ヒツジ

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ひつじから転送てんそう
ヒツジ
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : 哺乳ほにゅうつな Mammalia
: くじら偶蹄ぐうてい Artiodactyla
: ウシ Ruminantia
: ウシ Bovidae
: ヤギ Caprinae
ぞく : ヒツジぞく Ovis
たね : ヒツジ O. aries
学名がくめい
Ovis aries
和名わみょう
ヒツジ
英名えいめい
Sheep

ヒツジひつじ綿羊めんよう学名がくめいOvis aries)は、ウシヤギくじら偶蹄ぐうていである。かくち、おも羊毛ようもうのために家畜かちくされている。

形態けいたい[編集へんしゅう]

螺旋らせんえがいてびるラセンかく(ハンガリーのラツカひつじハンガリー:Racka
渦巻うずまじょうのアモンかく(フィニッシュ・ランドレースしゅ(en))

ヒツジは反芻はんすう動物どうぶつとしては比較的ひかくてきからだちいさく、がわ頭部とうぶのらせんがたかくと、羊毛ようもうばれるちぢれたをもつ。

原始げんしてき品種ひんしゅでは、みじかなど、野生やせいしゅ特徴とくちょうのこすものもある。

家畜かちくのヒツジは54ほん染色せんしょくたいをもつが、野生やせいしゅは58-54ほん染色せんしょくたいゆうし、交雑こうざつ可能かのうである。自然しぜん状態じょうたい雑種ざっしゅなかには55ほんや57ほん染色せんしょくたいをもつ個体こたいそんする。

品種ひんしゅによってまったくかくをもたないもの、めす両方りょうほうにあるもの、ゆうだけがかくつものがある。螺旋らせんきながらじきじょうびたかくをラセンかく渦巻うずまじょうまる成長せいちょうするかくをアモンかくしょうする。かくのある品種ひんしゅのほとんどは左右さゆうに1たい1だが、品種ひんしゅにはヤギのように後方こうほう湾曲わんきょくしながらびる2-3たい(4-6ほん)のかくをもつものもいる。

野生やせいのヒツジのうえ色合いろあいには幅広はばひろいバリエーションがあり、くろあか赤褐色せきかっしょくあか黄色おうしょく褐色かっしょくなどがある。ようのヒツジはおも染色せんしょくてきしたしろ羊毛ようもうさんするように改良かいりょうくわえられているが、ほかにも純白じゅんぱくから黒色こくしょくまであり、むら模様もようなどもある。しろいヒツジのれのなかに有色ゆうしょく個体こたいあらわれることもある。

ヒツジの体長たいちょう体重たいじゅう品種ひんしゅによりおおきくことなり、めす体重たいじゅうはおよそ45–100kg、ゆうはよりおおきくて45–160kgである。

成熟せいじゅくしたヒツジは32ほんつ。ほかの反芻はんすう動物どうぶつおなじように、しもあごに8ほん門歯もんしがある一方いっぽううえあごにはがなく、かた歯茎はぐきがある。犬歯けんしはなく、門歯もんし臼歯きゅうしとのあいだおおきな隙間すきまがある。

4さいになるまで(そろうまで)は、前歯まえばとしに2ほんずつえるため、ヒツジの年齢ねんれい前歯まえばかずることができる。ヒツジの平均へいきん寿命じゅみょうは10ねんから12ねんであるが、20ねんきるものもいる。

前歯まえばよわいかさねるにつれうしなわれ、べるのがむずかしくなり、健康けんこうさまたげる。このため、通常つうじょう放牧ほうぼくされているヒツジは4さいぎると徐々じょじょかずっていく。

生態せいたい[編集へんしゅう]

くさだけでなく、樹皮じゅひはなべる。しょくそうしょく特性とくせい幅広はばひろいとされる[1]

ヒツジの聴力ちょうりょくはよい。また視力しりょくについては、水平すいへいほそ瞳孔どうこうち、すぐれた周辺しゅうへん視野しやをもつ。視野しやは 270–320°で、あたまうごかさずに自分じぶん背後はいごることができる。しかし、奥行おくゆきはあまり知覚ちかくできず、かげ地面じめんのくぼみにひるんでさきすすまなくなることがある。

くらいところからあかるいところに移動いどうしたがる傾向けいこうがある。

通常つうじょうは、妊娠にんしん期間きかん150にちぐらいでを1とうだけむが、2とうあるいは3とうむときもある。

ヒツジにとって、危険きけんたいする防御ぼうぎょ行動こうどう単純たんじゅん危険きけんからすことである。そのつぎに、められたヒツジが突撃とつげきしたり、蹄をらして威嚇いかくする。とくに新生児しんせいじれためすにみられる。ストレスに直面ちょくめんするとすぐにしパニックにおちいるので、初心者しょしんしゃがヒツジのばんをするのはむずかしい。

ヒツジは非常ひじょうおろかな動物どうぶつであるというイメージがあるが、イリノイ大学だいがく研究けんきゅうによりヒツジのIQがブタよりはひくウシどう程度ていどであることがあきらかになった。ひとのヒツジのかおなんねん記憶きおくでき、かお表情ひょうじょうから心理しんり状態じょうたい識別しきべつすることもできる。

ヒツジは非常ひじょうもの貪欲どんよくで、いつもエサをくれるひとにエサをねだることもある。ひつじいは牧羊ぼくようけんなどでれをうごかすわりに、エサのバケツでヒツジを先導せんどうすることもある。エサをべる順序じゅんじょ身体しんたいてき優位ゆういせいにより決定けっていされ、のヒツジにたいしてより攻撃こうげきてきなヒツジが優勢ゆうせいになる傾向けいこうがある。

オスのヒツジはかくのサイズがれでの優位ゆういめる重要じゅうよう要素ようそとなっていて、かくのサイズがことなるヒツジのあいだではエサをべる順番じゅんばんをあまりあらそわないが、おなじようなかくのサイズをつもの同士どうしではあらそいがこる。

羊毛ようもう採取さいしゅ目的もくてき家畜かちくされたたねは、わりがさほどきないため、人為じんいてきらなければ生命せいめいかかわることもある。2021ねん、オーストラリアで飼育しいく環境かんきょうからだっしていたヒツジが保護ほごされたさいれいでは、重量じゅうりょうが30kgをえており話題わだいとなった[2]

ヒツジは非常ひじょうれたがる性質せいしつをもち、れからはなされるとつよいストレスをける。また、先導せんどうしゃしたが傾向けいこうがとてもつよい(その先導せんどうしゃはしばしばたん最初さいしょうごいたヒツジであったりもする)。これらの性質せいしつ家畜かちくされるにあたりきわめて重要じゅうよう要素ようそであった。
なお、捕食ほしょくしゃがいない地域ちいき在来ざいらいしゅは、つよ行動こうどうをおこさない。
れのなかでは、自分じぶん関連かんれんあるもの同士どうし一緒いっしょうご傾向けいこうがある。こんしゅれのなかではおな品種ひんしゅしょうグループができるし、まためすヒツジとその子孫しそんおおきなれのなか一緒いっしょうごく。
いちひき状態じょうたいでは、ゾウやサイなど異種いしゅともれをつくろうとする[3]

歴史れきし[編集へんしゅう]

家畜かちく歴史れきし[編集へんしゅう]

みなみアジアの野生やせいしゅウリアル

しん石器せっき時代じだいから野生やせい大型おおがたヒツジの狩猟しゅりょうがおこなわれていた形跡けいせきがある。家畜かちくはじまったのは古代こだいメソポタミアで、紀元前きげんぜん7000-6000ねんごろの遺跡いせきからは野生やせいヒツジとはことなる小型こがたのヒツジのほね大量たいりょう出土しゅつどしており、最古さいこのヒツジの家畜かちく証拠しょうこかんがえられている[注釈ちゅうしゃく 1]

臀部でんぶ脂肪しぼうたくわえるヒツジ

家畜かちくされたヒツジの祖先そせんは、モンゴルからインド西にしアジア地中海ちちゅうかいにかけて分布ぶんぷしていた4しゅ野生やせいヒツジにさかのぼることができる。中央ちゅうおうアジアアルガリ現在げんざい中近東ちゅうきんとうにいるアジアムフロン、インドのウリアル[注釈ちゅうしゃく 2]地中海ちちゅうかいのヨーロッパムフロンがこれにあたる。これら4しゅ交雑こうざつ可能かのうであり、遺伝いでんがくてき手法しゅほうによっても現在げんざいのヒツジの特定とくていするにはいたっていないが、いくつかの傍証ぼうしょうからアジアムフロンが原種げんしゅであるとのせつ主流しゅりゅうとなっている。

ヒツジを家畜かちくするにあたってもっと重要じゅうようだったのは、脂肪しぼうであったとかんがえられている。にくちちかわ利用りようヤギすぐれ、家畜かちくは1000-2000ねん程度ていど先行せんこうしていた。しかし山岳さんがく砂漠さばくステップなど乾燥かんそう地帯ちたいらす遊牧民ゆうぼくみんにとって、重要じゅうよう栄養素えいようそである脂肪しぼうはヤギからは充分じゅうぶんることができず、現代げんだいでもヒツジの脂肪しぼう最良さいりょう栄養えいようげんである。地域ちいき脂肪しぼう摂取せっしゅ主流しゅりゅうとなっているブタは、こうしたきびしい環境かんきょうでの飼育しいくてきさず、宗教しゅうきょうてきにも忌避きひされている。こうした乾燥かんそう酷寒こっかん地域ちいきでは臀部でんぶ脂肪しぼうたくわえる品種ひんしゅ重視じゅうしされている。それぞれ、あぶらひつじあぶらしりひつじ分類ぶんるいされる。

羊毛ようもう歴史れきし[編集へんしゅう]

利用りようについては、現代げんだい[いつ?]のヒツジと最初さいしょのヒツジとでは様相ようそうおおきくことなる。

野生やせいのヒツジの(フリース)は2そうになっている。外側そとがわふとあらながい「うえ粗毛ほぼけケンプ)」におおわれ、はだちか内側うちがわ産毛うぶげのようなみじかやわらかくほそい「下毛しもげはるウール)」がわずかにえている。最初さいしょのヒツジのはる(ウール)は発達はったつで、利用りようされていなかった。一方いっぽう野生やせいのヒツジははるうえ(ケンプ)がける(かわ性質せいしつがあり、紀元前きげんぜんから人類じんるいは、このちたうえ(ケンプ)によってフェルトつくっていたらしい[注釈ちゅうしゃく 3]現在げんざいわれわれが通常つうじょう羊毛ようもう(ウール)としてしたしんでいるのは、おもにこの下毛しもげ発達はったつさせるように品種ひんしゅ改良かいりょうされた家畜かちくようヒツジのである。現代げんだい家畜かちくされたヒツジはかわしない。

ギリシアの黄金おうごん羊毛ようもう伝説でんせつ

家畜かちくされたヒツジは改良かいりょうによって、うえ(ケンプ)を退行たいこうさせるわりに、ヘアー適当てきとう訳語やくごがない)とばれるなかあいだはる(ウール)を発達はったつさせた。紀元前きげんぜん4000ねんごろにはヘアータイプやウールタイプのヒツジが分化ぶんかしている。紀元前きげんぜん2000ねんごろのバビロニアはウールと穀物こくもつ植物しょくぶつさんだい産物さんぶつによって繁栄はんえいした。バビロンのは「ウールのくに」の意味いみであるとする研究けんきゅうしゃもいる[4][注釈ちゅうしゃく 4]

1世紀せいきローマのレリーフ

野生やせいタイプのヒツジのうえ(ケンプ)は黒色こくしょく赤褐色せきかっしょく褐色かっしょくであったが、改良かいりょうによってヘアーやウールタイプのヒツジからは淡色たんしょく白色はくしょくられ、染料せんりょう技術ぎじゅつともにメソポタミアからエジプト伝播でんぱし、彩色さいしきされた絨毯じゅうたん重要じゅうよう交易こうえきひんとなった。紀元前きげんぜん1500ねんごろから、地中海ちちゅうかいあらわれたフェニキアひとによってしろいウールタイプのヒツジがコーカサス地方ちほうイベリア半島はんとうまれた。コーカサス地方ちほうのヒツジは、のちにギリシアひとによってさい発見はっけんされ、黄金おうごんひつじ伝説でんせつとなった。このヒツジはローマ時代じだいにはやわらかくほそながしろいウールをむタランティーネしゅ改良かいりょうされた。ローマじん着用ちゃくようした衣服いふくはウールの織物おりものである。一方いっぽう、イベリア半島はんとうでは、すでに土着どちゃくしていたウールタイプのヒツジとタランティーネしゅ交配こうはいによる改良かいりょうによって、さらなる改良かいりょうつづけられ、1300ねんごろカスティーリャ現在げんざいメリノしゅ登場とうじょうした。

理想りそうてきなウールだけをさんするメリノしゅ毛織物けおりもの産業さんぎょうつうじてスペインの黄金おうごん時代じだいささえた。メリノしゅはスペイン王家おうけ国費こくひとうじて飼育しいくし、すうとう海外かいがい王家おうけ外交がいこう手段しゅだんとして贈呈ぞうていされる以外いがい門外不出もんがいふしゅつとされた。これをおかしたもの死罪しざいだった。18世紀せいきになるとスペインの戦乱せんらんにヨーロッパの列国れっこく介入かいにゅうし、メリノしゅ戦利せんりひんとしてられて流出りゅうしゅつ羊毛ようもう生産せいさんにおけるスペインの優位ゆういせい喪失そうしつされた。イギリスでは羊毛ようもう織物おりもの蒸気じょうき機関きかんわせたしん産業さんぎょうおこった。1796ねんみなみアフリカ経由けいゆで13とうのメリノしゅがオーストラリアに輸入ゆにゅうされた。このうちの3とう現在げんざいのオーストラリアのメリノしゅ始祖しそになったとつたえられている。このひつじったニュー・サウス・ウェールズしゅうジョン・マッカーサーはヒツジの改良かいりょうつとめ、オーストラリアの羊毛ようもう産業さんぎょう基礎きそきずいた[5]

ひつじがわ歴史れきし[編集へんしゅう]

ヒツジのかわ利用りよう最古さいこのものとしては紀元前きげんぜん2500ねんごろまでさかのぼることができるが、羊皮紙ようひしとしては、紀元前きげんぜん2世紀せいきごろペルガモン現在げんざいのトルコ)で本格ほんかくてき加工かこうはじまったとされる。

ひつじちち歴史れきし[編集へんしゅう]

ひつじちちはヤギのちちくらべると、脂肪しぼうタンパク質たんぱくしつんでおり、加工かこうてきする。中近東ちゅうきんとうやヨーロッパ大陸たいりくではひつじちち伝統でんとうてきチーズヨーグルト加工かこうされており、現在げんざいでもおおくのちちようしゅ飼育しいくされている。しかし、よりおそ家畜かちく成功せいこうしたウシと比較ひかくすると単位たんい面積めんせきたりの収量しゅうりょうおとり、ウシを飼養しようできる地域ちいきではヒツジのちち利用りよう主流しゅりゅうではない。

日本にっぽんひつじ歴史れきし[編集へんしゅう]

日本にっぽん列島れっとうには古来こらいより、きゅう石器せっき縄文じょうもん時代じだいのイヌや弥生やよい時代じだいブタニワトリ古墳こふん時代じだいウマウシなど家畜かちくふく様々さまざまなものがうみえてつたわったが、ひつじ飼育しいくおよ利用りよう記録きろくとぼしい。寒冷かんれい土地とちおお防寒ぼうかんよう羊毛ようもう利用りようされる下地したじはあったが、動物どうぶつ遺体いたい出土しゅつど事例じれい報告ほうこくされていないことから、ほとんどつたわらなかったものとかんがえられている。

考古こうこ資料しりょうでは鳥取とっとりけん鳥取とっとり青谷あおや上地じょうち遺跡いせきにおいて弥生やよい時代じだいきん部材ぶざいかんがえられているばん頭部とうぶ湾曲わんきょくするじゅう円弧えんこかく動物どうぶつえがかれており、ヒツジもしくはヤギ表現ひょうげんしたものともかんがえられている[6]

文献ぶんけん史料しりょうにおいては、『こころざし倭人わじんでん』(『しょ東夷あずまえびすでん倭人わじんじょう)では弥生やよい時代じだい末期まっき3世紀せいき前半ぜんはんだい)において日本にっぽん列島れっとうにはヒツジがいなかったとしるされている[6]

8世紀せいき初頭しょとう成立せいりつした『日本書紀にほんしょき』では、推古天皇すいこてんのう7ねん599ねん)に、推古天皇すいこてんのうたい百済くだら朝鮮半島ちょうせんはんとう南西なんせい)からの朝貢ちょうこうぶつとして駱駝らくだ(らくだ)、驢馬ろば(ろば)かく1とうしろ1、そしてひつじ2とう献上けんじょうされたという[6]。これが日本にっぽん国内こくないにおいて、ひつじについてかれた最初さいしょ史料しりょうである[7]西域せいいき動物どうぶつであるラクダやロバとともに献上けんじょうされていることから、当時とうじ日本にっぽん列島れっとうでは家畜かちくとしてのヒツジが存在そんざいしていなかったともかんがえられている[6]

奈良なら時代じだい天武天皇てんむてんのう時代じだい関東かんとう活躍かつやくした人物じんぶつに「多胡たごひつじ太夫たゆう(たご ひつじだゆう)」という人物じんぶつがいるとつたわり、関連かんれんして群馬ぐんまけん安中あんなかひつじ神社じんじゃ愛知あいちけん名古屋なごやにも同名どうめいひつじ神社じんじゃがある)などがのこ程度ていどであり、ひつじ自体じたい存在そんざい飼育しいく記録きろく確認かくにんできない。

8世紀せいきには、奈良ならけん平城ひらじろみやあと三重みえけん斎宮いつきのみやあとからひつじがたすずり(すずり)が出土しゅつどしている[8]。8世紀せいき中頃なかごろには、正倉院宝物しょうそういんほうもつふくまれる「臈纈ろうけつ屏風びょうぶ(ろうけちのびょうぶ)」にヒツジの図像ずぞうられる[8]

日本にっぽんりゃく』によれば、嵯峨天皇さがてんのう治世ちせいひろしひとし11ねん820ねん)には、しんからの朝貢ちょうこうぶつとして鵞鳥がちょう2山羊やぎ1とう、そしてくろひつじ2とうしろひつじ4とう献上けんじょうされたという[6]。さらに、醍醐天皇だいごてんのう治世ちせい延喜えんぎ3ねん(903ねん)にはとうひとが“ひつじ鵞鳥がちょうけんじず”とあり、記録きろくふくなん日本にっぽんひつじ上陸じょうりくした記録きろくはあるが、その飼育しいく土着どちゃくされた記録きろくはない。ゆえ日本にっぽん服飾ふくしょくながく、おも植物しょくぶつ繊維せんい原料げんりょうとするものばかりであった。

江戸えど時代じだい文化ぶんか2ねん1805ねん)に江戸えど幕府ばくふ長崎ながさき奉行ぶぎょう成瀬なるせただしじょうひつじ輸入ゆにゅうし、唐人とうじん中国人ちゅうごくじん)の牧夫ぼくふ使役しえきして肥前ひぜん浦上うらかみ飼育しいくこころみたが、失敗しっぱい

幕府ばくふおくつめ医師いしであった本草学ほんぞうがくしゃ渋江しぶえ長伯ちょうはく行動こうどうてき学者がくしゃであったらしく、幕命ばくめいにより蝦夷えぞまで薬草やくそう採集さいしゅう出向でむいたりしていた。長伯ちょうはく幕府ばくふ医師いしだけではなく、江戸えど郊外こうがいにあり幕府ばくふ薬草やくそうえんであった広大こうだい巣鴨すがも薬園やくえん総督そうとくねていたが、文化ぶんか14ねん1817ねん)から薬園やくえんない綿羊めんよう飼育しいくし、羊毛ようもうから羅紗らしゃ試作しさくおこなった。巣鴨すがも薬園やくえんはゆえに当時とうじ綿羊めんよう屋敷やしき」とばれていた。

明治めいじはいるとやと外国がいこくじんによって様々さまざま品種ひんしゅのヒツジがまれたが、冷涼れいりょう気候きこうてきしたヒツジは日本にっぽん湿潤しつじゅん環境かんきょう馴染なじまず、おおくの品種ひんしゅ定着ていちゃくしなかった。日本にっぽん政府せいふ牛馬ぎゅうば普及ふきゅう重視じゅうししたが、外国がいこくじんル・ジャンドルが軍用ぐんよう毛布もうふのため羊毛ようもう自給じきゅう必要ひつようせいき、1875ねん明治めいじ8ねん)に大久保おおくぼ利通としみちによって下総しもうさ牧羊ぼくようじょう新設しんせつされた。これが日本にっぽんでの本格ほんかくてきなヒツジの飼育しいくはじまりである。

民間みんかんでは、1876ねん明治めいじ9ねん)に蛇沼じゃぬませいつね岩手いわてけん政府せいふから100とうひつじ牧野ぼくやりてはじめたのが先駆せんくで、以後いごすうひゃくとう規模きぼ牧場ぼくじょう東日本ひがしにっぽん各地かくちひらかれた[9]。ただ、生産せいさんされた羊毛ようもうげるのは軍用ぐんよう千住せんじゅ製絨せいじゅうしょかぎられ、品質ひんしつおと日本にっぽんさん羊毛ようもう販売はんばい価格かかくひくく、ひつじにく需要じゅようがないこともあって、経営けいえいてきには成功せいこうしなかった[10]。1888ねん明治めいじ21ねん)には政府せいふ奨励しょうれい政策せいさくりになり、官営かんえい下総しもうさ牧羊ぼくようじょう閉鎖へいさされた[11]

しかし、国内こくない羊毛ようもう製品せいひん需要じゅよう軍需ぐんじゅ民需みんじゅともに旺盛おうせいで、しだいに羊毛ようもう工業こうぎょう発達はったつした。戦前せんぜんから戦後せんごあいだもない時期じきまでの日本にっぽんにとって毛織物けおりもの重要じゅうよう輸出ゆしゅつひんだったが、その原料げんりょうオーストラリアニュージーランドなどからの輸入ゆにゅうたよっていた。いち失敗しっぱいみとめた政府せいふにも、国産こくさん羊毛ようもう振興しんこうしたいという意見いけん根強ねづよくあり、1918ねん大正たいしょう7ねん)から「副業ふくぎょうめんひつじ」を普及ふきゅうさせた。農家のうか自家じか農業のうぎょう副産物ふくさんぶつえさにして1とうだけひつじい、おも子供こども世話せわをして家計かけいしにするという方法ほうほうである[12]副業ふくぎょうめんひつじ東日本ひがしにっぽん山間さんかん養蚕ようさん農家のうかあいだひろまった[13]

1957ねん昭和しょうわ32ねん)には統計とうけいじょうで94まんとう実数じっすうではおそらく100まんとうえるかず日本にっぽん国内こくない飼育しいくされるようになった。しかし、その海外かいがいから安価あんかひつじにくおよ羊毛ようもうはいってきたことや、化学かがく繊維せんい普及ふきゅうしたため、国産こくさん羊毛ようもう需要じゅよう急減きゅうげんし、24ねんの1981ねん昭和しょうわ56ねん)になると、国内こくないひつじ飼育しいくすうは、100ぶんの1程度ていどやく1まんとうにまで激減げきげんした。そのにく利用りよう目的もくてきとしたひつじ飼育しいくふたた増加ぞうかし、1991ねん平成へいせい3ねん)には3まんとうえるかずまで増加ぞうかした。その8わりサフォークしゅである[7]

生産せいさん[編集へんしゅう]

アルゼンチン、パタゴニアでの牧羊ぼくよう
2008ねんひつじ頭数とうすう
(単位たんいひゃくまんとう)
中華人民共和国の旗 中国ちゅうごく 136.4
オーストラリアの旗 オーストラリア 79.0
インドの旗 インド 65.0
イランの旗 イラン 53.8
スーダンの旗 スーダン 51.1
ニュージーランドの旗 ニュージーランド 34.1
ナイジェリアの旗 ナイジェリア 33.9
イギリスの旗 イギリス 33.1
世界せかい総計そうけい 1,078.2
出典しゅってん: FAO [14]

ヒツジは羊毛ようもうにく(ラム、マトン)を目的もくてきとして世界中せかいじゅうひろ飼育しいくされ、2008ねんにはぜん世界せかいで10おくとうえるヒツジが飼育しいくされていた。世界せかいもっともヒツジをおお飼育しいくしているのは中国ちゅうごくで、1おく3000まんとう以上いじょうのぼる。飼育しいく頭数とうすう漸増ぜんぞう傾向けいこうにあったが、2006ねんからは減少げんしょうてんじている。2インドで、1992ねんから2010ねんまでに飼育しいく頭数とうすうやく1.5ばいとなり、現在げんざい漸増ぜんぞう傾向けいこうつづく。いで飼育しいく頭数とうすうおおいのはオーストラリアである。かつてはながらく世界せかい最大さいだいのヒツジ生産せいさんこくであり、1992ねんには1おく4800まんとう以上いじょうのヒツジが飼育しいくされていたが、飼育しいく頭数とうすう急激きゅうげき減少げんしょうしており、1996ねんには中国ちゅうごくかれてだい2となり、2010ねんにはインドにもかれて3となった。2010ねん飼育しいく頭数とうすうやく6800まんとうであり、1992ねん半分はんぶん以下いかにまで減少げんしょうしている。オーストラリアのヒツジはメリノしゅおもであり、羊毛ようもうおも目的もくてきとしていたが、近年きんねんでは食肉しょくにくしゅさかんに飼育しいくされるようになった。4イランであり、1992ねんの4600まんとうから2010ねんの5400まんとう微増びぞうしている。5スーダンであり、1992ねんから2010ねんまでに飼育しいく頭数とうすう倍増ばいぞうした[14]。6ニュージーランドふるくからのヒツジのだい生産せいさんこくであり、1834ねんにヒツジが本格ほんかく導入どうにゅうされてからすぐに羊毛ようもうだい輸出ゆしゅつこくとなり、さらに1882ねん冷凍れいとうせん導入どうにゅうされてからはひつじにく輸出ゆしゅつできるようになって、産業さんぎょう革命かくめいにあったイギリス主要しゅよう市場いちばとして発展はってんしていった。ニュージーランドではオーストラリアとはちがい、ひつじにく羊毛ようもう兼用けんようしゅおも飼育しいくされている[15]

日本にっぽんのヒツジ飼育しいく頭数とうすうは2010ねんに1まん2000とうであり、世界せかいではだい158である[16]都道府県とどうふけんべつでは北海道ほっかいどうでの飼育しいくすうけておおく、秋田あきたけん岩手いわてけん福島ふくしまけんなどの東北とうほく地方ちほう栃木とちぎけん千葉ちばけんなどの関東かんとう地方ちほう飼育しいくされている。東日本ひがしにっぽんではある程度ていど飼育しいくされているが、西日本にしにほんではほとんどひつじ飼育しいくおこなわれていない[17]

利用りよう[編集へんしゅう]

ひつじにく
ジンギスカンようのラムにく

ひつじにくひろ地域ちいき食用しょくようとされている。ひつじ年齢ねんれいによって、生後せいご1ねん未満みまんラムlamb子羊こひつじにく)・生後せいご2ねん以上いじょうマトンmutton)と区別くべつすることもある。生後せいご1ねん以上いじょう2ねん未満みまんは、オセアニアでは「ホゲット」と区別くべつしてばれているが、日本にっぽんではマトンにふくまれる。

日本にっぽん国内こくないでは、ったのちつぶしたヒツジの大量たいりょうにく消費しょうひする方法ほうほうとしてあたらしく考案こうあんされたジンギスカンや、ラムしゃぶ、スペアリブのこうそうき、アイリッシュシチューなど特定とくてい料理りょうり使つかわれることがおおい。カルニチン食肉しょくにくよりも豊富ほうふふくむことから、からだ脂肪しぼう消費しょうひたすける食材しょくざいとされている。

ラムにはくさみがすくなく、こちらは日本にっぽん近年きんねん人気にんきたかまりつつある。ひつじにく特有とくゆうくさみは脂肪しぼう集中しゅうちゅうするため、マトンのくさみをのぞくには、脂肪しぼうをそぎとすといとわれる。には、「かおりのつよこうそうともいためる」「牛乳ぎゅうにゅうけておく」とう方法ほうほうがある。

海外かいがいでは、飼育しいくさかんなオーストラリアニュージーランドをはじめ、とくペルシャ湾ぺるしゃわんきし諸国しょこくギリシャイギリスアイルランドウルグアイさかんに消費しょうひされる。湾岸わんがん諸国しょこくのぞいては、いずれもひつじさかんに飼育しいくされる国家こっかである。これらのくにでは、ひつじにく年間ねんかんいちにんたり消費しょうひりょうが3kgから18kgにのぼる[18]湾岸わんがん諸国しょこく消費しょうひおおいのは豚肉ぶたにくけるイスラム教いすらむきょうひろ普及ふきゅうしているからであり、中東ちゅうとう諸国しょこくでもひつじにく消費しょうひりょうおおい。マグリブカリブ海かりぶかいインドでもおお消費しょうひされる。また、ひがしアジアでも、モンゴル中国ちゅうごく西北せいほくなどでは、代表だいひょうてき食肉しょくにくとなっており、さまざまな調理ちょうりほうもちいられている。ヨーロッパではラムが、中東ちゅうとう中央ちゅうおうアジアではマトンがこのまれる傾向けいこうにある[19]

インドのマクドナルドには「マハラジャマック」とばれるメニューがあり、これはうし神聖しんせいものとみなすヒンドゥーきょう信徒しんとのためにマトンをもちいたハンバーガーのことである。

一方いっぽうアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおいてはひつじにく消費しょうひりょうはわずかである。アメリカじん年間ねんかんひつじにく消費しょうひりょうは0.5kg以下いかで、牛肉ぎゅうにく(29kg)や豚肉ぶたにく(22 kg)にくらべてはるかにひく消費しょうひりょうとなっている[18]。これは、アメリカではうしぶたなど食肉しょくにく大量たいりょう生産せいさんできるうえにやすく、さらにアメリカで食用しょくようにされるヒツジは羊毛ようもうようヒツジのはい家畜かちくおもであったため、食味しょくみなどの品質ひんしつ食肉しょくにく太刀打たちうちできなかったからである。さらに食肉しょくにく価格かかく下落げらくともない、1960年代ねんだいから1980年代ねんだいにかけてひつじにく消費しょうひりょうはさらに60%以上いじょう減少げんしょうした[19]

ひつじちち
フェタチーズ
ヒツジのちちおもヨーグルトチーズなどの加工かこうよう使用しようされる。生乳せいにゅう飲用いんよううしくらべて生産せいさん効率こうりつわるいためにほとんどおこなわれない。とくにチーズへの加工かこうおおく、フランスロックフォール・チーズイタリアペコリーノギリシャフェタチーズなどひつじちち原料げんりょうとしたチーズもおおい。
羊毛ようもう
ひつじ飼育しいくじょうもっとも重要じゅうよう利用りよう対象たいしょうはメリノしゅなどからはるウール)である。詳細しょうさいはる項目こうもく参照さんしょう
羊皮紙ようひし
羊皮紙ようひしはヒツジのかわ原料げんりょうとするが、ヤギウシなど、ヒツジ以外いがいものかわ使つかわれることもおおかった。
中近東ちゅうきんとう中世ちゅうせい西洋せいようなどでは、東洋とうようからせいかみ技術ぎじゅつ伝播でんぱするまで、羊皮紙ようひしパピルス粘土ねんどいたともに、宗教しゅうきょう関連かんれん記録きろく重要じゅうよう書類しょるい作成さくせいに、ながあいだ使用しようされていた。
ラノリン
羊毛ようもう根元ねもと付着ふちゃくしているワックスエステル主成分しゅせいぶんとする油分ゆぶんウールオイル(ウールファット、Wool fat)またはウールグリースWool grease)という。これを精製せいせいしたものをラノリンといい化粧けしょうひん軟膏なんこう原料げんりょうにする。また、これとはべつにくからひつじあぶらをとることができ、調理ちょうりようなどに使用しようされる。
かわひつじかわ
ラムスキン、シープスキンムートンとして衣服いふくもちいられる。

品種ひんしゅ[編集へんしゅう]

砂漠さばく山岳さんがく地帯ちたいなど、さまざまな環境かんきょう適応てきおうした固有こゆうたねがある。家畜かちくようのヒツジは、ようしゅ肉用種にくようしゅちちようしゅ大別たいべつされるが、代表だいひょうしゅのメリノをはじめ、兼用けんよう品種ひんしゅおおい。

原種げんしゅ
  • アルガリ - 野生やせいのヒツジで、ヒツジとしては最大さいだいたね体高たいこう120センチ、体重たいじゅう100-180キロにたっする。褐色かっしょくから赤褐色せきかっしょくかく渦巻うずまじょうながい。アジアの高山たかやま地帯ちたい分布ぶんぷする。マルコ・ポーロの『東方とうほう見聞けんぶんろく』でも紹介しょうかいされている。家畜かちくヒツジの原種げんしゅひとつとかんがえられている。
  • ムフロン - 小型こがた野生やせいのヒツジで、最初さいしょ家畜かちくされたヒツジの原種げんしゅの1つとかんがえられている。ヨーロッパ・ムフロン、アジア・ムフロン(レッド・ムフロン)がられ、赤色あかいろから赤褐色せきかっしょくあか黄色おうしょく毛色けいろをもつ。

ヨーロッパ[編集へんしゅう]

アイスランディック
北欧ほくおう肉用種にくようしゅ。アイスランド原産げんさんで、アイスランドでは40まんとう以上いじょう飼育しいくされている。9-10世紀せいきにバイキングがんだヒツジの子孫しそんで、地理ちりてき隔絶かくぜつされていたために交雑こうざつおこなわれなず、純血じゅんけつ家畜かちくようヒツジとしては世界せかい最古さいこ
アラゴネセ
スペインのさい高級こうきゅうにくようヒツジ。スペインでは最古さいこ品種ひんしゅ
イースト・フリージャン
ドイツの代表だいひょうてき品種ひんしゅかお四肢しししろい。世界せかい最高さいこうちちようひつじとして著名ちょめいで、脂肪しぼうぶんたかひつじちちからチーズがつくられる。
コーカシアン
ロシアやきゅう東欧とうおう諸国しょこく主流しゅりゅう品種ひんしゅにくともにすぐれる。
サフォーク
かお四肢ししくろい。イギリス・サフォークしゅう原産げんさん戦後せんご日本にっぽん導入どうにゅうされ、おもにくよう国産こくさんのラムにくおおくはほんしゅ原産地げんさんちのイギリスでもラムにくの5わりめる。日本にっぽんもっともポピュラーな品種ひんしゅで、近年きんねん日本にっぽん最多さいた登録とうろくすうめる。
シャロレー
フランス原産げんさん繁殖はんしょく能力のうりょくすぐれ、雑種ざっしゅ生産せいさんようとして人気にんきがある。ヨーロッパやアメリカでおお飼育しいくされ、ヨーロッパではシャロレーをちち雑種ざっしゅはプレミア価格かかくとなる。
チェビオット
イギリスを代表だいひょうする山岳さんがく品種ひんしゅで、15まんとう以上いじょう飼育しいくされている。スコットランドのツイードの原料げんりょうとしてられる。
テクセル
オランダ原産げんさん肉用種にくようしゅ飼育しいく容易よういにくりょうおおく、50まんとう飼育しいくされている。ヨーロッパ全域ぜんいきのほか、アメリカ、アフリカ、オセアニア、アジアのかく大陸たいりくでも飼育しいくされる。
メリノ
もっと有名ゆうめいほそもう品種ひんしゅイベリア半島はんとう原産げんさん原種げんしゅ西にしアジアさんで、地中海ちちゅうかい経由けいゆでイベリア半島はんとうまれた。古代こだいから中世ちゅうせいにかけて、フェニキアじん、ローマじん、ムーアじんによって、中東ちゅうとう褐色かっしょくのヒツジから白色はくしょくのヒツジへと改良かいりょうされた。1300年代ねんだいのカスティリヤで現在げんざい原型げんけい登場とうじょうした。きわめて繊細せんさいほそ最大さいだい特徴とくちょうで、スペインの繊維せんい産業さんぎょう主力しゅりょくとして国費こくひによって飼育しいく改良かいりょうされ、近代きんだいまでは国外こくがいへの輸出ゆしゅつきんじられていた。現在げんざい世界中せかいじゅう輸出ゆしゅつされてスペインの独自どくじせい喪失そうしつされたのとともに、化学かがく繊維せんい普及ふきゅうによって飼育しいく頭数とうすう激減げきげんしたが、それでもスペインで300まんとう以上いじょう飼育しいくされている。18世紀せいきにオーストラリアにまれて普及ふきゅう改良かいりょうされたオーストラリアン・メリノしゅは1おく3000まんとう飼育しいくされ、オーストラリアさん羊毛ようもうの7わりめる。かお四肢しししろく、メスはかくもうにく兼用けんよう
ロムニー
イギリスケントしゅうのロムニー原産げんさん長毛ながもう肉用種にくようしゅかお四肢しししろい。ロムニー・マーシュはそのとお沼沢しょうたくこのみ、湿潤しつじゅん気候きこうてきすることから日本にっぽんにもおお導入どうにゅうされた。改良かいりょうしゅのニュージーランド・ロムニーはニュージーランドの飼育しいく頭数とうすうの9わりめる代表だいひょうしゅやく2700まんとう飼育しいくされている。

オセアニア[編集へんしゅう]

コリデール
ニュージーランド原産げんさん。メリノしゅめすにリンカンしゅ、ロムニーしゅ、レスターしゅゆう交配こうはいした[20]冷涼れいりょう気候きこうこのむヒツジのなか適応てきおうせいみ、世界中せかいじゅうひろまった。温暖おんだん湿潤しつじゅん日本にっぽん環境かんきょうにも適応てきおうし、かつて日本にっぽん主流しゅりゅうだった。かくはなく、かお四肢しししろく、長毛ながもうもうにく兼用けんようだが、戦前せんぜん日本にっぽんではもっぱ羊毛ようもうよう飼育しいくされ、100まんとうちか飼育しいくされていた。毛織物けおりもの産業さんぎょう化学かがく繊維せんい登場とうじょうするとすたれ、1まんとうじゃくまで減少げんしょうした。
ドライスデール
ニュージーランド原産げんさん。オセアニアでもうにく両用りょうようとして人気にんきがあり、はカーペットの材料ざいりょうとなる。ニュージーランドだけで60まんとう以上いじょう飼育しいくされている。

アジア[編集へんしゅう]

アワシ
中近東ちゅうきんとうで5000ねん以上いじょう飼育しいくされてきた品種ひんしゅで、みなみ西にしアジアでは現在げんざい主流しゅりゅうのヒツジ。ペルシア絨毯じゅうたんに、にくちち食用しょくようになる。かお黒色こくしょく褐色かっしょく白色はくしょく多様たよう
カラクル
中央ちゅうおうアジアの高級こうきゅう品種ひんしゅ中央ちゅうおうアジアの砂漠さばく地帯ちたいあつさとよるさむさや乾燥かんそうえる。かお四肢ししくろい。世界せかい代表だいひょうてき毛皮けがわ品種ひんしゅで、幼年ようねん黒色こくしょくで、成年せいねんになるとはい褐色かっしょくとなる。子羊こひつじかわはアストラカンとばれるさい高級こうきゅうひんとなる。品種ひんしゅめい原産地げんさんちのウズベキスタンのむら名前なまえ由来ゆらいする。
ぞうひつじ
中国ちゅうごく代表だいひょう品種ひんしゅ中国ちゅうごく内陸ないりく高原こうげん地帯ちたいからインドまでひろ飼育しいくされ、そのかずは2800まんとうといわれる。にくもうのほか、荷駄にだようにも。
かんひつじ
モンゴルの品種ひんしゅもうにく兼用けんよう脂肪しぼうたくわえる。

文化ぶんか[編集へんしゅう]

文化ぶんか

キリスト教きりすときょうでの象徴しょうちょうせい[編集へんしゅう]

キリスト教きりすときょう、またその母体ぼたいとなったユダヤきょうでは、ヤハウェ(唯一ゆいいつかみ)やメシア救世主きゅうせいしゅ)にみちびかれる信徒しんとたちが、しばしばひつじいにみちびかれるひつじたちになぞらえられる。旧約きゅうやく聖書せいしょでは、ヤハウェやおうひつじいに、ユダヤのみんひつじれにたとえられ(エレミヤしょエゼキエルしょ詩篇しへんひとし)ている。

また、旧約きゅうやく聖書せいしょ時代じだいひつじかみへのささげもの(生贄いけにえ)としてささげられる動物どうぶつひとつである。とくに、エジプト12しょうでは、「じゅうわざわ」の最後さいごわざわいをけるために、モーセはイスラエルじんかく家庭かていしょうひつじ用意よういさせ、そのいえくちはしら鴨居かもいり、そのにくいてべるというたとえはなしがある。のちに、いでエジプトを記念きねんするえつまつりとして記念きねんされるようになる。

また、ひつじにくはユダヤ教徒きょうとべることができるにくとして規定きていされている。カシュルート参照さんしょうのこと。

新約しんやく聖書せいしょでは、「ルカ福音ふくいんしょ」(15しょう)や「マタイ福音ふくいんしょ」(18しょう)に「迷子まいごひつじひつじい」のたとえはなしふしがある。愛情あいじょう慈悲じひふかひつじいは、たとえ100ひきひつじれから1ひきまよいはぐれたときでも、そのはぐれた1ひきさがしにくとしている。この箇所かしょ隠喩いんゆとなっており、はぐれたひつじは、かみからはなれたものかみしたがわない反抗はんこうしゃつみおかものあらわし、またひつじいについては創造そうぞうぬしであるかみたとえている。福音ふくいんしょでは、どのようなものであってもおなじようにあいし、にかけ、大切たいせつおもかみあいしめしている。

ヨハネ福音ふくいんしょ」では、イエスが「わたしひつじいである」とかたるが、イエス自身じしんも「つみのぞかみしょうひつじ」とばれる(1しょう29せつ)。

この「かみしょうひつじ」は、イエスがのち十字架じゅうじかじょう刑死けいしすることにより、人間にんげんつみのぞくためのかみへの犠牲ぎせいとなる意味いみがあり、イエスが刑死けいししたのも前述ぜんじゅつえつさい期間きかんであったことから、パウロだいいちコリント5しょう7せつで、イエスは「えつしょうひつじとしてほふられた」と表現ひょうげんする(ミサミサきょく)。

また、「ヨハネ黙示録もくしろく」において、天上てんじょう光景こうけいのなかで啓示けいじされるイエスの姿すがたは「ほふられたような」「ななつのななつのかく」をしょうひつじ姿すがたである(5しょう)。

イスラム教いすらむきょう犠牲ぎせいさい[編集へんしゅう]

イスラム教いすらむきょうこくにおいてはヒツジはもっとも重要じゅうよう家畜かちくひとつであり、とくサウジアラビア湾岸わんがん諸国しょこくにおいてはハラール適応てきおうするようオーストラリアなどからきたままひつじ輸入ゆにゅうし、自国じこくにてほふ畜し食肉しょくにくとすることがおこなわれる。また、ヒツジはイスラム教いすらむきょう祭日さいじつであるイード・アル=アドハー犠牲ぎせいさい)においてもっとも一般いっぱんてき生贄いけにえである。このハッジ最終さいしゅうたり、メッカ郊外こうがいのムズダリファにおいてヒツジやラクダうしなど50まんとうにものぼる動物どうぶつ生贄いけにえにささげられる[21]。メッカ以外いがいの、巡礼じゅんれい参加さんかしなかったムスリム動物どうぶつを1とうささげることがもとめられており、イスラム教いすらむきょう諸国しょこくにおいてヒツジがわれ、かみささげられる。ささげられたにくみずからの家庭かてい消費しょうひするほか、ほどこしとしてまずしい人々ひとびとあたえられる。

シープドッグ[編集へんしゅう]

いぬしゅShetland Sheepdogシェットランド・シープドッグ)のようsheepdogくものがあるが、これは「ヒツジにいぬ」ではなく、牧羊ぼくようけんてきしたいぬしゅであることをしめしている(シェパード Shepherd同様どうよう)。これらは、英語えいごけんはじめとする欧州おうしゅう地域ちいきでのヒツジが比較的ひかくてき身近みぢか家畜かちくである顕著けんちょれいでもある。

言葉ことば[編集へんしゅう]

  • ごえ日本語にほんごあらわすと「メー」。漢字かんじでは「咩(万葉仮名まんようがな:め、呉音ごおん:ミ、漢音かんおん:ビ、現代げんだい中国ちゅうごくmiē)」。英語えいごでは「バー」。
  • 英語えいごけんに、ひつじかぞえる英語えいごばんことで安眠あんみんられるという俗説ぞくせつがある。これは、「One sheep, two sheep…」ととなえることでよく発音はつおんの「sleep」(ねむる)とのうめいじる効果こうかがあること、また「sheep」という言葉ことば安眠あんみんうなが腹式呼吸ふくしきこきゅうさそ発音はつおんであることに由来ゆらいする、といわれる[22]。なお、英単語えいたんごsheep」は、単数たんすうがた複数ふくすうがた同形どうけいである。
  • くろひつじ(ブラックシープ)は、しろひつじなか目立めだつことや、羊毛ようもうめられないため価値かちひくいとされたことから、厄介やっかいしゃという消極しょうきょくてき意味いみかたにはまらないわりものなど肯定こうていてき用法ようほうとしてよういられる。同義語どうぎごしろいカラス(ロシア)。
  • Schafskälteドイツばん - ドイツで「ひつじさむがる」という意味いみで、アルプスの6月できゅう気象きしょう現象げんしょうのこと。
  • ベルウェザー英語えいごばん - すずくびにつけられた去勢きょせいされたおすひつじである。去勢きょせいされたおすひつじ(ウェザー)はひつじいに従順じゅうじゅんになり、ひつじいの訓練くんれんて、ひつじれをひきいるリーダーとしての役割やくわりあたえられる[23]。このことから政治せいじリーダーや株式かぶしき指標しひょう銘柄めいがら先例せんれい裁判さいばん、トレンドをつく人間にんげん環境かんきょう変化へんか敏感びんかん感知かんちする動物どうぶつなどをあらわすのに使つかわれる[24]

その[編集へんしゅう]

  • おこったひつじ突撃とつげきには相当そうとう威力いりょくがある。ここからてんじてローマぐんもちいられたやぶしろづち先端せんたんには、てつ青銅せいどう出来できひつじあたまぞうけられた。
オークション
  • 2009ねん、「デブロンベール・パーフェクション」というひつじが23まんポンド(やく3200まんえん)で落札らくさつされた。
  • 2020ねん8がつスコットランドラナークおこなわれたオークションで、「ダブル・ダイヤモンド」というのテクセルしゅ子羊こひつじが35まんギニー(イギリスの家畜かちく売買ばいばいでは、通貨つうか単位たんいとして伝統でんとうてきギニー使つかわれる)(やく5200まんえん)で落札らくさつされた。[25]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ これとはべつに、紀元前きげんぜん11000ねんごろのイラクや紀元前きげんぜん7000-5000ねんごろのインドの遺跡いせきからもちいさいひつじほね痕跡こんせき出土しゅつどしているが、たん子羊こひつじほねであるなど、家畜かちく証拠しょうことしては疑問ぎもんがもたれている。
  2. ^ ウリアルはアジアムフロンの亜種あしゅとするせつもある。
  3. ^ 紀元前きげんぜん中国ちゅうごく、ドイツ、きたアジアにその痕跡こんせきがあるが、はっきりしたことはよくかっていない。
  4. ^ 一般いっぱんてきには「バビロン」は“かみもん”を意味いみするとか、創世そうせい登場とうじょうするバベルばべるとう逸話いつわちなむ“混乱こんらん”のであるとかといったせつ主流しゅりゅうであるが、最古さいこ語源ごげん言語げんご解読かいどくされておらず不明ふめいとされている。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ http://jlta.lin.gr.jp/report/detail_project/pdf/150.PDF めんひつじしょく特性とくせい活用かつようした草地くさち造成ぞうせい維持いじ管理かんりかんする調査ちょうさ
  2. ^ 放題ほうだいのヒツジを救出きゅうしゅつ、30キロぶんる 豪州ごうしゅう”. CNN. 2021ねん2がつ25にち閲覧えつらん
  3. ^ ナショジオ シロサイと仲良なかよくなったヒツジ( ナショジオ 〜) - YouTube ナショナルジオグラフィック
  4. ^ 品種ひんしゅ改良かいりょう世界せかい」,2010,正田しょうだ陽一よういちへん,ゆうしょかん,ISBN 978-4-903487-40-3
  5. ^ 「オセアニアを事典じてん平凡社へいぼんしゃ p279 1990ねん8がつ21にち初版しょはんだい1さつ
  6. ^ a b c d e 賀来かく(2015)、p.106
  7. ^ a b 日本にっぽんのめんひつじ事情じじょう”. 公益社こうえきしゃだん法人ほうじん 畜産ちくさん技術ぎじゅつ協会きょうかい (1991ねん12がつ). 2020ねん11月28にち閲覧えつらん
  8. ^ a b 賀来かく(2015)、p.115
  9. ^ 小林こばやし忠太郎ちゅうたろう民営みんえい牧羊ぼくよう経営けいえい成立せいりつ崩壊ほうかい」、『日本にっぽん畜産ちくさん経済けいざい構造こうぞう』16 - 18ぺーじ
  10. ^ 小林こばやし忠太郎ちゅうたろう民営みんえい牧羊ぼくよう経営けいえい成立せいりつ崩壊ほうかい」、『日本にっぽん畜産ちくさん経済けいざい構造こうぞう』20 - 21ぺーじ
  11. ^ 小林こばやし忠太郎ちゅうたろう民営みんえい牧羊ぼくよう経営けいえい成立せいりつ崩壊ほうかい」、『日本にっぽん畜産ちくさん経済けいざい構造こうぞう』24ぺーじ
  12. ^ 小林こばやし忠太郎ちゅうたろう民営みんえい牧羊ぼくよう経営けいえい成立せいりつ崩壊ほうかい」、『日本にっぽん畜産ちくさん経済けいざい構造こうぞう』31- 32ぺーじ
  13. ^ 小林こばやし忠太郎ちゅうたろう民営みんえい牧羊ぼくよう経営けいえい成立せいりつ崩壊ほうかい」、『日本にっぽん畜産ちくさん経済けいざい構造こうぞう』32- 36ぺーじ
  14. ^ a b FAO Brouse date production-Live animals-sheep”. Fao.org. 2012ねん12月30にち閲覧えつらん
  15. ^ 「オセアニアを事典じてん平凡社へいぼんしゃ p240 1990ねん8がつ21にち初版しょはんだい1さつ
  16. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/sheep.html キッズ外務省がいむしょうひつじ頭数とうすうおおくに 日本国にっぽんこく外務省がいむしょう 2012ねん12月30にち閲覧えつらん
  17. ^ 日本にっぽんのめんひつじ事情じじょう”. 公益社こうえきしゃだん法人ほうじん畜産ちくさん技術ぎじゅつ協会きょうかい (1991ねん12がつ). 2014ねん3がつ22にち閲覧えつらん
  18. ^ a b http://www.nytimes.com/2006/03/29/dining/29mutt.html Apple Jr., R.W. . "Much Ado About Mutton, but Not in These Parts". ニューヨーク・タイムズ、(2006ねん3がつ29にち)2012ねん12月30にち閲覧えつらん
  19. ^ a b 『ケンブリッジ世界せかい食物しょくもつだい百科ひゃっか事典じてん2 主要しゅよう食物しょくもつ栽培さいばい作物さくもつ飼養しよう動物どうぶつ』 三輪みわ睿太ろう監訳かんやく 朝倉書店あさくらしょてん  2004ねん9がつ10日とおか だい2はんだい1さつ p.666
  20. ^ コトバンク
  21. ^ 「メッカ」p157 まちかずよしみ 岩波書店いわなみしょてん 2002ねん9がつ20日はつかだい1さつ
  22. ^ Asa-Joひつじいちひきひつじひき…」日本人にっぽんじんひつじかぞえてもねむれない理由りゆう判明はんめいした!
  23. ^ トレイルズ 「みち」とあるくことの哲学てつがく 著者ちょしゃ:ROBERT MOOR
  24. ^ Bellwether species 掲載けいさいサイト:Encyclopedia.com
  25. ^ ひつじいちとう史上しじょう最高さいこうがくの5200まんえん落札らくさつ 英国えいこく”. CNN. 2020ねん9がつ3にち閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 秋篠宮あきしののみやぶんひとし日本にっぽん家畜かちく家禽かきん』、学習研究社がくしゅうけんきゅうしゃ、2009ねんISBN 978-4-05-403506-5
  • 賀来かく孝代たかよ ヒツジ」、設楽したら博己ひろみへん十二支じゅうにしになった動物どうぶつたちの考古学こうこがく』、新泉しんいずみしゃ、2015ねん
  • 小林こばやし忠太郎ちゅうたろう民営みんえい牧羊ぼくよう経営けいえい成立せいりつ崩壊ほうかい」、栗原くりはらふじ七郎しちろうへん日本にっぽん畜産ちくさん経済けいざい構造こうぞう』、東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、1962ねん
  • 佐々ささくらみのる佐々ささくら裕美ひろみ『ひつじにあいたい』、やま渓谷社けいこくしゃ、2009、ISBN 978-4-635-23025-4
  • 下総しもうさ御料ごりょう牧場ぼくじょう下総しもうさ御料ごりょう牧場ぼくじょう概観がいかん』、1903ねん
  • 正田しょうだ陽一よういち世界せかい家畜かちく品種ひんしゅ事典じてん』、東洋とうよう書林しょりん、2006ねんISBN 4-88721-697-1
  • 正田しょうだ陽一よういち品種ひんしゅ改良かいりょう世界せかい家畜かちくへん』、ゆうしょかん、2010ねんISBN 978-4-903487-40-3
  • 百瀬ももせ正香まさかひつじ博物はくぶつ』、日本にほんグ社ぐしゃ、2000ねんISBN 978-452-903427-2

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

  • クローンひつじドリー
  • 世界せかいのめんひつじかん・めんひつじ牧場ぼくじょう北海道ほっかいどう士別しべつ):国内こくない最多さいたの30しゅのめんひつじ飼育しいくする。日本にっぽんではここだけでしかることのできないめずらしい14種類しゅるいのめんひつじもいる。
料理りょうり
映画えいが

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]