チリ・クーデター

チリ・クーデター（スペイン語ご: Golpe de Estado Chileno）とは、1973年ねん 9月11日にちに、チリの首都しゅとサンティアゴ・デ・チレで発生はっせいした軍事ぐんじクーデターである。

自由じゆう選挙せんきょによって民主みんしゅ的てきに選出せんしゅつされたサルバドール・アジェンデ大統領だいとうりょうの人民じんみん連合れんごう政権せいけんを、武力ぶりょくで打倒だとうして新しん自由じゆう主義しゅぎ的てきな経済けいざい政策せいさくを押おし付つけるべく、米国べいこく政府せいふ、米国べいこく多た国籍こくせき企業きぎょう、シカゴ学派がくは経済けいざい学者がくしゃがチリ軍部ぐんぶを裏うらで操あやつり、クーデターを扇動せんどうしたものである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

ラテンアメリカで左派さはナショナリズムが勢いきおいづいていた^[1]1970年ねん（東西とうざい冷戦れいせんはデタントの時代じだいに入はいっていた）、サルバドール・アジェンデ博士はかせを指導しどう者しゃとする社会しゃかい主義しゅぎ政党せいとうの統一とういつ戦線せんせんである人民じんみん連合れんごうは自由じゆう選挙せんきょにより政権せいけんを獲得かくとくし、アジェンデは大統領だいとうりょうに就任しゅうにんした。これは自由じゆう選挙せんきょを通つうじてマルクス主義まるくすしゅぎ政権せいけん^[1]が樹立じゅりつされた史上しじょう初はつの事例じれいとして、世界中せかいじゅうから注目ちゅうもくを浴あびた。

しかし、当時とうじチリに進出しんしゅつしていた米国べいこく多た国籍こくせき企業きぎょうがアジェンデ政権せいけんの社会しゃかい主義しゅぎ的てきな政策せいさくに反発はんぱつし、アジェンデ政権せいけんを打倒だとうするよう米国べいこく政府せいふに圧力あつりょくをかけた^[1]。米国べいこく政府せいふはチリにおいて各種かくしゅの秘密ひみつ工作こうさくを実施じっし^[1]して軍事ぐんじクーデターの下地したじを作つくってチリ軍部ぐんぶを反はんアジェンデの方向ほうこうに向むかわせた。一方いっぽう少数しょうすう与党よとうの人民じんみん連合れんごうからは左翼さよく蜂起ほうき未遂みすい事件じけんが発覚はっかく、1973年ねん9月がつ18日にちが蜂起ほうきの予定よてい日びであることを海軍かいぐん水兵すいへいへの取とり調しらべからわかった。左翼さよく蜂起ほうき未遂みすい事件じけんに関かんして、海軍かいぐんは激怒げきどし、その思想しそう的てきリーダーである、カルロス・アルタミラーノ上院じょういん議員ぎいん資格しかく停止ていしを最高裁さいこうさいに申もうし立たて、その判決はんけつは9月11日にちであった。1973年ねん9月がつ11日にちにアウグスト・ピノチェト陸軍りくぐん大将たいしょう兼けん総そう司令しれい官かんらが率ひきいる軍部ぐんぶが軍事ぐんじクーデターを決行けっこう。アジェンデは拳銃けんじゅう自殺じさつを遂とげ、軍事ぐんじ独裁どくさい体制たいせいのもとで新しん自由じゆう主義しゅぎ的てきな経済けいざい政策せいさくをチリに押おし付つける条件じょうけんが整ととのった。結果けっか的てきに、ピノチェトを議長ぎちょうとした軍事ぐんじ政府せいふ評議ひょうぎ会かいによる軍事ぐんじ独裁どくさい政治せいじが以後いご16年間ねんかんにわたって続つづくこととなる。

なお一般いっぱんに「9・11」というと、2001年ねんのアメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけんを指さすことが多おおいが、ラテンアメリカでは1973年ねんのチリ・クーデターを指さすことも多おおい。

クーデターまでのいきさつ[編集へんしゅう]

1970年ねん選挙せんきょ[編集へんしゅう]

候補者こうほしゃ	得票とくひょう数すう	%
アジェンデ	1,070,334	36.30%
アレッサンドリ	1,031,051	34.98%
トミッチ	0,821,000	27.84%
総計そうけい	2,922,385

1970年ねんに行おこなわれた大統領だいとうりょう選挙せんきょでは、人民じんみん連合れんごうは社会しゃかい主義しゅぎ者しゃ・マルクス主義まるくすしゅぎ者しゃとして知しられるアジェンデ、国民党こくみんとうは元もと大統領だいとうりょうのホルヘ・アレッサンドリ、キリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうはラドミロ・トミッチ（英語えいご版ばん、スペイン語ご版ばん）をそれぞれ擁立ようりつした。アジェンデが得票とくひょうで首位しゅいになるが、過半数かはんすうには至いたらなかったため、当時とうじのチリ憲法けんぽうの規定きていに従したがい議会ぎかいの評決ひょうけつによる決選けっせん投票とうひょうが行おこなわれた。

ラテンアメリカにおける脱だつ米国べいこく依存いぞんのナショナリズムの拡大かくだいを懸念けねんした^[1]ITTやペプシコその他た米国べいこく実業じつぎょう界かいはこの動うごきに危機きき感かんを抱いだき、アジェンデの大統領だいとうりょう就任しゅうにんを阻止そしするよう国務こくむ長官ちょうかんヘンリー・キッシンジャーおよび大統領だいとうりょうリチャード・ニクソンその他たの米国べいこく政府せいふ高官こうかんたちに働はたらきかけた^[1]。そして決選けっせん投票とうひょうの38日にち前まえに当あたる9月がつ15日にち、ニクソン大統領だいとうりょうは中央ちゅうおう情報じょうほう局きょく（CIA）に対たいし、どのような手段しゅだんを使つかってでもアジェンデの就任しゅうにんを阻止そしするよう命めいじた^[1]。当時とうじのチリ軍部ぐんぶはアジェンデの大統領だいとうりょう就任しゅうにんを静しずかに受うけ入いれていた^[1]ので、CIAは、議会ぎかいでの決選けっせん投票とうひょうにおける票ひょうの買収ばいしゅうと軍事ぐんじクーデターという2本ほん柱ばしらの作戦さくせんを立たてた^[1]。チリ駐在ちゅうざい米国べいこく大使たいしはチリの現職げんしょく大統領だいとうりょうに次つぎのように言いって脅おどしをかけた。「アジェンデ政権せいけん下かでは、ナットもボルトも一ひとつとしてチリに入はいるのを許ゆるさない。あらゆる手段しゅだんを使つかってチリとチリ人じんを最低さいていの貧困ひんこん状態じょうたいに陥おとしいれてやる」^[1]。

CIAはアジェンデを鬼おにとして描えがくプロパガンダを展開てんかいした。記者きしゃたちに金銭きんせんを渡わたしてCIA製せいの記事きじを新聞しんぶんや雑誌ざっしに掲載けいさいさせた。ラジオ番組ばんぐみでは迫真はくしんの演技えんぎも行おこなわれた。番組ばんぐみの途中とちゅうで銃声じゅうせいに続つづいて女性じょせいの悲鳴ひめい、「息子むすこがマルクス主義まるくすしゅぎ者しゃにやられた」との叫さけび、など。

CIAのサンティアゴ支局しきょく長ちょうはチリの狂信きょうしん的てき右翼うよくの退役たいえき軍人ぐんじんロベルト・ビオーと接触せっしょくした。そして彼かれが決起けっきした場合ばあいにどうなるかを予測よそくし、その場合ばあいにはチリで「大だい虐殺ぎゃくさつが長引ながびいて内戦ないせんになるだろう」とCIA本部ほんぶに伝つたえていた。この点てんについてチリ国家こっか警察けいさつ隊たいの高官こうかんから問とわれた彼かれは、「米国べいこく政府せいふは気きにしない。結果けっかとしての混沌こんとんがアジェンデ大統領だいとうりょうを阻はばむのなら」と告つげた^[1]。

しかし、陸軍りくぐん総そう司令しれい官かんのレネ・シュナイダー（スペイン語ご版ばん、英語えいご版ばん）将軍しょうぐんは「軍ぐんは政治せいじ的てきに中立ちゅうりつであるべき」という信念しんねんの持もち主ぬしであり、米国べいこくの陰謀いんぼうにとって邪魔じゃま者しゃとなり得える人物じんぶつであった。そんなシュナイダーは、決選けっせん投票とうひょう直前ちょくぜんの10月がつ22日にちに陸軍りくぐん司令しれい部ぶへ登庁とうちょうの際さい、何者なにものかによって襲撃しゅうげきされて重傷じゅうしょうを負おい、25日にちに死亡しぼうした^[1]。すでに陸軍りくぐんを退役たいえきさせられていたロベルト・ビオー（スペイン語ご版ばん、英語えいご版ばん）将軍しょうぐんが関与かんよしたとして逮捕たいほされる。この件けんが逆ぎゃくに「チリの民主みんしゅ主義しゅぎを守まもれ」と各党かくとうの結束けっそくを促うながす結果けっかになり、決選けっせん投票とうひょうで当時とうじは中道ちゅうどう左派さは政党せいとうであったキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうも議会ぎかい制度せいど、裁判所さいばんしょ制度せいどを継続けいぞくさせる条件じょうけんをつけ人民じんみん連合れんごうを支持しじ（同どう党とうの議員ぎいん74名めい全員ぜんいんがアジェンデに投票とうひょうした^[1]）、アジェンデ大統領だいとうりょうが誕生たんじょうした。

アジェンデ大統領だいとうりょうの任期にんき中ちゅう[編集へんしゅう]

米国べいこく政府せいふはさっそくアジェンデ打倒だとうの作戦さくせんに着手ちゃくしゅした。手始てはじめに行いったのが対たいチリ金融きんゆう封鎖ふうさであり、チリの経済けいざいを混乱こんらんさせて社会しゃかい不安ふあんを煽あおることで、チリ軍部ぐんぶが反はん政府せいふで蜂起ほうきする口実こうじつを作つくるのが目的もくてきだった。米国べいこく政府せいふの直接ちょくせつの支配しはい下かにある米国べいこく輸出入ゆしゅつにゅう銀行ぎんこうと米国べいこく国際こくさい開発かいはつ庁ちょうは即座そくざに対たいチリ融資ゆうしを停止ていしした。米国べいこくが牛耳ぎゅうじる国際こくさい金融きんゆう機関きかんである世界銀行せかいぎんこうと米州べいしゅう開発かいはつ銀行ぎんこうに対たいしても、対たいチリ融資ゆうしを停止ていしさせた^[1]。またニクソン大統領だいとうりょうはヨーロッパ諸国しょこくに対たいしても、対たいチリ融資ゆうしを控ひかえるよう圧力あつりょくをかけた^[1]。当時とうじのチリは、前ぜん政権せいけんから引ひき継ついだ債務さいむが10億おくドルにのぼり^[1]、国内こくない産業さんぎょうも伝統でんとう的てきに米国べいこくからの融資ゆうしに依存いぞんしていたため、この金融きんゆう封鎖ふうさがチリ経済けいざいに与あたえた打撃だげきは大おおきかった^[1]。ヨーロッパや日本にっぽんなどとの貿易ぼうえきは問題もんだいなく行おこなわれたが、ヨーロッパ企業きぎょうの国有こくゆう化かが続つづき、各国かっこく政府せいふの大使たいしから抗議こうぎを受うけることになる。

金融きんゆう封鎖ふうさと並行へいこうして、米国べいこく政府せいふはチリ軍部ぐんぶに対たいしては法外ほうがいな支援しえんを提供ていきょうした。資金しきん面めんでの支援しえんだけでなく、技術ぎじゅつ面めんでの支援しえんも惜おしみなく提供ていきょうし、軍事ぐんじ顧問こもん団だんも派遣はけんした^[1]。1971年ねんの段階だんかいでは、チリ軍部ぐんぶ内ないの反はんアジェンデ派ははごく少数しょうすうだった^[1]。

こうした外国がいこくからの妨害ぼうがいがありながらも、政権せいけん交代こうたい後ごしばらくは経済けいざいも好調こうちょうであった。そのため、1971年ねん4月がつの統一とういつ地方ちほう選挙せんきょではアジェンデ与党よとう人民じんみん連合れんごうの得票とくひょう率りつは50%を超こえ、大統領だいとうりょう当選とうせん時じより大幅おおはばに（14.2%増ぞう^[1]）支持しじを伸のばした。しかし議席ぎせき数すうではキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとう、国民党こくみんとうの右翼うよく連合れんごうに勝かてず、アジェンデが提出ていしゅつした議案ぎあんはことごとく国会こっかいで否決ひけつ、それに対たいしてアジェンデは拒否きょひ権けんの乱発らんぱつと、チリの政治せいじは混迷こんめいしていった。アジェンデ政権せいけんの成立せいりつ当初とうしょは、中道ちゅうどう左派さはのキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうと右派うはの国民党こくみんとうは対立たいりつしていたが、1971年ねんのバルパライソ補欠ほけつ選挙せんきょの時ときから両りょう党とうは共同きょうどう歩調ほちょうを取とることになる。しかし、キリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうの中なかには、右翼うよくの国民党こくみんとうと連立れんりつを組くむことを嫌きらい、人民じんみん連合れんごう側がわに鞍替くらがえする者ものも現あらわれた。結果けっかとして、キリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうと国民党こくみんとうの結束けっそくは強つよまり、その後ごの補欠ほけつ選挙せんきょでは接戦せっせんになった。この時ときも人民じんみん連合れんごうは上院じょういん下院かいんともに過半数かはんすうを得えることができず、政治せいじ混乱こんらんが継続けいぞくした。さらにはCIAが右翼うよく勢力せいりょくに対たいする公然こうぜん非ひ公然こうぜんの支援しえんを強つよめるようになるなど、政情せいじょうの不安定ふあんてい化かはより深刻しんこくなものとなった。

とりわけ効力こうりょくを発揮はっきしたのが、CIAの資金しきん援助えんじょもあったデモ（物資ぶっし不足ふそく、行列ぎょうれつを作つくらないとスーパーで買物かいものもできない。ガソリンも1回かい20リットルまでの厳きびしい配給はいきゅう制せい、牛肉ぎゅうにくの販売はんばいを金曜きんよう土曜どようのみとする制限せいげん強化きょうかによる、婦人ふじんを中心ちゅうしんとした「鍋なべたたき運動うんどう」）（1971年ねん12月「からなべデモ」）と、CIAがトラック所有しょゆう者しゃ組合くみあいに報酬ほうしゅう（支援しえんが行おこなわれたのは公然こうぜんの秘密ひみつだが、報酬ほうしゅうの支払しはらいに関かんしては議論ぎろんが分わかれている）を支払しはらって敢行かんこうさせた長期ちょうきストライキ（1972年ねん10月がつと1973年ねん7月がつ）だった。前者ぜんしゃは、物もの不足ふそくを不満ふまんとする中なか間あいだ層そうの婦人ふじん連れんが自発じはつ的てきに行いった、チリのすべての婦人ふじんがアジェンデに反対はんたいしているような印象いんしょうを与あたえることを狙ねらったものだった。チリの運輸うんゆ当局とうきょくがトラック事業じぎょうを国有こくゆう化かすることに対たいして、全国ぜんこく約やく4万まんの零細れいさいトラック事業じぎょう者しゃが生活せいかつ圏けん侵害しんがいとしてストライキを決行けっこうし、チリ経済けいざいに大おおきな打撃だげきを与あたえた^[1]。

それに先立さきだつ1971年ねん7月がつ、チリ国会こっかいは銅山どうざん国有こくゆう化かの憲法けんぽう修正しゅうせい案あんを全会ぜんかい一致いっちで採択さいたくした。この憲法けんぽう修正しゅうせいは「公正こうせいなる補償ほしょう」を原則げんそくとしており、接収せっしゅう対象たいしょうの銅どう会社かいしゃ（当時とうじチリの銅山どうざんを支配しはいしていた米国べいこくのケネコット社しゃおよびアナコンダ社しゃ）に対たいする補償ほしょう額がく（資産しさん価値かち）から過去かこの超過ちょうか利潤りじゅん額がくを差さし引ひくことを可能かのうとしていた。そのため、結果けっか的てきに補償ほしょう額がくよりも控除こうじょ額がくの方ほうが大おおきくなり、ケネコット社しゃおよびアナコンダ社しゃに対たいする補償ほしょう額がくは0ではなく、7億おく5,000万まんドルの請求せいきゅうを行おこなった、無償むしょう接収せっしゅうどころか、さらに7億おく5千せん万まんドルの請求せいきゅうを行おこない、アメリカの態度たいどを硬化こうかさせた。チリの会計検査院かいけいけんさいんもこの措置そちを支持しじし、補償ほしょうは不要ふようとの決定けっていを下くだした^[1]。

しかし、米国べいこくのニクソン大統領だいとうりょうはチリにおける接収せっしゅうの前例ぜんれいがラテンアメリカの他ほかの国々くにぐにに波及はきゅうすることを恐おそれ^[1]、以前いぜんにも増まして対たいチリ金融きんゆう封鎖ふうさを強化きょうかした。一方いっぽうでニクソン政権せいけんによる対たいチリ金融きんゆう封鎖ふうさ政策せいさくは米国べいこく内ないでも議論ぎろんの的まととなり、とりわけ金融きんゆう封鎖ふうさに批判ひはん的てきだったエドワード・ケネディ上院じょういん議員ぎいんは「社会しゃかい正義まさよしと政治せいじ的てき自由じゆうを積極せっきょく的てきに追求ついきゅうしている国くにには、我わが国くにからどんどん二に国こく間あいだ援助えんじょを提供ていきょうすべきです」と主張しゅちょうした^[1]。

ニクソン政権せいけんによる対たいチリ報復ほうふく措置そちは金融きんゆう封鎖ふうさだけにとどまらず、国営こくえい化かされたチリの銅どう産業さんぎょうを妨害ぼうがいするまでになった。まずは米国べいこく内ないのチリ政府せいふの口座こうざを凍結とうけつさせた^[1]。これによりチリは米国べいこくに銅どうを販売はんばいすることができなくなった。さらに米国べいこく政府せいふはケネコット社しゃと共謀きょうぼうし、ヨーロッパに輸出ゆしゅつされるはずのチリの銅どうを差さし押おさえるようヨーロッパ諸国しょこくの司法しほう当局とうきょくに要請ようせいした^[1]。それだけでなく米国べいこく政府せいふは、銅どうの生産せいさんに用もちいられる機械きかい類るいの部品ぶひんをチリに供給きょうきゅうしないよう圧力あつりょくをかけることによって銅どうの生産せいさんそのものを妨害ぼうがいする作戦さくせんに出でた^[1]。さらには米国べいこく内ないに保有ほゆうしていた銅どう備蓄びちくを放出ほうしゅつすることによって、銅どうの国際こくさい価値かちを低下ていかさせるという工作こうさくも行おこなった。こうして、輸出ゆしゅつ収入しゅうにゅうの80%を銅どうに依存いぞんしていたチリは大おおきな打撃だげきを被こうむったが、日本にっぽんやヨーロッパとの貿易ぼうえきは依然いぜんとして問題もんだいなく行おこなわれていた。

こうした事態じたいに直面ちょくめんしたアジェンデは、銅どうの接収せっしゅうの問題もんだいを国際こくさい仲裁ちゅうさいによって解決かいけつすることを提案ていあんしたが、ニクソン政権せいけんは1914年ねんの二に国こく間あいだ条約じょうやくを持もち出だすことによってアジェンデの提案ていあんを拒否きょひした。その条約じょうやくには「一方いっぽうもしくは両方りょうほうの国くにの自主じしゅ、名誉めいよあるいは重要じゅうような利益りえきを害がいするおそれのある問題もんだい（中略ちゅうりゃく）は、どのような仲裁ちゅうさいも受うけない」と記しるされているから、というのがその理由りゆうだった^[1]。

政権せいけん交代こうたい後ごにアジェンデが進すすめた性急せいきゅうな国有こくゆう化か政策せいさくや社会しゃかい保障ほしょうの拡大かくだいなどの社会しゃかい主義しゅぎ的てきな経済けいざい改革かいかくは、自由じゆう経済けいざいであるもののその規模きぼが大おおきいわけではない当時とうじのチリ経済けいざいの現状げんじょうにはそぐわないものであり、それが結果けっか的てきにインフレと物もの不足ふそくを引ひき起おこした、とする説せつも過去かこには聞きかれた。とはいえ、アジェンデ政権せいけんが成立せいりつした当時とうじのチリでは人口じんこうの30%が栄養失調えいようしっちょうにさらされ、医療いりょうも十分じゅうぶんではなかった。また、銅山どうざんの国有こくゆう化かはチリ国会こっかいでは否決ひけつされた。しかし政権せいけん側がわ、アジェンデはとりわけ急進きゅうしん左派さは連合れんごうの調整ちょうせいに手間取てまどり、無償むしょう接収せっしゅうの上うえに7億おく5,000万まんドルの要求ようきゅうも行おこなった。アジェンデ与党よとうが穏健おんけんな共産党きょうさんとう、急進きゅうしんな社会党しゃかいとう、急進きゅうしんな人民じんみん統一とういつ行動こうどう党とうと複雑ふくざつであったこと。また、これらの政党せいとうが上院じょういん下院かいんとも少数しょうすう与党よとうであった。一方いっぽう、野党やとうのキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうと国民党こくみんとうは、過半数かはんすうを占しめていたものの3分ぶんの2の議席ぎせきをもっておらず、大統領だいとうりょうの弾劾だんがい決議けつぎはできなかった。アジェンデは自みずからの与党よとうの調整ちょうせいに手間取てまどり、本人ほんにんが大統領だいとうりょうの政治せいじ基盤きばんを高たかめるための国民こくみん投票とうひょうを行おこなうことを与党よとう内ないで提案ていあんしたが、急進きゅうしん左派さはである人民じんみん統一とういつ行動こうどう党とうの反対はんたいによって行おこなうことができず、アジェンデの政権せいけん運営うんえいはいっそう不安定ふあんていなものとなった。さらに、国営こくえい化かの範囲はんいも社会しゃかい保障ほしょうの内容ないようも1970年ねん選挙せんきょの人民じんみん連合れんごうの綱領こうりょうに明確めいかくに謳うたわれており、チリ国民こくみんの信しんを得えていた。アジェンデ政権せいけん時代じだい、政権せいけん与党よとうは上下じょうげ両院りょういんとも過半数かはんすうは得えることは全まったくなかった。常つねに少数しょうすう与党よとうで政権せいけん運営うんえいが不安定ふあんていであった。フレイ政権せいけん時代じだい、急進きゅうしん的てきすぎるとして罷免ひめんされたチョンチョルを農林のうりん大臣だいじんに復帰ふっきさせ、極端きょくたんな国営こくえい農場のうじょう化かを行おこない、小麦こむぎ生産せいさんを3分ぶんの1まで減へらした。またトラック所有しょゆう者しゃ組合くみあいは、自主じしゅ的てきな運営うんえいである4万まんを超こえる零細れいさい業者ぎょうしゃの集合しゅうごう体たいであったが、それを画一かくいつ的てきな輸送ゆそう公団こうだんにしようとして、トラック所有しょゆう者しゃ組合くみあいの猛烈もうれつな反発はんぱつを受うけた。米国べいこくによる金融きんゆう封鎖ふうさおよび銅どう産業さんぎょうに対たいする妨害ぼうがいに起因きいんする外貨がいか不足ふそくにあったとする説せつが現在げんざいでは圧倒的あっとうてきに優勢ゆうせいである。この時とき、アジェンデは金融きんゆう封鎖ふうさに対抗たいこうし、西にしヨーロッパ諸国しょこくや日本にっぽんなどへ自動車じどうしゃ組くみ立たて工場こうじょうの誘致ゆうちなどを行おこなっている。さらにソ連それんを訪問ほうもんし資金しきん援助えんじょを乞こうたが、ソ連それんの資金しきん援助えんじょは微々びびたるものであった。からなべデモやトラック所有しょゆう者しゃストも含ふくめ、米国べいこくのリチャード・ニクソン政権せいけんが資金しきん供給きょうきゅうは行おこなったが、中間なかま層そうの反発はんぱつが主しゅたる原因げんいんである。このように与党よとう内ない調整ちょうせいに手間取てまどった結果けっか、アジェンデ政権せいけん末期まっきには600％というチリ歴史れきし上じょう最大さいだいのインフレを経験けいけんすることになった。

しかしそれにもかかわらず、アジェンデ政権せいけんに対たいする国民こくみんの支持しじは過半数かはんすうは得えられないものの低下ていかしていなかった。1973年ねん3月がつの総そう選挙せんきょでは、人民じんみん連合れんごうは43%の得票とくひょうでさきの統一とういつ地方ちほう選せんよりは減へったが、依然いぜんとして大統領だいとうりょう選せんを上回うわまわる得票とくひょう（7%増ぞう）で議席ぎせきを増加ぞうかさせた（10議席ぎせき増ぞう）。政権せいけんの座ざについて2年ねん以上いじょうを経過けいかしてから現職げんしょく勢力せいりょくが獲得かくとくした票ひょうの伸のび率りつとしては「前代未聞ぜんだいみもん」（ただし、当選とうせん時じの支持しじ率りつはあくまで36％と歴史れきし的てきに見みて低ひくい数字すうじである）といわれた^[1]。ただし、あくまで上下じょうげ両院りょういんでは、与党よとう連合れんごうは過半数かはんすうを得えておらず、少数しょうすう与党よとうのままであった。少数しょうすう与党よとう、特とくに社会党しゃかいとう、人民じんみん統一とういつ行動こうどう党とうはプロレタリアート独裁どくさいを目指めざし、東欧とうおうから多おおくの武器ぶきを調達ちょうたつし、政権せいけん末期まっきには、カラビネーロ（国家こっか警察けいさつ）が武器ぶき摘発てきはつに躍起やっきになっていた。この選挙せんきょをきっかけに、CIA職員しょくいんは1973年ねん4月がつ、次つぎのように論ろんじた。「我々われわれの理解りかいしているところでは、今後こんご6か月げつから1年ねんの間あいだに軍事ぐんじクーデターを引ひき起おこすことを狙ねらった政策せいさくでは、政治せいじ的てき緊張きんちょうを高たかめることと、経済けいざい的てきな苦難くなんをより深刻しんこくなものにすることに努つとめるべきです。特とくに、国民こくみんの絶望ぜつぼうという感覚かんかくが軍ぐんを動うごかすためにも、下層かそう階級かいきゅうの間あいだでの経済けいざい的てき苦難くなんが必要ひつようです。政治せいじ的てき野党やとう、特とくにキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうが計画けいかくしている大衆たいしゅう運動うんどうに対たいする資金しきん援助えんじょは、この絶望ぜつぼうという感覚かんかくを打うち消けしてしまい、経済けいざいを救すくう結果けっかにつながる可能かのう性せいがあります」^[1]。

とはいえ、対たいチリ秘密ひみつ工作こうさくを統括とうかつしていた国家こっか安全あんぜん保障ほしょう問題もんだい担当たんとう大統領だいとうりょう補佐ほさ官かんヘンリー・キッシンジャーは野党やとうに対たいする資金しきん援助えんじょも続つづけた。とりわけ、チリの最大さいだい野党やとうであったキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうの右派うは（フレイ派は）には莫大ばくだいな資金しきんを投入とうにゅうしていた（党とうの指導しどう部ぶに資金しきんを渡わたしたのではなく、右派うはの個々ここのメンバーに直接ちょくせつ渡わたした^[1]）。その結果けっか、1970年ねんの大統領だいとうりょう選挙せんきょ当時とうじは左派さはが支配しはい権けんを掌握しょうあくしていた同どう党とうは右派うはが支配しはいするようになり（数かずの上うえでは左派さはの方ほうが多数たすう派はだった^[1]）、アジェンデとの協力きょうりょくを拒否きょひして軍事ぐんじクーデターを支持しじするようになった。同どう党とう右派うはは、クーデター後ごに軍ぐんは自分じぶんたちに権力けんりょくを譲ゆずるものと信しんじていたからだ^[1]。そしてキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうは1973年ねん8月がつ22日にち、アジェンデ政権せいけんを違憲いけんとする決議けつぎ案あんを下院かいんで可決かけつさせた。これによりチリ軍部ぐんぶはクーデターの正当せいとう性せいを得えることになった。

1973年ねん 6月29日にちには軍ぐんの一部いちぶが首都しゅとサンティアゴの大統領だいとうりょう官邸かんていを襲撃しゅうげきするが失敗しっぱいした（戦車せんしゃクーデター（スペイン語ご版ばん、英語えいご版ばん））。これは、軍人ぐんじんの釈放しゃくほう問題もんだいであり、直接ちょくせつの軍事ぐんじクーデターではない。1973年ねん8月がつ8日にち、海軍かいぐん内ないで水兵すいへい階層かいそうに浸透しんとうした左派さは過激かげき派はによる武装ぶそう蜂起ほうき未遂みすい事件じけんが発生はっせい、100人にん以上いじょうの逮捕たいほ者しゃが出でた。海軍かいぐんは社会党しゃかいとう書記しょき長ちょうアルタミラーノの議員ぎいん資格しかく停止ていし要求ようきゅうをし、最高さいこう裁判所さいばんしょに申もうし立たて、その判決はんけつは9月11日にちに出だされることになった。この海軍かいぐん内ないの左派さは武装ぶそう蜂起ほうきに関連かんれんして、同日どうじつ、バルパライソで左派さは武装ぶそう派はと海軍かいぐんが衝突しょうとつをする。社会党しゃかいとう所属しょぞくであるアジェンデに対たいして、彼かれが既すでに党内とうない調整ちょうせい力りょくすら失うしなったことから、海軍かいぐんと、アジェンデ政権せいけんの対立たいりつが深刻しんこく化かした。2度どめのトラック所有しょゆう者しゃスト解決かいけつのため、アジェンデは8月がつ9日にちに内閣ないかく改造かいぞうを行おこない、空軍くうぐん司令しれい官かんセザール･ルイスを運輸うんゆ大臣だいじんに任命にんめいした。空軍くうぐん司令しれい官かん兼けん運輸うんゆ大臣だいじんとなったセザールルイスはスト調停ちょうていを図はかったが、トラック所有しょゆう者しゃ組合くみあいと国くに（少数しょうすう与党よとう人民じんみん連合れんごうとの主張しゅちょう）の双方そうほうの隔へだたりが大おおきすぎると運輸うんゆ大臣だいじんの職責しょくせきのみを辞任じにんした。その辞任じにんに対たいして、アジェンデは辞任じにんの意思いしもないセザール・ルイスの空軍くうぐん司令しれい官かんとしての地位ちいも解任かいにんした。これによって、空軍くうぐんと政権せいけんの間あいだには決定的けっていてきな亀裂きれつが発生はっせいした。アジェンデは、「軍ぐんは政治せいじ的てき中立ちゅうりつを守まもるべし」という信念しんねんの持もち主ぬしであったが、トラック所有しょゆう者しゃ組合くみあいストを人民じんみん連合れんごう側がわ有利ゆうりに調停ちょうていしたカルロス・プラッツ（英語えいご版ばん、スペイン語ご版ばん）陸軍りくぐん総そう司令しれい官かん（その後ご国防こくぼう相しょうも兼任けんにんしていた）が軍ぐん内部ないぶの反はんアジェンデ派はに抗こうし切きれなくなり辞任じにんに追おい込こまれた。プラッツの後任こうにんの陸軍りくぐん総そう司令しれい官かんがアウグスト・ピノチェトであった（8月がつ24日にち就任しゅうにん）。ピノチェトはプラッツの推薦すいせんにより陸軍りくぐん総そう司令しれい官かんに選任せんにんされた。この段階だんかいでは、アジェンデもプラッツもピノチェトを信頼しんらいしていた^[1]。

この時期じきにいたっても、チリ国民こくみんの間あいだにおけるアジェンデ人気にんきは半数はんすう以下いかではあるが衰おとろえていなかった。9月4日にちの人民じんみん連合れんごう3周年しゅうねん記念きねん集会しゅうかいには約やく100万まん人にんのチリ労働ろうどう者しゃ階級かいきゅう（労働ろうどう者しゃ向むけ物資ぶっし配給はいきゅう価格かかく調整ちょうせい委員いいん会かいJAP、から配給はいきゅうが受うけられる階層かいそうが中心ちゅうしんだったといわれている）国民こくみんが集結しゅうけつし、アジェンデ支持しじのデモ行進こうしんを行おこなった。それは、チリ史上しじょう最多さいたの参加さんか者しゃを集あつめたデモだった^[1]。翌よく9月がつ5日にちには、アジェンデ辞任じにん要求ようきゅうデモに約やく15万まん人にん参加さんかした（JAPの配給はいきゅうを受うけられなかった人ひとたちが中心ちゅうしんであったといわれている）。クーデターを起おこせば抵抗ていこう活動かつどうが起おきると考かんがえ、徹底てっていした弾圧だんあつが必要ひつようとの認識にんしきを再さい確認かくにんした。

クーデターの足音あしおとが迫せまる中なか、アジェンデは最後さいごの手段しゅだんに訴うったえようとした。国民こくみん投票とうひょうを実施じっしして自身じしんの政権せいけんの信任しんにんを問とうことを考かんがえた（といわれているが、後述こうじゅつの様ように結果けっかとして拒否きょひしている）。

9月7日にち国民こくみん投票とうひょうによる事態じたい打開だかいを求もとめる海軍かいぐん第だい一いち管区かんく司令しれい長官ちょうかんホセ･トリビオ･メリノ大将たいしょうによるアジェンデに対たいする6時じ間あいだの説得せっとくにもかかわらず、社会党しゃかいとう強硬きょうこう派はの反対はんたいもあり、国民こくみん投票とうひょうの申もうし入いれは物別ものわかれに終おわった。少すくなくとも9月7日にちの時点じてんでの、6時じ間あいだにわたる国民こくみん投票とうひょうの申もうし出でをアジェンデは拒否きょひしている。

彼かれは9月9日にちの昼ひる、「近ちかく国民こくみん投票とうひょうの実施じっしを発表はっぴょうする」とピノチェトに告つげた（この時点じてんでもアジェンデはピノチェトを信頼しんらいしていた）。それを聞きいたピノチェトは同日どうじつ中ちゅうに他たのクーデター首謀しゅぼう者しゃらと会談かいだんし、クーデター決行けっこうの予定よてい日びを当初とうしょの14日にちから11日にちに早はやめた。

そして10日とおか、アジェンデは共産党きょうさんとうとの間あいだで国民こくみん投票とうひょう合意ごういを取とり付つけ、キリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうとも国民こくみん投票とうひょうの話はなし合あいのテーブルに付つくことに合意ごういした。ただし、社会党しゃかいとうとは、国民こくみん投票とうひょうに関かんして何なにもできなかった。出身しゅっしん与党よとうの社会党しゃかいとうの合意ごういがない空手形からてがたであるが11日にちに国民こくみん投票とうひょう実施じっしを発表はっぴょうすると決定けっていした^[1]。

クーデター[編集へんしゅう]

1973年ねん9月がつ11日にち早朝そうちょう、陸海空りくかいくう三軍さんぐんのトップと当時とうじカラビネーロス（国家こっか憲兵けんぺい）のナンバー2であったセサル・メンドーサ＝ドゥラン将軍しょうぐんがクーデターを起おこした。当時とうじの軍部ぐんぶはチリ社会しゃかいの階層かいそうを反映はんえいしており、下層かそうは親おやアジェンデだったが上層じょうそう部ぶは反はんアジェンデであり、下層かそうの者ものは家族かぞくの生活せいかつのためにも上層じょうそう部ぶに抵抗ていこうできなかった^[1]。また、チリ軍部ぐんぶはケネディ政権せいけんの時代じだいから米国べいこく政府せいふから支援しえんを受うけていたため、アジェンデとしても武力ぶりょくで抗あらがうことは最初さいしょから選択肢せんたくしになかった^[1]。実際じっさい、彼かれはクーデターの最中さいちゅうに6度ども国民こくみんに向むけてラジオ演説えんぜつを行おこなったが、その中なかで「武器ぶきをとれ」とは呼よびかけず、「労働ろうどう者しゃの諸君しょくんにモネダ宮殿きゅうでんに集あつまれ」と呼よびかけた。クーデターが近ちかづく中なか、カストロはアジェンデに対たいして兵器へいきの提供ていきょうを提案ていあんしたが、その兵器へいきの内うち、モネダ宮殿きゅうでんに貯蔵ちょぞうされていたものは利用りようされなかった。しかし、市中しちゅうには急進きゅうしん的てきな社会党しゃかいとう、人民じんみん統一とういつ行動こうどう党とうの拠点きょてんに東欧とうおう製せい（一部いちぶはベルギー、アルゼンチン製せい）武器ぶきが出回でまわり、カラビネーロは摘発てきはつに大おおわらわであった。アジェンデは、労働ろうどう者しゃを人間にんげんの盾たてにする、もしくは武装ぶそう蜂起ほうきを示唆しさした発言はつげんも行おこなっている。結局けっきょく、アジェンデ本人ほんにんと大統領だいとうりょう護衛ごえい団だんおよび国家こっか警察けいさつ隊たいの忠誠ちゅうせい派はだけが大統領だいとうりょう官邸かんていを守まもることになった。国家こっか警察けいさつ隊たいのトップはアジェンデの側がわについていたが、クーデターの直前ちょくぜんに組織そしき内ないクーデターにより、序列じょれつ6以下いかの者ものがカラビネーロの指揮しきを取とることになった。これは、容易よういにクーデターに参加さんかした、空軍くうぐん海軍かいぐんと異ことなり、カラビネーロの革命かくめい参加さんかに手間取てまどっていることを示しめすものであった。クーデターはバルパライソで午前ごぜん4時じ、他たの地域ちいきで午前ごぜん6時じに決起けっきされた。バルパライソ決起けっきを知しったアジェンデはトマスモロの私邸していを出でてモネダ宮殿きゅうでんに向むかった。この時点じてんでは、空軍くうぐんと海軍かいぐんの反乱はんらんの情報じょうほう以外いがい、正確せいかくな情報じょうほうはなかった。アジェンデに伝つたわった第一報だいいっぽうは、海軍かいぐんによる反乱はんらんにて、バルパライソが占領せんりょうされたことであった。

アジェンデはトマスモロの私邸していから、警護けいご部隊ぶたい、武装ぶそうした兵へいを載のせたトラック2台だい、その他た装甲車そうこうしゃ2台だいでモネダ宮殿きゅうでんに向むかった。陸海空りくかいくう軍ぐんおよび国家こっか警察けいさつは、アジェンデに対たいしてラジオと拡声かくせい器きで投降とうこうを呼よびかけ、脱出だっしゅつ用ようの飛行機ひこうきを用意よういすると複ふく数すう回かいにわたって告つげた。8時じ30分ふん頃ごろ、陸海空りくかいくう軍ぐんおよび国家こっか警察けいさつは、ラジオと拡声かくせい器きで直接ちょくせつモネダ宮殿きゅうでんに対たいし、アジェンデに降伏ごうぶく勧告かんこくを行おこなうとともに新しん政権せいけん誕生たんじょうの旨むねの放送ほうそうも行おこなった。しかし、アジェンデは辞任じにんやモネダ宮殿きゅうでんからの退去たいきょを拒否きょひした。11時じ頃ごろ、陸海空りくかいくう軍ぐんおよび国家こっか警察けいさつは、婦女子ふじょしならびに投降とうこうの意思いしがある者ものはモネダ宮殿きゅうでんから脱出だっしゅつするように命めいじ、十じゅう数すう名めいが陸軍りくぐんおよび国家こっか警察けいさつに投降とうこうした。その後ご、正午しょうご頃ごろにモネダ宮殿きゅうでんに対たいして4機きのホーカーハンター戦闘せんとう機きによるロケット攻撃こうげきが行おこなわれ、その後ご陸軍りくぐんが突入とつにゅうし、およそ2時じ間あいだの白兵戦はくへいせんの後のち、アジェンデは炎上えんじょうするモネダ宮殿きゅうでん内うちで、自みずから自動じどう小銃しょうじゅう（カストロから贈おくられたAK-47改造かいぞう型がた^[1]）を握にぎって自殺じさつした。アジェンデが正確せいかくに自殺じさつしたことを特定とくていしたのは2011年ねんであった。その死因しいんは概おおむね顎あごから頭あたまに向むけて銃弾じゅうだんが2発はつ発射はっしゃされたものであった（自動じどう小銃しょうじゅうを膝ひざに抱かかえて銃弾じゅうだん2発はつを発射はっしゃした^[1]）。

なお、ホーカーハンターから発射はっしゃされたロケット弾だんは概おおむね大統領だいとうりょう官邸かんていモネダ宮みやの居室きょしつに命中めいちゅうしているが、居室きょしつ以外いがいに着弾ちゃくだんしたものも見みられた。この時とき、別べつの2機きのホーカーハンター機きがトマス・モロのアジェンデの私邸していを攻撃こうげきしているが、うち1発はつが空軍くうぐん病院びょういんを誤爆ごばくするというアクシデントもあった。

15時じ30分ふん頃ごろ、ラジオ放送ほうそうで、アジェンデ政権せいけんの無条件むじょうけん降伏ごうぶくおよびアジェンデの死亡しぼうが伝つたえられた。その時とき軍部ぐんぶはクーデターの証あかしとして、チリ国旗こっき掲揚けいようの要請ようせいを行おこなった。多おおくの中産ちゅうさん階級かいきゅう、上流じょうりゅう階級かいきゅうの建物たてものから、チリ国旗こっきが掲揚けいようされた。その後ご22時じに、陸軍りくぐんのアウグスト・ピノチェト、海軍かいぐんのホセ・トリビオ・メリーノ（José Toribio Merino）、空軍くうぐんのグスタボ・レイ（Gustavo Leigh）、国家こっか警察けいさつ隊たいのセサル・メンドーサ・ドゥラン（César Mendoza Durán）を構成こうせい員いんとする軍政ぐんせい評議ひょうぎ会かいの発足ほっそく、ならびに政治せいじ不ふ介入かいにゅうの原則げんそくに反はんした行動こうどうの根拠こんきょをチリ国民こくみん対たいし、テレビ・ラジオで説明せつめいが行おこなわれた。当初とうしょ、この4名めいは同等どうとうの立場たちばに立たつメンバーで、評議ひょうぎ会かいの委員いいん長ちょうは持もち回まわりとされていた。が、最年長さいねんちょうということで初代しょだいの委員いいん長ちょうにはピノチェトが就任しゅうにんした^[1]。そのピノチェトは、陸軍りくぐんのトップかつ軍事ぐんじ評議ひょうぎ会かいの委員いいん長ちょうという二に重じゅうの役割やくわりを利用りようすることで次第しだいに権力けんりょくを自分じぶんに集中しゅうちゅうしていった。同時どうじに、クーデター直後ちょくごからチリ全土ぜんどを恐怖きょうふに陥おとしいれた秘密ひみつ警察けいさつDINA（チリ国家こっか情報じょうほう局きょく）を自みずからの直属ちょくぞくの組織そしきとして創設そうせつすることで、自分じぶんに敵対てきたいする者ものたちを脅おどすことができた^[1]。こうして徐々じょじょに独裁どくさい体制たいせいを固かためていくピノチェトを見みた空軍くうぐんのレイ将軍しょうぐんは「海軍かいぐんの反乱はんらん、その後ごの空軍くうぐんの反乱はんらん、そして陸軍りくぐんの反乱はんらんと、クーデターに加くわわるのが遅おそかったにもかかわらず全権ぜんけんを掌握しょうあくしているかのように振ふる舞まっている」としてピノチェトを批判ひはんしたが、クーデター発生はっせいから5年ねん後ごの1978年ねんに軍事ぐんじ評議ひょうぎ会かいから追放ついほうされた^[1]。

左翼さよく狩かり[編集へんしゅう]

9月11日にち午前ごぜん6時じ、チリ陸海空りくかいくう軍ぐんおよび国家こっか警察けいさつは、チリ国内こくないの左翼さよく活動かつどう拠点きょてんを一斉いっせい摘発てきはつした。工科こうか大学だいがくに左翼さよく集団しゅうだんが有あり、チリ軍ぐんは武器ぶきの放棄ほうきと抵抗ていこうの停止ていしを求もとめたが、工科こうか大学だいがく側がわから発砲はっぽう、銃撃じゅうげき戦せんとなり、チリ軍ぐん、左翼さよく集団しゅうだん双方そうほうに死傷ししょう者しゃが出でた。このような戦闘せんとう行為こういはサンチャゴにおいては概おおむね９月くがつ13日にちには鎮圧ちんあつされたが、地方ちほう部ぶでは戦闘せんとうが数ヶ月すうかげつにおよぶところもあった。サンチャゴ市内しないをはじめ、チリ全土ぜんどに非常ひじょう線せんが張はられ、チリ軍ぐんが張はった非常ひじょう線せんでは武装ぶそうした人民じんみん連合れんごうの摘発てきはつ、人民じんみん連合れんごうが張はった非常ひじょう線せんでは、右翼うよくの射殺しゃさつなどが行おこなわれた。サンチャゴ市内しないの戦闘せんとうと伴ともにチリ軍部ぐんぶは「左翼さよく狩かり」を行おこない、武器ぶきを持もった人民じんみん連合れんごうの関係かんけい者しゃや労働ろうどう組合くみあい員いん、市民しみんや活動かつどう家かが逮捕たいほ・拘束こうそく・殺害さつがいされ、その中なかには人気にんきのあったフォルクローレ歌手かしゅビクトル・ハラもいた。彼かれが殺ころされたサンティアゴの室内しつない競技きょうぎ場じょうエスタディオ・チレ（英語えいご版ばん）には、他ほかにも多おおくの左派さは市民しみんが拘留こうりゅうされ、そこで射殺しゃさつされなかったものは投獄とうごく、あるいは非ひ公然こうぜんに強制きょうせい収容しゅうよう所しょに送おくられた。また、左翼さよく系けいの書籍しょせきや雑誌ざっしはことごとく没収ぼっしゅうされ、公衆こうしゅうの面前めんぜんで焚書ふんしょされた。ビクトル・ハラの音楽おんがくのマスターテープも破棄はきされた。穏健おんけん派はであった共産きょうさん党員とういんの殺害さつがいも見みられた、一方いっぽう、急進きゅうしん左派さはの社会党しゃかいとう員いんは、アルゼンチン経由けいゆ、もしくはメキシコ経由けいゆで亡命ぼうめいし、政治せいじ活動かつどうを継続けいぞくしたものも大勢おおぜいいる。

前年ぜんねんにノーベル文学ぶんがく賞しょうを受賞じゅしょうした詩人しじんパブロ・ネルーダ（チリ共産党きょうさんとう員いんであった）はガンで病床びょうしょうにあったが、クーデターの直後ちょくごに兵士へいしが自宅じたくに押おし入いり、家いえを荒あらされた上うえに蔵書ぞうしょも破棄はきされる狼藉ろうぜきに遭あった。9月24日にちに危篤きとく状態じょうたいとなって病院びょういんに向むかったところ、途中とちゅうの検問けんもんで救急きゅうきゅう車しゃから引ひきずり出だされて無理むりやり取とり調しらべを受うけ、そのまま病院びょういん到着とうちゃく直後ちょくごに亡なくなった。

またクーデターにより多おおくの左派さは市民しみんが外国がいこくに亡命ぼうめいしたが、その中なかには著名ちょめいなフォルクローレ・グループや歌手かしゅも多数たすう含ふくまれていた。先さきの陸軍りくぐん総そう司令しれい官かんカルロス・プラッツはアルゼンチンに亡命ぼうめいしていたが、翌年よくねん1974年ねん9月がつにピノチェトの創設そうせつした秘密ひみつ警察けいさつ「DINA（英語えいご版ばん）」の仕掛しかけたとされる車くるま爆ばく弾だんによって妻つまとともに暗殺あんさつされた。ただし、この当時とうじのアルゼンチンは汚きたない戦争せんそうの最中さいちゅうであり、多おおくの左派さは系けい人物じんぶつが暗殺あんさつ、行方ゆくえ不明ふめいとなっている。プラッツは人民じんみん連合れんごうよりのスト調停ちょうていを行おこない、右派うはからは反発はんぱつを受うけていた。またアジェンデ政権せいけん末期まっきには軍部ぐんぶと連携れんけいして打倒だとうに動うごいていたキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうもクーデター後ごに非合法ひごうほう化かされ、1975年ねん10月がつには、党とうの前ぜん大統領だいとうりょうエドゥアルド・フレイ・モンタルバの下したで副ふく大統領だいとうりょうを務つとめていたベルナルド・レイトン（英語えいご版ばん、スペイン語ご版ばん）が、亡命ぼうめい先さきのイタリアで妻つまと共ともに襲撃しゅうげきされ重傷じゅうしょうを負おった。

これら一連いちれんの非ひ公然こうぜんのテロ活動かつどうは、DINA単独たんどくによるものではなく、ブラジルやアルゼンチン、ボリビア、パラグアイその他たラテンアメリカ各国かっこくの軍事ぐんじ政権せいけんと秘密裏ひみつりに連携れんけいし、互たがいの相手あいて国こくに亡命ぼうめいした反はん政府せいふ派はを拘束こうそくあるいは殺害さつがいしていった、所謂いわゆるコンドル作戦さくせんの一環いっかんだったことが今日きょうでは知しられている。

海外かいがいの反応はんのう[編集へんしゅう]

クーデターを主導しゅどうしたニクソン政権せいけんは、クーデターが成功せいこうすると、自分じぶんたちの役割やくわりを小ちいさく見みせることを目論もくろんだ。9月16日にち、ニクソンとキッシンジャーは電話でんわで次つぎのような会話かいわを交かわした。キッシンジャーが「祝杯しゅくはいでもあげてもらいたいところですが。アイゼンハワーの時代じだいなら我々われわれはヒーローですよ」と不平ふへいをもらすと、ニクソンは録音ろくおんされていることを意識いしきして「だがな、俺おれたちがやったんじゃないぜ。君きみも知しってのとおりだ。今回こんかいの件けんでは、俺おれたちは日陰者ひかげものだ」と返かえした^[1]。結局けっきょく米国べいこく政府せいふは、ピノチェトのチリを即座そくざに承認しょうにんすることは避さけ、９月くがつ24日にちに静しずかに承認しょうにんした。世界せかいで11番目ばんめだった。ちなみに、この承認しょうにんを遅おくらせるという作戦さくせんを提案ていあんしたのはピノチェトの側がわである^[1]。自分じぶんの政権せいけんが米国べいこくにとって厄介やっかいな問題もんだいになるとピノチェトが認識にんしきしていた証拠しょうことの説せつが有力ゆうりょくである。

それよりも早はやく、クーデターの翌々日よくよくじつ（13日にち）に、米国べいこくはピノチェト政権せいけんを歓迎かんげいする旨むねの公電こうでんがホワイトハウスからサンティアゴへ打うたれた^[1]。その公電こうでんでは「軍事ぐんじ政権せいけんを支援しえんしたい、協力きょうりょくしたい」としている^[1]。

米国べいこく政府せいふは経済けいざい面めんでもピノチェト軍事ぐんじ政権せいけんを支援しえんした。米国べいこく農務のうむ省しょうは10月と11月にそれぞれ2400万まんドルを供与きょうよした。米国べいこく国際こくさい開発かいはつ庁ちょうは3年間ねんかんで1億おく3200万まんドルを提供ていきょうした。米国べいこくが牛耳ぎゅうじる国際こくさい金融きんゆう機関きかんも対たいチリ信用しんよう供与きょうよを再開さいかいした^[1]。

ピノチェトの側がわも、抑圧よくあつのための装備そうび品ひんも含ふくめて大量たいりょうの兵器へいき類るいを米国べいこくに注文ちゅうもんし、米国べいこくもそれを歓迎かんげいした。その結果けっか、チリは米国べいこく軍ぐん需品じゅひんの輸入ゆにゅう国こくとして世界せかいで第だい5位いの地位ちいについた^[1]。

プロパガンダの面めんでも米国べいこく政府せいふはピノチェトを支援しえんした。その多おおくは、ピノチェト政権せいけんの国際こくさい的てきイメージアップを狙ねらったもので、チリのキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとうの著名ちょめいな議員ぎいんたちがラテンアメリカとヨーロッパを回まわってクーデターを正当せいとうなものとして説明せつめいするというツアーの資金しきんを提供ていきょうした^[1]。

ピノチェトの権力けんりょくの源泉げんせんでありチリ全土ぜんどを恐怖きょうふに陥おとしいれた秘密ひみつ警察けいさつDINAも、CIAと密接みっせつな関係かんけいにあった。DINA創設そうせつ時じには、組織そしき化かと訓練くんれんの面めんでCIAが協力きょうりょくした^[1]。DINA内部ないぶにCIA工作こうさく員いんを配置はいちすることをCIA副ふく長官ちょうかんが提案ていあんしたこともある^[1]。さらにDINA長官ちょうかんのマヌエル・コントレラスはCIAから報酬ほうしゅうを受うけ取とっていた。それは、CIAが進すすめる工作こうさくでDINAの協力きょうりょくが必要ひつようだったから、とのことだ^[1]。

1976年ねん9月がつ、アジェンデ政権せいけん下かの外務がいむ大臣だいじんで駐米ちゅうべい大使たいしの経験けいけんもあったオルランド・レテリエルが滞在たいざい先さきのワシントンD.C.でDINAによる車くるま爆ばく弾だんで暗殺あんさつされた。レテリエルは、その一いちか月げつほど前まえに、ピノチェト軍事ぐんじ政権せいけんによる人権じんけん侵害しんがいと同どう政権せいけんによる新しん自由じゆう主義しゅぎ的てき経済けいざい政策せいさくは表裏一体ひょうりいったいの関係かんけいにあるとする批判ひはん記事きじを『ネイション』誌しで発表はっぴょうしたばかりだった^[1]。この事件じけんは、よりによって米国べいこくの首都しゅとでのテロ行為こういであったため、当時とうじの大統領だいとうりょうジミー・カーターが態度たいどを硬化こうかさせ、一時いちじピノチェト政権せいけんとの関係かんけいが悪化あっかした。

1977年ねん3月がつ8日にち、アメリカは国連こくれん人権じんけん委員いいん会かいでアジェンデ政権せいけん転覆てんぷくに介入かいにゅうしていたことを認みとめ遺憾いかんの意いを表明ひょうめい。「どれほど遺憾いかんの意いを表明ひょうめいしたところでチリ国民こくみんが二に年間ねんかん経験けいけんした苦くるしみと恐怖きょうふの緩和かんわには役やくにたないだろう」として、ピノチェト政権せいけんの暴走ぼうそうぶりを非難ひなんした^[2]。とはいえ、この発言はつげんはあくまでも国務省こくむしょうの一いち職員しょくいんによる個人こじん的てきな見解けんかいにすぎなかった。国務省こくむしょうとホワイトハウスは即座そくざにこれを撤回てっかい。発言はつげん者しゃは召還しょうかんされた^[1]。

その後ご関係かんけいはある程度ていど回復かいふくしたが元もとの状態じょうたいにまでは戻もどらず、アメリカ政府せいふ内ないにはピノチェトに対たいする不信ふしん感かんが残のこった。そして、米国べいこくの合法ごうほう的てき居住きょじゅう者しゃだった19歳さいのチリ人じんカメラマンが生いきたまま火ひをつけられるという事件じけん^[1]が米国べいこくでも報道ほうどうされると、米国べいこく政府せいふもピノチェトから距離きょりを置おくようになり、スポンサーを失うしなったピノチェトは1990年ねんに大統領だいとうりょうを辞任じにんする。レテリエル暗殺あんさつがその遠因えんいんともなっていたとする説せつもある。

日本にっぽんでは当時とうじの政権せいけん与党よとうである自民党じみんとうの他ほか、民社党みんしゃとうなどが反共はんきょう主義しゅぎを理由りゆうにクーデターを支持しじした。とりわけ民社党みんしゃとうは塚本つかもと三郎さぶろうを団長だんちょうとする調査ちょうさ団だんを派遣はけんし、1973年ねん12月18日にち、ピノチェトは大内おおうち啓伍けいごの取材しゅざいに応おうじた。塚本つかもとは帰国きこく後ご、クーデターを「天てんの声こえ」と賛美さんびした。ピノチェトは、クーデター後ごすぐにキューバとの国交こっこうを断絶だんぜつ。ソ連それん、北朝鮮きたちょうせん、ベトナム、ドイツ民主みんしゅ共和きょうわ国こく、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ユーゴスラビアなどの社会しゃかい主義しゅぎ国こく側がわも対抗たいこうして次々つぎつぎと断交だんこうに踏ふみ切きった。当時とうじ西側にしがわ諸国しょこくに接近せっきんしていたルーマニア人民じんみん共和きょうわ国こくと中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくだけ国交こっこうを継続けいぞくした^[3]。

混乱こんらんと崩壊ほうかい[編集へんしゅう]

国内こくないではピノチェトの強権きょうけん政治せいじが続つづき、依然いぜんとして反はん政府せいふ派は市民しみんに対たいする弾圧だんあつ、非ひ公然こうぜんの処刑しょけい（暗殺あんさつ）や強制きょうせい収容しゅうよう所しょへの拉致らち、国外こくがい追放ついほうなどが頻発ひんぱつした。同時どうじにシカゴ学派がくはの新しん自由じゆう主義しゅぎ経済けいざいに基もとづく経済けいざい運営うんえいが行おこなわれ、外見がいけん的てきには経済けいざいは発展はってんしたが、同時どうじに貧富ひんぷの格差かくさの拡大かくだいと、対外たいがい累積るいせき債務さいむの拡大かくだいを招まねいた。ピノチェト政権せいけんは政権せいけん中ちゅう後期こうきに混乱こんらん状態じょうたいに陥おちいったチリ経済けいざいの実情じつじょうを公表こうひょうしなかった。

ピノチェトの独裁どくさい政権せいけんは1989年ねんに民政みんせい移管いかんし、コンセルタシオン・デモクラシアからキリスト教民主党きりすときょうみんしゅとう出身しゅっしんのパトリシオ・エイルウィンが19年ねんぶりの選挙せんきょで大統領だいとうりょうに当選とうせん・就任しゅうにんするまで続つづいた。そして、ピノチェトは大統領だいとうりょう辞任じにん後ごも終身しゅうしんの上院じょういん議員ぎいん・陸軍りくぐん総そう司令しれい官かんとして影響えいきょう力りょくを保持ほじしていたが、独裁どくさい政治せいじによる弾圧だんあつや虐殺ぎゃくさつ行為こうい、不正ふせい蓄財ちくざいなどの罪つみで告発こくはつされ、総すべての特権とっけんを剥奪はくだつされた。なお2005年ねん9月がつにチリ最高裁さいこうさいは、最終さいしゅう的てきにピノチェトの健康けんこう状態じょうたいから裁判さいばんに耐たえられないとして、左派さはの活動かつどう家かに対たいする誘拐ゆうかい・殺人さつじんの罪状ざいじょうを棄却ききゃくした。また、2005年ねん10月がつにはピノチェトと家族かぞくの総すべての資産しさんが差さし押おさえられたが、結局けっきょく彼かれ自身じしんが裁さばかれることはなく2006年ねんに死去しきょした。