「ねえ、かあさん」
みっちゃんは、お
三時のとき、
二つ
目の
木の
葉パンを
半分頬ばりながら、
母様にいいました。
「ねえ、かあさん」
「なあに、みっちゃん」
「あのね、かあさん。もうじきに、クリスマスでしょ」
「ええ、もうじきね」
「どれだけ?」
「みっちゃんの
年ほど、おねんねしたら」
「みっちゃんの
年ほど?」
「そうですよ」
「じゃあ、かあさん、
一つ
二つ
三つ……」とみっちゃんは、
自分の
年の
数ほど、テーブルの
上に
手をあげて、
指を
折りながら、
勘定をはじめました。
「ひとつ、ふたあつ、みっつ、そいから、ね、かあさん。いつつ、ね、むっつ。ほら、むっつねたらなの? ね、かあさん」
「そうですよ。むっつねたら、クリスマスなのよ」
「ねえ、かあさん」
「まあ、みっちゃん、お
茶がこぼれますよ」
「ねえ、かあさん」
「あいよ」
「クリスマスにはねえ。ええと、あたいなにがほしいだろう」
「まあ、みっちゃんは、クリスマスの
贈物のことを
考えていたの」
「ねえ、かあさん、
何でしょう」
「みっちゃんのことだもの。みっちゃんが、ほしいとおもうものなら、
何でも
下さるでしょうよ。サンタクロスのお
爺さんは」
「そう? かあさん」
「ほら、お
口からお
茶がこぼれますよ。さ、ハンカチでおふきなさい。えエえエ、なんでも
下さるよ。みっちゃん、
何がほしいの」
「あたいね。
金の
服をきたフランスの
女王様とね、そいから
赤い
頬ぺをした
白いジョーカーと、そいから、お
伽ばなしの
御本と、そいから、なんだっけそいから、ピアノ、そいから、キュピー、そいから……」
「まあ、ずいぶんたくさんなのね」
「ええ、かあさん、もっとたくさんでもいい?」
「えエ、えエ、よござんすとも。だけどかあさんはそんなにたくさんとてもおぼえきれませんよ」
「でも、かあさん、サンタクロスのお
爺さんが
持ってきて
下さるのでしょう」
「そりゃあ、そうだけれどもさ、サンタクロスのお
爺さんも、そんなにたくさんじゃ、お
忘れなさるわ」
「じゃ、かあさん、
書いて
頂戴な。そして、サンタクロスのお
爺さんに
手紙だして、ね」
「はい、はい、さあ
書きますよ、みっちゃん、いってちょうだい」
「ピアノよ、キュピーよ、クレヨンね、スケッチ
帖ね、きりぬきに、
手袋に、リボンに……ねえかあさん、お
家なんかくださらないの」
「そうね、お
家なんかおもいからねえ。サンタクロスのお
爺さんは、お
年寄りだから、とても
持てないでしょうよ」
「では、ピアノも
駄目かしら」
「そうね。そんなおもいものは
駄目でしょ」
「じゃピアノもお
家もよすわ、ああ、ハーモニカ! ハーモニカならかるいわね。そいからサーベルにピストルに……」
「ピストルなんかいるの、みっちゃん」
「だって、おとなりの
二郎さんが、
悪漢になるとき、いるんだっていったんですもの」
「まあ
悪漢ですって。あのね、みっちゃん、
悪漢なんかになるのはよくないのよ。それにね、もし
二郎さんが
悪漢になるのに、どうしてもピストルがいるのだったら、きっとサンタクロスのお
爺さんが
二郎さんにももってきて
下さるわ」
「
二郎さんとこへも、サンタクロスのお
爺さんくるの」
「
二郎さんのお
家へも
来ますよ」
「でも
二郎さんとこに、
煙突がないのよ」
「
煙突がないとこは、
天窓からはいれるでしょう」
「そうお、じゃ、ピストルはよすわ」
「さ、もう、お
茶もいいでしょ。お
庭へいってお
遊びなさい」
みっちゃんはすぐにお
庭へいって、
二郎さんを
呼びました。
「
二郎さん、サンタクロスのお
爺さんにお
手紙かいて?」
「ぼく
知らないや」
「あら、お
手紙出さないの。あたしかあさんがね、お
手紙だしたわよ。ハーモニカだの、お
人形だの、リボンだの、ナイフだの、
人形だの、
持ってきて
下さいって
出したわ」
「お
爺さんが、
持ってきてくれるの?」
「あら、
二郎さん
知らないの」
「どこのお
爺さん?」
「サンタクロスのお
爺さんだわ」
「サンタクロスのお
爺さんて、どこのお
爺さん?」
「
天からくるんだわ。クリスマスの
晩にくるのよ」
「ぼくんとこは
来ないや」
「あら、どうして? じゃきっと
煙突がないからだわ。でも、かあさんいったわ、
煙突のないとこは
天窓からくるって」
「ほう、じゃくるかなあ、
何もってくる?」
「なんでもよ」
「ピストルでも?」
「ピストルでもサーベルでも」
「じゃ、ぼく
手紙をかこうや」
二郎さんは、
大急ぎで
家へ
飛んで
帰りました。
二郎さんの
綿入をぬっていらした
母さんにいいました。
「サンタクロスに
手紙をかいてよ、かあさん」
「なんですって、この
子は」
「ピストルと、
靴と、
洋服と、ほしいや」
「まあ、
何を
言っているの」
「みっちゃんとこのかあさんも
手紙をかいて、サンタクロスにやったって、
人形だの、リボンだの、ハーモニカだの、ねえかあさん、ぼく、ピストルとサーベルと、ね……」
「それはね
二郎さん、お
隣のお
家には
煙突があるからサンタクロスのお
爺さんが
来るのです」
「でもいったよ、みっちゃんのかあさんがね、
煙突がないとこは
天窓がいいんだって」
「まあ。それじゃお
手紙をかいてみましょうね。
坊や」
「
嬉しいな。ぼくピストルにラッパもほしいや」
「そんなにたくさん、よくばる
子には、
下さらないかも
知れませんよ」
「だってぼく、ラッパもほしいんだもの」
「でもね、サンタクロスのお
爺様は、
世界中の
子供に
贈物をなさるんだから、
一人の
子供が
欲ばったら
貰えない
子供ができると
悪いでしょう」
「じゃあぼく
一つでいいや、ラッパ。ねえかあさん」
「そうそう
二郎さんは
好い
子ね」
「
赤い
房のついたラッパよ、かあさん」
「えエえエ、
赤い
房のついたのをね」
「うれしいな」
クリスマスの
夜があけて、
眼をさますと、
二郎さんの
枕もとには、
立派な
黄色く
光って
赤い
房のついたラッパが、ちゃんと
二郎さんを
待っていました。
二郎さんは
大喜びでかあさんを
呼びました。
「かあさん、ぼく
吹いてみますよ。チッテ、チッテタ、トッテッ、チッチッ、トッテッチ」
ところが、みっちゃんの
方は、
朝、
目をさまして
見ると、リボンと
鉛筆とナイフとだけしかありませんでした。
みっちゃんはストーブの
煙突をのぞいて
見ましたが、
外には
何も
出てきませんでした。みっちゃんは
泣き
出しました。いくらたくさん
贈物があっても、みっちゃんを
喜ばせることが
出来ないのでした。みっちゃんはいくらでもほしい
子でしたから。
(一九二五、九、二五)