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障害学会神戸大会大野レジュメ

報告ほうこくしゃ共同きょうどう報告ほうこく場合ばあい代表だいひょうしゃ
氏名しめい(ふりがな):大野おおの真由子まゆこ(おおのまゆこ)
報告ほうこく題目だいもく(40以内いない):障害しょうがいしゃ福祉ふくし制度せいど谷間たにまちる難病なんびょうしゃ支援しえん制度せいど設計せっけいにおける具体ぐたいてき課題かだい
発表はっぴょう要旨ようし(2,000以内いない)[註、文献ぶんけん図表ずひょうとうふくむ]:

T.問題もんだい目的もくてき
これまでの身体しんたい障害しょうがいしゃをめぐる福祉ふくし制度せいどは、症状しょうじょうがある程度ていど固定こていされた状態じょうたいにある障害しょうがいしゃのみを対象たいしょうとしてきた。このことは、申請しんせいさいしてもとめられる症状しょうじょう固定こてい」の要件ようけん障害しょうがい程度ていど等級とうきゅうひょう記載きさいされている身体しんたい欠損けっそん機能きのう制限せいげん中心ちゅうしんとした認定にんてい基準きじゅん、「障害しょうがい」の程度ていど区分くぶんによって画一かくいつされているサービス内容ないようなどから指摘してきすることができるだろう。
このような現行げんこう制度せいどもとで、難病なんびょうしゃ慢性まんせい疾患しっかんをもつものはしばしば「制度せいど谷間たにま」にちているといわれてきた。だが、どのように谷間たにまちているのか、また支援しえん設計せっけいさいして具体ぐたいてきにどのような困難こんなんがあるのかといったことについて詳細しょうさい検討けんとうしたものはほとんど見当みあたらない。
そこで、ほん研究けんきゅうでは、慢性まんせいてき疼痛とうつうおも症状しょうじょうとする難治なんじせいやめいであるCRPS(ふく合性あいしょう局所きょくしょ疼痛とうつうせい症候群しょうこうぐん患者かんじゃ対象たいしょうとし、そのかたりからCRPSというやまいいの特徴とくちょう提示ていじすることをとおして、CRPSがいかなる理由りゆうによって現行げんこう障害しょうがいしゃ福祉ふくし制度せいど対象たいしょうとなっていないのかを明示めいじするとともに、支援しえん制度せいど設計せっけいするさい具体ぐたいてき課題かだいについて検討けんとうすることを目的もくてきとする。

U.対象たいしょう方法ほうほう
CRPS患者かんじゃ7めいたいしてはん構造こうぞう面接めんせつおこなった。

V.結果けっか考察こうさつ
患者かんじゃかたりからあきらかにされたCRPSのやまいいの特徴とくちょうのうち、障害しょうがいしゃ福祉ふくし制度せいどかかわりのあるものは以下いかの4てんであった。
だいいちに、個人こじんないにおける症状しょうじょうらぎである。CRPS患者かんじゃ健常けんじょうしゃ障害しょうがいしゃ往来おうらいしている。いたみの程度ていどよわいときは健常けんじょうしゃちか能力のうりょく発揮はっきすることも可能かのうである一方いっぽうで、はげしいいたみがあるときは、突然とつぜん重度じゅうど障害しょうがいしゃともなりる。つまり、障害しょうがい状態じょうたいが「1」のときもあれば、「10」のときもあるといったように、そのなみ振幅しんぷくきわめておおきい。また、それは天候てんこう気圧きあつなど様々さまざま要因よういんによって影響えいきょうけることから、本人ほんにんにも予測よそく困難こんなんである。
そのため、支援しえん制度せいど設計せっけいするさい課題かだいとして、支援しえん必要ひつようなときと必要ひつようでないときをどのようにして見極みきわめるかということがあげられる。
だいに、個人こじんあいだにおける症状しょうじょう差異さいがある。CRPSの臨床りんしょう症状しょうじょう多種たしゅ多様たようである。個々人ここじんにおいて、その経過けいかちゅう症状しょうじょう様々さまざま変化へんかし、自律じりつ神経しんけいけい運動うんどう障害しょうがい、ジストロフィーさま変化へんか複雑ふくざつこる。進行しんこうして、四肢しし全体ぜんたい疼痛とうつう範囲はんい拡大かくだいしたり、患肢がはいよう状態じょうたいとなるものもおり、進行しんこう有無うむ程度ていどにも個人こじんおおきい。ちなみに、労災ろうさい保険ほけん制度せいどにおいては、労働ろうどう関節かんせつかかわちぢみほね萎縮いしゅく皮膚ひふ変化へんかの3要件ようけんたす場合ばあいかぎ後遺こうい障害しょうがい認定にんていされることになっているが、これらをすべてたすものかぎられており、典型てんけいれいというものを設定せっていしづらいやめいだといえる。このようなことから、CRPS患者かんじゃ全体ぜんたいとしての支援しえんのモデルを設計せっけいすることが困難こんなんであることがうかがえる。 
だいさんに、CRPS患者かんじゃにとっての「よい支援しえん」のえにくさがあげられる。「できない」とき、つまりはげしい疼痛とうつうがあるとき、どのようにしてもらうことがCRPS患者かんじゃにとっての「よい支援しえん」なのかがあきらかではない。たとえば、患者かんじゃのなかには、食事しょくじ介助かいじょ必要ひつようだが、れられると激痛げきつうはしる、だれかがはたにいること自体じたい苦痛くつうなのでそっとしておいてほしいというひともいる。そのため、いたみがひどければ介助かいじょしゃ仕事しごと時間じかんりょうやせばよいという単純たんじゅんはなしではおさまりきらない問題もんだいがある。さらに、そのいたみの程度ていどはそのにならなければわからないため、結局けっきょくのところ、その都度つど本人ほんにんにニーズをいて、「介助かいじょしゃにいられることの苦痛くつう」と「いて支援しえんしてくれることのメリット」を比較ひかく衡量してもらうしか方法ほうほうがない。そして、その本人ほんにん意思いしくことを可能かのうにするためには、介助かいじょしゃ柔軟じゅうなん対応たいおうできる状態じょうたい待機たいきしていなければならないこととなる。これは、介助かいじょしゃ派遣はけんする事業じぎょうしょからすれば非常ひじょう厄介やっかいなことである。このように、CRPSはいたみというきわめてはげしい、かつ侵害しんがいてき刺激しげきおも症状しょうじょうとしているため、いつ、どのような支援しえん必要ひつようなのかがわかりにくい。
だいよんに、認定にんてい判定はんてい)の問題もんだいがあげられる。本来ほんらい必要ひつようであると主張しゅちょうするひと必要ひつようぶんだけ支援しえん提供ていきょうすることが理想りそうではあるが、資源しげん有限ゆうげんである以上いじょう実際じっさい支援しえん制度せいど構築こうちくするにあたっては、対象たいしょうしゃ範囲はんいをどこかでしぼらざるをないこととなるだろう。そのさい、どのような基準きじゅんによって線引せんひきするのかという問題もんだいしょうじてくる。ここで、いたみのような主観しゅかんてきなものを制度せいど対象たいしょうとすると、いわゆる「ニセ患者かんじゃ」があらわれるのではないかという批判ひはんがある。しかし、現行げんこう制度せいどにおいても、精神せいしん障害しょうがい場合ばあい日常にちじょう生活せいかつじょう困難こんなんから「障害しょうがい」の有無うむ程度ていど推定すいていされ、福祉ふくし制度せいど対象たいしょうとされている。また、韓国かんこく現在げんざい議論ぎろんされているCRPSの障害しょうがい認定にんてい基準きじゅんのように、いたみそれ自体じたい客観きゃっかんできなくても、いたみからしょうじる困難こんなんについては客観きゃっかんすることが可能かのうである。
このようなことをまえたうえで、当日とうじつは、CRPS患者かんじゃ支援しえん制度せいど設計せっけいするにあたってのなんらかの提言ていげんおこないたいとかんがえている。