妄想もうそう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
妄想もうそう
概要がいよう
診療しんりょう科か 精神せいしん医学いがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10 F22
ICD-9-CM 297
DiseasesDB 33439
MeSH D003702

医学いがくにおける[注ちゅう 1]妄想もうそう（もうそう、英えい: delusion）とは、その文化ぶんかにおいて共有きょうゆうされない誤あやまった確信かくしんのこと[2]。精神せいしん疾患しっかんなどに多おおく起おこり、根拠こんきょが薄弱はくじゃくまたは皆無かいむであるにもかかわらず、確信かくしんが異常いじょうに強固きょうこであるということ、内容ないようが非ひ現実げんじつ的てきであるということ、経験けいけん、検証けんしょう、説得せっとくなどによる訂正ていせいが困難こんなんであるということが特徴とくちょうとされている[3]。

妄想もうそうの内容ないようや程度ていどは個人こじん差さが大おおきく、軽度けいどで生活せいかつに支障ししょうをほとんど来きたさないものから、重大じゅうだいな支障ししょうを来きたすようなものまで様々さまざまである。当人とうにんがその考かんがえが妄想もうそうであると認識にんしきできない（病やまい識がない）場合ばあいが多おおいが、漠然ばくぜんと非合理ひごうり性せいに気きづいている場合ばあい（いわゆる「病やまい感かん」がある状態じょうたい）もある。また、妄想もうそう世界せかいと現実げんじつ世界せかいが心しんの中なかで並立へいりつしてその双方そうほうを行いき来きする「二に重じゅう見当けんとう識」[4]という状態じょうたいもある。

本ほん項こうでは、仏教ぶっきょう用語ようごとしてのものと、慣用かんよう語ごとしての妄想もうそうについても記述きじゅつする。

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

「一いち次じ妄想もうそう」と「二に次じ妄想もうそう」[編集へんしゅう]

古典こてん的てきには、まったく根拠こんきょを持もたない妄想もうそうを一いち次じ妄想もうそう（『あの人ひとはまだ自分じぶんがxxであることに気きづいてない』、『私わたしはナポレオンの生うまれ変かわりだ』、『近所きんじょの人ひとたちが私わたしを電波でんぱで攻撃こうげきしている』など）、何なにかしらの経験けいけんと関かかわりがある妄想もうそうを二に次じ妄想もうそう（『私わたしの病気びょうきは不治ふじの病やまいなのだ』、『皆みなの不幸ふこうは私わたしのせいなのだ』など）と区別くべつしている[3]。

しかし、一いち次じ妄想もうそうと考かんがえられる妄想もうそうにも本人ほんにんなりの理由りゆうが存在そんざいしている場合ばあいも多おおく、真しんの無意味むいみで根拠こんきょのない妄想もうそうはまれである。了解りょうかい可能かのうか否ひかで一いち次じ妄想もうそうと二に次じ妄想もうそうを区別くべつするという定義ていぎもあるが、例れいとして「私わたしの病気びょうきは不治ふじの病やまいなのだ」という妄想もうそうも、抑そもそもうつ気分きぶんから悲観ひかん的てき妄想もうそうが出現しゅつげんしていれば理解りかい可能かのうであるが、健康けんこうなひとがそのような妄想もうそうをもっていれば了解りょうかい不能ふのうであるため、これらの区別くべつは難むずかしい。偏見へんけんとの区別くべつも難むずかしく、考かんがえの根拠こんきょを聴取ちょうしゅし、ひとつひとつ反証はんしょうしていくことで妄想もうそうと明あきらかになるが、文化ぶんかが異ことなる反証はんしょうであるとその方法ほうほうは有効ゆうこうではなくなる。

さらに一いち次じ妄想もうそうは以下いかの5つに細分さいぶん化かされている。

  1. 妄想もうそう気分きぶん：周囲しゅういがなんとなく意味いみありげで不気味ぶきみと感かんじる。形容けいようができないが、そこから具体ぐたい的てきな判断はんだんが起おこり、妄想もうそうとなる。
  2. 妄想もうそう知覚ちかく：正常せいじょうな知覚ちかくに特別とくべつな意味いみづけがなされる。それが強固きょうこな確信かくしんとなり、訂正ていせいが不可能ふかのうとなる。
  3. 妄想もうそう表ひょう像ぞう：とんでもないイメージを抱いだく。
  4. 妄想もうそう覚さとし性せい：途方とほうもないことを察知さっちするが、実体じったいには何なにも理解りかいできていない。
  5. 妄想もうそう着想ちゃくそう：ある考かんがえや古ふるい記憶きおくが、突然とつぜん思おもいがけない意味いみをもって思おもい出だされ、強固きょうこな確信かくしんに至いたること。

妄想もうそう知覚ちかくなどは、統合とうごう失調しっちょう症しょうでよくみられる現象げんしょうである。二に次じ妄想もうそうはうつ病びょうでよく見みられる現象げんしょうで、心気しんき妄想もうそう、微小びしょう妄想もうそうなどが有名ゆうめいである。「なんとなく胃いが痛いたい、病院びょういんにいって検査けんさしても異常いじょうがなく、心療内科しんりょうないかの受診じゅしんを勧すすめられ、それでうつ病びょうと診断しんだんされる」といったエピソードが心気しんき妄想もうそうには多おおい。

内容ないようによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

スパイからの監視かんし
誇大妄想こだいもうそう

下記かきの大半たいはんが統合とうごう失調しっちょう症しょうによく見みる病状びょうじょうでもある[5]。治療ちりょう法ほうについては「統合とうごう失調しっちょう症しょう#治療ちりょう」を参照さんしょうのこと。

被害ひがい妄想もうそう[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「被害ひがい妄想もうそう」を参照さんしょう

被害ひがい妄想もうそう（ひがい もうそう、英えい: persecutory delusion）は、妄想もうそうの中なかで最もっとも一般いっぱん的てきなタイプであり、他人たにんから悪意あくいをもって害がいされていると信しんじる妄想もうそう[2]。何なんらかの犯罪はんざい的てきな干渉かんしょうを受うけていると信しんじこみ、事業じぎょうや就職しゅうしょくなどにおいて失敗しっぱいしても、他者たしゃからの攻撃こうげきで失敗しっぱいしたと考かんがえたり、「ある人物じんぶつが自分じぶんの行動こうどうを監視かんしし妨害ぼうがいしている」、「脳のう内ないに何なんらかの機器ききを埋うめ込こまれ、意識いしきや行動こうどうを操作そうさされている」などと考かんがえたりする。

DSM-IV-TRにおいては、被害ひがい妄想もうそうは統合とうごう失調しっちょう症しょう患者かんじゃの妄想もうそうに最もっとも多おおく見みられるタイプとされ、本人ほんにんは「苦くるしめられ、追跡ついせきされ、妨害ぼうがいされ、騙だまされ、盗聴とうちょうされ、嘲笑ちょうしょうされている。」と信しんじている[6]。DSM-IV-TRでは、被害ひがい妄想もうそうは妄想もうそう性せい障害しょうがいの主おもな特徴とくちょうとされている[7]。

盗ぬすめ害がい妄想もうそうは自分じぶんの物ものを盗ぬすまれたと思おもい込こむ妄想もうそうで、認知にんち症しょうによく見みられる。

誇大妄想こだいもうそう[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「誇大妄想こだいもうそう」を参照さんしょう

誇大妄想こだいもうそう（こだい もうそう、英えい: grandiose delusion）は、現実げんじつ的てきな状況じょうきょうから逸脱いつだつし、自己じこを過剰かじょう評価ひょうかしたり、現実げんじつ的てきにはありえない地位ちい・財産ざいさん・能力のうりょくがある、自分じぶんのことを歴史れきし上じょうの偉人いじん（またはその生うまれ変かわり）、皇族こうぞく、正義せいぎの味方みかたなどと思おもい込こむことが特徴とくちょうである[8]。躁病そうびょうによく見みられる。自己じこ評価ひょうかと他者たしゃからの評価ひょうかのバランスの悪わるさがある。

誇大妄想こだいもうそうは主おもに妄想もうそう性せい障害しょうがい（英えい: delusional disorder）のサブタイプとなっているが、ほか 統合とうごう失調しっちょう症しょうや、双極そうきょく性せい障害しょうがいの躁エピソードの可能かのう性せいもある[9]。

宗教しゅうきょう妄想もうそう[編集へんしゅう]

「:en:Religious delusion」も参照さんしょう

宗教しゅうきょう妄想もうそう（しゅうきょう もうそう、英えい: religious delusion）は、誇大妄想こだいもうそうの延長えんちょう上じょう、または、ひとつの症状しょうじょうとして考かんがえられている[10]。自分じぶん自身じしんに何なにか超ちょう次元じげん的てきで特別とくべつなパワーがあると信しんじたり、霊界れいかいのような所ところから特別とくべつな預言よげんや啓示けいじを受うけた、またはあらゆる病気びょうきを癒いやす力ちからを授さづけられたなど、内容ないようが極きわめて非ひ日常にちじょう的てきで壮大そうだいなものであり、訂正ていせい不能ふのうな強固きょうこな確信かくしんがあることが特徴とくちょうで、現実げんじつ世界せかいからは考かんがえ得えることのできない壮大そうだいなスケールによって描えがかれる妄想もうそうが大半たいはんであり自分じぶん自身じしんを“神かみ”の化身けしんであると信しんじてしまう症例しょうれいである[10][11][12]。統合とうごう失調しっちょう症しょうのひとつの症状しょうじょうとしても考かんがえられているが[5]、人格じんかく崩壊ほうかいまで至いたるケースは稀まれであるが憑依ひょうい妄想もうそうを共ともに発症はっしょうするケースがある。これが極端きょくたんになると宗教しゅうきょう団体だんたいの教祖きょうそにまでなってしまうケースも見受みうけられる。中ちゅう壮年そうねん層そうに多おおく発症はっしょうするが、青年せいねん期きに発症はっしょうする例れいもある[13]。

注ちゅう察妄想もうそう
「常つねに盗聴とうちょうされている」とか「隠かくしカメラで監視かんしされている」と思おもい込こむ妄想もうそう。
関係かんけい妄想もうそう
周囲しゅういに起おこっている現実げんじつを自みずからに結むすびつけて考かんがえる妄想もうそう。周囲しゅういの行動こうどう・言葉ことばに過敏かびんで自己じこに関係かんけいして捉とらえるが、それに動どうじることも多おおく、妄想もうそうまで発展はってんし現実離げんじつばなれしていく。自分じぶんは人ひとに嫌きらわれ避さけられていると思おもい込こむ忌避きひ妄想もうそうも関係かんけい妄想もうそうの一種いっしゅである。

恋愛れんあい妄想もうそう、被ひ愛あい妄想もうそう

「エロトマニア」とも呼よばれる。特定とくていの相手あいてに恋愛れんあい対象たいしょうとみなされていないのに「自分じぶんは相手あいてに愛あいされている」と思おもい込こむ妄想もうそう性せい障害しょうがい。
罪業ざいごう妄想もうそう
「自分じぶんは非常ひじょうに悪わるい存在そんざい」「罰ばっせられるべきだ」「皆みなに迷惑めいわくをかけている」などと思おもいこむ妄想もうそう。うつ病びょうによく見みる病状びょうじょうの一ひとつでもある。
心気しんき妄想もうそう
自分じぶんの身体しんたいの一部いちぶが病気びょうきにかかっていると思おもいこむ妄想もうそう。実際じっさいに病気びょうきに罹かかっていても、その症状しょうじょうが自分じぶんの思おもっているより非常ひじょうに軽かるい場合ばあいもこの種類しゅるいに分類ぶんるいされる。いわゆる「エイズノイローゼ」や「ガンノイローゼ」も一種いっしゅの心気しんき妄想もうそうである。
貧困ひんこん妄想もうそう
現実げんじつにはそうでないにも関かかわらず、「自分じぶんは非常ひじょうに貧まずしい」「借金しゃっきんを抱かかえてしまった」などと信しんじる妄想もうそう。
その他た
詳細しょうさいは「統合とうごう失調しっちょう症しょう#思考しこう内容ないようの障害しょうがい（妄想もうそう）」を参照さんしょう
好こう訴妄想もうそう、嫉妬しっと妄想もうそう、不死ふし妄想もうそう、カプグラ症候群しょうこうぐん、被ひ毒どく妄想もうそう、血統けっとう妄想もうそうなどがある。嫉妬しっと妄想もうそうは隠かくされる場合ばあいが多おおい。

原因げんいん[編集へんしゅう]

精神せいしん疾患しっかん（統合とうごう失調しっちょう症しょう、妄想もうそう性せい障害しょうがい、双極そうきょく性せい障害しょうがい、うつ病びょう、妄想もうそう性せいパーソナリティ障害しょうがい、統合とうごう失調しっちょう型がたパーソナリティ障害しょうがい、境界きょうかい性せいパーソナリティ障害しょうがい、コタール症候群しょうこうぐんなど）のほか、認知にんち症しょう（アルツハイマー病びょう）、せん妄もう、進行しんこう麻痺まひ（脳のう梅毒ばいどく）、一部いちぶタイプのてんかん、薬物やくぶつ依存いぞん症しょうに伴ともなって生しょうじることもある。しかし、健常けんじょう者しゃにおいても断だん眠ねむりや感覚かんかく遮断しゃだんなど特殊とくしゅな状況じょうきょうに置おかれると一時いちじ的てきに妄想もうそうが生しょうじることもある。

また、原因げんいんとなる基礎きそ疾患しっかんによっても生しょうじる妄想もうそうの種類しゅるいが異ことなる傾向けいこうがあり、統合とうごう失調しっちょう症しょうに多おおいのは被害ひがい妄想もうそう、関係かんけい妄想もうそう、誇大妄想こだいもうそうなどで、うつ病びょうに典型てんけい的てきなのは罪業ざいごう妄想もうそう、心気しんき妄想もうそう、貧困ひんこん妄想もうそうであるとされているが、必かならずしも全ぜん例れいに当あてはまる訳わけではない。

病態びょうたい生理学せいりがく[編集へんしゅう]

生物せいぶつ学がく的てきな解説かいせつ[編集へんしゅう]

統合とうごう失調しっちょう症しょうでは中ちゅう脳のう辺べ縁えん系けいのドパミン神経しんけいの過か活動かつどうが妄想もうそう、幻覚げんかくの発生はっせいに関与かんよしていることが示唆しさされている。うつ病びょうやせん妄もうに伴ともなって生しょうじる妄想もうそうに対たいしてもドパミン遮断しゃだん薬やくである抗こう精神病せいしんびょう薬やくが有効ゆうこうであることなどから、それらの疾患しっかんでもドパミン神経しんけい系けいの過か活動かつどうが関与かんよしていることが推測すいそくされる。

精神せいしん力動りきどう学がく的てきな解説かいせつ[編集へんしゅう]

戦争せんそうや災害さいがいの被災ひさい者しゃや凶悪きょうあく事件じけん等ひとしの被害ひがい者しゃが、一時いちじ的てきに妄想もうそう状態じょうたいに陥おちいることがある。これは、現実げんじつから遊離ゆうりする事ことによって精神せいしん的てきなダメージを回避かいひしているとみなすこともできる。統合とうごう失調しっちょう症しょうなどの疾患しっかんにおいての妄想もうそうですら、過剰かじょうなストレスが精神せいしんを破壊はかいしないようにするため逃にげ場ばであるという見方みかたすらできる（ジョン・シュタイナー（英語えいご版ばん）『こころの退避たいひ』[14]を参照さんしょうのこと）。但ただし安全あんぜん装置そうちという観点かんてんでは妄想もうそうの代かわりに衝動しょうどう性せいが生しょうじることもある（いわゆる、キレる状態じょうたい）。

しかし、安全あんぜん装置そうちであるとは言いえ、病的びょうてきな方法ほうほうであることには間違まちがいなく、治療ちりょうが必要ひつようである。そして、本人ほんにんにとっては安全あんぜん装置そうちであったがゆえに、治療ちりょうの途中とちゅうで激はげしい抵抗ていこうに遭あうことは珍めずらしくない。それなりに安住あんじゅうの地ちであった妄想もうそうの世界せかいから現実げんじつの世界せかいを直視ちょくしすることは苦くるしみを伴ともなうのである。ここでいかに本人ほんにんのペースを尊重そんちょうしつつ、希望きぼうや安心あんしん感かんを与あたえつつ現実げんじつと折おり合あいをつけてもらうかが、精神せいしん科か医いや援助えんじょ者しゃの力量りきりょうが問とわれるところである。

妄想もうそうの弊害へいがい[編集へんしゅう]

統合とうごう失調しっちょう症しょう患者かんじゃの自宅じたく。張はり紙がみに満みちている。

その妄想もうそうに対たいして否定ひてい的てきな現実げんじつを敵視てきししたり、妄想もうそうを認みとめない他人たにんに攻撃こうげき的てきになることがあり、ときには暴力ぼうりょくや犯罪はんざい行為こういに結むすびつくこともある。周囲しゅういから見みれば異常いじょうな行動こうどうをとり、周囲しゅういに疎うとまれ孤立こりつしたり攻撃こうげきされるおそれもある。本来ほんらいは社会しゃかい的てき動物どうぶつである人間にんげんが社会しゃかいから逸脱いつだつすることは、本人ほんにんにも周囲しゅういにとっても非常ひじょうにダメージが大おおきく、妄想もうそうが回復かいふくした後のちの社会しゃかい復帰ふっきにも支障ししょうを残のこすことがある。

また、「自分じぶんは空そらを飛とべる」などの妄想もうそうに支配しはいされて転落てんらくしたり、「頭あたまの中なかに埋うめ込こまれた装置そうちを取とり出だす」ために頭部とうぶを自じ傷きずするなど自みずからを傷きずつける危険きけん性せいもあり、最悪さいあくの場合ばあいは自殺じさつに結むすびつくこともある。

妄想もうそう（仏語ふつご）[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「妄想もうそう (仏語ふつご)」を参照さんしょう

囚とらわれの心しんによって、真実しんじつでないものを真実しんじつであると、誤あやまって意識いしきすること[15][16]。また、そのような迷まよった考かんがえ[15][16]。妄念もうねん[16]。邪念じゃねん[15][16]。古代こだいより用もちいられてきた日本語にほんごであり、古ふるくは「もうぞう」と訓くんじていた[15][16]。

古代こだいにおける用例ようれい

なお、日本語にほんごとしては、仏語ふつご（仏教ぶっきょう用語ようご）の「空想くうそう」と通用つうよう語ごの「空想くうそう」のいずれかが第だい1義ぎで、医学いがく用語ようごの「妄想もうそう」は第だい3義ぎである[1]。

妄想もうそう（通用つうよう語ご）[編集へんしゅう]

日本語にほんごの通用つうよう語ごとしては、あり得えないことを取とり留とめも無なくあれこれと想像そうぞうすること、あるいはまた、淫みだらな考かんがえにふけること、そして、そのような想像そうぞうをも指さして、「妄想もうそう」という[15][16]。つまり、健常けんじょう者しゃかそうでないかの問題もんだいではなく、思考しこう力ちからのある人間にんげんであれば誰だれしもが行おこなう、ネガティブなニュアンスを含ふくむ心しんの動うごきである。よく混同こんどうされているものとして「空想くうそう」があるが、こちらは基本きほん的てきにポジティブなニュアンスがあり、建設けんせつ的てきである、あるいは、たとえ生産せいさん的てきでないとしても後うしろ暗くらさを感かんじない、そのような想像そうぞうを指さしていう。人間にんげんの社会しゃかいは、妄想もうそうと空想くうそうに溢あふれ返かえっているが、基本きほん的てきにではあるが、他人たにんに知しられて消きえ入いりたくなりがちなのは「妄想もうそう」であり、これに対たいして「空想くうそう」は、傾聴けいちょうしてくれる人ひとがいれば披露ひろうしたくなるものである。翻ひるがえせば、とある想像そうぞうを自分じぶんでは「空想くうそう」と思おもって大事だいじにしているのに、他人たにんから「妄想もうそうだ」と断だんじられてしまうなどということはよくある話はなしであり、あるいはまた、「所詮しょせんは妄想もうそうにすぎないから」と自重じちょうしていたのに相手あいてから受うけ入いれられて、実じつは実現じつげんへの道筋みちすじが無ないわけではないという意味いみで未来みらいに繋つながる「空想くうそう」であったなどということも、珍めずらしくはない。取とり留とめの無ない想像そうぞうとしての「妄想もうそう」ばかりしていることは「妄想もうそう癖へき（もうそうへき）」という。

桃山ももやま時代じだい末期まっきに編あまれた『日にち葡辞書しょ』（慶長けいちょう8年ねんから同どう9年ねん〈1603年ねんから1604年ねん〉にかけて刊行かんこう）には、すでに、「取とり留とめの無ない想像そうぞう」の意味いみでの「妄想もうそう」が掲載けいさいされてポルトガル語ごに翻訳ほんやくされている[15]。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 日本語にほんごにおける「妄想もうそう」とは、1. 妄想もうそう（通用つうよう語ご：根拠こんきょなき想像そうぞう）、2. 妄想もうそう（仏語ふつご：妄念もうねん、邪念じゃねん）、3. 妄想もうそう（医学いがく用語ようご）[1]。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b kb.
  2. ^ a b Kaplan, 井上いのうえ et al. (2016), Chapt.7.4.
  3. ^ a b 福島ふくしま貴子たかこ、針はり間あいだ博彦ひろひこ (2014年ねん6月がつ10日とおか). “妄想もうそう”. 脳のう科学かがく辞典じてん. 脳のう科学かがく辞典じてん編集へんしゅう委員いいん会かい. 2019年ねん3月がつ27日にち閲覧えつらん。
  4. ^ 内沼うちぬま (2007), pp. 3–4, (2) 二に重じゅう見当けんとう識と急性きゅうせい期きの妄想もうそう体たい.
  5. ^ a b GSM 2007 [要ようページ番号ばんごう]
  6. ^ Segal (2010), p. 299.
  7. ^ Segal (2010), p. 325.
  8. ^ 碓井うすい真しん史し「妄想もうそうを持もつ人ひととの付つき合あい方かた：困こまっている人々ひとびとを助たすけるために」『Yahoo!ニュース』ヤフー株式会社かぶしきがいしゃ、2017年ねん7月がつ11日にち。2022年ねん9月がつ4日にち閲覧えつらん。
  9. ^ Segal 2010 [要ようページ番号ばんごう]
  10. ^ a b kb-Brit 誇大妄想こだいもうそう.
  11. ^ “神経症しんけいしょう(5)　～こころがもたらすからだの病気びょうき～ ＜ 2005年ねん3月がつ号ごう”. 特定とくてい非ひ営利えいり活動かつどう法人ほうじん日本にっぽん成人病せいじんびょう予防よぼう協会きょうかい (JAPA) (2019年ねん8月がつ29日にち作成さくせい、同年どうねん10月がつ17日にち更新こうしん). 2022年ねん9月がつ4日にち閲覧えつらん。
  12. ^ 丹羽にわ亮平りょうへい（院長いんちょう）[1] (2017年ねん9月がつ12日にち). “幻覚げんかく・妄想もうそうの具体ぐたい例れいおよび統合とうごう失調しっちょう症しょうについて”. 名駅めいえきさこうメンタルクリニック. 2022年ねん9月がつ4日にち閲覧えつらん。 “その他た、以下いかのものなどがあります。（...略りゃく...）宗教しゅうきょう妄想もうそう：「自分じぶんは神かみの生うまれ変かわりだ」”
  13. ^ 高橋たかはし (1986), p. 76.
  14. ^ シュタイナー & 衣笠きぬがさ 1997.
  15. ^ a b c d e f g kb小学しょうがく国こく.
  16. ^ a b c d e f kb泉いずみ.
  17. ^ 今泉いまいずみ (2008), p. 56.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

事こと辞典じてん
  • メガロマニア
書籍しょせき、ムック
論文ろんぶん
妄想もうそう（仏語ふつご）専用せんよう

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

ウィクショナリーに関連かんれんの辞書じしょ項目こうもくがあります。
ウィクショナリーに関連かんれんの辞書じしょ項目こうもくがあります。

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

精神せいしんと行動こうどうの障害しょうがい（ICD-F - 290-319）
 
認知にんち症しょう
その他た
 
統合とうごう失調しっちょう症しょう、統合とうごう失調しっちょう症しょう型がた障害しょうがいおよび妄想もうそう性せい障害しょうがい
 
神経症しんけいしょう - ストレス関連かんれん - 身体しんたい表現ひょうげん性せい障害しょうがい
不安ふあん障害しょうがい
恐怖症きょうふしょう
その他た
適応てきおう障害しょうがい
身体しんたい表現ひょうげん性せい障害しょうがい
解離かいり性せい障害しょうがい
 
生理せいり的てき・身体しんたい的てき
摂食せっしょく障害しょうがい
非ひ器質きしつ性せい睡眠すいみん障害しょうがい
性せい機能きのう障害しょうがい
産後さんご
 
成人せいじんのパーソナリティと行動こうどう
性せいと性せい同一どういつ性せい
その他た
 
小児しょうにの精神せいしん障害しょうがい
精神せいしん遅滞ちたい
精神せいしん発達はったつ（発達はったつ障害しょうがい）
感情かんじょう・行動こうどうの障害しょうがい
カテゴリ Category:精神せいしん障害しょうがい
「https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=妄想もうそう&oldid=99895313」から取得しゅとく