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朝日あさひ まどか (あさひ まどか) 北海道ほっかいどう医療いりょう大学だいがく

■報告ほうこく題目だいもく

訪問ほうもん作業さぎょう療法りょうほうの効果こうかをめぐる言説げんせつ―ミシェル・フーコーの逸脱いつだつと規格きかく化かを手掛てがかりにして

■報告ほうこくキーワード

作業さぎょう療法りょうほう、逸脱いつだつ、規格きかく化か

■報告ほうこく要旨ようし

はじめに

　本ほん研究けんきゅうでは、ミシェル・フーコー（以下いか、フーコー）の＜逸脱いつだつ＞と＜規格きかく化か＞を手掛てがかりとして、作業さぎょう療法りょうほう（以下いか、OT）における逸脱いつだつや常態じょうたいとは何なにか、またOTが逸脱いつだつと常態じょうたいを分類ぶんるいする試験しけんについて、さらに逸脱いつだつを規格きかく化かする制裁せいさいについて、さらにこれらに内在ないざいする権力けんりょくについて分析ぶんせきする。今回こんかいはOTのなかでも、対象たいしょう者しゃの生活せいかつにより密着みっちゃくした支援しえんを行おこなう訪問ほうもんOTを対象たいしょうに分析ぶんせきを行おこなう。

対象たいしょうと方法ほうほう

　訪問ほうもんOTの言説げんせつが反映はんえいされていると思おもわれる学術がくじゅつ誌し5つの中なかから、訪問ほうもんOTが対象たいしょう者しゃに求もとめる効果こうかについて触ふれている論文ろんぶん20本ほんを対象たいしょうとした。分析ぶんせき方法ほうほうは、批判ひはん的てき態度たいどで言説げんせつを読よみ取とる批判ひはん的てき言説げんせつ分析ぶんせき（CDA：critical discourse analysis）を用もちいた。本ほん研究けんきゅうは公刊こうかんされた文献ぶんけんの考証こうしょうを通とおした理論りろん研究けんきゅうであるため、人権じんけんの保護ほご、或あるいは法令ほうれい遵守じゅんしゅへの対応たいおうをめぐる事項じこうには該当がいとうしない｡また、文献ぶんけんの引用いんよう･参考さんこうについては日本にっぽん社会しゃかい福祉ふくし学会がっかいの研究けんきゅう倫理りんり方針ほうしんを遵守じゅんしゅする。

結果けっかと考察こうさつ

１．OTにおける「逸脱いつだつ」と「常態じょうたい」

　フーコーは、規律きりつ・訓練くんれん上じょうの刑罰けいばつの対象たいしょうとなるものに、規則きそくへの違反いはんや規則きそくに妥当だとうしない事柄ことがら、規則きそくを離はなれる事柄ことがらとして逸脱いつだつをあげ、不適合ふてきごうなものという明確めいかくではない領域りょういきが処罰しょばつ可能かのうなものとされていると述のべている（フーコー2015：182）。OTでの＜逸脱いつだつ＞とは、「意欲いよくが低ひくく消極しょうきょく的てきで、物事ものごとに挑戦ちょうせんせず諦あきらめる姿勢しせいであり、臥床がしょうがちで活動かつどう性せいが乏とぼしく、自立じりつした生活せいかつが送おくれず、また他者たしゃとの交流こうりゅうも少すくない」状態じょうたいである。作業さぎょう療法りょうほう士し（以下いか、OTR）はこれらの＜逸脱いつだつ＞が矯正きょうせいされた「常態じょうたい」を目標もくひょうにすると同時どうじに、その「常態じょうたい」が将来しょうらいも継続けいぞくすること、すなわち習慣しゅうかん化かすることまでを目標もくひょうとしている。

２．OTにおける「試験しけん」

　フーコーは、「試験しけん」という規格きかく化かの視線しせんにより、資格しかく付与ふよと分類ぶんるいと処罰しょばつとを可能かのうにすることができ、またそれは高度こうどに儀式ぎしき化かされると述のべている（フーコー2015：188）。
　OTでは、情報じょうほう収集しゅうしゅうや傾聴けいちょう（面接めんせつ）、観察かんさつ、検査けんさ、測定そくていが「試験しけん」にあたると考かんがえられるが、検査けんさや測定そくていのように儀式ぎしき的てきに行おこなわれるものもあれば、傾聴けいちょうのように自然しぜんな流ながれのなかで対象たいしょう者しゃを尊重そんちょうする立場たちばをみせながらも＜規格きかく化か＞の視線しせんを注そそぐ方法ほうほうもとられている。

３．OTにおける「規格きかく化かを行おこなう制裁せいさい」

　フーコーは、処罰しょばつの技法ぎほうとして、比較ひかく、差異さい化か、階層かいそう秩序ちつじょ化か、同質どうしつ化か、排除はいじょという5つの操作そうさが用もちいられ規格きかく化かされると述のべている（フーコー2015：186）。
　OTでは、まず対象たいしょう者しゃを健康けんこうという規則きそく原理げんりと関連かんれんさせ、常態じょうたいと比較ひかくし差さ異化いかする。他者たしゃとの比較ひかくにおける階層かいそう秩序ちつじょ化かは、在宅ざいたくサービスである訪問ほうもんOTでは、病院びょういん・施設しせつと異ことなり困難こんなんであるが、病やまい前まえと病後びょうごという時間じかん軸じくのなかで自己じこを比較ひかくさせ階層かいそう秩序ちつじょ化かさせることは可能かのうである。また＜逸脱いつだつ＞者しゃには、常態じょうたいへと近ちかづくよう対象たいしょう者しゃの「意味いみのある作業さぎょう」をとり入いれつつ、相手あいてを操作そうさする際さいに用もちいられる「恩恵おんけい」（フーコー2015：184）、賞賛しょうさんの言葉ことばをかけながら対象たいしょう者しゃの意欲いよくを高たかめ同質どうしつ化かをはかる。同質どうしつ化かに至いたらない者ものは、フーコーは規格きかく外がいのものとして、外的がいてきな境界きょうかいを定さだめる限度げんどを描えがき出だすとある（フーコー2015：186）が、今回こんかいの分析ぶんせきでは規格きかく外がいとなる前まえに＜規格きかく化か＞へと導みちびいていた。

４．OTにおける「権力けんりょく」

　最後さいごに＜規格きかく化か＞をおこなう制裁せいさいのなかでの「権力けんりょく」について述のべる。フーコーは権力けんりょくの仕組しくみとは、それを身体しんたいの内部ないぶに侵入しんにゅうさせ、行動こうどうの表面ひょうめん下かにしのび込こませ、それを分類ぶんるいと理解りかい可能かのう性せいの原理げんりとし、無秩序むちつじょの存在そんざい理由りゆうであり自然しぜん的てき秩序ちつじょであるものとして成立せいりつさせると述のべ（フーコー1999：56）、権力けんりょくがある秩序ちつじょを既すでに存在そんざいしているかのように装よそわせることを示唆しさしている。また、目標もくひょうと目的もくてきなしに行使こうしされる権力けんりょくはなく、それは、権力けんりょくが個人こじんである主体しゅたい＝主観しゅかんの選択せんたくあるいは決定けっていに由来ゆらいすることを意味いみしないと述のべている（フーコー1999：121）。

　このように権力けんりょくとは何なんらかの意図いとがありながらも強制きょうせい的てきではなく自然しぜんで、また非ひ-主観しゅかん的てきである。OTにおける権力けんりょくも対象たいしょう者しゃの「意味いみのある作業さぎょう」を聞きき、その作業さぎょうができないことを対象たいしょう者しゃ自身じしんが問題もんだいと捉とらえ、改善かいぜんしていくよう自動じどう化かを目指めざした関かかわりをもつため、強制きょうせい的てきな様式ようしきではない。しかし、さりげなく関かかわりつつも、OTRは常態じょうたいを意図いとし、対象たいしょう者しゃへ「指導しどう」「介入かいにゅう」「働はたらきかけ」を行おこなっている。また、訪問ほうもんOTでの関かかわりには時間じかん的てき・環境かんきょう的てき制約せいやくがあるため、介護かいご者しゃ家族かぞくや他た職種しょくしゅと連携れんけいし、OTRが不在ふざいの際さいも対象たいしょう者しゃを管理かんりし＜規格きかく化か＞を目指めざす。
　またOTは職能しょくのう団体だんたいとしての社会しゃかい的てき承認しょうにんを希求ききゅうしており、承認しょうにんを得えるために対象たいしょう者しゃを尊重そんちょうするとしながらもOTの効果こうかを示しめそうとするため、フーコーが述のべる「生なま－権力けんりょく」〔人間にんげんの生なまに中心ちゅうしんをおいた権力けんりょく〕（フーコー1999：177）をより行使こうしする恐おそれがある。
　当日とうじつの報告ほうこくでは、OTの対象たいしょう者しゃの捉とらえ方かたや支援しえんについて例れいを示しめし、逸脱いつだつや規格きかく化か、権力けんりょくとの関係かんけいについて述のべる。

文献ぶんけん
ミシェル・フーコー、田村たむら俶訳（2015）『監獄かんごくの誕生たんじょう―監かん視しと処罰しょばつ』新潮社しんちょうしゃ．
ミシェル・フーコー、渡辺わたなべ守まもる章あきら訳やく（1999）『性せいの歴史れきしⅠ　知ちへの意志いし』新潮社しんちょうしゃ．

障害しょうがい学会がっかい第だい13回かい大会たいかい（2016年度ねんど）