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野崎のさき 泰伸やすのぶ (のざき やすのぶ) 天理てんり医療いりょう大学だいがく

■報告ほうこく題目だいもく

障害しょうがいを理由りゆうとする差別さべつの定義ていぎと合理ごうり的てき配慮はいりょに関かんする哲学てつがく的てき考察こうさつ

■報告ほうこくキーワード

障害しょうがい者しゃ差別さべつ / 合理ごうり的てき配慮はいりょ / 哲学てつがく

■報告ほうこく要旨ようし

　障害しょうがい者しゃ権利けんり条約じょうやく、障害しょうがい者しゃ差別さべつ解消かいしょう法ほう、および各かく自治体じちたいによる障害しょうがい者しゃ差別さべつ解消かいしょう条例じょうれい（名称めいしょうは各かく自治体じちたいによる）においては、障害しょうがいを理由りゆうとする差別さべつ（以下いか「障害しょうがい者しゃ差別さべつ」とする）の定義ていぎと合理ごうり的てき配慮はいりょについて記しるされている。障害しょうがい者しゃ差別さべつの定義ていぎをめぐっては、それをどう定義ていぎするか、また、差別さべつの範囲はんいに「障害しょうがい者しゃ間あいだ差別さべつ」「間接かんせつ差別さべつ」を含ふくめるのかが論点ろんてんとなる。次つぎに、合理ごうり的てき配慮はいりょをめぐっては、差別さべつ的てき取扱とりあつかいにおける正当せいとう・不当ふとうな理由りゆうとは具体ぐたい的てきにどのようなものか、また、合理ごうり的てき配慮はいりょにおける過重かじゅうな負担ふたんとは具体ぐたい的てきにどのようなものかが論点ろんてんとなる。それらの論点ろんてんについて、差別さべつ解消かいしょう条例じょうれいの骨格こっかくともいうべき基本きほん理念りねんについて各かく県けんの条例じょうれい等とうを比較ひかく対照たいしょうしながら、哲学てつがく的てきな考察こうさつを行おこなうのが本ほん報告ほうこくの課題かだいである。
　
　障害しょうがい者しゃ差別さべつの定義ていぎに関かんして、権利けんり条約じょうやくの第だい２条じょうでは、以下いかのように定さだめられている。
　
「「障害しょうがいに基もとづく差別さべつ」とは、障害しょうがいに基もとづくあらゆる区別くべつ、排除はいじょ又または制限せいげんであって、政治せいじ的てき、経済けいざい的てき、社会しゃかい的てき、文化ぶんか的てき、市民しみん的てきその他たのあらゆる分野ぶんやにおいて、他たの者ものとの平等びょうどうを基礎きそとして全すべての人権じんけん及および基本きほん的てき自由じゆうを認識にんしきし、享有きょうゆうし、又または行使こうしすることを害がいし、又または妨さまたげる目的もくてき又または効果こうかを有ゆうするものをいう。障害しょうがいに基もとづく差別さべつには、あらゆる形態けいたいの差別さべつ（合理ごうり的てき配慮はいりょの否定ひていを含ふくむ。）を含ふくむ。

　「合理ごうり的てき配慮はいりょ」とは、障害しょうがい者しゃが他たの者ものとの平等びょうどうを基礎きそとして全すべての人権じんけん及および基本きほん的てき自由じゆうを享有きょうゆうし、又または行使こうしすることを確保かくほするための必要ひつようかつ適当てきとうな変更へんこう及および調整ちょうせいであって、特定とくていの場合ばあいにおいて必要ひつようとされるものであり、かつ、均衡きんこうを失しっした又または過度かどの負担ふたんを課かさないものをいう」。
　
　また、差別さべつ解消かいしょう法ほうにおいては、その第だい７条じょうに「行政ぎょうせい機関きかん等とうは、その事務じむ又または事業じぎょうを行おこなうに当あたり、障害しょうがいを理由りゆうとして障害しょうがい者しゃでない者ものと不当ふとうな差別さべつ的てき取扱とりあつかいをすることにより、障害しょうがい者しゃの権利けんり利益りえきを侵害しんがいしてはならない」、また第だい８条じょうに「事業じぎょう者しゃは、その事業じぎょうを行おこなうに当あたり、障害しょうがいを理由りゆうとして障害しょうがい者しゃでない者ものと不当ふとうな差別さべつ的てき取扱とりあつかいをすることにより、障害しょうがい者しゃの権利けんり利益りえきを侵害しんがいしてはならない」とあるが、これは差別さべつの明確めいかくな定義ていぎではなく、くわえて、法ほう構造こうぞう上じょう、障害しょうがい者しゃ間あいだの差別さべつや間接かんせつ差別さべつ（関連かんれんする差別さべつを含ふくむ）は対象たいしょうとならないと考かんがえられる。
　
　次つぎに、合理ごうり的てき配慮はいりょに関かんして、「不当ふとうな差別さべつ的てき取扱とりあつかい」をめぐっては、「障害しょうがいを理由りゆうとする差別さべつの解消かいしょうの推進すいしんに関かんする基本きほん方針ほうしん　第だい２」における「不当ふとうな差別さべつ的てき取扱とりあつかい」の項こうで、「正当せいとうな理由りゆうに相当そうとうするのは…客観きゃっかん的てきに見みて正当せいとうな目的もくてきの下したに行おこなわれたものであり、その目的もくてきに照てらしてやむを得えないと言いえる場合ばあいである。行政ぎょうせい機関きかん等ひとし及および事業じぎょう者しゃにおいては個別こべつの事案じあんごとに、障害しょうがい者しゃ、事業じぎょう者しゃ、第三者だいさんしゃの権利けんり利益りえき及および行政ぎょうせい機関きかん等とうの事務じむ・事業じぎょうの目的もくてき・内容ないよう・機能きのうの維持いじ等とうの観点かんてんに鑑かんがみ、具体ぐたい的てき場面ばめんや状況じょうきょうに応おうじて総合そうごう的てきに判断はんだんすることが必要ひつようである。行政ぎょうせい機関きかん等ひとし及および事業じぎょう者しゃは、正当せいとうな理由りゆうがあると判断はんだんした場合ばあいには、障害しょうがい者しゃにその理由りゆうを説明せつめいするものとし、理解りかいを得えるように努つとめることが望のぞましい」とある。また、「合理ごうり的てき配慮はいりょにおける過重かじゅうな負担ふたん」をめぐっては、同どう「合理ごうり的てき配慮はいりょ」の項こうにおいて、その基本きほん的てきな考かんがえ方かたとして、「行政ぎょうせい機関きかん等ひとし及および事業じぎょう者しゃの事務じむ・事業じぎょうの目的もくてき・内容ないよう・機能きのうに照てらし、必要ひつようとされる範囲はんいで本来ほんらいの業務ぎょうむに付随ふずいするものに限かぎられること、障害しょうがい者しゃでない者ものとの比較ひかくにおいて同等どうとうの機会きかいの提供ていきょうを受うけるためのものであること、事務じむ・事業じぎょうの目的もくてき・内容ないよう・機能きのうの本質ほんしつ的てきな変更へんこうには及およばないことに留意りゅういする必要ひつようがある」と記しるされる。また「過重かじゅうな負担ふたん」に関かんしては、「事務じむ・事業じぎょうへの影響えいきょうの程度ていど、実現じつげん可能かのう性せいの程度ていど（物理ぶつり的てき・技術ぎじゅつ的てき制約せいやく、人的じんてき・体制たいせい上じょうの制約せいやく）、費用ひよう・負担ふたんの程度ていど、事務じむ・事業じぎょう規模きぼ、財政ざいせい・財務ざいむ状況じょうきょう」が考慮こうりょされるべきであるとする。つまり、不当ふとうな差別さべつ的てき取扱とりあつかいに関かんしては、正当せいとうか不当ふとうかを判断はんだんする明確めいかくな基準きじゅんはなく、個別こべつ事案じあんごとに判断はんだんする、判断はんだんのための視点してんとして例示れいじされるのは、障害しょうがい者しゃ、事業じぎょう者しゃ、第三者だいさんしゃの権利けんり利益りえきと、行政ぎょうせい機関きかん等とうの事務じむ・事業じぎょうの目的もくてき・内容ないよう・機能きのうの維持いじ等とうであると考かんがえられる。また、合理ごうり的てき配慮はいりょにおける過重かじゅうな負担ふたんに関かんしては、事業じぎょうを損そこなわない範囲はんいで、均等きんとうな機会きかい提供ていきょうを目的もくてきに行おこなうことを基本きほんとしたうえで、過重かじゅうな負担ふたんを検討けんとうする５項目こうもくはあるが、明確めいかくな基準きじゅんはないと考かんがえられる。
　
　本ほん報告ほうこくでは、これらを踏ふまえたうえで、障害しょうがい者しゃ差別さべつの定義ていぎに関かんして、また、合理ごうり的てき配慮はいりょの定義ていぎをめぐる「不当ふとうな差別さべつ的てき取扱とりあつかい」、「過重かじゅうな負担ふたん」に関かんして、法的ほうてき観点かんてんではなく、哲学てつがく的てき観点かんてんから考察こうさつする。そのような思索しさくが、自治体じちたいにおいて新あたらしく差別さべつ解消かいしょう条例じょうれいを制定せいていする際さいにおいても、有用ゆうようであると考かんがえられるからである。
　
　なお、本ほん報告ほうこくは、直接ちょくせつ人物じんぶつを対象たいしょうとした研究けんきゅうではないため、倫理りんり的てき配慮はいりょは不要ふようであると考かんがえる。

障害しょうがい学会がっかい第だい12回かい大会たいかい（2015年度ねんど）