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朝日新聞「臨床試験中の癌治療ワクチン」記事(2010年10月15日)に見られる事実の歪曲について:日経メディカル

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朝日新聞あさひしんぶん臨床りんしょう試験しけんちゅうがん治療ちりょうワクチン」記事きじ(2010ねん10がつ15にち)にられる事実じじつ歪曲わいきょくについて
きよし木元きもとおさむ東大とうだい医科いかがく研究所けんきゅうじょ所長しょちょう教授きょうじゅ

2010/10/21

 2010ねん10がつ15にちづけ朝日新聞あさひしんぶんの1めんトップに、「『患者かんじゃ出血しゅっけつつたえず 東大とうだい医科研いかけん提供ていきょうさきに」(東京とうきょうばん)との見出みだしで、とう研究所けんきゅうじょ開発かいはつした「がんワクチン」にかんして附属ふぞく病院びょういんおこなった臨床りんしょう試験しけん実施じっしちゅうの2008ねんにすいぞうがん患者かんじゃさんにきた消化しょうかかん出血しゅっけつについて、「『おもあつ有害ゆうがい事象じしょう』と院内いんない報告ほうこくされたのに、医科研いかけん同種どうしゅのペプチドを提供ていきょうするほか病院びょういんらせていなかったことがわかった」と野呂のろ雅之まさゆき論説ろんせつ委員いいんかわ雅彦まさひこ編集へんしゅう委員いいん名前なまえかれています。また、関連かんれん記事きじ同日どうじつ39めんにも掲載けいさいされています(そのには、どう夕刊ゆうかん12ぺーじ、16にち社説しゃせつ、36めん)。

 とくに15にちづけ朝刊ちょうかんトップの記事きじは、かりにくい記事きじであるうえに、基本きほんてき事実じじつ誤認ごにんがあり、関係かんけいしゃ発言はつげんなどを部分ぶぶんてき引用いんようすることにより事実じじつ巧妙こうみょう歪曲わいきょくされているとかんじざるをえません。かりにくい記事きじ内容ないよう補足ほそくするかたちで、さらなる解説かいせつかわ編集へんしゅう委員いいんいているという複雑ふくざつ構図こうず記事きじです。

 この構図こうずると、記事きじだい部分ぶぶんめる医科いかがく研究所けんきゅうじょ臨床りんしょう試験しけんかんするところでは、なんらかの法令ほうれい指針ししん違反いはん人的じんてき被害ひがいがあったとはべられていないので、記事きじ解説かいせつ部分ぶぶんにあるだしかわ編集へんしゅう委員いいん主張しゅちょうくための話題わだいとして、医科いかがく研究所けんきゅうじょ利用りようしているだけのようにおもえます。しかし、一般いっぱん読者どくしゃには、「医科いかがく研究所けんきゅうじょがんワクチンによる副作用ふくさよう出血しゅっけつがあるようだ。にもかかわらず、医科いかがく研究所けんきゅうじょはそのことを報告ほうこくしていない。医療いりょう倫理りんりじょう問題もんだいがある」とおもわせるに十分じゅうぶん見出みだしです。

 なぜこのような記事きじくのかの理由りゆうかりませんが、じつ巧妙こうみょう仕掛しかけでがんワクチンおよび関連かんれんする臨床りんしょう試験しけんつぶしを意図いとしているとしかおもえません。これまで朝日新聞あさひしんぶん野呂のろ論説ろんせつ委員いいんかわ編集へんしゅう委員いいん連名れんめい取材しゅざいたいして医科いかがく研究所けんきゅうじょ真摯しんし情報じょうほう提供ていきょうしたことにたいする裏切うらぎ行為こういかんじざるをえません。「事実じじつ誤認ごにん関連かんれん医科研いかけんHPに掲載けいさいしますが、以下いかのような「取材しゅざい意図いと取材しゅざい姿勢しせい」にも問題もんだいがあるとかんがえますのでので、これからべたいとおもいます。

その1:前提ぜんてい無視むしして構図こうずえる記事きじづくり
 記事きじなかでは、ワクチン投与とうよによる消化しょうかかん出血しゅっけつ重大じゅうだい副作用ふくさようであるとの印象いんしょうあたえることを意図いとして、医科いかがく研究所けんきゅうじょ提供ていきょうした情報じょうほうから記事きじせる事実じじつ関係かんけい取捨選択しゅしゃせんたくがなされています。

 まず、医科いかがく研究所けんきゅうじょ朝日新聞社あさひしんぶんしゃからの取材しゅざいたいして、「今回こんかいのような出血しゅっけつ末期まっきのすいぞうがん場合ばあいにはその経過けいかなか自然しぜんこりうること」だとかえ説明せつめいしてきました。それと関連かんれんして、和歌山わかやま県立けんりつ医大いだい以前いぜんに、類似るいじ出血しゅっけつについて報告ほうこくがあったことも取材しゅざいへの対応たいおうなかべています。

 これらは、今回こんかい出血しゅっけつがワクチン投与とうよとは関係かんけいなくはら疾患しっかん経過けいかなかこりうる事象じしょうであることを読者どくしゃ理解りかいするためには必須ひっす情報じょうほうです。しかし、今回こんかい記事きじではまった無視むしされています。この情報じょうほう提供ていきょうしないかぎり、出血しゅっけつがワクチン投与とうよによる重大じゅうだい副作用ふくさようであると読者どくしゃ誤解ごかいしますし、そのように読者どくしゃおもわせることにより、「それほど重要じゅうようなことを医科いかがく研究所けんきゅうじょ施設しせつつたえていない」と批判ひはんさせる根拠こんきょ意図いとてきつくっているという印象いんしょうあたえざるをません。

 事実じじつ今回こんかい記事きじでは「消化しょうかかん出血しゅっけつれい施設しせつつたえていなかった」ということがもっと重要じゅうようそうてんとしてえがかれています。厚生こうせい労働省ろうどうしょうの「臨床りんしょう研究けんきゅうかんする倫理りんり指針ししん」では報告ほうこく義務ぎむがないかもしれないが、報告ほうこくするのが研究けんきゅうしゃ良心りょうしんだろうというのが朝日新聞社あさひしんぶんしゃ主張しゅちょうです(16にち3ぺーじ社説しゃせつ)。そのためには、今回こんかい出血しゅっけつが「通常つうじょうではありえない重大じゅうだい副作用ふくさようがあった」と読者どくしゃ誤解ごかいさせることが不可欠ふかけつであったとおもわれます。このことは「施設しせつ研究けんきゅうしゃ」なる人物じんぶつによる「患者かんじゃらせるべき情報じょうほうだ」とのコメントによってもサポートされています。進行しんこうせいすいぞうがん患者かんじゃ消化しょうかかん出血しゅっけつのリスクは、本来ほんらいはワクチン投与とうよにかかわらず主治医しゅじいから説明せつめいされるべきことです。取材しゅざい過程かてい様々さまざま情報じょうほうから、かわ編集へんしゅう委員いいんにとって都合つごうのよいコメントをえらんでせたといわざるをません。

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