（めろんNo.167記載きさい）

幅広はばひろい事業じぎょうを進すすめる協会きょうかいだが、外国がいこく人じん市民しみんのもっとも切実せつじつ、困難こんなんな悩なやみに取とり組くむという意味いみでも、また、そこから見みえてくる地域ちいき社会しゃかいの課題かだいに協会きょうかいが向むき合あっていくためにも、「外国がいこく人じん市民しみんのための生活せいかつ相談そうだん」はその基礎きそをなす事業じぎょうと言いってよいだろう。前号ぜんごうではその全体ぜんたい像ぞうをお伝つたえしたが、今回こんかいは継続けいぞくした対応たいおうが必要ひつようとなるケース相談そうだんについてお伝つたえする。

生活せいかつ困窮こんきゅうや学校がっこう・教育きょういくなどの相談そうだん
　2020 年度ねんどに協会きょうかいが対応たいおうした相談そうだん件数けんすう 934 件けんのうち、376 件けんは複ふく数すう回かいの継続けいぞくした対応たいおうを要ようした相談そうだんケースだった。相談そうだんの案件あんけんとしては 21 ケースで、１件けんあたりの対応たいおう回数かいすうは平均へいきん 18 回かいとなっている。その内容ないようをカテゴリーでみると、コロナの影響えいきょうでの失業しつぎょうや就職しゅうしょくがなく
なった、収入しゅうにゅうが減へったことによる生活せいかつ困窮こんきゅうを中心ちゅうしんとした相談そうだんが７ケース。進学しんがくについての相談そうだんや学校がっこう生活せいかつでのトラブル、不ふ登校とうこうなど学校がっこう・教育きょういくに関かんする相談そうだんが７ケース。その他た、在留ざいりゅう資格しかくや雇用こよう、家族かぞく関係かんけいなどに関かんする相談そうだんが寄よせられている。

課題かだいを整理せいりし　資源しげんをつなぐ
　こうした相談そうだんへの対応たいおうにあたっては協会きょうかいの相談そうだんチームで、相談そうだん内容ないようと状況じょうきょうの把握はあく、相談そうだん者しゃが持もっている力ちからやつながりの見立みたてて、利用りようできる社会しゃかい資源しげんの検討けんとうなどを行おこない、相談そうだん者しゃに取とりうる選択肢せんたくしを提案ていあんしながら対応たいおうを進すすめる。チームで対応たいおうしているのは、多角たかく的てきに状況じょうきょうを検討けんとうし、また管理かんり職しょくも含ふくめ組織そしき的てきに対応たいおうをするためだ。組織そしきのなかに経験けいけんを蓄積ちくせきするという面めんもある。相談そうだん者しゃの意向いこうを踏ふまえて他た機関きかんとともにこうしたプロセスを踏ふんでいくこともある。仕事しごと探さがしや家探やさがし、福祉ふくし制度せいどの利用りようなど「解決かいけつ」のイメージが相談そうだん者しゃのなかで具体ぐたい的てきになることで、適切てきせつな社会しゃかい的てきリソースにつながり、ひとまずの解決かいけつを迎むかえられる相談そうだんもある。

「解決かいけつ」の見みえない世界せかいを　一緒いっしょに歩あるく
　一方いっぽうで、課題かだいが複雑ふくざつであったり、複数ふくすうの関係かんけい者しゃの間あいだに葛藤かっとうがあるような場合ばあいには、どうなることが「解決かいけつ」なのか、ということそのものが悩なやましい場合ばあいも多おおい。
　例たとえば、子こどもの学校がっこうの不ふ登校とうこうの相談そうだん。そもそも「解決かいけつ」とは何なになのか。保護ほご者しゃの思おもいと子こどもの思おもいは同おなじとは限かぎらない。「学校がっこうにいく」ことが解決かいけつなのか？その子こどもが自分じぶんらしく生いきる、とはどういうことなのか？そもそも、この社会しゃかいにはそれを受うけいれる用意よういがあるのか？子こどものなかにある複雑ふくざつな思おもい。保護ほご者しゃの悩なやみもつきない。日本にっぽんの保護ほご者しゃでもそうだろう。ましてや言葉ことばや文化ぶんかの壁かべ、情報じょうほうの少すくなさのなかで、子こどもも保護ほご者しゃも苦悩くのうする。情報じょうほうは提供ていきょうしたとして、それで「解決かいけつ」するなら世話せわはない。もちろん、課題かだいを整理せいりし、資源しげんをつなげる努力どりょくをするが、相談そうだんの主体しゅたいは子こどもであり、保護ほご者しゃである。相談そうだん員いんも一緒いっしょに悩なやむしかない。しかし、「一緒いっしょに悩なやむ」ことこそが、あるいはそれこそが、必要ひつような支援しえんなのではないか。

　学校がっこうでのいじめの相談そうだんもそうだ。協会きょうかいは相談そうだん者しゃとの話はなし合あいと了解りょうかいの上うえで、必要ひつような場合ばあいは学校がっこうや教育きょういく委員いいん会かいに連絡れんらくする。子こどもや保護ほご者しゃと学校がっこうとの話はなし合あいをサポートする。いじめた側がわが謝あやまって一いち件けん落着らくちゃく、などという単純たんじゅんな話はなしではない。多おおくの場合ばあい、子こどもたちは複雑ふくざつな疎外そがい感かんを抱かかえている。自分じぶんが理解りかいされない、受うけ入いれられない感覚かんかく。そう思おもわされるような小ちいさな傷きずつきの体験たいけん。一見いっけんすると「いじめはみあたらない」という話はなしになることもある。しかし、あるのだ。学校がっこうはどう取とり組くんでよいのか、途方とほうに暮くれることだろう。しかし、私わたしたちにはそう訴うったえる相談そうだん者しゃのその気持きもちが何なによりの原点げんてんだ。それに寄より添そい、じっくり時間じかんをかけて一緒いっしょに世界せかいを歩あるく。

　生活せいかつに困窮こんきゅうして寄よせられる相談そうだん。就労しゅうろう先さきを失うしなうことは収入しゅうにゅうの喪失そうしつを意味いみするが、外国がいこく人じん市民しみんにとってはそれだけではない。会社かいしゃによる偽装ぎそう倒産とうさんや不当ふとう解雇かいこなど本人ほんにんに非ひがない場合ばあいでも、日本にっぽんにいるための在留ざいりゅう資格しかくを失うしなうことにつながる。しかも、持もっている就労しゅうろうビザの種類しゅるいによって職種しょくしゅが厳格げんかくに制限せいげんされるため、どこでも働はたらけるわけではない。人手ひとで不足ふそくの時代じだいでも、仕事しごと探さがしは簡単かんたんではない。
　さらに現在げんざいの日本にっぽんの制度せいどでは、在留ざいりゅう資格しかくによって受うけられる福祉ふくし制度せいどにも制約せいやくがある。例たとえば生活せいかつ保護ほご。「永住えいじゅう、定住ていじゅう等とうの在留ざいりゅう資格しかくを有ゆうする外国がいこく人じんについては、国際こくさい道義どうぎ上じょう、人道じんどう上じょうの観点かんてんから、予算よさん措置そちとして生活せいかつ保護ほご法ほうを準用じゅんようしている」というのが日本にっぽん政府せいふの立場たちばだ。しかし、就労しゅうろうビザの人ひとはその対象たいしょうとはされていない。失業しつぎょうに心身しんしんの不調ふちょうが重かさなっても生活せいかつ保護ほごに頼たよることができない。その心しん的てきストレスは計はかり知しれない。
　こうした相談そうだんにも相談そうだん者しゃと面談めんだんを繰くり返かえし、なんとか道みちを探さがす。答こたえがなくても、ともかく一緒いっしょに歩あるく。

　「今日きょう、寝ねる場所ばしょがない」という相談そうだんも、ときどき寄よせられる。「誰だれでも無料むりょうで泊とまれる場所ばしょ」というものが、この社会しゃかいにはほとんどない。DV を受うけた人ひとや虐待ぎゃくたいを受うける子こどもを保護ほごする公的こうてき施設しせつはいくらかあるが、それでも「今日きょう」となるといろいろな制約せいやくが付つきまとうし、そもそも条件じょうけんを満みたさなければ利用りようできない。ときどきのことなので、協会きょうかいでシェルターを維持いじするということも難むずかしい。しかし、困こまっている相談そうだん者しゃにとってはそんなことはどうでもよいのだ。なにしろ「今日きょう、寝ねる場所ばしょがない」のだから。格安かくやすのネットカフェや簡易かんい宿泊しゅくはく所しょ、通かよっている教会きょうかい、頼たよれる友人ゆうじん、知人ちじんの可能かのう性せいなど…なんとか当面とうめんをしのぐ術じゅつをひねり出だす。その間あいだに公的こうてき施設しせつや福祉ふくし制度せいどの利用りようなど、今後こんごの見通みとおしについて他た機関きかんにも相談そうだんしながら探さぐっていく。

　一緒いっしょに歩あるく、というプロセスを私わたしたちが大切たいせつにしているのは、ある意味いみでは「それしかできない」ということであり、しかし「それはできる」ということでもある。そして孤立こりつしがちな外国がいこく人じん市民しみんへの相談そうだん対応たいおうにおいては「それこそが大切たいせつ」だと思おもうからなのだ。

コミュニティが力ちからをあたえる　コミュニティに力ちからをあたえる
　もう一ひとつ、協会きょうかいの相談そうだん事業じぎょうにとって大切たいせつな一いち面めんがある。それは「ここにコミュニティがある」ということだ。
　相談そうだんの場ばにいるとき、私わたしたちは「相談そうだん員いん」と「相談そうだん者しゃ」として話はなしをする。そこでは、相談そうだん者しゃは「相談そうだんする人ひと」としてふるまい、相談そうだん員いんは「サポートする人ひと」としてふるまう。それ自体じたいは自然しぜんなことだ。しかし、これは人間にんげんを全体ぜんたい性せいのある存在そんざいとして考かんがえたときには、ちょっと不健全ふけんぜんな関係かんけいではある。相談そうだん者しゃはここでは「相談そうだんする人ひと」だけれども、別べつのときには他たの人ひとの相談そうだんにのったり、人ひとに頼たよられたり、人ひとを笑顔えがおにしたり…いろいろな面めんをもった存在そんざいだ。協会きょうかいがコミュニティのなかにあることは、そのいろいろな面めんを発揮はっきしてもらいながら、相談そうだんする、されるとは異ことなる関係かんけいを結むすぶこともできる可能かのう性せいを生うんでいる。

　例たとえば、comm cafeはいろいろな人ひと、いろいろな形かたちの参加さんかによって成なり立たっている。その中心ちゅうしんには外国がいこく人じん市民しみんが提供ていきょうする家庭かてい料理りょうりが
あり、そのまわりに様々さまざまな作業さぎょうがある。お皿さらを洗あらったり、料理りょうりを作つくったり…作業さぎょうをすると、座すわって話はなしをしているときとは違ちがった一いち面めんが見みえてくることがある。一緒いっしょにご飯はんを食たべながら、雑談ざつだんをして、よもやま話ばなしをする。日本語にほんごはゆっくりでいい。ここではネイティブの人ひとのほうが少数しょうすう派はなのだから。協会きょうかいにとっては、こうした参加さんかはありがたい。そして感謝かんしゃされると、人ひとは元気げんきが出でる。慣なれてくると、意見いけんがぶつかったり、行いき違ちがいがあったり…いろいろあるわけだが、それも含ふくめて人間にんげんどうしのリアルなつながりだ。そして、しばらくかかわっていると雑談ざつだんのなかで、いろいろな相談そうだんもできるようになる。家族かぞくのこと、子こどものこと、老後ろうごのこと、などなど…。

　人ひとと接せっすることが苦手にがてな子こどもや若者わかものもいる。そんな子こどもとは個別こべつで話はなしをする。そうしていると、実じつは得意とくいなこと、やってみたいことがあることがわかる。何なにに困こまっているのかが少すこしずつ語かたられる。その子こどもが持もつ力ちからや困こまりごとに、この協会きょうかいのコミュニティに関かかわる様々さまざまな人ひと
や機会きかいがつながると、小ちいさな集あつまりが生うまれて、会話かいわがはじまる。新あたらしいエネルギーが生うまれる。「事業じぎょう」なんて大袈裟おおげさなものじゃない。小ちいさなつながり。細々こまごまとした取とり組くみ。でも、なかなか味あじわいのあるものが、実じつはいろいろ続つづいていて、このコミュニティに彩いろどりを与あたえている。

　こうしたコミュニティのベースにあるのは、やはり多様たよう性せいだ。多言たげん語ご、多た文化ぶんか、多た世代せだい…な人ひとたちがいる、というだけではない、それぞれが自分じぶんの何なにかを表現ひょうげんし、いくらかのぶつかりあいをしながら、ゆるくつながっている。その生いきた多様たよう性せいが協会きょうかいの相談そうだん事業じぎょうを支ささえていて、相談そうだん事業じぎょうによってこのコミュニティが豊ゆたかになっている。

めざす社会しゃかいのエッセンス
　相談そうだん件数けんすうが増加ぞうかするなかで、職員しょくいんの研修けんしゅうや相談そうだん員いんを支ささえる仕組しくみづくり、記録きろくの取とり方かたなど、協会きょうかいの事業じぎょうとしてのバージョンアップも必要ひつようとなっている。こうしたことに取とり組くみながらも、協会きょうかいがこの地域ちいきのなかで培つちかってきた相談そうだん事業じぎょうのスタイルを大切たいせつにしたい。相談そうだん者しゃのエンパワメント、多様たよう性せいを包摂ほうせつしたコミュニティづくり、寄より添そい型がたのケース対応たいおう。そこにはいつも、私わたしたちがつくろうとしている社会しゃかいと事業じぎょうのエッセンスが詰つまっているのである。（河合かわい）