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上野うえの 俊行としゆき (うわの としゆき) 東京大学とうきょうだいがく大学院だいがくいん総合そうごう文化ぶんか研究けんきゅう科か

■報告ほうこく題目だいもく

障害しょうがいの社会しゃかいモデルの定式ていしき化かによる試こころみ―発展はってん途上とじょう国こくに向むけたバリアフリー化か

■報告ほうこくキーワード

社会しゃかいモデル、発展はってん途上とじょう国こく、バリアフリー

■報告ほうこく要旨ようし

　申請しんせい者しゃは、ベトナムを中心ちゅうしんに、発展はってん途上とじょう国こく（以下いか、途上とじょう国こく）における障害しょうがい者しゃの社会しゃかい参加さんかのためのバリアフリー研究けんきゅうを行おこなっている。本ほん報告ほうこくでは、障害しょうがいの社会しゃかいモデル（以下いか、社会しゃかいモデル）の定式ていしき化かを行おこない、途上とじょう国こくに向むけたバリアフリーの理解りかいを促うながす試こころみを説明せつめいする。
国連こくれん障害しょうがい者しゃ権利けんり条約じょうやくが2006年ねんに採択さいたくされ、今年ことし4月がつに施行しこうされた障害しょうがい者しゃ差別さべつ解消かいしょう法ほうの影響えいきょうもあり、国内こくないでは社会しゃかいモデルが社会しゃかいに浸透しんとうしつつある。一方いっぽう、途上とじょう国こくは同どう条約じょうやくの批准ひじゅんを早期そうきにしていながらも、社会しゃかいは医学いがくモデルの方ほうが受うけ入いれられやすい環境かんきょうである。途上とじょう国こくは先進せんしん国こくとは異ことなる文化ぶんかを有ゆうしているため、障害しょうがいあるいは障害しょうがい者しゃに対たいする理解りかいも先進せんしん国こくとは異ことなっている。このような途上とじょう国こくにおいて、先進せんしん国こくの障害しょうがいに対たいする概念がいねんをそのまま移植いしょくすることは、理解りかいされないばかりではなく、先進せんしん国こくの文化ぶんかの押おし付つけとなって拒否きょひされることもありうる。申請しんせい者しゃは、途上とじょう国こくにおいて、障害しょうがい者しゃに対たいしても、バリアフリーに対たいしても理解りかいを促うながすためには、途上とじょう国こくの文化ぶんかを理解りかいした上うえで、先進せんしん国こくの概念がいねんをその文化ぶんかに合あわせて応用おうようすることが必要ひつようだと考かんがえている。
　川島かわしま（2011）は、杉野すぎの（2007）の英国えいこく社会しゃかいモデルと米国べいこく社会しゃかいモデルの相違そうい点てんを簡潔かんけつかつ明確めいかくに紹介しょうかいし、国内こくないでは英国えいこく社会しゃかいモデルが主流しゅりゅうであることを述のべた上うえで、米国べいこく社会しゃかいモデルが論理ろんり的てき整合せいごう性せいと用語ようご的てき明確めいかく性せいから現状げんじょうに適てきしていることを示しめしている。そして、心身しんしんの医学いがく的てき特徴とくちょうをインペアメント、不利ふりを負おわせる社会しゃかい側がわのあらゆる問題もんだいを社会しゃかい障壁しょうへきとした上うえで、障害しょうがいの障害しょうがい学がく的てき用語ようご法ほうとして、
（米国べいこく社会しゃかいモデルの）障害しょうがい＝インペアメントと社会しゃかい障壁しょうへきの相互そうご作用さようで生しょうじた不利ふり
と定式ていしき化かしている。ここで、この相互そうご作用さようについて、川島かわしまが論ろん稿こう内ないで例れいに挙あげたレストランの階段かいだんと車椅子くるまいす利用りよう者しゃの関係かんけいから考かんがえてみたい。まず、川島かわしまが示しめすように、階段かいだんは車椅子くるまいす利用りよう者しゃにとって、自己じこの目的もくてき達成たっせいに対たいする社会しゃかい障壁しょうへき（物理ぶつり的てき障壁しょうへき）である。だが、すべてのインペアメントにとって、階段かいだんが同様どうようの社会しゃかい障壁しょうへきになるとは限かぎらない。例たとえば、聴覚ちょうかく障害しょうがい者しゃは階段かいだんを利用りようできるし、また軽度けいどのインペアメントであるならば、車椅子くるまいす利用りよう者しゃの中なかには手てすりに掴つかまりながら車椅子くるまいすのまま階段かいだんを上あがろうとする強者きょうしゃさえいる。つまり、相互そうご作用さようは、個々ここのインペアメントの種類しゅるいと程度ていどにより社会しゃかい障壁しょうへきの度合どあいが変化へんかする。そして、社会しゃかい的てき不利ふりとは、インペアメントと社会しゃかい障壁しょうへきの相互そうご作用さようにより自己じこ実現じつげんできない状態じょうたいである。これを、
社会しゃかい的てき不利ふり＝インペアメント×社会しゃかい障壁しょうへき
と定式ていしき化かできる。また、インペアメントをI（impairment）、社会しゃかい障壁しょうへきをD（disability）、社会しゃかい的てき不利ふりをH（handicap）と置おき換かえると、
障害しょうがいの医学いがくモデル： H=I　
障害しょうがいの英国えいこく社会しゃかいモデル： H=D　
障害しょうがいの米国べいこく社会しゃかいモデル： H= I×D　
となる。
　次つぎに、申請しんせい者しゃの研究けんきゅう目的もくてきである障害しょうがい者しゃの社会しゃかい参加さんかと社会しゃかいモデルの関係かんけいで考かんがえてみる。社会しゃかい参加さんか可能かのう率りつ（SP：Social Participation）を設定せっていすると、非ひ障害しょうがい者しゃの場合ばあい、社会しゃかい参加さんかの可能かのう性せいは100%であるため、SP=100%となる。一方いっぽうで、障害しょうがい者しゃの場合ばあい、社会しゃかい参加さんかに対たいし、社会しゃかい的てき不利ふりはマイナス要因よういんとして働はたらくため、SP=(100－H)%となる。ここで、障害しょうがいの米国べいこく社会しゃかいモデルを社会しゃかい的てき不利ふりであるHに代入だいにゅうすると、SP=(100－I × D)%となる。この定式ていしきにおいて、D=0とは理想りそう的てきな完全かんぜんバリアフリーを意味いみする。したがって、個人こじんのインペアメントであるＩはほぼ不変ふへんであることを考かんがえると、D→0となると、社会しゃかい的てき不利ふりであるHは小ちいさくなり、インペアメントの程度ていどに関かかわらずに社会しゃかい参加さんか可能かのう率りつは100%に近ちかづくことを示しめすことができる。また、重度じゅうどのインペアメント、すなわちIの値ねが大おおきいほど、バリアフリーの効果こうかが相乗そうじょう的てきに大おおきくなることを示しめすことができる。さらに合理ごうり的てき配慮はいりょ（RA：Reasonable Accommodation）についても考かんがえると、個々ここのインペアメントに対応たいおうして社会しゃかい障壁しょうへきを低減ていげんするものであることから、｛100－I × (D—RA)｝%となる。
非ひ障害しょうがい者しゃ：SP=100%
障害しょうがい者しゃ：SP=(100－H)%
　 =(100－I × D)% D→0ならばバリアフリー
合理ごうり的てき配慮はいりょ：SP=｛100－I × (D—RA)｝%
ところで、途上とじょう国こくにおいては、障害しょうがい者しゃの社会しゃかい参加さんかを妨さまたげる文化ぶんか的てき障壁しょうへき（C：Culture）が存在そんざいする。
途上とじょう国こくモデル：SP=｛100－I × (D+C)｝ %
このCは意識いしきのバリアなどの社会しゃかい障壁しょうへきと重かさなる部分ぶぶんもあるが、先進せんしん国こくでは存在そんざいしないような途上とじょう国こく固有こゆうの文化ぶんか的てき障壁しょうへきを示しめす。具体ぐたい的てきには、インペアメントに対たいする慈悲じひの心しん以外いがいに、前世ぜんせいの因縁いんねん、無む関心かんしん、不ふ理解りかいなどが挙あげられるであろう。また、文化ぶんか的てき障壁しょうへきが存在そんざいする以上いじょう、合理ごうり的てき配慮はいりょを促うながせる社会しゃかい環境かんきょうには至いたっていないことから、RAが存在そんざいしていないことも示しめしている。
　途上とじょう国こくは、自国じこくの障害しょうがい者しゃの社会しゃかい参加さんかを妨さまたげるものとして経済けいざい的てき要因よういんだけを考かんがえがちである。これに対たいし、途上とじょう国こくの社会しゃかいに適てきしたバリアフリー化かを示しめす指針ししんとして本ほん定式ていしきを考かんがえた。
　なお、本ほん報告ほうこくは倫理りんり的てき配慮はいりょを要ようする内容ないようを扱あつかっていない。

参考さんこう文献ぶんけん
川島かわしま 聡さとし（2011）「差別さべつ禁止きんし法ほうにおける障害しょうがいの定義ていぎ－なぜ社会しゃかいモデルに基もとづくべきか」松井まつい彰彦あきひこ, 川島かわしま聡さとし, 長瀬ながせ修おさむ編著へんちょ『障害しょうがいを問とい直なおす』、東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ。
杉野すぎの 昭博あきひろ（2007）『障害しょうがい学がく : 理論りろん形成けいせいと射程しゃてい』、東京とうきょう大学だいがく出版しゅっぱん会かい。

障害しょうがい学会がっかい第だい13回かい大会たいかい（2016年度ねんど）