グラハムすう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

グラハムすう(グラハムすう、えい: Graham's number)は、ラムゼー理論りろんかんする解決かいけつ問題もんだいかい推定すいてい上限じょうげんとしてられた自然しぜんすうである。数学すうがく証明しょうめい使つかわれたことのある最大さいだいかずとして1980ねんギネスブックみとめられた[1]

きわめて巨大きょだい自然しぜんすうであり、指数しすう表記ひょうきもちいるのは事実じじつじょう不可能ふかのうなため、特別とくべつ表記ひょうきほうもちいてあらわされる。

グラハム問題もんだい[編集へんしゅう]

3次元じげん立方体りっぽうたいどういち平面へいめんじょうにあるよんてんでそれらをむすせんすべ同一どういついろであるものが存在そんざいしているれいせんをどのようにってもこのような平面へいめんすくなくとも1つあらわれてしまうのはなん次元じげん以上いじょうちょう立方体りっぽうたいか、というのがこの問題もんだい骨子こっしである。

このかず1970ねんロナルド・グラハムブルース・リー・ロスチャイルドによる「グラハムの定理ていり

n 次元じげんちょう立方体りっぽうたい2n 頂点ちょうてんのそれぞれをたがいにすべせんむすぶ。つぎに2つのいろもちいて連結れんけつしたせんをいずれかのいろける。
このとき n十分じゅうぶんおおきければ、どのようなかたをしても、どういち平面へいめんじょうにあるよんてんでそれらをむすせんすべ同一どういついろであるものが存在そんざいする。

関係かんけいする。つまり、n十分じゅうぶんおおきければというが、

n がいくらよりおおきければ、この関係かんけいつね成立せいりつするか

ということである。これがグラハム問題もんだいである。グラハムの定理ていりより、かい存在そんざいたしかだが、具体ぐたいてき現在げんざいにいたるまでられていない。

しかし、この関係かんけいグラハムすう以上いじょうn についてつことがグラハム自身じしんによって証明しょうめいされた。つまり、かいはグラハムすう以下いかである。

ただし、グラハムらは実際じっさいにはこのかず論文ろんぶんでは発表はっぴょうしておらず、よく1971ねんにグラハムすうよりちいさなグラハム問題もんだいかい上限じょうげんとして、しょうグラハムすうというかず発表はっぴょうした[2]。そのマーティン・ガードナー1977ねんサイエンティフィック・アメリカンでグラハムすう紹介しょうかいした[3]ことによってこのかずひろられるようになった。

かい上限じょうげんはのち2014ねんミハイル・ラブロフらによってさらにちいさいかずしめされた[4]

一方いっぽう、この問題もんだいかい下限かげん(つまりこのかずよりちいさいかずではりたないことをしめしたかず)としては、グラハムとロスチャイルドは1971ねんしょうグラハムすうしめしたものとおな論文ろんぶんちゅう6あたえた。ガードナーは1989ねん著書ちょしょなかラムゼー理論りろん専門せんもんはこの問題もんだいかいを 6 とかんがえていると紹介しょうかいし、これがひろしんじられてきたが、2003ねんジェフ・エクスーがより下限かげんとして 11[5]2008ねんにはジェローム・バークレー13あたえた[6]

定義ていぎ[編集へんしゅう]

矢印やじるし表記ひょうき[編集へんしゅう]

グラハムすう巨大きょだいすぎて、通常つうじょう指数しすうでは桁数けたすう表現ひょうげんすら事実じじつじょう不可能ふかのうである。そのため、つぎのような特殊とくしゅ関数かんすうもちいる。

まず、クヌースの矢印やじるし表記ひょうき使つかい、x, y自然しぜんすうとしたとき、演算えんざん「↑」をつぎのように定義ていぎする。

さらに「↑↑」をつぎのように再帰さいきてき定義ていぎする。

つまり、

となる( は、xy あることをあらわす)。ただし、演算えんざんみぎからおこなう。つまりたとえば、xxx = x↑(xx) である。れいげるとつぎのようになる。

同様どうように「↑↑↑」をつぎのように再帰さいきてき定義ていぎする。

つまり、

である。

一般いっぱん場合ばあい同様どうように、「↑…(n ほん)…↑」=「↑n」をつぎのように定義ていぎする。

グラハムすう[編集へんしゅう]

これをもちいて、関数かんすう G(n) を

定義ていぎしたときの

グラハムすうといい、その計算けいさんほう3のべきじょうテトレーションからの発展はってん基本きほんとしている。

そのおおきさ[編集へんしゅう]

G(x) を実際じっさい計算けいさんしてみると、

  • G(1) = 3↑3 = 3→3→1 = 3→3 = 33 = 27
  • G(2) = 3↑↑3 = 3→3→2 = 3↑(3↑3) = 3↑G(1) = 3↑27 = 7625597484987
  • G(3) = 3↑↑↑3 = 3→3→3 = 3↑↑↑3 = 3↑↑(3↑↑3) = 3↑↑G(2) = 3↑↑7625597484987(トリトリ
  • G(4) = 3↑↑↑↑3 = 3→3→4 =3↑↑↑↑3 = 3↑↑↑G(3)(グラハル
  • G2(4) = G(G(4)) = 3↑…(G(4) ほん)…↑3 = 3→3→G(4) = 3↑G(4)-13↑G(4)-2…↑33↑23↑3↑3
  • G3(4) = G(G2(4)) = 3↑…(G2(4) ほん)…↑3 = 3→3→G2(4)
  • G64(4) = G(G63(4)) = 3↑…(G63(4) ほん)…↑3 = 3→3→G63(4) = hyper(3, G63(4)+2, 3) = 3↑…((G63(4)+1) ほん)…↑2 = 3→2→(G63(4)+1) = hyper(3, G63(4)+3, 2) = hyper(3, G62(G(4))+2, 3) = hyper(3, G62(3→2→5)+2, 3) = 3↑G63(4)-13↑G63(4)-2…↑33↑23↑3↑3

G(2) までは関数かんすう電卓でんたくパソコンでも普通ふつう計算けいさんできるが、G(3) ですらすでに3の累乗るいじょうを7ちょう6,255おくかい以上いじょうかえしたかずであるため、現実げんじつ世界せかい現象げんしょうたとえることなど到底とうてい不可能ふかのうきょ大数たいすうになっており、後述こうじゅつするように十進法じっしんほう以下いか表記ひょうきあらわすことすら現実げんじつてきには不可能ふかのうであるが、16$Pickoverほうはるかにおおきい(しかし3↑↑↑4よりははるかにちいさい)。G(4) [7]はそのじゅうしん以下いか表記ひょうき現実げんじつてき不可能ふかのうG(3) − 1 のかずだけ ↑↑(じゅう矢印やじるし)をかえしたかずであるため、想像そうぞうぜっするおおきさとなっている。

つぎ段階だんかいG2(4) は3と3のあいだG(4) ほん矢印やじるしいたものであり、この時点じてん指数しすうのみの表記ひょうき括弧かっこ駆使くししても事実じじつじょう不可能ふかのうとなり、モーザーすう ()える。この操作そうさを63かいかえしたかずがグラハムすうである。

このおおきさをたとえるはなしとして、「グラハムすうじゅうしん記数きすうほうもちいて印字いんじしようとした場合ばあい十分じゅうぶん印刷いんさつできる面積めんせき物体ぶったいがあるとして)、このぜん宇宙うちゅうにある物質ぶっしつすべてをインクえてもまったりない」というものがある。しかし、そのたとえを使つかったとしてもG(3)にすらたない。

観測かんそく可能かのう宇宙うちゅう素粒子そりゅうし総数そうすうは 1080かんがえられているので、このたとえであらわせるかずは、素粒子そりゅうし1個いっこで1文字もじ印刷いんさつするとしても n すすむ表記ひょうきならせいぜい n1080ぎない。このかずは1 < | n | ≤ 16 のときグラハムすう16$Pickoverどころか G(3) と比較ひかくしても圧倒的あっとうてきちいさい(G(3) のはる手前てまえすでにおよそ である)。16しん表記ひょうきではアルファベットの大文字おおもじ小文字こもじ区別くべつしないが、Unicodeでは区別くべつされている。現在げんざいUnicodeで使用しようされている文字もじ総数そうすうは13まん7468であり、使用しよう領域りょういきすべくされると n = 1114112となるが、 n が1おくまで拡張かくちょうされたとしても108×1080 であり、グーゴルプレックス にもたない。

これほど極端きょくたんたとえですらいいあらわすことができないほど巨大きょだいかずがグラハムすうである。宇宙うちゅうろん使つかわれた最大さいだいかず複数ふくすう宇宙うちゅうぜん質量しつりょう1個いっこブラックホール圧縮あっしゅくしそれが蒸発じょうはつしたのちに、ポアンカレの回帰かいき定理ていりしたがふたたびブラックホールができる時間じかん)をaとすると、aですら[8]であり、これもグラハムすうはおろかG(3) ともとても比較ひかくにならない。

レオナルド・サスキンド宇宙うちゅう直径ちょっけい推定すいていしているが、このをbとすると、bもaと同様どうよう桁数けたすうおおきすぎて単位たんい考慮こうりょされていない。しかし、1へんがbヨタパーセクの立方体りっぽうたいに1へんが1プランクちょう立方体りっぽうたい隙間すきまなくまれ、それらの立方体りっぽうたいがa千年紀せんねんきわたって1プランク時間じかんごとに1種類しゅるい文字もじ生成せいせいし、作業さぎょう完了かんりょう時点じてん完全かんぜん重複じゅうふくする文字もじが1種類しゅるい存在そんざいしない場合ばあいですら、生成せいせいされた文字もじをc種類しゅるいとし、c-1を表現ひょうげんする文字もじをcならべたかずをdとした場合ばあい、dはグラハムすうはおろかG(3) ともとても比較ひかくにならない。

なお、つよいて「グラハムすう十進法じっしんほうあらわしたとき桁数けたすう」をかんがえるなら、log10Gとなるが、Gは十分じゅうぶんきょ大数たいすうなので、この場合ばあいにあってはlog10という関数かんすう厳密げんみつにはもとかずよりちいさくなるものの、きょ大数たいすうとしては無視むしできるレベルでしかなく、近似きんじ吸収きゅうしゅうされてしまう。すなわち、log10G≒Gである。

近年きんねんきょ大数たいすう研究けんきゅう開発かいはつがよりすすみ、現在げんざいではグラハムすうはるかに上回うわまわかず多数たすう登場とうじょうしていて、たとえばコンウェイのチェーン表記ひょうきもちいて""(コンウェイのテトラトリばれるかず)などとくだけでグラハムすうよりもおおきなかず表現ひょうげん可能かのうである。

チェーン表記ひょうきもちいても G = 3→2→(G63(4) + 1)簡潔かんけつあらわすことはできないが、つぎ不等式ふとうしき成立せいりつする。

先述せんじゅつとおり、グラハムすう自体じたい桁数けたすう指数しすう表現ひょうげんすることすら不可能ふかのうなほどおおきく、スーパーコンピュータでもG(3)の計算けいさんすらのぞめないが、末尾まつび数字すうじ計算けいさんする方法ほうほう確立かくりつしており、ある程度ていど桁数けたすう判明はんめいしている。

3→2→(G63(4) + 1)十進法じっしんほうあらわしたときの末尾まつび10けた2,464,195,387 であり、暗黒あんこく通信つうしんだん末尾まつび100まんけたしるした書籍しょせき出版しゅっぱん[9]、その暗黒あんこく通信つうしんだんのウェブサイトで末尾まつび1,600まんけたしるしたPDF形式けいしきのファイルも公開こうかいしている[10]

表現ひょうげん[編集へんしゅう]

グラハムすうあらわすにはいくつか等価とうか表現ひょうげんがある。

,
,
,
,
,
,
,
,
,
,
,
,
(CgCG関数かんすう, )

しょうグラハムすう[編集へんしゅう]

グラハムとロートシルトは1971ねんに、よりちいさい上限じょうげんとしてしょうグラハムすう (Little Graham) をしめした。このかず関数かんすう F(n) を

定義ていぎしたときの

である。これはグラハムすうよりははるかにちいさいが、それでもなお非常ひじょうおおきいかずである。

そのおおきさ[編集へんしゅう]

F(x) を実際じっさい計算けいさんしてみると、

  • F(1) = 2↑3 = 2→3→1 = 2→3 = 23 = 8
  • F(2) = 2↑↑3 = 2→3→2 = 2↑(2↑2) = 2↑4 = 16
  • F(3) = 2↑↑↑3 = 2→3→3 = 2↑↑(2↑↑2) = 2↑↑4 = 2222 = 2↑F(2) = 65536
  • F(4) = 2↑↑↑↑3 = 2→3→4 = 2↑↑↑(2↑↑↑2) = 2↑↑↑4 = 2↑↑2↑↑2↑↑2 = 2↑↑F(3) = 2↑↑65536
  • F(5) = 2↑↑↑↑↑3 = 2→3→5 = 2↑↑↑↑2↑↑↑↑2 = 2↑↑↑↑4 = 2↑↑↑2↑↑↑2↑↑↑2 = 2↑↑↑F(4)
  • F(12) = 2↑123 = 2→3→12 = 2↑112↑112 = 2↑114 = 2↑102↑102↑102 = 2↑10F(11)
  • F2(12) = F(F(12)) = 2↑…(F(12) ほん)…↑3 = 2→3→F(12)
  • F3(12) = 2↑…(F2(12) ほん)…↑3 = 2→3→F2(12)
  • F7(12) = 2↑…(F6(12) ほん)…↑3 = 2→3→F6(12)

F(3) までは関数かんすう電卓でんたくパソコンでも普通ふつう計算けいさんできるが、F(4) ですらすでに2の累乗るいじょうを6まんかい以上いじょうかえしたかずであるため、現実げんじつ世界せかい現象げんしょうたとえることなど到底とうてい不可能ふかのうきょ大数たいすうになっており、後述こうじゅつするように十進法じっしんほう以下いか表記ひょうきあらわすことすら現実げんじつてきには不可能ふかのうであるが、9$Pickoverよりははるかにちいさい。F(5) はそのじゅうしん以下いか表記ひょうき現実げんじつてき不可能ふかのうF(4) − 1 のかずだけ↑↑(じゅう矢印やじるし)をかえしたかずであるため、想像そうぞうぜっするおおきさとなっており、ましてやそれと同様どうよう操作そうさかえしたF(12)はなおさらである。

つぎ段階だんかいF2(12) は2と3のあいだF(12) ほん矢印やじるしいたものであり、この時点じてん指数しすうのみの表記ひょうき括弧かっこ駆使くししても事実じじつじょう不可能ふかのうとなり、モーザーすう ()える。この操作そうさを6かいかえしたかずがリトル・グラハムすうである。

このおおきさをたとえるはなしとして、「リトル・グラハムすうじゅうしん記数きすうほうもちいて印字いんじしようとした場合ばあい十分じゅうぶん印刷いんさつできる面積めんせき物体ぶったいがあるとして)、このぜん宇宙うちゅうにある物質ぶっしつすべてをインクえてもまったりない」というものがある。しかし、そのたとえを使つかったとしてもF(4)にすらたず、F(4)の時点じてんで、グラハムすうおおきさをたとえるのに使用しようした、Unicodeや宇宙うちゅうろんもちいたたとえがそのまま適用てきようされ、log10F≒Fと見做みなせる。

チェーン表記ひょうきもちいても F = F7(12) を簡潔かんけつあらわすことはできないが、つぎ不等式ふとうしき成立せいりつする。

先述せんじゅつとおり、リトル・グラハムすう自体じたい桁数けたすう指数しすう表現ひょうげんすることすら不可能ふかのうなほどおおきく、スーパーコンピュータでもF(4)の計算けいさんすらのぞめないが、末尾まつび数字すうじ計算けいさんする方法ほうほう確立かくりつしており、ある程度ていど桁数けたすう判明はんめいしている。

2→3→F5(2→3→12)十進法じっしんほうあらわしたときの末尾まつび3けた736 である。

表現ひょうげん[編集へんしゅう]

しょうグラハムすうあらわすにはいくつか等価とうか表現ひょうげんがある。

,
,
,
,
,
,

これはどちらも 根拠こんきょとしている。

ラブロフらによるかい上限じょうげん[編集へんしゅう]

ラブロフらは2014ねんに、多次元たじげんさんもくならかんするヘイルズ=ジュエットの定理ていり英語えいごばん応用おうようし、よりちいさい上限じょうげんとして

しめした。これでもなおじゅうしん表記ひょうき事実じじつじょう不可能ふかのうなほど非常ひじょうおおきいかずであるが、グラハムすうおよびしょうグラハムすう比較ひかくすると格段かくだんちいさいかずである。これによりグラハム問題もんだいかい n

範囲はんいにあることになる。


出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Guiness Book of World Record, 1980 Page 193, line 27-31 http://math.ucsd.edu/~fan/ron/images/record.jpg
  2. ^ R. L. Graham and B. L. Rothschild, "Ramsey's theorem for n-parameter sets"
  3. ^ Martin Gardner, "Mathematical Games"
  4. ^ Lavrov, Mikhail; Lee, Mitchell; Mackey, John (2014). “Improved upper and lower bounds on a geometric Ramsey problem”. European Journal of Combinatorics 42: 135-144. doi:10.1016/j.ejc.2014.06.003. 
  5. ^ Geoff Exoo, "A Ramsey Problem on Hypercubes"
  6. ^ Barkley, Jerome (2008). "Improved lower bound on an Euclidean Ramsey problem". arXiv:0811.1055 [math.CO]。
  7. ^ G(4)にはグラハルという名前なまえがついている。
  8. ^ 桁数けたすう非常ひじょうおおきいため、時間じかん単位たんいプランク時間じかんびょうとしのいずれにしても無視むしできる範囲はんい近似きんじする。
  9. ^ TokusiN (2017). グラハムすうひゃくまんけたひょう最終巻さいしゅうかん. 暗黒あんこく通信つうしんだん. ISBN 9784873100647 
  10. ^ グラハムすう末尾まつび1600まんけたひょう(オンラインばん)【PDF】

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]