スーパー戦隊せんたいシリーズ、平成へいせい仮面かめんライダーのパイロットばんなど、数々かずかずのヒーロー作品さくひんがけてきた撮影さつえい技師ぎし松村まつむら文雄ふみおさん。撮影さつえい助手じょしゅとして経験けいけん映像えいぞう業界ぎょうかいみ、いまでは50ねん以上いじょうキャリアをゆうしています。このインタビューでは、そんな業界ぎょうかいのレジェンドである松村まつむらさんがキャメラマン人生じんせいかんがえ、経験けいけんしたことをかえっていただきました。映像えいぞう業界ぎょうかいでの活躍かつやくのぞひとにとって、しっかりしんめておきたい貴重きちょうなアドバイスになるでしょう。

松村まつむら 文雄ふみお(まつむら・ふみお)
1948ねん1がつ18にちまれ。東京とうきょう出身しゅっしん
テレビドラマや特撮とくさつ番組ばんぐみ映画えいがなど、幅広はばひろがける撮影さつえい技師ぎし
代表だいひょうさくは「宇宙うちゅう刑事けいじ」シリーズ、『あぶない刑事けいじ』、「仮面かめんライダー」シリーズなど。
2018ねんはテレビシリーズ『かいぬすめ戦隊せんたいルパンレンジャーVS警察けいさつ戦隊せんたいパトレンジャー』、『仮面かめんライダージオウ』の撮影さつえい担当たんとうした。

「まあ、なにとかなる。ダメならやめちまえ」

――松村まつむらさんはこれまで、俳優はいゆうほうふくめておおくのほうそだててきたとおもいます。本日ほんじつはそのなかつちかったご経験けいけんをおかせください。…きびしいほうとおきしているので、わたしすこ緊張きんちょうしております。

きびしいとわれますが、そんなことはないですよ。ただ現場げんばではモノをつくっているわけだから、ちゃんとしないと。とく特撮とくさつ爆発ばくはつぶつ使つか場合ばあいおおいでしょう。事故じこにもつながるので、緊張きんちょうかんをもってやっています。

ヒーロー作品さくひん出演しゅつえんしゃ新人しんじんおおくてね、最初さいしょはみんな素人しろうと同然どうぜん本人ほんにんたちはみんな「1・2たくない」といますが、1年間ねんかん撮影さつえいしていると、その過程かていかならわっていきます。毎日まいにちやっているうちに成長せいちょうして、半年はんとしくらいったころには大体だいたいうまくなっている。ダメなものをめることはありませんが、いところがあればめますよ。「うまくなったね」と。

このインタビューをむのは、どんなひと中心ちゅうしんですか? 新人しんじんとか若手わかてとか、これから活躍かつやくしていくひとでしょうか。

――映像えいぞう業界ぎょうかい目指めざしているひと、これから活躍かつやくしていきたいひと中心ちゅうしんになります。意欲いよくはあるけれど、まだ実績じっせきはないという。

だれでも最初さいしょはそうです。ぼくもそう。ぼくどものころから映画えいがきだったけれど、工業こうぎょう高校こうこう卒業そつぎょうして、最初さいしょ医薬品いやくひんメーカーに就職しゅうしょくしました。映画えいが仕事しごときたいとおもったところでツテがあるわけではない。にちげい専門せんもん学校がっこうなどを卒業そつぎょうしているわけでもない。18~19さい漠然ばくぜんごし、「どうしようかな」とおもいながら映画えいがかんかよって、年間ねんかん300ほん以上いじょうていました。

そんなある新聞しんぶんっていた映像えいぞう制作せいさく会社かいしゃ求人きゅうじん広告こうこくまり、はがきをしてみたのです。そのまましばらなにもなくて、すっかりわすれていたころに「明日あしたい」と連絡れんらくがきました。仕事しごと恵比寿えびすのマンションの1しつにある個人こじん経営けいえいちいさな会社かいしゃで、社長しゃちょうけん監督かんとくみたいなひと撮影さつえい助手じょしゅおこなったその日本橋にほんばし長瀬産業ながせさんぎょうでコダックのフィルムを、秋葉原あきはばらでアイランプをって、そのまま新幹線しんかんせんって現場げんばかい、16mmじゅうろくみりのフィルムで学校がっこう案内あんない撮影さつえいしました。それがこの業界ぎょうかいでのはつ仕事しごとです。

――テレビで放送ほうそうされる作品さくひんには、どんな経緯けいいかかわるようになったのでしょうか?

その会社かいしゃに、もともとは松竹しょうちく社員しゃいんでチーフクラスだったひとがいたのです。当時とうじはテレビ全盛ぜんせい時代じだいになりつつあるころでしたから、「ドラマをりたいの? だったらテレビでい?」と会社かいしゃ紹介しょうかいしてもらって。当時とうじぼくはフィルムの16mmじゅうろくみりと35mmのちがいくらいしかわからなかったけれど、それが転機てんきになりました。

紹介しょうかいされた会社かいしゃっていたのはひるメロです。キャメラマンと、チーフ、セカンドがいました。映画えいが場合ばあいはサード、フォースまでいますが、テレビの場合ばあい助手じょしゅにんだけ。チーフが露出ろしゅつはかり、あとはフィルムチェンジも、フォーカスをわせるのも、ハレーションをおさえるのも、全部ぜんぶセカンドがやりました。映画えいがよりしょう所帯じょたいとはいえ、助監督じょかんとくもメイクも小道具こどうぐもいて、最初さいしょなにをやればいのかわかりませんでしたよ。そこにはい以前いぜん見習みならいでもやっていればスムーズだったのかもしれませんが、現場げんばらないですっとはいってきたわけですから。

――大変たいへんそうですね。ご苦労くろうされたのではないでしょうか?

「まあ、なにとかなる。ダメならやめちまえ」とおもってやっていたら、あるさかい自分じぶんうごきがふっとらくになったのです。はじめてから2~3週間しゅうかんったころでした。最初さいしょおこられてばかりだったにもかかわらず、そのからさき自分じぶんうごくスピードがちがう。50ねん以上いじょうむかしのことなので記憶きおくちがいがあるかもしれませんけれど、気付きづいた瞬間しゅんかんおぼえています。田端たばた陸橋りっきょううえ撮影さつえいしていたときのことです。

それ以降いこう現場げんばったキャメラマンたちと、いろんな会社かいしゃわたあるくようになりました。国際こくさい放映ほうえい円谷つぶらやプロ、大映だいえいテレビしつほか、みんなフリーだから「つぎはこういう仕事しごとがあるよ」と、20だいはそんなかんじ。そのうちにポジションもセカンドからチーフになりました。

たくさん映画えいがてきたからわかる

――それからいよいよヒーローものをがけるようになったわけですね。

当時とうじはドラマの放映ほうえいがたくさんあり、メロドラマ、アクション、刑事けいじものと、いろいろ撮影さつえいしていました。そんななか、昭和しょうわ51ねん東映とうえいの『宇宙うちゅう鉄人てつじんキョーダイン』をやることになって。その撮影さつえい途中とちゅう大映だいえいから「刑事けいじものをらないか?」とこえがかかりました。通常つうじょうのドラマは2クールで26ほんとおよそ半年はんとしですが、ども番組ばんぐみ当時とうじから1年間ねんかん。どちらかというと刑事けいじものがきだし、フリーだから、そっちをえらぶこともできたのですがことわりました。さきけた仕事しごとで、せっかくえんがあってっていて、スタッフともうまくいっているのに、調子ちょうしこうにってしまうのはどうなのか。ここでおこなってしまってはもうわけない、とおもったのです。そのとき大映だいえい仕事しごとけていたら、いまどうなっていたかわかりません。

東映とうえいでは、それから『Gメン75』『プレイガール』をやって『ジャッカー電撃でんげきたい』でまた1ねん生田いくたスタジオで『透明とうめいドリちゃん』をり、大泉おおいずみもどって「Gメン」シリーズのチーフを1ねんはん。その村上むらかみ弘明ひろあきくん主演しゅえんの『仮面かめんライダースカイライダー』をりました。

――はじめての撮影さつえい監督かんとくですね。フリーの撮影さつえい技師ぎしまかせられるのはめずらしいのでは? しかも32さいでのだい抜擢ばってきだといています。

助手じょしゅはみんなフリーですが、東映とうえいのようなきちんとした会社かいしゃが、とくにあのころのようなフィルムの時代じだいにフリーをキャメラマンにげることはほとんどありませんでした。先輩せんぱい推薦すいせんしてくれていたし、やれるならやってみようかと。

――なぜ、松村まつむらさんの名前なまえがったのだとおもいますか?

自分じぶんおもうのは、元気げんきかったから。ああだこうだいながら現場げんば仕切しきっていたんです。むかしから撮影さつえい現場げんばっていくのがチーフの役割やくわり。キャメラマンはしっかりかまえていないといけません。それをきちんとやっているところをひとていて「あいつなら大丈夫だいじょうぶ」とおもってもらえたのではないでしょうか。

――セカンド、チーフとキャリアをんでいくなかで、まかせられる役割やくわりをきちんとたしてきたわけですね。

キャメラの一番いちばんちかくにいるセカンドをやっていて、ひく位置いちからるか、たか位置いちからるか、どのレンズを使つかうのか、キャメラマンから指示しじされるまえに、自分じぶんでやっていました。普通ふつうはキャメラマンが「つぎはこれ」とって、助手じょしゅであるセカンドがってくるのですが、ぼくはそうじゃなかった。

監督かんとくねらいにあわせて、そのとおりのる。そのためには、どのレンズを使つかって被写体ひしゃたいるか。なにをしたいのか。もとめているものがわかりました。何故なぜかというと、たくさん映画えいがてきたから。こういうシチュエーションならこのレンズだろうと、理屈りくつではなく感覚かんかく理解りかいできていたんです。

こだわらない、あくまでも作品さくひんわせる

――作品さくひんのジャンルはもちろん、時代じだいによってかたわったのですか?

メロドラマ、刑事けいじもの、特撮とくさつと、それぞれ全部ぜんぶちがうし、時代じだいによる変化へんか当然とうぜんあります。たとえば刑事けいじものなら『あぶない刑事けいじ』はながれるような映像えいぞうでしたが、いまの『相棒あいぼう』シリーズはどっしりかまえてっている。むかし役者やくしゃとキャメラマンが一緒いっしょはしまわっていたけれど、いまはそういうキャメラワークはありませんよね。

特撮とくさつもフィルムではなくデジタルに記録きろく媒体ばいたいわって、CGなどいろんな合成ごうせいができるようになりました。フィルムだと被写体ひしゃたいちかくで露出ろしゅつはかったりしていましたが、いまはベースをんで、モニターをながら調整ちょうせいしています。現場げんば雰囲気ふんいき自体じたいわりましたね。いまはキャメラのまわりにすうにんしかいなくて、モニターのまわりにひとだかりができています。一発いっぱつ勝負しょうぶ真剣しんけんさでえばフィルムのほうっているとおもいますが、ぼくらの時代じだいいまちがう。臨場りんじょうかん空気くうきかんたしかにことなりますが、結果けっかてきにいい作品さくひんのこすためにくすことにわりありません。

――ヒーロー作品さくひんがフィルムからデジタルにわったのは、どの作品さくひんから?

スーパー戦隊せんたい平成へいせい20ねんまでフィルム。平成へいせい11ねんの『救急きゅうきゅう戦隊せんたいゴーゴーファイブ』からかかわって、平成へいせい21ねんの『さむらい戦隊せんたいシンケンジャー』からデジタルになりました。ライダーは『仮面かめんライダークウガ』の平成へいせい12ねんからですね。

――そんな変化へんかにもスムーズに順応じゅんのうしていけたのは、何故なぜだったのでしょうか?

器用きようなのと、あまりこだわらないから。「自分じぶん作品さくひんだから」と気負きおってることはまずありません。ポジションをめてレンズをえらぶ。キャメラって、それだけで個性こせいてしまうんです。だから、のことに「こうじゃなきゃダメだ!」とかわない。あくまでも作品さくひんわせる。

レンズにしても、むかし望遠ぼうえんをよく使つかっていましたが、いまはワイドレンズが主流しゅりゅうです。カットわり時代じだいによってわりました。撮影さつえい現場げんば天候てんこう場所ばしょわるし、俳優はいゆうのその芝居しばいたいする気持きもちもちがうのに、それを「こうだ!」とめつけてしまうと、なにもかもまなくてはいけなくなります。だから、もっとフラットに「どこでもれるよ」「どんな芝居しばいでもOKだよ」という気持きもちでうわけです。

職人しょくにんとしてきっちりつくる

――自分じぶん仕事しごとを、ご自身じしんではどのようにとらえていらっしゃいますか?

クリエイターとか、芸術げいじゅつとか、そういうのではないですね。いものをつくる職人しょくにんだとおもってやっています。
なんぼくがこの仕事しごとをやりたかったかというと、どものときからいろんな映画えいがて、影響えいきょうけてきたから。今度こんど自分じぶんがつくる立場たちばになって、その恩返おんがえしをしたいという気持きもちがありました。
どもたちがヒーロー作品さくひんて「かっこいいな」とかんじるように。きれいな景色けしきのなかで撮影さつえいされた『土曜どようワイド劇場げきじょう』のサスペンスドラマをて、視聴しちょうしゃが「ここにってみたい」というになるように。東尋坊とうじんぼうふゆ北海道ほっかいどうなど、そんな気持きもちになってしいとおもいながら被写体ひしゃたいかして、しっかりとうつくしい実景じっけいります。サスペンスでは、そこで殺人さつじん事件じけんきてしまいますけど(笑)。

――作品さくひんのジャンルで「これがやりたい!」と主張しゅちょうすることはなかったのでしょうか。

きではいった仕事しごとだから、それを必要ひつようはないし、そうじゃないほういとおもうんですよ。たとえばぼくは、小説しょうせつでもハードボイルドな刑事けいじものがき。だけど、やりたいことばかりだとのめりみすぎてしまうとおもうし、きなものだけやっていてはダメだとかんじています。職人しょくにんとして、注文ちゅうもんされたものをきっちりつくっていかなければ。

ければめる。おこるなら、感情かんじょうではなく理屈りくつ

――映像えいぞう業界ぎょうかいでのキャリアは50ねん以上いじょう。フリーランスで活躍かつやくつづけてこられたのも、そういうスタンスだから?

やはり業界ぎょうかいていて、ひとによってジャンルがまるケースはおおいですよね。ども番組ばんぐみならども番組ばんぐみ刑事けいじものなら刑事けいじものと。監督かんとくもそうでしょう。喜劇きげきやアクションといったタイプにかれるものです。でもぼく守備しゅび範囲はんいひろがけられたから、1つの仕事しごとがなくなってもちがうジャンルの仕事しごとけられた。3つくらいの分野ぶんやをしっかりめることができれば、長期ちょうきにわたって仕事しごと途切とぎれることはなくつながっていくのではないかとおもいます。

――これからの世代せだいひとたちにアドバイスをおくるとすれば?

だれかにわれたとおりにやればいということはありませんよね。なにをするにしろ、そのひとなりにかんがえて、やってみないと。助手じょしゅひとたちにもそうっています。
ただし、最初さいしょだれもが経験けいけんのないところからスタートしている。だからおしえるそくが、できないレベルまでがることが必要ひつようだとおもいます。いまひとはみんなおしえたがるけれど、おしかた下手へたですね。できるひとは、そうでないひと何故なぜできないのかがわからないのかもしれない。本当ほんとう自分じぶんだってわすれているだけでおなじようなレベルだったころかならずあるのに。
そして、かったらめる。わるかったらそのつたえる。助手じょしゅも、俳優はいゆうも、だれだってめられればうれしいし、自信じしんてる。ときにはおこることも大事だいじですが、感情かんじょうではなく理屈りくつおこらないと。

ぼくらのわかころおしえてくれるひとはいなくて、うえひと自分じぶんでどんどん質問しつもんしました。おしえないでもらいついてくるは、いつの時代じだいびるし、のこるとおもいます。もちろん、おしえてばしてあげることも大切たいせつですけれど。

――最後さいごに、松村まつむらさんのキャリアで印象深いんしょうぶか作品さくひんおしえていただけないでしょうか。

テレビだと、はじめてメインのキャメラマンをやった『星雲せいうん仮面かめんマシンマン』。そのまえの『宇宙うちゅう刑事けいじギャバン』はだい先輩せんぱいである東映とうえい瀬尾せおおさむさんがメインでしたが、『マシンマン』はオープニングからエンディングまで全部ぜんぶ自分じぶんりました。

映画えいがでは、雨宮あまみや慶太けいたさんが監督かんとくした『人造じんぞう人間にんげんハカイダー』。アクション監督かんとくがJACの金田かねだおさむさん。映画えいがなので予算よさんがあり、機材きざいにおかねをかけられて仕掛しかけもおおきかった。撮影さつえいは35㎜のフィルムでした。雨宮あまみやさん、金田かねださんと3にんあじ発揮はっきしてモノをつくっている感覚かんかくになれたというか、手応てごたえがありましたね。
とく印象いんしょうのこっているのは、くろいオートバイで夜中よなかはしまわるシーンです。フォグをいて、逆光ぎゃっこうててしろくしないとれない。ましてやフィルムだから失敗しっぱいできない。大変たいへんでしたけどたのしかったですね。

――どちらもぜひ拝見はいけんしたいですね! 本日ほんじつ貴重きちょうはなしをおかせくださり、本当ほんとうにありがとうございました!

インタビュー・テキスト:よし牟田むた 祐司ゆうじ文章ぶんしょうしゃ)/撮影さつえい:SYN.product/編集へんしゅう:CREATIVE VILLAGE編集へんしゅう