障害しょうがい学会がっかい第だい９回かい大会たいかい（２０１２年度ねんど）・自由じゆう報告ほうこく

■報告ほうこく者しゃ（共同きょうどう報告ほうこくの場合ばあいは代表だいひょう者しゃ）
□氏名しめい（ふりがな）：青木あおき千帆ちほ子こ（あおきちほこ）

■発表はっぴょう要旨ようし（２，０００字じ以内いない）［註、文献ぶんけん、図表ずひょう等とうを含ふくむ］：
　　１．背景はいけい
　電子でんし書籍しょせき市場いちばの発展はってんに伴ともない、様々さまざまなデバイスやフォーマットによって書籍しょせきを利用りようすることが可能かのうになった。たとえば、スクリーン・リーダーと称しょうされるパソコンの画面がめんの音声おんせい読よみ上あげに使用しようされてきた既存きそんの音声おんせい読よみ上あげ機能きのう（text to speech: TTS）を用もちいて書籍しょせきを聴読することが、技術ぎじゅつ的てきには可能かのうである。そして、このノウハウが今後こんごの電子でんし書籍しょせきにおけるアクセシビリティ向上こうじょうに寄与きよする可能かのう性せいは高たかいと予想よそうされる。視覚しかく障害しょうがい者しゃなど、従来じゅうらいの活字かつじ書しょによる読書どくしょに不便ふべんを強しいられてきた者ものにとって、音声おんせい読よみ上あげ機能きのうを活用かつようした電子でんし書籍しょせきのアクセシビリティ確保かくほは、切実せつじつなニーズである。
　しかし、電子でんし書籍しょせきにはいくつかの問題もんだい点てんが残のこっている。とりわけデジタル著作ちょさく権けん保護ほご技術ぎじゅつ（Digital Rights Management、以後いごDRM）によって、流通りゅうつうしている電子でんし書籍しょせきのテキストデータにアクセスできない点てんがあげられる。書籍しょせきのテキストデータは、これまでも視覚しかく障害しょうがい者しゃの情報じょうほう保障ほしょう環境かんきょうを整備せいびする上じょうで欠かかすことのできない媒体ばいたいであった。それは、音声おんせい読よみ上あげ機能きのうを搭載とうさいしたデバイスを用もちいて読よみ上あげるだけでなく、自動じどう点訳てんやくをするためにも、また複ふく合あい的てき情報じょうほう提供ていきょうシステムであるマルチメディア・デイジーとして活用かつようするためにも必要ひつようとされてきたからである（★1）。一方いっぽうで、書籍しょせきのアクセシビリティと著作ちょさく権けんの問題もんだいは不透明ふとうめいなまま残のこされてきた。書籍しょせきをテキストデータ化かすることに対たいしては、データの複製ふくせい・改かいざんが容易よういであること、外部がいぶへの流出りゅうしゅつの可能かのう性せいが払拭ふっしょくできない、といった危惧きぐが著作ちょさく権けん者しゃから示しめされている（★2）。
　著作ちょさく権けんと著作ちょさく権けん保護ほご技術ぎじゅつをめぐる議論ぎろんは、現在げんざい世界中せかいじゅうで展開てんかいされている議論ぎろんでもある。2004年ねんにGoogle社しゃが米国べいこくで開始かいしした「Google Book Search」（開始かいし当時とうじは「Google Print」）は、書籍しょせきの電子でんし化かを進すすめ、全文ぜんぶんを検索けんさくして一部いちぶを無料むりょう閲覧えつらんできるサービスや、全文ぜんぶんを販売はんばいするビジネスを展開てんかいした（★3）。この「Google Book Search」の影響えいきょうが世界中せかいじゅうに及および、いずれの国くにも書籍しょせきの電子でんし化かにおいて大だい変動へんどうが起おきているといっても過言かごんではない。しかし、世界中せかいじゅうに電子でんし書籍しょせきが普及ふきゅうしはじめる中なかで、書籍しょせきのアクセシビリティの問題もんだいがどのように議論ぎろんされ進展しんてんしているのかはあまり知しられていない。
　日本にっぽんにおいては、2010年ねんの改正かいせい著作ちょさく権けん法ほう施行しこうにより「障害しょうがい者しゃの情報じょうほう利用りようの機会きかいの確保かくほのための措置そち」として書籍しょせきのテキストデータの製作せいさくと頒布はんぷが認みとめられた。しかし、現時点げんじてんにおいても著作ちょさく権けん者しゃの権利けんりの保護ほごに重心じゅうしんを置おく状況じょうきょうに、変かわりはないように感かんじられる。
　一方いっぽう、アメリカにおいては、全米ぜんべい盲人もうじん連合れんごう（National Federation of the Blind: NFB）が電子でんし書籍しょせきのアクセシビリティに関かんして精力せいりょく的てきに活動かつどうしている（★4）。これに加くわえ、2012年ねん3月がつに世界せかいな人気にんきを誇ほこる児童じどう文学ぶんがく「ハリー・ポッター」シリーズが著作ちょさく権けん保護ほご技術ぎじゅつをかけずに発売はつばいされたことから、読者どくしゃの利便りべん性せいを重視じゅうしする議論ぎろんが散見さんけんされるようになってきた（★5）。ところが、アメリカ、イギリスに続つづいて2011年ねん4月がつにアマゾン社しゃ製せいキンドルの導入どうにゅうが進すすんだドイツにおける議論ぎろんに接せっする機会きかいはあまりない。ドイツでは、出版しゅっぱん社しゃや著作ちょさく権けん者しゃ、図書館としょかんや教育きょういく機関きかん、そして読書どくしょ障害しょうがいを持もつ当事とうじ者しゃ組織そしきがどのような活動かつどうを展開てんかいしているのだろうか。また、書籍しょせきのテキストデータ化か、すなわち書籍しょせきのアクセシビリティについてどのような議論ぎろんが展開てんかいされているのだろうか。

　　２．目的もくてき
　そこで本ほん研究けんきゅうにおいては、上述じょうじゅつした背景はいけいをもとにドイツでの調査ちょうさを実施じっしし、ドイツにおける電子でんし書籍しょせきや書籍しょせきのアクセシビリティをめぐる現状げんじょうと議論ぎろんについて考察こうさつする。

　　３．方法ほうほう
　以上いじょうの目的もくてきのため、2012年ねん7月がつ〜8月がつにかけてドイツに滞在たいざいしインタビュー調査ちょうさを実施じっしする。調査ちょうさ対象たいしょうは、視覚しかく障害しょうがい者しゃ団体だんたい、公共こうきょう図書館としょかん、盲人もうじん図書館としょかん（Deuthche Blindenhoerbuecherei e.V.）、公立大こうりつだい学がく障害しょうがい学生がくせい支援しえん室しつなどである。これら機関きかんにおいて電子でんし書籍しょせきや書籍しょせきの音声おんせい化か、点字てんじ化か、デジタル化かに携たずさわる人々ひとびとに対たいしインタビューを実施じっしする。インタビューに際さいしては、全すべての対象たいしょう者しゃにあらかじめ以下いかの質問しつもん項目こうもくを送付そうふし、半はん構造こうぞう化か面接めんせつの形式けいしきで自由じゆうに論述ろんじゅつしてもらう。事前じぜんに送付そうふする質問しつもん内容ないようは、以下いかの6項目こうもくである。
1. 書籍しょせきのアクセシビリティを確保かくほする方法ほうほうについて
2. 読書どくしょに困難こんなんを持もつ人々ひとびとの電子でんし書籍しょせき利用りよう状じょう況きょうについて
3. アメリカのブックシェア（Bookshare）にみられるような書籍しょせきデータ共有きょうゆうシステムの有無うむおよびその仕組しくみについて
4. 共有きょうゆうする書籍しょせきデータの著作ちょさく権けん保護ほごに関かんして
5. 電子でんし書籍しょせきのアクセシビリティ向上こうじょうに関かんして
6. 書籍しょせきのアクセシビリティを確保かくほするとりくみにおける図書館としょかん、学校がっこう、民間みんかん組織そしき、出版しゅっぱん社しゃ間あいだの連携れんけいについて

　　４．結果けっか
　結果けっか及および考察こうさつは当日とうじつ会場かいじょうにて報告ほうこくする。

　　５．注釈ちゅうしゃく
★1 山口やまぐち 翔しょう・植村うえむら 要かなめ・青木あおき 千帆ちほ子こ　2011「ブラウザ・ビューア閲覧えつらん型がた電子でんし書籍しょせきのアクセシビリティにおける課題かだい」情報じょうほう通信つうしん学会がっかい第だい28回かい学会がっかい大会たいかい
★2 植村うえむら 要かなめ　2008「出版しゅっぱん社しゃから読者どくしゃへ、書籍しょせきテキストデータの提供ていきょうを困難こんなんにしている背景はいけいについて」『Core Ethics』4:13-24
★3 マイナビニュース 2009「『日本にっぽんの著作ちょさく権けん者しゃが大だい混乱こんらん』米べいGoogleブック検索けんさく和解わかい案あんに抗議こうぎ - 文藝ぶんげい家か協会きょうかい」http://news.mynavi.jp/news/2009/04/16/026/index.html　（最終さいしゅうアクセス日び：2012年ねん7月がつ15日にち）
★4 NFBは、2009年ねん6月がつにアリゾナ州立しゅうりつ大学だいがくに対たいして起おこした訴訟そしょうが有名ゆうめいであるが、2012年ねんに入はいってからも5月7日にちにフィラデルフィア図書館としょかんに対たいし、同年どうねん5月がつ22日にちにMaricopa Community Collegeに対たいし、6月27日にちに米国べいこく国務省こくむしょうに対たいし、訴訟そしょうを起おこしている。
★5 例たとえば、Digital Book World　2012 "More Publishers Go DRM Free" http://www.digitalbookworld.com/2012/more-publishers-go-drm-free/ などが例れいとして挙あげられる。（最終さいしゅうアクセス日び：2012年ねん7月がつ15日にち）