいこうした。得とく宗家そうけとの親密しんみつな関係かんけいの一方いっぽう、将軍しょうぐん・宗尊親王むねかたしんのう、惟おもんみ康かん親王しんのうとの関係かんけいも密接みっせつであり、将軍しょうぐんの親衛しんえい軍ぐん、側近そっきんの名簿めいぼには必かならず泰盛やすもりの名なが見みえる。第だい3代だい将軍しょうぐん・源実朝みなもとのさねともの未亡人みぼうじん西八条にしはちじょう禅尼ぜんには、文ぶん永なが9年ねん（1272年ねん）に実じつ朝あさの菩提寺ぼだいじ照あきら心しん院いんに宛あてた置おけ文ぶんに、寺てらの諸しょ問題もんだいが起おきた時ときには、実じつ朝あさに志こころざし深ふかかった安達あだち景盛かげもりの孫まごである泰盛やすもりを頼たよるように記しるしており、京都きょうとの貴族きぞく層そうと将軍しょうぐんの仲立なかだちを務つとめていた。

時宗じしゅうは文ぶん永なが9年ねん（1272年ねん）2月がつの二に月がつ騒動そうどうで同族どうぞく内ないの対抗たいこう勢力せいりょくを排除はいじょして得え宗そう独裁どくさいの強化きょうかを図はかり、安達あだち家かでも、泰盛やすもりの庶兄の安達あだち頼よりゆき景けいが所領しょりょう2か所しょ没収ぼっしゅうを命めいじられた。文ぶん永なが10年ねん（1273年ねん）に宿老しゅくろう政せい村むらが死去しきょ、実み時じもこの頃ころに引退いんたい・死去しきょしており、文ぶん永年えいねん間あいだ以前いぜんまで見みられた北条ほうじょう一門いちもんは寄合よりあい衆しゅうのメンバーから消きえ、得とく宗むね家いえ被官ひかんである御内おんうち人じんが台頭たいとうしてくる。建治けんじ年間ねんかんの寄合よりあい衆しゅうメンバーは御内おんうち人じんの平頼綱たいらのよりつな、諏訪すわ真性しんせい、文官ぶんかんの三善みよし康かん有ゆうなどで御家人ごけにんは泰盛やすもりのみであった。時宗じしゅう政権せいけんを支ささえた二に本ほん柱ばしらは頼綱よりつなを筆頭ひっとうとする得とく宗むね被官ひかんと、外戚がいせきで外様とざま御家人ごけにんの安達あだち氏しを代表だいひょうする泰盛やすもりであったが、御内おんうち人じんと外様とざま御家人ごけにんという両者りょうしゃが時宗じしゅうと結むすぶ関係かんけいのあり方かたは対照たいしょう的てきで、両者りょうしゃの対立たいりつは必然ひつぜんであった。

建治けんじ元年がんねん（1275年ねん）京都きょうと若宮わかみや八幡宮はちまんぐう社しゃの新宮しんぐう建築けんちくに当あたり、御家人ごけにんに費用ひようの捻出ねんしゅつが求もとめられるが、泰盛やすもりは北条ほうじょう氏し一門いちもん（500貫かん～200貫かん）、足利あしかが氏し（200貫かん）、大江おおえ長井ながい氏し（180貫かん）に次ついで多おおい、150貫かんの費用ひようを提供ていきょうした。建治けんじ3年ねん（1277年ねん）12月、時宗じしゅうの嫡子ちゃくし・貞時さだときの元服げんぷくに際さいし、泰盛やすもりは烏帽子えぼしを持参じさんする役やくを務つとめてその後見こうけんとなる。弘安ひろやす4年ねん（1281年ねん）の弘安ひろやすの役やく後ご、弘安ひろやす5年ねん（1282年ねん）、52歳さいの泰盛やすもりは秋田あきた城じょう介かいを嫡子ちゃくし宗景むねかげに譲ゆずり、代かわって陸奥むつ守まもるに任にんじられる。陸奥むつ守まもるは幕府ばくふ初期しょきの大江広元おおえのひろもと、足利あしかが義よし氏しを除のぞいて北条ほうじょう氏しのみが独占どくせんしてきた官途かんとであり、泰盛やすもりの地位ちい上昇じょうしょうと共ともに安達あだち一族いちぞくが引付ひきつけ衆しゅ、評定ひょうじょう衆しゅに進出しんしゅつし、北条ほうじょう一門いちもんと肩かたを並ならべるほどの勢力せいりょくとなっていた。

弘安ひろやす改革かいかく

弘安ひろやす7年ねん（1284年ねん）4月がつ、元もと寇後ごの恩賞おんしょう請求せいきゅうや訴訟そしょうが殺到さっとうし、再度さいどの蒙こうむ古こ襲来しゅうらいの可能かのう性せいなど諸しょ問題もんだいが山積さんせきする中なかで時宗じしゅうが死去しきょする。14歳さいの嫡子ちゃくし・貞時さだときは北条ほうじょう一門いちもんが平頼綱たいらのよりつなと連動れんどうして不穏ふおんな動うごきを見みせる中なか、7月がつに第だい9代だい・執権しっけんに就任しゅうにんした。時宗じしゅうに追随ついずいして出家しゅっけした泰盛やすもりは法名ほうみょう覚さとし真しんと称しょうし、幕政ばくせいを主導しゅどうする立場たちばとなると後のちに弘安ひろやす徳政とくせいと呼よばれる幕政ばくせい改革かいかくを行おこない、「新しん御ご式目しきもく」と呼よばれる新あらたな法令ほうれいを矢継やつぎ早ばやに発布はっぷした（弘安ひろやす徳政とくせい）。その規模きぼと時期じきから見みて、時宗じしゅう存命ぞんめい中ちゅうからその了承りょうしょうの元もとに準備じゅんびされていたものと見みられる。将軍しょうぐん権威けんいの発揚はつようを図はかり、引付ひきつけ衆しゅなどの吏員りいんには職務しょくむの厳正げんせいと清廉せいれんを求もとめた。得とく宗むねには実務じつむ運営上うんえいじょうの倫理りんりを求もとめ、御内おんうち人じんの幕政ばくせいへの介入かいにゅうを抑制よくせいする事こと、伊勢神宮いせじんぐうや宇佐うさ神宮じんぐうと言いった有力ゆうりょく寺社じしゃ領りょうの回復かいふくに務つとめる事こと、朝廷ちょうていの徳政とくせい推進すいしんの支援しえんなどが行おこなわれた。これによって伝統でんとう的てきな秩序ちつじょを回復かいふくさせて社会しゃかい不安ふあんの沈静ちんせい化かに務つとめると共ともに、本所ほんじょ一いち円えん地ち住人じゅうにんの御家人ごけにん化かを進すすめて幕府ばくふの基盤きばんの拡大かくだいと安定あんていを図はかり、幕府ばくふの影響えいきょう力りょくを寺社じしゃ・朝廷ちょうていにまで広ひろげて幕府ばくふ主導しゅどうによる政治せいじ運営うんえいの強化きょうか、国政こくせい改革かいかくを行おこなおうとしたと考かんがえられている。ほぼ同どう時期じきに京きょうの朝廷ちょうていでも亀山かめやま上皇じょうこうによる朝廷ちょうてい内ない改革かいかく・徳政とくせいが行おこなわれており、泰盛やすもりと上皇じょうこうの連動れんどう性せいが指摘してきされている。だが、御内おんうち人じんの抑制よくせいではその代表だいひょうである内うち管領かんりょう・平頼綱たいらのよりつなと対立たいりつし、性急せいきゅうな寺社じしゃ領りょう保護ほごによって寺社じしゃへの還付かんぷを命めいじられた一部いちぶ御家人ごけにんや公家くげの反感はんかんを招まねき、泰盛やすもりは次第しだいに政治せいじ的てきに孤立こりつしていく事ことになる。

霜月しもづき騒動そうどう

詳細しょうさいは「霜月しもづき騒動そうどう」を参照さんしょう

翌よく弘安ひろやす8年ねん（1285年ねん）、『保ほ暦れき間あいだ記き』によると、頼綱よりつなは泰盛やすもりの子こ・宗景むねかげが源みなもと姓せいを称しょうした事ことをもって将軍しょうぐんになる野心やしんありと執権しっけん・貞時さだときに讒言ざんげんし、泰盛やすもり討伐とうばつの命いのちを得えた。合戦かっせんの状況じょうきょうを語かたる唯一ゆいいつの一いち次じ史料しりょうである『霜月しもつき騒動そうどう覚さとし聞書ききがき』によると、11月17日にち、この日ひの午前ごぜん中ちゅうに松谷まつやの別荘べっそうに居いた泰盛やすもりは、周辺しゅうへんが騒さわがしくなった事ことに気付きづき、昼ひるの12時じ頃ごろ、塔とうノ辻つじにある出仕しゅっし用ようの屋形やかたに出向でむき、貞時さだとき邸ていに出仕しゅっしした所ところを待まち構かまえていた御内おんうち人じんらに阻はばまれ、遂ついには武力ぶりょく衝突しょうとつが勃発ぼっぱつし、死者ししゃ30名めい、負傷ふしょう者しゃ10名めい余あまりに及およんだ。

これを機きに頼綱よりつなは泰盛やすもり謀反むほんと称しょうして、それを誅滅ちゅうめつするための兵へいを発はっした。両りょう勢いきおいは鎌倉かまくら市内しないで大だい規模きぼな合戦かっせんを展開てんかいし、将軍しょうぐん御所ごしょが延焼えんしょうされた。安達あだち一族いちぞくは激はげしく抵抗ていこうするも虚むなしく、午後ごご4時じ頃ごろに大勢おおぜいが決けっされ、泰盛やすもりとその嫡子ちゃくし宗景むねかげ、弟おとうと長ちょう景けいは討うたれた。泰盛やすもりの末弟ばっていの時とき景けいは相模さがみ国こく飯山いいやま（現げん・厚木あつぎ市し）に逃亡とうぼうしたが殺害さつがいされ、鎮西ちんぜい探題たんだいに就ついていた泰盛やすもりの次子じし盛もり宗はじめも岩いわ門もん城じょうで少しょう弐に経けい資しに攻せめられて敗はい死しした。既すでに他家たけに嫁とついた女性じょせいを除のぞき、泰盛やすもりの一族いちぞく500名めい余あまりは尽ことごとく殺戮さつりくされ、安達あだち本ほん宗家そうけは根絶ねだやしにされた。

騒動そうどうは全国ぜんこくに波及はきゅうして各地かくちで泰盛やすもり派はが追討ついとうを受うけ、殺害さつがいされた。安達あだち氏しの基盤きばんである上野うえの国こく・武蔵むさし国こくの御家人ごけにんの被害ひがいは多おおく、武蔵むさしでは武藤むとう少しょう卿きょう左衛門さえもん、遠江とおとうみ国こくでは安達あだち宗はじめ顕あきら、常陸ひたち国こくでは安達あだち重しげる景けい、信濃しなの国こくでは伴野ともの彦二ひこじ郎ろう盛時せいじらが討死うちじに・自害じがいした。これだけの数かずの御家人ごけにんらが組織そしき的てきな反抗はんこうを起おこすことなく、一気いっきに討伐とうばつ・誅殺ちゅうさつされたのは用意ようい周到しゅうとうな計画けいかくの元もとで時間じかんを定さだめて一斉いっせいに襲撃しゅうげきしたためと見みられる。

この霜月しもづき騒動そうどうと呼よばれる内乱ないらんの結果けっか、平頼綱たいらのよりつなが実権じっけんを握にぎり、泰盛やすもりを支持しじした幕府ばくふ草創そうそう以来いらいの有力ゆうりょく御家人ごけにんの多おおくが没落ぼつらくして得え宗そう被官ひかんの長崎ながさき氏しや文官ぶんかんの二階堂にかいどう氏し・長井ながい氏しが政治せいじの中心ちゅうしんとなる。

頼綱よりつなは霜月しもつき騒動そうどうの7年ねん後ご、平ひら禅門ぜんもんの乱らんで貞時さだときによって滅ほろぼされた。霜月しもつき騒動そうどうで失脚しっきゃくした御家人ごけにんたちも徐々じょじょに復帰ふっきし、安達あだち一族いちぞくも泰盛やすもりの弟おとうと・顕あらわ盛もりの孫まごである安達あだち時じ顕あらわが安達あだち家かの家督かとくを継承けいしょうしている。頼綱よりつな滅亡めつぼうの翌年よくねんには騒動そうどうの罹災りさい者しゃの復権ふっけんが進すすんだが、時とき顕あらわが文ぶん保ほ元年がんねん（1317年ねん）に霜月しもつき騒動そうどうで討うたれた父ちち・宗そう顕あらわの33回忌かいき供養くようを行おこなった際さいの記録きろくには、その頃ころまで泰盛やすもりの供養くようがタブーであった事ことが記しるされている。

人物じんぶつ

蒙こうむ古こ襲来しゅうらい絵詞えことばの泰盛やすもりと竹崎たけざき季き長ちょう

『一遍いっぺん聖せい絵え』には「城しろの禅門ぜんもんの亡ほろびける日ひは、聖きよし（一遍いっぺん）、因幡いなば国こくにおはしけるが、空そらを見みたまいて、鎌倉かまくらにおほきなる人ひとの損そんずるとおぼゆるぞとのたまひけり」と見みえ、「おおきなる人にん」というその人格じんかくを伝つたえている。仙台せんだい城じょう内うちの青葉山あおばやまに霜月しもつき騒動そうどうの翌々年よくよくねんの2月がつに建たてられた高たかさ2m近ちかい巨大きょだいな板碑いたびがあり、「過すぎし年としの11月下旬げじゅん、煙けむりとともにあのおだやかな姿すがたを消けし、黄泉よみの国くにに赴おもむいた陸奥むつ守まもる入道にゅうどう」の菩提ぼだいを弔とむらう趣旨しゅしの願文がんもんが彫ほり込こまれており、陸奥むつ守まもるであった泰盛やすもりのための板碑いたびであろうと見みられている。

『蒙こうむ古こ襲来しゅうらい絵詞えことば』には、肥後ひご国こくの御家人ごけにん竹崎たけざき季き長ちょうが甘あま縄なわ邸ていで御ご恩おん奉行ぶぎょうであった泰盛やすもりに直訴じきそする様子ようすが描えがかれている。絵詞えことば奧書おくがきの日付ひづけは泰盛やすもりを討うった平頼綱たいらのよりつなが滅ほろぼされて泰盛やすもり派はが復権ふっけんした永えい仁ひとし元年がんねんであり、絵詞えことばは「やすもりの御事おんこと」という章あきら段だんで締しめくくられる。絵詞えことばの制作せいさくは、恩おんを受うけながら霜月しもつき騒動そうどうで泰盛やすもり方かたとして戦たたかう事ことのなかった季き長ちょうの、泰盛やすもりらへの鎮魂ちんこんと報謝ほうしゃが込こめられた挽歌ばんかであると考かんがえられている。

文化ぶんか面めんでは後こう嵯峨さが院いんから漢籍かんせきを下賜かしされるなど親交しんこうが厚あつく、院いんの崩御ほうぎょの翌年よくねんである1273年ねん（文ぶん永ひさし10年ねん）に高野山こうのやま奥おく院いんに院いんを追悼ついとうする石碑せきひを建立こんりゅうしている。京都きょうと的てきな教養きょうようを身みにつけた実務じつむ官僚かんりょうとしての側面そくめんもあり、公家くげ書道しょどうの世尊せそん寺てら流りゅうの秘伝ひでんの伝授でんじゅを受うけ、18歳さいの頃ころに将軍しょうぐん文書ぶんしょの右筆ゆうひつを務つとめている。蹴鞠けまりにも堪能かんのうであった。高野山こうのやま町まち石道いしみちには泰盛やすもりの建立こんりゅうした町まち石せきが現在げんざいも残のこされており、木版もくはんによる仏教ぶっきょう書しょである高野たかの本ほんの刊行かんこうも行おこなっている。信仰しんこう面めんでは醍醐寺だいごじ遍あまね智さとし院いんの実じつ勝かち法印ほういんから関東かんとうにおいて灌頂を受うけている。

兼好けんこう法師ほうしの随筆ずいひつ集しゅう『徒然草つれづれぐさ』にも泰盛やすもりが馬うまの名人めいじんであった事ことを語かたるエピソードがある（第だい185段だん）。

平安へいあん時代じだいに作つくられた名刀めいとうの鶴丸つるまる国こく永ひさしは、安達あだち氏しが所有しょゆうしていたという。霜月しもつき騒動そうどう後ごに北条ほうじょう貞時さだときの手てに渡わたり、その後ごは織田おだ信長のぶなが、仙台せんだい伊達だて家かなどが所有しょゆうしたとされる。明治めいじ34年ねんに伊達だて家かから明治めいじ天皇てんのうへ献上けんじょうされている。

関連かんれん作品さくひん

テレビドラマ

• 『太平たいへい記き』（NHK大河たいがドラマ、1991年ねん） - 演えんじ ： 加賀かが邦男くにお
• 『北条ほうじょう時宗じしゅう』（NHK大河たいがドラマ、2001年ねん） - 演えんじ ： 柳葉やなぎば敏郎としお

参考さんこう文献ぶんけん

• 網野あみの善彦よしひこ 『蒙こうむ古こ襲来しゅうらい』 小学館しょうがくかん文庫ぶんこ、2001年ねん（1974年ねん刊行かんこう）。
• 石井いしい進すすむ 『鎌倉かまくらびとの声こえを聞きく』 NHK出版しゅっぱん、2000年ねん。ISBN 4-14-080558-7
• 筧かけい雅博まさひろ 『蒙こうむ古こ襲来しゅうらいと徳政令とくせいれい』 講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、2009年ねん（2001年ねん刊行かんこう）。
• 福島ふくしま金治きんじ 『安達あだち泰盛やすもりと鎌倉かまくら幕府ばくふ - 霜月しもづき騒動そうどうとその周辺しゅうへん』 有隣うりん新書しんしょ、2006年ねん。
• 村井むらい章介しょうすけ 『北条ほうじょう時宗じしゅうと蒙こうむ古こ襲来しゅうらい』 NHK出版しゅっぱん、2000年ねん。

関連かんれん項目こうもく

• 徳政令とくせいれい
• 霜月しもづき騒動そうどう

外部がいぶリンク

• 蒙こうむ古こ襲来しゅうらい絵詞えことば