腐女子ふじょし

腐女子ふじょし（ふじょし）とは、男性だんせい同士どうしの同性愛どうせいあいを扱あつかったやおい、特とくにボーイズラブ（BL）などの創作そうさく物ぶつを好このむ女性じょせい（女子じょし）を指さす言葉ことば。

21世紀せいきになって日本語にほんごとして用もちいられた、サブカルチャー的てきな言葉ことばである。

「婦女子ふじょし」（ふじょし）をもじった呼称こしょうである。以前いぜんはヤオラー^{[注ちゅう 1]}、やおい少女しょうじょ^[1]^[2]とも呼よばれていた。

腐女子ふじょしという言葉ことばは、1990年代ねんだい末まつにネット上じょうで使用しようが確認かくにんされており、2005年ねん頃ごろから一般いっぱんにも認知にんちされるようになった^[3]。元々もともとやおいやオタクは社会しゃかいにとって病理びょうり的てきな現象げんしょうの一ひとつだったが、大おおきなイメージギャップのあるボーイズラブ、腐女子ふじょしという新あたらしい言葉ことばが使つかわれるようになったことで、男性だんせい同性愛どうせいあいを題材だいざいにした作品さくひんやその愛好あいこう者しゃのイメージを刷新さっしんすることに一役ひとやく買かった^[4]。やおい・BLジャンルを好このむ女性じょせいに限かぎらず、オタク趣味しゅみを持もつ女性じょせい全般ぜんぱんを指さす言葉ことばとして用もちいられることもあるが、極少きょくしょう数すうである。^[5]。ただし女性じょせいオタクでも、男性だんせい同性愛どうせいあいをテーマにする作品さくひんを好このまない人ひとには、腐女子ふじょしと呼よばれたり、一いち括くくりにされることを嫌いやがる人ひとも多おおくいる。腐女子ふじょしでない女性じょせいのオタクは単たんにオタク、または「女おんなオタク」とも呼よばれる。腐女子ふじょしは、女性じょせいのオタク趣味しゅみへの罵倒ばとう語ご（蔑称べっしょう）として使用しようされることもある^[6]。メディアでは2015年ねん頃ごろからメディアで取とり上あげられることが一段いちだんと増ふえ、やおい・BL作品さくひんを読よむことを公言こうげんする芸能人げいのうじん・有名人ゆうめいじんが増ふえたこともあり、腐女子ふじょしの扱あつかいはポジティブになってきている^[7]。

年齢ねんれいの高たかい腐女子ふじょしをさす派生はせい語ごとして貴き腐くさ人ひと（きふじん）もある^[8]^[9]。同様どうようの趣味しゅみを持もつ男性だんせいは、腐くさ男子だんしあるいは「父兄ふけい」をもじって腐くさ兄あに（ふけい）などと呼よばれる。

概要がいよう[編集へんしゅう]

もともとは男性だんせい同性愛どうせいあいの要素ようそを含ふくまない作品さくひんの男性だんせい（的まと）キャラクターを同性愛どうせいあい的てき視点してんで捉とらえてしまう自みずからの思考しこうや発想はっそうを、自嘲じちょう的てき（じちょうてき）に「腐くさっているから」と称しょうしたことから生うまれたといわれる。使つかわれ始はじめた当時とうじはへりくだったニュアンスとして、自身じしんの特殊とくしゅな趣向しゅこうに対たいする防衛ぼうえい線せんの役割やくわりを果はたしていた^[10]。多摩美術大学たまびじゅつだいがくの溝口みぞぐち彰子あきこは、「マスコミがねつ造ぞうしたネガティヴなヤオイ愛好あいこう家か像ぞうのステレオタイプに対たいするレッテルとして、ヤオイ愛好あいこう家かたちは抵抗ていこうを示しめしていた」が、現在げんざいは多おおくの愛好あいこう家かが自称じしょうとして使つかうようになっていると述のべている^[11]。やおい・BLジャンルの作品さくひんが好すきでも、男性だんせい二に人にんを見みるとカップリングを妄想もうそうしてしまうといった「典型てんけい的てきな腐女子ふじょし」イメージに合致がっちしないため、自身じしんを腐女子ふじょしではないと考かんがえる人ひともいる。腐女子ふじょしは「私わたし」の存在そんざいを消けしたうえで、「対たい関係かんけい」となる男性だんせいキャラクター同士どうしの関係かんけいを築きずくことを重視じゅうしする^[10]^{[注ちゅう 2]}。コミックマーケットへの参加さんか者しゃの多数たすうが腐女子ふじょしだといわれており（2014年ねん時点じてん）^[10]、二に次じ創作そうさくなどのアマチュアクリエイターも多おおく、同人どうじん作家さっかから商業しょうぎょう作家さっかになる腐女子ふじょしも多おおかった。やおい・BLジャンルの作品さくひんは、「基本きほん的てきに美男びなん子こ二に人にんが『攻おさむ』と『受』の役割やくわりに分わかれ、セックスにおける挿入そうにゅうする側がわとされる側がわを演えんじる男おとこ同士どうしの恋愛れんあいを縦たて軸じくに、スポーツや仕事しごとなどを横よこ軸じくにしたロマンス物語ものがたりとバディ物語ものがたりを兼かねた作品さくひん」が主おもであるが^[11]、商業しょうぎょうオリジナルから二に次じ創作そうさくまで、男性だんせいキャラクターたちの性的せいてき要素ようそのないほのぼのした日常にちじょうの話はなしから男性だんせい同士どうしのセクシュアルな物語ものがたり、耽美たんびと呼よばれるような隠微いんびでシリアスな話はなしから明あかるいコメディ、現実げんじつベースの物語ものがたりから歴史れきしもの、ファンタジー、SF、少年しょうねんの物語ものがたりから社会しゃかい人じん男性だんせい、冴さえない中年ちゅうねん男性だんせいやお年寄としよりの物語ものがたりまで様々さまざまで、非常ひじょうに間口まぐちが広ひろく懐ふところが深ふかい。腐女子ふじょしでも人ひとによって好このむ作風さくふう・設定せっていは異ことなり、その好このみは「嗜好しこう」と呼よばれる^[11]。メディアは小説しょうせつ、マンガ、アニメ、ドラマCD、ゲーム、実写じっしゃドラマ・映画えいがなど多様たようで、マイナーだが短歌たんかもある。

社会しゃかい学者がくしゃの上野うえの千鶴子ちづこによれば、自みずからのことを腐女子ふじょしと表現ひょうげんする背景はいけいには、相手あいてから「腐くさったような女子じょし」といわれる前まえに自分じぶんからそれを表明ひょうめいして侮蔑ぶべつを回避かいひするという「居直いなおりのレトリック」があるという。ライターの松谷まつや創はじめ一郎いちろうは、自分じぶん自身じしんを相対そうたい視しして自虐じぎゃく的てきに表現ひょうげんするだけの余裕よゆうができたという点てんにおいて、この言葉ことばの発生はっせいはやおい文化ぶんかの成熟せいじゅくを意味いみしていると述のべている^[12]。やおい・BLジャンルを愛好あいこうする女性じょせいを腐女子ふじょしと呼よぶのに対たいし、夢ゆめ小説しょうせつと呼よばれる女性じょせい向むけ二に次じ創作そうさくを愛好あいこうする女性じょせいは夢ゆめ女子じょしとも呼よばれる^[10]。

TSUTAYAが行おこなった調査ちょうさでは、回答かいとう者しゃの女性じょせいのうち約やく2割わりがBL作品さくひんを好すき、もしくは興味きょうみがあると回答かいとうしている。一方いっぽうでBL作品さくひんを好すきではない、興味きょうみが無ないと答こたえた女性じょせいは4割わり近ちかくに上のぼっている^[13]。

腐女子ふじょしという存在そんざいは様々さまざまに分析ぶんせきされてきた。初期しょきの分析ぶんせきは、なぜやおい・BLジャンルを愛好あいこうするのかという動機どうきが観点かんてんだった。この観点かんてんでの分析ぶんせきは、BL作家さっかでもある中島なかじま梓あずさ（栗本くりもと薫かおる）『コミュニケーション不全ふぜん症候群しょうこうぐん』（1995年ねん）が最初さいしょであり、当事とうじ者しゃの視点してんに立たった議論ぎろんが展開てんかいされた。やおい・BLジャンルを愛好あいこうするのは「男女だんじょ差別さべつの中なかで抑圧よくあつされた女性じょせい性せいが自じ傷きず的てき行為こういに走はしらせているからだ」という理解りかいが中心ちゅうしんで、「女性じょせいが女性じょせいという性せいであること自体じたいに対たいしての強つよい不ふ適応てきおう感かん」や、「女性じょせいは選別せんべつされる性せいとして、他者たしゃからの承認しょうにんによってしか自己じこ肯定こうてい感かんを得えることができなかった」ということが問題もんだい視しされた。しかし、永えい久保くぼ陽子ようこ『やおい小説しょうせつ論ろん』（2005年ねん）以降いこうは、抑圧よくあつからの逃避とうひというより、女性じょせいによるジェンダーの娯楽ごらく化かであると理解りかいされ、動機どうきよりも作品さくひんで「なに」が描えがかれているかという観点かんてんにシフトしてきている^[10]。近年きんねんでは、直木賞なおきしょう作家さっかの三浦みうらしをん、NHKアナウンサーの有働うどう由美子ゆみこ^[14]、女優じょゆうの二階堂にかいどうふみ^[15]など、BL愛読あいどく者しゃであることを公言こうげんする女性じょせい著名ちょめい人じんも増ふえた。

イタリアでは1999年ねんに、アメリカでは2003年ねんにBL漫画まんがが翻訳ほんやく出版しゅっぱんされており、現在げんざいでは世界中せかいじゅうにやおい・BLの愛好あいこう者しゃがいる。欧米おうべいではライトテイストの作品さくひんが「少年しょうねん愛あい」、性せい描写びょうしゃのある作品さくひんは「やおい」と呼よばれる^[16]。やおい・ボーイズラブジャンルに性せい描写びょうしゃが含ふくまれる作品さくひんが少すくなくないことから、一部いちぶ問題もんだい視しする人ひともおり、一部いちぶの国くにでは規制きせいしようという動うごきもある。

経緯けいい[編集へんしゅう]

女性じょせいが作つくり楽たのしむ男性だんせい同士どうしの同性愛どうせいあい物語ものがたり・性愛せいあい物語ものがたりは、日本にっぽんでは1970年代ねんだいに少女しょうじょマンガと文学ぶんがくの場ばに登場とうじょうし、ヘルマン・ヘッセや稲垣足穂いながきたるほ、三島みしま由紀夫ゆきお、ルキーノ・ヴィスコンティなどの教養きょうようを換骨奪胎かんこつだったいしながら隆盛りゅうせいし、少年しょうねん愛あいもの、耽美たんびなどと呼よばれた。新潟大学にいがただいがく准じゅん教授きょうじゅの石田いしだ美紀みきは、「男性だんせいへのエロティックな関心かんしんを積極せっきょく的てきに肯定こうていする点てんで、それまでの女性じょせい＜文化ぶんか＞とは一線いっせんを画かくしている」と述のべている。1980年代ねんだいには次世代じせだいのクリエイターも育そだち、同人どうじん誌し文化ぶんかと交流こうりゅうしながら新あたらしい文化ぶんかになっていった（フェミニズムと並なみ走そうしており、関連かんれんも指摘してきされている）。1975年ねんに同人どうじん誌し文化ぶんかから、「ヤマ・オチ・イミのない物語ものがたり」を指さす「やおい」という言葉ことばが生うまれ、女性じょせいの二に次じ創作そうさくで男性だんせいの友情ゆうじょうを恋愛れんあいに読よみ替かえた「ホモパロ」が盛さかんになり、徐々じょじょに「やおい」が男性だんせい同士どうしの同性愛どうせいあい物語ものがたりを意味いみするようになっていった。この時点じてんでは、愛好あいこう者しゃを指さす「腐女子ふじょし」という言葉ことばはなかった^[17]。現在げんざいのボーイズラブの源流げんりゅうを、1970年代ねんだいに少女しょうじょマンガで流行りゅうこうした少年しょうねん愛あいものに求もとめる向むきもあるが、直接ちょくせつ関係かんけいはなく、同人どうじん誌しから発生はっせいしたものだという見解けんかいもある。また欧米おうべいでは、日本にっぽんのやおい・BL文化ぶんかとは全まったく関係かんけいなく、「スラッシュ」という男性だんせいキャラクターふたりを同性愛どうせいあい関係かんけいに読よみ替かえた二に次じ創作そうさくの文化ぶんかが誕生たんじょうしており、これは1970年代ねんだいのSFファンダムで知しられるようになった^[18]。

BLレビュアーのぶどううり・くすこによると、2016年ねん時点じてんで「腐女子ふじょし」という表現ひょうげんで出典しゅってんを明記めいきできる最古さいこの例れいは、1999年ねんの男性だんせいの個人こじんブログである^[19]。ブログ^{[注ちゅう 3]}では「ネット上じょうの某ぼう掲示けいじ版ばん」（原文げんぶんママ）に関かんする用語ようごとして説明せつめいされ、言葉ことばのイメージは、話題わだいはちょっと下品げひんだが18禁きんではなく、不ふ真面目まじめというわけではないが堅苦かたくるしくもなく、オタクみたいだけど暗くらくはない、と表現ひょうげんされている^[20]。上野うえの千鶴子ちづこは、2000年ねん頃ごろから2ちゃんねるを中心ちゅうしんに発生はっせいした言葉ことばであると述のべている^[21]。もともとは少女しょうじょマンガ家かが使つかい始はじめたものだとする説せつもある^[22]。

2004年ねん - 2005年ねんにかけて男性だんせいオタクを主人公しゅじんこうとした『電車でんしゃ男おとこ』がメディアミックス展開てんかいされ2005年ねんには映画えいが化かし、メイド喫茶きっさが乱立らんりつするなどのオタクブームが起おこった。エッセイストの杉浦すぎうら由美子ゆみこは、この時点じてんでは腐女子ふじょしを含ふくむ女性じょせいオタクはあまり取とり上あげられることは多おおくなかったと述のべている^[23]。三崎みさき尚人なおとは、オタクブームの中なかで2005年ねん秋あきごろから男性だんせいのオタクだけでなく、女性じょせいのオタクへの関心かんしんが増ましていたと述のべている^[24]。『電車でんしゃ男おとこ』のヒットでメディアが「オタク文化ぶんか」の延長線えんちょうせんとして「腐女子ふじょし」にも目めを向むけるようになり、徐々じょじょに取とり上あげられるようになった^[25]。2005年ねんには雑誌ざっし「AERA」（朝日新聞社あさひしんぶんしゃ）で特集とくしゅう記事きじが組くまれ、「腐女子ふじょし」が一般いっぱんにも知しられるようになっていった^[3]。2007年ねんになると6月がつと12月に雑誌ざっし『ユリイカ』上じょうで臨時りんじ増刊ぞうかん号ごうとして特集とくしゅうが組くまれ、メディアへの登場とうじょう例れいも増加ぞうかした^[26]。この頃ころ、男性だんせい同士どうしの恋愛れんあいものの総称そうしょうとして「やおい」は使つかわれなくなっていき、「ボーイズラブ（BL）」が普及ふきゅうした。

インターネットの普及ふきゅうで、やおい系けい二に次じ創作そうさくが広ひろく（腐女子ふじょし以外いがいの人々ひとびとの目めに留とまらないよう工夫くふうされた形かたちで）共有きょうゆうされるようになった。2007年ねんにイラストの投稿とうこうに特とく化かしたソーシャル・ネットワーキング・サービス pixiv が公開こうかいされ、このサイトでは閲覧えつらん者しゃを拒こばむ機能きのうがなかったこともあり、秘密ひみつの共有きょうゆうという色合いろあいが強つよかったやおい系けい二に次じ創作そうさくが人ひとの目めに触ふれる形かたちとなった。以降いこう、二に次じ創作そうさくには著作ちょさく権けん上じょうの問題もんだいがあるにもかかわらず、腐女子ふじょしの間あいだでの二に次じ創作そうさくジャンルとしての人気にんきは「オタクビジネス」における人気にんきのバロメーターとしても捉とらえられるようになっている^[10]。最初さいしょから腐女子ふじょしに受うけるように考慮こうりょされた作品さくひんも増加ぞうかしている。金田かねだ淳子じゅんこ・永えい久保くぼ陽子ようこは、出版しゅっぱん社しゃや制作せいさくサイドは、ボーイズラブ的てきなものが商売しょうばいになると理解りかいし戦略せんりゃく的てきに使つかうようになっており、こういった傾向けいこうは1980年代ねんだいには始はじまっており、1990年代ねんだいには少年しょうねん誌し「ジャンプ」はすでに自覚じかく的てきで、現在げんざいでは一般いっぱん化かしていると述のべている^[27]。

2015年ねんにアイドルで腐女子ふじょしのNMB48・三田みた麻央まおが、『今夜こんやくらべてみました』（日本にほんテレビ系けい）で、MCのお笑わらい芸人げいにんふたりを題材だいざいに自作じさくBL漫画まんがを創作そうさく。この件けんはまとめサイトを経へて炎上えんじょうしたが、広ひろく印象いんしょう付つけられることになり、BLが取とり上あげられることが急増きゅうぞうし、テレビでBLの話題わだいが出でることも珍めずらしくなくなった。腐女子ふじょしがポジティブに扱あつかわれるようになってきている^[7]^[28]。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

腐女子ふじょしが好このむのは男性だんせいキャラクターの恋愛れんあいや特別とくべつな絆きずなの物語ものがたりであるが、戦たたかう少年しょうねんたちの熱あつい友情ゆうじょうに憧あこがれ萌もえる、アニパロの系譜けいふの二に次じ創作そうさくを好このむタイプもいれば、少年しょうねん愛あいものは好すきだが戦たたかう少年しょうねんたちにもその熱あつい友情ゆうじょうにも興味きょうみはないという人ひと、「ヘタリア」などの国くにの擬人ぎじん化かにみられるように、ジェンダーを娯楽ごらく化かして屈託くったくなく楽たのしむ人ひとなど様々さまざまである。商業しょうぎょうオリジナル作品さくひんを読よむ人ひと、二に次じ創作そうさくを読よむ人ひと、商業しょうぎょうオリジナル・二に次じ創作そうさくの両方りょうほうを読よむ人ひと、特定とくていの傾向けいこうの作品さくひん・特定とくていの作家さっかだけを読よむ人ひと、やおい・BLジャンルは何なんでも読よむ人ひと、二に次じ創作そうさくのクリエイター、同人どうじんオリジナルのクリエイター、商業しょうぎょうクリエイターでやおい・BLだけを描えがく人ひと、それ以外いがいの作品さくひんも描えがく人ひと、お金かねをつぎ込こむ人ひと、作品さくひんの購入こうにゅうはせずネットで読よむ人ひとなど、人ひとによって好このみや行動こうどうは異ことなる。千田せんだ有紀ゆきは、やおい・BLジャンル好すきも一様いちようではなく、どちらが受うけでどちらが攻せめというカップリング妄想もうそうでいくらでも時間じかんが潰つぶせるタイプもいれば、そういった「典型てんけい的てきな腐女子ふじょし」像ぞうのイメージが当あてはまらない人ひともいると述のべている。やおい・BLジャンル作品さくひんをどのように読よむのか、そのような側面そくめんを好このむのかには、いくつかのグループ、少すくなくとも2つ以上いじょうのグループがあるようだと指摘してきしている^[4]。

女性じょせいのオタクの中なかには、腐女子ふじょし、男女だんじょの物語ものがたりを好このむ・またはアニメや漫画まんが、ゲームなどは好すきだが特とくに恋愛れんあいものを好このむわけではない女おんなオタク、夢ゆめ小説しょうせつ・乙女おとめゲームを好このむ夢ゆめ女子じょし、女性じょせい同士どうしの物語ものがたりを愛好あいこうする百ひゃく合ごう女子じょし、熱狂ねっきょう的てき声優せいゆうファンである声こえオタ^{[注ちゅう 4]}、テニミュのような2.5次元じげんが好すきな人ひとなどがあり、それぞれ作品さくひんに求もとめることは微妙びみょうに異ことなっている。とはいえ、男性だんせい同士どうしの物語ものがたりも男女だんじょの物語ものがたりも好すき、声優せいゆうもやおい・BL作品さくひんも好すき、何なにでも楽たのしめるといったように、複数ふくすうの嗜好しこうを持もつファンもいる^[29]。

二に次じ創作そうさくを行おこなう腐女子ふじょしは、同人どうじん誌し即売そくばい会かい、アフター（打うち上あげ）、オフ会かいなど、現実げんじつ空間くうかんでの活動かつどうだけでなく、日常にちじょうではTwitterやpixiv、個人こじんサイト、筆者ひっしゃとのメールでのやり取とりなど、仮想かそう空間くうかん上じょうで活発かっぱつに活動かつどうしている^[30]。

楽たのしみ方かた

ドイツの研究けんきゅう者しゃビョーン=オレ・カムは、ドイツと日本にっぽんの腐女子ふじょしにインタビューし、UGA（対象たいしょうの使用しよう方法ほうほうとその満足まんぞく度どに対たいするアプローチ）理論りろんを使つかってやおい・BLの多様たような楽たのしみ方かた・エンターテイメント性せいを分類ぶんるいした。

主おもに性的せいてきな欲望よくぼう・欲よく動どうとしてやおい・BLを楽たのしむパターン
オンライン活動かつどうを通とおして作品さくひんを生産せいさん、消費しょうひし、ファン間あいだの密接みっせつなコミュニケーションを楽たのしむパターン
コンベンションなどイベントを楽たのしむパターン
上記じょうきの混合こんごう型がた

やおい・BLジャンルは読者どくしゃ・クリエイターの間あいだを行いき来きすることが容易よういであるので、楽たのしみ方かたは無限むげんに多様たよう化かすると述のべている^[16]。私生活しせいかつや恋愛れんあいを犠牲ぎせいにしても創作そうさくを行おこなう人ひと、生活せいかつと創作そうさくを適度てきどなバランスで楽たのしむ人ひと、創作そうさくをせずに作品さくひんを楽たのしむだけの人ひとなど、腐女子ふじょしの楽たのしみ方かたや価値かち観かんも様々さまざまである。

腐女子ふじょしになった時期じき・きっかけ

少女しょうじょ漫画まんがにおける少年しょうねん愛あいの仕掛しかけ人じんと呼よばれる増山ますやま法ほう恵めぐみは、小ちいさいころから大量たいりょうの本ほんを読よんでいたが、小学校しょうがっこう中学年ちゅうがくねんから「耽美たんび的てき世界せかい」を文字もじとしても漠然ばくぜんとした内容ないようとしても意識いしきし憧あこがれており、小学校しょうがっこう高学年こうがくねん頃ごろからヘルマン・ヘッセなどの少年しょうねん同士どうしの物語ものがたりが好すきだとはっきり自覚じかくしていたと述のべている^[17]。ブロガー・BL研究けんきゅう家かのマルコ（山田やまだ井いユウキ）による日本語にほんごのアンケート（2005年ねん、有効ゆうこう得票とくひょう数すう4509）^{[注ちゅう 5]}、女おんなオタクのちぷたそのTwitterでの日本語にほんごのアンケート（2016年ねん、有効ゆうこう得票とくひょう数すう50程度ていど）^{[注ちゅう 6]}によると、腐女子ふじょしに目覚めざめた時期じきは、小学生しょうがくせいから中学生ちゅうがくせいがおよそ7 - 8割わりを占しめている。マルコは、25歳さい以上いじょうが多おおいのは意外いがいだが、これはネットが普及ふきゅうしたことが大おおきいのではないかと推測すいそくしている^[31]^[29]。

腐女子ふじょしになったきっかけは、マルコのアンケートでは、元々もともとアニメや漫画まんがが好すきでそのまま移行いこうした（スライドした）という人ひとが44.0%、友人ゆうじん、姉妹しまい、母親ははおやといった周囲しゅういの腐女子ふじょしの影響えいきょうが計けい32.9%（友達ともだち 28.3%、姉妹しまい 3.5%、母親ははおや 1.1%）、生うまれた時ときから腐女子ふじょしだったという回答かいとうは11.4%である^[31]。スライドしたきっかけとしては様々さまざまな作品さくひんが挙あげられているが、『幽かそけ☆遊ゆう☆白書はくしょ』と『テニスの王子おうじ様さま』が圧倒的あっとうてきに多おおい^[31]。ちぷたそは、2016年ねん時点じてんでアラサーの女性じょせいは、少女しょうじょ漫画まんが誌し『なかよし』で連載れんさいされたCLAMP『カードキャプターさくら』に幼少ようしょう期きから触ふれたことで、腐女子ふじょしやオタクになった人ひとが多おおいのではないかと述のべている^[29]。同どう作さくは低てい年齢ねんれいの少女しょうじょ向むけであるにもかかわらず、百ひゃく合ごう・BL・ロリコン・男おとこの娘むすめというオタク要素ようそが含ふくまれており、アニメ化かされてNHKBSとNHK教育きょういくで放送ほうそうされ広ひろく人気にんきとなった。

腐女子ふじょしの性せい自認じにん

日本にっぽんでは、腐女子ふじょしの大半たいはんは異性愛者いせいあいしゃであるという見解けんかいが定説ていせつになっており、同性愛どうせいあい者しゃであるケースは少すくない^[32]^[33]と言いわれてきた（また、中島なかじま梓あずさは1998年ねんの著作ちょさくで、やおいを愛好あいこうする女性じょせいたちは、現実げんじつの男性だんせいの同性愛どうせいあい者しゃに対たいしては興味きょうみを示しめさないことが多おおいと述のべており^[34]、いわゆる「おこげ」とも異ことなる）。溝口みぞぐち彰子あきこは、セックスを身体しんたい的てき行為こういであるとのみ定義ていぎづけるならば腐女子ふじょしの多おおくは異性愛者いせいあいしゃだが（性せい自認じにんは異性愛者いせいあいしゃ）、セクシュアリティにファンタジーの次元じげんを認みとめる場合ばあい、「セクシュアル・ファンタジーがヤオイの男性だんせい同士どうしの表象ひょうしょうで占しめられている」女性じょせいたちを完全かんぜんに異性愛者いせいあいしゃだとは断言だんげんし難がたいと述のべている^[11]。

英語えいご圏けんのやおい・BLファンの多おおくは、やおい・BLを既存きそんのジェンダー構造こうぞうの枠組わくぐみを打破だはする新あたらしいセクシュアリティー言説げんせつであると考かんがえている。タン・ビー・キーは、英語えいご圏けんの腐女子ふじょし・腐くさ男子だんしは「自身じしんのセクシュアリティーに関かんしてもクィア的てきか、もしくは、単純たんじゅんに固定こていされない人々ひとびと」だと定義ていぎしている。西洋せいようでのやおい・BLの受容じゅようを重視じゅうしするアメリカの批評ひひょう家かドゥルー・パグリアソッティは、2005年ねんから2007年ねんにかけてやおい・BLファンを対象たいしょうに英語えいご（回答かいとう者しゃ478）とイタリア語ご（回答かいとう者しゃ313）でオンライン・アンケートを行おこなった。回答かいとう者しゃが異性愛者いせいあいしゃであると答こたえた割合わりあいは英語えいごでは47%と半数はんすう以下いか、イタリア語ごでは62%で、パグリアソッティは西洋せいようでは日本にっぽんに比くらべて「性せい自認じにん、または性せい自認じにんに対たいする考かんがえ方かたが多様たよう化かしている」という見解けんかいを示しめし、やおい・BLファンの大半たいはんが「異性愛者いせいあいしゃの女性じょせい」であるという日本にっぽんの定説ていせつと合致がっちしないと述のべている^[16]。

趣味しゅみの隠蔽いんぺい

一般いっぱんに腐女子ふじょしは、やおい・BLジャンルを好このむことを同おなじ趣味しゅみを持もつ仲間なかま内ない以外いがいには隠かくす傾向けいこうがある^[35]。名めい藤ふじ多香子たかこは、腐女子ふじょしの自身じしんの趣味しゅみの隠蔽いんぺい度どは次つぎの3段階だんかいに分わかれているとしている^[36]。

腐女子ふじょし仲間なかまとだけ趣味しゅみを共有きょうゆうし、一般いっぱんの友人ゆうじんには完全かんぜんに趣味しゅみを隠蔽いんぺいするケース
腐女子ふじょし仲間なかまのほか、一般いっぱんの友人ゆうじんのうちでも理解りかいのある人ひとには趣味しゅみを公開こうかいするケース
友人ゆうじんが皆みな腐女子ふじょしなので隠蔽いんぺいする必要ひつようが無ないケース

福岡女学院大学ふくおかじょがくいんだいがくの吉田よしだ栞しおり・文ぶん屋や敬けいは、「〈告白こくはく〉とは、少女しょうじょ同士どうしの間あいだに形成けいせいされたコミュニティへ参加さんかするために必要ひつような条件じょうけん」であり、腐女子ふじょしが〈告白こくはく〉の対象たいしょうとするのは、主おもに漫画まんがやアニメ、ゲームに登場とうじょうする男性だんせいキャラクターたちであり、一般いっぱん的てきに受うけ入いれられにくいと述のべている^[10]。自身じしんの腐女子ふじょし的てきな趣味しゅみを告白こくはくすることは、性的せいてき少数しょうすう者しゃがそのセクシュアリティを告白こくはくするときの表現ひょうげんにならって「カミングアウト」としばしば表現ひょうげんされる^[37]。漫画まんが家かの伊藤いとう剛つよしによれば、自身じしんが腐女子ふじょしであることを隠かくす傾向けいこうは地方ちほうほど高たかいという^[38]。

恋愛れんあい・モテとの関連かんれん

腐女子ふじょしに対たいするステレオタイプな否定ひてい的てきイメージとして、「現実げんじつの男性だんせいに相手あいてにされないようなモテない地味じみな女性じょせいがやおい・ボーイズラブに逃避とうひしている」というものがある。漫画まんが家かのよしながふみは、BLは「もてない女おんなの慰なぐさめ」と揶揄やゆされることもあるが、実際じっさいそういった面めんもあり（無論むろんそれが全すべてではない）、「今いまの男女だんじょのあり方かたに無意識むいしき的てきでも居心地いごこちの悪わるさを感かんじている人ひとが読よむもの」だが、読者どくしゃが受うけてきた抑圧よくあつや居心地いごこちの悪わるさはそれぞれ違ちがっているので、一いち括くくりにしにくいと述のべている^[39]。やおい・BLジャンルや腐女子ふじょしをフェミニズムと結むすびつけて論ろんじられることも少すくなくないが、それを嫌いやがる人ひとも多おおい^[39]。

もてる腐女子ふじょしも少すくなくないという反論はんろんもあるが^[40]、恋愛れんあいコンプレックスからやおい・BLジャンルを愛好あいこうするようになった人ひともいるため、その場合ばあい擁護ようごが心理しんり的てきプレッシャーになるという指摘してきもある^[41]。なお、参考さんこうになりうる統計とうけいとして、（その多おおくを腐女子ふじょしが占しめると思おもわれる）漫画まんが雑誌ざっし『ぱふ』でのアンケート結果けっかでは恋人こいびと・配偶はいぐう者しゃのいる人ひとが回答かいとう者しゃの28%だったのに対たいし、20代だいの一般いっぱん女性じょせいでのその比率ひりつは48%である、というものがある（異性いせいからアプローチを受うけているかという比較ひかくではないため、このデータから単純たんじゅんにモテ具合ぐあいの比較ひかくはできない）^[42]。

宗教しゅうきょうとの関連かんれん

日本にっぽんではやおい・BLジャンルが宗教しゅうきょう絡がらみの文脈ぶんみゃくで語かたられることはほとんどない。カトリックの多おおいフィリピンは性的せいてきな事柄ことがらに保守ほしゅ的てきで、BLなど性せい描写びょうしゃのある作品さくひんの出版しゅっぱんが禁きんじられており（キス以上いじょうの場面ばめんは一般いっぱんメディアでは検閲けんえつされる）、女性じょせいが性的せいてきな作品さくひんを鑑賞かんしょうしたり性的せいてきな自己じこ主張しゅちょうをすることは変態へんたい的てき欲望よくぼうだとみなされている^[43]。大分大学おおいただいがく国際こくさい教育きょういく研究けんきゅうセンター準じゅん教授きょうじゅの長池ながいけ一美かずみは、この国くにのBLコンベンションでのインタビューでは、BL活動かつどうに関かんする宗教しゅうきょうの影響えいきょうを否定ひていする参加さんか者しゃが多おおかったが、仮面かめんをかぶって顔かおを隠かくす参加さんか者しゃ、両親りょうしんに腐女子ふじょしであることを知しられたら殺ころされると真剣しんけんに案あんじる参加さんか者しゃもいたと述のべている^[16]。

またイスラム教徒きょうとの多おおいインドネシアでは、BL商業しょうぎょう誌しの出版しゅっぱんは検閲けんえつは厳きびしくないとはいえ禁止きんしされている。腐女子ふじょし・腐くさ男子だんしの多おおくは自みずからを敬虔けいけんなイスラム教徒きょうとではないとしてBLと自身じしんの宗教しゅうきょうとの関係かんけいを否定ひていしていたが、中なかには敬虔けいけんなイスラム教徒きょうとであるが腐女子ふじょしを止とめられないというジレンマを抱かかえる人ひともいたという^[16]。

コミュニティ[編集へんしゅう]

溝口みぞぐち彰子あきこは、「三浦みうらしをんが述のべているように、ヤオイを『読よむ』ことはヤオイ（のコミュニティの成員せいいんとしての人生じんせい）を『生いきる』ことである。」と述のべている^[11]。当事とうじ者しゃからは、おそらく女性じょせい特有とくゆうの傾向けいこうだが、「萌もえ」は誰だれかと分わかち合あって初はじめて楽たのしく、それができないと苦くるしいという意見いけんもあり、同おなじ嗜好しこうを持もつ腐女子ふじょしとしてのアイデンティティの基盤きばんには、腐女子ふじょしの間あいだの連帯れんたい性せいをベースにするコミュニティへの帰属きぞくがある^[16]。溝口みぞぐちは、腐女子ふじょしのコミュニティは、好すきな作品さくひんについて感想かんそうを述のべあうことでは性的せいてきファンタジーを交換こうかんする「ヴァーチャル・レズビアン」空間くうかんとして機能きのうしていると述のべている^[11]。KDDI研究所けんきゅうじょの大戸おおと朋子ともこは、二に次じ創作そうさくを行おこなう腐女子ふじょしコミュニティへの調査ちょうさから、ある腐女子ふじょしがコミュニティ成員せいいんであり続つづけるためには、常つねに対象たいしょうに対たいする「愛あい」を発表はっぴょうし続つづけなくてはならないと指摘してきしている。近年きんねん主おもな活動かつどう場所ばしょになっている Twitter や Pixiv などのネットワークは情報じょうほうの消費しょうひ速度そくどが速はやく、呟つぶやいた瞬間しゅんかんに過去かこのものになるため、コミュニティの成員せいいんであるため自身じしんの「愛あい」を二に次じ創作そうさく作品さくひんや呟つぶやきによって表示ひょうじし続つづけなくてはならず、語かたることをやめれば「愛あい」がない（なくなった）と判断はんだんされてしまう。大戸おおどは、後期こうき近代きんだいにみられるアイデンティティの問題もんだいと関係かんけいを指摘してきしており、後期こうき近代きんだいにみられるアイデンティティは流動的りゅうどうてきで、その都度つど再さい定義ていぎ・再さい構築こうちくしなければならず、他者たしゃによる「私わたし」の肯定こうてい、つまり「個ことしての存在そんざいの肯定こうてい」を強つよく必要ひつようとすると述のべている^[30]。

pixivでは、ユーザーはイラストや漫画まんが、小説しょうせつといった作品さくひん、好すきな作品さくひんのブックマーク、好すきなユーザーのフォローを通とおしてプロフィールを形成けいせいし、ある種しゅのコミュニティを形成けいせいしていく。女性じょせいユーザーが多おおく、その多おおくを腐女子ふじょしが占しめるが、男性だんせいユーザーに比くらべ女性じょせいユーザーは互たがいの作品さくひんに対たいする評価ひょうかや交流こうりゅう、好意こうい的てきフィードバックが盛さかんで、女性じょせいの方ほうがクリエイターの創作そうさく意欲いよくを沸わきたせるような行動こうどうを取とっているという意見いけんもある。女性じょせいユーザーの「共感きょうかん」は特定とくていのカップリングに対たいして示しめされる場合ばあいが多おおいため、クリエーターのジャンルやカップリング、「愛あい」の対象たいしょうが変かわれば、所属しょぞくするコミュニティが変かわり、それまでのフォロワーが離はなれていくことも多おおい。読者どくしゃの好意こうい的てきな反応はんのうが、今いまのジャンル・カップリングの作品さくひんを書かき続つづけてほしいというプレッシャーになることもある。

ホープ・ドノヴァンはアメリカの腐女子ふじょしのやおい・BL消費しょうひを文化ぶんか人類じんるい的てき視点してんで分析ぶんせきし、前ぜん資本しほん主義しゅぎ的てきな、資本しほん主義しゅぎに帰属きぞくしないコミュニケーションが構築こうちくされていると述のべた。例たとえばBLファンサイト Aarinfantasy では無料むりょうで作品さくひんをダウンロードすることができ、見返みかえりに「thank you」ボタンを押おすという形かたちになっており、金銭きんせん目的もくてきではなく、純粋じゅんすいにやおい・BL作品さくひんを共有きょうゆうしたいという欲求よっきゅうによって成立せいりつしている^[16]。

名めい藤ふじ多香子たかこは、腐女子ふじょしを含ふくむ女性じょせいの同人どうじんサークルにおいては、先輩せんぱいから後輩こうはいに対たいして敬語けいごをはじめとする礼儀れいぎ作法さほうの類るいを厳きびしく教おしえ込こまれたり、それに反はんした構成こうせい員いんをコミュニティから排除はいじょするケースもあったと述のべている^[44]。

日本にっぽんでの現実げんじつのファン活動かつどうは、腐女子ふじょしが自みずから創作そうさくした漫画まんがや小説しょうせつの冊子さっしを販売はんばいする同人どうじん誌し即売そくばい会かいが多おおい。やおい・BLジャンルの研究けんきゅう者しゃは他たのピュラーカルチャー研究けんきゅう同様どうように愛好あいこう者しゃが多おおく、若手わかて研究けんきゅう者しゃを中心ちゅうしんに2009年ねんに設立せつりつされた「大阪おおさか腐女子ふじょし研究けんきゅう会かい」などの研究けんきゅうグループもある^[45]。欧米おうべいでは、お祭まつりのように一いち日にち中ちゅういくつもの活動かつどうが同時どうじに行おこなわれ、来場らいじょう者しゃが興味きょうみのある催もよおしに顔かおを出だすコンベンションが多おおい。日本にっぽんではイベントの開催かいさいに社会しゃかい的てきな制約せいやくはないが、性的せいてきな表現ひょうげんへの強つよい規制きせいや同性愛どうせいあい嫌悪けんお、女性じょせいの性的せいてき欲望よくぼうと行動こうどうに制限せいげんのある国くにの場合ばあい、イベントの開催かいさいは容易よういではない^[43]。

フィクションの中なかの腐女子ふじょし[編集へんしゅう]

腐女子ふじょしが登場とうじょうする漫画まんがや小説しょうせつもある。1997年ねんに、児童じどう文学ぶんがく作家さっかとして著名ちょめいな荻原おぎわら規子のりこが少女しょうじょ向むけ異い世界せかいファンタジー『西にしの善よき魔女まじょ』（中央公論社ちゅうおうこうろんしゃC★NOVELSファンタジア）を刊行かんこうし、2巻かん「秘密ひみつの花園はなぞの」で、閉とざされた女学校じょがっこうでの女おんな生徒せいとたちによるやおい・BL同人どうじん誌し文化ぶんかとその活用かつようの様子ようすを描えがいた（主人公しゅじんこうの親友しんゆうの王女おうじょがカリスマ覆面ふくめんBL作家さっか）。

相田あいだ美穂みほは、腐女子ふじょしキャラクターが登場とうじょうするもっとも古ふるい商業しょうぎょう漫画まんが作品さくひんは、確認かくにんできた限かぎりでは中島なかじま沙すな帆ほ子この四よんコマ漫画まんが『電脳でんのうやおい少女しょうじょ』（1999年ねん連載れんさい開始かいし）1巻かん（2002年ねん8月がつ発行はっこう）であると述のべている。なお本ほん作さくの主人公しゅじんこうは、非ひオタクのイケメン大学生だいがくせいの彼氏かれし持もちであり、彼氏かれしに対たいして「カミングアウト」はしていない^[46]。2000年ねんに連載れんさいが始はじまった阿部あべ川がわキネコ『辣韮らっきょうの皮かわ〜萌もえろ!杜もりの宮みや高校こうこう漫画まんが研究けんきゅう部ぶ〜』（1巻かん：2002年ねん1月がつ発行はっこう）には、美人びじんだが「超ちょうハードコアなやおい同人どうじん作家さっか」な先輩せんぱいなど複数ふくすうの腐女子ふじょしが登場とうじょうする。

2006年ねん頃ごろから、『となりの801ちゃん』のようにオタク男性だんせいと腐女子ふじょしの彼女かのじょという関係かんけいを描えがく作品さくひんが現あらわれており、2008年ねん以降いこう描えがかれる腐女子ふじょしのキャラクターは多様たよう化かしている^[46]。

児童じどうポルノ取とり締しまり・規制きせいとの関連かんれん[編集へんしゅう]

やおい・BLジャンルのグローバル化かで、過激かげきな性せい描写びょうしゃ、未成年みせいねんに見みえるようなキャラクターの性せい描写びょうしゃ、現実げんじつ社会しゃかいでの性せい犯罪はんざいとの関連かんれんなどに関かんし、各国かっこくで問題もんだい視しし規制きせいする動うごきも一部いちぶで出でてきている。世界せかい的てきに児童じどうポルノ取とり締しまりの機運きうんが高たかまる中なかで、やおい・BL規制きせい問題もんだいもこの構図こうずに取とり込こまれている。フィクションの未成年みせいねんであっても、現実げんじつ世界せかいで規制きせいされた行為こういを行おこなうと読者どくしゃの間あいだ違ちがった性せい認識にんしきが強化きょうかされるという考かんがえから、現実げんじつの未成年みせいねんだけでなくアニメ、コミック、ゲームの未成年みせいねんの登場とうじょう人物じんぶつにまで規制きせいの対象たいしょうを広ひろげようとする事例じれいがある^[16]。

2008年ねんのオーストラリアのニューサウスウェールズ州しゅうのマキュアン事件じけんでは、アニメ『ザ・シンプソンズ』のエロティックな画像がぞう所持しょじに「人物じんぶつという解釈かいしゃくにはフィクションの人物じんぶつも含ふくまれる」として有罪ゆうざい判決はんけつが出でている^[16]。同年どうねん日本にっぽんでは、大阪おおさか府ふの堺さかい市立しりつ図書館としょかんで、ボーイズラブ小説しょうせつが収蔵しゅうぞう・貸出かしだされていることを非難ひなんする「市民しみんの声こえ」によって廃棄はいきが要求ようきゅうされ、ボーイズラブとされた5500冊さつの本ほんが開架かいかから除去じょきょされる事件じけんが起おきた（参考さんこう・ボーイズラブ#堺さかい市立しりつ図書館としょかん「BL」本ほん排除はいじょ事件じけん）。中国ちゅうごくでは2010年ねんに鄭てい州しゅう市しで大々的だいだいてきな取とり締しまりがあり、ウェブ上じょうでやおい・BLまたはスラッシュ作品さくひんを公開こうかいしていた32人にんが逮捕たいほされており、そのほとんどが20代だいの腐女子ふじょしだった^[16]。

同年どうねん日本にっぽんでは、「18歳さい未満みまんのフィクションのキャラクター（非ひ実在じつざい青少年せいしょうねん）の性せい描写びょうしゃ」を大おおきく規制きせいする東京とうきょう都と青少年せいしょうねん健全けんぜん育成いくせい条例じょうれい改正かいせい案あんが発表はっぴょうされ、大おおきな波紋はもんを呼よび、一いち度どは否決ひけつされたが、「性せい犯罪はんざいや近親きんしん相姦そうかんの描写びょうしゃ」に対たいする規制きせいへと修正しゅうせいされた上うえで可決かけつされ、不健全ふけんぜん指定していされた書籍しょせきが撤去てっきょされるなどの事実じじつ上じょうの検閲けんえつが行おこなわれている^[47]。この条例じょうれいの危険きけん性せいは藤本ふじもと由香里ゆかりを通とおしてオタク・腐女子ふじょしの間あいだでも知しられるようになり、プロ作家さっかなど一部いちぶの腐女子ふじょしがロビイング活動かつどうなど反対はんたい運動うんどうを行おこなった^[47]。BL作家さっかの水戸みと泉いずみは「『プロ』は自みずからの問題もんだいとして『官憲かんけんによって表現ひょうげんを規制きせいされること』と対峙たいじすべきです」と述のべている^[47]。日本にっぽんでの非ひ実在じつざい青少年せいしょうねん問題もんだいには、過剰かじょうな純潔じゅんけつ教育きょういくを掲かかげるカルト団体だんたいによる政治せいじへの圧力あつりょくも指摘してきされている^[47]。

2020年代ねんだい現在げんざいでは、東京とうきょう都と青少年せいしょうねんの健全けんぜんな育成いくせいに関かんする条例じょうれいによって指定していされる不健全ふけんぜん図書としょの大半たいはんはBL作品さくひんとなっている^[48]^{[注ちゅう 7]}。指定していされた作品さくひんは都内とないで青少年せいしょうねん向むけに販売はんばいできなくなるほか、Amazon.co.jpにおける販売はんばいが停止ていしされる（不健全ふけんぜん指定していされた書籍しょせきのタイトルなどは東京とうきょう都とのウェブサイト上じょうの不健全ふけんぜん指定してい図ず書類しょるい一覧いちらんで確認かくにんできる）。漫画まんが家かの森川もりかわジョージによれば、東京とうきょう都との不健全ふけんぜん図書としょ指定していにより100人にん以上いじょうのBL漫画まんが作家さっかが収入しゅうにゅうを断たたれたとされる^[49]。参議院さんぎいん議員ぎいんの山田やまだ太郎たろうは、こうした青少年せいしょうねん健全けんぜん育成いくせいを理由りゆうとしたBLの規制きせいに危惧きぐを表明ひょうめいしている^[50]。

やおい・BL規制きせい研究けんきゅうの第一人者だいいちにんしゃであるオーストラリアの研究けんきゅう者しゃマーク・マクレランドは、腐女子ふじょしのファン活動かつどうと実際じっさいの児童じどうポルノ犯罪はんざいの関連かんれんは全まったく検証けんしょうされていないと述のべている^[16]。

研究けんきゅう分析ぶんせき[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは1990年代ねんだいのやおい・BL文化ぶんかの拡大かくだいと共ともに研究けんきゅうが始はじまった。初期しょきは精神せいしん分析ぶんせき学がくを基本きほんとした言説げんせつが中心ちゅうしんで、「なぜ女性じょせいが男性だんせい同性愛どうせいあいを描えがいた作品さくひんを読よむのか」が議論ぎろんされてきた。フェミニズムやジェンダー論ろんの観点かんてんから語かたられることも多おおかった。こうした精神せいしん分析ぶんせき的てきな研究けんきゅうに対たいする疑念ぎねんや研究けんきゅうの新あたらしい展望てんぼうが探求たんきゅうされるようになり、近年きんねんでは「どのようにやおい・BLジャンルを楽たのしむか」に研究けんきゅうの焦点しょうてんが移うつっている。研究けんきゅうの中心ちゅうしんはファン研究けんきゅうが占しめるようになり、多様たよう化かする腐女子ふじょし・腐くさ男子だんしによってどのようにやおい・BLが受容じゅようされ、使用しようされているのかを論ろんじることで、研究けんきゅうは活発かっぱつ化かしている。日本にっぽんでは評論ひょうろん・解説かいせつ書しょの出版しゅっぱんは盛さかんになっており、2006年ねんごろから2000年代ねんだい末まつにかけてボーイズラブの包括ほうかつ的てき解説かいせつ書しょの出版しゅっぱんが増ふえた。2015年ねんにはBL評論ひょうろん本ほんの出版しゅっぱんブームが起おきている^[51]。海外かいがいのやおい・BLジャンルの研究けんきゅうでも、ファン活動かつどう、ファンとしてのアイデンティティの構築こうちく、ファン・コミュニティの構成こうせいなどが研究けんきゅうされている^[16]。

日本にっぽんでは、やおい・BLファンの大半たいはんが「異性愛者いせいあいしゃの女性じょせい」であるというのが通説つうせつであるが、近年きんねんは腐くさ男子だんしなど異い性愛せいあい女性じょせい以外いがいのやおい・BLファンの研究けんきゅうも進すすんでいる^[16]。

2015年ねん時点じてんでは、日本にっぽんの研究けんきゅう者しゃが海外かいがいの研究けんきゅうを参照さんしょうし、海外かいがいの状況じょうきょうを把握はあくしたうえで論ろんを多た文化ぶんか的てきに展開てんかいすることは非常ひじょうに少すくなく、日本にっぽんと海外かいがいの研究けんきゅう者しゃの間あいだでの越境えっきょう対話たいわはあまりなされていない^[16]。

レジスタンス性せい[編集へんしゅう]

石田いしだ美紀みきは、日本にっぽんで1970年代ねんだいに少女しょうじょマンガ・文学ぶんがくの場ばに現あらわれた女性じょせいによる女性じょせいのための男性だんせい同志どうしの性愛せいあい物語ものがたりは、男性だんせい身体しんたいへの性的せいてきな関心かんしんを積極せっきょく的てきに肯定こうていする点てんでそれまでの女性じょせい文化ぶんかとは一線いっせんを画かくしており、少女しょうじょたちのこうした関心かんしんの根底こんていには「わたしには何なにができるだろうか」という問といかけと、「わたしにも何なにかできるはずだ」という信念しんねんがあったと指摘してきしている。この信念しんねんゆえに、80年代ねんだいに新あたらしい文化ぶんかになっていったのだという^[17]。

やおい・BLファンの活動かつどうには、伝統でんとう的てきな規範きはんを脱だつ構築こうちくすると評価ひょうかされるものもある。フィリピンではやおい・BL文化ぶんかに関かかわるのは、日本語にほんごや英語えいごを使つかいこなしネットを日常にちじょう的てきに使用しようできるある種しゅの文化ぶんか的てきエリート層そうであるが、フィリピンのBLコンベンション Light Out（現在げんざいBlushに改名かいめい）には明あきらかなエリート主義しゅぎが見みられ、啓蒙けいもう的てきな側面そくめんがある。活動かつどうの中心ちゅうしんに同性愛どうせいあい問題もんだいや異い性愛せいあいを超こえたセクシュアリティーの可能かのう性せいの希求ききゅうがあり、活動かつどうにはゲイの参加さんか者しゃも多おおい。ゲイ解放かいほう運動うんどうに興味きょうみがあり、同性どうせい婚こんに賛同さんどうする人ひとも多おおく、やおい・BLと現実げんじつ社会しゃかいでのゲイ問題もんだいが関連付かんれんづけて考かんがえられている。また中国ちゅうごくでは、やおい・BLの存在そんざい・拡大かくだいが、中国人ちゅうごくじん女性じょせいのレジスタンスの手段しゅだんであるとも分析ぶんせきされている。中国ちゅうごくのやおい・BL同人どうじん作品さくひんでは、伝統でんとう的てき儒教じゅきょう思想しそうに基もとづくヒエラルキーの概念がいねんや現在げんざいの共産党きょうさんとう支配しはいが掲かかげる理想りそう社会しゃかいから逸脱いつだつした人間にんげん関係かんけい、やおい・BL規制きせいへの間接かんせつ的てき批判ひはん、ゲイ解放かいほうを促うながす内容ないようなども様々さまざまなやり方かたで描えがかれている。中国ちゅうごくでは規制きせいに対抗たいこうするために、中国ちゅうごくのサーバから海外かいがいのサーバにサイトを移動いどうする腐女子ふじょしもいる。韓国かんこくの腐女子ふじょしは、儒教じゅきょうの影響えいきょうが大おおきい韓国かんこくでは、女性じょせいが性的せいてき主体しゅたいとしてのアイデンティティを確立かくりつできるような媒体ばいたいが少すくないと述のべており、やおい・BLジャンルにはそれを打破だはする可能かのう性せいがあるとも考かんがえられている^[16]。

社会しゃかい学がく的てき実証じっしょう研究けんきゅう[編集へんしゅう]

社会しゃかい学者がくしゃの岩井いわい阿礼あれいが、男性だんせい同性愛どうせいあいファンタジー愛好あいこう者しゃ女性じょせい（腐女子ふじょし）に関かんする社会しゃかい学がく的てき実証じっしょう研究けんきゅうをおこなっている^[52]。岩井いわいは、1991年ねんから1992年ねんにかけて、腐女子ふじょしと一般いっぱん女性じょせいを対象たいしょうとしたアンケート調査ちょうさをおこなった^[53]。

まず、性せい役割やくわりに対たいする態度たいどが測定そくてい（MHF-scale）された。その結果けっか、両りょう群ぐんは、「男おとこらしさ」と「女おんならしさ」のすべての項目こうもくで有意ゆういな違ちがいを示しめした。腐女子ふじょしは一般いっぱん女性じょせいに比くらべ、個人こじん的てきには「男おとこらしさ」を高たかく評価ひょうかし、「女おんならしさ」には低ひくい評価ひょうかを与あたえる傾向けいこうが強つよかった。ところが、一般いっぱんに世間せけんから女性じょせいとして望のぞまれる性質せいしつとしては、一般いっぱん女性じょせいよりも「女おんならしさ」を評価ひょうかする傾向けいこうが強つよかったのである^[54]。

次つぎに、両りょう群ぐんの女性じょせいがパートナーとして好このむ類型るいけいと、結婚けっこん後ごのライフコースの希望きぼうが比較ひかくされた。腐女子ふじょしは家父かふ長ちょう型がたの男性だんせいを嫌きらう一方いっぽう、友愛ゆうあい型がた・主夫しゅふの男性だんせいを選えらぶ傾向けいこうが一般いっぱん女性じょせいよりも強つよかった^[55]。また、腐女子ふじょしは結婚けっこん後ごも仕事しごとを続つづけたい意向いこうが一般いっぱん女性じょせいよりも強つよかった^[56]。

岩井いわい（1995）腐女子ふじょしと一般いっぱん女性じょせいのライフコース選択せんたく^[56]
①独身どくしんで、仕事しごとを続つづけたい。
②結婚けっこんして、子供こどもはつくらず、仕事しごとを続つづけたい。
③結婚けっこんして、子供こどももつくり、仕事しごとも続つづけたい。
④結婚けっこんしたら、仕事しごとを止とめる。
⑤結婚けっこんして、子供こどもが出来できたら、仕事しごとを止とめる。
⑥結婚けっこんしたら、仕事しごとを止とめるが、子供こどもがある程度ていど大おおきくなったら仕事しごとを続つづける。
⑦結婚けっこんして、子供こどもが出来できたら仕事しごとを止とめるが、子供こどもがある程度ていど大おおきくなったら仕事しごとを続つづける。
⑧専業せんぎょう主婦しゅふ

岩井いわいは、腐女子ふじょしは一般いっぱん女性じょせいに比くらべて、①女性じょせいも社会しゃかい進出しんしゅつして、家事かじ・育児いくじは夫おっとと分担ぶんたんするべきであるというような非ひ伝統でんとう的てきな立場たちばをとっていて、②家庭かていにおける伝統でんとう的てきな性せい役割やくわりを担になうことを嫌きらう傾向けいこうがあり、③一方いっぽうで、そうした態度たいどは本来ほんらい女性じょせいに求もとめられる役割やくわりとは違ちがい、自分じぶんは女おんならしくないと考かんがえているために、両者りょうしゃの板挟いたばさみになっていると結論けつろんし^[57]、一旦いったん女性じょせいという記号きごうから離はなれ、「「対等たいとうな対たい」のあり方かたに思おもいをめぐらせる思考しこう実験じっけんあるいは避難ひなんの場ばとして、「男性だんせい同性愛どうせいあい」という形式けいしきを、必要ひつようとした」のだと推測すいそくしている^[58]。

精神せいしん分析ぶんせき的てきな研究けんきゅう[編集へんしゅう]

長池ながいけ一美かずみは、初期しょきの研究けんきゅうは主おもにフェミニズムやジェンダー研究けんきゅうの枠組わくぐみで、「女性じょせいが男性だんせい同性愛どうせいあいの関係かんけい性せいに自みずからの女性じょせい性せいをどのように反映はんえいできるのかを意識いしきし、いわゆる『女性じょせい』と『女性じょせい性せい』の再さい発見はっけんに焦点しょうてんを当あててきたといえる」と述のべている。こうした研究けんきゅうを通とおして、次つぎのような議論ぎろんが開ひらかれてきた^[16]。

女性じょせい性せいの否定ひてい（もしくは女性じょせい性せいからの逃避とうひ）
女性じょせい特有とくゆうのガイネーシス^{[注ちゅう 8]}的てきなナラティブ（物語ものがたり、語かたり）であることの強調きょうちょう
精神せいしん分析ぶんせきの議論ぎろんに触発しょくはつされた「なぜ」に対たいする女性じょせいの深層しんそう心理しんり

なぜ腐女子ふじょしになるのか、なぜやおい・BLジャンルが成立せいりつするのかという理論りろんは様々さまざまであり、1人ひとりの論者ろんしゃが複数ふくすうの説せつを挙あげていることも少すくなくない^[59]。1990年代ねんだいに起おこったゲイサイドからのやおい・BL批判ひはん「やおい論争ろんそう」（参照さんしょう・ボーイズラブ#ゲイとボーイズラブ）と2000年代ねんだい位いの腐くさ男子だんし研究けんきゅうを通とおして、やや排他はいた的てきであったフェミニズム的てきな力学りきがくが脱だつ構築こうちくされ始はじめている^[16]。

以下いかに、精神せいしん分析ぶんせき的てきな研究けんきゅうの見解けんかいを数すう例れい示しめす。

異い性愛せいあいの安全あんぜんなシミュレーション: 榎本えのもとナリコは、やおいを愛好あいこうする女性じょせいが（女性じょせい的てき役割やくわりを担になっている）「受うけ」のキャラクターに感情かんじょう移入いにゅうする場合ばあいについて、それによって自己じこの安全あんぜん性せいが確保かくほされるのだとしている。つまり、自己じこの身体しんたいの代替だいたいとして受うけの男性だんせいキャラクターの身体しんたいを利用りようすることによって、自分じぶん自身じしんは傷きずつかず妊娠にんしんする危険きけんもないという安全あんぜん性せいを手てにした上うえで擬似ぎじ的てきな性行為せいこういを楽たのしむことができるのだという^[60]。ただし、榎本えのもとナリコはやおいを愛好あいこうする女性じょせいはしばしば「受うけ」のキャラクターだけではなく（男性だんせい的てき役割やくわりを担になっている）「攻せめ」のキャラクターにも感情かんじょう移入いにゅうしていることを指摘してきしており、その場合ばあいについては後述こうじゅつの「欲望よくぼうの主体性しゅたいせいの獲得かくとく」による説明せつめいを行おこなっている。; 谷川たにがわたまゑは、やおい愛好あいこう家かの女性じょせいには結婚けっこん後ごも同様どうようの趣味しゅみを続つづけるものも存在そんざいすることなどから、異い性愛せいあいを前まえもってシミュレートすることがやおい系けい作品さくひんを享受きょうじゅする目的もくてきだとする解釈かいしゃくは、実態じったいから乖離かいりした主張しゅちょうだと批判ひはんしている^[61]。
女性じょせい性せいの否定ひてい・女性じょせい嫌悪けんお: 少女しょうじょは第だい二に次じ性徴せいちょうを経へると自みずからの身体しんたいの女性じょせい性せいを自覚じかくしてそれに戸惑とまどい・恐怖きょうふを覚おぼえ、女性じょせい嫌悪けんおが内面ないめん化かされるという形かたちで男性だんせい同性愛どうせいあいの作品さくひんを好このむようになるという説明せつめい。たとえば、心理しんり学者がくしゃの小倉おぐら千加子ちかこ^[62]らがこういったの趣旨しゅしのことを述のべており、社会しゃかい学者がくしゃの上野うえの千鶴子ちづこ^[63]も一部いちぶで触ふれている。本人ほんにんもやおいを手てがける中島なかじま梓あずさも社会しゃかいからの選別せんべつのまなざしの無ない空間くうかんへ逃避とうひするできることがやおいが好このまれる理由りゆうだとしている^[64]。; 榎本えのもとナリコは、女性じょせいが「受うけ」のキャラクターに感情かんじょう移入いにゅうする背景はいけいには女性じょせいである自分じぶんが性的せいてきな欲望よくぼうを抱いだくことや性行為せいこういそのものへの嫌悪けんお感かんがあり、そのために女性じょせいとして身体しんたいのまま性的せいてきな妄想もうそうに浸ひたることに抵抗ていこうを覚おぼえ、自身じしんを男性だんせいにすりかえる必要ひつよう性せいが生しょうじると説明せつめいし^[65]、女性じょせいが排除はいじょされたやおいの世界せかいでは、現実げんじつでは女性じょせいが常つねに感かんじてしまう「ウーマンヘイト」から無縁むえんでいられるということを指摘してきしている^[66]。; 『日にち出処しゅっしょの天子てんし』『風ふうと木きの詩し』のように、男性だんせい同性愛どうせいあいを描えがいた少女しょうじょ漫画まんがの内容ないようでも女性じょせいが嫌悪けんおの対象たいしょうとして描えがかれている^[67]^[68]^[69]。; また、やおい愛好あいこう家かの女性じょせいが抱かかえる「女性じょせい性せいに対たいする葛藤かっとう」は、しばしば摂食せっしょく障害しょうがいの女性じょせいが抱かかえるの同様どうようの「女性じょせい性せいに対たいする葛藤かっとう」であるとも指摘してきされ、本格ほんかく的てきなやおい論ろんの嚆矢こうしとされる中島なかじま梓あずさの『コミュニケーション不全ふぜん症候群しょうこうぐん』でもやおいと拒こばめ食しょく症しょうの双方そうほうが論ろんじられている。女性じょせい性せいが自覚じかくされる第だい二に次じ性徴せいちょうはちょうど拒こばめ食しょく症しょうの発祥はっしょう時期じきと一致いっちし、少女しょうじょ漫画まんがの作品さくひん内ないで拒こばめ食しょく症しょうが取とり上あげられたり^{[注ちゅう 9]}、漫画まんが家か自身じしんがその体験たいけんを持もっていることがしばしばある^[70]。社会しゃかい的てきにも、やおいが浸透しんとうした時期じきと摂食せっしょく障害しょうがいが注目ちゅうもくされた時期じきは1970年代ねんだい後半こうはんと一致いっちしており、社会しゃかい学者がくしゃの熊田くまだ一雄かずおは「摂食せっしょく障害しょうがいになりかねない女性じょせいたちのセーフティ・ネット」としてやおい文化ぶんかが機能きのうした可能かのう性せいを指摘してきしている^[71]。; 一方いっぽう、西村にしむらマリは、男性だんせいキャラクターを女性じょせいキャラクターの置おきかえて描えがく「女おんなの子こネタ」というジャンルが定着ていちゃくしていることからやおい文化ぶんかで女性じょせい性せいが否定ひていされているわけではなく、むしろ男性だんせい性せいのほうが排除はいじょされる傾向けいこうにあると述のべている^[72]。
男性だんせいからの性的せいてき視線しせんの遮断しゃだん: 男性だんせいからの性的せいてき視線しせんの遮断しゃだんという面めんがあり、この観点かんてんからは、ヤマンバギャルとも共通きょうつう点てんがあるという意見いけんもある^[73]。
性的せいてき欲望よくぼう・視線しせんの主体性しゅたいせいの獲得かくとく: 上野うえの千鶴子ちづこ^[63]は、花はなの24年ねん組ぐみと呼よばれた世代せだいの女性じょせい漫画まんが家からのルサンチマンが生うんだ、ジェンダーレス・ワールドにおける性愛せいあいの実験じっけんだと述のべている。; 永えい久保くぼ陽子ようこによれば、思春期ししゅんきの少年しょうねん向むけの漫画まんがには性的せいてき欲求よっきゅうを肯定こうていするようなメッセージが暗あんに含ふくまれていることが多おおいが、通常つうじょうの少女しょうじょ向むけのメディアでは同様どうようのものは存在そんざいせず、少年しょうねんと同おなじく多感たかんな時期じきにもかかわらず性的せいてき欲望よくぼうを持もつこと自体じたいが抑圧よくあつされているとした上うえで、男性だんせい同性愛どうせいあいという回路かいろを経由けいゆして異い性愛せいあい的てきな性的せいてき欲望よくぼうの方向ほうこう性せいを隠蔽いんぺいしながら充足じゅうそくするための装置そうちとしてやおいが機能きのうしていると述のべている^[74]。; 榎本えのもとナリコは、読者どくしゃが「攻せめ」のキャラクターに感情かんじょう移入いにゅうしている場合ばあいを念頭ねんとうにおいて次つぎのように論ろんじている。通常つうじょうの男女だんじょの性愛せいあいでは、両者りょうしゃの生殖せいしょく器きの生物せいぶつ学がく的てきな構造こうぞう上じょうから、男性だんせい側がわが欲望よくぼうの主体しゅたいで女性じょせい側がわが客体かくたいとなることが事実じじつ上じょう義務付ぎむづけられている。しかし、現実げんじつ世界せかいでは欲望よくぼうの主体性しゅたいせいになれない女性じょせいであっても、やおい系けい作品さくひんの攻せめの男性だんせいキャラクターに感情かんじょう移入いにゅうしているときは、擬似ぎじ的てきに欲望よくぼうの主体しゅたいとなることができる。つまり、（やおい愛好あいこう家かの多おおくは異性愛者いせいあいしゃなので）男性だんせいを性的せいてき欲望よくぼうの対象たいしょうとしながら、なおかつ自分じぶん自身じしんが欲望よくぼうの主体性しゅたいせいを獲得かくとくするための方法ほうほうとして男性だんせい同士どうしの同性愛どうせいあい関係かんけいが必要ひつようとなるのである^[75]。; 金田かねだ淳子じゅんこは、前述ぜんじゅつの女性じょせい嫌悪けんおによるやおい解釈かいしゃくに対たいして、やおい表現ひょうげんにおいて回避かいひされているのは女性じょせい性せいではなく女性じょせいを性的せいてき対象たいしょうとしてのみ見みる視線しせんであり、やおいによってまなざす主体性しゅたいせい（性的せいてき欲望よくぼうを持もつ主体性しゅたいせい）を獲得かくとくすることができるとしている^[76]。; 漫画まんが研究けんきゅう家かの藤本ふじもと由香里ゆかりも、やおい表現ひょうげんに「犯おかせる側がわの視線しせん」「見みる側がわの視線しせん」の獲得かくとくという意義いぎを見出みいだしており^[77]、高橋たかはしすみれも前述ぜんじゅつしたようにやおい系けい作品さくひんでは女性じょせいキャラクターがまなざす主体しゅたいとして描えがかれていることがあることから女性じょせいが性的せいてき視線しせんの主体性しゅたいせいを獲得かくとくできるとしている^[78]。; 吉本よしもとたいまつは、さらに普段ふだん男性だんせいから受うけている値踏ねぶみの視線しせんをやおい・ボーイズラブという形かたちで女性じょせいが男性だんせいへまなざし返かえしているとし、このことを男性だんせいが知しることが、普段ふだん無意識むいしきに女性じょせいに対たいして値踏ねぶみの視線しせんをおくっていることへの自覚じかくや女性じょせいの欲望よくぼうに対たいする理解りかいを促うながすとも述のべている^[79]。
旧来きゅうらい的てきなジェンダー観かんの転覆てんぷく: 小谷おたに真理まりは、少年しょうねん向むけの創作そうさく物ぶつを女性じょせいが好このむ形かたちに強引ごういんに改造かいぞうするやおい的てき欲望よくぼうを、男性だんせい優位ゆうい社会しゃかいの中なかで抑圧よくあつされた「ガイネーシス（女性じょせい状じょう無意識むいしき）」を噴出ふんしゅつさせるものだと捉とらえた。また、それは同人どうじん文化ぶんかの発展はってんには印刷いんさつ技術ぎじゅつのハイテク化かがかかわっていることからテクノロジーの問題もんだいと交錯こうさくしたものだとして「テクノガイネーシス」の一種いっしゅであると述のべている^[80]。; 社会しゃかい学者がくしゃの小林こばやし義寛よしひろはやおい文化ぶんかを男性だんせい中心ちゅうしん的てきなメディアを転倒てんとうするものだと捉とらえており^[81]、社会しゃかい学者がくしゃの笠かさ間あいだ千せん浪なみは旧来きゅうらい的てきなジェンダー秩序ちつじょを「転倒てんとうというより転覆てんぷく」させるものだとしている^[82]。このほか、永えい久保くぼ陽子ようこは男性だんせい向むけポルノグラフィが豊富ほうふに存在そんざいするのに対たいし女性じょせい向むけのそれは存在そんざいしておらず、女性じょせいが性愛せいあい表現ひょうげんを奪還だっかんしようと邁進まいしん（まいしん）してきた成果せいかがやおいとしている^[83]。
トランスジェンダーの可能かのう性せい: 作家さっかの榊原さかきばら史ふみ保美やすみは、その著書ちょしょ『やおい幻まぼろし論ろん』で、「やおいになるのは、その作者さくしゃ・読者どくしゃがFtM（肉体にくたいは女性じょせいであるが精神せいしんは男性だんせいである状態じょうたい）でかつゲイ（同性愛どうせいあい、もしくは両りょう性愛せいあい）だからではないか」という説せつを提唱ていしょうし、また自身じしんもFtMゲイかもしれないと発言はつげんしている^[84]。
異い性愛せいあいの失望しつぼう体験たいけんの回避かいひ: 宮台みやのだい真司しんじは、物語ものがたりの中なかで男女だんじょの性愛せいあいが描えがかれてしまうと、それによって自身じしんの恋愛れんあいにおける失望しつぼう体験たいけんを想起そうきしてしまうため、それを防ふせいで純粋じゅんすいな妄想もうそうに浸ひたるには男性だんせい同士どうしの同性愛どうせいあいを描えがく必要ひつようがあるのだと述のべている^[85]。
ホモソーシャルに対たいする潜在せんざい的てき羨望せんぼう: 東あずま園子そのこは、体育たいいく会かい系けいの部活ぶかつのマネージャーを志望しぼうする女子じょし生徒せいとや、個人こじん単位たんいではなくコンビやユニット単位たんいでファンになる女性じょせいの男性だんせいアイドルファンの存在そんざいなどから、女性じょせいは（女性じょせいの間あいだでは同様どうようのものがあまり見みられない）男性だんせいのホモソーシャル的てきな絆きずなに潜在せんざい的てきな憧あこがれを抱だいている場合ばあいがあり、その欲望よくぼうや表出ひょうしゅつした結果けっかとしてやおいがある可能かのう性せいを示しめしている^[86]。
女性じょせい版ばんホモソーシャル: 社会しゃかい学者がくしゃの東あずま園子そのこは、腐女子ふじょしが形成けいせいするコミュニティを女性じょせい版ばんのホモソーシャルと解釈かいしゃくできるとしている。ホモソーシャルとは文学ぶんがく研究けんきゅう者しゃ・社会しゃかい学者がくしゃのイヴ・セジウィックが論ろんじた概念がいねんで、男性だんせい同士どうしで友情ゆうじょうをはじめとする社会しゃかい的てきなつながりが形成けいせいされてその間あいだで女性じょせいは貨幣かへいのように交換こうかんされるという構造こうぞうを持もち、ホモフォビア（同性愛どうせいあい嫌悪けんお）とミソジニー（女性じょせい嫌悪けんお）という2つの特徴とくちょうがある。腐女子ふじょしのコミュニティでは、通常つうじょうのホモソーシャルの枠組わくぐみにおいて女性じょせいが貨幣かへいとして交換こうかんされていたかわりに、物語ものがたりの中なかの男性だんせいが欲望よくぼうの対象たいしょうとして女性じょせい同士どうしの間あいだで交換こうかんされる。（通常つうじょうの男性だんせいの）ホモソーシャルにおける女性じょせい嫌悪けんおについても、これを異性いせい嫌悪けんおと読よみ替かえれば、（物語ものがたりの中なかではなく現実げんじつの）男性だんせいに対たいする嫌悪けんおとして腐女子ふじょしのコミュニティに間あいだに存在そんざいしている（やおい系けいの同人どうじん雑ざつ即売そくばい会かいで男性だんせいの入場にゅうじょうが禁止きんしされる例れいなど、現実げんじつの男性だんせいを排除はいじょする傾向けいこうがある）。他方たほう、同性愛どうせいあい嫌悪けんおの傾向けいこうは腐女子ふじょしのコミュニティにはあまり見受みうけられず、東園ひがしぞの子こはむしろ女性じょせい同士どうしの絆きずなを維持いじするための異い性愛せいあい嫌悪けんおの傾向けいこうの方ほうが強つよいとしている。これは、通常つうじょうの女性じょせいのコミュニティでは異性いせいに関心かんしんを持もつことが暗黙あんもくのうちに義務付ぎむづけられている面めんがあるため、そういった抑圧よくあつをキャンセルする場ばとして腐女子ふじょしのコミュニティが機能きのうしているとみることができる^[87]。; 翻訳ほんやく家かの栗原くりはら知代ちよは、腐女子ふじょしのコミュニティにおける女性じょせい同士どうしの連帯れんたい感かんを「シスター・フッド」（英えい：sisterhood）や「セパレート・レズビアン^{[要よう追加ついか記述きじゅつ]}」と類似るいじするものだと指摘してきしている^[88]。
関係かんけい志向しこうの女性じょせいと所有しょゆう志向しこうの男性だんせいの差さ: やおい的てき欲望よくぼうは男性だんせいオタクにみられる単一たんいつの対象たいしょうに対たいするものではなく「受うけ」と「攻せめ」の関係かんけい性せいに対たいする欲望よくぼうとなっているという意見いけんもあり、野火のびノビタは「位相いそう萌もえ」と呼よんでいる^[89]。; 斎藤さいとう環たまきは、一般いっぱんに男性だんせいは「所有しょゆう（持もちたい）」を志向しこうして女性じょせいは「関係かんけい（なりたい）」を志向しこうするというジェンダー傾向けいこうがあるという前提ぜんていに基もとづき、なんの制約せいやくもなく自由じゆうに自分じぶんの欲望よくぼうを追求ついきゅうできるはずの「オタク」という文化ぶんか圏けんの中なかにおいて消費しょうひの仕方しかたに男女だんじょ差さが歴然れきぜんと存在そんざいすることについて、男性だんせいオタクは美少女びしょうじょキャラクターを「所有しょゆう」しようとし、女性じょせいオタク（腐女子ふじょし）の欲望よくぼうは男性だんせいキャラクター同士どうしの「関係かんけい」に向むかうという形かたちで説明せつめいできるとしている^[90]。

分析ぶんせきへの当事とうじ者しゃの拒否きょひ感かん[編集へんしゅう]

1970年代ねんだいの少女しょうじょマンガにおける少年しょうねん愛あいものが誕生たんじょうし注目ちゅうもくを集あつめた時ときから、「彼女かのじょたちはなぜこうした物語ものがたりを好このむのか」という疑問ぎもんも生うまれ、以後いご当事とうじ者しゃに向むけて連綿れんめんと問といかけられている^[91]。永えい久保くぼ陽子ようこによれば、この問といへの拒否きょひ感かんにはやおい・ボーイズラブにポルノグラフィとしての側面そくめんがあることが関係かんけいしているという。男性だんせいの場合ばあい、若年じゃくねん者しゃ向むけのものを含ふくむ多おおくのメディアで男性だんせいの性的せいてき欲望よくぼうを肯定こうていするようなメッセージが流布るふしている社会しゃかい的てき状況じょうきょうがあるが、女性じょせいの場合ばあいは性的せいてき欲望よくぼうを持もつことを自認じにんすることすら抑圧よくあつされており、欲望よくぼうの対象たいしょうを事細ことこまかに分析ぶんせきされることには耐たえられないのだと考かんがえられる^[92]。BL作家さっかの水戸みと泉いずみは、同人どうじんが広ひろく知しられ、多おおくの作家さっかが同人どうじん経由けいゆでプロデビューする昨今さっこんでも腐女子ふじょしが隠かくれていたいと願ねがうのは、「性的せいてき主体しゅたいとしての自分じぶんの存在そんざいを隠かくしたい、好奇こうきの視線しせんにさらされたくないという保身ほしん」であり、保身ほしんそのものは決けっして否定ひていされるべきではないと述のべている^[47]。世間せけんから隠かくれていたいという思おもい、同おなじ腐女子ふじょしからの同調どうちょう圧力あつりょくから、マスコミの取材しゅざいに応おうじる腐女子ふじょしは少すくない^[47]。

石田いしだ美紀みきは「彼女かのじょたちはなぜこうした物語ものがたりを好このむのか」という疑問ぎもんは「実じつに居心地いごこちの悪わるいものである。質問しつもん者しゃに悪気わるぎがないときほど、居きょたたまれない。なぜなら、それが口くちに出だされることじたいが、やおい・BLとその支持しじ者しゃが問題もんだい視しされている証あかしであるし、またその問といに真剣しんけんに答こたえようとすればするほど、モテるのかどうか、恋人こいびとがいるかどうか、性的せいてき経験けいけんはどのようなものか・・・というあけすけな問といを果はてしなく呼よび起おこしてしまうからだ。」と述のべている。この問といかけには回答かいとう者しゃに全ぜん人格じんかくをさらけ出だすことを求もとめるような不思議ふしぎな強制きょうせい力りょくがあり、腐女子ふじょし自身じしんも問といそのものを内面ないめん化かしてしまい、何なにとか答こたえようと焦あせり、答こたえに詰つまった時ときは「ほっといてください」と開ひらき直なおる。やおい・BLジャンルが腐女子ふじょしの実存じつぞんに関かかわる一方いっぽう、パラレルな存在そんざいと言いっていい「男性だんせい向むけ魔法まほう少女しょうじょもの」の愛好あいこう者しゃの男性だんせいたちは、腐女子ふじょしを苛さいなむ状況じょうきょうから全まったく自由じゆうで、なぜこうした作品さくひんを好このむのか問とわれたり、自問じもんしたり、自身じしんの実存じつぞんについて考かんがえることはほとんどない。この差異さいは世間せけんにおける男女だんじょの立場たちばの違ちがいから生しょうじる^[91]。近年きんねんでは、腐女子ふじょしの実存じつぞんをほじくるのではなく、豊ゆたかな表現ひょうげん領域りょういきとしてやおい・BL作品さくひんをただ論ろんじることも増ふえている。

斎藤さいとう環たまきは、やおい分析ぶんせきが当事とうじ者しゃから嫌きらわれる理由りゆうとして、一般いっぱんに女性じょせいの欲望よくぼうは（ジャック・ラカンのいう）「他者たしゃの享楽きょうらく」であり、それは言語げんごによる理解りかいを超越ちょうえつしているため経験けいけんすることができても語かたることはできないということが関係かんけいしているかもしれないと推測すいそくしている^[93]。

石田いしだ仁ひとしはこのような腐女子ふじょしたちの態度たいどを「一時いちじ的てきな自律じりつゾーニングの営いとなみ」と評価ひょうかし、やおい表現ひょうげんがゲイ男性だんせいの表象ひょうしょうを横よこ奪だつしている可能かのう性せいについての議論ぎろんを無む化かするものとして批判ひはんしている^[94]。