(Translated by https://www.hiragana.jp/)
課題集
長文 1.1週
【1】
今日、ぼくは、ムサシの
家に
遊びに
行きました。ぼくとムサシは
大の
仲良しで、
学校でもよく
遊んでいます。ムサシの
家で、ポケモンのゲームの
攻略本を
読みました。
難しくてよくわからないところもあったけれど、ムサシが
説明してくれました。
【2】「なんだ、こんなふうにやればいいのか。」
ぼくは
大発見をしたかのように、
興奮してきました。すぐにでも
家に
帰ってDSをやりたくなってきました。
「おれ、
今日は
帰るね。バイバイ。」
と、ムサシにさよならして
家に
走りました。【3】まるで
獲物を
狙う
動物のように
全速力で
走りました。
家に
帰ると
早速、
「ねえ、お
母さん、ゲームやってもいい?」
と、お
母さんをそっと
見ながら
言いました。お
母さんは
少し
考えてから、
「うーん、じゃあ、
三十分だけね。」
と
言いました。
【4】「やった。ありがとう。
絶対三十分で
止めるね。」
と
言いながら
時計を
確認して、DSの
電源を
入れました。ピコーンピコーンピコーンといい
音がしました。わくわくします。ぼくは、さっき
覚えてきたやり
方を
片っ
端から
試してみました。
【5】「ええっ、なんだ、これでいいのか。」
「これなら
簡単。」
など、ぼくは
大騒ぎです。ひとりでゲームをしているのに、まるで
友達といっしょにやっているようにしゃべりました。
今までクリアできなかったことが、
簡単にできてしまいます。
楽しくてたまりません。【6】ぼくはもう
夢中です。
時計を
見ることさえ
忘れていました。
ふと
気がついて
時計を
見ると、
残り
時間はあと
五分です。もっと
続けていたいけれど、
約束は
守らなくてはいけません。
約束の
時間を
守れなくて
一週間ゲーム
禁止になったことが
何度かあるからです。【7】ゲーム
禁止なんて
二度とごめんです。ぼくは、ちょうど
一分前に
電源を
切りました。ギリギリセーフでした。
「お
母さん、いまやめたよ。ちゃんと
三十分でやめたよ。」
ぼくは
得意そうに
言いました。【8】お
母さんは、
「
約束が
守れて
偉かったね。
今日は
盛り
上がってたね。」
とにっこりしました。
「うん。
今日はすごく
進んだ。ムサシにやり
方を
教えてもらったからね。」
と、ぼくが
今日のことを
説明しました。【9】お
母さんは、
「
今日みたいに
約束が
守れると、お
母さんも
気持ちよくゲームをやっていいって
言えるよ。
次も
守ろうね。」
と
言いました。ぼくも、ほんとうにそのとおりだと
思いました。【0】
(
言葉の
森長文作成委員会 ω)
【1】オリンピックのメダルが
一位から
順に
金、
銀、
銅でできているように、
金は
大昔から、とても
人気のある
金属でした。なにしろ
他の
薬品におかされず、やわらかくてコインやアクセサリーにも
加工しやすく、そして
何より
美しかったからです。【2】しかし、
金は、
一トンの
金鉱石の
中から、わずか
三グラムから
五グラムくらいしか
取れないという
貴重なものです。
今から
八百年くらい
昔、ヨーロッパの
人々は、
珍しい
食べ
物や
宝物を
求めて、まだ
知られていない
海の
向こうの
国々へと
出かけていきました。【3】その
中の
一人、マルコ・ポーロは、
旅の
途中で
見聞きしたことを
集め、のちに『
東方見聞録』という
本を
出しました。その
中で、
東洋には「ジパング」という
名前の「
黄金の
国」がある、と
書きました。
【4】この「ジパング」というのは、
実は
日本のことで、
日本の
英語名である「ジャパン」はこれに
由来しています。マルコ・ポーロ
自身は、
実際に
日本を
訪れたことはなく、
中国で
聞いた
話として
書いただけでした。【5】しかし、この
本に「ジパングにはものすごい
量の
黄金があり、
国王の
宮殿はすべて
金でできている」と
書かれていたため、コロンブスも、この
黄金の
国を
求めて
船出したのではないかと
言われています。
【6】ヨーロッパの
人が
夢見た「
黄金の
国」ほどではありませんが、
日本にはかつて
佐渡や
鴻之舞など、とてもりっぱな
金鉱山があり、
貴重な
金がたくさんとれていました。しかし、これらの
鉱山もやがて
掘り
尽くされ、
今ではそれほどたくさんの
金をとることはできません。
【7】そこで、
最近注目されているのが、「
都市鉱山」と
言われるものです。
実は、パソコンや
携帯電話、
液晶テレビなどの
中には、「レアメタル」と
呼ばれる
貴重な
金属が、
少量ずつですが
使われています。【8】その
中にはもちろん、
金もあります。ですから、これらの
機械をうまくリサイクルして、その
中の
金属を
取り
出して
使おう、という
試みが
始まっています。【9】
家電製品などがたくさん
使われている
日本には、
世界有数の
都市鉱山があると
言われています。
今も
昔も、
大人気の
金。リサイクルを
進めて、
日本は
再び、「
黄金の
国」になれるでしょうか。【0】
言葉の
森長文作成委員会 τ
長文 1.2週
【1】そうじをおわって、わたしがかえろうとすると、
運動場から、バラバラと
男の
子たちがやってきて、わたしをとりかこみました。
(こりゃ、ひとあばれけんかをしなけりゃならなくなったぞ。)わたしはそう
思いました。【2】でも、けっして、その
男の
子たちがにくらしかったわけではありません。ほんとうは、はやく、その
子たちといっしょになってあそびたかったのです。めいわくだったのは、むしろしんせつにしてくれる
女の
子でした。
【3】(あの
子がこなければよいが。)みんなにかこまれて、わたしがそうおもったとき、もう
女の
子は
見つけて、こちらにかけてくるのがわかりました。
【4】と、わたしは、いちばんちかくにいた
男の
子を、ポカンとぶっていました。それから、とっくみあいになりました。ほかの
男の
子たちは、わたしの
先手に、いささかあきれたかっこうです。
【5】
女の
子は、それを
見ると、わたしがさきに
手をだしたこともしらずに、
先生をよびにいきました。とっくみあいになると、なかなかしょうぶがつきません。
「おい、
先生がきたぞ。」
だれかがいいました。そして、ほかの
男の
子たちが、
学校の
外へにげだしました。【6】わたしも、とっくみあいをちゅうしして、みんなといっしょに、にげました。
わたしは、ごくしぜんにみんなといっしょににげだせたのがうれしくてたまりませんでした。わたしたちは、
学校が
見えなくなるまで、フーフーいいながら
走りました。【7】そして、ひとりが
草の
中へ、
「ああ、しんど。」
とたおれこむと、みんなも
草の
中へころがりました。わたしは、いまさっきけんかをしたこともわすれていました。ところが、あいてはわすれていなかったのです。とつぜん、おかしなことをいいだしました。
【8】「おまえ、へびつかめるか。」
「つかめらい。」
わたしは、そうこたえずにはいられませんでした。それに、へびなど、そうかんたんにいるものとはおもっていませんでした。
「
大阪の
天王寺の
動物園には、こんなふといへびがいるぞ。【9】おら、そいつにさわらせてもらった。ぬるっとして、
手がぬれたぞ。」
なぜ、じぶんのいちばんおそれていることを、わたしはわざわざしゃべってしまったのでしょう。もちろん
動物園で、にしきへびにさわれるわけがありません。【0】へびがぬるっとしていて、
手がぬれるなんて、まったくでたらめです。いいえ、わたしはそんなゆめを
見て、いく
夜うなされたかしれません。
ところが、あいての
男の
子は、そのとき、まったく
手じなのように、
草むらの
中から、へびをみつけだしたのです。しっぽをつかむがはやいか、バン、バンと、
土の
上にたたきつけました。
小さなしまへびではありましたが、わたしはもうぶるぶるとふるえていました。
「さあ、つかめ。もうかみつきよらん。」
みんなは、わたしがどうするか
見まもっていました。
「はよう、つかまんか。こわいのか。」
わたしはだまってつかみました。つかむとどうじに、それをぶんぶんふりまわしました。とても、じっとなどつかんでいられませんでした。へびは、すこしもぬるっとなんかしていませんでした。むしろざらっとしたかんじです。これはほんとうにいがいでした。
わたしはへびをふりまわしながら、みんなにちかづけました。さすがにみんなにげました。ふと
気がつくと、むこうのほうから、さっき
学校でいっしょにそうじをしていた、
女の
子たちがふたりでかえってきます。わたしはへびをふりまわしながら、その
子たちのほうへ
走りました。
女の
子は、わたしがそんなことをしているのを
見ると、ハッとしたようにたちどまってから、それがへびであることがわかると、キャッとさけんで、にげだしました。
なんでそんならんぼうをしたのか、じぶんでもふしぎでした。
あくる
朝、
先生からたいへんおめだまをいただきました。
「なにもわるいことをしないへびをころして、おまけに、
女の
子をいじめるなんて、いちばんひきょうもののすることだぞ。」
先生にそういってしかられました。つくえをならべた
女の
子は、わたしをよけるように、つくえのはしっぽにすわり、
口もきいてくれなくなりました。
へびをつかむなんて、ほんとうにつまらぬことです。でたらめのうそをいったばかりに、じぶんのいちばんきらいだったへびをつかんでみせなければなりませんでした。
でも、そんなことがあってから、わたしは、すぐ
山の
友だちとなかよしになりました。へびもこわくなくなりました。
二年ほどしかいませんでしたが、たのしい
山の
小学校でした。
「ほらふきうそつきものがたり」(
今西祐行)より
長文 1.3週
【1】
小学校一年生の
三がっきのことです。こくごのべんきょうで、かん
字が、
十二、
三字出そろい、それらを、
三十かいずつ、ノートに
書くしゅくだいがでました。【2】
絵をかくとか、
作文を
書くというのなら、そんなにいやではなかったのですが、わかりきった
字をなんかいも
書いたり、たしざんやひきざんのけいさんもんだいを、たくさんやらされるしゅくだいは、とてもにがてでした。
【3】(
三十かいずつか。いやだなあ。
日、
日、
日……。
人、
人、
人……。
山、
山、
山……。ああ、いやだなあ。わかっている
字じゃないか。いやだなあ……。)とおもっているうちは、まだいやいやでも
家にかえったら
書こうとおもっていました。
【4】ところが、
学校の
門をでて、
山のすそをとおり、
小川の
土ばしをわたって
家についたころには、すっかりわすれてしまいました。
しゅくだいをわすれるのと、ひきかえのようにおもいだしたことがあります。【5】というのは、その
日が、
毎月買っているざっしの
売りだし
日だったのです。
さっそく、ざっしを
買うお
金をもらって、やく
二キロメートルはなれている、
小さな
町の
本屋へでかけました。うめの
花を
道みち
見ましたが、
風はまだつめたかったようです。
【6】そのころ、テレビなんてものはありませんでした。ラジオも、まだ
町にしかありませんでしたから、
毎月のざっしが、なによりのたのしみでした。
ざっしを
買って
家にかえってくると、からだじゅうがほかほかしていました。【7】ときどき、グラビヤのところをのぞいてたちどまったり、
小走りにあるいたりしてきたのです。
夕食まえに、ふろへはいるように
母にいわれましたが、「あとにする。」といって、まずざっしをよみつづけました。
【8】ねるまえに、いちどカバンの
中でも
見ればしゅくだいをおもいだしたでしょうが、そのころのぼくは、
本もどうぐも、みんなカバンにいれっぱなしで、
学校と
家とをおうふくしていました。しゅくだいをわすれなければ、けっして、カバンの
中のものをとりだすひつようがなかったのです。
【9】さて、もんだいはそのあくる
日です。こくごの
時間がはじまり、しゅくだいをしてきたノートを、つくえの
上にひろげることになりました。
(あっ、そうだった。あの、いやなしゅくだいがあったっけ。)と
気づいたが、もうなんともなりません。【0】せめて、はじまるまえにでも
気づいていたら、すこしは
書いておけたのでしょうが。
たんにんのわかい
女の
先生は、かくべつきびしかったのです。(さあ、どうしよう。しかたがない。しょうじきにいおう。わすれました。)と。そうおもって、
先生に
見てもらうばんを、びくびくしてまっていました。
「はい、どこにやってありますか?」
「わすれました。ぼくう、すっかりわすれてしまいました。」
「わすれた? どうしてわすれたの? わすれたといえばすむの?なまけたのでしょう?」
「なまけたんじゃありません。」
「なまけたのでしょう。」と、いわれて、きゅうにくやしくなりました。
「なまけたんじゃなかったら、どうしてやってないの?」
「わすれたのです。」
「わすれたといえばすむの? どうしてわすれたの? ただわすれたではゆるしません。」
さあ、ぼくはこまってしまいました。ざっしのことでわすれたといえば、
先生は、よけいおこるにちがいありません。(よし。
家の
用でやれなかったといおう。)と、とっさにおもいつきました。
「
家に
用があったのです。」
「どんな
用?」
「となり
村の
水車小屋へ、
米を
一ぴょうついてもらいにいったのです。」
「あんたひとりで?」
「はい。」
これは、とんでもないことをいってしまったなとおもいました。でも、そういってしまったいじょうは、それでとおさにゃならんとおもい、あることないこと、おもいつくままにならべました。
「ほらふきうそつきものがたり」(
赤座憲久)より
長文 1.4週
日本の
主食は、お
米です。
日本と
同じように、お
米を
主食とする
国は
多く、インド、
中国、
東南アジアの
諸国などがあります。お
米は、
粒のままで
食べる
場合が
多く、
水で
炊いてご
飯にしたり、
多めの
水で
炊いておかゆにしたり、
蒸しておこわにしたり、
蒸したあとついておもちにしたりするなど、さまざまな
食べ
方があります。また、
炊いたお
米をいためてたべる
焼き
飯や、いためてから
炊くピラフやパエリヤなどもよく
知られています。
世界には、お
米以外の
主食もあります。
代表的なものは
小麦です。
小麦は、アメリカ、インドなどで
多く
生産され、
食べ
方は、
粉にしてから
食べることが
多く、ねって
焼いたり、めんにしてゆでる
方法がほとんどです。パンやスパゲッティは、
小麦から
作られます。
中国で
食べられている
饅頭も、ねった
小麦粉を
丸めて
蒸したものです。
日本でおなじみの
肉まんも、
饅頭の
一種です。
トウモロコシは、
米、
小麦に
並んで、
世界三大穀物の
一つと
言われています。メキシコでは、トウモロコシの
粉で
作った
生地をうすくのばして
焼いたトルティーヤが
主食です。そのほか、トウモロコシを
粉がゆにしたり、
蒸したりして
食べます。
世界には、それぞれの
国の
気候、
風土によっていろいろな
食べ
物があります。
寒くて
作物を
栽培できない
北極近くに
住むイヌイットは、カリブーやアザラシの
肉を
主食としています。
昔のイヌイットはアザラシなどの
肉を
生で
食べて、ビタミンCが
足りなくなるのを
防いでいました。もっとも、
氷の
上で
肉を
焼いて
食べていたら、
氷が
溶けて
海に
落ちてしまうという
理由もあったかもしれません。
北極を
探検したヨーロッパ
人たちは、
生肉を
食べるのをきらったために、
壊血病に
苦しめられました。
生肉を
受け
付けないヨーロッパ
人にとって、
壊血病の
問題は、なかなか
解決できませんでした。
生の
肉を
食べるのは、
北極というきびしい
場所で
生きのびていくためのイヌイットの
知恵だったのです。
言葉の
森長文作成委員会(
κ)
長文 2.1週
【1】ぼくは、
毎日六時からアニマックスでドラゴンボールを
見ています。おもしろくてやめられません。その
日も、ぼくはお
兄ちゃんと、いつもどおりドラゴンボールを
見ていました。
悟空とピッコロ
大魔王が
対戦しています。
手に
汗握る
戦いです。ぼくたちは
夢中でした。
【2】そこへ、
何かがこげたような
匂いが
漂ってきました。ぼくは、
今日の
晩御飯はきっと
魚だなと
思いました。でも、
魚にしては
臭過ぎるような
気がします。
「なんか
変な
匂いがするぞ。」
と
言いながらふと
台所を
見ると、ガスコンロからぼわっと
火が
出ているではありませんか。【3】ぼくたちは、
「お
母さあん。お
母さあん。
大変、
火事だよう。」
と、
大声で
二階にいるお
母さんを
呼びました。お
母さんは、
「やだあ、
魚焼いてるの
忘れてた!」
と
叫びながらドンドンドンと
階段を
転がるように
降りてきました。【4】ガスコンロから
燃え
上がる
火を
見て
動かなくなったお
母さんは、
急に、
「
新聞。いらない
新聞持ってきて。たくさん。
早く!」
と、ぼくたちに
言います。ぼくとお
兄ちゃんはぶつかりあいながら
新聞を
取りに
走りました。【5】お
母さんは、
「ありがと。」
と
言うと、
勢いよく
水を
出し
新聞をぬらしました。
メラメラと
火が
燃えているのは、グリルという
魚を
焼くところと
奥にあるたくさん
穴の
並んだところです。お
母さんはまず、
奥の
穴の
上に
濡れた
新聞紙を
並べました。【6】
次に、グリルを
引き
出すと、
火が
大きく
噴き
出してきました。ぼくたちはびっくりして
声も
出ません。お
母さんはグリルの
上に
濡れた
新聞紙を
乗せると、すぐにグリルを
閉めました。
少し
火が
小さくなったような
気がします。【7】お
母さんはまた、グリルを
出して
濡れた
新聞紙を
乗せました。ぼくたちはお
母さんの
後ろでじっと
見ています。それを
何度か
繰り
返すとだんだん
火が
消えてきました。ぼくはほっとして、
「よかった。
火事になるかと
思ったよ。」
と
言いました。
【8】「
危なかったね。」
と
言うお
兄ちゃんの
顔は、まるでおばけ
屋敷から
出てきたときのようでした。ぼくは、お
兄ちゃんも
怖かったんだなと
思いました。
お
母さんは、
「やったやった。
危なかったけどなんとかなるもんだね。こういうのを
火事場の
馬鹿力って
言うんだね。」
と
得意そうです。【9】
怖かったけど、スリル
満点でした。
騒ぎが
終わったときにはドラゴンボールも
終わっていました。ぼくたちが、
「あーあ、ドラゴンボール
見逃しちゃったよ。」
と
言うと、お
母さんは、
「まあ、いいじゃん。
火事にならなかったんだから。」
と
笑いました。【0】
(
言葉の
森長文作成委員会 ω
長文 2.2週
【1】ぼくは、べんとうをとりだそうとして、ごそごそと、カバンの
中をさがしました。
そのころは、きゅうしょくはありませんでした。
みんな、アルミニュームのべんとうばこに、ごはんとおかずをつめて、もってきていたのです。
【2】ところが、どんなにさがしても、べんとうばこはありませんでした。
わすれんぼうの
名人だったぼくは、しゅくだいはもちろんのこといつだって、べんとうをわすれるくせがありました。
【3】かあさんが、
毎朝つくってくれるのに、ぼくは、うっかりして、
台所のすみっこだのつくえの
上だのに、
一しゅう
間に、
一かいや
二かいは、かならずわすれました。
【4】そんなとき、ぼくはうちまでかけていっては、かあさんたちに、
「また、べんとうがないてるずら。」
なんて、からかわれながら、つめたくなったごはんを、
口の
中へながしこむようにいそいでたべたものです。
だから、その
日も、そうすればよかったのです。
【5】ところが、その
日は、となりの
源ちゃんが、あわてたぼくのようすを、じっと
見つめて、そして、やさしい
声で、じしんありげに、そっと、ささやいたのです。
「そうか! のんちゃんわかったよ。おめんちは、お
米がないんだろ。【6】おらあ、おめえ、よくべんとうわすれるなあって、おもってたけど、そうじゃあなかったのか。そうだったのか。」
そういわれると、ぼくも、ほんとに、そんな
気もちになってくるのでした。
【7】だから、
源ちゃんの
同情したことばにはなんにもこたえないで、あわてていすにすわりなおし、しょんぼりと
下をむいていました。
ちょうどそのとき、
前沢先生が、はいってきたのです。
【8】「おおい、きょうは、みんなと
会食するぞ。」
と、いわれてから、もじもじしているぼくに、
気がついたのでしょう。
「
代田、どうした。」
と、たずねました。
ぼくはきゅうにかなしくなってきて、「ううっ。」と、しゃくりあげて、なきだしたのです。
【9】すると、
源ちゃんが、
「
先生、のんちゃんは、べんとうがないんです。」
と、べんかいしてくれたのでした。
先生は、
気にもしないで、
「ああ、そうか、わすれたのか。」
と、いってから、
教だんのつくえのほうにいこうとしました。【0】ところが、
源ちゃんは、
「
先生、そうじゃあないんです。のんちゃんは、べんとうがもってこられないんです。」
と、おもわせぶっていったのです。
ぼくは、ぎょっとしました。
いや、ぼくよりも
先生のほうが、もっとおどろいたようでした。
「そうかあ!」
と、しばらくたちどまって、かんがえているようでした。
それから、おもいだしたように、
「ああ、きょうはつごうで、
会食はやめだ。」
と、いわれてから、
「
代田、はなしがあるから、いっしょにこい。」
と、
気のどくそうに、やさしい
声でぼくにはなしかけるのでした。
先生は、ぼくを、ようむいん
室のとなりのたたみのへやに、つれていきました。
それから、りょう
手で、ぼくのかたをかるくたたいてから、
「おまえ、ずーっと、おべんとうをたべていなかったのか?」
と、ききました。
ぼくは、みょうにみじめな
気もちになってきました。
――はい――、というかわりに「こくり」と
頭をさげました。
すると、いよいよ
売られていったあわれな
東北の
子どもにおもえてきました。
しゃっくり、しゃっくりをくりかえしながら、なきだしていました。
「ほらふきうそつきものがたり」『げんこつゴツン』(
代田昇)より
長文 2.3週
【1】
先生は、
「もういい、もういい。どうも、はじめてで、じじょうがわからなくて、
気のどくをしたのう。さあ、そこにすわれ。」
といって、もうしわけなさそうに、ぼくを
見つめるのでした。
【2】それから、
先生は、じぶんのべんとうをはんぶんずつにわけて、
「さあ、たべろ。なあにえんりょするな。
人間ちゅうもんはなあ、いいか、どんなにつらいことがあっても、けっしてへこたれるんじゃあねえぞ。」
と、やさしくいってくれるのでした。
【3】そういわれれば、いわれるほど、ぼくは、
「ううっ!」
といって、しゃくりあげてなきました。
しゃくりあげながらも、
先生から、もらったおべんとうをたべていました。
わけてくれたおかずのしおじゃけも、こうやどうふのにしめも、おいしくておいしくて、みんなたいらげました。
【4】ところが、そのあたりから、ゆめがさめはじめたようでした。
――おまえは、うそをついて、
先生のべんとうをたべたのだ。
どこからか、そんな
声がきこえます。
――いや、あれはゆめの
中のぼくで、ほんとは
東北の
少年なんだ。
そんな、べんかいもきこえました。
【5】しばらくすると、
――まあいいや、とにかく、こんどのあたらしい
先生から、やさしい
声をかけてもらって、べんとうをわけてもらったのは、ぼくだけなんだから。
と、いばった
声もきこえました。
【6】――いや、おもいちがいをした
源ちゃんが、わるいのだ。
源ちゃんのくそぼうずめ。
こんどは、
源ちゃんのせいにした
声もでてきました。
とにかく、ぼくは、おもいあまってしまいました。
【7】そのおもいあまった
気もちは、うちにかえってからも、つづいていました。
つぎの
日になりました。
先生にあうのが、こわくなりました。
――いっそ、ずる
休みするか。
と、おもいました。
でも、ぼくのうちは、かんしがきびしくて、とてもだめです。
【8】――ええ! どうにでもなれ。
ぼくははんぶんやけっぱちになって、しぶしぶと
学校にいったのです。
やっぱり、おもっていたとおりでした。
ぼくは、
一時間めに、しょくいん
室によびつけられました。
【9】いがぐり
頭のぎょろめの
前沢先生は、ぼくを、にらみつけて、
「
代田! よくも、おれをだましたな。」
そういうなり、げんこつで、
「ゴツン」「ゴツン」
と、ぼくののうてんを、
力いっぱいなぐりました。
「いたたっ!」「いたたっ!」
【0】
目から
火のでるほどのいたみが、ずしんと、からだぜんたいにひびいてきました。
でも、ぼくは、
声をだしませんでした。
もちろん、なきもしませんでした。
いや、かえって、この「げんこつ」で、むねの
中のもやもやが、すうっと、きえていくのがわかりました。
「ほらふきうそつきものがたり」『げんこつゴツン』(
代田昇)より
長文 2.4週
シマウマの
体の
模様は、まるで
横断歩道のようです。
横断歩道の
模様はとても
目立つので、シマウマの
白と
黒の
模様も、
草原の
中で
目立ってしまい、
肉食獣に
簡単に
見つかってしまうのではないかと
思うかもしれません。しかし、そんなことはありません。
アフリカの
日差しは
強烈です。
昼間、
太陽がぎらぎらと
照りつけて
大地が
熱くなると、かげろうが
立ちのぼります。シマウマの
住んでいるサバンナ
地帯は、
広くなだらかな
丘のところどころに、
背の
低い
木の
茂みや、
背丈の
高い
草むらがあります。ゆらゆらするかげろうの
中で、シマウマの
姿はちょうど
木や
草にまぎれて、
見えにくくなります。あのシマ
模様は、ライオンやハイエナの
嗅覚がとどかないところにいるかぎり、
身を
守るのにとても
都合がよいのです。このように、
身体を
見えにくくさせる
色のことを、
保護色と
呼びます。
シマウマが、なぜ
横断歩道のような
模様をしているかについて、もう
一つ
説があります。それは、サシバエ(
刺しバエ)から
身を
守るためという
説です。アフリカには、ツェツェバエという
大きなハエがいて、アブのように
人や
動物を
刺します。ツェツェバエという
名前は、ボツワナの
言葉で「
牛を
倒してしまうハエ」という
意味です。ハエにとっては、
栄えある
名前かもしれません。
人間がこのハエに
刺されると、
体の
中に
病原体が
入って、ときには
命を
落とすこともあります。
ツェツェバエの
目から
見ると、シマウマのシマ
模様は
見えにくいらしく、シマウマのまわりにたかるハエは、ほかの
動物と
比べてぐんと
少ないのです。
ところで、シマウマのしま
模様は、
一頭ずつすべて
異なっています。
人間の
指紋には
一つも
同じものがありませんが、シマウマの
模様もちょうどそれと
似ています。
私たち
人間から
見ると、どれも
同じように
見える
模様ですが、
一つとして
同じものがありません。
さて、しまのつく
動物は、ほかにもいます。シマリス、シマダイ、シマヘビ、
島田君。それは
人間です。
言葉の
森長文作成委員会(
κ)
長文 3.1週
【1】「あ、
宿題忘れてた。」
学校に
着いて、
教室に
入ったぼくは、
宿題を
忘れたことに
気がつきました。
昨日は
三丁目公園に
遊びに
行って
遅くまで
鬼ごっこをしました。
三月になってからずいぶん
日が
延びたので
六時まで
遊んでいいことになりました。【2】
家に
帰ったらやろうと
思っていたのに、すっかり
忘れてしまったのです。
先生が
来る
前に
終わらせてしまおうと
大急ぎでランドセルから
宿題のプリントを
出しました。ぼくがプリントをやろうとすると、
「
中田君。もしかしたら、それ、
宿題?」
と、ダイちゃんが、
小林先生の
真似をしてやってきました。【3】
小林先生というのは、ぼくたちの
担任の
先生です。まるでお
笑い
芸人みたいな
面白い
先生です。
ダイちゃんが
先生の
真似をしたので、
周りにいたみんながげらげら
笑いました。ぼくたちは
調子に
乗って
次々と
先生の
真似をしました。【4】
突然、ゆきちゃんが、
「
三年生になったら、どの
先生が
担任になるのかな。」
と
言いました。ぼくは、いすから
滑り
落ちそうになりました。
「
小林先生じゃないの?」
と、
思わず
叫んでしまいました。【5】みんなは、ちょっとあきれた
顔で、
「
知らないの?
三年になったら
先生変わるって、お
母さんが
言ってたよ。」
と、
口々に
言いました。ぼくは
全然知りませんでした。
考えたこともありませんでした。ずっと
先生と
一緒のような
気持ちでいたのです。
【6】
先生の
机の
後ろに
貼ってあるポケモンカレンダーを
見ました。
春休みまであと
何日あるのか
知りたくて、ぼくは
数え
始めました。
「
一、ニ、
三、
四、
五、
六、
七、
八、
九、
十。あと
十回!」
あと
十回学校に
来たら
小林先生とお
別れなのだと
思うと、
急に
寂しくなってきました。【7】どうして
大事なことを
言ってくれないのかとお
母さんに
文句を
言いたくなってきました。
今日の
夜、
絶対に
言ってやるぞと
思いました。
ぼくがテレビを
見ていると、
買い
物袋をぶら
下げたお
母さんが
仕事から
帰ってきました。
【8】「もう
春だね。まだ
明るいもんね。
春になると、なんだかうきうきしちゃうね。」
なんて
嬉しそうに
言います。ぼくはお
母さんの
顔を
見ないで、
「
三年になったら
小林先生じゃなくなるんだって。」
と
不機嫌そうに
言いました。【9】お
母さんは
買い
物袋を
置いてぼくの
横に
座りました。
「そうだね。お
母さんも
小林先生のファンだったから
寂しいよ。ずっと
小林先生だったらいいのにね。でも、そんないじけた
顔をしていると、
小林先生も
元気がなくなっちゃうよ。」
と
言って、ぼくの
背中をぽんとたたきました。【0】
小林先生は
楽しいことが
大好きです。
寂しいけれど、
最後まで
元気な
顔でいようとぼくは
思いました。
(
言葉の
森長文作成委員会 ω)
長文 3.2週
【1】ふと
気がついたとき、しっかりと、
手にもってきたふろしきづつみが、ぬれているのです。くすりをつつんできた、あのふろしきづつみです。
はっとして、
雪の
道にうずくまると、つつみをといてみました。【2】
水ぐすりがこぼれて、
三分の
一ぐらいへっているのです。こなぐすりのふくろは、べったりとぬれて、
茶いろのしみをつくっていました。コルクのせんが、ゆるんでいたのです。ほてっていたからだじゅうのあせが、つめたくなるほど、びっくりしました。
【3】そのくすり
代がいくらだったか、いまはおもいだせませんが、わがやのくらしの
中で、それは、たいへんなお
金だったことだけは、たしかです。けんこうほけんなどはなかった、ずっとむかしのはなしです。
どうしたら、よかっぺか――
【4】わたしは、
雪の
上に、べったりと、すわりこんでしまいました。
このまま
家へかえったら、
母がどんなにがっかりするか……、うんとしかられることは、わかりきっています。もう
一どもどってくすりをもらうには、お
金がありません。【5】
五年生だったわたしには、どうしたらいいのか、わかりませんでした。
そのとき、
小さな
水の
音がきこえてきました。
道ばたの
石がきのあいだから、ちょろちょろとながれでている、わき
水の
音です。
学校のいきかえりに、きまってのんでいく
水でした。【6】だれがもってくるのか、みじかい
青竹が、かけひのようにさしこんでありました。
青竹は、ときどきだれかにひきぬかれます。すると、フキの
葉っぱをまるめて、さしこんであることもありました。
わき
水は、
夏の
日のように、ふきだしてはおりません。【7】
雨だれのように、ぽつん、ぽつんと、そこだけ、
雪をとかしておちていました。
わたしは、おもわず、まえとうしろを
見まわしました。ひとっこひとり、あらわれません。たちあがると、そのかけひの
下に、くすりびんを、あてがっていたのです。
【8】びんの
中のくすりは、うす
茶いろになりましたが、
三日分のその
目もりまで、いっぱいになりました。
しっかりせんをすると、びんだけをふろしきにつつみなおし、こなぐすりのふくろは、ふところのはだのところまで、じかにいれました。【9】からだのぬくもりで、すこしでもかわかそうとしたのです。
そして、のろのろ、あるきだしました。あるきながら、うそのいいわけを、いっしょうけんめいかんがえていました。
「いってきたよ。」
わたしは
元気のない
声で、そうあいさつしながら、おもい
大戸をあけました。
【0】いろりには、
火がもえていて、けだるそうな
顔をして、
母はおきていました。
わたしは、だまって、あがりはなにこしをおろすと、
母のほうにせなかをむけたまま、ゆっくりと、
長ぐつをぬぎました。そのようすが、ふだんとはちがうことに、
母は
気づいたのでしょう。
「どうかしたんか?
頭でもいてえだか? くすりは、もらえたんか?」
と、やつぎばやに、ききました。
「もらってきたけえど……。いしゃどんからでたとこの
水ったまりへおとしちまって……。」
わたしは、ふところからぬれたこなぐすりをだすと、いろりばたからはとおい、あがりはなのいたのまに、ひざをついてなきだしたのです。
道みち、かんがえてきたうそのいいわけを、とうとういってしまったじぶんが、こわくなっていたのかもしれません。
「ぬれたぐれえ、かわかせばすむこった。あっち(
心配)はねえ。こんだっから、
気いつけるだよ。」
ないているわたしが、かわいそうだったのか、
母は、やさしくそういっただけで、ぬれたくすりぶくろを、かわかすように、いろりのすみにおきました。
色のうすくなった
水ぐすりは、いつもいれておく
戸だなへ、じぶんでそっとしまいました。
さむいけれど、
母とむきあって、いろりの
火にあたるのは、つらかったので、
「おひるごろっから、
頭がいたくってー。」
そういって、こたつの
中へもぐりこみました。
「かぜっけなだっぺあ、かぜにこたつはどくだぜ、ちゃんとふとんにねて、ひとあせかいたがいい。」
むりやり、ふとんにねかされたのでした。
目をつぶると、
(くすりって、なんの
水でつくるのだんべえか。くすりの
中へ、ただの
水をたしてしまって、どくにはならなかっぺえか――。)
と、つぎつぎ、またしんぱいになりました。
「ほらふきうそつきものがたり」『かけひの
水』(
宮川ひろ)より
長文 3.3週
【1】ふいに、わたしは、かたのあたりをうしろからぐいとおされて、ころびそうになりました。ふりむくと、
「おい、じゃまだぞ。どけよ。」
そばに、グローブをつけたのっぽの
男の
子が、わたしを
見おろしてたっていました。【2】しらないまにわたしは、やきゅうのコースのまんなかにたっていたのです。はっと
気がつくのといっしょに、
「さっさといけよ。のろまのあんぽんたん。」
「どかないと、ぶんなぐるぞ。」
東京べんのわる
口が、ポンポンいりみだれて、わたしの
耳にとびこんできました。【3】ぶんなぐるなどといわれたのは、うまれてはじめてです。それに、あるけっていったって、どっちへいけばいいのかわかりません。わたしは、
頭がかっとなって、からだをかたくしてつったったまま、なきそうになりました。【4】そのとき、
「どうしたの、キミちゃん。」
よかった、としえちゃんでした。かけとおしてきたのか、まだ、ふうふういっていました。わたしは、ほっとして、どもりながら、
「あの、あのう、あの
人たち、たたくって。じゃまだって、ここにいると……。」
【5】じぶんでなにをいったのか、きれぎれにそれだけいうと、きゅうにかなしくなって、ポロポロ、なみだがでてきました。
「どの
子が? ああわかった、けんちゃんでしょ。おかあさーん、けんちゃんがね、キミちゃんをぶったんだって。」
【6】わざとそういったのか、かんちがいしたのか、としえちゃんは、うちのほうへむかって、
大声でさけんだのです。
元気なおばさんのことだから、その
声をきいたら、ひばしかほうきをもって、すっとんでくるかもしれません。【7】わたしは、あわてて、ちがうって、せつめいしようとしましたが、なきながらだし、それに、
東京べんでいおうとするので、ことばがうまくいえません。
【8】いっしゅん、
男の
子たちは、おどろいたように、ポカンとつったっていましたが、けんちゃんとよばれた、いちばん
気のよわそうな
子が、なきそうな
声をふりしぼって、
「ぶちゃしないよォ、いなかっぺの、うそつきィ。」
と、ありったけの
声でさけぶと、くるりとうしろをむき、ワーッとなきながら、いちもくさんにおかをかけおりていきました。【9】ほかの
子も、くもの
子をちらすように、にげさっていきました。
夕やけはいつのまにかきえて、はださむい
夕やみがおかの
上にもただよいはじめていました。
【0】「さ、いきましょ。」
と、としえちゃんは、ねえさんぶって、わたしのかたに
手をまわしあるきだしました。
「いなかっぺの、うそつき」――そのときになって、はじめて、このことばのいみが、おもく、わたしにのしかかってきました。
うそつきは、どろぼうのはじまり。うそをいうと、
死んでから、えんまさまにしたをぬかれるって、いつもかあさんがいう。わたしは、
東京の
子に、みんなのまえでうそつきといわれた。しらない
土地で、しらない
子が、「いなかっぺの、うそつき」と、はっきりそういった。それも、あんなにくやしがって、なきながら。――「いなかっぺ」って、そんなにわるいものなのかしら、それに、わたしは、ほんとに「うそつき」なのだろうか。このことは、かあさんと
秋田の
家へかえってからも、
頭からきえませんでした。
とおいとおいむかしの
小さな
小さなできごとです。けんちゃんとよばれたあの
子も、いまはおじいちゃんになって、どこかでまごとあそんでいるかもしれません。それとも、
日本じゅうのわかものたちが、せんそうにつれていかれた、あのころ、
中国か、マレーおきの
海で、みじかいいのちをちらしてしまったのかもしれません。
戸山が
原も、いまは
学校やビルがたちならび、ひろいどうろができ、すっかりかわってしまいました。あのあたりの
町のようすも、どこがどうなったのか、おもいだすこともできません。あそんでいる
子どもたちも、みんな、しらない
顔ばかりです。
それなのに、あの
東京のうら
町の、
小さいおかから
見た、
夕ぐれどきのものがなしいけしきと、
小さなわたしの
目の
中でピンクいろにふくらんでいった
大きななみだと、あの
東京の
男の
子のかなしそうな
声だけが、カラーテレビのように、いまもはっきりと、わたしの
目に、
耳に、のこっているのです。
「ほらふきうそつきものがたり」『いなかっぺのうそつき』(
増村王子)より
長文 3.4週
【1】
夏休みの
友といえばやはりカブトムシです。
昆虫の
王様と
呼ぶにふさわしいその
姿は、
子どもたちの
視線をとらえてはなしません。ペットショップのカブトムシコーナーは、
毎年黒山の
人だかりができていますし、
採集ツアーも
登場するほどです。
【2】いかにも
丈夫そうな
姿のカブトムシですが、その
命はそれほど
長いものではありません。
卵からかえり、
冬を
越した
幼虫は、
蛹へと
姿を
変え、
夏になると
成虫、つまりカブトムシへと
変身しますが、
成虫になってからの
命はおよそ
一か
月ほどといわれています。【3】ですから、
夏休みが
終わるころは、ちょうどカブトムシの
命もつきる
時期にあたるのです。クワガタムシも、カブトムシと
並んで
人気があります。カブトムシがひと
夏の
命なのに
対して、クワガタムシの
場合、
種類によっては
越冬できるものもあります。えっとうれしくなってしまうでしょう。
【4】
大切に
育てていたカブトムシの
死は
悲しいものですが、
死んでしまったからといってすぐに
飼育ケースを
処分してはいけません。ケースの
中の
腐葉土をそっとのぞいてみましょう。もしかしたら、
小さな
卵が
見つかるかもしれません。【5】
直径三ミリ
程度の
白くて
丸い
卵です。
孵化直前の
卵は
大きさは
五ミリ
程度になり、
色も
黄色味を
帯びてきます。この
卵をじょうずに
育てることができたら、
大切にしていたカブトムシの
二世と
対面できる
日がやってくるのです。
【6】
卵からかえった
幼虫は、おもに
腐葉土を
食べて
大きくなります。
幼虫時代に
摂取した
栄養が、
成虫のカブトムシの
大きさを
決定付けます。いったん
成虫になってしまったら、どんなに
樹液を
吸ったところでそれ
以上大きくはなりません。【7】
立派な
大きさのカブトムシは、
幼虫時代に
十分な
栄養を
取っていたのです。もしも
人間がカブトムシと
同じ
性質だったらどうでしょう。
成人したらいくら
食べても
太らないわけですから、ダイエットに
励んでいる
大人にとってはなんともうらやましい
話です。
【8】
通常、
一匹の
幼虫が
蛹になるまでに
食べる
腐葉土の
量は、
洗面器に
山盛り
一杯分にもなるそうです。カブトムシは、そんな
大量の
腐葉土をかぶっとむしゃむしゃ
食べてしまうのです。さすがに
昆虫の
王者、
驚いてしまいます。
【9】
友達に
自慢できるくらいの
大きなカブトムシを
育てるためには、
良質な
腐葉土を
絶えず
補充してあげることが
大切です。また、
飼育ケースの
中のフンを
取り
除いたり、
掃除をしたり、
根気よく
世話を
続けることが
必要です。
【0】では、カブトムシとクワガタムシでは、どちらが
強いでしょうか。カブトムシの
得意技は、カブト
割りでしょう。クワガタムシの
得意技は、もちろんクワ
固めです。
結果は、カブトもクワガタも、お
互いをムシして
引き
分けになりました。
言葉の
森長文作成委員会(
ω)