【1】その
広告は、
次のシーンで
始まる。
一対の
手が、
立体的な
木製パズルを
組み
立てている。その
間に、ソフトに
調整された
男の
声が、
最大の『
工業社会の
問題』または『ビジネス
社会の
問題』は、
実際には『コミュニケーションの
問題』だと
説明する。
【2】ビジネスマンと
企業家に
朗報あり!
企業経営の
潤滑化の
鍵は、
効率的で
調和のとれた
総合的なコミュニケーション・システムにある! ついにパズルが
完成したのだ。ごらんなさい! なんと、
世界最大の
企業AT&T(アメリカン・テレフォン&テレグラム
社)の
社名ロゴが
完成したではないか。
【3】
画面は
暗転し、
白字のメッセージが
浮かびあがる。
「このシステムこそ
解決策だ」
そう、
天空に
星があるのと
同じにね。
このテレビ
広告は、しばらくの
間、
夕方の
全米ニュース
番組の
合間に
流された。【4】このメッセージは
高度に
技術的な
消費社会に
生きる
私たちに
向けて、この
社会についての
哲学を
伝えている。コミュニケーション
産業の
自己投影イメージの
真髄ともいうべき
例で、
完璧なる
管理を
理想像および
絶対的な
善として
提示している。【5】その
一方で、この
企業は、
自社のシステムを
使うことで、『
誰かと
心を
通わせる』ことができると
主張する。
AT&Tのサービスを
買うことで
家族の
絆は
強まり、
友情は
維持される、と。
【6】
同社のイメージとテレビ
広告は、サービスや
製品を
超えて、
世の
中を
理解する
方法までも
売りこもうとしている。その
基本的な
前提は、
企業中心の
工業社会において、
社会秩序のメカニズムを
供給するのはコミュニケーション
産業ということにある。【7】
効率のよい
経営管理を
切望するビジネスマンの
懐にせまるコンセプトだ。その
一方で
現代の
消費社会の
孤独で
流動的な
個人である
私たちに
対し、ますますつかまえどころがなくなりつつある
家庭関係やコミュニティの
絆を
約束するのだ。
【8】
AT&Tによって
提示されたようなマス・イメージは、
覚えやすい
言語、
信仰のシステム、
共通の
感性を
叩きこむ
回路をつくりだし
現代社会の
一部となる
意味を
私たちに
説明してくれる。【9】それは、
品物とサービスの
販売と
消費で
定義づけられた
社会、
人間関係がしばしば
金銭のやりとりで
規制される
社会、
解決策を
見出す
必要に
迫られればすべて
金でかたづけることが
常識になりつつある
社会だ。
冒頭の
広告に
見られるような
意図は、
日常のことになった。【0】
消費が
私たちの『ウェイ・オブ・ライフ』なのだ。コマーシャル・イメージ――
広告、パッケージ、
広報活動、
映画、テレビなど――は、この『ウェイ・オブ・ライフ』の
強化に
重要な
役割を
果たしている。(
中略)
マイク・ゴールドの
自伝的移民小説『
金のないユダヤ
人』のなかでは、
著者の
父親が、
文化的な
崩壊感を
簡潔に
表現してアメリカを「
泥棒」よばわりする。
最初は
慣れ
親しんだ
生活を
補充するための
手段と
解釈されていた
賃金労働と
時間の
切り
売りは、じつは
新しい
支配の
構造であることがじきに
暴露された。
賃金は、
資本と
同じ
働きをしなかった。
資本は
土地に
似通っていた――それを
所有するものに
有利にはたらく
富の
一形態だった。
資本は、
自分で
肥えてゆくが、
賃金は
違った。
労働者がアメリカでかき
集めたわずかな
金は、その
場で
消費されるべき
性質のものだった。
後に
残りもせず、
希望も
生みださなかった。
農業や
手工業に
携わり、
消費は
禁物だと
教えられてきた
人々に、
消費は
新世界での
市民権の
定義づけに
必要なものとして
提供されたのだ。
価値や
生存が
土地と
直結したり、
自然の
利用からもたらされた
状況下では、
大量消費は
自殺行為を
意味した。
工業国アメリカに
移住してきた
農民や
手工業の
職人にとって、
賃金労働システムはこの
基本的な
前提の
冒とくにほかならなかった。
自然との
官能的な
融合から
生じたこの
前提は、いまや
工業生産、
市場開拓、
都会生活の
泥沼に
埋もれつつあった。ここでも
貯えようとする
努力はなされたが、
賃金を
土地と
同じように
活用しようとの
移民の
試みは、むだに
終わることが
多かった。
大量生産工業と
発生期にあった
消費市場に
特徴づけられた
社会において、
人間と
自然の
分裂は
自明の
理であり、ウィリアムズ
呼ぶところの「『
人間による
自然の
征服』の
勝利者側の
論理」が
定着していった。
(スチュアート&エリザベス・イーウェン
著『
欲望と
消費』)