同一どういつ性せい保持ほじ権けん

同一どういつ性せい保持ほじ権けん（どういつせいほじけん）は、著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんの一種いっしゅであり、著作ちょさく物ぶつ及およびその題号だいごうにつき著作ちょさく者しゃ（著作ちょさく権けん者しゃではないことに注意ちゅうい）の意いに反はんして変更へんこう、切除せつじょその他たの改変かいへんを禁止きんしできる権利けんりのことをいう（日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほう20条じょう1項こう前段ぜんだん。以下いか、特とくに断ことわらない限かぎり、引用いんよう法令ほうれいは日本にっぽんのもの）。

概要がいよう

著作ちょさく物ぶつが無断むだんで改変かいへんされる結果けっか、著作ちょさく者しゃの意いに沿そわない表現ひょうげんが施ほどこされることによる精神せいしん的てき苦痛くつうから救済きゅうさいするため、このような制度せいどが設もうけられていると理解りかいされている。もっとも、元もとの著作ちょさく物ぶつの表現ひょうげんが残存ざんそんしない程度ていどにまで改変かいへんされた場合ばあいは、もはや別個べっこの著作ちょさく物ぶつであり、同一どういつ性せい保持ほじ権けんの問題もんだいは生しょうじない（「パロディ・モンタージュ写真しゃしん事件じけん」（第だい1次じ）、最高さいこう裁判所さいばんしょ判決はんけつ昭和しょうわ55年ねん3月28日にち）。場合ばあいによっては私的してき改変かいへんを禁止きんしする権利けんりもあり、他人たにんに私的してき改変かいへんさせるツールを提供ていきょうすることは不法ふほう行為こういとして問とうことができる。

また、ベルヌ条約じょうやく上うえの同一どういつ性せい保持ほじ権けんは、著作ちょさく者しゃの名誉めいよ声望せいぼうを害がいするおそれがあることを要件ようけんとした権利けんりになっているのに対たいし、日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうでは、そのような限定げんていはされておらず、著作ちょさく者しゃの意いに反はんすることを要件ようけんとした権利けんりになっており、これを問題もんだい視しする見解けんかいもある。

例外れいがい

以下いかの場合ばあいには、同一どういつ性せい保持ほじ権けんの適用てきようが除外じょがいされ、改変かいへんが認みとめられる（著作ちょさく権けん法ほう20条じょう2項こう）。

• 用字ようじの変更へんこうなど学校がっこう教育きょういくの目的もくてき上じょうやむを得えないと認みとめられる改変かいへん（1号ごう）
  • 小学生しょうがくせい向むけの教科きょうか用よう図書としょに文学ぶんがく作品さくひんを掲載けいさいする場合ばあいに、小学生しょうがくせいの学力がくりょくでは読よむことが困難こんなんな漢字かんじをひらがなに変更へんこうする行為こういなどがこれに該当がいとうする。
• 建築けんちく物ぶつの増ぞう改築かいちく・修繕しゅうぜん等とうに伴ともなう改変かいへん（2号ごう）
  • 人間にんげんの居住きょじゅう性せいを確保かくほしなければならない建築けんちく物ぶつの実用じつよう性せいを考慮こうりょしたものである。例たとえば、建築けんちく士しのAさんの企画きかく、設計せっけい及および指揮しきによりX大学だいがくに独特どくとくな形態けいたいの正門せいもんが建たたれたと仮定かていして、数すう年ねん後ご、学生がくせい数すうなどの増加ぞうかで学校がっこう財団ざいだんは正門せいもんを拡張かくちょう・変形へんけいするという計画けいかくを樹立じゅりつした。具体ぐたい的てきな内容ないようは正門せいもんの一ひとつの軸じくを2メートル移転いてんするというものだったが、こうなると当初とうしょの正門せいもんとは外観がいかんが変かわる。この場合ばあい、独特どくとくな形かたちで正門せいもんが作つくられているので創作そうさく性せいが認みとめられて建築けんちく著作ちょさく物ぶつとして建築けんちく士しのAさんが著作ちょさく者しゃとなる。正門せいもんの製作せいさく者しゃの建築けんちく士しのAさんと所有しょゆう者しゃの学校がっこう財団ざいだんXとの権利けんりが衝突しょうとつするが、この条項じょうこうにより著作ちょさく者しゃの同一どういつ性せい保持ほじ権けんが制限せいげんされる。
• プログラムの著作ちょさく物ぶつについて、特定とくていのコンピュータで利用りようできるようにしたり、より効果こうか的てきに利用りようし得えるようにするために必要ひつような改変かいへん（3号ごう）
  • 特定とくていのオペレーティングシステム(OS)上じょうでしか動作どうさしないプログラムを、他たのOS上じょうでも動作どうささせるための改変かいへん、プログラムの不具合ふぐあいを取とり除のぞくための改変かいへん（デバッグ）、プログラム動作どうさの高速こうそく化かを目的もくてきとして、冗長じょうちょうな処理しょりステップを取とり除のぞくための改変かいへんなどがこれに該当がいとうする。プログラムの開発かいはつ、利用りよう現場げんばで行おこなわれる改変かいへん行為こういのほとんどがこれらを目的もくてきとすると考かんがえられるため、プログラム著作ちょさく物ぶつの同一どういつ性せい保持ほじ権けんを主張しゅちょうできる場面ばめんは少すくないと考かんがえられる。
• その他たの利用りようの目的もくてき及および態様たいように照てらし、やむを得えないと認みとめられる改変かいへん（4号ごう）
  • 歌唱かしょうや演奏えんそうの技能ぎのうが乏とぼしいため、原曲げんきょくに忠実ちゅうじつに歌唱かしょうや演奏えんそうができない場合ばあいであっても、本号ほんごうの規定きていにより同一どういつ性せい保持ほじ権けんの侵害しんがいにならない。

著作ちょさく権けん法ほう第だい2章しょう第だい3節せつ第だい5款には、私的してき使用しようのための複製ふくせいをはじめとした著作ちょさく権けんの制限せいげんについて規定きていされているが、著作ちょさく権けん法ほう第だい50条じょうにて款の規定きていが著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんに影響えいきょうを及およぼすように解釈かいしゃくしてはならないと規定きていされており、文理ぶんり上じょう、私的してきな領域りょういきであっても同一どういつ性せい保持ほじ権けんの例外れいがいとならない。しかし、通常つうじょう、私的してきな改変かいへん行為こういは著作ちょさく者しゃの意いに反はんすることのない行為こういであるから、同一どういつ性せい保持ほじ権けんを侵害しんがいすることはないとする見解けんかいもある。

翻案ほんあん権けんとの関係かんけい

日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうは、著作ちょさく権けんの改変かいへんに関かんする権利けんりとして、著作ちょさく者しゃの人格じんかく的てき利益りえきを保護ほごするための同一どういつ性せい保持ほじ権けんのほか、著作ちょさく権けんの支ささえ分権ぶんけんとしての翻案ほんあん権けんの制度せいどを設もうけている（著作ちょさく権けん法ほう第だい27条じょう）。

同一どういつ性せい保持ほじ権けんは、著作ちょさく者しゃの人格じんかく的てき利益りえきを保護ほごするための制度せいどであるのに対たいし、翻案ほんあん権けんは著作ちょさく権けん者しゃの財産ざいさん的てき利益りえきを保護ほごするための制度せいどであるという差異さいがあり、両者りょうしゃは制度せいど趣旨しゅしが異ことなるものである（ただし、両者りょうしゃの権利けんりを一元いちげん的てきに理解りかいする見解けんかいも存在そんざいする）。

翻案ほんあん権けんの譲渡じょうとがされていない場合ばあいは、同一どういつ性せい保持ほじ権けんと翻案ほんあん権けんは同どう一いち人にんに帰属きぞくするため、翻案ほんあん権けんについてライセンス付与ふよがあった場合ばあいは、ライセンスの範囲はんい内ないで同一どういつ性せい保持ほじ権けんは制約せいやくを受うけると解ほぐされる。

これに対たいし、翻案ほんあん権けんが譲渡じょうとされている場合ばあいは、同一どういつ性せい保持ほじ権けんと翻案ほんあん権けんは別人べつじんに帰属きぞくすることになる。そのため、翻案ほんあん権けん者しゃと著作ちょさく物ぶつの利用りよう者しゃとの間あいだで著作ちょさく物ぶつの翻案ほんあんに関かんするライセンス契約けいやくが締結ていけつされ、そのライセンスに従したがい著作ちょさく物ぶつの改変かいへんが行おこなわれた場合ばあい、著作ちょさく者しゃは同一どういつ性せい保持ほじ権けんを行使こうしして改変かいへんを差さし止とめることができるのかが問題もんだいとなる。

この点てんの問題もんだいの解決かいけつについては色々いろいろな見解けんかいが唱となえられており、翻案ほんあん権けん譲渡じょうとの際さいに翻案ほんあんに必然ひつぜんに伴ともなう改変かいへんの限度げんどで同一どういつ性せい保持ほじ権けんを行使こうししない黙示もくしの同意どういを与あたえていると構成こうせいする見解けんかい、翻案ほんあんに必要ひつような限度げんどでの改変かいへんは著作ちょさく権けん法ほう20条じょう2項こう4号ごうにいう「著作ちょさく物ぶつの性質せいしつ並ならびにその利用りようの目的もくてき及および態様たいように照てらしやむを得えないと認みとめられる改変かいへん」に該当がいとうするとする見解けんかい、翻案ほんあん権けんと同一どういつ性せい保持ほじ権けんが別人べつじんに帰属きぞくする場合ばあいは著作ちょさく者しゃの名誉めいよ感情かんじょうにかかわらない改変かいへんは同一どういつ性せい保持ほじ権けんを侵害しんがいしないと解げする見解けんかいなどがある。

自由じゆう利用りようを目的もくてきとするライセンスとの関係かんけい

GPL、GFDL、Creative Commons Licenseなど、目的もくてきに関かかわらず使つかえ、著作ちょさく物ぶつの自由じゆうな利用りようの促進そくしんを目的もくてきとしたライセンスが存在そんざいするが、このようなライセンスが同一どういつ性せい保持ほじ権けんとの関係かんけいで有効ゆうこうなのかが問題もんだいとされることがある。

この点てん、先さきに例れい記しるしたライセンスは、同一どういつ性せい保持ほじ権けんを考慮こうりょした条項じょうこうを置おいていない。これは、これらのライセンスがアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくで発案はつあんされたものであり、後述こうじゅつするように同国どうこくの著作ちょさく権けん法ほうは伝統でんとう的てきに財産ざいさん的てき利益りえきを中心ちゅうしんとして規定きていしており、著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんに関かんする一般いっぱん的てきな規定きていがないことに起因きいんする。

これに対たいし、日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうは同一どういつ性せい保持ほじ権けんに関かんする規定きていが存在そんざいし、放棄ほうきはできないと解ほぐされている。しかも、ベルヌ条約じょうやくでは名誉めいよ声望せいぼうを害がいする恐おそれのある改変かいへんからの保護ほごを規定きていしているのに対たいし、日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうでは、改変かいへんが名誉めいよ声望せいぼうを害がいするおそれがあることを同一どういつ性せい保持ほじ権けん侵害しんがいの要件ようけんとしておらず、単たんに改変かいへん等とうが著作ちょさく者しゃの意いに反はんすることを要件ようけんとしている。このような事情じじょうがあるため、上記じょうきのようなライセンスは、日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうとは適合てきごうしないのではないかという問題もんだいがある。ただし、上記じょうきのようなライセンスでは改変かいへん（翻案ほんあん）することを容認ようにんしているので、著作ちょさく者しゃがライセンスに同意どういしていれば改変かいへん・翻案ほんあんに同意どういしている（意いに反はんしていない）ことになるので、日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうに適合てきごうしていると見みることもできる。

この点てん、クリエイティブ・コモンズの日本にっぽん版ばんライセンスは、著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんを行使こうししない旨むねの条項じょうこうを設もうけることにより、問題もんだい点てんを回避かいひしている。ただし、前述ぜんじゅつしたとおり、著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんの不ふ行使こうし契約けいやくは無効むこうであるとの見解けんかいもあり、なお問題もんだいを抱かかえていることは否定ひていできない。

参考さんこう文献ぶんけん

• 中山なかやま信弘のぶひろ『著作ちょさく権けん法ほう』有斐閣ゆうひかく、2007年ねん10月がつ。ISBN 978-4-641-14382-1。http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641143821。 
• 渋谷しぶや達たち紀き『著作ちょさく権けん法ほう・意匠いしょう法ほう』（第だい二に版はん）有斐閣ゆうひかく〈知的ちてき財産ざいさん法ほう講義こうぎ〉、2007年ねん6月がつ10日とおか。ISBN 978-4-641-14376-0。 

関連かんれん項目こうもく

• 大地だいち讃さん頌事件じけん
• おふくろさん騒動そうどう
• 会あいたい (沢田さわだ知可子ちかこの曲きょく)
• ときめきメモリアルメモリーカード事件じけん
• ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

外部がいぶリンク

• 朝日新聞あさひしんぶん掲載けいさい「キーワード」『同一どういつ性せい保持ほじ権けん』 - コトバンク