(Translated by https://www.hiragana.jp/)
課題集
長文ちょうぶん 7.1しゅう
【1】「ほら、えさがなくなりかけているぞ」
 ちちこえひびきます。ぼくは、おととしから、フェレットをっています。フェレットというのは、イタチの仲間なかまで、ながからだをしています。ぼくのうちのは、タヌキのようなかおをして、茶色ちゃいろとグレーのあいだのようないろです。【2】セーブルという種類しゅるいで、もっとおおわれているそうです。どうしてはじめたかというと、まえに、動物どうぶつ病院びょういんちかくで、だれかがジャンパーのなかれてあるいているのをて、ほしくてたまらなくなったからです。お年玉としだまやお小遣こづかいを使つかわずにめ、半分はんぶんちちがおかねしてくれました。【3】ちちは、農家のうかそだったので、どものころから動物どうぶつかこまれていたそうで、ぼくがものうのはだい賛成さんせいなのです。
 最近さいきん、サッカーの朝練あされん世話せわをさぼりがちなぼくに、ちちいます。
【4】「おとうさんは学校がっこうがるまえから、ヤギの世話せわまかされていたんだ。きちんと毎日まいにちちちしぼりをしないとヤギの具合ぐあいわるくなる。絶対ぜったいやすめない仕事しごとだったんだよ。うし小屋こや掃除そうじ大変たいへんだった。なつなんかむんむんしてなあ。【5】ほかの友達ともだちさそいにても、仕事しごとわっていないと学校がっこうにもけなかったんだよ。でも、われている動物どうぶつは、人間にんげん世話せわをしてやらないときていけないのだから、しんどくてもがんばったよ。」
 【6】ぼくよりちいさいころから、たくさんの仕事しごとをしていたちちはすごいなあとおもいました。もしぼくだったら、さむあさきられなかったかもしれません。ちちは、動物どうぶつきだからこそ毎日まいにちがんばったのだろうなあとおもいました。
【7】「おとうさん、いやになったことないの?」
 ちちわらいながら、
「まあ、いやになることもあったけど、動物どうぶつれてくるとかわいいもんだからなあ」
と、フェレットのえさをしながらいました。【8】そして、
「おまえ自分じぶんいたいとってはじめたんだから、どんなことがあっても、世話せわをさぼっちゃだめだな。」
と、ぼくのほうました。ぼくは、ちょっと反省はんせいしました。あさはきついから、今日きょうから、よるまえかなら世話せわをしようとしんなかちかいました。
 【9】ちちは、フェレットにゆびめさせながら、
「おとうさんの田舎いなかでは、こういうのを『めんこいなあ』とうんだ。このイタチはどういうちなんだろな、なあんて。」
と、ほそめました。
 ぼくは、もっともっとちちどものころのはなしきたくなりました。

言葉ことばもり長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 7.2しゅう
 煙突えんとつうえのほうが、ぜんぶえあがっていました。しんにしてあったぼうえているのです。つよいふうにあおられたほのおが、いまにも屋根やねにうつりそうにながしたをのばしていました。かあさんは、ながぼうをひっつかむと、ゴーゴーとえあがるをむちゅうでたたきつづけ、ほのおをあげているぎれが、かあさんのまわりにどんどんおちていきました。
 ローラはどうしていいかわかりませんでした。自分じぶんぼうをひっつかみましたが、かあさんにそばへよってはいけないととめられました。は、ものすごいいきおいで、ゴーゴーおんをたててえています。いまにもいええつくすかもしれないのに、ローラにはどうすることもできないのです。
 ローラはいえにかけこんでいきました。えている石炭せきたんが、煙突えんとつからおちてきて、炉辺ろへんにころがりでています。いえのなかはけむりでいっぱいでした。まっかにけたおおきなぎれが、ゆかにころがりでてきました。メアリイのスカートのすぐそばです。メアリイはうごくこともできません。すっかりおびえきっているのです。
 ローラは、かんがえるひまもないほど、こわさでいっぱいでした。いきなりおもいゆり椅子いすをひっつかむと、ちからのかぎりひっぱりました。椅子いすは、メアリイとキャリーをのせたまま、ゆかをすべるようにあとへさがりました。ローラが、えているぎれをひっつかんで暖炉だんろにほうりこむのと同時どうじに、かあさんがいえへはいってきました。
「えらい、えらい、ローラ。のついたものがゆかにおちたとき、ほっといてはいけないといったのをよくおぼえていて」
かあさんはそういうと、バケツをとって、手早てばやく、でもしずかに、暖炉だんろみずをかけました。水蒸気すいじょうきがもうもうとあがります。
にやけどをした?」かあさんはローラのをしらべましたが、ローラはえているぎれをおおいそぎでげこんだので、やけどはしていませんでした。
 ローラは、もうおおきいからいたりはしないので、ほんとにいているわけではありませんでした。ただ、りょうほうのからひとつぶずつなみだがこぼれ、のどがきゅっとつまっているだけで、それはいているのとはちがいます。ローラはかあさんにしがみついて、ぴったりかおをくっつけてかくしてしまいました。かあさんが、火事かじでけがをしなかったのが、ローラはうれしくてたまらないのです。
かないのよ、ローラ」かあさんはローラのあたまをなでながらいいます。「こわかったかい?」
「ええ」ローラはいいます。「メアリイとキャリーがけちまうんじゃないかとおもってこわかったの。いえけてしまって、ところがなくなるんじゃないかとおもって。あたしーあたし、いまのほうがこわい」
 メアリイもやっとくちがきけるようになっていました。そして、かあさんに、ローラが椅子いすをひっぱって、えうつらないようにしたのだとはなしました。ローラはまだちいさく、メアリイとキャリーがすわったままでは、ただでさえおおきくておも椅子いすがどんなにおもかったろうにと、かあさんはびっくりしました。いったいどうやってローラがそれをうごかせたのか、しんじられないとかあさんはいいます。
「ローラ、おまえはとても勇気ゆうきがあったんだね」かあさんはいいました。でも、ローラは、ほんとうは、とてもこわかったのです。

(ローラ・インガルス・ワイルダー「だい草原そうげんちいさないえ」)


長文ちょうぶん 7.3しゅう
 【1】母屋もやはもうひっそりしずまっていた。うし小屋こやもしずかだった。しずかだといって、うしねむっているかめざめているかわかったもんじゃない。うしきていてもていてもしずかなものだから。【2】もっともうしをさましていたって、をつけるにはいっこうさしつかえないわけだけれども。
 巳之助みのすけはマッチのかわりに、マッチがまだなかったじぶん使つかわれていた火打ひうちの道具どうぐってきた。【3】るとき、かまどのあたりでマッチをさがしたが、どうしたわけかなかなかつからないので、にあたったのをさいわい、火打ひうちの道具どうぐってきたのだった。
 巳之助みのすけ火打ひうちでりはじめた。【4】火花ひばなんだが、火口かこうほくちがしめっているのか、ちっともえあがらないのであった。巳之助みのすけは、火打ひうちというものは、あまり便利べんりなものではないとおもった。ないくせにカチカチとおおきなおとばかりして、これではているひとをさましてしまうのである。
 【5】「ちぇッ」と巳之助みのすけ舌打したうちしていった。「マッチをってくりゃよかった。こげなちみてえなふるくせえもなア、いざというときにあわねえだなア。」
 そういってしまって巳之助みのすけは、ふと自分じぶん言葉ことばをききとがめた。
【6】「ふるくせえもなア、いざというときにあわねえ、……ふるくせえもなアにあわねえ……」
 ちょうどつきそらあかるくなるように、巳之助みのすけあたまがこの言葉ことばをきっかけにしてあかるくれてきた。
 【7】巳之助みのすけは、いまになって、自分じぶんのまちがっていたことがはっきりとわかった。――ランプはもはやふる道具どうぐになったのである。電灯でんとうというあたらしいいっそう便利べんり道具どうぐなかになったのである。【8】それだけなかがひらけたのである。文明開化ぶんめいかいかすすんだのである。巳之助みのすけもまた日本にっぽんのおくに人間にんげんなら、日本にっぽんがこれだけすすんだことをよろこんでいいはずなのだ。【9】ふる自分じぶんのしょうばいがうしなわれるからとて、なかすすむのにじゃましようとしたり、なんのうらみもないひとをうらんでをつけようとしたのは、おとことしてなんという見苦みぐるしいざまであったことか。【0】なかすすんで、ふるいしょうばいがいらなくなれば、おとこらしく、すっぱりそのしょうばいはてて、なかのためになるあたらしいしょうばいにかわろうじゃないか。
 巳之助みのすけはすぐへとってかえした。

新美にいみ南吉なんきちちょ 「おじいさんのランプ」より)


長文ちょうぶん 7.4しゅう
 授業じゅぎょう参観さんかんだといって、こんなにきんちょうしたことは、いままでになかった。亜紀あきは、国語こくご教科書きょうかしょをつくえのうえにだして、おおきく深呼吸しんこきゅうした。それから、ちらりとうしろをふりかえった。
 教室きょうしつのうしろには、もうろくにんのおかあさんたちがたっていた。
(あ、エミーのパパだ)
 ちょうど、うしろのドアからはいってきたたかおとこひとが、絵美えみのパパだった、亜紀あきは、こののために国語こくご特訓とっくんにつきあって、なんどか絵美えみいえへいっていたので、すぐにわかった。
 きょうの授業じゅぎょうは、絵美えみがこのままさくらほん小学校しょうがっこうにのこるか、アメリカンスクールへいかなければならないかがきまるだいじな授業じゅぎょうだ。
(どうか、エミーのパパのまえで、特訓とっくん成果せいかがでますように)
と、亜紀あきはいのるようなもちだった。
『ことわざと生活せいかつ』のところは、こえをだしてなんかいよんだだろう。きのうは、亜紀あきこえがかれるくらい、絵美えみといっしょに練習れんしゅうした。ことわざも、たくさんおぼえた。
 亜紀あきは、絵美えみになって、なんどもふりかえってみた。絵美えみは、しんけんなかおつきで教科書きょうかしょをひらいていた。あまり亜紀あきがうしろをむくのでいつのまにかきていた亜紀あきのママが、黒板こくばんをさして、「まえをむいていなさい」というしぐさをした。
 教室きょうしつのうしろが、おとうさんやおかあさんでいっぱいになったころ、パリッとした背広せびろをきた先生せんせいはいってきた。
「えー、きょうは、じゅうさんページの『ことわざと生活せいかつ』を勉強べんきょうします。みんな、どんなことわざをっているかな?」
 いつもは、わかっていてもをあげないひとがおおいのに、授業じゅぎょう参観さんかんは、みんながいっせいにをあげる。亜紀あきをあげた。それから、もういちど、絵美えみをふりかえると、絵美えみもまっすぐにをあげていた。
 何人なんにんかが、っていることわざを発表はっぴょうしたあと、先生せんせいは、
「そうだね、それでは、教科書きょうかしょをよんでみようか」
と、教室きょうしつをみまわした。
中山なかやまさん、よんでみて」
 まず、亜紀あきがあてられ、それから、くぎりのよいところできりながら、ろくにん順番じゅんばんによみすすめた。そして、やっと、
「それでは、つぎは、高田たかださん」
と、絵美えみまえがよばれた。
「はい」
 絵美えみは、はっきりとへんじをしてたった。そして、おおきなこえでゆっくりと教科書きょうかしょをよんでいった。はじめは、すこごえがふるえた。
 亜紀あきは、自分じぶんのときよりハラハラして、教科書きょうかしょ文字もじでおった。
「ですから、ことわざは……」
 絵美えみこえがつまった。
「ことわざは……」
 亜紀あきしんなかで、
「ニチジョウ、ニチジョウ!」
と、漢字かんじのよみかたをさけんでいた。絵美えみが、ちょっとかんがえて、
日常にちじょう生活せいかつのなかに……」
と、つづけたときは、ほっとした。

松浦まつうらとも「ライバルは転校生てんこうせい」)



長文ちょうぶん 8.1しゅう
【1】「うまっ」
 どうしてこんなにおいしいのでしょう。わたしは、つまみいの常習犯じょうしゅうはんです。つまみいは、お行儀ぎょうぎわるいとされていますが、じつ大事だいじ仕事しごとなのです。これは、よくえば「味見あじみ」です。【2】あじりないところや、なおしたほうがよいところを事前じぜん料理人りょうりにんらせることができるのですから。今日きょう料理人りょうりにんであるははにも、感謝かんしゃしてほしいくらいなのですが、なぜだかいつもぎゃくおこられてしまいます。もたもたしていると、こうをペチッとたたかれます。【3】ああ、こわい。それでも、わたしおとうとは、りずに毎晩まいばん任務にんむ遂行すいこうします。てきがマーボー豆腐とうふやカレーのときあきらめますが、たいがいの料理りょうりには挑戦ちょうせんします。得意とくい分野ぶんやは、ものるいです。これはだい好物こうぶつでもあるのです。
 【4】ちゅうでも、今夜こんやのようにフライドポテトがあるは、うでります。おなかもります。次々つぎつぎがってくる黄色きいろいポテトたち。むねがワクワクします。ははうしろをいて、つぎのポテトを投入とうにゅうしているときはねらいです。【5】テーブルにそっとちかづき、にもまらぬはやさで、ポテトをつかみます。その様子ようすは、まるでワニが獲物えものうしろからパクッとやるようです。おとうとは、あちっとってしまったり、としてしまったりと失敗しっぱいしやすいので、わたしおとうとぶんまでってあげます。【6】わたしはたいがい、気付きづかれずにることができます。かずまっているおかずのときなどは、られたことを気付きづかないはは
「おかしいわねえ。」
と、かずわないとくびをかしげることもあるほどです。
 【7】たまに、つかってしまってもちゃんと作戦さくせんがあります。おこられる直前ちょくぜんに、
「す、ご、くおいしかったよ。」
うのです。くちふうじのじゅつじゅつです。気負きおいこんで、いかろうとしていたははは、拍子抜ひょうしぬけして
「そ、そう?」
となってしまいます。【8】わたししんなかだい成功せいこう、とさけんでいます。
 ちちじつ仲間なかまです。ビール片手かたてにさりなく、テーブルのわきをすりけ、ると、しっかりつまみいのつまみをっているというわけです。
 【9】このあいだははいてみると、
「つまみいなんか、わたしはしたことないわよ。そんなはしたないこと。」
うので、こっそりおばあちゃんに電話でんわしました。すると
「しょっちゅうしよったよ。げたてをつまんで、なんヤケドしたことか。」
わらっていました。【0】

言葉ことばもり長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 8.2しゅう
 むかし、からからにかわいた砂漠さばくで、あるおとこが、じゅうとうのラクダを水飲みずのじょうにつれていこうとしていました。
 しばらくあるいたところで、おとこいちとうのラクダのにのり、あとなんとういるか、かぞえてみました。ラクダはきゅうとうしかいませんでした。おとこはあわててラクダのからおりると、いなくなったいちとうをさがしに、いまきたみちをてくてくあるいてもどりました。
 けれども、どこにも姿すがたえません。きっといなくなってしまったんだ。おとこは、そうおもってさがすのをやめ、大急おおいそぎでラクダたちのところへもどりました。
 がっかりして、もどってきてみると、これは、またどうしたことでしょう。ラクダはちゃんとじゅうとういるではありませんか。だいよろこびで、おとこは、そのうちのいちとうなかにのりました。
 ところが、しばらくすると、もういちど、かずをかぞえてみたくなりました。きゅうとうしかいない!おとこは、とほうにくれて、ラクダのからおりると、またいなくなったいちとうをさがしにいきました。どこにもいません。
 おとこは、れのところにとんでかえって、かずをかぞえてみました。すると、おどろいたことに、じゅうとうぜんぶそこにいて、ぶらぶらあたりをあるきまわっています。
 おとこは、これは砂漠さばくあつさのせいだと、もんくをいいながら、こんどは、いちばんうしろのラクダにのりました。そして、さんめの正直しょうじきとばかりに、もういちど、のこりのラクダをかぞえました。さっぱりわけがわからない。またいちとうたりなくなっている! おとこは、悪魔あくまをののしりながら、ラクダからとびおりました。そして、のろのろとれのあいだをあるきながら、いちとうずつかぞえていきました。ちゃあんとじゅうとういます。
「わかったよ、わかったよ、この根性こんじょうまがりの悪魔あくまめ。」
と、おとこきすてるようにいいました。
「のっていちとうをなくすくらいなら、じゅうとうつれてあるくほうがましさ!」

(ユネスコ文化ぶんかセンターへん「アジアのわらいばなし」)

 国家こっか試験しけん目前もくぜんにひかえたさんにん受験生じゅけんせいが、結果けっかをうらなってもらいに、ある占師うらないしのところへいきました。
 すると、占師うらないしは、なにもいわず、ただだまってゆび一本いっぽんててみせました。
 結果けっか発表はっぴょうされてみると、さんにんのうちひとりだけが合格ごうかくしており、おかげで、この占師うらないし評判ひょうばんはぐんとあがりました。
 占師うらないしのわかい弟子でしは、どうしてそれがわかったのかりたがりました。
成功せいこう秘訣ひけつは、ものをいわぬことじゃ。」
と、占師うらないしはいいました。そして、それをきいた弟子でしがぽかんとしているのをて、こうつけくわえました。
「いいかね、おまえは、わしがゆび一本いっぽんだしたのをておったろう。それは、さんにんのうちひとりだけが合格ごうかくするという意味いみにもれる。事実じじつ、そうなった。だが、もし、ふたり合格ごうかくしておったとしても、わしの見立みたては、やっぱりただしい。ゆびいちほんは、ひとりおちるという意味いみにとれるからな。さんにんともとおっていたとしても、ゆびいちほんは、さんにんそろっていちどに合格ごうかくという意味いみにとれる。その反対はんたいもおなじこと。どんなばあいも、わしはただしいんじゃ。」

(ユネスコ文化ぶんかセンターへん「アジアのわらいばなし」)


長文ちょうぶん 8.3しゅう
 【1】つぎあさはやく、うみぞうかいぞうさんは、また地主じぬしいえかけていきました。もんをはいると、昨日きのうよりちからのない、ひきつるようなしゃっくりのこえこえてきました。だいぶ地主じぬしからだがよわったことがわかりました。
【2】「あんたは、またましたね。親父おやじはまだきていますよ。」
と、てきた息子むすこさんがいいました。
「いえ、わしは、親父おやじさんがきておいでのうちに、ぜひおあいしたいので。」
と、うみぞうかいぞうさんはいいました。
 【3】老人ろうじんはやつれてていました。うみぞうかいぞうさんは、まくらもとに両手りょうてをついて、
「わしは、あやまりにまいりました。昨日きのう、わしはここからかえるとき、息子むすこさんから、あなたがねば息子むすこさんが井戸いどゆるしてくれるときいて、わるしんになりました。【4】もうじき、あなたがぬからいいなどと、おそろしいことを平気へいきおもっていました。つまり、わしはじぶんの井戸いどのことばかりかんがえて、あなたのぬことをちねがうというような、おににもひとしいしんになりました。【5】そこで、わしはあやまりにまいりました。井戸いどのことは、もうおねがいしません。またどこか、ほかの場所ばしょをさがすとします。ですから、あなたはどうぞ、なないでください。」
といいました。
 【6】老人ろうじんだまってきいていました。それからながいあいだだまってうみぞうかいぞうさんのかお見上みあげていました。
「おまえさんは、感心かんしんなおひとじゃ。」
と、老人ろうじんはやっとくちっていいました。
【7】「おまえさんは、しんのええおひとじゃ、わしはなが生涯しょうがいじぶんのよくばかりで、ひとのことなどちっともおもわずにきてきたが、いまはじめておまえさんのりっぱなしんにうごかされた。おまえさんのようなひとは、いまどきめずらしい。【8】それじゃ、あそこへ井戸いどらしてあげよう。どんな井戸いどでもりなさい。もしってみずなかったら、どこにでもおまえさんのきなところにらしてあげよう。あのへんは、みなわしの土地とちだから。【9】うん、そうして、井戸いど費用ひようがたりなかったら、いくらでもわしがしてあげよう。わしは明日あしたにもぬかもしれんから、このことを遺言ゆいごんしておいてあげよう。」
 うみぞうかいぞうさんは、おもいがけない言葉ことばをきいて、返事へんじのしようもありませんでした。【0】だが、ぬまえに、この一人ひとりよくばりの老人ろうじんが、よいしんになったのは、うみぞうかいぞうさんにもうれしいことでありました。

新美にいみ南吉なんきちちょ 「うしをつないだ椿つばき」より)


長文ちょうぶん 8.4しゅう
 アフリカ・オーストラリア・みなみアメリカのさん大陸たいりくには、肺魚はいぎょというさかながいて、真水まみずなかんでいます。肺魚はいぎょというまえからもわかるように、うきぶくろが、たいへんはいによくています。
 肺魚はいぎょも、ふだんは、えらで呼吸こきゅうをしていますが、あめのないぶしみずあがってくると、はい、すなわち、うきぶくろで、呼吸こきゅうをするようになります。
 みなみアメリカの肺魚はいぎょは、自分じぶんんでいるぬまがかわいてくると、まずにあなをほってはいりこみ、からだがみずからるにしたがって、うきぶくろで呼吸こきゅうはじめます。がすっかりかわいてしまいますと、からだがからからにかわかないように、ねばっこいえきでからだをくるんで、ふたたび、あめぶしになるまで、じっとしています。
 このようにはい呼吸こきゅうすることのできるさかなが、だんだんみずからりくがってきて、やがて、すっかり陸上りくじょう動物どうぶつになってしまうことが、想像そうぞうされないでしょうか。実際じっさいさんおくねんぐらいのむかしに、空気くうき呼吸こきゅうするさかなが、陸上りくじょう水中すいちゅう両方りょうほう生活せいかつするようになって、両生類りょうせいるいのなかまがまれました。
 動物どうぶつ陸上りくじょう生活せいかつするためには、陸上りくじょう植物しょくぶつがはえている必要ひつようがあります。たとえ肉食にくしょく動物どうぶつでも、そのえじきになる動物どうぶつは、植物しょくぶつべているのだし、すみかや、かくれがとしても、植物しょくぶつ必要ひつようだから、植物しょくぶつがはえていなければ、動物どうぶつ生活せいかつできません。
 だから、どうかんがえても、陸上りくじょう生物せいぶつまれるまえに、陸上りくじょう植物しょくぶつまれているはずなのです。動物どうぶつは、植物しょくぶつのあとをついて、水中すいちゅうから陸上りくじょうがりました。
 陸地りくち植物しょくぶつおおいにしげって、動物どうぶつめるようになったときに、さかなから両生類りょうせいるいまれたばかりでなく、それと前後ぜんごして、サソリやこんむし、そのほかいろいろの陸上りくじょう動物どうぶつができました。それが、いまからさんおくねんぐらいまえのことなのです。

八杉やすぎ龍一りゅういち進化しんかみちしるべ」)



長文ちょうぶん 9.1しゅう
 【1】「するってえとなにかい?」
 今日きょうもそんなことをってともだちをわらわせます。だいうけです。
 わたし歴史れきし勉強べんきょう大好だいすきです。最初さいしょにおもしろいとおもったのは、テレビで江戸えど時代じだい風俗ふうぞくのことを紹介しょうかいしているのをときです。【2】四畳半よじょうはんいちあいだ長屋ながやに、家族かぞくよんにんらしていて、トイレは共同きょうどう、お風呂ふろ銭湯せんとう生活せいかつでした。とにかくごはんをたくさんべて、おかずはあさ棒手振ぼてふりのりにる、あさりや豆腐とうふ納豆なっとうなどです。【3】わたしきなコロッケや焼肉やきにくはありません。長屋ながやは、なんけんかのいえがつながっていて、そこのひとたちはみんな仲良なかよしです。わたしは、その番組ばんぐみているとき、江戸えど時代じだいにタイムスリップしたような気持きもちになり、すっかりとりこになりました。
 【4】ろく年生ねんせいのおねえちゃんは、学校がっこうでも歴史れきし勉強べんきょうをしているので、とてもうらやましいです。いつも社会しゃかい資料集しりょうしゅうせてもらっています。土器どき写真しゃしんやおしろ写真しゃしん歴史れきしじょう有名ゆうめい人物じんぶつ写真しゃしんなどがっていて、いつまでていてもきません。【5】原始げんしじんわれる人々ひとびとのいたころから、たくさんの時代じだいがありますが、わたしがいちばん興味きょうみっているのはやはり江戸えど時代じだいです。現代げんだいちかいということもあるのかもしれませんが、とても身近みぢかかんじられ、江戸えど時代じだい雰囲気ふんいきがよくわかるようながするのです。【6】ちゅうでも、わたしは、おしろにいるお殿様とのさまやお姫様ひめさまよりも、最初さいしょにテレビで町人ちょうにんらしがきです。当時とうじ流行はやっていたものとか、普通ふつうらしはどんなだったかとか、りたいことが次々つぎつぎてきます。【7】ひとつわかると、またひと疑問ぎもんがわく、ということのかえしです。
 おとうさんは、
きな勉強べんきょうがあるなんてすごいじゃないか。どんどん調しらべて、博士はかせになるといいよ。」
 とはげましてくれます。【8】おかあさんは、ちょっと心配しんぱいそうに
「でも、歴史れきしほんばかりて、学校がっこう勉強べんきょう全然ぜんぜんしないのはこまるわねえ。」
 といます。そんなときもおとうさんは、
なにかに一生懸命いっしょうけんめいになれるひとは、のこともできるものだ。心配しんぱいいらないよ。」
 とってくれます。【9】そしてわたしには
将来しょうらい大好だいすきな歴史れきし勉強べんきょうするためにも、いま学校がっこう勉強べんきょう基礎きそになるからしっかり授業じゅぎょういておけよ。」
と、まじめにったのち、ニヤニヤして
江戸えどはえーどー。」
とダジャレをばしました。わたしけずにおりのほんせて
「ここにたからがあったから」
とやりかえしました。【0】

言葉ことばもり長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい φふぁい


長文ちょうぶん 9.2しゅう
 わたしがおもしろいとおもったのは、「テレビで、現実げんじつにはできない経験けいけんがあじわえるか」という質問しつもんにたいして、「そうおもう」があきらかに半数はんすうをこえ、「そうおもわない」のはよんにん一人ひとりくらいでした。わたしたちが直接ちょくせつ体験たいけんできることは、かぎられているので、テレビがわたしたちにかわって体験たいけんさせてくれること、また、テレビが現実げんじつ以上いじょう現実げんじつ劇的げきてきにつくりあげて体験たいけんさせてしまうことに、ひとびとはおそらくづいていて、このような回答かいとうがでてきているのだとおもいます。
 しかし、「テレビがあることで、きかたや行動こうどう手本てほんがえられる」とこたえたひと過半数かはんすうにとどかず、「そうおもわない」とこたえたひとさんにん一人ひとりで、テレビできかたの手本てほんをとかんがえているひとはおおいとはいってもにん一人ひとりになりません。テレビをひとせいきかたのうえでぜったいに重要じゅうようなものとはかんがえていないといえるかもしれません。
 このてんは、「テレビはひとことでいえば、どんなかんじのものですか」という質問しつもんにたいして、「あれば便利べんりという程度ていどのもの」というこたえが過半数かはんすうをこえ、「なくてはならないもの」というこたえを〇パーセントぐらいうわまわっていることからもこのことはうらづけされているようにおもわれます。
 テレビの影響えいきょうについてはひとびとはどのようにかんじているのでしょうか。
 テレビ、新聞しんぶん、ラジオ、週刊しゅうかんなどをひっくるめて、マスコミというよびかたがされていますが、そのようなマスコミ全体ぜんたいのなかでテレビの影響えいきょうはどんな位置いちをしめているのでしょう?
 まず、「衣食住いしょくじゅうなど、ひとびとの生活せいかつのしかたに、いちばん影響えいきょうをあたえているものは、どれだとおもいますか」という質問しつもんにたいしては、テレビをあげるひとがまさに圧倒的あっとうてきにおおく、それぞれじゅうパーセント以下いか新聞しんぶん週刊しゅうかん、ラジオをはるかにひきはなしています。ところが、「政治せいじ社会しゃかい問題もんだいについての世論せろん」については、テレビとこたえるものがやく半数はんすうで、新聞しんぶんとこたえるものとほとんどかわりません。このてんでは新聞しんぶん影響えいきょうもおおきいとかんじられているわけです。なお、週刊しゅうかんとラジオはたったいちパーセントだいでした。
 さらに「マスコミがつたえていることは、ほぼ事実じじつどおりだとおもうか」という質問しつもんにたいして、「そうおもう」が「そうおもわない」よりすくなくなっています。マスコミへの不信ふしんがかなりおおくみられているわけです。このてんは、「どちらかといえば、いろいろな情報じょうほうがありすぎて、まどわされることがおおい」という回答かいとうさんにん一人ひとりぐらいはいるのと合致がっちしているようです。
 マスコミの報道ほうどうがかならずしも事実じじつをつたえていないとすれば、それにふりまわされるようなことがあってはならないということになります。いかがわしいとすれば、事実じじつ真実しんじつをみきわめる必要ひつようがあります。
 ひとびとはマスコミへの不信ふしんをもちつつ、さらにそれにのせられる――うごかされる――ことに不安ふあんももっているのです。
ひとびとの意見いけんは、らないうちにマスコミのいうとおりにうごかされていることがおおいか」という質問しつもんにたいして、「そうおもう」がよんにんさんにんぐらいで、「そうおもわない」をはるかにしのいでおおくのこたえをよせています。
 ひとびとがマスコミにたいして意外いがいとおおく、批判ひはんてき意識いしきをもっていることがわかります。これはだいじにしなければならない意識いしきだとおもいます。
 近年きんねん、テレビの社会しゃかいてき影響えいきょうりょくについての専門せんもんてき研究けんきゅう分野ぶんやでも、テレビの影響えいきょうが「強力きょうりょく」であるということがほぼ定説ていせつとなってきています。わたしたちは、やはり、ひとりひとりがまず「テレビをみる」をつくり、やしなうことが必要ひつようなのです。

佐藤さとうあつしたけし「テレビとわたしたち」)


長文ちょうぶん 9.3しゅう
【1】「くッくッくッ。」
とかしらは、わらいがはらうちからこみあげてくるのが、とまりませんでした。
「これで弟子でしたちに自慢じまんができるて。きさまたちが、ばかづらさげて、むらなかをあるいているあいだに、わしはもううしをいっぴきぬすんだ、といって。」
 【2】そしてまた、くッくッくッとわらいました。あんまりわらったので、こんどはなみだてきました。
「ああ、おかしい。あんまりわらったんでなみだてきやがった。」
 ところが、そのなみだが、ながれてながれてとまらないのでありました。
【3】「いや、はや、これはどうしたことだい、わしがなみだながすなんて、これじゃ、まるでいてるのとおなじじゃないか。」
 そうです。ほんとうに、盗人ぬすっとのかしらはいていたのであります。――かしらはうれしかったのです。【4】じぶんはいままで、ひとからつめたいでばかりられてきました。じぶんがとおると、人々ひとびとはそらへんなやつがたといわんばかりに、まどをしめたり、すだれをおろしたりしました。【5】じぶんがこえをかけると、わらいながらはなしあっていたひとたちも、きゅうに仕事しごとのことをおもいだしたようにこうをむいてしまうのでありました。【6】いけめんおもてにうかんでいるこいでさえも、じぶんがきしつと、がばッとからだをひるがえしてしずんでいくのでありました。あるとき猿回さるまわしの背中せなかわれているさるに、かきをくれてやったら、一口ひとくちもたべずにべたにすててしまいました。【7】みんながじぶんをきらっていたのです。みんながじぶんを信用しんようしてはくれなかったのです。ところが、この草鞋わらじをはいたどもは、盗人ぬすっとであるじぶんにうしをあずけてくれました。じぶんをいい人間にんげんであるとおもってくれたのでした。【8】またこのうしも、じぶんをちっともいやがらずおとなしくしております。じぶんがははうしででもあるかのように、そばにすりよっています。どももうしも、じぶんを信用しんようしているのです。こんなことは、盗人ぬすっとのじぶんには、はじめてのことであります。【9】にん信用しんようされるというのは、なんといううれしいことでありましょう。……
 そこで、かしらはいま、うつくしいしんになっているのでありました。どものころにはそういうしんになったことがありましたが、あれからながあいだ、わるいきたなしんでずっといたのです。【0】ひさしぶりでかしらはうつくしいしんになりました。これはちょうど、あかまみれのきたな着物きものを、きゅうににきせかえられたように、奇妙きみょうなぐあいでありました。
 かしらのからなみだながれてとまらないのはそういうわけなのでした。

新美にいみ南吉なんきちちょ 「はなのきむら盗人ぬすっとたち」より)


長文ちょうぶん 9.4しゅう
 空気くうきのよごれ、つまり大気たいき汚染おせん実感じっかんできるのは、まずお天気てんきがいいのにはらしがわるく、とおくがえないとか、そらあおくないというときでしょう。これは空気くうきちゅうをただようこまかいチリやスス(浮遊ふゆう粒子りゅうしじょう物質ぶっしつといいます)が原因げんいんです。この状態じょうたいがひどいときはスモッグといわれます。
 スモッグはにみえる大気たいき汚染おせんですが、にみえない物質ぶっしつによってもたらされる大気たいき汚染おせんもあります。みなさんは光化学こうかがくスモッグということばをいたことがあるでしょう。こちらは硫黄いおう酸化さんかぶつとかチッもと酸化さんかぶつというにみえない物質ぶっしつ原因げんいんです。
 かつてはこうした大気たいき汚染おせん原因げんいんとなる物質ぶっしつは、おも工場こうじょう煙突えんとつからるけむりのなかにふくまれていました。それで工場こうじょう中心ちゅうしんとした都市としでは、ひどい大気たいき汚染おせん発生はっせいし、ぜんそくなどの病気びょうきがおこりました。
 これはたいへんだということで、工場こうじょう煙突えんとつからはきれいなけむりしかしてはいけないということがきめられました。いまでは、煙突えんとつしたにけむりをきれいにする機械きかいがついています。
 それで、以前いぜんよりはましになったのですが、それでも都市とし空気くうきはよごれていますね。そうです、問題もんだい自動車じどうしゃ排気はいきガスです。
 もちろん、自動車じどうしゃ排気はいきガスも、きれいにしてすようにきめられています。ですから自動車じどうしゃ排気はいきガスは、むかしとくらべるときれいになっています。
 けれども、排気はいきガスは二酸化にさんかチッもとばれる物質ぶっしつがふくまれていて、これがいまの都市とし大気たいき汚染おせんおも原因げんいんとなっています。また、トラックやバスなどの大型おおがたのディーゼルしゃからくろいけむりも問題もんだいになっています。
 自動車じどうしゃいちだいいちだい排気はいきガスをきれいにする技術ぎじゅつてきなくふうはどんどんすすめられています。でも、自動車じどうしゃかずは、どんどんふえています。たとえば、いちきゅうきゅうねん平成へいせいよんねんまつでは、全国ぜんこくろくよんまんだい(トラックやバス、バイクをふくみます)にもなっています。
 その自動車じどうしゃおおくは、住宅じゅうたくがいから都市とし中心ちゅうしんへの通勤つうきん利用りようされたり、都市としなかでの移動いどう使つかわれたりしています。また、ひと移動いどうのためだけではなく、さまざまな品物しなものをおみせなどにおさめることや、宅急便たっきゅうびんなどでも使つかわれています。
 コンビニエンス・ストアなどは、おおきなスーパーやデパートなどとちがって、それぞれのみせ倉庫そうこひろくないので、品物しなもの補充ほじゅうする納品のうひんのためのくるまが、いちにちなんかいもまわっています。
 こうしたこまめな配送はいそうのおかげで、わたしたちはつくりたてのおべんとうをってたべることができるのですが、そのぶん、たくさんの自動車じどうしゃはしりまわっていることになります。
 その結果けっか都市とし中心ちゅうしんはもとより、住宅じゅうたくがいおおきな道路どうろでも、いつも渋滞じゅうたいがおこっています。渋滞じゅうたいがおこると、自動車じどうしゃうごいたり、とまったりをくりかえすことになります。
 自動車じどうしゃうごきはじめるときにエンジンの回転かいてんすうがあがり、排気はいきガスがおおます。とくに、トラックやバスなどの大型おおがたのディーゼルしゃですと、ブワーッというかんじでくろいけむりがます。ですから、スムーズにはしっているときにくらべると大気たいき汚染おせんがひどくなるというわけです。

阿部あべおさむ市川いちかわ智史さとし「ふくれあがる大都市だいとし」)