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障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨 | 瀧尾 陽太
 

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障害しょうがい学会がっかいだい13かい大会たいかい(2016年度ねんど報告ほうこく要旨ようし


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瀧尾たきお ふとし(たきお ようた)日本社会事業大学にほんしゃかいじぎょうだいがく大学院だいがくいん

報告ほうこく題目だいもく

聴覚ちょうかく障害しょうがい保護ほごしゃ聴者ちょうしゃ支援しえんにおける社会しゃかいモデルの必要ひつようせい

報告ほうこくキーワード

聴覚ちょうかく障害しょうがい医学いがくモデル、社会しゃかいモデル

報告ほうこく要旨ようし

⒈はじめに(背景はいけい問題もんだい意識いしき目的もくてき

 近年きんねん聴覚ちょうかく障害しょうがいしゃかた多様たようしている。医療いりょう技術ぎじゅつ発展はってん障害しょうがい早期そうき発見はっけん治療ちりょう可能かのうにし、医学いがくモデル(人工じんこう内耳ないじ註1や聴覚ちょうかくこう話法わほう註2といった医学いがくによって聴力ちょうりょく治療ちりょう活用かつようさせるかた)が進展しんてんした。一方いっぽう、ろうしゃ手話しゅわといった社会しゃかいモデル(ろうしゃとして手話しゅわだいいち言語げんごにするかた本稿ほんこうでは言語げんごてき文化ぶんかてきモデルと同意どうい)も尊重そんちょうされるようになってきた。現状げんじょう乳幼児にゅうようじ代理だいり決定けっていしゃである保護ほごしゃ選択肢せんたくしえたとってい。
 しかし、産後さんごから教育きょういく療育りょういく機関きかん紹介しょうかいいたるまでの親子おやこに、音声おんせい言語げんご獲得かくとく目指めざした医学いがくモデルによるかこみがきることがある。事実じじつ人工じんこう内耳ないじについてのデメリットの説明せつめいがなく不信ふしんかんいた」といった保護ほごしゃこえもあり、ここからも社会しゃかいモデルがないがしろにされている印象いんしょうける。保護ほごしゃ初期しょきれる情報じょうほう専門せんもんはなしはその価値かちかんおおきく左右さゆうし、わがのモード(人工じんこう内耳ないじによる音声おんせい活用かつよう手話しゅわかといっただいいち言語げんご選択肢せんたくし決定けっていにも影響えいきょうする。無知むちひとしい保護ほごしゃかたよった情報じょうほうあたえることはインフォームド・コンセント違反いはん、ろう人権じんけん侵害しんがいになり深刻しんこく問題もんだいである。
 こうしたいま医学いがくモデル一辺倒いっぺんとう現状げんじょう見直みなおし、社会しゃかいモデルを保障ほしょうした支援しえん具現ぐげん急須きゅうす課題かだいである。本稿ほんこう目的もくてきは、聴覚ちょうかく障害しょうがい保護ほごしゃ聴者ちょうしゃ支援しえんにおいて社会しゃかいモデルがどのようにとらえられているかを先行せんこう研究けんきゅうからあきらかにし、今後こんご検討けんとうされるべき視点してん提示ていじすることである。

方法ほうほう

 保護ほごしゃにとっての社会しゃかいモデルについて言及げんきゅうしている研究けんきゅうげる。おもにCiNii、Webをもちいて検索けんさく、また原著げんちょ論文ろんぶんにはふくまれない聴覚ちょうかく障害しょうがい関連かんれん雑誌ざっし報告ほうこくしょ研究けんきゅう対象たいしょうにする。なお先行せんこう研究けんきゅうあつかいについては、著作ちょさくけんほうおよび日本にっぽん社会しゃかい福祉ふくし学会がっかい研究けんきゅう倫理りんり指針ししんのっとり、十分じゅうぶんとおして内容ないよう把握はあくしたうえ使用しようする。そのさい出典しゅってん明記めいきする、原典げんてんのオリジナリティを尊重そんちょうするひとし不適切ふてきせつあつかいがないよう配慮はいりょする。

先行せんこう研究けんきゅうレビュー

 一部いちぶのろう学校がっこう療育りょういく機関きかんとうでは「ロールモデル(成人せいじん聴覚ちょうかく障害しょうがいしゃ、ろうしゃ)や手話しゅわ提示ていじ」を保護ほごしゃ支援しえん位置付いちづけており、それに肯定こうていてき意義いぎがあるとの報告ほうこく多数たすうある(福島ふくしま 2006など)。筆者ひっしゃはそれらを、社会しゃかいモデル提示ていじ意味合いみあいを機関きかん選択せんたく影響えいきょう安心あんしん要因よういん重圧じゅうあつかん緩和かんわ障害しょうがいしゃ)にたいする肯定こうていかん障害しょうがい認識にんしき理解りかい養育よういくしゃとしての自信じしんさき見通みとおし、手話しゅわによる子育こそだ方法ほうほう参考さんこう必要ひつようせい、モード選択せんたくへの影響えいきょうの8つにけた。
 医療いりょう機関きかんでは提示ていじされなかった存在そんざいたりにすることで、保護ほごしゃ社会しゃかいモデルてき道筋みちすじ見出みいだし、ロールモデルからそれまで想像そうぞうできなかったわが将来しょうらいぞうえがける。こうした出会であいが、わが障害しょうがい受容じゅよう佐藤さとうら 2008)、コミュニケーションの活発かっぱつ玉井たまい 2010)につながることもある。複数ふくすう保護ほごしゃから「(人工じんこう内耳ないじをしないとめた理由りゆう)たくさんの成人せいじんろうしゃ出会であったこと」といった記述きじゅつ複数ふくすう確認かくにんできている。あくまでも可能かのうせいぎないが、手話しゅわやろうしゃ出会であう、すなわち「社会しゃかいモデルてきイベント」は保護ほごしゃにとって価値かちかん転換てんかんさせるおおきな意味合いみあいをもっているとかんがえられる。

今後こんご検討けんとうされるべき視点してん

 本邦ほんぽうでは支援しえん体制たいせいなか社会しゃかいモデルが保障ほしょうされておらず、各々おのおのうんまかされている。ある保護ほごしゃ偶然ぐうぜんろうしゃ手話しゅわ出会であい、またある保護ほごしゃはそうした出会であいがないまま将来しょうらいぞう見出みだせず慢性まんせいてき悲哀ひあいおちいる。このような格差かくさめるべく、初期しょき情報じょうほう提供ていきょうでは医学いがく社会しゃかいモデルにれることのできる工夫くふう必要ひつようである。本稿ほんこうではその具体ぐたいさくとして「社会しゃかいモデルてきイベントの提示ていじ」をあげることができた。
 しかし、先行せんこう研究けんきゅうではその効果こうか可能かのうせいについて示唆しさされるのみで効果こうか検証けんしょうされるにはいたっていない。「イベントが保護ほごしゃ価値かちかん転換てんかんさせた」という確固かっこたる証拠しょうこがあることで、支援しえんモデルの土台どだいになるのではないか。たとえば、人工じんこう内耳ないじ装用そうようおや医学いがくモデルぐん)と装用そうよう手話しゅわ選択せんたくおや社会しゃかいモデルぐん)の経験けいけん分析ぶんせきし、社会しゃかいモデルてきイベントの有無うむ傾向けいこうあきらかにすることで、モード決定けってい左右さゆうしているという影響えいきょうせい検証けんしょうできる。このような実証じっしょうてき研究けんきゅう今後こんごたれる。

参考さんこう引用いんよう文献ぶんけん
福島ふくしまあきらはく(2006)「ろう学校がっこう乳幼児にゅうようじ教育きょういく相談そうだんにおけるおや理解りかい受容じゅようすすめるためにーきこえない本人ほんにんこえまなぶ2年間ねんかんみ」『筑波大学附属聾学校つくばだいがくふぞくろうがっこう紀要きよう』28, 2-13.
佐藤さとうみさお庄司しょうじ和史かずし(2009)「聴覚ちょうかく障害しょうがい早期そうき発見はっけんともな保護ほごしゃ心情しんじょう配慮はいりょした支援しえんについて―新生児しんせいじ聴覚ちょうかくスクリーニング受検じゅけん保護ほごしゃたいする面接めんせつ調査ちょうさ結果けっかから」『筑波大学つくばだいがく特別とくべつ支援しえん教育きょういく研究けんきゅう』3, 2-12.<実践じっせん研究けんきゅう
玉井たまい智子さとこ(2010)「聴覚ちょうかく障害しょうがいけん母親ははおや手話しゅわコミュニケーションについてのいち考察こうさつ」『松山大学まつやまだいがく論集ろんしゅう』2(5), 150-175.

※註
人工じんこう内耳ないじ(Cochlear implant)
補聴器ほちょうきの􏰀装用そうよう効果こうかがないかんおとせい難聴なんちょうほどこされる手術しゅじゅつ
聴覚ちょうかくこう話法わほう
補聴器ほちょうきとうもちいて残存ざんそん聴力ちょうりょく視覚しかくかしながら音声おんせい言語げんご獲得かくとく目指めざ教育きょういく方法ほうほう



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