やみおく

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"Heart of Darkness" in Youth:A Narrative, 1902

やみおく』(やみのおく、Heart of Darkness1902ねん出版しゅっぱん)は、イギリスの小説しょうせつジョゼフ・コンラッド代表だいひょうさく西洋せいよう植民しょくみん主義しゅぎくら側面そくめん描写びょうしゃしたこの小説しょうせつは、英国えいこく船員せんいん時代じだいコンゴがわ経験けいけんもとかれ、1899ねん発表はっぴょうされた。ランダム・ハウス、モダン・ライブラリーがえらんだ「英語えいごかれた20世紀せいき小説しょうせつベスト100」に選出せんしゅつされている。やみおくというタイトルはアフリカ奥地おくちやみでもあるが、人間にんげんしんやみ西洋せいよう文明ぶんめいやみをも含意がんいしているとかんがえられる。

この作品さくひん舞台ぶたいであるコンゴがわ一帯いったいにはベルギー国王こくおうレオポルド2せい[1]の「私有地しゆうち」であったコンゴ自由じゆうこくのちベルギーりょうコンゴ)が存在そんざいし、同地どうち住民じゅうみんたいする苛烈かれつ搾取さくしゅ政策せいさくをとったことで欧州おうしゅう各国かっこくから非難ひなんされていた。

あらすじ[編集へんしゅう]

ある夕暮ゆうぐれ船乗ふなのりのチャールズ・マーロウ英語えいごばんが、船上せんじょう仲間なかまたちにわかころ体験たいけんかたはじめる。なお、マーロウはほんさく以外いがいにも複数ふくすうのコンラッド作品さくひん狂言回きょうげんまわとして登場とうじょうする。

マーロウは、各国かっこくまわったのちロンドンもどってぶらぶらしていたが、いまだおとずれたことのないアフリカくことをおもち、親戚しんせき伝手つてベルギー貿易ぼうえき会社かいしゃ入社にゅうしゃした。ちょうど船長せんちょう1人ひとり現地げんちじんころされ、欠員けついんができたためだった。マーロウは、ふね出発しゅっぱつし、30にち以上いじょうかかってアフリカの出張所しゅっちょうしょいた。そこでは、黒人こくじん象牙ぞうげんでると、木綿こわたくずやガラスだまなどと交換こうかんしていた。またマーロウは、くさりにつながれた奴隷どれいた。ここで10日とおかほどあいだに、奥地おくちにいるクルツ(Kurtz)[2]という代理人だいりにんうわさく。クルツは、奥地おくちから大量たいりょう象牙ぞうげおくってくる優秀ゆうしゅう人物じんぶつで、将来しょうらい会社かいしゃ幹部かんぶになるだろうということだった。マーロウは、到着とうちゃくした隊商たいしょうとともに、200マイルさき中央ちゅうおう出張所しゅっちょうしょ目指めざして出発しゅっぱつし、ジャングルや草原そうげん岩山いわやまなどをとおって、15にち目的もくてきいた。

中央ちゅうおう出張所しゅっちょうしょ支配人しはいにんから、上流じょうりゅうにいるクルツが病気びょうきらしいといた。蒸気じょうきせん故障こしょうしており、修理しゅうりまでむなしくおくあいだに、ふたたびクルツのうわさく。クルツは、象牙ぞうげせて奥地おくちから中央ちゅうおう出張所しゅっちょうしょかってきたが、荷物にもつ助手じょしゅまかせ、途中とちゅうから1にんだけふね奥地おくちもどってしまったという。マーロウは、本部ほんぶ指示しじそむいて1人ひとり奥地おくちかう孤独こどく白人はくじん姿すがたかび、興味きょうみいた。

ようやく蒸気じょうきせんなおり、マーロウは支配人しはいにん使用人しようにん4にん(「巡礼じゅんれい」)、現地げんち船員せんいんとともにかわコンゴがわ)を遡行そこうしていった。クルツの居場所いばしょちかづいたとき、突然とつぜんあめのようにそそいできた。じゅう応戦おうせんしていた舵手だしゅのもとへながやりんできて、はらされた舵手だしゅはやがてんだ。

奥地おくち出張所しゅっちょうしょいてみると、25さいのロシアじん青年せいねんがいた。青年せいねんは、クルツの崇拝すうはいしゃだった。青年せいねんから、クルツが現地げんちじんからかみのようにおもわれていたこと、手下てしたれて象牙ぞうげ略奪りゃくだつしていたことなどをききだした。いちぎょうは、病気びょうきのクルツを担架たんかはこし、ふねせた。やがてクルツは、"The horror! The horror!"[3]という言葉ことばのこしていきえた。

影響えいきょう[編集へんしゅう]

T.S.エリオット荒地あれち』の初稿しょこうで、エピグラフに『やみおく』の一節いっせつ "The horror! The horror!" を引用いんようしていたが、エズラ・パウンド助言じょげんにより、べつぶんえた。うつろな人々ひとびと』では "Mistah Kurtz--he dead." の一節いっせつ引用いんようしている。

村上むらかみ春樹はるきの『ひつじをめぐる冒険ぼうけん』『1Q84』などに『やみおく』の影響えいきょう指摘してきされている[4]

映像えいぞう[編集へんしゅう]

オーソン・ウェルズはラジオ・ドラマとして放送ほうそう。また、映画えいがはつ監督かんとくさくとして準備じゅんびしていたが、資金しきん調達ちょうたつできなかった(ウェルズは『市民しみんケーン』をつくってハリウッドでは異端いたんとみなされることになる)。

1979ねん映画えいが監督かんとくフランシス・フォード・コッポラによって「翻案ほんあん」され、『地獄じごく黙示録もくしろく』として映画えいがされた。ただし、舞台ぶたい背景はいけいベトナム戦争せんそう変更へんこうされている。このなかにエリオットの『うつろな人々ひとびと』の引用いんようがある。

1994ねんのテレビドラマ『しん地獄じごく黙示録もくしろく』は原作げんさく沿った映像えいぞうである。監督かんとくニコラス・ローグで、マーロウをティム・ロス、クルツをジョン・マルコヴィッチえんじ、原住民げんじゅうみん女性じょせいやくイマン出演しゅつえんした。

キングコング』の原案げんあんにもおおきく影響えいきょうあたえたとわれており、2005ねんリメイクばんでは登場とうじょう人物じんぶつ一人ひとりほんさく愛読あいどくしている。また、2017ねんの『キングコング:髑髏しゃれこうべとうきょしん』にはコンラッドとマーロウに由来ゆらいした登場とうじょう人物じんぶつてくるほか前述ぜんじゅつした『地獄じごく黙示録もくしろく』の影響えいきょうおおきくけている。

劇画げきが[編集へんしゅう]

滝沢たきざわきよしほうが『HEART OF DARKNESS』のタイトルで劇画げきが、『月刊げっかんモデルグラフィックス』2000ねん9がつごうから2001ねん7がつごうまで連載れんさいされた。舞台ぶたい背景はいけいだい世界せかい大戦たいせん末期まっきビルマ変更へんこうされ、部隊ぶたいごと任務にんむ放棄ほうきしジャングルのおくにこもる日本にっぽんぐん大佐たいさに、関東軍かんとうぐん特務とくむ機関きかんいん刺客しかくとしておくられるという筋書すじがきに脚色きゃくしょくされている[5]

日本語にほんごやく[編集へんしゅう]

ジョゼフ・コンラッド 『やみおく

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ マーク・トウェイン「レオポルドおう独白どくはく かれのコンゴ統治とうちについての自己じこ弁護べんご」(日本語にほんごやく佐藤さとうたかしわけ・1968ねん理論りろんしゃ)が文学ぶんがく作品さくひんとして有名ゆうめい
  2. ^ 英語えいごみでカーツ
  3. ^ 中野なかのやく地獄じごくだ! 地獄じごくだ!」、黒原くろばるやくこわろしい! こわろしい!」
  4. ^ 光文社こうぶんしゃ古典こてん新訳しんやく文庫ぶんこばん解説かいせつ
  5. ^ 滝沢たきざわきよしほう 『フー・ファイター』 だい日本にっぽん絵画かいが〈MGコミックス〉、2004ねん

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]