F-11 (戦闘せんとう)

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F11F / F-11 タイガー

飛行するF11F-1 138620号機 (1956年撮影)

飛行ひこうするF11F-1 138620号機ごうき (1956ねん撮影さつえい)

F-11 タイガーGrumman F-11 Tiger )はグラマンしゃ開発かいはつし、アメリカ海軍かいぐん1950年代ねんだい後半こうはん運用うんようされた艦上かんじょう戦闘せんとう

愛称あいしょうの「タイガー (Tiger)」はとら1962ねん軍用ぐんよう呼称こしょう陸海空りくかいくうぐん統一とういつされるまえ機種きしゅ記号きごうF11Fであった。

概要がいよう[編集へんしゅう]

F9F-6 クーガーは、後退こうたいつばさ採用さいようによってF9Fパンサーより速度そくど性能せいのう向上こうじょうさせた優秀ゆうしゅう戦闘せんとうであったが、当時とうじ航空機こうくうき速度そくど性能せいのう年々ねんねん向上こうじょうしており、ちょう音速おんそく早晩そうばん実用じつようするものとおもわれた。そのため、1952ねん4がつにF9F-8として本格ほんかくてきちょう音速おんそく戦闘せんとうがアメリカ海軍かいぐんより発注はっちゅうされた。なお、1952ねん6がつにはチャンスボートF8U契約けいやくおこなわれていることから、F8U開発かいはつ保険ほけんてき意味合いみあいもおおきかった。機体きたいがF9Fとはまったことなるが、F9F-8の名称めいしょう開発かいはつ開始かいしされたのは、予算よさん対策たいさく目的もくてき既存きそん改修かいしゅうかたちをとったためである。なお、開発かいはつ途中とちゅうでF9F-9に名称めいしょう変更へんこうされている。F9F-9は1954ねん7がつはつ飛行ひこうし、1955ねん4がつにF11F-1の名称めいしょうあたえられた。

チャンスボートF8U、マクダネルF4H海軍かいぐん主力しゅりょくあらそったが、元々もともと軽量けいりょう戦闘せんとうであったはずが、開発かいはつ過程かてい改良かいりょうかさねるうちに重量じゅうりょう増加ぞうかしてしまい、それと非力ひりきなエンジン(ライトJ65-W-18 推力すいりょく 3,380kg)のわせは、速度そくど(1,210km/h)・加速かそく上昇じょうしょう性能せいのうにおいておとっていた。くわえて全天候ぜんてんこう性能せいのう用途ようと性能せいのうにもけていた。当時とうじのアメリカ海軍かいぐんはジェット戦闘せんとうじゅん戦闘せんとうとして、レシプロ戦闘せんとう戦闘せんとう爆撃ばくげきとして運用うんようしてきたが、さすがに50年代ねんだいなかばをぎた当時とうじはレシプロ戦闘せんとう性能せいのう限界げんかいたっしており、ジェット戦闘せんとう戦闘せんとう爆撃ばくげきとしても使用しようできる汎用はんようせいもとめられるようになった。対抗たいこうであったF8Uはある程度ていど汎用はんようせいそなえており、かつ全天候ぜんてんこうにも対応たいおう可能かのう(しかも全天候ぜんてんこうによるノーズコーンの大型おおがたがかえって性能せいのう向上こうじょう寄与きよした)であった[1]。そのためF-11の生産せいさんすうは196まった。

ブルーエンジェルス(F11F-1)

実戦じっせん部隊ぶたいへの配備はいび1957ねんから1961ねんまでとみじかい。ただし、はなれかん性能せいのう操縦そうじゅうせい運動うんどうせいにおいては非常ひじょうすぐれていたので、アメリカ海軍かいぐん曲技きょくぎ飛行ひこうたいブルーエンジェルス」の使用しようになった。初期しょき生産せいさんがた機首きしゅ部分ぶぶん延長えんちょうした後期こうき生産せいさんがたがある。

F11F-1は1962ねんのアメリカ三軍さんぐん軍用ぐんよう呼称こしょう統一とういつともなってF-11Aと改称かいしょうされた。

性能せいのう向上こうじょうがた[編集へんしゅう]

F11F-1Fスーパータイガー

前述ぜんじゅつとおり、F11Fは機体きたい重量じゅうりょうくらべてエンジンが非力ひりきだったのが弱点じゃくてんであった。これを改良かいりょうし、エンジンをより強力きょうりょくGE J79推力すいりょく 4355kg)にえた性能せいのう向上こうじょうがたF11F-1F スーパータイガー(Super Tiger)が開発かいはつされた。最高さいこう速度そくど 2,253km/hを記録きろく、さらには23,449mの世界せかい高度こうど記録きろく樹立じゅりつしたが、反面はんめんエンジンの大型おおがたにより燃料ねんりょう消費しょうひ増大ぞうだいしたことで航続こうぞく距離きょり減少げんしょうし、さらにつばさめん荷重におもたかくなったことから離着陸りちゃくりく性能せいのう悪化あっかし、海軍かいぐん興味きょうみをひかず採用さいようにはいたらなかった。F11F-1Fは試作しさく2生産せいさんにとどまった。F11F-1Fは1962ねんにF-11Bと改称かいしょうされた。

そこでグラマンは、NATOや、F-86後継こうけい戦闘せんとうだい1F-X)を選定せんていしていた日本にっぽん航空こうくう自衛隊じえいたいに、販売はんばい代理だいりてん日商岩井にっしょういわいとともに売込うりこみをはかった。日本にっぽんけの機体きたいはグラマンの社内しゃないめいでG.98J-11とばれ、F11F-1Fの2号機ごうき改造かいぞうしたデモンストレーター(G-98そのものではない)が製作せいさくされ、その操縦そうじゅうせい安全あんぜんせいをセールスポイントとして、日本にっぽんでは採用さいよう一旦いったん内定ないていした。しかし、G-98の内定ないていたいして「汚職おしょくうたがいがある」また「設計せっけいだけの幽霊ゆうれい戦闘せんとう」(実機じっきがまだ製作せいさくされていなかった)との批判ひはんこり、関係かんけいしゃからの事情じじょう聴取ちょうしゅ証人しょうにん喚問かんもんにまで発展はってん一旦いったん白紙はくしした(だい1FX問題もんだい)。

前述ぜんじゅつとおりF11F-1Fスーパータイガーはエンジンのかわそうによりさまざまな問題もんだいしょうじたが、グラマンはこれを改良かいりょうして自衛隊じえいたい要求ようきゅうわせるとしていた。しかしその場合ばあい開発かいはつ資金しきん当然とうぜん日本一にっぽんいちこく負担ふたんしなければならず、対立たいりつ候補こうほであったロッキードF-104くらべると、生産せいさん運用うんよう困難こんなんとなることがすでに1957ねん調査ちょうさだん報告ほうこくしょでも指摘してきされていた。

源田げんた航空こうくう幕僚ばくりょうちょう団長だんちょうとする官民かんみん合同ごうどう調査ちょうさだんふたた訪米ほうべいし、2ヵ月かげつはんにわたる調査ちょうさ結果けっか提出ていしゅつされた報告ほうこくしょもとづくさい選定せんてい結果けっか結局けっきょくF-104が採用さいようされた。グラマンはこれにより230という大口おおぐち需要じゅよううしなうこととなった。

事故じこ[編集へんしゅう]

タイガーはジェット機じぇっときとしてはじめて撃墜げきついしたことでられている[2]開発かいはつちゅう1956ねん9月21にち、テストパイロットであったトム・アトリッジは、なる降下こうかちゅうに20mmほう試射ししゃ、2かいのバースト射撃しゃげき実施じっしした。砲弾ほうだん弾道だんどう減衰げんすいしたことにより、降下こうかつづけた機体きたい最終さいしゅうてき交差こうさし、タイガーは操縦そうじゅう不能ふのうとなり、アトリッジは機体きたい不時着ふじちゃくさせた。かれ一命いちめいめた[3][4]

仕様しよう (F11F-1/F-11A)[編集へんしゅう]

機体きたいめい F11F-1[5]
乗員じょういん 1めい
ミッション General Purpose Fighter (1) General Purpose Fighter (2) General Purpose Fighter (3)
全長ぜんちょう 44ft 10.75in (13.68m)
全幅ぜんぷく 31ft 8in (9.65m)
ぜんこう 13ft 2.75in (4.03m)
つばさ面積めんせき 250ft² (23.23m²)
空虚くうきょ重量じゅうりょう 13,307lbs (6,036kg)
離陸りりく重量じゅうりょう 21,035lbs (9,541kg) 23,899lbs (10,840kg) 21,915lbs (9,940kg)
戦闘せんとう重量じゅうりょう 18,375lbs (8,335kg) 20,195lbs (9,160kg) 19,255lbs (8,734kg)
搭載とうさい燃料ねんりょう[6] 離陸りりく重量じゅうりょう:1,023gal (3,872ℓ)
戦闘せんとう重量じゅうりょう:614gal (2,324ℓ)
離陸りりく重量じゅうりょう:1,323gal (5,008ℓ)
戦闘せんとう重量じゅうりょう:794gal (3,005ℓ)
離陸りりく重量じゅうりょう:1,023gal (3,872ℓ)
戦闘せんとう重量じゅうりょう:614gal (2,324ℓ)
携行けいこう装備そうび サイドワインダー×2 サイドワインダー×4
エンジン Wright J65-W-18 (推力すいりょく:28.78kN ⇒ 46.71kN) [7] ×1
最高さいこう速度そくど[8] 654kn/S.L. (1,211km/h 海面かいめん高度こうど) 641kn/S.L. (1,187km/h 海面かいめん高度こうど) 630kn/S.L. (1,167km/h 海面かいめん高度こうど)
上昇じょうしょう能力のうりょく[9] 16,300ft/m S.L. (82.8m/s 海面かいめん高度こうど) 11,200ft/m S.L. (56.9m/s 海面かいめん高度こうど) 10,800ft/m S.L. (54.86m/s 海面かいめん高度こうど)
実用じつよう上昇じょうしょう限度げんど 49,000ft (14,935m) 47,300ft (14,417m) 47,500ft (14,478m)
航続こうぞく距離きょり 1,108n.mile (2,052km) 1,146n.mile (2,122km) 784n.mile (1,452km)
戦闘せんとう行動こうどう半径はんけい 310n.mile (574km) 420n.mile (778km) 250n.mile (463km)
固定こてい武装ぶそう Mk.12 20mm機関きかんほう×4 (たますうけい500はつ)

かくかた[編集へんしゅう]

F9F-9
開発かいはつ名称めいしょう。F9F-8より変更へんこう
F11F-1
量産りょうさんがた。1962ねん以降いこう、F-11Aに改称かいしょう。200製造せいぞう
F11F-P
写真しゃしん偵察ていさつがた。85製造せいぞう計画けいかくもキャンセル。
F11F-1F
エンジンかわそう性能せいのう向上こうじょうがた。1962ねん以降いこう、F-11Bに改称かいしょう。2製造せいぞう

現存げんそんする機体きたい[編集へんしゅう]

型名かためい   番号ばんごう  機体きたい写真しゃしん     所在地しょざいち 所有しょゆうしゃ 公開こうかいじょうきょう 状態じょうたい 備考びこう
F11F-1 138645
43
写真しゃしん アメリカ カリフォルニアしゅう エル・セントロ海軍かいぐん航空こうくう施設しせつ 非公開ひこうかい 静態せいたい展示てんじ 施設しせつ入口いりくちはいってすぐの三角形さんかっけい敷地しきちに、3機種きしゅとともに展示てんじされている。航空こうくうさいなどで施設しせつ公開こうかいされたときにはちかくでられる。
F11F-1
F-11A
141735
52
アメリカ カリフォルニアしゅう ヤンクス航空こうくう博物館はくぶつかん[1] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [2]
F11F-1
F-11A
141760
77
アメリカ テネシーしゅう ミリントン=メンフィス空港くうこう 公開こうかい 保管ほかんちゅう 2017ねんまで、45年間ねんかんミリントンをとおるネイヴィーロード沿いの支柱しちゅう展示てんじされていたため、現在げんざい塗装とそう復元ふくげんされている。写真しゃしん展示てんじのもの。
F11F-1
F-11A
141783
100
アメリカ オハイオしゅう MAPS航空こうくう博物館はくぶつかん[3] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [4]
F11F-1
F-11A
141790
107
アメリカ インディアナしゅう グリソム航空こうくう博物館はくぶつかん[5] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [6]
F11F-1
F-11A
141802
119
アメリカ ノースカロライナしゅう ロウソンうら公園こうえん(Lawson Cleek Park) 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ
F11F-1
F-11A
141811
128
アメリカ カンザスしゅう 空中くうちゅうせん航空こうくう博物館はくぶつかん[7] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [8]
F11F-1
F-11A
141824
141
アメリカ アリゾナしゅう ピマ航空こうくう宇宙うちゅう博物館はくぶつかん[9] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [10]
F11F-1
F-11A
141828
145
アメリカ フロリダしゅう 国立こくりつ海軍かいぐん航空こうくう博物館はくぶつかん[11] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [12]
F11F-1
F-11A
141832
149
アメリカ ニューヨークしゅう 航空こうくう発祥はっしょう博物館はくぶつかん[13] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [14]
F11F-1
F-11A
141851
168
アメリカ ニュージャージーしゅう マクガイア=ディクス=レイクハースト統合とうごう基地きち 非公開ひこうかい 保管ほかんちゅう かつては基地きちまえ展示てんじされていた。いまはF/A-18とえられている。
F11F-1
F-11A
141853
170
写真しゃしん アメリカ コロラドしゅう プエブロ・ワイスブロッド航空機こうくうき博物館はくぶつかん[15] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [16]
F11F-1
F-11A
141859
176
写真しゃしん アメリカ オクラホマしゅう 退役たいえき軍人ぐんじん記念きねん公園こうえん
(Veteran's Memorial Park)
公開こうかい 静態せいたい展示てんじ
F11F-1
F-11A
141864
181
写真しゃしん アメリカ ヴァージニアしゅう オウシアナ海軍かいぐん航空こうくう基地きち航空公園こうくうこうえん[17] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ
F11F-1
F-11A
141868
185
アメリカ アリゾナしゅう プレインズ・オヴ・フェイム航空こうくう博物館はくぶつかん別館べっかん[18] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [19]
F11F-1
F-11A
141869
186
アメリカ テネシーしゅう ディスカバリー・パーク・オヴ・アメリカ[20] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ
F11F-1
F-11A
141872
189
アメリカ ミシガンしゅう エア・ズー航空こうくう宇宙うちゅう科学かがく博物館はくぶつかん[21] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [22]
F11F-1
F-11A
141882
199
アメリカ フロリダしゅう ヴァリアント航空こうくう軍団ぐんだん株式会社かぶしきがいしゃウォーバード博物館はくぶつかん[23] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [24]
F11F-1
F-11A
141884
201
アメリカ ニューヨークしゅう イントレピッド海上かいじょう航空こうくう宇宙うちゅう博物館はくぶつかん[25] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ PDF
F11F-1F
F-11B
138647
45
写真しゃしん アメリカ カリフォルニアしゅう 海軍かいぐんへいそう技術ぎじゅつ博物館はくぶつかん[26] 公開こうかい 静態せいたい展示てんじ [27]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ レシプロ時代じだいにおいても、グラマンしゃF8F汎用はんようせいまずしさから短命たんめいわり,一方いっぽうでチャンスボートしゃF4Uはその汎用はんようせいたかさから1950年代ねんだいまで生産せいさんつづき、しくも両社りょうしゃ戦闘せんとうおなどう辿たどっている。
  2. ^ Spick Air International June 1991, p. 318.
  3. ^ "A Tiger Bites Its Tail." Aerofiles. Retrieved: 1 April 2007.
  4. ^ "Unlucky First – The Shootdown of Tiger #620." Check-Six.com. Retrieved: 1 April 2007.
  5. ^ F11F-1 Tiger Specifications STANDARD AIRCRAFT CHARACTERISTICS
  6. ^ 搭載とうさい可能かのう燃料ねんりょう機体きたいない燃料ねんりょうタンクに1,023gal (3,872ℓ)、落下らっかぞうそうタンクを150gal (568ℓ)×2の合計ごうけい1,323gal (5,008ℓ)
  7. ^ NORMAL:28.78kN、MILITARY:33.14kN、MAXIMUM:46.71kN
  8. ^ Max speed/altitude (TAKE-OFF LOADING CONDITION)
    General Purpose Fighter(1):588kn/18,000ft (1,089km/h 高度こうど5,486m)
    General Purpose Fighter(2):542kn/26,000ft (1,004km/h 高度こうど7,925m)
    General Purpose Fighter(3):551kn/25,000ft (1,020km/h 高度こうど7,620m)
  9. ^ Rate of climb at S.L. + Time:S.L. to 20,000ft & 30,000ft (TAKE-OFF LOADING CONDITION)
    General Purpose Fighter(1):5,130ft/m S.L. (26.06m/s 海面かいめん高度こうど)、20,000ft (6,096m)まで4ふん42びょう、30,000ft (9,144m)まで8ふん6びょう
    General Purpose Fighter(2):3,700ft/m S.L. (18.8m/s 海面かいめん高度こうど)、20,000ft (6,096m)まで7ふん12びょう、30,000ft (9,144m)まで13ふん42びょう
    General Purpose Fighter(3):4,050ft/m S.L. (20.57m/s 海面かいめん高度こうど)、20,000ft (6,096m)まで6ふん、30,000ft (9,144m)まで11ふん

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 世界せかい傑作けっさく No.8 グラマンF11Fタイガー』(ぶん林堂はやしどう、1988ねんISBN 4-89319-006-7