空気くうき

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空気くうき(くうき)とは、地球ちきゅう大気圏たいきけんさい下層かそう構成こうせいしている気体きたいで、人類じんるいらしているなかまわりにあるものをいう[1]

一般いっぱん空気くうきは、無色むしょく透明とうめいで、複数ふくすう気体きたい混合こんごうぶつからなり、その組成そせいやく8わり窒素ちっそやく2わり酸素さんそでほぼ一定いっていである。また水蒸気すいじょうきふくまれるがその濃度のうど場所ばしょによりおおきくことなる。工学こうがくなど空気くうき利用りよう研究けんきゅうする分野ぶんやでは、水蒸気すいじょうきのぞいた乾燥かんそう空気くうき(かんそうくうき, dry air)と水蒸気すいじょうきふくめた湿潤しつじゅん空気くうき(しつじゅんくうき, wet air)を使つかける。

空気くうき大気たいき[編集へんしゅう]

地球ちきゅうおお気体きたいそうを「大気圏たいきけん」といい[2]、その気体きたいそのものを日常にちじょう会話かいわ工業こうぎょう分野ぶんやなどでは「空気くうき[1]気象きしょうがくなど地球ちきゅう科学かがく分野ぶんやでは「大気たいき[3]ともぶ。普通ふつう日常にちじょう会話かいわで「空気くうき」という場合ばあいには、人間にんげんらしているなかまわりに存在そんざいする地上ちじょう空気くうきし、場合ばあいによっては飛行機ひこうき航行こうこうする高度こうどのような上空じょうくう空気くうきす。一方いっぽう地球ちきゅう科学かがくにおいてはおなじものを「大気たいき」という。なお、日本語にほんごにおける「空気くうき」には、そのにいる人々ひとびと気分きぶんやその雰囲気ふんいきという意味いみもある[4]

空気くうき物性ぶっせい[編集へんしゅう]

乾燥かんそうした空気くうき1 Lおもは、セ氏せし0、1気圧きあつ(1 atm)のときに1.293 gである[1]。1 Lで1 gというと一見いっけんちいさいようであるが、垂直すいちょくすうじゅうkmもかさなることで、地表ちひょう付近ふきん空気くうきにはおおきなおも圧力あつりょく)がかかる。1気圧きあつは1.033 kgf/cm2なので、地表ちひょうでは1 cm2あたりおよそ1 kg物体ぶったいっているようなちから圧力あつりょくとしてくわわっている。1平方へいほうメートルあたりでは10トン、つまり土砂どしゃんだダンプカーがっているようなおおきなちからになる。これはつきちがって地球ちきゅうにはあつ大気たいきそうがあるためであり、地表ちひょう付近ふきんではこの圧力あつりょくのために空気くうき密集みっしゅうした状態じょうたいになっていて、真空しんくう状態じょうたいとはちがった様々さまざま影響えいきょうがある。

れい

風速ふうそく、つまり空気くうき移動いどう速度そくどおおきくなるにつれ、衝突しょうとつする空気くうき総量そうりょうえ、おおきな風圧ふうあつしょうじることになる。帆船はんせんヨットウィンドサーフィンなどはこれを利用りようしておおきな推力すいりょくているわけであるし、台風たいふうなどでは巨大きょだい破壊はかいりょくとなる。

また、空気くうき流体りゅうたいであり、空気くうきなかすす物体ぶったいには揚力ようりょく抗力こうりょく空気くうき抵抗ていこう)がしょうじる。とり飛行機ひこうきつばさおおきな揚力ようりょくることで空気くうきちゅう飛揚ひようする。

密度みつど(0 ℃ 1 atm) 1.293 kg/m3
平均へいきんモル質量しつりょう 28.966 g/mol
ねつ膨張ぼうちょうりつ(100 ℃ 1 atm) 0.003671 /K [ちゅう 1]

常温じょうおんつねあつ空気くうきはほぼ理想りそう気体きたいとしてい、t [℃]における空気くうき密度みつどρろー [kg/m3]は、大気たいきあつP [atm]、水蒸気すいじょうきあつe [atm]とすると、

あらわせる[5]

また、セ氏せし0、1気圧きあつ乾燥かんそう空気くうきにおける音速おんそくは331.45 m/s[6]セ氏せし15ではやく340 m/sである。

1気圧きあつにおける近似きんじてきだが、乾燥かんそう空気くうきねつ伝導でんどうりつセ氏せし0 - 25あいだやく0.024 W・m-1・K-1 とほとんどわらない[7][8][9]

また、1気圧きあつ乾燥かんそう空気くうき電気でんき伝導でんどうりつしるべでんりつ)はエアロゾルりょうによりおおきくわり、2.9×10−15(エアロゾル) - 7.88×10−15(エアロゾルうすΩおめが-1・m-1(または S/m)程度ていどであるという研究けんきゅう報告ほうこくがある[10]

大気たいき組成そせい[編集へんしゅう]

乾燥かんそう大気たいき組成そせいしめえんグラフ。したえん微量びりょう成分せいぶん詳細しょうさい

地球ちきゅう大気たいき窒素ちっそ酸素さんそのほか多数たすう微量びりょう成分せいぶん構成こうせいされる。1cm3たり3×1019分子ぶんしふくまれる。[11]以下いか国際こくさい標準ひょうじゅん大気たいき(1975)[12]における、海面かいめん付近ふきん(1気圧きあつ)の、エアロゾルひとし微粒子びりゅうしのぞいた清浄せいじょう乾燥かんそう空気くうき組成そせい解説かいせつする。

(*)をけた成分せいぶんは、呼吸こきゅう光合成こうごうせいなどの生物せいぶつ活動かつどうくるま工場こうじょう排気はいきガスなどの産業さんぎょう活動かつどう空気くうきちゅうこる光化学こうかがく反応はんのうともな合成ごうせい分解ぶんかいにより、場所ばしょによりおおきく変動へんどうする。

実際じっさい空気くうきちゅうもっと変動へんどうするのは水蒸気すいじょうきであり、最大さいだいで4%程度ていどひくいときは0%ちかくまで低下ていかする。ぜんたま地表ちひょう平均へいきんではやく0.4%となる。(下表かひょうにはふくまない)

(+)をつけた成分せいぶんは、人為じんいてき排出はいしゅつされる成分せいぶんであり、濃度のうど近年きんねんいちじるしく変化へんかしているものである。おも産業さんぎょう革命かくめい以降いこう完全かんぜん人為じんいてき排出はいしゅつされて大気たいきちゅう残存ざんそんした成分せいぶんと、元々もともと自然しぜんかい排出はいしゅつされていたが産業さんぎょう革命かくめい以降いこう人為じんいてき大量たいりょう排出はいしゅつされて濃度のうどたかまった成分せいぶんとがある。

数値すうちみぎの(>)は、その通常つうじょう空気くうきにおける最大さいだいであることをしめす。「1ppm>」であれば、最大さいだい1ppm、通常つうじょうはそれ以下いかであることを意味いみしている。

ひょう1: 乾燥かんそう空気くうきおも組成そせい国際こくさい標準ひょうじゅん大気たいき、1975ねん
成分せいぶん 化学かがくしき 体積たいせき 割合わりあい(vol%) ppm ppb 備考びこう
窒素ちっそ N2 78.084 780,840 - [12]
酸素さんそ O2 20.9476 209,476 - [12]
アルゴン Ar 00.934 009,340 - [12]
二酸化炭素にさんかたんそ CO2 00.041 000,410 - +*2018ねん[13][12][ちゅう 2][14]
ネオン Ne 00.001818 000,018.18 - [12]
ヘリウム He 00.000524 000,005.24 - [12]
メタン CH4 00.000181 000,001.81 1813±2 +2011ねん[13][12][ちゅう 3]
クリプトン Kr 00.000114 000,001.14 - [12]
二酸化にさんか硫黄いおう SO2 00.0001> 000,001> - *[12]
水素すいそ H2 00.00005 000,000.5 - [12]
一酸化いっさんか窒素ちっそ N2O 00.000032 000,000.32 0324.2±0.1 +*2011ねん[13][12][ちゅう 4]
キセノン Xe 00.0000087 000,000.087 0087 [12]
オゾン O3 00.000007> 000,000.07> 0070> *[ちゅう 5][12]
二酸化にさんか窒素ちっそ NO2 00.000002> 000,000.02> 0020> *[12]
ヨウもと I2 00.000001> 000,000.01> 0010> *[12]
ひょう2: 乾燥かんそう空気くうき微量びりょう成分せいぶん
成分せいぶん 化学かがくしき 体積たいせき割合わりあい(vol%) ppm ppb ppt 備考びこう
クロロメタン CH3Cl やく0.000000055 - 0.55 やく550 +* 2008ねん[15]
ジクロロジフルオロメタン(CFC-12) CCl2F2 - - - やく540 + 2008ねん[15]
トリクロロフルオロメタン(CFC-11) CCl3F - - - やく245 + 2008ねん[15]
クロロジフルオロメタン(HCFC-22) CHClF2 - - - やく200 + 2008ねん[15]
一酸化いっさんか炭素たんそ CO - - - やく91 +* 2008ねん[16]
よん塩化えんか炭素たんそ CCl4 - - - やく90 + 2008ねん[15]
トリクロロトリフルオロエタン(CFC-113) C2Cl3F3 - - - やく75 + 2008ねん[15]
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a) C2H2F4 - - - やく50 + 2008ねん[15]
1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b) CClF2CH3 - - - やく20 + 2008ねん[15]
1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141b) CCl2FCH3 - - - やく20 + 2008ねん[15]
1,1,1-トリクロロエタン CH3CCl3 - - - やく10 + 2008ねん[15]
1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a) C2H4F2 - - - やく4-9 + 2008ねん[15]
ろくフッ硫黄いおう SF6 - - - やく6.5 + 2008ねん[15]
ブロモクロロジフルオロメタン(ハロン1211) CClBrF2 - - - やく4 + 2008ねん[15]
ブロモトリフルオロメタン(ハロン1301) CBrF3 - - - やく3 + 2008ねん[15]
アンモニア NH3 痕跡こんせきりょう*[よう出典しゅってん] - - -

空気くうき利用りよう[編集へんしゅう]

産業さんぎょうようとして圧縮あっしゅく空気くうき様々さまざま場面ばめん利用りようされる。圧縮あっしゅく空気くうき原動力げんどうりょくとしてもちいる機械きかいそらあつ機械きかいというが、圧縮あっしゅくもちいたり使用しようしゃ手動しゅどうおこなったりといくつかの方式ほうしきがある。

また純粋じゅんすい空気くうき利用りようでは、ボンベひとし充填じゅうてんした圧縮あっしゅく空気くうき低温ていおん液化えきかさせた液体えきたい空気くうき製造せいぞうされる。つねあつではおよそ-190℃で液化えきかし、液体えきたい酸素さんそ影響えいきょうから液体えきたい空気くうきあわあおあじびたいろをしている[17]。ボンベに充填じゅうてんする空気くうき一般いっぱんてきに、水蒸気すいじょうき微粒子びりゅうし成分せいぶんのぞいた乾燥かんそう空気くうきである。

スキューバ・ダイビング使用しようするタンクには圧縮あっしゅく空気くうき充填じゅうてんされているが、50m程度ていどまで潜水せんすいする場合ばあいは、窒素ちっそけるため、窒素ちっそぶんヘリウム置換ちかんした空気くうきもちいる。

また、窒素ちっそ酸素さんそ二酸化炭素にさんかたんそのほか、アルゴン、クリプトン、キセノン、ネオンなどの大気たいきちゅうふくまれる成分せいぶんは、空気くうき利用りようして冷却れいきゃく圧縮あっしゅく化学かがく吸着きゅうちゃくまく分離ぶんりとう方法ほうほう産業さんぎょうよう製造せいぞうされるものがある。

同軸どうじくケーブル絶縁ぜつえんたいには当初とうしょ空気くうき使つかわれており、最適さいてき特性とくせいさぐった結果けっか特性とくせいインピーダンスがやく75Ωおーむというとなり、ポリエチレン変更へんこうされた現在げんざいでも数値すうち維持いじされている。

空気くうき大気たいき理解りかい[編集へんしゅう]

空気くうき理解りかい[編集へんしゅう]

よん元素げんそせつにおける元素げんそ関係かんけい

古代こだいギリシャでは空気くうきは4つの元素げんそよんだい元素げんそみず空気くうき)の1つとされていた(よん元素げんそせつ[18]

18世紀せいき後半こうはんになるとイギリスで空気くうき化学かがく(pneumatic chemistry)に関心かんしんたかまった[18]ジョゼフ・ブラック固定こてい空気くうき二酸化炭素にさんかたんそ)の研究けんきゅうとおして気体きたい特異とくいせい識別しきべつし、空気くうき化学かがく基礎きそてき研究けんきゅう貢献こうけんした[18]。また、ジョゼフ・プリーストリーだつフロギストン空気くうき(dephlogisticated air)という気体きたい酸素さんそ)を研究けんきゅうし、一酸化いっさんか窒素ちっそ酸化さんか窒素ちっそ塩化えんか水素すいそ、アンモニア、二酸化にさんか硫黄いおうよんフッケイ素けいそ酸素さんそ研究けんきゅうについて「様々さまざま種類しゅるい空気くうきかんする実験じっけん観察かんさつ」(Experiments and Observation on Different Kinds of Air)を出版しゅっぱんした[18]

なお、ガス(gas)というかたりヤン・ファン・ヘルモントがギリシャ混沌こんとん意味いみするchaosからつくったかたりである[18]

大気たいき理解りかい[編集へんしゅう]

鉛直えんちょく構造こうぞうとしての大気たいき高所こうしょ必要ひつようがあり空気くうき研究けんきゅうくらべるとおくれた[18]。1648ねんブレーズ・パスカルピュイ・ド・ドーム火山かざんにガラスかん水銀すいぎんってやまのぼり、高度こうどごとの水銀柱すいぎんちゅうたかさを測定そくていして高度こうどによりことなり、温度おんどおなじであれば高度こうどひくくなるほど圧力あつりょくすことを発見はっけんした[18]

日本にっぽんでの空気くうき認識にんしきと「空気くうき」という言葉ことば歴史れきし[編集へんしゅう]

沢庵たくあん和尚おしょう実験じっけん[編集へんしゅう]

日本にっぽんはじめて空気くうき存在そんざい科学かがくてき証明しょうめいする実験じっけんしめしたのは、江戸えど時代じだい初期しょき禅宗ぜんしゅうそう沢庵たくあん和尚おしょう(1573 - 1645)である[19]沢庵たくあんは『理学りがく捷径しょうけい(りがくのしょうけい)』(1621)[ちゅう 6]なかで、「かたちなけれども歴々れきれきとしてあるしるしには、うごけばふうくなり。ひとつよはしりてうごけば、いきつよくなるごとくなり」などと、空気くうき存在そんざい説明せつめいしたのち、「おけそこにおき(がついたすみ)をのりにてつけて、これをみずうえせて、まっすぐにみずなかむに、おけうちみずいらずして、えざるなり。これはおけうちにもがいっぱいちてあるゆえに、うちがふさがりてみずはいるべきところなく、おけうちなにもなくそらなれど、のある証拠しょうこなり」という実験じっけんしめした[21]

沢庵たくあんは「日本にっぽん最初さいしょ空気くうき存在そんざい証明しょうめいした実験じっけん」をおこなったが[22]沢庵たくあん戦国せんごく末期まっきから江戸えど時代じだい初期しょきさかい京都きょうと活動かつどうしていた多数たすうキリスト教きりすときょう宣教師せんきょうしからアリストテレスの自然しぜんがく講釈こうしゃくり、自分じぶん説教せっきょう利用りようしたとかんがえられる[22]

沢庵たくあんは『東海とうかい夜話やわ』(1859)[ちゅう 7]なかたけ鉄砲てっぽうというかみだま鉄砲てっぽうのおもちゃを紹介しょうかいしているが、その理由りゆうとして「さきたまたまあいだそらなれども、そのあいだにはちてあるゆえなり」といている[23]

沢庵たくあん終始しゅうし、「」という言葉ことばもちいているが、それは儒学じゅがくろんでいう「一般いっぱん実在じつざい証明しょうめいしたかったからである。沢庵たくあんはそれらの「」と空気くうき同一どういつせい証明しょうめいしたかったので「以外いがい言葉ことばかんがえることはまったかった[24]

井原いはら西鶴さいかくの『好色こうしょくいちだいおとこ[編集へんしゅう]

空気くうき」という言葉ことばをはじめてもちいたのは井原いはら西鶴さいかく(1642 - 1693)の『好色こうしょくいちだいおとこ』(1682)である[25]西鶴さいかくまきななの「くち添へてさけけいかご」のじょうで「いまこのからは空気くうきのようにおもはれはべる」といている[25]。しかし、これは「うつけもの」(馬鹿者ばかもの間抜まぬけ)という意味いみ言葉ことばであった[25]江戸えど時代じだいには「空気くうき」といて「うつけ」と理解りかいする人々ひとびとがいたとかんがえられる[25]

あかりれき(1659)ねんの『乾坤けんこんべんせつ』にも「空気くうき」のかたりてくるが、それはヨーロッパのよん元素げんそせつろんじたものであって、今日きょう空気くうき言葉ことばではなかった[26]

空気くうきかたり初出しょしゅつ[編集へんしゅう]

今日きょう使つか意味いみでの「空気くうき」のかたり初出しょしゅつ前野まえの良沢りょうたく(1723 - 1803)の『かん蠡秘げん』(かんれいひげん)(1777)である。そこには「空気くうき地球ちきゅうつつものにして、そのあつ地平ちへいよりうえよんじゅうぶんおよぶ。これをそらからだごうす」とあって、今日きょう空気くうきをさしている[27]良沢りょうたくは「空間くうかんめる」の意味いみで「空気くうき」という言葉ことば使つかった[25]良沢りょうたく最初さいしょ蘭学らんがくしゃべるひとで、オランダの学問がくもんって「空気くうき」と儒学じゅがくとうの「」を区別くべつするために「空気くうき」という言葉ことばつくった[28]

ゆう概念がいねん[編集へんしゅう]

空気くうき中国ちゅうごく伝来でんらいろんの「」と区別くべつするべつかたりとして「ゆう(ゆうき)」も使つかわれた。ゆう中国ちゅうごくゆうろくいた『てんけいあるとい』で使つかわれた言葉ことばで、オランダ科学かがくしょとおして、日本にっぽんではじめて近代きんだいヨーロッパの科学かがくまなんだ志筑しづき忠雄ただお(1760 - 1806)が著書ちょしょなか多用たようした[29]こころざしちくゆう水蒸気すいじょうき意味いみでももちいており、今日きょう空気くうきまったおなじというわけではなかった。こころざしちく中国ちゅうごく陰陽いんようぎょうせつ影響えいきょうのこしていた[30]

1800年代ねんだい初期しょき科学かがく関係かんけいしょ[編集へんしゅう]

前野まえの良沢りょうたくこころざしちく忠雄ただお著書ちょしょ写本しゃほんとしてつたわっただけであったが、1800ねん前後ぜんこうになると蘭学らんがく関係かんけいほんがかなり出版しゅっぱんされるようになった。文政ぶんせいもと(1818)ねんにオランダの空気くうきじゅうて、それを複製ふくせいした国友くにともただし兵衛ひょうえ(1778 - 1840)は『ほう』をいて、空気くうきのことを「」といている。当時とうじ蘭学らんがく関係かんけいしょでは、「」「空気くうき」「ゆう」の3つのかたりがまちまちに使つかわれていた[31]

大気たいきという言葉ことば[編集へんしゅう]

蘭学らんがくしゃたち空気くうきあらわ言葉ことばとして「大気たいき」という言葉ことばつくった。幕府ばくふ命令めいれいでオランダ家庭かてい百科ひゃっか事典じてんやくした『厚生こうせい新編しんぺん』(1821,1824)[ちゅう 8]には空気くうき意味いみする言葉ことばとして「大気たいき」がてくる。訳者やくしゃ大槻おおつき玄沢げんたく宇田川うだがわ玄真げんしんとなっている[33]かれらは「空気くうき」という訳語やくご不適ふてきなして「大気たいき」という訳語やくごつくった[33]。「大気たいき」のかたりはそのおおくの蘭学らんがくしゃたち支持しじされて、江戸えど幕府ばくふ末期まっき科学かがくしょなかもっと一般いっぱんてき使つかわれるようになった[34]日本にっぽんはじめてラボアジェ化学かがく紹介しょうかいした宇田川うだがわ榕庵ようあんは『しゃみつひらけむね』(1837)のなか空気くうき一貫いっかんして「大気たいき」とやくしている。榕庵ようあん大気たいきほかに「瓦斯がす」という言葉ことば区別くべつしており、その「大気たいき概念がいねん近代きんだい科学かがくの「空気くうき」の概念がいねんまったおなじである[34]

幕末ばくまつの「空気くうき」という言葉ことば普及ふきゅう[編集へんしゅう]

江戸えど時代じだいには「大気たいき」という言葉ことばは「うつわおおきい」という意味いみでももちいられていたため、それをにしたひとは「大気たいき」よりも「空気くうき」という言葉ことばこのんで使用しようした[35]宇田川うだがわ榕庵ようあんの『しゃみつひらけむね』の1ねん以上いじょう(1837ねん以後いご)に出版しゅっぱんされたつるみねつちのえさる(つるみねぼしん)(1788 - 1858)の『さんさい究理きゅうり頌(さんさいきゅうりしょう)』では、「空気くうき」のかたりもちいている。づるみね蘭学らんがく地動説ちどうせつ日本にっぽん神話しんわむすびつけて宇宙うちゅうろん展開てんかいし、「ぜっ窒素ちっそななふんきよし酸素さんそさんふんしょうまじわりて、空気くうきととのいたり」などとてくる[36]元治もとはる(1865)ねんボイスちょ大場おおばゆきときわけの『民間みんかんかく問答もんどう』という日本にっぽん最初さいしょ本格ほんかくてき科学かがくもの出版しゅっぱんされ、そのなかでは「空気くうき」のかたり最初さいしょから最後さいごまでもちいられ、明治維新めいじいしん科学かがく啓蒙けいもうしょ出版しゅっぱんブームにおおきな影響えいきょうあたえた[37]

明治めいじもと(1868)ねん以後いご[編集へんしゅう]

明治めいじ元年がんねんから7ねんごろまで、各種かくしゅ科学かがく啓蒙けいもうしょかれ「窮理きゅうりねつ」というブームになった[38]福沢ふくさわ諭吉ゆきちいた『(訓蒙くんもう窮理きゅうり図解ずかい』では、「空気くうきこと」のなかで「空気くうきひとにはえざれども、この世界せかいかこえようして万物ばんぶつうち充満じゅうまんせり」とかれている[38]。このほん影響えいきょうおおくの啓蒙けいもうしょが「空気くうき」のかたり採用さいようしたが、専門せんもんしょでは「大気たいき」のかたり使つかうことがおおかった[39]

文部省もんぶしょう学制がくせい空気くうき概念がいねん[編集へんしゅう]

文部省もんぶしょう明治めいじねん学制がくせいによって教科書きょうかしょ出版しゅっぱんしたために、明治めいじ7ねん以降いこう民間みんかん科学かがく啓蒙けいもうしょ出版しゅっぱん運動うんどうである窮理きゅうりねつ急速きゅうそくにしぼんでしまった[40]明治めいじねん文部省もんぶしょうした教科書きょうかしょでは「空気くうき」と「大気たいき」が併用へいようされていた。その明治めいじねんから8ねんにかけてつくられた教科書きょうかしょでは、「大気たいき」のみだったり、「空気くうき」のみだったり一貫いっかんしなかった[41]明治めいじ10年代ねんだいまでの教科書きょうかしょ以外いがい科学かがくしょでは「空気くうき」が「大気たいき」よりも優勢ゆうせいになっていたが、統一とういつされてはいなかった。

物理ぶつりがく訳語やくごかいによる統一とういつ[編集へんしゅう]

空気くうき」の「大気たいき」にたいする勝利しょうり確定かくていてきにしたのは、東京とうきょう数学すうがく物理ぶつり学会がっかい物理ぶつりがく訳語やくごかいであった[42]訳語やくごかい明治めいじ18ねん議事ぎじろくには結論けつろんとして「Air 空気くうき」として異論いろんがなかったことが記録きろくされている[42]訳語やくごかい福沢ふくさわ諭吉ゆきちなどの大衆たいしゅうてき科学かがく啓蒙けいもうしょが「空気くうき」という言葉ことば大衆たいしゅうしたため、それをそのままみとめたとかんがえられる[42]明治めいじ21ねん訳語やくごかい最終さいしゅう結果けっか印刷いんさつ公表こうひょうし、これ以後いごは「空気くうき」のかたり統一とういつされた[43]

空気くうき知覚ちかく[編集へんしゅう]

我々われわれ空気くうき依存いぞんし、空気くうきなか生活せいかつしているが、日常にちじょう生活せいかつなかでそれを意識いしきすることはあまりない。同様どうよう生活せいかつかせないみずがその手応てごたえや感触かんしょくから、普段ふだんからはっきり意識いしきされるのとはこう対照たいしょうである。

ただし空気くうきは、それにながれがあるときには意識いしきされる傾向けいこうがあり、「ふう」とばれるようになる[ちゅう 9]

また、その成分せいぶんについては、った部屋へや、(洞窟どうくつなかなど)換気かんき不十分ふじゅうぶん場所ばしょなど(現在げんざい観念かんねんえば、酸素さんそ不十分ふじゅうぶんだったり、余計よけいガスじった状態じょうたい)では意識いしきされていて、ふるくから「くさった空気くうき」「空気くうきくさる」といった表現ひょうげんがされてきた。また、かおくさただよったり、化学かがく物質ぶっしつにより刺激しげきかんじるような場合ばあい意識いしきされるようになる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ ほぼ絶対温度ぜったいおんど逆数ぎゃくすうひとしい。
  2. ^ 産業さんぎょう革命かくめいまえの1750ねんで1.4ばい増加ぞうかしている。国際こくさい標準ひょうじゅん大気たいき(1975)では314 ppmとしてしめされている。
  3. ^ 産業さんぎょう革命かくめいまえの1750ねんで2.6ばい増加ぞうかしている。国際こくさい標準ひょうじゅん大気たいき(1975)では2 ppmとまるめてしめされている。
  4. ^ 産業さんぎょう革命かくめいまえの1750ねんで1.2ばい増加ぞうかしている。国際こくさい標準ひょうじゅん大気たいき(1975)では0.5 ppmとまるめてしめされている。
  5. ^ ふゆは20 ppb>程度ていどまで低下ていかする。
  6. ^ はじめて出版しゅっぱんされたのは沢庵たくあん正保まさやす(1645)ねんくなったのち正保しょうほうさん(1646)ねんであるが、江戸えど時代じだいとおして文政ぶんせいなな(1824)ねんまでなん刊行かんこうされている[20]
  7. ^ 安政あんせいろくねんはじめて刊行かんこうされた[20]
  8. ^ 江戸えど時代じだいには幕府ばくふ命令めいれい印刷いんさつできず、1937ねんはじめて印刷いんさつ出版しゅっぱんされた[32]
  9. ^ なお、ひと空気くうきうごきを全身ぜんしんからだ表面ひょうめん体毛たいもう)の毛根もうこんあたりの感覚かんかくで(体毛たいもううごきをかんじて)直接的ちょくせつてきかんじている、と指摘してきしている研究けんきゅうがある。体毛たいもうってしまったりすると、感度かんどちるという。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c Yahoo! Japan辞書じしょ大辞泉だいじせんくう‐き【空気くうき
  2. ^ Yahoo! Japan辞書じしょ大辞泉だいじせんたいき‐けん【大気圏たいきけん
  3. ^ Yahoo! Japan辞書じしょ大辞泉だいじせんたい‐き【大気たいき
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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]