鼠ねずみ輸送ゆそう

鼠ねずみ輸送ゆそう（ねずみゆそう）とは、太平洋戦争たいへいようせんそう中なかに大日本帝国だいにっぽんていこく海軍かいぐんが行おこなった駆逐くちく艦かんによる輸送ゆそう作戦さくせんの、当時とうじの軍ぐん内部ないぶでの俗称ぞくしょう。

アメリカ軍ぐんに制空権せいくうけんを奪うばわれた後のち、ガダルカナル島とうへの増援ぞうえん部隊ぶたい輸送ゆそう・物資ぶっし補給ほきゅうが低速ていそくの輸送ゆそう船せんで行おこなえなくなったために、高速こうそくの駆逐くちく艦かんを利用りようして行いった輸送ゆそう方法ほうほうを、前線ぜんせん部隊ぶたいが揶揄やゆして名付なづけた。

概要がいよう

背景はいけい

コースト・ウォッチャーズ・オブ・ソロモンズの撮影さつえいによる、鼠ねずみ輸送ゆそう任務にんむで航行こうこう中ちゅうの駆逐くちく艦かん部隊ぶたい。

1942年ねん8月がつ7日にちの連合れんごう国こく軍ぐんのガダルカナル島とう奇襲きしゅう上陸じょうりくを受うけて、日本にっぽん海軍かいぐんは陸軍りくぐんに協力きょうりょくを求もとめ、陸軍りくぐんの一木いちき支隊したいおよび海軍かいぐん陸戦りくせん隊たいが急派きゅうはされることとなった。少すこしでも早期そうきの反撃はんげきのため、一木いちき支隊したいのうち第だい1梯団ていだん（900名めい）と陸戦りくせん隊たいの一部いちぶは駆逐くちく艦かんで高速こうそく輸送ゆそうされることとなった。まず陸戦りくせん隊たい1個いっこ中隊ちゅうたいが、8月がつ16日にちに駆逐くちく艦かん追風おいかぜでガダルカナル島とうへ上陸じょうりく。次ついで一木いちき支隊したい第だい1梯団ていだんも、輸送ゆそう船せんで輸送ゆそうする第だい2梯団ていだん約やく1000名めいと8月がつ16日にちのトラック諸島しょとう出港しゅっこう後ごに分わかれ、8月がつ18日にち夜よるには第だい1梯団ていだんはガダルカナル島とうタイボ岬みさきに上陸じょうりくを完了かんりょうした。これが、鼠ねずみ輸送ゆそうの先駆さきがけとなった。

もっとも連合れんごう艦隊かんたい司令しれい部ぶは、駆逐くちく艦かんは酸素さんそ魚雷ぎょらいと共ともに、来くる米国べいこく太平洋艦隊たいへいようかんたいとの艦隊かんたい決戦けっせんにおける漸減ぜんげん作戦さくせんの重要じゅうような戦力せんりょくとして位置いちづけていたため、当初とうしょは駆逐くちく艦かんによる輸送ゆそうは急場きゅうばしのぎの一時いちじ的てきなものと考かんがえていた。そのため、続つづく増援ぞうえん部隊ぶたいの川口かわぐち支隊したいや青葉あおば支隊したいは、一木いちき支隊したいの第だい2梯団ていだん同様どうように護送ごそう船団せんだんによる方針ほうしんであった。

しかし、一木いちき支隊したい第だい2梯団ていだんの輸送ゆそう船団せんだんは輸送ゆそう船せん1隻せきなどを撃沈げきちんされて退却たいきゃくし、第だい二に次じソロモン海戦かいせんの敗北はいぼくで川口かわぐち支隊したいの船団せんだん輸送ゆそうも中止ちゅうしに追おい込こまれた。一方いっぽう、同どう時期じきの駆逐くちく艦かんによる小規模しょうきぼな補給ほきゅうや地上ちじょう砲撃ほうげきは、一応いちおうの成功せいこうを収おさめていた。こうして、確実かくじつにガダルカナル島とうに兵力へいりょくを送おくり込こむ手段しゅだんとしては、夜間やかんに高速こうそくを利用りようした駆逐くちく艦かん輸送ゆそう以外いがいには頼たよる術じゅつがないことが明あきらかとなり、8月がつ25日にちには海軍かいぐんが川口かわぐち支隊したいの駆逐くちく艦かん輸送ゆそうを提案ていあん。以後いごは鼠ねずみ輸送ゆそうが大々的だいだいてきに行おこなわれることとなった。

「鼠ねずみ輸送ゆそう」部隊ぶたいの編制へんせい

輸送ゆそうを担当たんとうする駆逐くちく艦かんと、護衛ごえいを担当たんとうする駆逐くちく艦かんによって構成こうせいされた。前者ぜんしゃは、物資ぶっし搭載とうさいのために魚雷ぎょらいなどの武装ぶそうを降おろしていた。規模きぼは、輸送ゆそう担当たんとう2隻せきに護衛ごえい担当たんとう1隻せきといった小規模しょうきぼなものから、軽けい巡洋艦じゅんようかんを旗艦きかんとした水雷すいらい戦隊せんたい全体ぜんたいの約やく10隻せきといった大だい規模きぼなものまであった。

命名めいめいの由来ゆらい

当初とうしょ、艦艇かんてい輸送ゆそう・駆逐くちく艦かん逐次ちくじ輸送ゆそうと称しょうされたが、現地げんちの第だい8艦隊かんたいには輸送ゆそう任務にんむは駆逐くちく艦かんの本来ほんらい任務にんむではないとする考かんがえも根強ねづよくあり、夜よるになると盛さかんに動うごき出だす様さまが「鼠ねずみに似にている」ということで鼠ねずみ輸送ゆそうと俗称ぞくしょうされるようになった。また、駆逐くちく艦かん乗務じょうむ員いんは「マル通どおり」と呼よんだ。このように揶揄やゆ的てきな意味合いみあいがあるためか、キスカ島とう撤退てったい作戦さくせんについては、同様どうように駆逐くちく艦かんによって行おこなわれていても鼠ねずみ輸送ゆそうとは呼よばれない。

なお、大だい発動はつどう艇ていなどの小型こがた舟艇しゅうていを利用りようした輸送ゆそう作戦さくせんと潜水せんすい艦かんを利用りようした輸送ゆそう作戦さくせんは、鼠ねずみ輸送ゆそうからの連想れんそうでそれぞれ「蟻あり輸送ゆそう」、「土竜むぐらもち輸送ゆそう」と呼よばれた。

輸送ゆそう効率こうりつ

ガダルカナル島とうへの鼠ねずみ輸送ゆそうのため駆逐くちく艦かんに乗のり込こむ将兵しょうへい。

もともと輸送ゆそう任務にんむを想定そうていしていない駆逐くちく艦かんなので、輸送ゆそう効率こうりつは著いちじるしく低ひくいものだった。貨物かもつ船せんを徴用ちょうようした輸送ゆそう船せんの場合ばあい、輸送ゆそう能力のうりょくは船舶せんぱく1トン当あたり概おおむね1トン程度ていどで、一隻いっせきで数すう千せんトンを輸送ゆそうでき、燃料ねんりょう消費しょうひ量りょうの点てんからも効率こうりつがよかったのに比くらべ、駆逐くちく艦かんの場合ばあいは、大型おおがたの陽炎かげろう型がたでも排水はいすい量りょう約やく2500トンに対たいし輸送ゆそう量りょうは15トン～20トン程度ていど、完全かんぜん武装ぶそうの陸りく兵へいのみならば150名めい程度ていど（当時とうじの編成へんせいで1個いっこ中隊ちゅうたいが120名めいだった）が限界げんかいであった。しかも、輸送ゆそう船せんなら貨物かもつ用ようの大型おおがたクレーン類るいを有ゆうしているので戦車せんしゃや重火器じゅうかきの輸送ゆそうも可能かのうなのに対たいし、駆逐くちく艦かんでは内火艇ないかていを上あげ下おろしする程度ていどの設備せつびしかなく、分解ぶんかいした大砲たいほうを少数しょうすう積つむことが精しらげ一いち杯はいだった。

大発だいはつのような本格ほんかく的てきな上陸じょうりく用よう舟艇しゅうていも積つめないので、折おり畳たたみ舟ぶねと呼よばれた手て漕こぎの小型こがた上陸じょうりく用よう舟艇しゅうていに物資ぶっし兵員へいいんを移うつして、駆逐くちく艦かんの内火艇ないかていで曳航えいこうする方式ほうしきがとられた。その余裕よゆうも無ない場合ばあいには、ドラム缶どらむかん等とうにより防水ぼうすい包装ほうそうされた食料しょくりょうや弾薬だんやくを縄なわでつないで海上かいじょうへ投棄とうきし、現地げんち部隊ぶたいの大発だいはつが回収かいしゅうするという方法ほうほうがとられたが、しばしば回収かいしゅうに失敗しっぱいすることがあった。

さらに、月明げつめい期き（月齢げつれい15を中心ちゅうしんとした前後ぜんご2週間しゅうかん程度ていど）には輸送ゆそうに当あたる駆逐くちく艦かんが発見はっけんされやすくなるため利用りようできず、輸送ゆそう計画けいかくが立たてられないという兵站へいたん計画けいかくにおいては致命ちめい的てきな欠点けってんがあった。

結果けっかと影響えいきょう

ガダルカナル島とうの戦たたかいの間あいだ、船団せんだん輸送ゆそうは第だい2師団しだんと第だい38師団しだん主力しゅりょく (約やく2,000名めい) の2度どにとどまり、水上すいじょう機き母艦ぼかん日進にっしんなどによる艦艇かんてい輸送ゆそうと舟艇しゅうてい輸送ゆそうによる約やく650名めい以外いがいは一貫いっかんして「鼠ねずみ輸送ゆそう」で行おこなわれた。延のべ350隻せき以上いじょうの駆逐くちく艦かんが投入とうにゅうされ、最大さいだいのものは、ガダルカナル島とうからの撤退てったい作戦さくせんであるケ号ごう作戦さくせん（1943年ねん2月がつ1〜7日にち）であった。輸送ゆそうされた人員じんいんは2万まん人にん以上いじょうにのぼる。

往路おうろと復路ふくろはどうしても日にち中ちゅうとなり、連合れんごう軍機ぐんきに発見はっけんされるとそのたびに被害ひがいを出だした。そのため、連合れんごう艦隊かんたいはガダルカナル島とう作戦さくせん期間きかん中ちゅうの約やく半年はんとし間あいだで駆逐くちく艦かん14隻せきを失うしない、延のべ63隻せきに損傷そんしょうを受うけた。これほどまでに損害そんがいが膨ふくらんだ一因いちいんには、缶かん室しつか機械きかい室しつのどちらかに浸水しんすいすると直ただちに行動こうどう不能ふのうとなる艦隊かんたい型がた駆逐くちく艦かんの弱点じゃくてんがあった。

このように多大ただいな損害そんがいを出だしたものの、他たに手段しゅだんがない日本にっぽん軍ぐんにとって鼠ねずみ輸送ゆそうは常套じょうとう戦術せんじゅつとならざるをえず、ソロモン諸島しょとう・ニューギニア方面ほうめんを中心ちゅうしんに、制空権せいくうけんを失うしなった前線ぜんせん拠点きょてんへの部隊ぶたい輸送ゆそうには使用しようが続つづけられた。潜水せんすい艦かんなど、駆逐くちく艦かん以外いがいの戦闘せんとう艦艇かんていの輸送ゆそう任務にんむへの使用しようも拡大かくだいした。

なお戦せん訓くんから、その後ごに建造けんぞうされた松まつ型がた駆逐くちく艦かんでは、上陸じょうりく用よう舟艇しゅうていである小しょう発はつの搭載とうさいが標準ひょうじゅん化かされ、生存せいぞん性せい向上こうじょうのため機関きかん配置はいちの変更へんこうがなされた。また1943年ねん（昭和しょうわ18年ねん）には、輸送ゆそう効率こうりつ問題もんだいの解決かいけつ策さくを盛もり込こんだ、鼠ねずみ輸送ゆそう専用せんよう艦かんというべき二に種しゅの輸送ゆそう艦かんが計画けいかく建造けんぞうされるに至いたった。艦かん尾おにスロープをつけて大発だいはつを発進はっしんできるようにした一等いっとう輸送ゆそう艦かんと、戦車せんしゃ揚陸ようりく艦かんタイプで直接ちょくせつ接岸せつがんできる二に等とう輸送ゆそう艦かんである。

鼠ねずみ輸送ゆそうと戦闘せんとう

鼠ねずみ輸送ゆそうの日本にっぽん駆逐くちく艦かん部隊ぶたいと、これを阻止そししようとした連合れんごう軍ぐん水上すいじょう部隊ぶたいの間あいだで、数次すうじにわたり海戦かいせんが発生はっせいした。夜間やかん活動かつどうを行おこなう鼠ねずみ輸送ゆそうの特性とくせい上じょう、一般いっぱんに夜戦やせんとなった。ルンガ沖おき夜戦やせんのように戦術せんじゅつ的てきには夜戦やせんを得意とくいとした日本にっぽん駆逐くちく艦かん部隊ぶたいがしばしば活躍かつやくした一方いっぽうで、戦略せんりゃく目標もくひょうである輸送ゆそう任務にんむには失敗しっぱいするケースも見みられた。連合れんごう軍ぐん艦艇かんていのレーダー運用うんよう能力のうりょくが向上こうじょうすると、鼠ねずみ輸送ゆそう部隊ぶたいは苦戦くせんを強しいられるようになっていった。

• ルンガ沖おき夜戦やせん - 米べい重じゅう巡じゅん4隻せきを撃げき沈破するが、輸送ゆそう任務にんむは中止ちゅうし。
• ビラ・スタンモーア夜戦やせん - 日本にっぽん駆逐くちく艦かん2隻せきが、レーダー射撃しゃげきにより一方いっぽう的てきに全滅ぜんめつさせられる。
• クラ湾わん夜戦やせん - 日本にっぽん側がわ旗艦きかんが撃沈げきちんされながらも、輸送ゆそう任務にんむには成功せいこう。

その他た、ソロモン海域かいいきでの海戦かいせんの一覧いちらんは、 ソロモン諸島しょとうの戦たたかいを参照さんしょう。

関連かんれん項目こうもく

• 三さん式しき潜航せんこう輸送ゆそう艇てい
• 高速こうそく輸送ゆそう艦かん

外部がいぶリンク

• 鼠ねずみ”輸送ゆそうを命めいじられた精鋭せいえい部隊ぶたい～駆逐くちく艦かん・第だい二に水雷すいらい戦隊せんたい～ - NHK戦争せんそう証言しょうげんアーカイブス