(Translated by https://www.hiragana.jp/)
課題集
長文ちょうぶん 1.1しゅう
【1】「いってきまあす。」
わたし冬休ふゆやすみのあいだ毎日まいにち寝坊ねぼうしていたので、学校がっこうはじまってあさきるのがとてもつらい。はちてギリギリなので、ななよんじゅうふんきた今朝けさは、とてもあせった。
 【2】毎朝まいあさ、となりのむね真衣まいちゃんとマンションのエントランスでわせしているのだが、今日きょう約束やくそくじゅうふんにはうはずもない。大急おおいそぎでしたくをして、いえたら、はちすこぎてしまった。
 【3】ハアハア。小走こばしりで学校がっこうかう。がつくと、マフラー、手袋てぶくろはおろか、なんとコートまでわすれてしまった。今朝けさとくあさだとうのに。りにもど時間じかんはない。ほのおりゅうのように、くちからいきしろてくる。ハアハア、ハアハア。【4】ランドセルのなかのペンケースがカタッカタッとリズミカルにおどる。わたしみみはキーンとえて感覚かんかくがなくなっている。ゆびもしびれたようになってきた。く、くるしい。わたしやすまずにはしつづけた。まわりの景色けしきうしろにんでいく。
 【5】やっとのおもいで昇降しょうこうこうはいると、そのとき、チャイムがった。まだ安心あんしんはできない。これからさんかいまでかけのぼらなければならないのだ。廊下ろうか階段かいだんはしってはいけないことはわかっているが、このさいしかたがない。【6】と、全速力ぜんそくりょくこうとしたときうしろから、
山根やまねさん、おはよう。」
と、担任たんにん中田なかた先生せんせいこえをかけられた。あせった。しかし、先生せんせいといっしょにけば遅刻ちこくはまぬがれる。わたしは、先生せんせいならんであるくかっこうになった。
【7】「今朝けさ本当ほんとうさむいわねえ。あら、山根やまねさん、上着うわぎないでずいぶん薄着うすぎね。さむくなかったの?」
「あ、は、はい。薄着うすぎってうか……。」
「でもね、先生せんせい小学生しょうがくせいころくらべたら、いまふゆもずいぶんあたたかくなったわよ。」
 【8】先生せんせいによると、むかしは、ふゆになるとあさまって霜柱しもばしらこおりり、東京とうきょうでもまどにはつららがられたそうだ。手足てあしゆび霜焼しもやけになって、ひびれやあかぎれで皮膚ひふがピリピリしたとう。さらに、そんなにさむいのにおとこはみんなはんズボンでかけまわっていたらしい。【9】むかしは、そんなにさむかったんだ。いまさむさなんてたいしたことないんだ。しんなかでそうおもうと、わたしはコートもていないのにさむさをかんじなくなっていた。そして、こおりつきそうだったみみもほっぺたも、校舎こうしゃなかのほっとするようなあたたかさのなかで、ほてりはじめ、しそうだった。
 【0】廊下ろうか階段かいだんにいた生徒せいとは、みんな教室きょうしつまれ、さんかいいたときには、だれもいなくなっていた。先生せんせいがふと、わたした。
「そういえば、あなた今日きょう寝坊ねぼう? 遅刻ちこくじゃない?」
それを最後さいごまでかないうちに、わたしはぴょんと、とびら半分はんぶんひらいていた教室きょうしつんだ。
「セーフ!」
そして先生せんせいかって、両手りょうておおきくひらいてみせたのだった。

言葉ことばもり長文ちょうぶんちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 1.2しゅう
 【1】カブトムシやクワガタの生活せいかつする雑木林ぞうきばやしでは、ミヤマカミキリ、ノコギリカミキリなどの大型おおがたたね(しゅから、サビカミキリの仲間なかまちいさなたね(しゅまで、さまざまなカミキリムシが生活せいかつしています。【2】ほそえだ一部いちぶちいさなあながあいていたり、のかじりくずがもりあがってでていれば、たいていは、カミキリムシがいるか、でたあととてよいでしょう。
 このようなは、樹皮じゅひがあってもなか完全かんぜんいあらされ、かんたんにれてしまいます。【3】カミキリムシの幼虫ようちゅうは、かわ部分ぶぶんだけのこして、なかべてトンネルじょうにしてしまいます。その一部いちぶしろいイモムシがはいっているので、ちょうど、鉄砲てっぽうなかたまをこめたようにえるので、鉄砲虫てっぽうむしともよばれます。
 【4】このようなかたをしますから、ヒトがだいじにそだてている樹木じゅもくについたとなると、やはり害虫がいちゅうにされてしまいます。たとえば、シロスジカミキリの幼虫ようちゅうはイチジクのをよくべます。どもがイチジクのをとりにのぼると、えだなかが、がらんどうでれてしまうことがあり、やはりきらわれる資格しかくは、じゅうぶんにあります。
 【5】キボシカミキリ、クワカミキリ、トラフカミキリなどは、クワにつくので養蚕ようさんきらいます。クロカミキリ、マツノマダラカミキリはマツにつきますから、一時いちじ、マツのれの原因げんいんとしておおさわぎされました。【6】このような状態じょうたいは、森林しんりん害虫がいちゅうとよばれてもしかたのないめんもありますが、そうではない見方みかたもできます。
 まえおおいといいました。れたが、そのままはやしなかにごろごろしていると、からあたらしいがでるのをじゃますることになります。【7】はなるべくはや分解ぶんかいして、あたらしいやしたほうが、森林しんりんにとってはぐあいのよいことです。べる昆虫こんちゅうは、この倒木とうぼく分解ぶんかいはやめるはたらきをします。ようするに森林しんりんなかのそうじになるのです。
 【8】このてんでは、けっしてわるいむしではありません。はやし樹木じゅもく若返わかがえり、つまり森林しんりんわかさをたもはたらきをしています。同時どうじに、この幼虫ようちゅうたち、あるいは成虫せいちゅうも、トリやちいさなケモノのものにもなりますから、森林しんりん自然しぜん一部いちぶとしてのぞくことはできません。
 【9】マツの害虫がいちゅうかんがえられているマツノマダラカミキリについても、おもしろいことがわかっています。たしかに、このカミキリムシの幼虫ようちゅうはマツのざいべあらします。このてん害虫がいちゅうとよばれてもしかたのないことです。【0】ところが、きている樹木じゅもくについた幼虫ようちゅうは、中心ちゅうしんざいべても、樹皮じゅひざいのあいだにある、みず養分ようぶんとおかんのあるところは、あまりべないものです。
 というのは、ここをはやべてしまうと、よわるのもはやくなって、自分じぶんものをだめにしてしまう危険きけんせいがあるからです。ようするに、なるべく自体じたい長生ながいきさせながら、あまり植物しょくぶつ成長せいちょう関係かんけいしない場所ばしょべているのです。ですから、マツのなかでカミキリがすこしばかりべても、それほどきゅうに、がだめになることはありません。

 (「いいむしわるいむし奥井おくいいちまん 日本にっぽん少年しょうねん文庫ぶんこより)


長文ちょうぶん 1.3しゅう
 【1】いまからさんじゅうななねんあまりまえ、ちょうど、だい世界せかい大戦たいせんわって、アメリカと日本にっぽんのあいだで、物資ぶっしやヒトの移動いどうがさかんになりました。このとき、アメリカから、ちいさなしろいガが日本にっぽん侵入しんにゅうしてきました。【2】おそらく、サナギが荷物にもつ一部いちぶにくっついて日本にっぽんわたり、こちらで羽化うかしたのでしょう。
 このガは日本にっぽん環境かんきょうにうまくあったのか、たちまちふえはじめました。これがアメリカシロヒトリです。そして幼虫ようちゅうは、まちなか丸坊主まるぼうずにしていきました。【3】その日本にっぽん各地かくちで、この昆虫こんちゅうだい発生はっせいられるようになりましたが、やがてまた、あまりられなくなりました。いまでは、時々ときどき、かぎられた地域ちいき発生はっせいするのが、られるていどになりました。
 【4】このガの幼虫ようちゅうは、ふすると最初さいしょあみなんひゃくひきものちいさなケムシが集団しゅうだんあみなか生活せいかつしながら丸坊主まるぼうずにしていきます。サクラ、クワ、イチョウ、プラタナス、クヌギなど、なんでもべ、このままふえると、日本にっぽんちゅうべつくしてしまうのではないかとおもえるほどのいきおいでした。
 【5】ところが、このケムシは、成長せいちょうするとあみなかからて、単独たんどくあるきまわりべるようになります。そしてじゅうぶん成長せいちょうした幼虫ようちゅうが、かわしたや、なかなどにはいってサナギになります。【6】そしてつぎの成虫せいちゅう羽化うかしますが、この成虫せいちゅうは、あれほどたくさんいた幼虫ようちゅうほどのかずがいません。そしてつぎの幼虫ようちゅうは、そんなにおおくはならないのです。
 バッタのだい発生はっせいのようなことにはけっしてなりません。【7】また、このガは都会とかいなかにはよくられても、森林しんりん害虫がいちゅうになって、やま々をべつくしたことはいちもありません。
 じつは、このガの幼虫ようちゅうが、あみかららばって活動かつどうをはじめると、スズメやそのほかのトリにほとんどべられてしまうのです。【8】トリのほか、クモやカマキリ、アシナガバチなどにもべられてしまいます。じっさいには、〇・パーセントていどの生存せいぞんりつといわれますから、ひゃくひきのうちいちひきだけがきのこることになります。
 【9】成虫せいちゅうは、八百やおからせんほどのたまごみますから、ひとつのおやからせいぜいよんひきどもがきのこることになるのでしょう。これでもよくのこるほうで、じっさいにはもっとすくなくなります。ですから、とてもだい発生はっせいつづけることにはならないのです。【0】まして、森林しんりんやまにはトリやほかの昆虫こんちゅうがたくさんいますから、みんなべられてしまうので、森林しんりんなかまで侵入しんにゅうするちからがないのです。都会とかい目立めだつのは、この幼虫ようちゅうべる、トリやクモがすくないことを意味いみしているのです。
 また、この幼虫ようちゅうべるだけで、そのものはがいしません。いきおいさえよければ、べられても、つぎのとしはるにはあたらしいからまたをつけていきます。寿命じゅみょう活発かっぱつであるかぎり、べられても、それほどおおきな被害ひがいにはならないのです。
 ある先生せんせいは、このガの生態せいたい観察かんさつしているうちに、それほどおそろしい昆虫こんちゅうでないことがわかり、「アメリカシロヒトリなんて三流さんりゅう害虫がいちゅうさ」といいました。わたしたちのにいかにもおおきながいをあたえそうにえる昆虫こんちゅうでも、自然しぜんかいなかではたいした存在そんざいではないのです。
 このことからかんがえさせられることは、「トリやクモのめないような世界せかいこそおそろしい」ということです。アメリカシロヒトリは、そんなすきをねらってべているのです。

 (「いいむしわるいむし奥井おくいいちまん 日本にっぽん少年しょうねん文庫ぶんこより)


長文ちょうぶん 1.4しゅう
 だれだって失敗しっぱいなんかしたくない。
 失敗しっぱいすることははずかしいことだとおもっている。だから、なるべくなら失敗しっぱいしないように、細心さいしん注意ちゅういをはらう。 (中略ちゅうりゃく
 失敗しっぱいすることは、そんなにわるいことなんだろうか。そんなにはずかしいことなんだろうか。
 わたしのところにアルバイトにきてくれていたおんなは、とても優秀ゆうしゅうで、なにをしてもかんぺきにちか仕事しごとぶりだった。
 そんな彼女かのじょだから、たまにはちいさなミスでもして、注意ちゅういされたりすると、さぁたいへん、全然ぜんぜんたいしたことでもないのに、ぽろぽろとなみだながし、そのいちにちちゅうちこんでいる。
 これでは注意ちゅういしたほうもたまらない。「これ、まちがってるんじゃない?」とい、「あっ、そうか。いっけなーい」ですんじゃう会話かいわが、突然とつぜんきだされ、あげくにしょんぼりされてしまってはなにもえなくなってしまう。
 実際じっさい、おこられることを極端きょくたんおそれるひとがいる。おこられるとおもっただけで心臓しんぞうがとまりそうになったり、じんわりとなみだがうかんできたり……。必要ひつよう以上いじょう反発はんぱつするひともいる。そういうひとたちは、しんのどこかで、自分じぶんがおこられるようなことをするはずがない、おこられたりする自分じぶんはゆるせない、とおもっているのではないだろうか。
 わたし出版しゅっぱんしゃはたらいていたころ、おこられないいちにちもなかった。
 作業さぎょうがおそいといってどなられ、センスがないといってののしられ、ミスでもしようものなら、「バカヤロー」とおおきなかみなりちた。 いちいちにしていたり、ちこんでいたりしたら、三日みっかもつづかなかっただろうとおもう。
 もちろん、あまりおこられるので、自分じぶんはこの仕事しごとにむいていないのではないかと、けっこう真剣しんけんなやんだこともあったけれど、なにより、それでもこの仕事しごとき、というもちが優先ゆうせんした。
 それなら、おこられるにしても、おなじことでおこられないようにしよう。そのための改善かいぜんさくかんがえるしかない。
 作業さぎょうがおそいのは、手順てじゅんわるいせいではないか。センスがわるいといわれるのは、想像そうぞうりょくがかけているからではないか。ミスがおおいのは、あせりながらとりかかっているせいではないか……。
 おこられるポイントを、ひとつずつ整理せいりしてかんがえていくと、案外あんがい挽回ばんかいできるものだ。すこしずつだけど、おこられる回数かいすうもへってくる。あげく、わたしのことをどなりつづけたかみなりオヤジから、こうわれた。
「おまえって、ほんとにおこりがいのあるやつだな。おまえみたいなのをおこるのは、たのしくってしかたがない」
「どういうことですか!」
 さすがにむっとなる。ひとらないで、たのしいとはなにごとか。
「あのな。よーくおぼえておけよ。ひとはおこられなくなったらわりだ。おこられることは自分じぶんをのばすチャンスなんだ。だから、おこられなくなったら、自分じぶんはなされたか期待きたいされていないとおもえ」
 かれはそうこたえた。それから、わたしもだんだんとしをかさねて、ひと注意ちゅういする立場たちばになったとき、かれったことの意味いみがよくわかった。
 こちらが注意ちゅういして、すぐにいたり、ちこんだり、いわけばかりするひとのことは、もう二度にど注意ちゅういなんてしたくないとおもう。
 それより、多少たしょう優秀ゆうしゅうじゃなくっても、おこられたことを逆手さかてにとってがんばるひとのほうに注目ちゅうもくする。そしてそういうひとのほうが、確実かくじつにのびるのだ。
 なぜ失敗しっぱいしたのか。どうしておこられたのか。
 その理由りゆうかんがえ、それじゃぁこうしてみようとおもうからこそ、つぎにつながる。そうして成長せいちょうしていくのではないだろうか。

倉橋くらはし耀子ようこ「くよくよしないで、わらっちゃえ!」)


長文ちょうぶん 2.1しゅう
 【1】ぼくは、学校がっこうではからだおおきいほうだし、こえおおきいからちょっといばっています。ドラえもんにてくるジャイアンみたいだと悪口わるぐちもいるくらいです。いまはもう、よん年生ねんせいだから、最近さいきんはあまりしないけれど、てい学年がくねんのころはしょっちゅうケンカをして、友達ともだちかせていました。【2】それにおおきいにいさんがニじんもいるので、みんなよりいろいろなあそびや情報じょうほうっていて、そういうてんでもクラスのなかではちょっとリーダーてき存在そんざいかもしれません。
 しかし、うちでは「すえあまえんぼう」とわれています。【3】にいさんニじんとしちかいのですが、ぼくはしたにいさんよりはちさいしたなのです。だから、もうじゅうさいぎたのにときどきあかちゃんあつかいされます。とくに、おかあさんは、
「ひろちゃんはまだちいさいから。」
と、くちぐせのようにいます。【4】もうとっくにはおかあさんをしているのにです。
 先月せんげつわりごろ、なかにいさんが、
「ひろさあ、かあさん病院びょういんだし、今年ことし節分せつぶんやらなくてもいいよな。」
と、ぼそっといました。【5】おかあさんは、年末ねんまつ具合ぐあいわるくなって、緊急きんきゅう手術しゅじゅつをし、いま入院にゅういんしています。お医者いしゃさんから、病気びょうき名前なまえやどんな病気びょうきかをいたけれど、むずかしくてよくわかりませんでした。それより、病気びょうきになった理由りゆうが「はたらきすぎ」だったのではないかとになっています。【6】もともとあまりたいがじょうぶではなかったのに、さんにんおとこんでそだてているので、とても大変たいへんだったのだとおもいます。いつも、おかあさん、もっとやすめばいいのになあとおもっていたのに、あまりやすめないから、無理むりがいったのだとおもいます。
 【7】ぼくはしんなかで、節分せつぶんをやらないとしあわせないちねんごせないかもしれないとおもい、すこ心配しんぱいになりましたが、
「うん、そうだね。おれは学校がっこうでもまめまきあるからいいし。」
と、つよがっていました。するとにいさんは、うなずいてバイクででかけてしまいました。
 【8】それなのにさんにちよるになって、突然とつぜんバタバタとにいさんたちがかえってきて、ぼくにマスにはいったまめをもたせると、
「さあ、ひろ、かかってこい。」
うのです。マジックでざつえがいたおにのおめんをつけています。【9】ぼくは、おおきなこえで、
おには、そとぶくは、うち。」
と、にいさんおにまめをぶつけました。おにそと、おかあさんかえってきて。しんなかでそうさけぶと、なみだがぽろりとこぼれそうになり、ぼくはあわててをこすりました。【0】

言葉ことばもり長文ちょうぶんちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 2.2しゅう
 【1】バッタのがい有名ゆうめいなのは、日本にっぽんより外国がいこくです。イナゴよりいちまわりおおきいトビバッタの仲間なかま日本にっぽんではダイミョウバッタとよんでいる大型おおがたのバッタが、時々ときどきだい発生はっせいをします。
 アフリカ、インド、アメリカ、中国ちゅうごくなど、大陸たいりくきます。【2】『聖書せいしょ』のなかにも、東風こちがバッタの大群たいぐんはこんできて、ゆたかな土地とち植物しょくぶつべあらしていくことがかれています。この大群たいぐんは、日本にっぽんでは想像そうぞうのできないようなおおきなものです。
 【3】たとえば、ひがしアフリカで発生はっせいしたぐんむれは、先頭せんとうぐんむれのはばがいちろくキロ、あつさがさん〇メートルになり、時速じそくいち〇キロのスピードで、ぐんむれとおぎるのにきゅう時間じかんかかった、というような記録きろくがあります。【4】また、みなみアルジェリアで発生はっせいしたぐんむれが、さん〇〇〇キロ以上いじょうふうって移動いどうし、イギリスまで到着とうちゃくしたという記録きろくもあります。
 たいへんな数字すうじで、もしこんなことが日本にっぽんきたら、日本にっぽん農作物のうさくもつは、数日すうじつのうちに全滅ぜんめつしてしまうでしょう。
 【5】どうしてこんなことがきるのか、だんだんわかってきました。このようなだい発生はっせいだい移動いどうをするバッタは、ダイミョウバッタの仲間なかまの、サバクバッタや、ロッキートビバッタなど、七種ななくさほどのバッタですが、いずれも、ひとつのたね(しゅ)が、移動いどうしたり、しなかったりをくりがえしているのです。
 【6】移動いどうしないときのバッタを単独たんどくしょうのバッタとよび、性質せいしつはおとなしく、からだ緑色みどりいろおおくて、いちひきぴきいちひきぴきくさべて生活せいかつしています。ところが移動いどうするバッタは、群集ぐんしゅうしょうのバッタとよばれ、性質せいしつがあらく、なんにでもかみつくようになり、むらがって生活せいかつし、からだくろっぽいいろになってはねながくなります。
 【7】どうしてひとつのたねしゅで、こんなちがいがでてくるかというと、まずだいいちは、ある地域ちいきで、よい条件じょうけんした生活せいかつしているバッタから出発しゅっぱつするとかんがえられています。
 条件じょうけんがよいというのは、気候きこうがよく、もの豊富ほうふにあることを意味いみします。【8】こんな土地とちでは、まれた個体こたいがよくそだち、成長せいちょうのとちゅうでかずすくないので、だんだんとかずがふえることになります。
 かずがふえれば、その地域ちいきにいるバッタが、仲間なかま出会でありつたかくなり、とうぜん、オスとメスの出会でありつたかく、たくさん、たまごむことになります。【9】そのうえ、おたがいが接触せっしょくすることが刺激しげきになって、からだなかでのホルモンのはたらきが活発かっぱつになり、たまご発育はついくはやく、単独たんどくしょうのバッタよりみじか期間きかんで、産卵さんらんをはじめるようになります。
 気候きこうがよいから、つぎつぎにわかいバッタがまれ、かずはどんどんふえることになります。【0】すうがふえればだんだんものすくなくなります。すると、我先われさきにとくさべるようになり、競争きょうそうはげしくなります。性質せいしつがあらくなるのは、競争きょうそうけないようにするためでしょう。

 (「いいむしわるいむし奥井おくいいちまん 日本にっぽん少年しょうねん文庫ぶんこより)


長文ちょうぶん 2.3しゅう
 【1】カもハエとどうじ、まいばね昆虫こんちゅうです。これもあたらしいむしで、成虫せいちゅう地上ちじょうびまわるのに、幼虫ようちゅうみずなか生活せいかつです。だいたい、動物どうぶつは、水中すいちゅう生活せいかつから陸上りくじょうへとうつってきたものです。昆虫こんちゅう進化しんかすすむほど、陸上りくじょう生活せいかつをするものになります。【2】そのなかで、もう一度いちど幼虫ようちゅうみず生活せいかつにもどったことになりますから、カはよほど生活せいかつがなかったのでしょう。しかも、ちいさなからだみじか一生いっしょうですから、ヒトのわないかぎり、まったくにつかない昆虫こんちゅうですんだはずです。
 【3】うカはメスです。オスはわず、にたまったみずったりじゅくした果物くだものえきうだけです。メスはたまご発達はったつさせたり、たまごときみずうえかべるたまごがばらばらにならないように、たまごをくっつけるために、動物どうぶつ血液けつえき利用りようするのです。あのちいさなからだですから、いちひきのカがりょうはわずかです。
 【4】それでもされれば不快ふかいですから、いはらわれます。まして、ヒトからヒトへ血液けつえきうたびに、病原びょうげんたいっていたヒトのウイルス(日本脳炎にほんのうえんウイルスとかマラリア原虫げんちゅう)などを媒介ばいかいするとなれば、それがコガタアカイエカやハマダラカにかぎられるといってもカ全体ぜんたいがわるしゃにされてしまいます。【5】じっさいにはわないカもいますし、ヒトとまったく関係かんけいのないカのほうがおおいのです。ユスリカのように生物せいぶつがく実験じっけん材料ざいりょう使つかわれるものさえいるのです。
 ところで、動物どうぶつ血液けつえきからだそとにでると、すぐかたまって、ながれでるのをふせぐようになっています。【6】ちいさなカがくちしたとき血液けつえきかたまってしまうと、くちがつまってしまいます。そこで、カは、血液けつえきかす物質ぶっしつっていて、これをぜてうのです。カにされたあとがかゆいのは、この物質ぶっしつがヒトのからだなかにのこり、じゃまをするからです。
 【7】かゆいので、かけば、それだけらばりますから、よけいかゆくなります。カのほうはじゅうぶんにうと、このえきもださなくなり、びさりますから、とちゅうでたたかずにをわけてやったほうがかゆみはすくないのです。【8】それまでがまんできない場合ばあいのほうがおおいのですが……。
 カを研究けんきゅうしているひとたちは、いちにちのうちにいちかい、カのカゴのなかうでれ、なんひゃくひきものカにわせます。それでもヒトにはなにもきません。【9】病気びょうきのもとがないかぎり、カは、けっして、こわいむしでもなんでもありません。おそろしいのはよごれた環境かんきょうのほうでしょう。
 ところで、あのちいさなカがんでいるときには、ブーンというみみざわりなおとがします。【0】なつよるているところではになる羽音はおとですが、あれは仲間なかま自分じぶん場所ばしょらせるおとです。メスがえさをもとめて羽音はおとをたよりに、オスがやってきて交尾こうびします。おなじような振動しんどうおん音叉おんさをならすと、これにオスがいっぱいってきます。また、ヒトにかぎらず動物どうぶつ呼吸こきゅう排出はいしゅつする炭酸たんさんガスは、カをひきつけます。ドライアイスのけむり炭酸たんさんガスですから、これでカをあつめる方法ほうほうもあります。

 (「いいむしわるいむし奥井おくいいちまん 日本にっぽん少年しょうねん文庫ぶんこより)


長文ちょうぶん 2.4しゅう
「ゆたかみーつけっ。真理子まりこみーつけっ」
 ひろしがさけび、みんないっせいにはしりだした。駐車ちゅうしゃじょうをとびだすと空気くうきがうすあおく、もう夕方ゆうがたがはじまっている。わーっという歓声かんせいがあがり、ひろしがカンをけって、今度こんどはゆたかがおにになる。
 カポーン。あちこちへこんだあきカンが、まのぬけたおとをたててもう一度いちどけられ、おにをのこしてみんなかけだした。時夫ときおときおは、Tまではしっておもしたようにちどまり、くるっとうしろをふりむいた。
「やっぱり」
 やっぱり、だった。あお屋根やねのたてもののまどから、きょうもおばあさんがている。あお屋根やねのたてものは、そこからへいひとつへだてたキャベツはたけのむこうにあった。
「オレ、ぬける」
 ぽつんとって、時夫ときおときおはへいによじのぼると、ひょいととびおりた。ほこっとのにおいがする。
「おい。どこくんだ。養老ようろういんだぞ」
 背中せなかごしにゆたかのこえがした。そのあお屋根やねには、ボケてしまった老人ろうじんがたくさんいるので、子供こどもたちはこわがってちかよらないのだ。わかおんなひとをすってきているおばあさんがいるとか、子供こどもにくでつくったハンバーグがだい好物こうぶつのおじいさんがいるとか、いろんなうわさがあった。
 この養老ようろういんではしゅういち老人ろうじんたちに看護かんごさんが何人なんにんかつきそって、散歩さんぽくことになっていた。時夫ときおときおとおばあさんが出会であったのも、そんな散歩さんぽときだった。もういちヵ月かげつほどまえになるだろうか。かわぞいのみちでおとうさんとキャッチボールをしている時夫ときおときおを、おばあさんは土手どてからながめていた。
くぞ、時夫ときおときお
 おとうさんがそうったとき、やおらがったおばあさんはとつぜん、おおきなこえでこうったのだ。
「あんた、トキオ、いうんか。わたしはトキ、いうんじゃよ」
 びっくりするほどしっかりしたあしどりで、つかつかとちかづいてきたおばあさんはがひくく、にやけて、やせていた。
友達ともだちに、なってくれるかの」
 おばあさんは破顔一笑はがんいっしょう、そうった。
 それから毎日まいにち、おばあさんはまどから時夫ときおときおつめていたのだ。あそびにてほしいのかもしれない、時夫ときおときおなんもそうおもったが、その勇気ゆうきはなかった。キャベツはたけのむこうのあお屋根やねといえば、子供こどもたちにとって、おばけ屋敷やしきもおんなじだったのだ。
 けれども、もう決心けっしんした。時夫ときおときおはぐっとむねをはり、キャベツはたけのまんなかほそ小道こみちを、どんどんあるいていく。
「もどってこいよ。おにばばあがいるぞ。」
「ハンバーグにされちゃうから」
 みんなのこえが、うしろからきこえていた。
 ちいさな玄関げんかんはいり、病院びょういんのようなしつをぬけると階段かいだんがあり、まど目印めじるしにいくと、おばあさんの部屋へやはすぐにわかった。いろあせたたたみうえ冷蔵庫れいぞうことテレビがおいてある。時夫ときおときお帽子ぼうしをとっておじぎをした。
っとったよ。これはルームメイトのゆりこさんに、げんさんに、ひさしさん。これはわたし友達ともだちのトキオ」
 おばあさんはじゅんぐりに紹介しょうかいし、冷蔵庫れいぞうこからジュースをだしてくれた。おばあさんが「ルームメイト」という言葉ことば使つかったのが、なんとなくおかしくて、時夫ときおときおしんなかでくすっとわらい、緊張きんちょうが、するっとほどけた。
毎日まいにち毎日まいにち、カンけりしとったなあ」
 おばあさんがって、
「トキさんはまた、それを毎日まいにち毎日まいにちとったなあ」
 ひさしさんがった。ひさしさんは白髪はくはつ(しらがあたまみじかった、色白いろじろのおじいさんだ。
ていると、わたしもいっしょにあそんでいるようながしおってね」
 おばあさんははずかしそうにわらうのだった。
 ゆりこさんとばれたおばあさんはながかみひだりがわでおさげにんで、しろ浴衣ゆかたていた。部屋へやのすみのあか座布団ざぶとんうえにすわって、一心いっしんにお手玉てだましている。時夫ときおときお視線しせんがつくと、しずかに、ふわっとわらった。ちいさな、しろい、あどけないかおだった。
「アイスクリームがあるからおあがり。あんたのためにうといたに」
 おばあさんがった。かみのカップにはいったバニラアイスはかちかちにかたまって、冷蔵庫れいぞうこのにおいがついていた。ずいぶんまえからってあったんだな。時夫ときおときおはそうおもいながら、さっきからまどのそばでたばこをすっている、げんさんというおじいさんの横顔よこがおをちらりとた。むっつりして、すこしこわい横顔よこがおだった。
「テレビ、みようか。そろそろだい乃国がでるころだな」
 ひさしさんがった。
だい乃国? だめだめすもうは桝田ますださんだよ」
「おっ、しぶこのみだな」
 おすもうきのひさしさんと、やっぱりおすもうきの時夫ときおときおとはすっかり意気投合いきとうごうし、ハンバーグなんてうそばっかり、と、時夫ときおときおしんなかでつぶやいた。

こうこくえくに香織かおり「つめたいよるに」)


長文ちょうぶん 3.1しゅう
【1】「今日きょうのおわりは、さんはんぱんさあん。」
 日直にっちょくこえで、さんはんぱんにんはいっせいにがりました。今日きょうは、フルーツヨーグルトサラダの給食きゅうしょくなかでもデザートけいとく人気にんきです。【2】昨日きのうわたしのニはんがおわり優先ゆうせんだったのですが、メニューはだい好物こうぶつのスパゲティ・ミートソースでした。にくじゃがや、カレー、エビチリ、ビビンバなどがは、みんな大好だいすきなのでほかのはんまでおわりがまわりません。【3】給食きゅうしょくは、ほとんど毎日まいにちおいしいです。さかなはちょっとがっかりしますが、給食きゅうしょくさかなべやすいのでのこしません。
 わたしは、学校がっこうにあがるまえは、とてもしょくほそくて、からだちいさかったのですが、給食きゅうしょくのおかげでおおきくなったとははがいつもいます。【4】給食きゅうしょくがおいしいこともあるけれど、大勢おおぜいおおぜいべるからたくさんべられるのかなあとおもいます。うちでは、兄弟きょうだいがいないし、おとうさんは仕事しごとおそいので、たいがいおかあさんとにんっきりのごはんなのです。
 【5】昨日きのう、おかあさんに小学生しょうがくせいのころの給食きゅうしょくはなしいてみました。すると、
「おかあさんもね、じつしょくこまかかったのよ。いまはぽっちゃりしているけど。子供こどものころは、おばあちゃんが、やせすぎをいつも心配しんぱいしていたの。【6】学校がっこうにあがっても、てい学年がくねんのころは、すこししか給食きゅうしょくべられないし、時間じかんはかかるしで、給食きゅうしょくがいやだったわ。」
と、おどろくようなはなししました。
【7】「でもね、さん年生ねんせいとき担任たんにん先生せんせいが、農家のうか息子むすこで、おべい野菜やさいができるまでのはなしをいつも興味深きょうみぶかかせてくれたのよ。そのせいか、クラスではいつもおわりの競争きょうそうをしていて、それにまれるようになったことで、いつのにかすっかりいしんぼうになったのよねえ。」
【8】「やっぱり、べることがたのしいとおもってべると、からだにしっかりまれるのね。いまぎて、こまっちゃうけどね。」
わらいました。わたしは、それをいて、なるほどなあとしんなかおもいました。【9】そして、まえ担任たんにん先生せんせいが、
興味きょうみって、たのしみながらまなんだことはしっかりにつくのです。」
ったことをおもして、なんだかているなとおもいました。
 今日きょう給食きゅうしょくかんしょくでした。きれいにからっぽになったしょくかん満足まんぞくそうに配膳はいぜんだいならんでいました。【0】

言葉ことばもり長文ちょうぶんちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 3.2しゅう
 【1】化学かがく繊維せんい発達はったつし、最近さいきんでは、手間てまのかかる養蚕ようさんをするひとすくなくなりました。けれど、カイコをっているところをたことがあるひと、あるいは自分じぶんったことがあるひとなら、だれでもっていることですが、【2】たいらなものなかにクワのれ、そのままにしておいてもげだしもせず、あちこちあるきまわりもせず、ただクワさえきらさなければ、かんたんにえます。
 【3】ほかの昆虫こんちゅうときには、げないようにカゴやふたのあるものれ、えさやみずやと、けっこう苦労くろうするものです。カイコはその心配しんぱいがありません。やがて完全かんぜん成熟せいじゅくすると、もののすみや、れたクワののあいだにいとをはり、まゆをつくります。【4】養蚕ようさんが、このときものうえまゆをつくる格子こうしじょうのワクをいてやると、ここにはいがって、いちひきぴきひとつずつきれいにまゆをつくります。たまごからふした幼虫ようちゅうが、まゆになるまでだいたいいちげつで、そのあいだによんかい脱皮だっぴをして成長せいちょうし、まゆなかでサナギになります。
 【5】養蚕ようさんぎょうでは、まゆができるとすぐにあつめ、おおきさのそろったものをえらんでいとをとる工場こうじょうおくります。サナギが成虫せいちゅうのカイコガになるのはいち週間しゅうかんほどですから、ガにならないうちにいとをとりはじめます。【6】これは、まゆながらいとをやわらかくして、ほぐれたいとをまき方法ほうほう一般いっぱんてきです。これで、ひとつのまゆかられずにつながったいとがとれます。現在げんざいおおきなまゆは、せんひゃくメートルほどのいとになります。このいとをよりわせ、絹糸けんしにしてぬのります。
 【7】このようにまゆから一本いっぽんのつながったいとをとるのですから、まゆなか羽化うかしたガが、まゆやぶってそとにでたのではなんにもなりません。ヒトがいとをとるためには、成虫せいちゅうになってはいけないので、どんなにたくさんカイコがわれても、すべてころされてしまうことになります。
 【8】つぎのたまごませるぶんは、べつなにひきびきかのこしておけば、このガいちひきぴきせんちかたまごみますからいっこうにさしつかえありません。幼虫ようちゅう生活せいかつも、子孫しそんをつくることも、すべてヒトの計画けいかくどおりになっています。
 【9】そのうえ、羽化うかしたガは翅をっていますが、ぶことはできません。この翅のはばたきはもともとんでいたころのはばたきとおなじですから、いつごろからかべないガになってしまったのです。これも、たぶん、飼育しいく結果けっかでしょう。【0】すべてのてんが、ヒトがいやすい、すなわち管理かんりしやすいようになっているのです。
 こんな野生やせい昆虫こんちゅうが、はじめからいるわけがありません。その証拠しょうこに、今日きょうではカイコの祖先そせんがたかんがえられている野生やせいのカイコ、これはクワのにつくのでクワコとよばれますが、これは、成虫せいちゅう立派りっぱびますし、幼虫ようちゅうむらがることもなく、いちひきぴきずつかくれるように生活せいかつしています。飼育しいくもむずかしく、とてもカイコのようにはえませんし、注意ちゅういしないとすぐげだしてしまいます。

 (「いいむしわるいむし奥井おくいいちまん 日本にっぽん少年しょうねん文庫ぶんこより)


長文ちょうぶん 3.3しゅう
 【1】ヒトとイエバエの対比たいひすこすすめてみると、おおきさはいうまでもないでしょう。寿命じゅみょうはヒトを、平均へいきんろくじゅうねんとすれば、イエバエはわずか週間しゅうかんです。このあいだでたまご幼虫ようちゅう・サナギ・成虫せいちゅうわってしまいます。
 【2】どもは、今日きょう日本人にっぽんじん平均へいきんてきどものかずは、にんすなわち、にんさんにん、ハエはひゃくさんひゃくたまごみます。この寿命じゅみょうどものかずかんがえると、イエバエはいち年間ねんかんに、ものすごいかずにふえることになります。【3】ある計算けいさんでは、一対いっついのハエの子孫しそんが、半年はんとしおくひゃくばい以上いじょうかずになるといわれます。
 もちろん、ハエはこんなにはふえません。んでしまうどもがおおいからです。ただし、このんだどもはたまごであれ幼虫ようちゅうであれ、かならずほかの動物どうぶつ植物しょくぶつやくっています。【4】そのてんヒトでは、ほかのものにとってなんやくにもたないどもが、つづけていることになります。
 ハエが、みじか期間きかん大量たいりょうたまごむことには、おおきな意味いみがあります。それは、遺伝いでんにかかわる問題もんだいが、みじかいあいだで効果こうかてきにかたづくことです。【5】ある薬品やくひんたいして、抵抗ていこうせいのある個体こたいがいたとしましょう。ほかの個体こたいには抵抗ていこうせいがないと、薬品やくひんにであった場合ばあいんでしまうでしょう。
 ところが、抵抗ていこうせいをもっている個体こたいきのこります。【6】これが子孫しそんをのこしていくと、どもたちはみな、抵抗ていこうせいつものになります。しかも一生いっしょうみじかいから、このあいだ抵抗ていこうせいのないものがえ、抵抗ていこうせいのあるものがきのこり、ハエのぐんむれがすべて、抵抗ていこうせいのある個体こたいれかわる結果けっかになります。【7】このように短期間たんきかんで、仲間なかま性質せいしつをすべてえてしまうことができます。
 ヒトの場合ばあいは、一生いっしょうながく、まれるどものかずすくないので、特別とくべつ性質せいしつを、グループ全体ぜんたいれかえてしまうには、ひじょうにながい、おそらくなんまんねんという時間じかんがかかるでしょう。
 【8】また、ハエとヒトの運動うんどうせいをくらべるとどうでしょうか。もちろん、ヒトはハエのようにべません。その意味いみではヒトの運動うんどう範囲はんいは、ハエよりもせまいでしょう。
 ところで、ハエのすばらしさはスピードの調節ちょうせつのみごとさです。【9】そうとうなはやさでんできたハエは、そのままはやさをえずに、ぴたりとかべにとまります。もし、これをヒトにあてはめると、ひゃくメートル、全力ぜんりょく疾走しっそうしてきたヒトが、かべまえ速度そくどをゆるめず、ぴたりとまることになるでしょう。
 【0】ヒトには、とてもこんなことはできません。ひゃくメートルのゴールは、そこでわりではなく、はしりぬけるさきがあるから、全力ぜんりょくはしってこられるのです。ヒトはスピードをくわえるにも、おとすにも、助走じょそう必要ひつようです。これは運動うんどううえからいえばむだな部分ぶぶんです。
 ハエは、助走じょそう加速かそくもせず、ある場所ばしょ自由じゆうにとまり、自由じゆうびだすことができます。こんなうごかたは、ヒトがかんがえだしたどんな飛行機ひこうきでも、ヘリコプターでも、やることができません。むだな運動うんどうをしないことは、活動かつどうのエネルギーをたいせつにしていることになります。

 (「いいむしわるいむし奥井おくいいちまん 日本にっぽん少年しょうねん文庫ぶんこより一部いちぶなおす)


長文ちょうぶん 3.4しゅう
 うつくしい景色けしきをみておもわず、「きれいね」とくちにでて、たのしいおもいになる、それでもう十分じゅうぶんともおもいますが、そのたのしいおもいにさせてくれるものの姿すがたを、たしかめてみましょう。
 うつくしいものと、うつくしくないものと、わたくしはいま自分じぶん部屋へやまわして、よりわけてみました。
 つくえうえのペンさらにあるえんぴつ、なんほんかのえんぴつのなかうつくしくにうつるのは、けずりたてのえんぴつです。シンがまるくなったり、れたままのはうつくしいとはおもえません。
 おさらったバナナは、あざやかないろをしていてうつくしい。でもをたべてしまったかわは、かわになった瞬間しゅんかんに、もううつくしいとはおもえませんし、いろもまたたちまちくろずんできたなくなってしまいます。
 けずりたてのえんぴつがうつくしくにうつるのは、「どうぞ、いつでもすぐに使つかえますよ。」と、すぐにやくにたつ姿すがたせてくれているからでしょう。
 バナナのかわも、なかをつつんでいるという、使命しめいをもっているときはうつくしいのですが、その使命しめいわってかわだけになった瞬間しゅんかんうつくしくなくなります。
 こうしたことをおもうと、ひとしんよい感動かんどうをあたえるうつくしさとは、そのものがやくにたつという姿すがたせているところにあるのではないかとおもわれます。
 はなうつくしい、木々きぎうつくしいというのは、そのいのちうつくしさをかんじるところにあります。いのちとは活動かつどうすることであって、つまり、役目やくめをはたしている姿すがたです。はなも、せいいっぱいにき、そして自分じぶんたちの子孫しそん永続えいぞくさせるために、はなかせ、をならし、そのいのち充実じゅうじつさせて、活動かつどうしているのです。
 わたくしたちははたらひとうつくしいとます。どんなにどろんこでも、あせみどろでも、はたら姿すがたうつくしい。どろんこも、あせも、はたら姿すがたうつくしさをきたてます。これは、はたらくという行為こういが、活動かつどうそのものであり、やくだつ使命しめいをはたすことであり、あせもどろんこもまた、そのためにあるからです。
 でも、はたらくことをやめて、食卓しょくたくにむかったときの、あせみどろ、どろんこは、きたない、もううつくしくはにうつりません。このときの、どろんこやあせは、労働ろうどうという中味なかみをとってしまったあとののこりもの、バナナのかわみたいな存在そんざいになってしまったからでしょう。食事しょくじをするという行為こういに、どろんこは不要ふようです。そこで、きれいにさっぱりとあらいおとさなければなりません。
 ですから、おなじものでも、そのものが、そのものとしてやくにたたない場所ばしょにあるときは、うつくしくにうつりません。
 かみは、かみにあるからうつくしい。ぬけおちたかみが、食物しょくもつなかにでもはいっていたら、とてもゆううつです。
 ショーウィンドーの商品しょうひんがみなうつくしくえるのは、「このとおり、やくにたちますよ」と、マネキンにせてみせたりして、たのしく、わかりやすくかざられてあるからでしょう。
 わたくしたちのおしゃれや、動作どうさ、マナーなども、そのにふさわしく、やくにたつかたちであるとき、うつくしくえるのです。
 いそぐときは、きびきびした動作どうさうつくしく、ひとにものをたずねるときは、そのひとおそわるという気持きもちをあらわすのに必要ひつよう謙虚けんきょ動作どうさおしえるときは相手あいてによくわかるようにする動作どうさが、気持きもちよくうつくしくうつります。
 ここでひとこと、づいたことをいいそえますと、必要ひつよう実用じつようとはすこしちがいます。
 たとえばみちおそわるとき、わたくしたちは、「すみませんが」ということばをそえますが、実用じつようというめんからいうと、このことばはなくてもよいわけです。「東京とうきょうえきはどっちですか?」といえば、ようはたせます。でも、それではぶっきらぼうです。「すみませんが」といいそえることで、しんのあたたかみがつたわります。「どうぞおちゃをおみください」のときの「どうぞ」もおなじで、こうしたやさしさがあって、ことばも、動作どうさうつくしくなります。
 「必要ひつよう」と「実用じつよう」とを、どうぞ、まちがえないでください。
 わたくしたちがきてゆくうえでは、実用じつようてきころも(しょくじゅうのほかに、あそぶことも、たのしむことも、やすらぐことも必要ひつようです。そうした精神せいしんてき必要ひつようなものとして、やさしさやがつくりだされています。
高田たかだ敏子としこ世界せかい」)