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原田はらだ 琢也たくや (はらだ たくや) 金城学院大学きんじょうがくいんだいがく人間にんげん科学かがく部ぶ

■報告ほうこく題目だいもく

学校がっこう現場げんばにおける「発達はったつ障害しょうがい」の使つかわれ方かたに関かんする研究けんきゅう

■報告ほうこくキーワード

発達はったつ障害しょうがい / 医療いりょう化か / 問題もんだい行動こうどう

■報告ほうこく要旨ようし

1. 問題もんだいの所在しょざい

　近年きんねん特別とくべつ支援しえん学校がっこうや特別とくべつ支援しえん学級がっきゅうに在籍ざいせきする障害しょうがい児じ生徒せいと数すうが急増きゅうぞうしている。文部もんぶ科学かがく省しょうによれば，特別とくべつ支援しえん学校がっこう在学ざいがく者しゃ数すうは，2004年ねんに98,796人にんであったものが2014年ねんには135,617人にんへと，この10年ねんの間あいだに1.4倍ばいに増加ぞうかしていることになる。中なかでも知的ちてき障害しょうがいの在籍ざいせき者しゃの増加ぞうかは著いちじるしく，この間あいだに65,690人にんから121，568人にんへと1.9倍ばいに急増きゅうぞうしている（文部もんぶ科学かがく省しょう　2014）。
　この状況じょうきょうを指さして，鈴木すずき（2010）は，「学校がっこう現場げんばにおける障害しょうがいやさまざまな教育きょういく的てきニーズのある子こどもたちの排除はいじょ（イクスクルージョン）」と，「通常つうじょうの学級がっきゅうにおけるそのような子こどもたちへ対応たいおうが十分じゅうぶんにできていない状況じょうきょう」があると指摘してきする。また，教育きょういく社会しゃかい学がくの領域りょういきでは木村きむら（2015）が，教師きょうしへのインタビュー調査ちょうさを通とおして，2007年ねんの特別とくべつ支援しえん教育きょういくの導入どうにゅうを契機けいきとして学校がっこう現場げんばにおける「医療いりょう化か」（medicalization）が進すすんでいることを明あきらかにしている。コンラッドとシュナイダー（Conrad & Schneider 1992）によれば，医療いりょう化かは，社会しゃかい問題もんだいを個人こじん化かし，脱だつ政治せいじ化かするという。脳のう機能きのうに障害しょうがい（インペアメント）のある子こどもだけではなく，社会しゃかいや家庭かていなどの環境かんきょう要因よういんから課題かだいを現出げんしゅつさせている子こどもまでもが，「発達はったつ障害しょうがい」という医療いりょう的てきな言葉ことばで一いち括くくりにされることにより，通常つうじょう学級がっきゅうから排除はいじょされつつあることが伺うかがえる。

2. 調査ちょうさの目的もくてきと方法ほうほう

　本ほん研究けんきゅうでは，学校がっこう現場げんばにおける教師きょうしによる「発達はったつ障害しょうがい」という言葉ことばの使つかわれ方かたに着目ちゃくもくし，授業じゅぎょう場面ばめんの観察かんさつと教師きょうしへのインタビューを通とおして，この現象げんしょうが生うみ出だされる学校がっこうの内部ないぶ過程かていを明あきらかにすることを目的もくてきとする。インタビューでは，教師きょうしがどのような場面ばめんで，どのような子こどもに対たいして，どのような意味いみで「発達はったつ障害しょうがい」という言葉ことばを使つかっているのか。そして，その行為こういを教師きょうし自みずからが主観しゅかん的てきにどう意味いみづけ，客観きゃっかん的てきにどう捉とらえようとしているのかを明あきらかにする。現在げんざいある中学校ちゅうがっこうですでに調査ちょうさを進すすめているが，今後こんご，他たの中学校ちゅうがっこうにも調査ちょうさを拡ひろげる予定よていである。
　発表はっぴょうにおいては，固有名詞こゆうめいしは全すべて仮名がなを用もちい，本人ほんにんが特定とくていされるような記述きじゅつを避さけるように配慮はいりょする。
　
3. 結果けっか　

　調査ちょうさで見みいだされた一ひとつのケースを紹介しょうかいする。１年生ねんせいのA君くんは，小学校しょうがっこうの時期じきから深夜しんや徘徊はいかい，窃盗せっとう，暴力ぼうりょくなどの問題もんだい行動こうどうが後こうを絶たたない。家庭かていに保護ほご能力のうりょくが乏とぼしく，生活せいかつは不規則ふきそくである。昼前ひるまえに登校とうこうし，授業じゅぎょうに出席しゅっせきしても席せきに着ついていることは希まれで，教室きょうしつを出でたり入はいったりしている。教師きょうしの指導しどうには従したがわず，「キレ」ると見境みさかいなく暴あばれ，対たい教師きょうし暴力ぼうりょくに至いたることも珍めずらしくない。友人ゆうじんはしだいに離はなれていき，今いまは一人ひとりで行動こうどうすることが多おおくなっている。
　学年がくねんの教師きょうしたちは，彼かれには発達はったつ障害しょうがいがあるという。こだわりが強つよく，「キレ」たら収拾しゅうしゅうがつかなくなる側面そくめんがあるからだ。しかし，一方いっぽうで，彼かれの問題もんだい行動こうどうは家庭かてい環境かんきょうによるところが大おおきいこと，さらに周囲しゅういの気きを惹ひくためのアピールとしての側面そくめんを強つよく持もっていることを認みとめている。できることならば医師いしに受診じゅしんして欲ほしいと願ねがいながらも，厳きびしい家庭かてい環境かんきょうを考かんがえるとあまり意味いみがないとも考かんがえている。また，教師きょうしたちは，集団しゅうだんづくりを通とおして彼かれの居場所いばしょをつくることが大切たいせつだとしながらも，他たの子こどもたちとの間あいだにある「差異さい」を際立きわだたせようとしていた。これら一連いちれんのアンビバレントな教師きょうしの行動こうどうは，ピーターウッズ（Woods　1979）の「サバイバル・ストラテジー」（survival strategy）の枠組わくぐみで捉とらえることにより説明せつめい可能かのうではあるが，ストラテジーは単たんに教師きょうしの「生いき残のこり」のためというだけではなく，逸脱いつだつ行動こうどうをエスカレートさせていくA君くんを何なにとか学校がっこうに居いとどまらせたいという，切実せつじつな思おもいに裏打うらうちされてもいた。

参考さんこう文献ぶんけん

Conrad, P. and Schneider, J.W. (1992) Deviance and Medicalization. Temple University Press, PA.　進藤しんどう雄三ゆうぞう・杉田すぎた聡さとし・近藤こんどう正ただし英訳えいやく（2003）逸脱いつだつと医療いりょう化か．ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう．
木村きむら祐子ゆうこ（2015）発達はったつ障害しょうがい支援しえんの社会しゃかい学がく．東ひがし信しん堂どう．
文部もんぶ科学かがく省しょう（2014）特別とくべつ支援しえん教育きょういく資料しりょう（平成へいせい25年度ねんど）．文部もんぶ科学かがく省しょうホームページ．http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/08/1358541_01.pdf
鈴木すずき文治ぶんじ（2010）排除はいじょする学校がっこう．明石書店あかししょてん．
Woods, Peter（1979）Divided School．Routledge & Kegan Paul．

〔付記ふき〕
　本ほん研究けんきゅうは，2014・2015年度ねんど金城学院大学きんじょうがくいんだいがく特別とくべつ研究けんきゅう助成じょせい費ひ・金城学院大学きんじょうがくいんだいがく父母ちちはは会かい特別とくべつ研究けんきゅう助成じょせい費ひを受うけて行いった研究けんきゅう成果せいかの一部いちぶである。

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）