ニヒリズム

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ニヒリズムあるいは虚無きょむ主義しゅぎ（きょむしゅぎ、英えい: Nihilism、独どく: Nihilismus）とは、今いま生いきている世界せかい、特とくに過去かこおよび現在げんざいにおける人間にんげんの存在そんざいには意義いぎ、目的もくてき、理解りかいできるような真理しんり、本質ほんしつ的てきな価値かちなどがないと主張しゅちょうする哲学てつがく的てきな立場たちばである。名称めいしょうはラテン語らてんご: nihil（無む）に由来ゆらいする。

概要がいよう[編集へんしゅう]

ニヒリズムという語かたりは、1733年ねんにドイツ人じんフリードリヒ・レブレヒト・ゲッツが De nonismo et nihilismo in theologia caeterisque eruditionis partibus obviot というラテン語らてんごの書しょで、ラテン語らてんごで用もちいている。連続れんぞく論ろんに対置たいちされた原子げんし論ろんの意味いみだった。フリードリヒ・ニーチェは、今いままで最高さいこうの価値かちと人々ひとびとがみなし、目的もくてきとしていたものが無む価値かちとなる事態じたいのことをニヒリズムと呼よんだ[1]。

ニーチェによれば、ニヒリズムにおいて私わたしたちが取とりうる態度たいどは大おおきく分わけて3つある。

  1. 従来じゅうらいの最高さいこうの価値かちを信しんじる精神せいしん力りょくを失うしなったために、そうした価値かちが無意味むいみに感かんじられるということ[1]。何なにも信しんじられない事態じたいに絶望ぜつぼうし、疲つかれきったため、その時々ときどきの状況じょうきょうに身みを任まかせ、流ながれるように生いきるという態度たいど（弱よわさのニヒリズム、消極しょうきょく的てき・受動じゅどう的てきニヒリズム）。
  2. 精神せいしん力りょくが高揚こうようし、従来じゅうらいの価値かちを乗のり越こえてゆくがために、従来じゅうらいの価値かちが無意味むいみに感かんじられるということ[1]。すべてが無む価値かち・偽いつわり・仮象かしょうということを前向まえむきに考かんがえる生いき方かた。つまり、自みずから積極せっきょく的てきに「仮象かしょう」を生うみ出だし、新あたらしい価値かちを能動のうどう的てきに創造そうぞうしていく生いき方かた（強つよさのニヒリズム、積極せっきょく的てき・能動のうどう的てきニヒリズム）。
  3. 絶望ぜつぼうすること・能動のうどう的てきになることにもやはり価値かちはないと考かんがえ、弱よわさのニヒリズム・強つよさのニヒリズムを否定ひていする。自分じぶんでは何なにも考かんがえずに、しかし他者たしゃからの干渉かんしょうも価値かちがないものだと無視むしして生いきるという、一種いっしゅの『悟さとり』のような態度たいど（中心ちゅうしん・無む関心かんしん的てきニヒリズム）。

ニーチェは積極せっきょく的てきニヒリズムを肯定こうていし、永劫えいごう回帰かいきの思想しそうの下した、自みずからを創造そうぞう的てきに展開てんかいしていく、鷲わしの勇気ゆうきと蛇へびの知恵ちえを備そなえた「超人ちょうじん」としての道みちを切きり拓ひらくことをすすめた。

ハイデッガーによれば、ニヒリズムの温床おんしょうは、現実げんじつや現世げんせいからの超越ちょうえつを主張しゅちょうする形而上学けいじじょうがく的てき立場たちばだとされる。したがって「ニヒリズムの超克ちょうこく」という視点してんは、キリスト教きょうサイドから、それ自身じしんがニヒリズムだとされた。そのため、キリスト教きょうニヒリズムの克服こくふくを主張しゅちょうしたニーチェは「ヨーロッパで最初さいしょの完全かんぜんなニヒリスト」とも見みなされる。「ニーチェの最もっとも過激かげきな門人もんじん」と評ひょうされるエルンスト・ユンガーは、現代げんだい世界せかいは、ニヒリズムの境界きょうかいを通過つうかしたと言いい、ハイデッガーとニヒリズム論ろんを交換こうかんしている。

コロラド州立しゅうりつ大学だいがくの哲学てつがく者しゃドナルド・A・クロスビー（英語えいご版ばん）は、ニヒリズムを5つの類型るいけいに分類ぶんるいしている[2]。

  1. 政治せいじ的てきニヒリズム - 自由じゆうを束縛そくばくする、あらゆる権力けんりょくに暴力ぼうりょくで反抗はんこうするニヒリズム
  2. 道徳どうとく的てきニヒリズム - 自己じこと他者たしゃの関係かんけいを規定きていし、社会しゃかい秩序ちつじょの基礎きそとする行動こうどう規範きはんとしての道徳どうとくを否定ひていするニヒリズム
  3. 認識にんしき論ろん的てきニヒリズム - 理性りせいの認識にんしき能力のうりょくはごく限定げんてい的てきであり、真理しんりや現実げんじつは一定いっていの立場たちばや色眼鏡いろめがね抜ぬきに掴つかむ事ことは不可能ふかのうであるという主張しゅちょう
  4. 宇宙うちゅう論ろん的てきニヒリズム - 宇宙うちゅうに意味いみは無なく、人間にんげんに宇宙うちゅうの本質ほんしつを掴つかむ術じゅつはなし。人間にんげんが見みいだした宇宙うちゅうの価値かちと無関係むかんけいに宇宙うちゅうは存在そんざいするという主張しゅちょう
  5. 実存じつぞん的てきニヒリズム - 人間にんげん存在そんざいは無意味むいみであり不条理ふじょうりである。例たとえ何なにかの意味いみを見付みつけたとしても、最終さいしゅう的てきには死しというもの自体じたいは避さけられないという考かんがえ方かた

実存じつぞん的てきニヒリズムは上記じょうきのように、20世紀せいきに入はいり哲学てつがくや文学ぶんがくで追求ついきゅうされた現代げんだい的てきなニヒリズムである。ニーチェは2から5までのニヒリズムを網羅もうら的てきに追求ついきゅうしている。政治せいじ的てきニヒリズムは19世紀せいきのアナーキストが盛さかんに主張しゅちょうした論ろんで、当時とうじ政治せいじ的てきニヒリズムを信奉しんぽうする過激かげきなニヒリストは今日きょうのテロリストと同おなじく社会しゃかい問題もんだいとなり、オスカー・ワイルドの戯曲ぎきょく『ヴェラ、あるいはニヒリスト』やジョゼフ・コンラッドの『密偵みってい』など、文学ぶんがくのテーマともなった[2]。

代表だいひょう的てきな人物じんぶつ[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c 小坂こさか国こく継ままし,岡部おかべ英男ひでお 編著へんちょ『倫理りんり学がく概説がいせつ』ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう、2005年ねん、209頁ぺーじ。 
  2. ^ a b 田尻たじり芳樹よしき、海老根えびね宏ひろし・高橋たかはし和久かずひさ（編へん）「『ドリアン・グレイの画像がぞう』におけるニヒリズム」『一いち九きゅう世紀せいき「英国えいこく」小説しょうせつの展開てんかい』 松柏しょうはく社しゃ 2014年ねん、ISBN 9784775401910 pp.385-388.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 西部せいぶ邁「80　虚無きょむ」『学問がくもん』講談社こうだんしゃ、2004年ねん、261-263頁ぺーじ。ISBN 4-06-212369-X。 
  • 橋本はしもと智津子ちづこ『ニヒリズムと無む』京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい、2004年ねん。ISBN 4-87698-642-8。 
  • 頼よりゆき藤ふじ和寛かずひろ『人ひとみな骨こつになるならば―虚無きょむから始はじめる人生じんせい論ろん』時事通信社じじつうしんしゃ、2000年ねん。ISBN 9784788700765。 

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