細胞さいぼう (政党せいとう)

細胞さいぼう（さいぼう）とは、政党せいとう・政治せいじ団体だんたいの基礎きそ組織そしきを指さす。

概説がいせつ

原語げんごは、軍事ぐんじにおける部隊ぶたいの編成へんせい単位たんいである「班はん」、刑務所けいむしょの独房どくぼうといった意味いみであり、当初とうしょは日本語にほんごでも「班はん」と訳やくされたが、やがて「細胞さいぼう」との訳語やくごが主流しゅりゅうになった。

宣伝せんでん、政策せいさく、組織そしき、財政ざいせいの担当たんとう者しゃを持もち、弾圧だんあつを受うけて中央ちゅうおうからの指令しれいが途切とぎれても活動かつどうを保たもち、自己じこ増殖ぞうしょくし、やがて組織そしきを再生さいせいできる最小さいしょう単位たんいとしての意味合いみあいがある。

ただし、あまりに特異とくいな語法ごほうであるため、旧きゅうソ連それんでの実態じったいから下部かぶ組織そしきの自主じしゅ性せいを軽視けいししているという印象いんしょうや、陰謀いんぼう団体だんたいといった印象いんしょうを与あたえるため、近年きんねんでは「基礎きそ組織そしき」「支部しぶ」などの名称めいしょうを使つかう例れいが増ふえている。

本来ほんらいの語意ごいである生物せいぶつ学がく用語ようごとしての「細胞さいぼう」については、細胞さいぼうを参照さんしょう

性質せいしつと歴史れきし

フランス

組織そしきの構成こうせい単位たんいとして「細胞さいぼう」(covert cell) を最初さいしょに組織そしきしたのは、19世紀せいきフランスの革命かくめい家かでパリ・コミューンの指導しどう者しゃともなったルイ・オーギュスト・ブランキであった。その後ご、社会しゃかい主義しゅぎや無む政府せいふ主義しゅぎのグループにおいても取とり入いれられた。

ソ連それん・ナチス

政党せいとうにおいて細胞さいぼうをもっとも綿密めんみつに張はり巡めぐらせたのは、ソビエト連邦れんぽう共産党きょうさんとうである。すなわち、共産党きょうさんとうによりあらゆる社会しゃかい活動かつどうが規定きていされるという原則げんそくにより、各かく地域ちいき・職場しょくば・学校がっこうに党員とういんの集合しゅうごう体たいが設立せつりつされ、これが細胞さいぼうと称しょうされることになった。これは党とう指導しどう部ぶの指令しれいに絶対ぜったい的てきに服従ふくじゅうし、日常にちじょう活動かつどうを実践じっせんするという役割やくわりを持もっていた。細胞さいぼう組織そしきは社会しゃかい全体ぜんたいの掌握しょうあくには有効ゆうこうな手段しゅだんと考かんがえられた。そのため、コミンテルンを通つうじてソ連それん共産党きょうさんとうの指導しどうを受うける各国かっこくの共産党きょうさんとうや、組織そしき形態けいたいでは共産党きょうさんとうを模倣もほうしたとされる国民こくみん社会しゃかい主義しゅぎドイツ労働ろうどう者しゃ党とう（ナチ党とう）でも採用さいようされた（細胞さいぼう指導しどう者しゃ）。

中国ちゅうごく国民こくみん政府せいふ

松岡まつおか洋右ようすけによれば、1924年ねんより始はじまった第だい一いち次じ国共こっきょう合作がっさくにおいて、国民党こくみんとう幹部かんぶは、ソ連それんから「ロシアの細胞さいぼう組織そしきなり、ロシアの革命かくめいに用もちいた、現げんに今いま用もちいつつある手段しゅだん方法ほうほうを教授きょうじゅされ」、それが一番いちばん大おおきなソ連それんから得えた援助えんじょだと公言こうげんしていたとされる。

アイルランド

現在げんざいでも、アイルランド共和軍あいるらんどきょうわぐんでは「細胞さいぼう」を使用しようしている。

共産きょうさん主義しゅぎにおける細胞さいぼう組織そしき

共産きょうさん主義しゅぎにおける細胞さいぼう組織そしきは、工場こうじょう細胞さいぼう、街頭がいとう細胞さいぼう、農村のうそん細胞さいぼう (農のう細ほそ)などより成なり、各かく細胞さいぼうの主しゅ班はん (キャプテン) のみが上位じょうい団体だんたいとの連絡れんらくを行おこなっていた。

もともと、共産党きょうさんとうは工場こうじょう細胞さいぼうが中心ちゅうしんであり、工場こうじょう組織そしきに籍せきの無ない労働ろうどう者しゃや失業しつぎょう者しゃは街頭がいとう細胞さいぼうとして組織そしきされていた。

その後ご、市民しみんと農民のうみんの対立たいりつが深ふかまると、農村のうそん細胞さいぼうの設置せっちが叫さけばれた。1925年ねん、ロシア共産党きょうさんとうは「農村のうそんに於おけるアヂティションとプロパカンダ」を発行はっこうした。1926年ねんのフランス共産党きょうさんとう第だい五ご回かい大会たいかいでは、「根本こんぽん組織そしきは工場こうじょう細胞さいぼうでなくてはならない」としたものの、農村のうそん細胞さいぼうの設置せっちによる農村のうそん大衆たいしゅうの獲得かくとくが叫さけばれた。また、高橋たかはし貞樹さだきの供述きょうじゅつによれば、1928年ねんのコミンテルン第だい六ろく回かい大会たいかいの決議けつぎにおいて、日本にっぽんの農民のうみん運動うんどうについて、農村のうそん細胞さいぼうの獲得かくとくを目指めざす新しん戦術せんじゅつが指定していされたとされる。

日本にっぽん

戦前せんぜん

戦前せんぜんにおいて、1922年ねんに非合法ひごうほう政党せいとうとして設立せつりつされた日本にっぽん共産党きょうさんとうはコミンテルンを通つうじてソ連それん共産党きょうさんとうの指導しどうを受うけ、その活動かつどう単位たんいとして「細胞さいぼう」が提起ていきされた。小林こばやし多喜二たきじは、北海道ほっかいどう・小樽おたるにある製せい缶かん会社かいしゃでの活動かつどう家かを描えがいた作品さくひんに「工場こうじょう細胞さいぼう」と名なづけ、これは1930年ねんに雑誌ざっし『改造かいぞう』で掲載けいさいされた。しかし、1930年代ねんだいに続つづいた警察けいさつの組織そしき摘発てきはつと指導しどう部ぶ内部ないぶでの混乱こんらんにより共産党きょうさんとうの組織そしきは実質じっしつ的てきに壊滅かいめつし、「細胞さいぼう」の活動かつどうも停止ていし状態じょうたいになった。

戦後せんご

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後のちに合法ごうほう化かされた共産党きょうさんとうは、国内外こくないがいの共産きょうさん主義しゅぎの台頭たいとうの風潮ふうちょうの中なか、党員とういんを増加ぞうかさせていったが、急増きゅうぞうした党員とういんはソ連それん共産党きょうさんとうにならって居住きょじゅう地ちや職場しょくばごとに細胞さいぼうとして組織そしき化かされ、地区ちくや各かく都道府県とどうふけんの委員いいん会かいを通つうじて中央ちゅうおう委員いいん会かいの指令しれいや統率とうそつに服ふくすることになった。また、各かく細胞さいぼうはその職場しょくばや学校がっこうなどで活発かっぱつに党とうの活動かつどうを行おこない、労働ろうどう運動うんどうや学生がくせい運動うんどうで強つよい影響えいきょう力りょくを持もった。特とくに東京大学とうきょうだいがく細胞さいぼうでは、後のちに共産党きょうさんとう幹部かんぶとなった上田うえだ耕一郎こういちろう・上田うえだ健二郎けんじろう(ペンネーム不破ふわ哲三てつぞう)兄弟きょうだいの他ほか、共産党きょうさんとうを離党りとうしてマスコミや経済けいざい界かいに転てんじた渡邉わたなべ恒雄つねお、氏家うじいえ齊ひとし一郎いちろう、堤つつみ清二せいじ、それに社会しゃかい主義しゅぎの構造こうぞう改革かいかく論者ろんしゃとなった安東あんどう仁兵衛じんべえなど、その後ごの日本にっぽん社会しゃかいに影響えいきょうを与あたえる人材じんざいを輩出はいしゅつした。1950年代ねんだい前半ぜんはんに共産党きょうさんとうが武装ぶそう闘争とうそうを展開てんかいすると、山村さんそん工作こうさく隊たい、中核ちゅうかく自衛隊じえいたいなどの軍事ぐんじ行動こうどうについても各かく細胞さいぼうが実行じっこう部隊ぶたいとして携たずさわることになった。

その後ご、1955年ねんの日本にっぽん共産党きょうさんとう第だい6回かい全国ぜんこく協議きょうぎ会かい（六ろく全ぜん協きょう）を機きに、共産党きょうさんとうが議会ぎかいを重視じゅうしした平和へいわ革命かくめい路線ろせんに復帰ふっきすると、学生がくせいを中心ちゅうしんに武装ぶそう闘争とうそうの継続けいぞくを主張しゅちょうするものは共産党きょうさんとうを離はなれて新あらたな組織そしきを結成けっせいしていった。その中なかには、共産党きょうさんとうと同様どうように自みずからの末端まったん組織そしきを細胞さいぼうと称しょうするグループも現あらわれた。

現在げんざい

現在げんざいでは、組織そしき内ないですら細胞さいぼうの意味いみが通つうじなくなっている、細胞さいぼうそのものを構成こうせいできずにより上級じょうきゅうの機関きかんでの活動かつどうを余儀よぎなくされている等ひとしの理由りゆうにより、細胞さいぼう名めいでの行動こうどう、会議かいぎ、声明せいめい等とうがなされることは減へっているが、日本にっぽん労働党ろうどうとうのように今いまでも「細胞さいぼう」の名称めいしょうを維持いじしている場合ばあいもある。

一方いっぽう、1960年代ねんだい以降いこうに各種かくしゅ国政こくせい・地方ちほう選挙せんきょでの得票とくひょう数すうや議席ぎせきを増加ぞうかさせ、議会ぎかい活動かつどうの活発かっぱつ化かを重視じゅうしした共産党きょうさんとうは「細胞さいぼう」という言葉ことばのイメージを嫌きらい、自みずからの基礎きそ組織そしきを他た党とうでも使用しようされている「支部しぶ」へ改称かいしょうした。現在げんざいの共産党きょうさんとうは細胞さいぼうという名称めいしょうは使用しようしていない。

関連かんれん項目こうもく

• 後援こうえん会かい
• 草くさの根ね民主みんしゅ主義しゅぎ
• レーニン主義しゅぎ
• 政治せいじ連盟れんめい
• 隣組となりぐみ/地縁ちえん団体だんたい
• 山村さんそん工作こうさく隊たい
• 中核ちゅうかく自衛隊じえいたい

外部がいぶリンク

• 日本にっぽん共産党きょうさんとう第だい四よん回かい全国ぜんこく協議きょうぎ会かい、党とう規約きやく

  （1953年ねん制定せいてい、法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ資料しりょう）