グルー

グルー(grue)という架空かくうの生物せいぶつの名前なまえは、ジャック・ヴァンスの『終末しゅうまつ期きの赤あかい地球ちきゅう』で最初さいしょに使つかわれた。おそらくヴァンスはこの名前なまえを、英語えいごの古語こごか方言ほうげんである「身震みぶるいする」を意味いみする動詞どうしgrueから採用さいようしたのであると推測すいそくされる。この言葉ことばは現在げんざいでは、もっぱら“gruesome”（不気味ぶきみな）という形かたちで使用しようされる。

デイヴ・レブリングはヴァンスのグルーから名なを借かりた同種どうしゅの怪物かいぶつを、テキストアドベンチャーゲーム『ゾーク』に登場とうじょうさせた。ゾークに登場とうじょうするグルーは光ひかりを恐おそれ、貪欲どんよくに冒険ぼうけん者しゃを貪むさぼり食くう怪物かいぶつである。このため、『ゾーク』の世界せかいでは暗闇くらやみの中なかを光源こうげんなしに探索たんさくするのは不可能ふかのうとなっている。

ハッカーの歴史れきしと伝承でんしょうにおいて『ゾーク』が占しめている重要じゅうような位置いちにより、ローグライクゲームやMUDなどの多数たすうの後続こうぞくのゲームの中なかで、グルーはモンスターの原型げんけいとして使用しようされることになった。

発祥はっしょう

『ゾーク』のプレイ中ちゅう、最初さいしょにグルーについて言及げんきゅうされるテキストは以下いかの通とおりである。

It is pitch black. You are likely to be eaten by a grue.

（真まっ暗闇くらやみです。あなたはグルーに食たべられそうです。）

更さらなる調査ちょうさにより、プレイヤーにはグルーの性質せいしつが知しらされる。

> what is a grue?

（グルーとは何なにか?）

The grue is a sinister, lurking presence in the dark places of the earth. Its favorite diet is adventurers, but its insatiable appetite is tempered by its fear of light. No grue has ever been seen by the light of day, and few have survived its fearsome jaws to tell the tale.

（グルーとは世界せかいの暗くらい場所ばしょに潜ひそんでいる邪悪じゃあくな存在そんざいです。グルーの好物こうぶつは冒険ぼうけん者しゃですが、その飽あくことを知しらぬ食欲しょくよくすらも、光ひかりへの恐怖きょうふの前まえには引ひき下さがります。グルーは日光にっこうの下したには決けっして現あらわれず、またグルーの恐おそれるべき顎あごから生いき延のびてグルーについて話はなせる者ものは、ほとんどいません。）

この警告けいこくを侮あなどってはならない。もしプレイヤーが明あかるい場所ばしょに引ひき返かえすか光源こうげんを点灯てんとうすることなしに暗くらい場所ばしょを移動いどうし続つづけたならば、極きわめて高たかい確かく率りつでプレイヤーはグルーの餌食えじきとなる。最初さいしょの『ゾーク』では、プレイヤーが一いち箇所かしょに留とまり続つづけている限かぎり、グルーを恐おそれる必要ひつようはなかったが、後期こうきの『ゾーク』ではただ暗闇くらやみの中なかでじっとしているだけでも、状況じょうきょうによってはグルーに食たべられてしまうことがある。

怪物かいぶつグルーは照明しょうめいのない領域りょういきにプレイヤーが直面ちょくめんした時ときに、その行動こうどう範囲はんいを制限せいげんする目的もくてきで導入どうにゅうされた。グルーの存在そんざいがなければ、プレイヤーは暗闇くらやみの中なかをでたらめに歩あるき回まわり、暗くらい通路つうろを通とおり抜ぬけて、例たとえば照明しょうめいされた領域りょういきに偶然ぐうぜん到達とうたつしてしまう可能かのう性せいがある。グルーの存在そんざいはそのような戦術せんじゅつを予あらかじめ封ふうじておき、プレイヤーに照明しょうめいに関かんするパズルを最初さいしょに解明かいめいすることを強制きょうせいさせた。これに対たいし、ゾークの原型げんけいである『アドベンチャー』は同おなじ目的もくてきのために落おとし穴あなを用もちいていた。『アドベンチャー』において暗闇くらやみの中なかでの探索たんさくを試こころみた冒険ぼうけん者しゃは、ほとんどの場合ばあい落おとし穴あなに転落てんらくして死亡しぼうしていた。

この手法しゅほうは隅すみから隅すみまでが天然てんねんの洞窟どうくつで構成こうせいされた『アドベンチャー』の舞台ぶたいにおいては合理ごうり的てきなものであった。しかしながら、メインフレームによる最初さいしょのゾークが「底無そこなしの落おとし穴あな」によるプレイヤーの殺害さつがいという手法しゅほうを採用さいようした時ときに、すぐに屋根裏やねうら部屋へやのような、およそ落おとし穴あながありそうもないところにまで落おとし穴あなが存在そんざいすることが指摘してきされた（真下ましたの部屋へやの天井てんじょうには穴あななど無ないにもかかわらず、である）。

デイヴ・レブリングは固定こていされた底無そこなしの落おとし穴あなの代用だいようとして、光ひかりを恐おそれて放浪ほうろうする怪物かいぶつというもっともらしいアイデアをすぐさま思おもい付つき、その怪物かいぶつの名前なまえをヴァンスの作品さくひんから拝借はいしゃくし、ゾークの次つぎのバージョンからグルーを導入どうにゅうした。アップデート文書ぶんしょでは、苦労くろうして底無そこなしの落おとし穴あなを埋うめ立たて、グルーをダンジョンに補充ほじゅうする「ダンジョン・メンテナー」がユーモラスに言及げんきゅうされた。後年こうねん発表はっぴょうされたゾークのプリークウェルである『ゾーク・ゼロ』では、主人公しゅじんこうがそれを実行じっこうすることになった。主人公しゅじんこうは魔法まほうの装置そうちを駆使くしして行いく道みちを塞ふさぐ底無そこなしの落おとし穴あなを封印ふういんし、無数むすうのグルーが住すみ着ついているコロニーを不注意ふちゅういにも破壊はかいしてしまう。解とき放はなたれたグルーたちは、餌えさを求もとめて地底ちていの洞窟どうくつをさまよい歩あるくこととなった。

関連かんれん項目こうもく

• Ur-grue - ウル・グルー。『ビヨンド・ゾーク』に登場とうじょうする邪悪じゃあくな闇やみの神かみ。