農薬のうやく

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農業のうぎょうによる農薬のうやく空中くうちゅう散布さんぷ

農薬のうやく(のうやく、えい: agricultural chemical[注釈ちゅうしゃく 1])とは、農業のうぎょう効率こうりつ、あるいは農作物のうさくもつ保存ほぞん使用しようされる薬剤やくざい総称そうしょう殺菌さっきんざいぼうかびざい(ぼうばいざい)、殺虫さっちゅうざい除草じょそうざい殺鼠剤さっそざい(さっそざい)、植物しょくぶつ成長せいちょう調整ちょうせいざい通称つうしょううえ調ちょう」:植物しょくぶつホルモンざいなど)とうをいう。また、害虫がいちゅう雑草ざっそう駆除くじょ利用りようされる天敵てんてき捕食ほしょくしゃは「生物せいぶつ農薬のうやく」とばれる。

概要がいよう[編集へんしゅう]

農薬のうやく元々もともと土壌どじょう種子しゅし消毒しょうどくと、発芽はつがから結実けつじつまでの虫害ちゅうがい病気びょうき予防よぼうをするものをしていたが、農作物のうさくもつ虫害ちゅうがい植物しょくぶつ成長せいちょう調整ちょうせいなど、「農業のうぎょう生産せいさんせいたかめるために使用しようされる薬剤やくざい」として広義こうぎ解釈かいしゃくされるようになっている[1]近代きんだいされた農業のうぎょうでは農薬のうやく大量たいりょう使用しようされている。一方いっぽう人体じんたいたいする影響えいきょうをもたらす農薬のうやくおおくあることから使用しようできる物質ぶっしつりょう法律ほうりつとう制限せいげんされている。

各国かっこく農薬のうやく使用しようじょうきょう最新さいしん農法のうほう[編集へんしゅう]

世界せかい各国かっこく農薬のうやく使用しようりょうは、日本にっぽんを1とすると、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくが0.2、イギリスドイツスペインが0.33、オランダが0.8、デンマークが0.1、スウェーデンが0.05となり、EU政策せいさくにより意図いとてき農薬のうやく使用しようりょうらしている。また近年きんねん躍進やくしんいちじるしいブラジルでも、日本にっぽんの3ぶんの1であり、インド日本にっぽんの30ぶんの1しかない。FAO国連こくれん食糧しょくりょう農業のうぎょう機関きかん)の統計とうけいによると、中国ちゅうごく農薬のうやく使用しようりょうは、農地のうち1haあたり13kgの世界せかいトップレベルだが、日本にっぽんも11.4kgの農薬のうやく使つかっており、中国ちゅうごくとほぼわらない。日本人にっぽんじんおおくは「国産こくさん一番いちばん安全あんぜん」としんじていることがおおいが、間違まちがった神話しんわであり、日本にっぽん中国ちゅうごくならんで世界せかいでも有数ゆうすう農薬のうやく大国たいこくである。日本にっぽん農薬のうやく削減さくげんおくれている背景はいけいには、日本にっぽん農業のうぎょうおおくは、1970年代ねんだいからまったく進歩しんぽせず、技術ぎじゅつ革新かくしんが、きてこなかったことがあると拓殖大学たくしょくだいがく国際こくさい学部がくぶ教授きょうじゅ竹下たけしたただしあきら指摘してきしている。海外かいがいでは1990年代ねんだいあたりから農業のうぎょう形態けいたい激変げきへんした。栽培さいばいほう幾度いくど革命かくめいき、その都度つど最先端さいせんたんテクノロジー農業のうぎょう融合ゆうごうし、さらに農業のうぎょう国境こっきょうえたグローバルビジネスとなり、カーギルブンゲなどの巨大きょだい企業きぎょう誕生たんじょうし、世界せかい食糧しょくりょう管理かんりできるほどのちからつにいたり、零細れいさい農家のうかえていった。しかし、日本にっぽんではうちきの農業のうぎょうつづき、変化へんかがなかった[2]

2018ねん12月まつTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋かんたいへいようパートナーシップ)が開始かいしされると、太平洋たいへいよう周辺しゅうへんの11カ国かこくあいだオーストラリアブルネイカナダチリ日本にっぽんマレーシアメキシコニュージーランドペルーシンガポールベトナム)で、貿易ぼうえき自由じゆう目的もくてきで、おおくの関税かんぜい撤廃てっぱいされた。このため、日本にっぽんにも、海外かいがい農産物のうさんぶつ輸入ゆにゅうひん急増きゅうぞうした。さらにTPPとはべつに、ヨーロッパとはEPA(Economic Partnership Agreement、経済けいざい連携れんけい協定きょうてい)がむすばれた。ヨーロッパと日本にっぽんあいだ関税かんぜい関税かんぜい以外いがい障壁しょうへきはらい、貿易ぼうえきをより自由じゆうにするめであり、2019ねん2がつ発効はっこうされた。このため、今後こんごはヨーロッパから野菜やさい果物くだもの輸入ゆにゅう急増きゅうぞう予測よそくされるが、収穫しゅうかくわったのち処理しょり急速きゅうそく発達はったつしたポストハーベスト技術ぎじゅつ使用しようされるため、遠方えんぽうからの輸入ゆにゅう可能かのうとなった。すでにヨーロッパでは、最新さいしんのテクノロジーを使つかい、日本にっぽんよりもはるかに効率こうりつのよい農法のうほう同時どうじに、使用しよう農薬のうやくりょうは、日本にっぽんよりもはるかにすくなくしており、最先端さいせんたん農業のうぎょうでありながら、安全あんぜん安心あんしん環境かんきょうにもやさしい農業のうぎょう展開てんかいされている。このため、竹下たけした世界せかい日本にっぽんはさらにひらいていき、日本にっぽん農業のうぎょう衰退すいたいするのではと警鐘けいしょうらしている[2]

歴史れきし[編集へんしゅう]

紀元前きげんぜんからうみねぎステロイドはいとうからだふくむ)を利用りようしたネズミ駆除くじょ硫黄いおう使用しようした害虫がいちゅう駆除くじょおこなわれてきた。17世紀せいきになるとタバコこな19世紀せいき初頭しょとうには除虫菊じょちゅうぎくやデリスロテノン含有がんゆう)を利用りようした殺虫さっちゅうざいもちいられるようになったが、天然てんねんもの無機むき化合かごうぶつ中心ちゅうしんであり、化学かがく合成ごうせいされた有機ゆうき化合かごうぶつ農薬のうやく登場とうじょうするのは、20世紀せいきはいってからである[3]

ぜん近代きんだい[編集へんしゅう]

人類じんるい歴史れきしさかのぼると、農作物のうさくもつへの病害虫びょうがいちゅうによる被害ひがいふるくからあり、耕作こうさく方法ほうほう品種ひんしゅ変更へんこうなど様々さまざま努力どりょくがなされていた[4]

元来がんらい植物しょくぶつには昆虫こんちゅうによる食害しょくがい菌類きんるいウイルス感染かんせんけるため、各種かくしゅ化学かがく物質ぶっしつ含有がんゆう、または分泌ぶんぴつするアレロパシーばれる能力のうりょくがある。複数ふくすう種類しゅるい植物しょくぶつ同時どうじ栽培さいばいするコンパニオンプランツをすると、連作れんさく障害しょうがい防止ぼうしできることは経験けいけんてきられていた。

古代こだいギリシャ古代こだいローマでは、播種はしゅまえ種子しゅし植物しょくぶつしたえきワインけておく方法ほうほうや、生育せいいくちゅうなえバイケイソウなどの植物しょくぶつ浸出液しんしゅつえき散布さんぷする方法ほうほうがとられていた[4]

近代きんだい農薬のうやく登場とうじょう[編集へんしゅう]

1800年代ねんだいはいると、コーカサス地方ちほう除虫菊じょちゅうぎく粉末ふんまつ殺虫さっちゅうざいとして使用しようされたほか、デリス(en)殺虫さっちゅう効果こうかられるようになった[4]

1824ねんには、モモうどんこびょうたいして、硫黄いおう石灰せっかい混合こんごうぶつ有効ゆうこうであることが発見はっけんされた[4]。その1851ねんフランスのグリソンが石灰せっかい硫黄いおうごうざい考案こうあんした。

18世紀せいき後半こうはんには、木材もくざい防腐ぼうふざいとしてもちいられていた硫酸りゅうさんどうが、種子しゅし殺菌さっきんにももちいられるようになったが、1873ねんボルドー大学だいがくのミヤルデ教授きょうじゅが、ブドウべとやまい硫酸りゅうさんどう石灰せっかい混合こんごうぶつ有効ゆうこうであることを発見はっけん[4]1882ねん以降いこうボルドぼるどえきとして農薬のうやく利用りようされることとなった[4]

1924ねんに、ヘルマン・シュタウディンガーらによって、除虫菊じょちゅうぎく主成分しゅせいぶんピレトリンという化学かがく物質ぶっしつであることが解明かいめいされた。1932ねんには日本にっぽん武居たけい三吉さんきちらによって、デリス有効ゆうこう成分せいぶんロテノンという化学かがく物質ぶっしつであることも判明はんめいした。

化学かがく合成ごうせい農薬のうやく登場とうじょう[編集へんしゅう]

20世紀せいき前半ぜんはんまでは農薬のうやく中心ちゅうしん天然てんねんぶつ無機物むきぶつであったが、だい世界せかい大戦たいせんのちになると本格ほんかくてき化学かがく合成ごうせい農薬のうやく利用りようされるようになる[4]

DDTと殺虫さっちゅうざい[編集へんしゅう]

1938ねんガイギーしゃパウル・ヘルマン・ミュラーは、合成ごうせい染料せんりょう防虫ぼうちゅう効果こうか研究けんきゅうからDDT殺虫さっちゅう活性かっせいがあることを発見はっけん農業のうぎょう防疫ぼうえき応用おうようされた。DDTは、人間にんげん大量たいりょう合成ごうせい可能かのう有機ゆうき化合かごうぶつを、殺虫さっちゅうざいとして実用じつようした最初さいしょれいであり、ミュラーはこの功績こうせきにより1948ねんノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうした。

DDTの発見はっけん刺激しげきされ、1940ねんだいには世界せかい各国かっこく殺虫さっちゅうざい研究けんきゅうはじまり、1941ねんころにフランスでベンゼンヘキサクロリドが、1944ねんころドイツパラチオンが、アメリカでディルドリンがそれぞれ発明はつめいされた。いずれもたか殺虫さっちゅう効果こうかがあり、またたく先進せんしんこく中心ちゅうしん世界せかいひろがっていった。一部いちぶ殺虫さっちゅうやくだい世界せかい大戦たいせん使つかわれたどくガス研究けんきゅうから派生はせいしたものといわれている[5]

環境かんきょう運動うんどう農薬のうやく批判ひはん[編集へんしゅう]

1962ねんレイチェル・カーソンが『沈黙ちんもくはる』を発表はっぴょうして環境かんきょう運動うんどう世界せかいてき関心かんしんあつめてからは、農薬のうやく過剰かじょう使用しよう批判ひはんこるようになった。日本にっぽんでも水俣病みなまたびょうなどの公害こうがい社会しゃかい問題もんだいとなるなか、1974ねんには有吉ありよし佐和子さわこ小説しょうせつふくあい汚染おせん』が発表はっぴょうされ、農薬のうやく化学かがく肥料ひりょう危険きけんせいうったえられた。

消費しょうひしゃ自然しぜん嗜好しこう環境かんきょう配慮はいりょ有機ゆうき野菜やさい消費しょうひ増加ぞうかといったことをけて、生産せいさんしゃがわである農家のうかからも費用ひようのほか、化学かがく農薬のうやく副作用ふくさよう健康けんこう被害ひがいへの心配しんぱいから、天敵てんてき細菌さいきんウイルスせんちゅう糸状いとじょうきんカビ仲間なかまとう生物せいぶつ農薬のうやく使用しようすすめられている。

日本にっぽん農薬のうやく歴史れきし[編集へんしゅう]

日本にっぽんでは、16世紀せいきまつ古文書こもんじょアサガオしゅトリカブトなど、5種類しゅるい物質ぶっしつもちいた農薬のうやく生成せいせいほう紹介しょうかいされており、1670ねんには鯨油げいゆ水田すいでんなが方法ほうほう注油ちゅうゆほう)による害虫がいちゅうウンカ駆除くじょほう発見はっけんされている[4][6]

農薬のうやく分類ぶんるい[編集へんしゅう]

機能きのうによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

農薬のうやく機能きのうによりつぎのように分類ぶんるいされる[9]

害虫がいちゅう天敵てんてき微生物びせいぶつ微生物びせいぶつざい)を利用りようする防除ぼうじょほう生物せいぶつてき防除ぼうじょといい、使用しようされる生物せいぶつ生物せいぶつ農薬のうやくという[1]生物せいぶつ農薬のうやく業者ぎょうしゃによって処方しょほうされ、製品せいひんとして登録とうろくされたもので、天敵てんてき製剤せいざいばれる[1]生物せいぶつ農薬のうやく化学かがく農薬のうやく化学かがくてき防除ぼうじょ)にくらべて毒性どくせい薬剤やくざいたいせいめんでメリットがあり普及ふきゅうしているが、害虫がいちゅう全滅ぜんめつできないことや効果こうか発揮はっきおそいなどのデメリットもある。

製剤せいざい方法ほうほうによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

乳剤にゅうざい
みずけにくい有効ゆうこう成分せいぶん有機ゆうき溶媒ようばいかし、さらにみず馴染なじみやすくするために界面かいめん活性かっせいざいくわえたもの。使用しようみず希釈きしゃくするとエマルションになる。
みずざい
みずけにくい有効ゆうこう成分せいぶんを、鉱物こうぶつなどにぜて微粉びふんじょうにし、みず馴染なじみやすくしたもの。みず希釈きしゃくして使つかう。ふうらないよう、粒状りゅうじょう成形せいけいしたものは顆粒かりゅうすいざい、またはドライフロアブルとばれる(そのうち、水田すいでんよう除草じょそうざい顆粒かりゅうともばれる)。
水溶すいようざい
水溶すいようせい有効ゆうこう成分せいぶんみずかし、希釈きしゃくして使つかう。
液剤えきざい
有効ゆうこう成分せいぶん水溶液すいようえき。そのまま使つかうものとみず希釈きしゃくして使つかうものがある。
つぶざい
有効ゆうこう成分せいぶん鉱物こうぶつなどにぜて粒状りゅうじょうにしたもの。みずかさず、そのまま散布さんぷする。つぶみちによって微粒びりゅうざいほそつぶざいなどがある。
粉剤ふんざい
有効ゆうこう成分せいぶん鉱物こうぶつなどにぜてこなじょうにしたもの。みずかさず、そのまま散布さんぷする。つぶみちとその割合わりあいによって微粉びふんざい、DL粉剤ふんざい、フローダストざいなどがある。
マイクロカプセル
有効ゆうこう成分せいぶん高分子こうぶんしまく被覆ひふくしてかずμみゅーm - すうひゃくμみゅーmくらいのマイクロカプセルじょうにしたもの。
燻蒸くんじょうざい
常温じょうおんまたはみずれて有効ゆうこう成分せいぶん気化きかさせて利用りようするもの。
いぶしけむりざい
着火ちゃっかまたは加熱かねつにより有効ゆうこう成分せいぶん気化きかさせて利用りようするもの。
エアゾール
ケロシンアセトン有効ゆうこう成分せいぶんかし、液化えきかガス圧力あつりょくスプレーできる容器ようき(スプレーかん)にれたもの。
フロアブルざい
ゾルざいともばれる。溶剤ようざいけにくい固体こたい有効ゆうこう成分せいぶんを、みずざいよりもこまかい微粒子びりゅうしにしてみずぜ、液剤えきざいしたもの(登録とうろくじょう分類ぶんるいみずざい)。
EW
みずけにくい有効ゆうこう成分せいぶんを、高分子こうぶんしまく界面かいめん活性かっせいざいなどで被覆ひふくすることでみずぜ、液剤えきざいしたもの。有機ゆうき溶媒ようばい使つかわないため、危険きけんぶつにあたらない利点りてんもある(登録とうろくじょう分類ぶんるい乳剤にゅうざい)。
マイクロエマルション
みずけにくい有効ゆうこう成分せいぶん最低限さいていげん有機ゆうき溶剤ようざいかし、界面かいめん活性かっせいざいみず液剤えきざいしたもの(登録とうろくじょう分類ぶんるい液剤えきざい)。
ペーストざい
有効ゆうこう成分せいぶん鉱物こうぶつなどにぜてのりじょうにしたもの。塗布とふして使つかう。
錠剤じょうざい
水溶すいようざいみずざいを、じょうじょう成形せいけいしたもの。現場げんば計量けいりょうする手間てま軽減けいげんできる。みず希釈きしゃくして使つかう。
塗布とふざい
もっぱら塗布とふして使つかうもので、のどのざいがたにもてはまらないもの。
粉末ふんまつ
こなじょうで、のどのざいがたにもてはまらないもの。
微量びりょう散布さんぷようざい
空中くうちゅう散布さんぷにおける微量びりょう散布さんぷ(ULV)専用せんように、有効ゆうこう成分せいぶん有機ゆうき溶媒ようばいこう濃度のうどかしたもの。
油剤ゆざい
みずけにくい有効ゆうこう成分せいぶん有機ゆうき溶媒ようばいかした油状ゆじょう液体えきたい
パックざい
水稲すいとうよう殺虫さっちゅうざい殺菌さっきんざいつぶざい水溶すいようせいフィルムで包装ほうそうしたもので、水田すいでんあぜからんで使つかう。散布さんぷ不要ふようで、飛散ひさんい。
ジャンボざい
あぜからんで使つかう、錠剤じょうざいまたは水溶すいようせいフィルム包装ほうそうつぶざい水田すいでんよう除草じょそうざい登録とうろくじょう分類ぶんるいざいまたはつぶざい)。
WSBざい
みずざい水溶すいようざい水溶すいようせいフィルムで包装ほうそうしたもので、ふくろごとすいかして使つかう。調製ちょうせいこなちがく、使用しようしゃ安全あんぜんである。
ふくあい肥料ひりょう
有効ゆうこう成分せいぶん肥料ひりょうぜたもの。
ざい
のどのざいがたにもてはまらないもの。

農薬のうやく影響えいきょう危険きけんせい[編集へんしゅう]

農作物のうさくもつ農業のうぎょう従事じゅうじしゃへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

農薬のうやく害虫がいちゅう病原びょうげん雑草ざっそうとう化学かがくてき防除ぼうじょ可能かのうとする反面はんめん殺虫さっちゅうざい除草じょそうざい散布さんぷによる悪影響あくえいきょうやコストをただしく認識にんしきすることは、営農えいのう効率こうりつせいたかめ、総合そうごうてき病害虫びょうがいちゅう管理かんりすすめるうえとく重要じゅうようである。パラコート代表だいひょうされるように、農薬のうやくはヒトにたいして毒性どくせいつため、農業のうぎょう従事じゅうじしゃたいする健康けんこう被害ひがい農作物のうさくもつへの残留ざんりゅう農薬のうやくがしばしば問題もんだいとなってきた。

現在げんざい日本にっぽん流通りゅうつうしている農薬のうやくの90%以上いじょう普通ふつうぶつというカテゴリに分類ぶんるいされ、毒物どくぶつげきぶつ分類ぶんるいされる農薬のうやく年々ねんねんその割合わりあい低下ていかしている。また、2004ねんなかにおける農薬のうやく中毒ちゅうどく事故じこ189けん死亡しぼう94けん中毒ちゅうどく95けん)のうち、156けん他殺たさつ目的もくてきとしたものであり、あやまいんあやましょく農薬のうやく散布さんぷともなうものは33けん(うち死亡しぼう2けん)である。

生態せいたいけいへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

農薬のうやくの3R
殺虫さっちゅうざい散布さんぷすると、ぎゃく害虫がいちゅうえてしまうことがある。その理由りゆうとなる Resistance(レジスタンス:害虫がいちゅう殺虫さっちゅうざい(または雑草ざっそう除草じょそうざい)にたいする薬剤やくざい抵抗ていこうせい獲得かくとく)、Reduction of natural enemies(リダクション・オブ・ナチュラル・エネミース:天敵てんてき減少げんしょう)、Resurgence(リサージェンス:産卵さんらんすう増加ぞうか)の頭文字かしらもじった「3R」という言葉ことばがある。
生態せいたいけいサービス減少げんしょう
殺虫さっちゅうざい殺菌さっきんざい散布さんぷすると生態せいたいけい単調たんちょうし、窒素ちっそ固定こていのう作物さくもつまわりへのリンさん供給きょうきゅうりょう共生きょうせい微生物びせいぶつ生息せいそく密度みつどきゅうたいリンさんきゅうたい窒素ちっそもととなる土壌どじょう動物どうぶつやその遺体いたい排泄はいせつぶつひとしりょう低下ていかして地力じりきおとろえる。また除草じょそうざい散布さんぷすると、炭素たんそ固定こてい能力のうりょく地力じりき低下ていかする。1990年代ねんだいから、世界中せかいじゅうミツバチ大量たいりょうする現象げんしょう相次あいつぎ、これははちぐん崩壊ほうかい症候群しょうこうぐんとよばれ、原因げんいんのひとつにネオニコチノイドげられている。

かく地域ちいき農薬のうやく規制きせい[編集へんしゅう]

OSPAR条約じょうやく[編集へんしゅう]

1998ねん発効はっこうした『北東ほくとう大西おおにしひろし海洋かいよう環境かんきょう保護ほごするための条約じょうやく」』(OSPAR条約じょうやく)の有害ゆうがい物質ぶっしつ対策たいさくにおける候補こうほ物質ぶっしつリストの農薬のうやく項目こうもくには、アルドリン、DDT、ディルドリンエンドリンヘプタクロルヘキサクロロベンゼン(HCB)などがふくまれ汚染おせん防止ぼうし対象たいしょう物質ぶっしつになっている[10]

EU[編集へんしゅう]

欧州おうしゅう連合れんごう(EU)では『植物しょくぶつ防疫ぼうえき用品ようひんかんする指令しれい』(91/414/EEC)と『殺生せっしょうぶつざいかんする指令しれい』(98/8/EEC)が農薬のうやく規制きせいかんする指令しれいとなっている[10]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく[編集へんしゅう]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは家庭かていよう農業のうぎょうよう工業こうぎょうようわず『殺虫さっちゅうざい殺菌さっきんざい殺鼠剤さっそざいほう』(Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act: FIFRA)とうによる規制きせいがある[11]農薬のうやく登録とうろくさいどうほう必要ひつようになるデータには、必須ひっすのものと条件じょうけんきで必要ひつようになるものがあるが物理ぶつり化学かがくてき性質せいしつ残余ざんよぶつ性状せいじょう分解ぶんかいせい移動いどうせい野外やがいでの散逸さんいつせい野生やせい生物せいぶつへの影響えいきょうなどである[10]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく環境かんきょう保護ほごちょう(EPA)は農薬のうやく一般いっぱんよう農薬のうやく(General Use Pesticide)と制限せいげん使用しよう農薬のうやく(Restricted Use Pesticide)に分類ぶんるいしており、制限せいげん使用しよう農薬のうやく認証にんしょう使用しようしゃまたはその直接ちょくせつ監督かんとくでのみ使用しようみとめられる[10]

日本にっぽん[編集へんしゅう]

ほう規制きせい[編集へんしゅう]

農薬のうやく取締とりしまりほうにより、農薬のうやく製造せいぞうしゃまたは輸入ゆにゅうしゃには登録とうろくの、販売はんばいしゃには届出とどけで制度せいどもうけられている。さらに毒物どくぶつおよげきぶつ取締とりしまりほうにより、毒物どくぶつまたはげきぶつ該当がいとうする農薬のうやく場合ばあい別途べっとそれぞれに製造せいぞうぎょう輸入ゆにゅうぎょう農業のうぎょうよう品目ひんもく販売はんばいぎょう登録とうろく帳簿ちょうぼ整備せいびと5年間ねんかん保管ほかんが、購入こうにゅうには印鑑いんかん身分みぶん証明しょうめいしょ必要ひつようとなる。収穫しゅうかくもちいるぼうかびざい、いわゆる「ポストハーベスト農薬のうやく」は、日本にっぽんでは農薬のうやくではなく食品しょくひん添加てんかぶつとしてあつかう。 また、ハエやカといった衛生えいせい害虫がいちゅう駆除くじょする薬剤やくざいは「農薬のうやくおな成分せいぶんふく薬剤やくざい」として薬事やくじほう規制きせい対象たいしょうはいり、農薬のうやくとはなされない[1]

農薬のうやく取締とりしまりほうではつぎのように定義ていぎされている。

  • だい1じょうの2 「農薬のうやく」とは、農作物のうさくもつ樹木じゅもくおよ農林のうりん産物さんぶつふくむ。以下いか農作物のうさくもつとう」という)をがいするそのせんちゅう、だに、昆虫こんちゅう、ねずみその動植物どうしょくぶつまたはウイルス(以下いか病害虫びょうがいちゅう」)の防除ぼうじょもちいられる殺菌さっきんざい殺虫さっちゅうざいその薬剤やくざい[注釈ちゅうしゃく 2] およ農作物のうさくもつとう生理せいり機能きのう増進ぞうしんまた抑制よくせいもちいられる成長せいちょう促進そくしんざい発芽はつが抑制よくせいざいその薬剤やくざいをいう。
  • 2 前項ぜんこう防除ぼうじょのために利用りようされる天敵てんてきは、この法律ほうりつ適用てきようについては、これを農薬のうやくとみなす。

農薬のうやく定義ていぎ使用しよう目的もくてき農作物のうさくもつ保護ほご)によってなされており、合成ごうせいひん天然てんねんぶつかというような物質ぶっしつ起源きげんでなされているわけではない。そのため、害虫がいちゅう天敵てんてきはいわゆる薬品やくひんとはちがうが、便宜上べんぎじょう農薬のうやく取締とりしまりほうではこれらも生物せいぶつ農薬のうやくとして農薬のうやく範疇はんちゅうふくめている。

1999ねん平成へいせい11ねん)に施行しこうされた持続じぞくせいたか農業のうぎょう生産せいさん方式ほうしき促進そくしんかんする法律ほうりつによって総合そうごうてき病害虫びょうがいちゅう管理かんり(IPM)の導入どうにゅうすすめられており、農薬のうやくへの依存いぞん最小限さいしょうげんにするみがおこなわれている[1]2002ねん平成へいせい14ねん)12月に農薬のうやく取締とりしまりほう改正かいせいされ、農薬のうやく違法いほう使用しよう罰則ばっそく強化きょうかされるにともない、農林水産省のうりんすいさんしょう指定していければ、農薬のうやく登録とうろく必要ひつよう試験しけん防除ぼうじょ効果こうか人体じんたいたいする安全あんぜんせい環境かんきょうへの影響えいきょう評価ひょうかとう)を免除めんじょされる特定とくてい農薬のうやく制度せいど新設しんせつされ、重曹じゅうそう食酢しょくず、そして地場じば生息せいそくする天敵てんてき指定していされた。

農薬のうやく種類しゅるい
農薬のうやく種類しゅるい 説明せつめい 使用しよう可能かのう
登録とうろく農薬のうやく 所定しょてい毒性どくせい試験しけん結果けっかなどを提出ていしゅつして農林のうりん水産すいさん大臣だいじん登録とうろくけた農薬のうやく 安全あんぜん使用しよう基準きじゅんしたがって使用しよう可能かのう
特定とくてい農薬のうやく 農薬のうやく登録とうろく必要ひつようないほど安全あんぜんせいあきらかな農薬のうやくとして、農林のうりん水産すいさん大臣だいじん指定していした農薬のうやく 使用しよう可能かのう
特定とくてい農薬のうやく
指定してい保留ほりゅうちゅう
特定とくてい農薬のうやく検討けんとう資材しざいリストにあるが、農薬のうやくとしての効能こうのうあきらかでないもの 農薬のうやく効果こうかうたって販売はんばいすること禁止きんし使用しようしゃ自分じぶん判断はんだん責任せきにん使つかうことは可能かのう[12]
登録とうろく農薬のうやく 登録とうろく農薬のうやくでも特定とくてい農薬のうやくでもない農薬のうやく 販売はんばい禁止きんし使用しよう禁止きんし

2005ねん平成へいせい17ねん)8がつ農業のうぎょう資材しざい審議しんぎかい中央ちゅうおう環境かんきょう審議しんぎかい合同ごうどう特定とくてい農薬のうやく検討けんとうする会合かいごうにおいて特定とくてい農薬のうやく該当がいとうするかどうかの試験しけん検討けんとう結果けっか報告ほうこくされ、コーヒー緑茶りょくちゃ牛乳ぎゅうにゅう焼酎しょうちゅうには農薬のうやくとしては効果こうかがないこと、木酢もくさくえき効果こうかはあるが使用しようしゃたい危険きけん可能かのうせいがあることが報告ほうこくされた[13]

残留ざんりゅう農薬のうやく基準きじゅん[編集へんしゅう]

毒性どくせい残留ざんりゅう試験しけんなどにもとづいてかく農薬のうやく農産物のうさんぶつごとにゆるされる最大さいだい残留ざんりゅう濃度のうど[注釈ちゅうしゃく 3]められ、これをクリアするように農薬のうやく使用しようほうさだめられたうえ登録とうろくされ使用しよう可能かのうになる。残留ざんりゅう農薬のうやく基準きじゅんについては、2006ねん5月より「残留ざんりゅう農薬のうやくとうかんするポジティブリスト制度せいど」がスタートし、残留ざんりゅう農薬のうやくたいする規制きせい従来じゅうらいよりも強化きょうかされた。

食品しょくひんたいする残留ざんりゅう農薬のうやく食品しょくひんおよ農薬のうやくごとにいちにち摂取せっしゅ許容きょようりょう(ADI)を基準きじゅん残留ざんりゅう基準きじゅんさだめられており、基準きじゅんえた農薬のうやく検出けんしゅつされた場合ばあい流通りゅうつう禁止きんしされる。

  • 2000ねんおこなわれた農産物のうさんぶつちゅう残留ざんりゅう農薬のうやく検査けんさ結果けっかによると、そう検査けんさすう467,181けんたいし、農薬のうやく残留ざんりゅう検出けんしゅつされたのは2,826けん(0.6%)、うち基準きじゅんえたりょう検出けんしゅつされたのは74けん(0.03%)。
  • 2001ねん検査けんさ結果けっかではそう検査けんさすう531,765けんたいし、検出けんしゅつすう2,676けん(0.5%)、うち基準きじゅんえる件数けんすう29けん(0.01%)と、ほぼ同様どうよう傾向けいこうである。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ agrochemical、または、agrichemicalと省略しょうりゃくされる。
  2. ^ その薬剤やくざい原料げんりょうまた材料ざいりょうとして使用しようした資材しざい当該とうがい防除ぼうじょもちいられるもののうち政令せいれいさだめるものをふくむ。
  3. ^ 農薬のうやく取締とりしまりほうによる「登録とうろく保留ほりゅう基準きじゅん」や食品しょくひん衛生えいせいほうによる「残留ざんりゅう農薬のうやく基準きじゅん」。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f g 後藤ごとう哲雄てつお上遠野かとおの富士夫ふじお応用おうよう昆虫こんちゅうがく基礎きそ』 <農学のうがく基礎きそシリーズ> 農文協のうぶんきょう 2019ねん ISBN 978-4-540-17121-5 pp.100-101,116-119.
  2. ^ a b 国産こくさん一番いちばん安全あんぜんだ」と妄信もうしんする日本人にっぽんじんだい誤解ごかい 日本にっぽん世界せかいトップレベルの農薬のうやく大国たいこく”. PRESIDENT ONLINE (2020/01/21 9:00). 2024ねん3がつ26にち閲覧えつらん
  3. ^ スリーエム研究けんきゅうかい林業りんぎょう薬剤やくざい知識ちしき』28-30ぺーじ 昭和しょうわ54ねん12月20日刊にっかん
  4. ^ a b c d e f g h Q.「農薬のうやく」が時代じだいは、どのよう防除ぼうじょしていたのですか。農薬のうやく工業こうぎょうかい(2017ねん5がつ16にち閲覧えつらん
  5. ^ 植村うえむら振作しんさくら『農薬のうやく毒性どくせい事典じてん』(三省堂さんせいどう)の「サリン」のこう
  6. ^ 国内こくない最古さいこ農薬のうやく使用しよう 島根しまね. 中国ちゅうごく新聞しんぶん. (2013ねん1がつ26にち). オリジナルの2013ねん2がつ9にち時点じてんにおけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130209034515/http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201301260039.html 2013ねん1がつ26にち閲覧えつらん 
  7. ^ 残留ざんりゅう農薬のうやくから食卓しょくたくまもよん食品しょくひん許容きょようりょう朝日新聞あさひしんぶん』1968ねん昭和しょうわ48ねん)3がつ21にち夕刊ゆうかん 3はん 11めん
  8. ^ 農薬のうやくさい評価ひょうか制度せいどはじまる 価格かかく上昇じょうしょう登録とうろく変更へんこうも」『日本農業新聞にほんのうぎょうしんぶん』2021ねん10がつ4にち3めん
  9. ^ 農薬のうやく基礎きそ知識ちしき 詳細しょうさい 農林水産省のうりんすいさんしょう(2017ねん5がつ16にち閲覧えつらん
  10. ^ a b c d しょ外国がいこく国際こくさい機関きかんとうにおけるPBT基準きじゅんかんがかた (PDF) 環境省かんきょうしょう(2021ねん1がつ27にち閲覧えつらん
  11. ^ 殺虫さっちゅうざい現地げんち輸入ゆにゅう規則きそくおよび留意りゅういてん米国べいこく輸出ゆしゅつ 日本にっぽん貿易ぼうえき振興しんこう機構きこう(2017ねん5がつ16にち閲覧えつらん
  12. ^ 農林水産省のうりんすいさんしょう特定とくてい農薬のうやくとは?」
  13. ^ 農林水産省のうりんすいさんしょう農業のうぎょう資材しざい審議しんぎかい農薬のうやく分科ぶんかかい特定とくてい農薬のうやくしょう委員いいんかいおよ中央ちゅうおう環境かんきょう審議しんぎかい土壌どじょう農薬のうやく部会ぶかい農薬のうやくしょう委員いいんかいだい6かい合同ごうどう会合かいごう」(2005ねん8がつ31にち

参考さんこうぶん資料しりょう[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

農薬のうやくおよびその成分せいぶん名称めいしょう[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]