デウス・エクス・マキナ

デウス・エクス・マキナ（deus ex machina、羅ら: deus ex māchinā デウス・エクス・マーキナー^{[注ちゅう 1]}）とは、演出えんしゅつ技法ぎほうの一ひとつである。古代こだいギリシアの演劇えんげきにおいて、劇げきの内容ないようが錯綜さくそうしてもつれた糸いとのように解決かいけつ困難こんなんな局面きょくめんに陥おちいった時とき、絶対ぜったい的てきな力ちからを持もつ存在そんざい（神かみ）が現あらわれ、混乱こんらんした状況じょうきょうに一いち石せきを投とうじて解決かいけつに導みちびき、物語ものがたりを収束しゅうそくさせるという手法しゅほうを指さした。

由来ゆらい[編集へんしゅう]

由来ゆらいはギリシア語ごの ἀπぱいὸ μηχανῆς θεός (アポ・メーカネース・テオス) からのラテン語らてんご訳やくで、「機械きかい仕掛しかけから出でてくる神かみ」^[1]、あるいは「機械きかい仕掛しかけの神かみ」^[2]などと訳やくされる。「デウス・エクス・マキーナ」などの表記ひょうきもみられるが、ラテン語らてんごとしては誤あやまりである。通常つうじょうの複数ふくすう形がたは deī ex māchinā（デイー・エクス・マーキナー）もしくは dī ex māchinā（ディー・エクス・マーキナー）であるが、機械きかいにあたる語かたりも複数ふくすう形がたになる "... ex māchinīs"「～エクス・マーキニース」というバラバラ感かんを強調きょうちょうした表現ひょうげんもたまには見みられる。また、女神めがみの場合ばあいは最初さいしょの単語たんごが dea (デア)、複数ふくすう形がた deae (デアエ) となる。

悲劇ひげきにしばしば登場とうじょうし、特とくに盛期せいき以降いこうの悲劇ひげきで多おおく用もちいられる。アテナイでは紀元前きげんぜん5世紀せいき半なかばから用もちいられた。特とくにエウリピデスが好このんだ手法しゅほうである。

エクス・マーキナー（機械きかいによって）とは、この場面ばめんにおいて神かみを演えんじる役者やくしゃがクレーンのような仕掛しかけで舞台ぶたい（オルケストラ）上じょうに登場とうじょうし、このからくりが「機械きかい仕掛しかけ」と呼よばれたことによる。由来ゆらいは、「機械きかい仕掛しかけで登場とうじょうする神かみ」ないし、舞台ぶたい装置そうちとしての解決かいけつに導みちびく神かみそのものが機械きかい仕掛しかけであることとも解ほぐされる。日本語にほんごで思おもいがけない展開てんかいを指さす「どんでん返がえし」（歌舞伎かぶきにおいて、大道具おおどうぐの背景はいけいを倒たおし、瞬時しゅんじに場面ばめん転換てんかんする「強盗ごうとう返かえし」から来きた）あるいは「超ちょう展開てんかい」とも発想はっそうは類似るいじしているが、これらは物語ものがたりを解決かいけつに導みちびくものだけを指さすわけではない。

井上いのうえ勇いさむは創つく元もと推理すいり文庫ぶんこのヴァン・ダイン『ベンスン殺人さつじん事件じけん』で、「時じの氏神うじがみ」と翻訳ほんやくしている。

評価ひょうか[編集へんしゅう]

内容ないよう[編集へんしゅう]

古代こだいギリシアの時点じてんで既すでにこの手法しゅほうは批判ひはんされている。アリストテレスの『詩学しがく』において、デウス・エクス・マキナは褒ほめられた解決かいけつ方法ほうほうではなく、演劇えんげきの物語ものがたりの筋すじはあくまで必然ひつぜん性せいを伴ともなった因果いんが関係かんけいに基もとづいて導みちびき出だされていくべきであるとし、行いき詰づまった物語ものがたりを前触まえぶれもなく突然とつぜん解決かいけつに導みちびいてしまうこのような手法しゅほうを批判ひはんしている。

また、"夢ゆめオチ”はデウス・エクス・マキナであり、手塚てづか治虫おさむは禁忌きんきとした^[3]。ただし現代げんだいでは、漫画まんがやライトノベルのスピンオフ作品さくひんにおいてはデウス・エクス・マキナの例れいは少すくなくない。この場合ばあいは本編ほんぺんの主人公しゅじんこう或あるいはライバルが、スピンオフ作品さくひんの主人公しゅじんこうの危機ききを救すくうといったケースが多おおい。

技術ぎじゅつ[編集へんしゅう]

好このましくない解決かいけつとされることが多おおいものの、舞台ぶたいの機械きかい装置そうちの発展はってんとしては、盛期せいきアテナイ演劇えんげきの成果せいかのひとつとして評価ひょうかされる。