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伊藤 佳世子・川口 有美子・川島 孝一郎・野崎 泰伸「ALS――人々の承認に先行する生存の肯定」
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伊藤いとう 佳世子かよこ川口かわぐち 有美子ゆみこ川島かわしま たかし一郎いちろう野崎のさき 泰伸やすのぶ「ALS――人々ひとびと承認しょうにん先行せんこうする生存せいぞん肯定こうてい

障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかい報告ほうこく要旨ようし 於:立命館大学りつめいかんだいがく
20090927


報告ほうこく要旨ようし
 伊藤いとう 佳世子かよこ立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう)・川口かわぐち 有美子ゆみこ立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう・NPO法人ほうじんALS/MNDサポートセンターさくらかい)/川島かわしま たかし一郎いちろう仙台せんだい往診おうしんクリニック)・野崎のさき 泰伸やすのぶ立命館大学りつめいかんだいがく衣笠きぬがさ総合そうごう研究けんきゅう機構きこうポストドクトラルフェロー)
 「ALS――人々ひとびと承認しょうにん先行せんこうする生存せいぞん肯定こうてい

目的もくてきすじ萎縮いしゅくせいがわさく硬化こうかしょう(ALS)の発症はっしょうから在宅ざいたく人工じんこう呼吸こきゅう療法りょうほう開始かいしまでのあいだに、3めい女性じょせい患者かんじゃかれた状況じょうきょうから、生存せいぞん必要ひつよう不可欠ふかけつ治療ちりょうささえる支援しえんかたについて考察こうさつ提案ていあんする。
方法ほうほう】1,仙台せんだい千葉ちば東京とうきょう在住ざいじゅう女性じょせい患者かんじゃめい事例じれい紹介しょうかいする。
2,3めい在宅ざいたく療養りょうよう環境かんきょう整備せいびふか参与さんよし、長期ちょうきにわたって患者かんじゃ家族かぞく支援しえんしゃふくすうかいのインタビューを実施じっしした。
3,疾患しっかん進行しんこうしていくなかで、家族かぞく医療いりょう従事じゅうじしゃ自治体じちたい福祉ふくし職員しょくいん患者かんじゃかいによる支援しえんとき系列けいれつ図表ずひょうし、在宅ざいたく生活せいかつ支援しえんプロトコルを作成さくせいした。
4,3のひょうより、現行げんこう制度せいどくわあらたなサービスも提案ていあんして、ALSの生存せいぞん不可欠ふかけつ医療いりょう福祉ふくしサービスのかた展望てんぼうした。
結論けつろん現在げんざい制度せいどでは、ALS患者かんじゃみずからの意思いしだけでは呼吸こきゅう装着そうちゃく決定けっていできない。介護かいご保障ほしょう欠如けつじょしているなかきる/介助かいじょしていく決意けついかためるのはきわめて困難こんなんである。ALS患者かんじゃ生存せいぞんのための方策ほうさくふた提案ていあんする。
 ひとつは、人工じんこう呼吸こきゅう療法りょうほう単身たんしんしゃささえる制度せいど在宅ざいたく医療いりょう福祉ふくしサービスの基盤きばん整備せいび地域ちいきあいだ格差かくさなくひろ達成たっせいすることであり、ふたつめには、そのようなサービスの充実じゅうじつ地域ちいき家族かぞく承認しょうにんたずに、さき治療ちりょうをしてまずきる/きさせることである。いったん治療ちりょう開始かいししさえすれば、ALSの治療ちりょう停止ていしみとめられないげんほう制度せいどしたでなら、必要ひつよう支援しえんすことができる。

報告ほうこく原稿げんこう パワーポイント

ALS−人々ひとびと承認しょうにん先行せんこうする生存せいぞん肯定こうてい 
     
     ○伊藤いとう佳世子かよこ立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう技術ぎじゅつ研究けんきゅう博士はかせ後期こうき課程かてい
      川口かわぐち有美子ゆみこ立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう技術ぎじゅつ研究けんきゅう博士はかせ後期こうき課程かてい、NPO法人ほうじんALS/MNDサポートセンターさくらかい
      川島かわしま孝一こういちろう仙台せんだい往診おうしんクリニック)
      野崎のさき泰伸やすのぶ立命館大学りつめいかんだいがく衣笠きぬがさ総合そうごう研究けんきゅう機構きこうポスドクトラルフェロー)

目的もくてきすじ萎縮いしゅくせいがわさく硬化こうかしょう(ALS)の発症はっしょうから、在宅ざいたく人工じんこう呼吸こきゅう両方りょうほう開始かいしまでのあいだに、3めい女性じょせい患者かんじゃかれた状況じょうきょうから、生存せいぞん必要ひつよう不可欠ふかけつ治療ちりょうささえる支援しえんのありかたについて、考察こうさつ提案ていあんする。

方法ほうほう
 1 仙台せんだい千葉ちば東京とうきょう在住ざいじゅう女性じょせい患者かんじゃ3めい事例じれい紹介しょうかいする。
 2 3めい在宅ざいたく療養りょうよう環境かんきょう整備せいびふか関係かんけいし、長期ちょうきにわたって患者かんじゃ家族かぞく支援しえんしゃふくすうかいのインタビューを実施じっしした。
 3 疾患しっかん進行しんこうしていくなかで、家族かぞく医療いりょう関係かんけいしゃ自治体じちたい福祉ふくし職員しょくいん患者かんじゃかいによる支援しえんとき系列けいれつ図表ずひょうし、在宅ざいたく生活せいかつ支援しえんパスを作成さくせい
 4 3のひょうより、現行げんこう制度せいどくわあらたなサービスも提案ていあんして、ALSの生存せいぞん不可欠ふかけつ医療いりょう福祉ふくしサービスのかた提案ていあんした。

事例じれい】「ALS生活せいかつ支援しえんパス」ひょう川口かわぐち作成さくせい)を使用しようし、3めい進行しんこう段階だんかいにおいて、1と2では実際じっさいおこなわれた支援しえんを、3では必要ひつようとされる支援しえん列挙れっきょした。
 1の事例じれい分析ぶんせき結果けっか
 1-A  ALSの理解りかい  あかるい告知こくちただしい病気びょうきかんをもつために必要ひつよう説明せつめい専門せんもんしょく保健所ほけんじょがおこなう。
 1-B 意思いし伝達でんたつ方法ほうほう工夫くふう パソコンサポート .自立じりつ支援しえんのためにもっとも必要ひつようなコミュニケーションの支援しえん
 1-C 児童じどうのケア  育児いくじにもヘルパーを利用りようできる。市区しく町村ちょうそん柔軟じゅうなんなサービス。
 1-D 社会しゃかい資源しげん利用りよう正当せいとうとする支援しえん  市町村しちょうそんから多額たがく費用ひよう投入とうにゅうすることにたいして地域ちいき理解りかいられる支援しえん
 1-E 支援しえんしゃのエンパワメント  Hさんの在宅ざいたく療養りょうようのプロジェクトの一員いちいんとしての自覚じかくたかめる支援しえんしゃのための支援しえん
 1-F 経済けいざいてき不安ふあん解消かいしょう  みずからの介護かいご事業じぎょうにより、会社かいしゃ社長しゃちょうとなって自分じぶん経営けいえいする会社かいしゃ経費けいひ夜勤やきんヘルパーの食費しょくひ移動いどう費用ひよう捻出ねんしゅつ
 1-G 患者かんじゃかい障害しょうがいしゃ団体だんたいのアドボカシー  

  2の事例じれい分析ぶんせき結果けっか
  2-A  乳幼児にゅうようじのケア  乳児にゅうじには患者かんじゃことなるケアニーズがある。保健ほけん親身しんみになってくれた。
  2-B 人間にんげん関係かんけいのトラブルの相談そうだん仲介ちゅうかい  人間にんげん関係かんけいのトラブルも保健ほけん仲介ちゅうかいしてくれた。専門せんもんしょく説明せつめいするとおさまるケースがある。
  2-C 親戚しんせき以外いがいもの支援しえん  親戚しんせきとの関係かんけい悪化あっか療養りょうよう長期ちょうきするので、最初さいしょから親戚しんせきたよらないように支援しえんする。
  2-D 家族かぞくたいする所得しょとく就労しゅうろう保障ほしょう  従来じゅうらい障害しょうがいしゃ運動うんどうとはぎゃく方法ほうほうだが、家族かぞく自立じりつ支援しえんすると必然ひつぜんてき当事とうじしゃ自立じりつしてくることがある。
  2-E ヘルパーの紹介しょうかい重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごサービスと事業じぎょうしょシステムの紹介しょうかい)  介護かいごしゃ不足ふそくなら、自分じぶんたちで介護かいごしゃ養成ようせいする方法ほうほうがある。地元じもとのNPOの情報じょうほう提供ていきょう事業じぎょうしょ設立せつりつし、家族かぞく就労しゅうろうとヘルパー不足ふそく一挙いっきょ解決かいけつした。

 人々ひとびとの「承認しょうにん」がなくても、少数しょうすう支援しえん先行せんこうすくわれた事例じれいとして、1と2をげた。以前いぜん制度せいどもなく、家族かぞく介護かいごしか選択肢せんたくしがなかったという状況じょうきょうであった。いま生半可なまはんか介護かいご制度せいどがあるばかりに、介護かいご給付きゅうふりない(制度せいど自体じたい不完全ふかんぜんである)という理由りゆうが、治療ちりょう開始かいし正当せいとうしてしまっているめんがある。給付きゅうふりないのであれば、生存せいぞん継続けいぞく不可能ふかのうであるので、その見通みとおしがつまでは、人工じんこう呼吸こきゅう選択せんたくができないという理屈りくつ状況じょうきょうがある。
 3の事例じれいについては、1と2を参考さんこうにして、本人ほんにん周囲しゅうい少数しょうすう支援しえんしゃ努力どりょくみちける可能かのうせいのあることがかる仕組しくみ(パス)である。1〜3までいずれもちいさなおんながいる家庭かていである。

 3の事例じれい分析ぶんせき結果けっか
 3-A   家族かぞく承認しょうにん必要ひつようとしない治療ちりょう開始かいし家族かぞく存在そんざい協力きょうりょく前提ぜんていにしない医療いりょう確立かくりつ
 3-B ヘルパーによる吸引きゅういんけいかん栄養えいよう注入ちゅうにゅう家族かぞく以外いがいものによる医療いりょうてきケアの普及ふきゅう事業じぎょうしょ訪問ほうもん看護かんごSTへの評価ひょうか。   
 3-C 絶望ぜつぼうかんのない告知こくち 身体しんたい機能きのう低下ていか告知こくちとともに、どうきるかの方策ほうさくおしえてしい。
 3-D 子供こどものケア 子供こども育児いくじにヘルパーサービスを利用りようできる。市区しく町村ちょうそん柔軟じゅうなんなサービス。
 3-F おっと就労しゅうろう継続けいぞく支援しえん 家族かぞく犠牲ぎせいになることで支援しえんがおこなわれることになると、家族かぞくもうわけなくて、きていけなくなる。

結論けつろん
 現在げんざい制度せいどでは、ALS患者かんじゃみずからの意思いしだけでは呼吸こきゅう装着そうちゃく決定けっていできない。介護かいご保障ほしょう欠如けつじょしているなかきる/介助かいじょしていく決意けついかためるのはきわめて困難こんなんである。ALS患者かんじゃ生存せいぞんのための方策ほうさくふた提案ていあんする。
 ひとつは、人工じんこう呼吸こきゅう療法りょうほう単身たんしんしゃささえる制度せいど在宅ざいたく医療いりょう福祉ふくしサービスの基盤きばん整備せいび地域ちいきあいだ格差かくさなくひろ達成たっせいすることであり、ふたつめには、そのようなサービスの充実じゅうじつ地域ちいき家族かぞく承認しょうにんたずに、さき治療ちりょうをしてまずきる/きさせることである。いったん治療ちりょう開始かいししさえすれば、ALSの治療ちりょう停止ていしみとめられないげんほう制度せいどしたでなら、必要ひつよう支援しえんすことができる。
 これについては、つぎのような反論はんろんがあるかもしれない。すなわち、ALSの治療ちりょう停止ていしみとめられないげんほう制度せいどえて、本人ほんにん意思いしによる治療ちりょう停止ていしみとめられるようなほう制度せいどにしてしまえばよい、そのような反論はんろんである。本人ほんにんの「にたい」という意思いし尊重そんちょうできるようなほう制度せいどこそが、本人ほんにんにとってのぞましいというのだ。これは、患者かんじゃ本人ほんにん意思いし共感きょうかんした人々ひとびと承認しょうにんによって、本人ほんにん生存せいぞん否定ひていされるということでもある。
 けれども、なにゆえに人々ひとびと承認しょうにんによって本人ほんにん生存せいぞん肯定こうていされたり否定ひていされたりしてよいとえるのか。患者かんじゃ本人ほんにんは、いまきていることがつらいとおもうから、にたいとおもうのではないのか。そうであるならば、患者かんじゃとしてきるつらさをなくせばよい。そして、医療いりょう福祉ふくし充実じゅうじつは、きるつらさを軽減けいげんしてくれるものでもある。それでも、つらさは完全かんぜんにはなくならないかもしれない。しかし、だからといってそのことは医療いりょう福祉ふくし整備せいびしなくてよい理由りゆうにはならない。
 また、ALSは病状びょうじょう進行しんこうしていくと、意思いし表示ひょうじ困難こんなんになったりもする。そのとき、どうしてまわりの人々ひとびとが「このひとにたいとおもっている」とえようか。意思いし表示ひょうじ困難こんなんならば、はしてきってにたいかどうかわからないはずだ。さらに、だから事前じぜん指示しじをということもわれるが、自分じぶんがいまだそのようになっていないにもかかわらず、事前じぜんにたいとわかるのは、いかなる理由りゆうからなのか。それは結局けっきょく患者かんじゃまわりの人々ひとびと理屈りくつわらない。「こういう状態じょうたいであればにたいとおもう」というとき、「こういう状態じょうたい」の本人ほんにんとはべつひと実際じっさい存在そんざいし、そのひと参照さんしょうしながらっている。そうだとすれば、そのような言説げんせつは、「こういう状態じょうたい」のひと存在そんざい否定ひていしていることになる。
 患者かんじゃ本人ほんにんのつらい気持きもちに共感きょうかんしようとするとき、かならずしも「つらいからにたい」という気持きもちまで肯定こうていすることにはつながらない。実際じっさいわたしたちは、そのようにわれたら「つらい気持きもちはわかったが、ぬな」とうではないか。なにゆえに患者かんじゃであるだけで、「への衝動しょうどう」まで肯定こうていしなければならないのか。それは患者かんじゃ本人ほんにん生存せいぞんたいする冒涜ぼうとくではないのか。他方たほうで、つらい気持きもちをもちつつ、あるいはつらくなる必要ひつようすらないとおもった患者かんじゃで、適切てきせつ医療いりょう福祉ふくし利用りようしながら、たとえば手記しゅきき、たとえば地域ちいき福祉ふくし充実じゅうじつさせるのに奔走ほんそうし、たとえば大学院だいがくいん修了しゅうりょうするものもいる。このようなみちもすでに患者かんじゃ先達せんだつによってひらかれている。すべての患者かんじゃ活動かつどうてきである必要ひつようはない。しかし、適切てきせつ医療いりょう福祉ふくし制度せいどとしてととのっていれば、つつがなく生活せいかつできる可能かのうせいがある。そのために、「患者かんじゃきてよいか、患者かんじゃ本人ほんにんにたい気持きもちはないか」によって人々ひとびと承認しょうにんみちびすよりさきに、患者かんじゃ生存せいぞん肯定こうていするような医療いりょう福祉ふくしシステムをつくってしまうことのほうが急務きゅうむであると、わたしたちはかんがえている。  「尊厳そんげんひとひととして人格じんかくの(うちなる人間にんげんせいの)尊重そんちょうたいする価値かち感情かんじょうである。喪失そうしつしたり価値かちであることは尊厳そんげんには集合しゅうごうのように加減かげんしょうじる。しかし、わたしたちがそのつど状況じょうきょうふくみつつえる全体ぜんたいとしてあるからには、尊厳そんげんはただ変容へんようするだけである。その変容へんようゆるせずに世界せかい決別けつべつすること自体じたい尊厳そんげんからとお行為こういであろう」(川島かわしま伊藤いとう [2007:205])

追加ついか資料しりょう:【3の事例じれい詳細しょうさい
 Mは36さい女性じょせいおっとと6さい子供こどもの3にんらし。3ねんまえALSになる。
はじめの異変いへん右手みぎてゆび握力あくりょくがなくなってきたことであった。育児いくじつかれから腱鞘炎けんしょうえんになったのかとおもって、整形せいけい外科げか受診じゅしんした。そのとき医師いしには頚椎けいつい炎症えんしょうといわれ、しばらく様子ようすていた。そのうち右手みぎてだけでなく左手ひだりてもなり、整形せいけい外科げか紹介しょうかいされた。たまたま、そこにいた医師いし大学だいがく病院びょういん先生せんせいで、そこの紹介しょうかいで、大学だいがく病院びょういんき、検査けんさをした。
 いくつかのまわったのちに、神経しんけい内科ないか病名びょうめい告知こくちけることになった。そこにいたるまでは異変いへんかんじてからやく1ねんかかった。
 医師いしにんからの告知こくちであった。おっと義母ぎぼとMとで告知こくちけたという。その内容ないようは「MはALSという病気びょうきにかかっています。いま医学いがくでは一生いっしょうなおらない病気びょうきです。今後こんご歩行ほこうできなくあり、食事しょくじをできなくなり、呼吸こきゅうができなくなり、やがていたります」という内容ないようであった。「この病気びょうきでは人工じんこう呼吸こきゅうをつけるという選択せんたくがあるが、金銭きんせんてきには無理むりです。マンションいちけんえるくらいのおかねはらってきていけるかどうかです」といわれる。さらに、病院びょういんでの告知こくちから、退院たいいんまでの数日すうじつあいだあいだに、医師いしに「あなたはこのさきどうするの?」とたずねられたという。それには、こたえられずにいた。まえくらになり、ったばかりの住宅じゅうたくと3さいのまだ幼稚園ようちえんはいまえ子供こども今後こんごどうするのかばかりをかんがえていた。その告知こくちした医師いしとはいちもあってはいない。
 告知こくち必要ひつよう支援しえんは、かったから、それからさき重度じゅうど障害しょうがいしゃとなったときにどうきるのかの方策ほうさくかんがえる支援しえんしかったという。
 その治験ちけんはじまり入院にゅういん退院たいいんかえす。おっとは、つまはかわいそうだとおもったが、このせんどうしたらよいのかわからなくてこまっていたという。会社かいしゃ上司じょうしつま病気びょうき報告ほうこくし、介護かいごするひとけの休業きゅうぎょう制度せいどがあることなどをいた。しかし、もしも使つかうことで、余剰よじょう人員じんいん整理せいりするときにリストラされる可能かのうせいかんがえると不安ふあんになり、使つかうことはできなかったという。
 おっとつま病気びょうきといわれたから、自分じぶん時間じかんなくなっていったという。仕事しごとをして、かえってきて介護かいごして、子供こども世話せわをしていちにちおわる。ヘルパーをたのんでも、どこかたのむことのうしろめたさがある。ひと出入でいりのおおさを近所きんじょひとはどうおもうのかも心配しんぱいになるときがある。会社かいしゃ上司じょうし理解りかいしてもらっているが、理解りかいしてもらえるだけに病気びょうきつまがいてもきちんとやっているとみせようと努力どりょくしなくてはとおもう。気持きもちがいつもめているので、もたないのではないかとおもってしまう。
 2ねんになりMの四肢しし麻痺まひ進行しんこうし、Mのはは義母ぎぼ交代こうたい介護かいごる。しかし、人間にんげん関係かんけいが、徐々じょじょにギクシャクしてくる。介護かいごべつに、子供こども支援しえんおっと支援しえんがあり、はは義母ぎぼ負担ふたんおもくのしかかっている。子供こども支援しえんはまだ制度せいどはあるが、おっと就労しゅうろう継続けいぞく支援しえんはなかなか周囲しゅうい理解りかいもなく、家族かぞくだけでおこなっていた。家族かぞくなかには人工じんこう呼吸こきゅう装着そうちゃく反対はんたいこえがってくる。
 ALS協会きょうかいひとはなしをきくと、人工じんこう呼吸こきゅうをつけてきているひとはいるという。しかし、具体ぐたいてきにどうしているのかはよくからなかった。施設しせつという選択肢せんたくしかたられた。Mもその家族かぞくも、家族かぞく介護かいごだけでは、人工じんこう呼吸こきゅうをつけてきる選択せんたくはできないとおもっていた。しかし、Mはおっと子供こどもと3にんらしたい気持きもちはつよかった。施設しせつめばよいというのなら、人工じんこう呼吸こきゅうをつけずにんだほうがいとおもっていた。
 おっと四肢しし麻痺まひと、呼吸こきゅう障害しょうがい嚥下えんか障害しょうがいになり、介護かいごりょうおおくなって、さきにどうなっていくのかが不安ふあんであり、介護かいごをしつづけることは約束やくそくできないとおもったという。Mは、家族かぞくには家族かぞく人生じんせいきてしいとおもっている。家族かぞく人生じんせい大事だいじにしてこそ、自分じぶんきていてももうわけないとおもわなくてむ。家族かぞく犠牲ぎせいになってその補填ほてん制度せいど使つかえるという状況じょうきょうであれば、家族かぞくにはもうわけなくて、人工じんこう呼吸こきゅうをつけるにはなれない。また、施設しせつ入所にゅうしょということであれば、子供こども成長せいちょうることができないから、人工じんこう呼吸こきゅうをつける選択せんたくはしたくないという。
 Mのような子供こどもちいさく、おっと現役げんえきかせいでいて、住宅じゅうたくローンもあるような場合ばあいに、在宅ざいたく生活せいかつ継続けいぞくするには家族かぞく支援しえん不可欠ふかけつになる。そのになに、ヘルパーが延長えんちょうしてやっていくということもありるのであるが、柔軟じゅうなん使つかうことへの理解りかいられない。人工じんこう呼吸こきゅうをつけるかどうかの選択せんたくについて、Mは人工じんこう呼吸こきゅうをつけたいと主張しゅちょうするが、医師いしに「家族かぞく承認しょうにんること」という条件じょうけんされる。おっと承認しょうにんしたところ、承認しょうにんしたのだから、おっとがMのために支援しえんをよりするように医師いし保健ほけんもうわたされる。病気びょうき進行しんこうと、それをけることからのプレッシャーで家族かぞく関係かんけいはギクシャクすることになる。
文献ぶんけん
きるちから編集へんしゅう委員いいんかい へん 2006 『きるちから――神経しんけい難病なんびょうALS患者かんじゃたちからのメッセージ』,岩波書店いわなみしょてん
Gsupple編集へんしゅう委員いいんかい へん 2007 『事例じれいでまなぶケアの倫理りんり』,メディカ出版しゅっぱん
天田あまだ しろかい 2007 「難病なんびょうきるということ」(Gsupple編集へんしゅう委員いいんかい へん [2007:89-94])
伊藤いとう 佳世子かよこ 2008 「きんジストロフィー患者かんじゃ医療いりょうてき世界せかい」,『現代げんだい思想しそう』36-03:156-170
川口かわぐち 有美子ゆみこ小長谷こながや ひゃく へん 2009 『在宅ざいたく人工じんこう呼吸こきゅうポケットマニュアル――らしと支援しえん実際じっさい』,医歯薬出版いしやくしゅっぱん
川村かわむら 佐和子さわこ 研究けんきゅう代表だいひょう 2009 『在宅ざいたくALS療養りょうようしゃにおけるおかせかさねてき人工じんこう呼吸こきゅう
ほう導入どうにゅう限界げんかいかんする課題かだい――患者かんじゃ家族かぞく・ヘルパーの立場たちばから』,平成へいせい20  
年度ねんど厚生こうせい労働ろうどう科学かがく研究けんきゅう補助ほじょきん難治なんじせい疾患しっかん克服こくふく研究けんきゅう事業じぎょう研究けんきゅう分担ぶんたん報告ほうこくしょ
川島かわしま たかし一郎いちろう伊藤いとう 道哉みちや 2007 「身体しんたい存在そんざい形式けいしきまたは、意思いし状況じょうきょうとの関係かんけい
せいちがいにもとづく生命せいめい維持いじ治療ちりょうにおけるひかええと中止ちゅうし解釈かいしゃく」,『生命せいめい倫理りんり』17-1:198-206
日本にっぽん尊厳そんげん協会きょうかい東海とうかい支部しぶ へん 2007 『わたしめる尊厳そんげん――「不治ふちかつ末期まっき」の
具体ぐたいてき提案ていあん』,中日新聞社ちゅうにちしんぶんしゃ
野崎のさき 泰伸やすのぶ 2009 「「きるにあたいしないせい」とはどんなせいか――メンバーシップ
画定かくてい問題もんだいかんがえる」(出生しゅっしょうをめぐる倫理りんり研究けんきゅうかい へん [2009:40-47]→櫻井さくらい堀田ほったへん [2009](予定よてい))
櫻井さくらい 浩子ひろこ堀田ほった 義太郎よしたろう へん 2009 『生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター報告ほうこく 出生しゅっしょうをめぐる
倫理りんり』,立命館大学りつめいかんだいがく生存せいぞんがく研究けんきゅうセンター(予定よてい
出生しゅっしょうをめぐる倫理りんり研究けんきゅうかい へん 2009 『出生しゅっしょうをめぐる倫理りんり研究けんきゅうかい 2008年度ねんど年次ねんじほう
つげしょ
立岩たていわ しん也 2004 『ALS――不動ふどう身体しんたいいきする機械きかい』,医学書院いがくしょいん
      2008 『』,筑摩書房ちくましょぼう

作成さくせい
UP:20090905 REV:20090921
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