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「無知社会」の象徴としてのウィキペディア - ポスト・ヒューマンの魔術師
The Wayback Machine - http://web.archive.org/web/20081201031537/http://amr-i-t.com:80/virtual-transhumanism/page03.html

ポスト・ヒューマンの魔術まじゅつ

自称じしょう人間にんげん」の時代じだいからポスト・ヒューマンの時代じだいへ。

無知むち社会しゃかい」の象徴しょうちょうとしてのウィキペディア

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要約ようやく

 ハイパーテクストの「あいだテクストせい」は、活字かつじ出版しゅっぱんにおける書物しょもつおちいったパラドクスを展開てんかいすることを可能かのうとしている。だが、パラドクスの隠蔽いんぺい成功せいこうしたということは、あらたなパラドクスの発見はっけんせているということである。盲点もうてん観察かんさつはありない。よって上記じょうきのハイパーテクスト戦略せんりゃくにも、パラドクスが浮上ふじょうする。ボルツもまたこのことを見抜みぬいていた。だからボルツは、ハイパーテクストのみならず、ハイパーメディア全体ぜんたい視点してんうつしている。「ハイパーテクストについてかたるのではなく、ハイパーメディアについてかたってこそ意味いみがある」[1]とのことだ。

「ウィキペディア日本語にほんごばん」の茶番ちゃばん

 日本にっぽんのサイバースペースにおけるハイパーテクストの陥穽かんせいくわしくていくならば、さきげた「ウィキペディア日本語にほんごばん」が適例てきれいである。こうしたフリー百貨ひゃっか辞典じてんのプロジェクトは、ボランティアであるがゆえに、結局けっきょくはユーザーの善意ぜんい自発じはつせい依存いぞんする。そのためウィキペディアは、つぎのような暗黙あんもく了解りょうかい事項じこう原則げんそくとして定義ていぎするにいたった[2]。それはだいいちに、「検証けんしょう可能かのうせい」である。「ウィキペディアに執筆しっぴつしてよいかどうかの基準きじゅんは『真実しんじつであるかどうか』ではなく『検証けんしょう可能かのうかどうか』です。つまり、わたしたちがウィキペディアで提供ていきょうするのは、信頼しんらいできるソース(情報じょうほうげん)を参照さんしょうすることにより『検証けんしょうできる』内容ないようだけだということです」[3]。だい原則げんそくは、「中立ちゅうりつてき観点かんてん」である。「これは、すべての記事きじ特定とくてい観点かんてんかたよらずあらゆる観点かんてんからの描写びょうしゃ平等びょうどうあつかい、中立ちゅうりつてき観点かんてん沿ってかれていなければならない、というものです」[4]。そしてだいさん原則げんそくは、「独自どくじ調査ちょうさではないこと」である。「『独自どくじ研究けんきゅう(original research)』とは、信頼しんらいできる媒体ばいたいにおいていま発表はっぴょうされたことがないものをすウィキペディア用語ようごです。ここにふくまれるのは、発表はっぴょう事実じじつ、データ、概念がいねん理論りろん主張しゅちょう、アイデア、または発表はっぴょうされた情報じょうほうたいして特定とくてい立場たちばからくわえられる発表はっぴょう分析ぶんせきやまとめ、解釈かいしゃくなどです」[5]。

 だが、パラドクスの隠蔽いんぺい成功せいこうしたということは、あらたなパラドクスの発見はっけんせているということである。無論むろん「ウィキペディア日本語にほんごばん」にも、パラドクスはともなう。それは、基本きほん原則げんそくつらぬくがゆえのパラドクスである。だいいち原則げんそくである「検証けんしょう可能かのうせい」がしめしているのは、結局けっきょくのところ、ウィキペディアも現行げんこう学術がくじゅつシステムやマスメディアの情報じょうほうげん依存いぞんしているということだ活字かつじ出版しゅっぱんされた書物しょもつのパラドクスを隠蔽いんぺいすることを可能かのうとしているウィキペディアは、みずからのパラドクスを隠蔽いんぺいするために、ぎゃく書物しょもつ依存いぞんすることになる。ウィキペディアに依存いぞんする閲覧えつらんしゃたちは、再度さいど書物しょもつのパラドクスに対応たいおうすることになる。ウィキペディアの「文字もじ」だけを鵜呑うのみにするのは、パラドクスに没入ぼつにゅうすることを意味いみするのである。

 だい原則げんそくである「中立ちゅうりつてき観点かんてん」は、ぐに自己じこ言及げんきゅうてきパラドクスにおちい。ある見解けんかい中立ちゅうりつてき観察かんさつするためには、それ以前いぜんにまず「中立ちゅうりつせいたいする見解けんかい」を中立ちゅうりつてき観察かんさつしておかなければならない。それどころか、「<中立ちゅうりつせいたいする見解けんかい>にたいする見解けんかい」を中立ちゅうりつてき観察かんさつする必要ひつようがある。もしこうしたパラドクスを隠蔽いんぺいするためにべつのウェブページをいにすというならば、無論むろんまえ中立ちゅうりつ観点かんてんからべつのウェブページをナヴィゲートしてもらいたいところだ。

 そして最後さいご原則げんそくである「独自どくじ調査ちょうさではないこと」は、上記じょうきふたつのパラドクス促進そくしんさせているとえる。ウィキペディアの記述きじゅつしゃ独自どくじ調査ちょうさ内容ないようまった公開こうかいしないのならば、記事きじ内容ないよう恣意しいせい大幅おおはば縮減しゅくげんされる。しかし、ぎゃくえば、こうしたスタンスは従来じゅうらい書物しょもつへの過度かど没入ぼつにゅう意味いみする。すで権威けんいある情報じょうほうげんからはっせられた情報じょうほうのみを許容きょようするというウィキペディアのスタンスは、たしかに妥当だとうである。だがそれは、権威けんいある情報じょうほうげんからはっせられた情報じょうほう是非ぜひわないという、思考しこう停止ていし状態じょうたい選択せんたくしているということなのだ。ウィキペディアにとって、「権威けんい主義しゅぎてきなボランティア」というパラドクスは、不可避ふかひである。

集合しゅうごうてき無知むち構成こうせいする「ウィキペディア日本語にほんごばん

 「ウィキペディア日本語にほんごばん」のはこれだけではまされない管理かんりしゃ吉沢よしざわは、想像そうぞう以上いじょう墓穴ぼけつり、ふか墓穴ぼけつなげくるしんでいるようだ。上記じょうきのパラドクスにくわえてさら我々われわれなやますのは、「ウィキペディア日本語にほんごばん」が集合しゅうごうのメルクマールとして注目ちゅうもくされているがゆえのパラドクスである。「ウィキペディア日本語にほんごばん」は、情報じょうほう知識ちしきまんにん共有きょうゆうするアーキテクチャとして注目ちゅうもくされている。いまなにをGoogle検索けんさくしてても、大抵たいていは「ウィキペディア日本語にほんごばん」の解説かいせつ検索けんさく結果けっか表示ひょうじされる。膨大ぼうだいリンクすうが、「ウィキペディア日本語にほんごばん」のページランクを底上そこあげしているというわけだ。それほど閲覧えつらんしゃ期待きたいおおきいということなのであろう。わば「ウィキペディア日本語にほんごばん」は、集合しゅうごう知識ちしき社会しゃかいといったオプティミズムを象徴しょうちょうてき顕在けんざいさせているのである。

 しばしば知識ちしき社会しゃかい集合しゅうごうという概念がいねんは、まんにん情報じょうほう知識ちしきわたるというイメージを構成こうせいする。だれかがウィキペディアの記事きじ更新こうしんすれば、聡明そうめいなる人類じんるい英知えいち更新こうしんされたとわけだ。しかし、知識ちしき社会しゃかいは、「無知むち社会しゃかい」である。集合しゅうごうは、「集合しゅうごうてき無知むち」にぎない。たとえば、上記じょうきさんだい原則げんそくのっとったユーザーが、「ウィキペディア日本語にほんごばん」に「量子りょうしコンピュータ」にかんする情報じょうほう知識ちしき記述きじゅつしたとしよう。ウィキペディア全体ぜんたいとしての情報じょうほうりょう知識ちしきりょうは、たしかに増加ぞうかするだろう。だが、書物しょもつから習得しゅうとくしたがく素養そようたない一般いっぱん大衆たいしゅうのレパートリーがえたとはかぎらない。むしろ一般いっぱん大衆たいしゅうは、自分じぶんが「量子りょうしコンピュータ」に「無知むち」であったということに気付きづ羽目はめになる。「ウィキペディア日本語にほんごばんないの「最近さいきん更新こうしんされたページ」[6]は、つね日頃ひごろ投稿とうこうされる最新さいしん記事きじをお披露目ひろめするにまらず、閲覧えつらんしゃの「無知むち」をなく宣告せんこくつづけるメディアなのだ。

 付加ふか価値かち」をもとめるネットワーク理想りそう主義しゅぎしゃたちは、<インタラクティヴ>に無知むち拡散かくさんしていくひとつの書物しょもつを<輪読りんどく>する研究けんきゅうしゃたちは、『社会しゃかいシステム理論りろん』、『せんのプラトー』、そして『不思議ふしぎたまき』といったさん大書たいしょぶつ失敗しっぱいらない。こうした背景はいけい無知むちなユーザーたちは、平気へいき集合しゅうごうのメルクマールとなった「ウィキペディア日本語にほんごばん」のパラドクスに没入ぼつにゅうしている。たとえページの下部かぶ参考さんこう文献ぶんけん記述きじゅつされていたとしても、「ウィキペディア日本語にほんごばん」の記述きじゅつだけで満足まんぞくするユーザーもいるだろう。かり参考さんこう文献ぶんけんまで遡及そきゅうして考察こうさつする真面目まじめなユーザーがいたとしても、そのユーザーにっているのは<グーテンベルク銀河系ぎんがけい>における上述じょうじゅつしたパラドクスである。

 ここにおいて我々われわれは、書物しょもつとハイパーテクストをめぐひとつの巨大きょだいなパラドクスに直面ちょくめんすることになる活字かつじ出版しゅっぱん書物しょもつのパラドクスは、ハイパーテクストをしめすことで隠蔽いんぺいされていた。だが一方いっぽうで、ハイパーテクストのパラドクスは、書物しょもつしめすことで隠蔽いんぺいされている。書物しょもつ限界げんかいわせていたハイパーテクストの限界げんかいを、再度さいど書物しょもつわせているのである。「だからパラドクスなのだ。いかなる努力どりょくをもってしても、開始かいしはじめたそのところで―つまりはなたれたとおもった問題もんだいにおいて―ふたたおわりが理解りかいされる」[7]。

 なにひとつをるということは、べつなにかを見落みおとすということである。いいかえれば、知識ちしき獲得かくとく盲点もうてん形成けいせいは、関係かんけいなのだ。つまり、近代きんだいは、「外部がいぶの」世界せかいいにすのではなく、べついにす。わたしは、自分じぶんちいさなはこかりをともすだけでのすべてを無視むしする(つまりブラックボックス)という条件じょうけんしたでのみ、探究たんきゅうしゃとしていち人前にんまえになれるのだ。そこからまれるのは、理解りかいしないままで利用りようせざるをえないようなである」[8]。

注釈ちゅうしゃく

[1]  ノルベルト・ボルツ(ちょ)、識名しきなあきら(わけ)、足立あだち典子のりこ(わけ)『グーテンベルク銀河系ぎんがけい終焉しゅうえん -あたらしいコミュニケーションのすがた』法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱんきょく(1999)、p248を参照さんしょう

[2]  ノルベルト・ボルツ(ちょ)、識名しきなあきら(わけ)、足立あだち典子のりこ(わけ)『グーテンベルク銀河系ぎんがけい終焉しゅうえん -あたらしいコミュニケーションのすがた』法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱんきょく(1999)、p13を参照さんしょう

[3]  吉沢よしざわ英明ひであきへん)『wikipedia検証けんしょう可能かのうせい - Wikipedia』Wikipedia日本語にほんごばん(2008)、URL: http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:%E6%A4%9C%E8%A8%BC%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7、閲覧えつらん日時にちじ:2008/06/24 18:09

[4]  吉沢よしざわ英明ひであきへん)『wikipedia中立ちゅうりつてき観点かんてん - Wikipedia』Wikipedia日本語にほんごばん(2008)、URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:%E4%B8%AD%E7%AB%8B%E7%9A%84%E3%81%AA%E8%A6%B3%E7%82%B9、閲覧えつらん日時にちじ:2008/06/24 18:09

[5]  吉沢よしざわ英明ひであきへん)『wikipedia独自どくじ研究けんきゅうせない - Wikipedia』Wikipedia日本語にほんごばん(2008)、URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/WP:NOR 、閲覧えつらん日時にちじ:2008/06/24 18:09

[6]  吉沢よしざわ英明ひであきへん)『wikipedia中立ちゅうりつてき観点かんてん - Wikipedia』Wikipedia日本語にほんごばん(2008)、URL: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E5%88%A5:RecentChanges、閲覧えつらん日時にちじ:2008/06/24 18:09

[7]  ニクラス・ルーマン(ちょ)、土方ひじかたあきら (わけ)、土方ひじかたとおる (わけ)『宗教しゅうきょうろん--現代げんだい社会しゃかいにおける宗教しゅうきょう可能かのうせい法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱんきょく (1994)、p73を参照さんしょう

[8]  再掲さいけい:ノルベルト・ボルツ(ちょ)、村上むらかみ淳一じゅんいちわけ)『意味いみえる社会しゃかい東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱんかい(1998)、p52を参照さんしょう

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