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杉崎 敬「知的障害当事者の<生き様>から見える多様なセクシュアリティの形――知的障害と共に生きる<彼ら/彼女らなり>の<リアリティ>とは何か」
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杉崎すぎさき たかし知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃの<ざま>からえる多様たようなセクシュアリティのかたち――知的ちてき障害しょうがいともきる<かれら/彼女かのじょらなり>の<リアリティ>とはなにか」

障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかい報告ほうこく要旨ようし 於:立命館大学りつめいかんだいがく
20090927


報告ほうこく要旨ようし

 杉崎すぎさき たかし立教大学りっきょうだいがく大学院だいがくいんコミュニティ福祉ふくしがく研究けんきゅう
 「知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃの<ざま>からえる多様たようなセクシュアリティのかたち――知的ちてき障害しょうがいともきる<かれら/彼女かのじょらなり>の<リアリティ>とはなにか」

 知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃは、ながあいだ無性むしょう存在そんざい>としてあつかわれてきた経緯けいいがあり、社会しゃかい全体ぜんたいとしても、いまだに<性的せいてき主体しゅたい>としてみとめられているとは到底とうていがたく、わば、「性的せいてきなマイノリティ」、あるいは「逸脱いつだつしゃ」としてのレッテルを付与ふよされつづけてきたとかんがえられる。また、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃとかかわる臨床りんしょう現場げんばにおける支援しえんしゃ思考しこう感覚かんかくなかにも、一部いちぶ事業じぎょうしょのぞき、当事とうじしゃのセクシュアリティに配慮はいりょした支援しえんほとんどなされていない現状げんじょう否定ひていできない事実じじつである。それは、もと支援しえんしゃ立場たちばにあった筆者ひっしゃ経験けいけんからもつよかんじる問題もんだい意識いしきひとつである。
 では、「なぜ、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティに配慮はいりょしていないのか、どうすれば知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティを理解りかいすることができるのか」あるいは「知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃが、みずか思考しこうするセクシュアリティへのおもいや姿すがたとは如何いかなるものか」という疑問ぎもん提示ていじしつつ、当事とうじしゃに、現実げんじつ社会しゃかいきているみずからの経験けいけんを、その<ざま>として、すなわち<かれら/彼女かのじょらなり>のおもいがこもった<リアリティ>としてはっせられたかたりより、また、その支援しえんしゃには、当事とうじしゃのセクシュアリティにたいするおもいや、<支援しえんするがわ>のパラドックス、あるいは当事とうじしゃとのコンフリクト、臨床りんしょう現場げんばにおける経験けいけんからしょうじるかたりによって、筆者ひっしゃなりにその疑問ぎもんかいみちびしていきたいとおもうのである。
 近年きんねん障害しょうがい領域りょういきにおける障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティ研究けんきゅうは、関連かんれん著書ちょしょ出版しゅっぱんや、メディアでの露出ろしゅつえたこと、障害しょうがい当事とうじしゃ研究けんきゅうしゃあいだ議論ぎろん活発かっぱつしたこととうにより、にわかに注目ちゅうもくされているかんがある。しかしながら、そのおおくは身体しんたい障害しょうがい当事とうじしゃをメインとしたものであるようにかんじるのは筆者ひっしゃだけであろうか。とくに、身体しんたい障害しょうがい当事とうじしゃ体験たいけんだん自伝じでんなどの著書ちょしょや、研究けんきゅうしゃによる研究けんきゅう論文ろんぶんおおされ、メディアもこぞってそれをげた。一方いっぽうで、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティをげたものもないわけではないが、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃではなく、支援しえんしゃとうくちとおしてかたられた研究けんきゅうである場合ばあいおおく、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ自身じしんによる<なまかたり>による研究けんきゅうほとんどない状況じょうきょうであるとかんがえられる。なぜ、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃの<なまかたり>がえてこないのであろうか。
 ほん報告ほうこくは、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのその<なまかたり>にスポットをあて、その<なまかたり>からつむぎだされる当事とうじしゃそれぞれが思考しこうする多様たようなセクシュアリティのかたちあきらかにしていくものである。それと同時どうじに、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ独自どくじかたつうじて、"一般いっぱんてき常識じょうしきてき)な枠組わくぐみ"ではとらえなれない<かれら/彼女かのじょらなり>の<リアリティ>をもりにできるものとかんがえられ、また、知的ちてき障害しょうがいともきる当事とうじしゃのセクシュアリティの理解りかい促進そくしんするいしずえになっていくものとおもわれる。(ほん報告ほうこくでは、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティを恋愛れんあい結婚けっこん出産しゅっさん子育こそだて・家族かぞく生活せいかつとう行為こうい規定きていする)

報告ほうこく原稿げんこう パワーポイント

障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかい報告ほうこく原稿げんこう 2009/09/27
 立命館大学りつめいかんだいがく

知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃの<ざま>からえる多様たようなセクシュアリティのかたち
     ―知的ちてき障害しょうがいともきる<かれら/彼女かのじょらなり>の<リアリティ>とはなにかー」

                    立教大学りっきょうだいがく大学院だいがくいんコミュニティ福祉ふくしがく研究けんきゅう
                                  杉崎すぎさき  けい
                                                   以上いじょうスライド1

T はじめに
問題もんだい意識いしき
 知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃは、ながあいだ無性むしょう存在そんざい>としてあつかわれてきた経緯けいいがあり、社会しゃかい全体ぜんたいとして、いまだに<性的せいてき主体しゅたい>としてみとめられているとは到底とうていがたく、わば、「性的せいてきなマイノリティ」、あるいは「逸脱いつだつしゃ」としてのレッテルを付与ふよされつづけてきたとかんがえられる。また、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃとかかわる現場げんばにおけて、当事とうじしゃのセクシュアリティに配慮はいりょした支援しえんは、一部いちぶ事業じぎょうしょのぞいて、ほとんどおこなわれていない現状げんじょう否定ひていできない事実じじつである。それは、もと支援しえんしゃ立場たちばにあった筆者ひっしゃ経験けいけんからもつよかんじる問題もんだい意識いしきひとつである。                   以上いじょうスライド2
 では、なぜ知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティに配慮はいりょしていないのか、どうすれば当事とうじしゃのセクシュアリティを理解りかいすることができるのかだろうか。これにより、当事とうじしゃ多種たしゅ多様たようなセクシュアリティの<思考しこう感覚かんかく><わからなさ><矛盾むじゅん><葛藤かっとう>などの要素ようそ抽出ちゅうしゅつできないものか。また同時どうじに、<かれら/彼女かのじょらなり>の多様たような<経験けいけん>からつむぎだされる<リアリティ>の意味いみあいをも理解りかいすることにつながるのではないか。                          以上いじょうスライド3
先行せんこう研究けんきゅう検討けんとう
 まず、障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティ研究けんきゅうかんして検討けんとうしてみたい。ひととしてえることは、身体しんたい障害しょうがい当事とうじしゃ体験たいけんだん自伝じでんなどの著書ちょしょおおいということである。たとえば、小山内おさない(1998・1995)、安積あさか(1993・1999)、牧口まきぐち河野こうの(1983)など多数たすうふたとして、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ対象たいしょうとしたもので、支援しえんしゃくちとおしてかたられた著書ちょしょ研究けんきゅう数多かずおおくあるということ。最後さいごに、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ結婚けっこん生活せいかつ支援しえんなどの調査ちょうさはあるということである。たとえば、河東田かとうだ(2005)、はた(2000)などがある。しかしながら、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃの<なまかたり>による著書ちょしょ研究けんきゅうは、あまりおおくないのではないか。なぜ、当事とうじしゃの<なまかたり>がえてこないのであろうか。ほん報告ほうこくでは、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ本人ほんにん言葉ことばかたられた<なまかたり>、そして、本人ほんにんつよおもいがめられた<なまかたり>から当事とうじしゃそれぞれの<リアリティ>をかんがえてみたい。              以上いじょうスライド4
障害しょうがい当事とうじしゃせいかたられかた
 つぎに、障害しょうがい当事とうじしゃせいかたられかたについてかんがえてみたい。身体しんたい障害しょうがい当事とうじしゃ場合ばあいは、メディアでげられる「身体しんたい障害しょうがいしゃせい」として、障害しょうがいしゃがわからのかぎりなくステレオタイプされたフレーズのりであることがおおい。これにたいして、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ場合ばあいはどうかとうと、社会しゃかい家族かぞく支援しえんしゃ思考しこうする「知的ちてき障害しょうがいしゃせい」として、それらのバイアスにおおきく影響えいきょうけるせいであるとかんがえられる。もうひとつのかたられほうとしては、ジェンダーの影響えいきょうつよけたかたりで表現ひょうげんされているということ。つまり、障害しょうがい男性だんせい場合ばあいは、性的せいてき主体しゅたいであることが当然とうぜん常識じょうしきてきであるというかたりが主流しゅりゅうであり、障害しょうがい女性じょせい場合ばあいは、性的せいてき主体しゅたいなされず、社会しゃかいてきにも無性むしょう存在そんざいとしてかたられるのである。                                       以上いじょうスライド5

U 研究けんきゅう目的もくてき方法ほうほう
研究けんきゅう目的もくてき
 知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃとその支援しえんしゃいだく、当事とうじしゃのセクシュアリティにたいする意識いしき分析ぶんせきすることで、当事とうじしゃみずからが思考しこうする多様たようなセクシュアリティのおもいや姿すがたすなわち、<かれら/彼女かのじょらなり>の<リアリティ>をあきらかにすることを目的もくてきとする。またほん報告ほうこくでは、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティを恋愛れんあい結婚けっこん出産しゅっさん子育こそだて・家族かぞく生活せいかつとう経験けいけんからつむぎだされる相互そうごてき行為こうい規定きていする。
                                                   以上いじょうスライド6
研究けんきゅう方法ほうほう
 グループホーム(以下いか、GHとする)・通勤つうきんりょうなどで支援しえんけている知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃと、その支援しえんしゃ対象たいしょうとする。対象たいしょうしゃは、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ20めい男性だんせい10・女性じょせい10)、およびその支援しえんしゃめいとし、ほん報告ほうこくでは、とくに6めい当事とうじしゃ男性だんせい2・女性じょせいいちくみ結婚けっこんカップル)と、3めい支援しえんしゃげる。対象たいしょうしゃに、しつてき項目こうもくにそって自由じゆうかたっていただはん構造こうぞうインタビュー調査ちょうさ実施じっしする。また、倫理りんりてき配慮はいりょをしつつ調査ちょうさ実施じっしした。考察こうさつするにあたっては、ライフストーリーほうもちいた。(調査ちょうさ期間きかん:2009ねん5がつ〜10がつ)                               以上いじょうスライド7

V 知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃかたるセクシュアリティ
知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃかたり】
1.「シングル・マザー」としてどものため自立じりつする(Aさん:女性じょせい・22さい
 Aさんは、3カ月かげつまえ女児じょじ出産しゅっさん相手あいて男性だんせいは、33さい障害しょうがいしゃ(ボーダーのひと?)で、現在げんざい音信いんしん不通ふつう状態じょうたいである。妊娠にんしん発覚はっかくからすべてがはじまり、支援しえんしゃとのはないの内容ないようは、もっぱら「どもをどうするか」ということ。                                 以上いじょうスライド8
 なんとか無事ぶじ出産しゅっさんし、GHでは、当事とうじしゃ子育こそだてに参加さんかしている姿すがたうけられた。現在げんざい子育こそだてにかんする心配しんぱいごとは、ずっと施設しせつらしていたせいで料理りょうりまったくできないこと。
                                                   以上いじょうスライド9
 職員しょくいんからシングル・マザーとしての覚悟かくごがあるかわれる。ゆらぎながらも、「どものためなにもかも自分じぶんでしたい」とおもうAさん。以前いぜんは、「ものの名前なまえ」がえなかった。たとえば、スリッパやはし名前なまえからなかったが、ひとひと自立じりつためおぼえたい。一人暮ひとりぐらしやおかね管理かんり自分じぶんちからでやることも。そして、どもを施設しせつにはれたくないと、シングル・マザーとして自立じりつ決意けついする。                                                以上いじょうスライド10
 「Aさんのかたり」から、知的ちてき障害しょうがいであるAさん(母親ははおや)が、「子育こそだて」をするという決意けついにより、たとえシングル・マザーになろうとも、どものために「自立じりつ」のいちあゆみだすのだというセクシュアリティがれるのではないか。                                以上いじょうスライド11
2.おとこき、男性だんせい女性じょせいをはきちがえている”(Bさん:男性だんせい・60さい
 セクシュアルマイノリティ傾向けいこうがあるBさん。おなじGHない好意こういいだくUさん(30だい男性だんせい)と担当たんとう職員しょくいんIさん(30だい男性だんせい)がいる。Bさんの自室じしつには、Uさんの写真しゃしん数多かずおおられており、そのおもいのつよさがうかがえる。15さいから施設しせつ入所にゅうしょ、その35年間ねんかん施設しせつそだった。32さいときに、友達ともだち(男性だんせい)とのせい体験たいけんをカミングアウトするBさん。それ以来いらいおんなひととのせい体験たいけんらずきてきた。
                                                  以上いじょうスライド12
 「自分じぶん安定あんていさせたりしてるんだけどねー」と、自室じしつ写真しゃしんるのは「安定あんてい」させるためとかたる。恋愛れんあいについてたずねると、「ぼくはそのへんはきちがえて、ホモって病気びょうきっちゃったんですよー。男好おとこずきになって、おとこっちゃったりー、おとこといろいろしちゃいけないことも(・・・)。でも、やりそこなって、たまたまエイズにはならなかったけど」と、あっけらかんとはなしBさん。しかし、「本当ほんとうだったら女性じょせいしい。だけど、女性じょせいはなかなかいないんだよねー」というようなかたりも。また、「おやがいなかったから、おや関係かんけいでそういうふうになってんじゃないか、ってMさん(GHちょう)もうんですよー。親代おやがわりになっちゃうんだってー。面倒めんどうみてあげたくなっちゃうんだって。それが理性りせいおさまりきれなくなっちゃうと、っちゃうだってー」と支援しえんしゃ解釈かいしゃくかたる。いま、Bさんを応援おうえんしてくれるひとは、えきのそばの酒屋さかやのおばちゃんで、そのひとには、「自分じぶんはこういう人間にんげんだ」と全部ぜんぶ正直しょうじきはなしているBさん。                                          以上いじょうスライド13
 「Bさんのかたり」から、性的せいてき指向しこう男性だんせい? 女性じょせい? それとも両性りょうせい? アンビバレントなかたりをかえすBさんの<わからなさ>。やはりこれは知的ちてき障害しょうがいだからなのであろうか。「おやがいなかったから、おや関係かんけいでそうなった」という支援しえんしゃ解釈かいしゃくかたり、Bさんなりに説明せつめいけをしようとしているが、このアンビバレントなかたりそのものがBさんのセクシュアリティなのではないか   以上いじょうスライド14
3.“もううことは出来できない”(Cさん:女性じょせい・41さい)
 過去かこ恋人こいびとからの虐待ぎゃくたい叔父おじからの性的せいてき虐待ぎゃくたい経験けいけんをもつCさん。恋人こいびと叔父おじからの虐待ぎゃくたいがトラウトとしていまだにのこっており、「きになることはあっても、それ以上いじょういかない。きなひと出来できても、つぎひと暴力ぼうりょくてきじんかなー、っておもったりして、なかなか進展しんてんしなくて」とかたる。そして、「芸能人げいのうじん職員しょくいんだったら、あこがてきおもっていても暴力ぼうりょくるうこともないからー。だから、そういう恋愛れんあいしかできなくなったみたいな。一般いっぱんひときになるのがこわくて(・・)   以上いじょうスライド15
 「Cさんのかたり」より、虐待ぎゃくたい経験けいけんのトラウマにより、男性だんせいたいする不信ふしんかんつよち、恋愛れんあい発展はってんすることがない芸能人げいのうじん職員しょくいんたいするあこがれをいだくにとどまる恋愛れんあいしか出来できなくなった。恋愛れんあい願望がんぼうはあるものの、あえてあこがれのみの恋愛れんあいれているセクシュアリティの姿すがたがそこにはあった。
                                                  以上いじょうスライド16
4.母親ははおやとの関係かんけいきずる(Dさん:男性だんせい・22さい
 どこにでもいる“不良ふりょう少年しょうねん”のようなかんじのDさん。「勝手かって施設しせつ養護ようご学校がっこうれられた」「おやうらんでいる」「本当ほんとう普通ふつうこうきたかった」とはなす。中学ちゅうがく時代じだいには、母親ははおやからの虐待ぎゃくたいけ、なかなか母親ははおやに「あまえられなかった」らしい。障害しょうがい施設しせつ時代じだいに、年下とししたどもとよくあそんだ経験けいけんがあり、本人ほんにんは「どもがき」と。将来しょうらい保育ほいく仕事しごとがしたいとうれしそうにかたる。 以上いじょうスライド17
母親ははおやさけ・タバコ・くすり睡眠薬すいみんやくけ、本当ほんとう父親ちちおや離婚りこんしておらず、母親ははおや愛人あいじんを「おとうさん」とび、母親ははおやいもうと(おばさん)が料理りょうりつくる。家計かけい非常ひじょうくるしく生活せいかつ保護ほごである。「おや母親ははおや)はすごすごひとでしたよー。包丁ほうちょうでオレのことをそうとしたりとか、それをおやおぼえていないんですよねー。くすりのせいで。(中略ちゅうりゃく) おかあさんをころそうかなーっていうときもあったんですよねー」とすさまじい体験たいけんはなす。大学だいがく施設しせつ職員しょくいんまえでしばしば自分じぶんについてかたることがおおいDさん。なぜはなしているのかいてみると、「(自分じぶんを)健常けんじょうしゃひとたちにってもらいたいのだ」とう。「すこしでも虐待ぎゃくたいとかがくなればいいかなーみたいな」とも。また、はなしたのちはスッキリするらしい。「相手あいていてくれるひとたち)からの言葉ことばしいんですよねー。どんなふうにかえってくるかがたのしみなんですよ。かえってくる言葉ことばしいんです」と、かたわけ説明せつめいするDさん。          以上いじょうスライド18
 以上いじょうのように「Dさんのかたり」から、母親ははおやまたは家族かぞく自分じぶんとの関係かんけい人前ひとまえかたるということにより、かたられたがわからかえってくる言葉ことば期待きたいしている姿すがたれる。また、母親ははおやに「あまえられなかった」というおもいをきずりながらも、かたるということでたききて言葉ことばにより、みずからゆれながらアイデンティティを確立かくりつしようとしているセクシュアリティとはえないだろうか。   以上いじょうスライド19
5.我慢がまんさせないと自分じぶんみたいになる”(Eさん:おっと・30さい、Fさん:つま・23さい
 通勤つうきんりょう自立じりつ生活せいかつアシスタント派遣はけん事業じぎょう(М委託いたく)を利用りようして、夫婦ふうふどもにアパートで生活せいかつをしているE・Fさん夫婦ふうふ結婚けっこん形態けいたいは「入籍にゅうせきこん」。2さいになるども(女児じょじ障害しょうがいゆう)がいる。二人ふたりの「子育こそだかん」をたずねてみた。「職員しょくいんは、『なるべく我慢がまんさせないように』ってうんですけど、我慢がまんさせないと自分じぶんみたいになってしまうし。わたし(Fさん)、しょうちゅう時代じだい特殊とくしゅ学級がっきゅうにいたんですが、いじめられてきたから。を(からだに)つけられた(・・)。どもにはそうなってもらいたくないんです」とつま(Fさん)はかたる。つづけて「つよくなったほうがいいし、やられっぱなしはダメだとおもうんです」と。
                                                  以上いじょうスライド20
 この「Fさん(つま)のかたり」から、知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃであるFさんの「子育こそだかん」、すなわち、障害しょうがいっていることによって「いじめられた」過去かこつら経験けいけんから、おな障害しょうがいどもに、「つよくなれ」「やられっぱなしではダメ」と、きびしい姿勢しせいでの子育こそだてをつらぬとおす「障害しょうがい当事とうじしゃ母親ははおや」としてのセクシュアリティがそこにはれる。                             以上いじょうスライド21

W 支援しえんしゃかた知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティ
支援しえんしゃかたり】
1.みんな“家族かぞくしいんじゃないか”(職員しょくいんAさん:女性じょせい・30だい
 出産しゅっさんは、「ませない支援しえんではなく選択せんたくさせる支援しえん」であると職員しょくいんAさん。そのさいには、かならず「本人ほんにんだめし」をして、当事とうじしゃ本心ほんしん確認かくにんするということ。「家庭かていてきむずかしい当事とうじしゃたちは、本当ほんとう家族かぞくしいんだなーって」とかたる。「愛情あいじょうをきちんとけていない当事とうじしゃは、いとかたからない。いとかたは、ってうまれるものではなくおしえられるもの」。            以上いじょうスライド22
2.後追あとお支援しえん」「疑似ぎじてき家族かぞく」(職員しょくいんBさん:男性だんせい・50だい
覚悟かくご」をかんじる(職員しょくいんCさん:男性だんせい・20だい

 職員しょくいんBさんは、せいはすべて「後追あとお支援しえん」であるとかたった。当事とうじしゃ恋愛れんあいは、「あさおもい」のかえしで連続れんぞくせいがないのが特徴とくちょうである。とく男性だんせいにその傾向けいこうつよいのではないか。GHという「」は、「安定あんてい」「安心あんしん」を提供ていきょう出来できであり、当事とうじしゃ関係かんけいせい回復かいふくできる。これは、「自分じぶん相手あいて異性いせいみとめられるからですかねー」と職員しょくいんBさん。「GHの家族かぞくせい」「疑似ぎじてき家族かぞく」とえないだろうか(以上いじょう、「職員しょくいんBさんのかたり」から)。
 比較的ひかくてきわか職員しょくいんCさんは、当事とうじしゃ子育こそだてをて、その「覚悟かくご」をかんじるとう。つまり、「覚悟かくご」をかんじさせるだけのつよおもいがそこにはあるとうのだろうか。しかし、職員しょくいん支援しえんしゃ)の立場たちばとしては、正直しょうじきせいかんする支援しえんむずかしいのだともかたる。たとえば、必要ひつよう以上いじょう身体しんたい接触せっしょくもとめる女性じょせい当事とうじしゃおもいをどこまでれるべきなのか…。職員しょくいんCさんは、当事とうじしゃの「あまえの行動こうどう」とかっていても、職員しょくいん支援しえんしゃ)としての「ケジメ」をつけたとかたった。「自分じぶんなか葛藤かっとうがあった」らしいが。そこには「支援しえんしゃ当事とうじしゃ」の関係かんけい、つまり、<支援しえんするがわ−されるがわ>という関係かんけいおおきく影響えいきょうし、その関係かんけいせい支援しえんしゃのパラドックスをこすのである。          以上いじょうスライド23
以上いじょうべたことをスライド24にまとめた。                       以上いじょうスライド24

X 考察こうさつ
ざまとしてのセクシュアリティのかたち
<いま-ここ>で<かたり-かたられる>という「覚悟かくご
 当事とうじしゃが<セクシュアリティをかたる>という「覚悟かくご」と、筆者ひっしゃの<セクシュアリティをかたられる>という「覚悟かくご」。はたして当事とうじしゃはどのような「覚悟かくご」でかたっているのであろうか。かたられるがわ筆者ひっしゃは、当事とうじしゃいだくセクシュアリティにかんしての「つらさ」「かたつらさ」「くるしみ」「かなしみ」「ずるさ」「わからなさ」「あいらしさ」「よろこび」「とうとさ」「「奥深おくふかさ」などの<かれら/彼女かのじょらなり>の多様たような<リアリティ>を真剣しんけんけとめようということが、筆者ひっしゃなりの「覚悟かくご」であるとかんがえる。

ざま>からえる様々さまざまな「覚悟かくご
 知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃの<ざま>からえる様々さまざまな「覚悟かくご」とは、まさに人間にんげんらしい「かたそのもの」である。
 ・シングル・マザーになっても、子育こそだてを契機けいきとして自立じりつしようとする「覚悟かくご
 ・“同性どうせいき” カミングアウトをして自分じぶん素直すなおきていこうとする「覚悟かくご
 ・「つら虐待ぎゃくたい経験けいけんかたる」 あこがれのみで、そのさきもとめない恋愛れんあい決意けついした「覚悟かくご
 ・“どものころあまえられなかった” 母親ははおやとの関係かんけいきずりながらも、自分じぶんかたることで、ゆれながら、まなびながら、自分じぶんのアイデンティティを確立かくりつしようとする「覚悟かくご
 ・「いじめられた」という過去かこつら経験けいけんから、自分じぶんおな障害しょうがい子育こそだてに、きびしい
姿勢しせいをもってのぞむ「知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ母親ははおや」としての「覚悟かくご
                                            以上いじょうスライド25
知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティの理解りかいけて】
 1.「セクシュアリティを理解りかいするということ」
 家庭かていてきむずかしい知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃ(A・B・C・Dさん)は、愛情あいじょうをきちんとけていない、いとかたからないひとたちがおおい(「職員しょくいんAさんのかたり」より)。職員しょくいんAさんのうように、「いとかたは、ってうまれるものではなく、おしえられるもの」であることから、当事とうじしゃに「愛情あいじょうそそぎ、いとかたおしえること」こそ、当事とうじしゃのセクシュアリティを理解りかいする方法ほうほうひとつになるのではないか。
 GHという「」は、当事とうじしゃ関係かんけいせい回復かいふくさせるのではないか(「職員しょくいんBさんのかたり」より)。いいかえると、自分じぶん相手あいて異性いせいに「みとめられること」で、「安心あんしん」「安定あんてい」がられるということである。その「」において、「一人ひとりいちにんのリアリティにいながら、たがいにみとめあいながら、こちらもゆらぎながら、そして、まなびながら、とも成長せいちょうしていくというかかわりかた」が知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃのセクシュアリティを理解りかいすることにつながるとおもわれる。

 2.「知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃがセクシュアリティをかたるということ」
 「知的ちてき障害しょうがい当事とうじしゃがセクシュアリティをかたるということ」が、知的ちてき障害しょうがいともきる<かれら/彼女かのじょらなり>の、まさに<リアリティ>を理解りかいするための<糸口いとぐち>になりるのではないか。知的ちてき障害しょうがい当時とうじしゃの<かたり>には、そうした<ちから>がありそうである。
                                                  以上いじょうスライド26

参考さんこう文献ぶんけん
安積あさか遊歩ゆうほ 『いやしのセクシー・トリップ』 太郎たろうろうしゃ 1993
安積あさか遊歩ゆうほ 『くるまイスからの宣戦せんせん布告ふこく』 太郎たろうろうしゃ 1999
安積あさか遊歩ゆうほ岡原おかはら正幸まさゆき尾中おちゅうぶん哉・立岩たていわしん也 『なま技法ぎほう』(増補ぞうほ改訂かいていばん) 藤原ふじわら書店しょてん 1995
あさひ洋一郎よういちろう 「障害しょうがいしゃのセクシュアリティと障害しょうがいしゃ福祉ふくし」 『東洋大学とうようだいがく児童じどう相談そうだん研究けんきゅう』  1996
・Ann&Michael Craft, Sex Education&Counselling for Mentally Handicapped People, Costello, 1983
・Ann Craft, Mental Handicap and Sexuality, Costello, 1987
石川いしかわじゅん長瀬ながせおさむ編著へんちょ 『障害しょうがいがくへの招待しょうたい』 明石書店あかししょてん 1999
石川いしかわじゅん倉本くらもと智明ともあき編著へんちょ 『障害しょうがいがく主張しゅちょう』 明石書店あかししょてん 2002
市野川いちのかわようこう 『身体しんたい生命せいめい』 岩波書店いわなみしょてん 2003
井上いのうえかおるへん 『セックスという迷路めいろ』 長崎ながさき出版しゅっぱん 2008
上野うえの千鶴子ちづこ 『性愛せいあいろん』 河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ 1989
上野うえの千鶴子ちづこ 『構築こうちく主義しゅぎとはなにか』 剄草書房しょぼう 2001
上野うえの千鶴子ちづこ 『だつアイデンティティ』 剄草書房しょぼう 2005
大井おおい清吉せいきち山本やまもと良典よしのり河東田かとうだひろし編著へんちょ 『ちえおくれのおや教師きょうしに  男女だんじょ交際こうさい結婚けっこん家庭かてい生活せいかつのガイド』 だいあげしゃ 1988
大井おおい清吉せいきち山本やまもと良典よしのり河東田かとうだひろし編著へんちょ 『ちえおくれのおや教師きょうしに  男子だんしせい生活せいかつのガイド』 だいあげしゃ 1995
小山内おさない美智子みちこ 『車椅子くるまいすからウィンク』 文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう 1988
小山内おさない美智子みちこ 『車椅子くるまいす夜明よあけのコーヒー』 文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう 1995
河東田かとうだひろし河野こうの和代かずよ 『知的ちてき障害しょうがいしゃとセクシュアリティ −子宮しきゅう摘出てきしゅつ問題もんだい結婚けっこん生活せいかつのありかたを中心ちゅうしんに』 平成へいせいねん厚生省こうせいしょう心身しんしん障害しょうがい研究けんきゅう
河東田かとうだひろし 「せい人権じんけんせいをめぐるしょ問題もんだい」 松友まつともりょうへん 『知的ちてき障害しょうがいしゃ人権じんけん』 明石書店あかししょてん 1999
河東田かとうだひろし小林こばやししげる中里なかさとまこと坂本さかもと光敏みつとしはやし弥生やよい大槻おおつき美香みか 「知的ちてき障害しょうがいしゃ結婚けっこん生活せいかつ支援しえんのあ
ほうかんする研究けんきゅう」 『障害しょうがいのある人々ひとびと結婚けっこん就労しゅうろう・くらしにかんする研究けんきゅう』 2004年度ねんど日本にっぽん財団ざいだんすけ なり研究けんきゅう事業じぎょう 2005
河東田かとうだひろし 「知的ちてきしょうがいしゃのセクシュアリティ・結婚けっこん支援しえんをめぐる実態じったい課題かだい」 『立教りっきょう社会しゃかい福祉ふくし研究けんきゅうだい26ごう 2007
河東田かとうだひろし 『ノーマライゼーション原理げんりとはなにか』 現代書館げんだいしょかん 2009
金井かない淑子としこ編著へんちょ 『ファミリー・トラブル』 明石書店あかししょてん 2006
河合かわい香織かおり 『セックスボランティア』 新潮社しんちょうしゃ 2004
倉本くらもと智明ともあき編著へんちょ 『セクシュアリティの障害しょうがいがく』 2005
桜井さくらいあつし 『インタビューの社会しゃかいがく』 せりか書房しょぼう 2002
桜井さくらいあつし小林こばやし寿子ひさこ編著へんちょ 『ライフストーリー・インタビュー』 せりか書房しょぼう 2005
障害しょうがいしゃなませい研究けんきゅうかいへん 『知的ちてき障害しょうがいしゃ恋愛れんあいせいひかりを』 かもがわ出版しゅっぱん 1996
障害しょうがいしゃなませい研究けんきゅうかいへん 『障害しょうがいしゃ恋愛れんあいせいかたりはじめた』 かもがわ出版しゅっぱん 2000
障害しょうがいしゃなませい研究けんきゅうかいへん 『ここまできた障害しょうがいしゃ恋愛れんあいせい』 かもがわ出版しゅっぱん 2001
全日本ぜんにほんしゅをつなぐ育成いくせいかいへん 『おやになる』 全日本ぜんにほんしゅをつなぐ育成いくせいかい 1999
全日本ぜんにほんしゅをつなぐ育成いくせいかい 『せいとその周辺しゅうへん理解りかいする』 全日本ぜんにほんしゅをつなぐ育成いくせいかい 2000
全日本ぜんにほんしゅをつなぐ育成いくせいかい 『せい・say・せい(せい・セイ・せい)』  全日本ぜんにほんしゅをつなぐ育成いくせいかい 2005
谷口たにぐち明広あきひろ 『障害しょうがいをもつひとたちのせい』 明石書店あかししょてん 1998
土屋つちやよう 『障害しょうがいしゃ家族かぞくきる』 剄草書房しょぼう 2002
中根なかねしげる寿ことぶき 『知的ちてき障害しょうがいしゃ家族かぞく臨床りんしょう社会しゃかいがく』 明石書店あかししょてん 2006
西浜にしはま優子ゆうこ 『しょうがいしゃおや介助かいじょしゃ』 現代書館げんだいしょかん 2002
・“人間にんげんせい教育きょういく研究けんきゅう協議きょうぎかいへん 『ヒューマン・セクシュアリティ』19 東山ひがしやま書房しょぼう 1995
・“人間にんげんせい教育きょういく研究けんきゅう協議きょうぎかい障害しょうがいサークルへん 『障害しょうがいしゃ)のセクシュアリティをはぐくむ』 大月書店おおつきしょてん 2001
はた安雄やすお 「知的ちてき障害しょうがいしゃ地域ちいき生活せいかつ支援しえんかんする研究けんきゅう −知的ちてき障害しょうがいしゃ結婚けっこん子育こそだ支援しえんについて、ゆたか福祉ふくしかい事例じれいからー」 『日本福祉大学にほんふくしだいがく社会しゃかい福祉ふくし論集ろんしゅうだい103ごう 2000
・ベンクト・ニィリエちょ河東田かとうだひろし橋本はしもと由紀子ゆきこ杉田すぎた穏子やくへん) 『ノーマライゼーションの原理げんり』 現代書館げんだいしょかん 1998
・ヴォルフェンスベルガーちょ中園なかその康夫やすお清水しみず貞夫さだおへんやく) 『ノーマリゼーション』 学苑がくえんしゃ 1996
牧口まきぐち一二かずじ河野こうの秀忠ひでただへん 『ラブ』 ちょうせいしゃ 1983
まつけんこう 『このがいる、しあわせ』 中央ちゅうおう法規ほうき出版しゅっぱん 2004
山下やました幸子さちこ 『「健常けんじょう」であることをつめる』 生活せいかつ書院しょいん 2008
要田かなめた洋江ひろえ 『障害しょうがいしゃ差別さべつ社会しゃかいがく』 岩波書店いわなみしょてん 1999            以上いじょうスライド27・28

作成さくせい
UP:20090904 REV:20090921
全文ぜんぶん掲載けいさい  ◇障害しょうがい学会がっかいだい6かい大会たいかい  ◇障害しょうがい学会がっかいだい6かい大会たいかい報告ほうこく要旨ようし
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