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課題集
長文ちょうぶん 4.1しゅう
【1】「ああっ、これ、だれがやったの!」
 おかあさんのさけびごえこえます。だれかって、犯人はんにんはぼくだとわかっているのにいつもそんなふうにうのです。
「うわあ、こんなことするのは、シゲしかいない。」
 【2】つづいてこえるおねえちゃんのこえもいつもどおりです。二人ふたりがキッチンでぼくのことをっているのがこえます。ぼくは、ドラキュラのマスクをかぶって階段かいだんのかげにひそんでいて、いつしておどろかせようかとかんがえていたのですが、ちょっとひるんでしまいました。【3】ついにおねえちゃんが、
「こうなったら、おとうさんにいつけるしかない。」
しました。
 ぼくは、いたずらが大好だいすきです。学校がっこうでもうちでも、ねんがら年中ねんじゅう、いたずらのネタをかんがえています。【4】にんがびっくりしたり、不思議ふしぎそうなかおをしたりするのをると、とてもうれしくなります。だから、先生せんせい家族かぞくにどんなにしかられても、またつぎのいたずらをおもいついてしまうのです。
 【5】昨日きのうは、トイレットペーパーの内側うちがわにゴムでできたトカゲをはさんで、ペーパーをすとトカゲがちてくるようにしておきました。
 また、よるには、キッチンのしお砂糖さとうもののフタをとりかえておきました。【6】しおあおで、砂糖さとうあかのフタなのをぎゃくにしておいたのです。
 そして、今日きょうのいたずらは、おねえちゃんの問題もんだいしゅうのカバーをぜん科目かもくつけかえたのと、おかあさんのショッピングバッグにちいさいてつアレイをかくしたことです。
 さて、おとうさんが出張しゅっちょうからかえってきました。【7】おねえちゃんはさきにぼくにされたいたずらをいつけにいきます。
 おとうさんは、わらいながらそれをいていましたが、心配しんぱいでのぞいていたぼくにがつくと、
「おっ、いたずら小僧こぞうがいたぞ。」
と、ぼくに手招てまねきをしました。【8】そして、
「シゲ、おまえのいたずらはスケールがちいさいなあ。やるんだったら、もっとでっかいいたずらをやれ。」
と、ぼくのおしりをたたきました。そして、
「それと、いたずらっていうのは、ひとこまらせるんじゃなくて、よろこばせるものじゃないとな。」
いました。
 【9】おばあちゃんによると、おとうさんも相当そうとうないたずらっだったようです。ぼくは、うなずきながら、おとうさんはどんないたずらをしたのかなとしんなかおもいました。【0】

言葉ことばもり長文ちょうぶんちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 4.2しゅう
 地獄じごく沙汰さたかねしだい

 【1】「沙汰さた」とは、結果けっかとかりきめのこと。地獄じごくでうけるえんま大王だいおう裁判さいばん結果けっかでさえも、おかねをだせば有利ゆうりになるという意味いみ。そこから、なかはおかねさえあれば、なにごともおもうがままになる、というたとえだ。
 【2】このように、なかでおかねがいちばん大切たいせつ、とかんがえるひとはたくさんいる。たしかに人間にんげんきていくのに、おかね必要ひつようなものだ。けれどひとには、おかねよりもっと大切たいせつにしなくちゃいけないものが、あるんじゃないかな。【3】たとえば、ひとなかよく平和へいわにくらしていくこととか、まじめにはたらくこととか、ただしいとしんじることはつらぬくといったことなどだよ。大人おとなになって、おかねだけがすべて、という人間にんげんにはなってもらいたくないな。
 【4】地獄じごくってどんなところかってる? 地下ちか牢獄ろうごくのことだ。このでわるいことをした人間にんげんが、んでからいく場所ばしょのこと。えんま大王だいおうは、地獄じごくでいちばんえらいおもだ。んで地獄じごくにきた人間にんげん裁判さいばんをする。死者ししゃきていたときのおこないをさばいて、ばちをきめる。【5】あかいろ衣装いしょうをまとって、かんむりをかぶり、をいからせて、には罪人ざいにんをしばるなわをもっている。えんま大王だいおう裁判さいばんをやるときんだものがやったことをしらべるものを、えんまとばりというんだ。そばには、命令めいれいをうけて罪人ざいにんをこらしめるおにがひかえている。
 【6】地獄じごくのえんま大王だいおうがでてくる熊本くまもとけんのむかしばなしがある。
 ――むかし、千五郎せんごろうという役者やくしゃがいた。芝居しばいがとても上手じょうずで、〈千両役者せんりょうやくしゃ〉といわれたほどだ。あるとき千五郎せんごろうはきゅうなやまいでころっとんでしまった。
 はだかにされた千五郎せんごろうは、くらいところをずんずんあるいていく。【7】そして、地獄じごく極楽ごくらくのわかれみちにきた。えんま大王だいおうが、こわいかおをしてすわっていた。
「こらあ、おまえは、しゃばではなにをしていたか。」
大王だいおうかれ、千五郎せんごろう役者やくしゃをしていた、とこたえた。
役者やくしゃだったら、いまからこのまえで、芝居しばいをやってみろ。」
【8】「こんなはだかじゃ、芝居しばいをやれません。」
 えんま大王だいおうが、どんな衣装いしょうでもしてやるといったので、千五郎せんごろうは、大王だいおう衣装いしょうりたいともうしでた。大王だいおうは、しぶしぶしてくれた。
 千五郎せんごろう大王だいおう衣装いしょうると、こしからけんをひきぬき、おおきなこえでいった。
【9】「おおい、あかおにあおおにぃ。こっちへきて、そのおとこをつかまえろ。そして地獄じごくいやるんだあ。」
 大王だいおうはちがうちがうとさけんだが、おにたちは大王だいおうをひっとらえて地獄じごくいやってしまったんだ。そのあと地獄じごくくちでは、千五郎せんごろうがずっとえんま大王だいおうをやっているそうな。【0】

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫ぶんこ)より


長文ちょうぶん 4.3しゅう
 ミイラりがミイラになる

 【1】ミイラをりにいったひとが、目的もくてきをはたせずに、自分じぶんもそこでんでミイラになってしまうこと。そこから、かえってこないひとをつれもどしにいったひとが、自分じぶんもそこにとどまってしまって、かえってこないことをいうよ。【2】また、相手あいて説得せっとくしようとしたひとが、かえって相手あいてとおなじかんがえになってしまう、という意味いみにもなる。
 「ミイラ」ってってるよね。乾燥かんそうしたまま、ながいあいだもとかたちをたもった死体したいのことだ。死体したい水分すいぶんが、〇パーセント以下いかになるとできる。【3】たか温度おんど乾燥かんそうした場所ばしょとかかぜとおしのいい場所ばしょ死体したいは、ミイラになりやすいんだって。
 古代こだいエジプトでは、人工じんこうてきにミイラをつくった。王様おうさまなどがんでさんせんねんたつと、そのひと霊魂れいこん肉体にくたいにもどってきてんだひと復活ふっかつするとしんじられていたんだ。【4】だから、んだ王様おうさまはかならずミイラにした。死者ししゃたびをしているあいだも、王様おうさまらしく生活せいかつするため、王族おうぞくやけらいはもちろんのこと、愛犬あいけんまでミイラにしたんだよ。ひがしアフリカのブガンダ王国おうこくげんウガンダ共和きょうわこく)、オーストラリアの原住民げんじゅうみん、アメリカインディアンなども、死者ししゃのミイラづくりをやったよ。【5】日本にっぽんでは、岩手いわてけん中尊寺ちゅうそんじにある藤原清衡ふじわらのきよひらのミイラが有名ゆうめいだ。
 中世ちゅうせいからじゅうはち世紀せいきのヨーロッパでは、このミイラが〈医薬品いやくひん〉としてもてはやされた。ミイラをくだいてこなにしたものを、けがしたひと病気びょうきひとにのませると、とてもききめがあるといわれた。【6】ミイラづくりには、瀝青れきせい(アスファルト、石油せきゆ天然てんねんガスなどの炭化たんか水素すいそ化合かごうぶつをまとめていった言葉ことば)など炭化たんか水素すいそ化合かごうぶつ使つかわれているので、万病まんびょうにきくくすりになるとされたんだ。
 【7】そのうち、ききめは「死体したい自身じしん」にあるといわれ、重罪じゅうざいじん自殺じさつしゃ死体したいをとってきて、にせの「ミイラ」をつくるようになった。でもね、ほんとは「ミイラ」には医薬品いやくひんとしてのききめはないんだって。医師いしたちがなんども警告けいこくしたけど、ミイラの貿易ぼうえきくすり販売はんばいじゅうはち世紀せいきまでつづけられたんだ。
 【8】日本にっぽんには、じゅうろく世紀せいき薬品やくひん〈ミルラ〉として輸入ゆにゅうされた。きずに、このくすりをのむととてもききめがあると、ふるほんにもいてある。このミルラ(ポルトガル)がなまって、ミイラというかたりになった。
 【9】ミイラは高価こうか薬品やくひんだ。つけてれると、たくさんおかねがもうかる。そのため、ヨーロッパでも日本にっぽんでも、危険きけんりながら「ミイラり」にいったひとがたくさんいたらしい。たとえばエジプトでは、ピラミッドのおくまではいって、そのままもどれなかったひとがたくさんいた。【0】日本にっぽんでも、はかふかあなにはいりこんで、でられずにんだひとおおかったという。ことわざは、そんなところからうまれたとおもわれるよ。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫ぶんこ)より


長文ちょうぶん 4.4しゅう
長文ちょうぶんふたつある場合ばあい読解どっかい問題もんだいよう長文ちょうぶんいち番目ばんめ長文ちょうぶんです。】
 連日れんじつ梅雨つゆそらです。いまもあめこそふってはいませんが、そらは、むらなく、うすいグレー一色いっしょくにぬりつぶされています。
「おーい、美奈代みなよ!」
 おとここえがとんできました。
 運動うんどうじょうをまっすぐにつっきってかけてくるのは、となりのクラスの岩田いわたいさむあかゴリラというあだそのままの体形たいけいで、リンゴのようなあかいほっぺたがちかづいてきます。
 美奈代みなよ菊菜きくなは、べつにふりむきもせず校門こうもんにかかりました。
美奈代みなよ美奈代みなよ! おまえをんだんだぞ!」
 いさむは、いきをはずませながら、
ばれたら、ち、どまるとか――へ、返事へんじを、する、とか、しろ。美奈代みなよ。」
やすくばないでね。」と、美奈代みなよは、そっけなく、「で、なんのよう?」
「まず、こっちを、なよ。」
と、いさむ(いさむは、ふざけました。
相手あいてにしない、しない。」
と、菊菜きくな美奈代みなよ注意ちゅういしました。
三枝さえぐささん、そういういいかたって失礼しつれいだとおもいますよ。」いさむは、わざとじろりと菊菜きくなをにらんでから、「うちの先生せんせいんでるよ、美奈代みなよ。うそじゃないから教室きょうしつのほうをなよ。」
 美奈代みなよ校舎こうしゃをふりむきました。するとかいから南野みなみの先生せんせいが、たしかにまねきをしていました。
「な、そうだろ。」
「キク、ってて。」
 美奈代みなよ菊菜きくなにいいのこして、運動うんどうじょうをかけもどりました。

福永ふくなが令三けいぞう「クレヨン王国おうこくあかトンボ」
 【1】「自然しぜんってどんないろ?」とかれたら、なんこたえるだろう? たいていのひとは、緑色みどりいろこたえるにちがいないし、実際じっさいみんなそうおもっている。だから「みずみどりまちづくり」などという標語ひょうごがそこらじゅうにかかげられているのである。
 【2】はいる「自然しぜん」が一望いちぼうすなである砂漠さばくくにでも、みずみどりはオアシスの象徴しょうちょうであり、人々ひとびとはそこにやすらぎをかんじる。だからみずみどりは、人間にんげんという動物どうぶつにもともとしっかりむすびついているものであるらしい。
 【3】たぶんそういう理由りゆうからだろう、かつてはずいぶんこっけいなこともおこなわれていた。道路どうろつくるので、草木くさきみどりにおおわれたおかどおしをつくる。あたらしいみち両側りょうがわは、赤茶あかちゃけたそのままのがけで、なんともうるおいがないし、れたかんじがする。【4】それにいつくずれてくるかもわからないから、がっちりとコンクリートでおおってしまう。そうなると、ますます味気あじけない。そこで、とにかくみどりにしようということで、コンクリートを緑色みどりいろったのである。
 たしかにすことおくからはみどりにみえる。【5】けれど、所詮しょせんはペンキで緑色みどりいろっただけである。人間にんげん感覚かんかくはこんなことではだまされないはずだ。
 むかし、モンシロチョウで実験じっけんしてみたことがある。ケージの地面じめんにいろいろないろおおきなかみき、チョウがどのいろかみうえをよくぶかを調しらべたのだ。【6】やはり緑色みどりいろかみうえを、もっともこのんでぶようであった。なるほど、チョウは緑色みどりいろであればかみでもいいのだな、とぼくはおもった。
 けれどこれは、チョウチョにはたいへん失礼しつれいおもいちがいであった。【7】ほんもののくさえた植木鉢うえきばちをたくさんならべたら、チョウは緑色みどりいろかみなど見向みむきもせず、ほんもののくさうえばかりをんだのである。
 コンクリートを緑色みどりいろるのはそのまもなくやめになった。やはりほんもののくさでなければ、ということはだれにでもすぐにわかったからだろう。
 【8】だが、それでどうなったか? つぎ方法ほうほうは、道路どうろわきの斜面しゃめんほうめんのりめん)に牧草ぼくそうのたねをくことであった。こうしておおくの高速こうそく道路どうろ両側りょうがわが、外国がいこくさん牧草ぼくそうでおおわれる始末しまつとなった。
 それはるからにモダンな、最新さいしんのハイウェイという印象いんしょうあたえたことはたしかだったが、人工じんこう産物さんぶつであることもあきらかであった。【9】それはどことなくよそよそしい、疑似ぎじ自然しぜんなのだ。
 おなじような擬似ぎじ自然しぜんは、どこにでもることができる。
 かつてアフリカのモンバサにったときもそうだった。いかにもモンバサらしい熱帯ねったい風景ふうけいなかで、ぼくはついにむしいちひきぴきることはできなかった。【0】ホテルのひとにたずねたら、たえず殺虫さっちゅうざいいて、退治たいじしていますから、ということだった。
 これもつくられた疑似ぎじ自然しぜんである。ひるになれば時折ときおりどこからかチョウチョがんでくるけれども、それも偶然ぐうぜんのことにすぎない。みなみ色濃いろこ植物しょくぶつたちがぼくらをつつんでいるけれども、それはあたかも観葉かんよう植物しょくぶつえんなかにいるのとほとんどおなじことだ。観光かんこうきゃくたちはこういう場所ばしょにきて、熱帯ねったい気分きぶん満喫まんきつしてかえる。もちろんそれはけっこうなことだけれど、なんだかへんである。
 みずみどりのあるゆとりのまちづくり、自然しぜんとのふれあい、自然しぜんとの共生きょうせい……ことばはさまざまにあるが、意味いみしているところはおなじである。うつくしく管理かんりされ、不愉快ふゆかいな「雑草ざっそう」もなく、いやなむしもいない、疑似ぎじ自然しぜん。それをところどころにとりんだまち。つまりそういうまちつくろうということである。
 そこにあるのは「うつくしい自然しぜん」「調和ちょうわのある、やさしくてゆとりのある平和へいわみどり」という幻想げんそうだけだ。日本人にっぽんじんむかしから自然しぜんあいした、などというあやまったおもみにおちいらぬよう、もうすこめた認識にんしき必要ひつようなのではないか。
 (日高ひだか敏隆としたかはるかぞえかた』)


長文ちょうぶん 5.1しゅう
【1】「クロちゃん、どこ。」
「クロちゃあん。」
 わたしは、おおきなこえ名前なまえびながら、脱走だっそうしたクロちゃんをさがします。クロちゃんは、のひらサイズのジャンガリアンハムスターです。【2】毎朝まいあさ登校とうこうまえのケージのそうじで、ちょっとゆるすと、するっとそと全速力ぜんそくりょくでどこかへってしまうのです。ハムスターは、せまいところが大好だいすきで、家具かぐあいだなどにどんどんはいってしまいます。【3】られなくなったら大変たいへんです。わたしは、そんなとき、クロちゃんのだい好物こうぶつのひまわりのたねはいった紙袋かみぶくろってカシャカシャとります。すると、たねがもらえるとおもうのか、どこからかクロちゃんはてきます。【4】ちいさなあしでちょこちょこある姿すがたると、脱走だっそうしたことをおこることなどできません。
 わたしのおかあさんも動物どうぶつきで、子供こどものころはインコ、文鳥ぶんちょう柴犬しばけん、ニワトリ、金魚きんぎょ、カメなどをっていたそうです。【5】わたしくらいのときは、毎朝まいあさかさずきて、いぬ散歩さんぽ鳥小屋とりごやのそうじ、いろいろなもののえさやりをしていたといます。
自分じぶんうとめたのだから、ちゃんと世話せわしないとね。だからいちにちやすまなかったよ。」
と、おかあさんはいました。
 【6】クロちゃんは、わたし誕生たんじょうにほしいとってってもらったハムスターです。かくかそのとき、
「ちゃんと自分じぶんうから。世話せわもきちんとするから。おねがい。」
と、わたしったようながします。
 【7】クロちゃんは、からだがとてもちいさいので、たぶんのうみそもちいさいとおもいます。けれども、わたし気持きもちをよくわかってくれるようながします。【8】わたししかられたり、ともだちとけんかしたりしてかなしいとき、じっとこちらをて、「大丈夫だいじょうぶ」とこえをかけてくれているみたいです。
 【9】わたし学校がっこうでも、クロちゃん、どうしているかなあ、さみしがっていないかなあといつもにしています。時々ときどき面倒めんどうになることもあるけれど、あさのクロちゃんの世話せわ苦労くろうだとおもわずに、これからもつづけていこうとおもっています。【0】

言葉ことばもり長文ちょうぶんちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 5.2しゅう
 ころんでもただではきぬ

 【1】つまずいてころんでも、ころんだところにおちているものをひろってからきあがる、という意味いみだ。そこから、たとえ失敗しっぱいしたとしても、その失敗しっぱいをむだにしないでやくにたて、利益りえきをあげようとする。【2】よくがふかくて、どんなときでも自分じぶんとくになるようにすること。ぬけのないひとをあざわらっていうことばだ。
 これは、ふるくからあったことわざらしい。「ころんでも」とか、「こけてもただではきぬ」、「こけてもすな」、「こけてもうまのくそ」といったように、おなじ意味いみのことわざがいくつもある。【3】むかしは、うまのくそもはたけのいい肥料ひりょうになったから、ひろってもってかえったんだね。「こけたところ火打ひういし」は、ころんだら、そこにおちているいしなかから、火打ひういしになるようなかたいいしをひろってからたちあがったという意味いみだ。【4】ほんとに、ただではきないたくましさをかんじることわざだ。
 むかしばなしに「わらしべ長者ちょうじゃ」というのがある。このはなしにでてくるおとこは、ころんでもただではきなかったことから、幸運こううんがはじまるんだ。
 ――むかし、きょうまちにとても貧乏びんぼうでしようのないおとこがいた。【5】大和やまとやまとくに長谷ながたにはせ観音かんのんさまにおまいりして、どうかおたすけくださいとたのんでいた。すると、あるよるがた観音かんのんさまゆめにあらわれていわれた。「かえるとちゅう、どんなものでもにはいったものを、大切たいせつおもってもってかえりなさい。」
 【6】おとこはおてらもんからでようとして、ころんでしまった。きあがってがつくと、一本いっぽんのわらしべをひろってつかんでいた。おとこは、このわらしべが観音かんのんさまのいわれたものだとおもい、すてずにあるきはじめた。
 【7】おとこは、んできたアブを、そのわらでむすんでもっていた。すると、牛車うしぐるまぎっしゃってきた高貴こうきひとが、すごくほしがった。アブのわらしべをあげると、みかんみっつをくれた。すこしいくと、のどがかわいてあるけなくなったおんなひとがいてみかんをあげるとよろこんで、さんはんたんぬのをくれた。
 【8】またいくと、たおれたうま処分しょぶんにこまっている武士ぶしがいた。おとこさんたんぬのをあげてうまをもらった。もううごかないとおもっていたうまは、しばらくするといきをふきかえした。おとこは、そのうまってきょうまちかえってきた。まち入口いりくちまでくるとひっこしでおおさわぎしているいえがある。【9】そのいえでは、いいがほしいとおもっていたので、うまってくれた。代金だいきんちかくにあるだった。そして、そのいえにしばらくんでほしいとたのまれた。その家主やぬしなんねんたってもかえってこず、とうとうおおきないえまでおとこのものになった。ころんでつかんだ一本いっぽんのわらしべが、そのさきおおきないえになることもあるんだよ。【0】

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫ぶんこ)より


長文ちょうぶん 5.3しゅう
いそがばまわれ

 【1】いそぐときには、すこしくらい危険きけんがあっても、近道ちかみちをとおりたくなる。けれどそれが失敗しっぱいする原因げんいんになる。だから、時間じかんがかかってめんどうでも、安全あんぜんみちやたしかな方法ほうほうえらんだほうが、けっきょくはとくなことになるんだ。
 【2】ことわざのもとになったのは、平安へいあん時代じだい源俊頼みなもとのしゅんらいつくったこんな和歌わかだ。
 武士ぶしもののふ矢馳やばせふねははやくともいそがばまわれ瀬田せた長橋ながはし
 うた意味いみは、大津おおつへいくのには、びわきし矢馳やばせからでるふねっていけばはやい。でもいそぐのならふねにのらず、湖岸こがんみちをとおり瀬田川せたがわはしわたってりくみちをいったほうがいいよ、というんだ。
 【3】矢馳やばせというのは地名ちめいで、矢橋やはしともく。滋賀しがけん草津くさつのびわきしのあたりのことだ。ふるくからここには、大津おおつまでのわたぶね便びんがあったんだ。りくみちをいくと、びわ南岸なんがんをぐるっとまわり、瀬田川せたがわながはしわたらなければならない。かなり時間じかんがかかる。【4】それにくらべ、湖上こじょうをいけば近道ちかみちになる。むかいの大津おおつまで直線ちょくせん距離きょりでいくから、うんとはやかったんだ。
 しかしわたぶねでいくのは、いろいろ危険きけんがあった。ちょっとつよふういたりすると、ながされてなかなか大津おおつにつけない。【5】また、このふねちいさなものだったから、おおきななみにかんたんにてんぷくすることもあったんだ。いそぐのでふねったのに、大津おおつにつけずひきかえしたり、ふねがひっくりかえっておぼれんだり、こわいにあうひとがたくさんいた。
 【6】このうたなかで「きゅうがばまわれ」のことばだけがひろまっていき、ことわざとしていまものこっているんだ。これは、さいしょはみちについていったんだけど、その生活せいかつのいろんなことについてもいわれるようになったんだ。
 【7】だれでも、すこしでもはやくしごとをすませたいから、ついはやくできる方法ほうほうをやろうとする。でもいそいでやろうとすれば、はやくやることばかりにをとられて、ひとひとつたしかめたり、ゆっくりかんがえたりしない。【8】その結果けっか、やりかたをまちがえたり、とんでもない失敗しっぱいをすることになるんだ。
 たとえば、テストがそうだね。ぼくは、学生がくせいときに「きゅうがばまわれ」のことわざをわすれていたので、なん失敗しっぱいしたよ。【9】テストを時間じかんないにはやくやろうといそぐあまり、問題もんだいをしっかりまずにこたえをくことがあったんだ。はやくできて得意とくいになって提出ていしゅつしたのはいいけど、じゅうもんのうちただしいこたえははんぶんもなかった。【0】それなら、問題もんだいをていねいにんで、よくかんがえてたしかなこたえをいていったほうがよかったんだ。ななもんしかこたえがけなかったとしても、正解せいかいだったらそのほうがいいものね。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫ぶんこ)より


長文ちょうぶん 5.4しゅう
長文ちょうぶんふたつある場合ばあい読解どっかい問題もんだいよう長文ちょうぶんいち番目ばんめ長文ちょうぶんです。】
 ぼくのともだちにも、たいていおじさんがいる。おじさんというのは、つまり両親りょうしん兄弟きょうだいということで、ぼくたちは、そのおじさんのオイ、おんなだったらメイということなのだそうだ。
 はなしをきいてみると、ともだちのおじさんは、けっこういいおじさんだという。どこからどこまでいいおじさんというわけにはいかないが、あるおじさんは宿題しゅくだいおしえてくれる。あるおじさんはいっしょに動物どうぶつえんへつれていってくれる。あるおじさんはお小遣こづかいをくれる。
 なかにはスポーツマンのおじさんがいて、そのおじさんは有名ゆうめいなスキーの選手せんしゅなのだそうだ。ジャンプの名手めいしゅで、全日本ぜんにほん大会たいかいとかいうと、そのおじさんは一等いっとうか、とうか、まかりまちがってもさんとうになる。一等いっとうのときは新聞しんぶん写真しゃしんがでる。さんとうのときだって、ちゃんとまえだけはでる。
 そういうおじさんをったともだちは、ほんとうに幸福こうふくだとぼくはおもう。いっしょにスキーじょうけば、どんなにか得意とくいだろう。日本一にっぽんいち日本にっぽんさん選手せんしゅに、をとってスキーをおしえてもらえるからだ。
 けれども、ともだちにきくと、実際じっさいはそんなことはないそうだ。スキーをおしえてくれるなんて、とんでもない。そのおじさんは自分じぶん練習れんしゅうにいそがしくて、オイやメイのことなんかかまっていられないそうだ。

きた杜夫もりお「ぼくのおじさん」)
 【1】あらためてわが日本語にほんごをかえりみると、ただちに気付きづくのが「わたし」という一人称いちにんしょう多様たようさである。日本語にほんごほど一人称いちにんしょう代名詞だいめいしおおくのバラエティをあたえている言葉ことばはほかにないのではあるまいか。【2】「わたくし」「わたし」にはじまり、「ぼく」、「われ」、「おれ」、「自分じぶん」、「手前てまえ」、「うち」、「わし」、「それがし」、「やからはい」、「当方とうほう」、「こちら」、「小生しょうせい」、さらに「あっし」とか「あたい」とか、「わて」とか、「おいら」「こちとら」といったものまでくわえれば、そのかず、ゆうにじゅうえるという。【3】英語えいごフランス語ふらんすご、ドイツなどでは一人称いちにんしょう代名詞だいめいしはそれぞれ、I、Je、Ichたったいちである。それにたいして、日本語にほんごには、なぜこんなにたくさん「自分じぶん」をあらわす言葉ことばがあるのか。【4】それは日本人にっぽんじん民族みんぞくよりも、ひといちばい自分じぶん」に注意ちゅういはらい、「自己じこ」にふか関心かんしんっていることをかたっているのだろうか。
 はしてきにいえばそうである。しかし、だからといって日本人にっぽんじん自我じが意識いしきつよいとはかならずしもいえそうにない。【5】いや、むしろ欧米おうべいじんたいして日本人にっぽんじんは「自分じぶん」を主張しゅちょうすることがずっとひかえめであり、日本にっぽんでは「個人こじん」という意識いしき、「」の自覚じかく西欧せいおうじんにくらべてかなりおくれているというのが「通説つうせつ」になっている。【6】たしかに日本にっぽん個人こじん主義しゅぎ芽生めばえたのは、ようやくだい大戦たいせんといってもいい。そして現在げんざいいたっても「」の意識いしきはまだまだ希薄きはくで、日本にっぽん社会しゃかい全体ぜんたい画一かくいつ主義しゅぎつらぬかれている。画一かくいつ主義しゅぎとはぼつ個性こせいてきということであり、ようするに「」が「全体ぜんたい」に埋没まいぼつしてしまっている状況じょうきょうである。【7】それなのに、日本人にっぽんじん民族みんぞくよりも「自分じぶん」に注意ちゅういけ、つねに「自己じこ」を意識いしきしているといえるのだろうか。
 じつは日本人にっぽんじん自己じこ意識いしき民族みんぞく、たとえば欧米おうべいじんのそれとは質的しつてきことなっているのである。ヨーロッパじん自分じぶんというものを、実体じったいてきにとらえようとする。【8】自分じぶんというのは、それこそ、かけがえのない存在そんざいであり、独立どくりつしたいち人格じんかくしんじている。ヨーロッパの哲学てつがく古代こだいギリシアのむかしから一貫いっかんしてもとめてきたのは、ただひたすら「自分じぶん」というものの本質ほんしつであった。【9】「なんじ自身じしんれ!」というデルフォイの神託しんたく哲学てつがく出発しゅっぱつてんとしたソクラテス、「われおもう、ゆえにわれり」を哲学てつがく原点げんてんえたデカルト、「人間にんげんとは自分じぶん存在そんざい自覚じかくした存在そんざいしゃだ」とするキルケゴール……ヨーロッパの哲学てつがくは、「自分じぶん」という実体じったいかってのたびだったといってもよい。【0】
 それにたいして日本人にっぽんじん自分じぶんといういち人間にんげん実体じったいとしてではなく、機能きのうとしてかんがえてきた。個人こじんはけっして単独たんどく存在そんざいするのではない。つねに「世間せけん」で多勢たせおおぜいひとたちとさまざまな人間にんげん関係かんけいのなかできるのだ――というのが日本人にっぽんじん人間にんげんかん前提ぜんていだった。げんに「人間にんげん」という言葉ことば自体じたいがそうしたかんがかた正直しょうじきかたっている。この言葉ことばはいうまでもなく中国ちゅうごくかられた漢語かんごであるが、この漢語かんご意味いみはもともと人間にんげん世界せかい、すなわち「世間せけん」ということなのである。ところがそれが日本にっぽんではいつのにか「ひと」そのものをあらわす言葉ことばになった。ということは、日本人にっぽんじんにとって「世間せけん」も「ひと」も同一どういつのようにおもわれていたからにちがいない。日本人にっぽんじん社会しゃかい個人こじん一体化いったいかしてかんがえてきたのである。
 日本人にっぽんじんはヨーロッパじんのように自然しぜん対決たいけつするのではなく、自然しぜんしたしみ、自然しぜん同化どうかすることによってやすらぎをてきた。それとおなじことが社会しゃかいについてもいえる。日本人にっぽんじん欧米おうべいじんのように個人こじん社会しゃかい対置たいちすることなく、世間せけん自分じぶんとをひとしなみに表象ひょうしょうしてきたのだ。「わた世間せけんおにはない」ということわざがその一端いったんかたっている。日本にっぽん自然しぜんやさしい山河さんがであるように、日本にっぽん世間せけんも――民族みんぞく社会しゃかいとくらべれば――結構けっこう心安こころやす社会しゃかいだったからであろう。

 (森本もりもと哲郎てつろう日本語にほんご ひょううら』)


長文ちょうぶん 6.1しゅう
長文ちょうぶんふたつある場合ばあい音読おんどく練習れんしゅうはどちらかひとつで。】
【1】「エリ、バドミントンやるぞ。りてこい。」
 今週こんしゅうちちこえひびきます。毎週まいしゅう日曜日にちようびあさわたしちちとバドミントン、テニス、キャッチボールなどをします。【2】まえ広場ひろばでやるのですが、本当ほんとうすこずかしいもします。ちちは、こえおおきいので近所きんじょちゅうこえるし、となりのおばあちゃんがかならまどからかおしてこううのです。
親子おやこなかがいいねえ。」
 【3】ちちとのスポーツは、まるで特訓とっくんのようです。ちちは、テニス漫画まんがてくるおにコーチのようにわたしをしごきます。だから、ふゆでもあせだくになります。
 【4】「エリ、これおいしいぞ。もっとべろ。」
夕飯ゆうはんときは、自分じぶんのおさらからわたしのおさらにおかずをうつします。自分じぶん好物こうぶつは、わたしきだろうとおもんでいるのです。
 【5】ちち出張しゅっちょうくと、かならずおみやげをってきます。それは、わたしからると大体だいたいへんなものです。その地方ちほう名産めいさんやお菓子かしではなく、だいぶまえにはやった小物こものや、学校がっこうっていけないようなわった文房具ぶんぼうぐ、もうあそばないちいさいようのおもちゃなどです。
 【6】ちちは、会社かいしゃでとてもむずかしい仕事しごとをしている経理けいり専門せんもんなのですが、うちにいるときは、とてもそんなふうにはえません。【7】昨日きのう
「えっ、今夜こんやはキムチなべ。そりゃ、きむちいい(気持きもちいい)。」
などとけないダジャレをって、ははにジロリとにらまれました。
 【8】テレビのドラマでるような格好かっこういい父親ちちおやとはちがうけれど、わたしはそんなちち大好だいすきです。いろいろ勝手かってにやっているようにえますが、本当ほんとう日曜日にちようび特訓とっくんも、体育たいいく苦手にがてわたしのためにやってくれているのです。
 【9】わたしは、今度こんどちちに、秘密ひみつのプレゼントを用意よういしています。それは自然しぜん教室きょうしつ陶芸とうげいコーナーでつくったのみです。H・Eとちちのイニシャルをれ、おおきなハートでかこみました。ちちがどんなかおをするかとてもたのしみです。【0】

言葉ことばもり長文ちょうぶんちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい
かえるかえる

 【1】カエルのたまごがふすると、オタマジャクシになる。オタマジャクシのときは、があって、カエルのどもとはおもえない。ナマズのみたいだ。それがおおきくなるにつれ、がとれあしがはえて、けっきょくはカエルになる。【2】そこから、なにごともおやるものだ、というんだ。からだのことではなくて、人間にんげんのなかみとか、しんるという。あまりいい意味いみのことわざではなくて、わるい意味いみ使つかわれるよ。
 たとえば、「あいつのおとうさんはなまけもので、ぐうたらしていたが、かえるかえるだ。【3】あいつもやっぱりぐうたらな人間にんげんだ」というように使つかわれる。でもことわざの意味いみをとりちがえて、ほめことばとして使つかひともいる。「息子むすこさんは○○大学だいがく入学にゅうがくされたんですか。さすがはあなたのおさんだ。かえるかえるですね」これは、けっしてほめたことにはなっていない。まちがった使つかかただ。
 【4】おなじような意味いみのことわざに、「ふりのつるには茄子なすびはならぬ」がある。平凡へいぼんおやからは、すぐれたどもはうまれない、という意味いみだよ。また、「まむしまむし」というのがある。【5】これは、おや悪人あくにんならそのはやっぱり悪人あくにんだ、ということになる。
 このことわざでは、カエルをすぐれたものとしてはあつかっていない。けれどむかしの日本人にっぽんじんは、カエルを神様かみさま使つかいとしてうやまっていたんだ。【6】群馬ぐんまけんでは「ヒキガエルは神様かみさまのお使つかいである」といい、千葉ちばけんでは「オオガマガエルは天神てんじんさまのお使つかいだから、ころしてはならない」といったんだ。また福島ふくしまけん東京とうきょう福井ふくいけん和歌山わかやまけんなどでは、「アマガエルは神様かみさまのお使つかい」なので、つかまえてはいけないとか、ころしてはいけない、とされていた。【7】熊本くまもとけん玉名たまなぐんでは、「アマガエルはふつほとけさま背負せおっているので、ころしてはいけない」といわれ大切たいせつにされていたんだよ。これは、カエルたちはんぼにおおくすんでいるから、かみ使つかいとされていたからだ。
 【8】「かえるめんつらみず」ということわざは、どんなことをされても平気へいきなようす。またひとからきつく忠告ちゅうこくされても、らんかおしてこうとしないことをいうんだ。
 【9】「かえるうたのなかま」というのもある。カエルはあまりいいごえではないが、さかんにカエルのうたをうたっている。とりむしも、うたをうたう。そのように、カエルから人間にんげんまで、きものはみんながすきである、という意味いみだ。ほんとにそうだよ。【0】だから、ちいさなきものともなかよくしたほうがいいんだ。ことわざのなかにも、こんなすばらしいものもあるんだ。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫ぶんこ)より


長文ちょうぶん 6.2しゅう
どんぐりのせいくら

 【1】どんぐりは、どれもかたちおおきさがおなじようで、ひとひとつのちがいはよくわからない。そこから、人間にんげんをくらべるときに、みんなおなじようでとくにすぐれたものがいないことをいう。
 このことわざは、平凡へいぼんなものばかりをくらべるとき使つかい、すぐれたものをくらべるときには使つかわない。【2】クラスの成績せいせきで、上位じょういのものはちからがそろっていて、だれがいちかわからないようなときには、「どんぐりのせいくらべ」とはいわない。どうしてことわざに「どんぐり」がでてきたんだろう?
 それは、どんぐりがとてもありふれただからだ。【3】どんぐりは、特定とくていじゃない。ブナナラぞくぞくになるじつは、みんなどんぐりだ。つまり、カシ、クヌギ、コナラ、ミズナラ、カシワ、といったになるじつはぜんぶ「どんぐり」とよぶんだ。【4】種類しゅるいはちがい、みきかたちなどはちがっても、そのにできたどんぐりをくらべてみると、みんなているようにえる。そこから、このことわざがうまれたとおもわれるよ。
 ところで、宮沢みやざわ賢治けんじというひといた童話どうわに「どんぐりと山猫やまねこ」というのがある。【5】作品さくひんのなかみは、このことわざとつながるところがあるよ。
 ――ある一郎いちろうのところに、おかしなはがきがきた。それはやまねこからのもので、あした、めんどうな裁判さいばんをするからきてくれ、といてあった。
 【6】つぎの一郎いちろうは、谷川たにがわにそって、くりのたき、きのこ、りすなどにみちきながら、どんどんやまなかはいっていった。そしてかやのもりへの坂道さかみちをのぼると、ぽっかりと草地くさちがひらけていて、そこにやまねこがあらわれた。
 【7】そこへ、あかいズボンをはいたどんぐりが、いっぱいびだしてきた。どんぐりたちは、だれがいちばんえらいかをあらそっていて、やまねこに裁判さいばんしてもらっていたのだ。あたまがとがったのがいちばんえらいとか、まるいのがえらいとか、おおきいのがえらいとか、くちぐちにいいはる。【8】もうさんにち裁判さいばんをやってるのに、ちっともおさまらないのだった。
 そのも、みんな自分じぶんがいちばんえらいといい、わけがわからなくなってしまった。やまねこはどうしたらいいかをたずね、一郎いちろうはこたえた。
【9】「このなかで、いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなってないようなのがいちばんえらい、といったらどうでしょう。」
 やまねこは、そのとおりどんぐりたちにもうしわたした。すると、どんぐりたちはしいんとして、だれもなにもいわなくなった。【0】裁判さいばんはおわった。やまねこはだいよろこびで、おれいかねのどんぐりをいちしょうくれたのだった。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫ぶんこ)より


長文ちょうぶん 6.3しゅう
怪我けが功名こうみょう

 【1】「怪我けが」はきずのことなんだけど、ここでは、あやまちとか過失かしつ意味いみをさすんだ。「功名こうみょう」はてがらとかよい結果けっかのこと。つまり、失敗しっぱいをしたのにそれがかえってよい結果けっかになった、ということ。また、なんのもなくやったことが、たまたまよい結果けっかになった、ことでもある。
 【2】――Oさんは、でかけようとして玄関げんかんをでた。バス停ばすていちかくまでいったところで、財布さいふをわすれたことにづいた。あわてていえにもどり、財布さいふをもってでてきたが、バスはいったあとだった。つぎのバスは、じゅうふんたたないとこない。【3】「だいじな約束やくそくなのに、これじゃ、おくれてしまう」
 Oさんは、わすれものしたことをぼやいていた。つぎのバスにって、交差点こうさてんまできたときだ。パトカーやら救急きゅうきゅうしゃがきて、おおさわぎだった。まどからたOさんはびっくりした。【4】りおくれたバスがダンプカーと衝突しょうとつしている。けがにんもでたようだった。
 「いやあ、よかったあ。もしわすれものをしていなければ、あのバスにって。いまごろ……。」Oさんは、ほーっとおおきないきをついた。
 【5】こんなできごとを「怪我けが功名こうみょう」というんだ。
 ドライ・クリーニングの方法ほうほう世界せかいではじめてつけたのも、さいしょは失敗しっぱいからだった。つけたひとは、フランス・パリのたて、ジョリー・ベランさんだ。【6】ドライ・クリーニングとは、みず使つかわないで、物質ぶっしつをとかす液体えきたい使つかってせんたくする方法ほうほうだ。いちはちよんはちねんのある、ベランさんはテーブルのランプをひっくりかえしてしまった。ランプのオイルがテーブルにこぼれ、おくさんがせんたくしたばかりのテーブルクロスを、ひどくよごしてしまった。
【7】「まいったなあ。うちのやつがかえってくるまでに、きれいにしておこう。」
 べランさんは、よごれたテーブルクロスをにとった。ると、オイルがこぼれたほうがまっしろで、きれいになっている。これはどういうことか。【8】べランさんのあたまに、ひらめくものがあった。
「きっと、ランプオイルには、ぬのをきれいにするちからがあるのだ。」
 それからべランさんは、実験じっけんをくりがえし、クリーニングの方法ほうほうをマスターしたのだ。【9】そしてたてをやりながら、ドライ・クリーニングのしごともうけてやるようになった。
 テーブルクロスにオイルをこぼしたばかりに、ベランさんはとってもおおきな発見はっけんをしたのだ。【0】

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫ぶんこ)より


長文ちょうぶん 6.4しゅう
長文ちょうぶんふたつある場合ばあい読解どっかい問題もんだいよう長文ちょうぶんいち番目ばんめ長文ちょうぶんです。】
 カバは、昼間ひるまはほとんど、みずなかにいます。みずなかで、昼寝ひるねをしたり、のんびりしたりして、じっとしていることがおおいのです。
 それで、いつもみずなかにいるとおもわれるのですが、カバは、太陽たいようがしずむころになると、みずからでて、ろくにあがります。そして夜中よなかに、えさのくさべ、あさになって太陽たいようがのぼると、また、かわみずなかに、はいります。
 カバの皮膚ひふは、ほかの動物どうぶつよりも、うすくできているので、昼間ひるまりくにいると、からだのなか水分すいぶんがでていってしまいます。そのままほうっておくと、からだがかわいてしまって、んでしまいますから、なるべくみずなかにいるようにしているのです。
 また、カバは、体重たいじゅうせんひゃくキロからよんせんキログラムもあるので、みずなかのほうが、からだがかるくなり、らくなのです。
 カバのみみはなは、かおうえのほうにあります。そのため、みずなかにいても、や、みみはなのあなだけを、水面すいめんからだすことができます。
 ですから、みずなかにいてもはな呼吸こきゅうできますし、あやしいものがちかづけば、そのけはいをかんじることができます。きけんをかんじると、カバは、さっともぐります。
 みずなかにもぐるときは、はなみみのあなをとじます。

久道ひさみち健三けんぞう科学かがくなぜどうして」)
 【1】おちゃわんいっぱいでおべいなんつぶありますか? やくさん〇〇〇つぶ(〇・ごう)だそうです。わたし子供こどものころ、そのなかにときどきすこしくろちいさな斑点はんてんがついたつぶじっていました。がつくと気持きもちがわるいので、はしでつまみしたこともありましたが、たいていはにしないでべていました。【2】おやが「とりのぞかないと、おなかがいたくなるよ」と注意ちゅういをしたことはなかったからです。いつのまにか、そんなくろ斑点はんてんつぶりゅうはなくなり、しろのごはんになりました。
 【3】斑点はんてんつぶりゅうじっていると、わるいので、農薬のうやく使つかってくろ斑点はんてんつぶりゅうがでないようにしているのです。おちゃわんによんつぶ(〇・いち以上いじょう)あると、とうまい格下かくさげになり、がってしまうのです。農薬のうやく使つかわざるをえません。
 【4】おべいにいたずらして斑点はんてんつぶりゅうつくるのはカメムシです。ヘクサムシ、ヘコキムシともばれ、れると悪臭あくしゅうしてまもろうとする、ちいさなひらべったい五角形ごかっけいむしです。
 【5】なつがすぎいねすころ、カメムシは一部いちぶんできてちちうので、被害ひがいにあった一部いちぶんぼの一部いちぶつぶ斑点はんてんつぶりゅうになります。いち〇アール(=一反いったん)のにはやくさん〇〇まんつぶのモミがあるので、この〇・いち%はまんさん〇〇〇つぶになります。【6】これ以下いかにするには、計算けいさんじょうカメムシをろくひきぴきまんにする必要ひつようがあるので農薬のうやくがまかれるのです。
 害虫がいちゅうくと、いね病気びょうきにしたり、収穫しゅうかくりょうらしたりする「わるむし」とおもいがちです。しかしカメムシはそんなことはしません。収穫しゅうかくりょうらさず、人間にんげん健康けんこうをそこねない程度ていどのいたずらです。【7】それさえ人間にんげんゆるせなくなり、カメムシを害虫がいちゅう仲間なかまれてしまったのです。
 いまからさんねんほどまえ都市とし住民じゅうみんは、カメムシのいたずらをもゆるせない自分じぶんになっていることにづかぬまま、農薬のうやくのこわさにづき、「はん農薬のうやく」をうったえ、農薬のうやく使つか農業のうぎょう否定ひていしました。【8】お百姓ひゃくしょうさんも使つかいたくて使つかっているわけではないので、農薬のうやくつくってくれるひとが、ごく少数しょうすうながらあらわれました。すると農薬のうやく使つかっているおおくのお百姓ひゃくしょうさんが、こんどは「わるひと」にえてくるのです。【9】農薬のうやく使つかわざるをえない現実げんじつっていても、はん農薬のうやく世論せろんされた農業のうぎょう関係かんけいしゃは、められたとおりに農薬のうやくをまくことを省略しょうりゃくする「しょう農薬のうやく」や、濃度のうどをうすくすることを意味いみする「てい農薬のうやく」にしているので不安ふあんおもわなくてよいと反論はんろんしました。【0】
中略ちゅうりゃく
 悪循環あくじゅんかんるため、福岡ふくおかけん農業のうぎょう改良かいりょう普及ふきゅうしょ勤務きんむしていた宇根うねゆたかさんは「むしいたむしみばん」を使つかい、のなかにいるむしあらためて関心かんしんってもらうこころみを開始かいししました。かぶをたたき、むしばんうえちてくるむしを、害虫がいちゅう益虫えきちゅう、ただのむし見分みわける能力のうりょくをまずつけてもらいます。つぎに害虫がいちゅう繁殖はんしょくし、被害ひがいをあたえようとするタイミングをまなんでもらい、そのときに農薬のうやくをまくように指導しどうしていったのです。それまでよりは時間じかんはかかるけれど、のなかの自然しぜん関心かんしんち、つきあえる能力のうりょくやしなっていくのはたのしいものです。そのうえこわい農薬のうやく使用しようりょうり、健康けんこうにもよいし、経済けいざいてきにもたすかります。防除ぼうじょれきにしたがうといちさんかいまくところが、よんかいになったひともいます。これだけの効果こうかがあると、運動うんどうおおきくなり、福岡ふくおかけんから佐賀さがけんへもひろがりました。

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