紀伊國屋きのくにや書店しょてん

出版しゅっぱん社しゃ内容ないよう情報じょうほう

人ひとが生いきる上うえでの根源こんげん的てき欲求よっきゅう「繋つながり」を妨さまたげる知ちや情緒じょうちょ＝「日常にちじょう的てき排除はいじょ」に向むき合あい、それらを相対そうたい化かする営いとなみの一ひとつの形かたちの提示ていじ。ハンセン病はんせんびょう、顔かおのあざ、在日ざいにち、ひきこもり等とう、多様たような領域りょういきを取とり上あげ「社会しゃかい学がく的てき実践じっせん」を「普通ふつう」という呪縛じゅばくから解とき放はなつ学問がくもん的てき結実けつじつ。

序章じょしょう　日常にちじょう的てき排除はいじょの現象げんしょう学がくに向むけて（好こう井い裕明ひろあき）
　１　日常にちじょう的てき排除はいじょというテーマ
　２　「普通ふつう」の権力けんりょくを考かんがえる
　３　「おびえ」「おそれ」という排除はいじょ
　４　「繋つながり」の模索もさく、その可能かのう性せいへ
第だい１章しょう　いかにして「ふつう」の外見がいけんに駆かり立たてられるのか？――トランスジェンダーにおけるまなざしの力ちからを例れいに（鶴田つるた幸恵ゆきえ）
　１　はじめに
　２　「ふつう」の外見がいけんであることと「変へん」な外見がいけんであること
　３　他者たしゃのまなざしに促うながされる「パス」の追求ついきゅう
　４　「ふつう」ではない／「変へん」だというまなざしの作用さよう
　５　終おわることのないパスという実践じっせん
　６　「十分じゅうぶん／不十分ふじゅうぶん」から「完全かんぜん／不完全ふかんぜん」へ
　７　おわりに
第だい２章しょう　「クレイム申もうし立たて」としてのインタビュー――顔かおにあざのある女性じょせいの「問題もんだい経験けいけん」をめぐる語かたりから（西倉にしくら実季みき）
　１　はじめに――不適切ふてきせつな語かたり？
　２　問題もんだい経験けいけんの語かたり――「ハンデ」としてのあざ
　３　否認ひにんされる問題もんだい経験けいけん
　４　問題もんだい経験けいけんはいかに語かたられたか――インタビュー過程かていの検討けんとう
　５　おわりに
第だい３章しょう　おびえる日本にっぽん社会しゃかい、凝固ぎょうこ化かする在日ざいにち朝鮮ちょうせん人じん問題もんだい――あるビデオドキュメンタリーを素材そざいとした“超ちょう・メディア社会しゃかい学がく当事とうじ者しゃ”という境界きょうかいの曖昧あいまいさ
　３　考察こうさつの対象たいしょう
　４　当事とうじ者しゃとの同質どうしつ性せいと異質いしつ性せいのバランス
　５　“ひきこもっている彼かれら／ひきこもっていない私わたし”という線引せんひきの無効むこう化か
　６　当事とうじ者しゃをサポートする立場たちばで“現場げんば”に居い続つづける難むずかしさ
　７　おわりに――そして最初さいしょの問といへ
第だい７章しょう　〈繋つながり〉の再編さいへん――スティグマ論ろんを起点きてんとして（宮内くない　洋よう）
　１　はじめに
　２　繋つながらない個人こじん
　３　〈繋つながり〉のモデル
　４　〈繋つながり〉の意志いし
　５　〈繋つながり〉を促うながす存在そんざい
　６　おわりに
あとがき

日常にちじょう的てき排除はいじょというテーマ
　普段ふだん、私わたしたちは、さまざまな人々ひとびとや現実げんじつを排除はいじょしながら暮くらしている。こう言いわれれば、どう感かんじるだろうか。何なにを言いっているのだ。私わたしは、多おおくの社会しゃかい問題もんだいに常つねにアンテナをはっているし、人権じんけん問題もんだいなどにも感性かんせいが鋭するどい。排除はいじょや差別さべつなどは、やはりそうしたアンテナもなく、人権じんけん感覚かんかくに乏とぼしい特定とくていの人々ひとびとが引ひき起おこす問題もんだいだ。だから、普段ふだんの暮くらしで日常にちじょう的てきに排除はいじょが起おこっていると言いわれても、すぐにはピンとこない。抗議こうぎとはいかないまでも、このような違和感いわかんを覚おぼえるという声こえがすぐに聞きこえてきそうである。
　でも、本ほん論集ろんしゅうのテーマは日常にちじょう的てき排除はいじょなのである。日常にちじょう的てき排除はいじょとは、いったいどのような営いとなみをさすのだろうか。詳細しょうさいに論ろんじてもいいのだが、ここでは、いったい排除はいじょという現象げんしょうをどこから考かんがえようとしているのだろうか。この点てんについて少すこし述のべておきたい。
　まず言いえるのは、人権じんけん、平等びょうどうなど私わたしたちの生活せいかつや社会しゃかい、世界せかいのどこにでも一般いっぱん的てきにあてはまるような抽象ちゅうしょう的てきで普遍ふへん的てきな理念りねんから排除はいじょという現象げんしょうを分析ぶんせきしようとするものではないことだ。
　そうではなく、日常にちじょう的てきという言葉ことばが象徴しょうちょうする、私わたしたちのさまざまな普段ふだんの営いとなみや常識じょうしき的てき推論すいろん、あまり検討けんとうすることなくそれに依存いぞんした術じゅつを意味いみあるものとして使用しようしている私わたしたちの実践じっせんのなかにある排除はいじょの様相ようそうである。
　こうした発想はっそうは、私わたし自身じしん、エスノメソドロジーという研究けんきゅう実践じっせんを自分じぶんなりに学まなぶことをとおして実感じっかんしてきたものであり、すでに言葉ことばや形かたちを変かえて、何なん度ども同おなじような主張しゅちょうをし続つづけてきている。より具体ぐたい的てきに言いえば、日常にちじょう的てき排除はいじょの一端いったんとは、私わたしたちが普段ふだん、あたりまえのように使用しようしてしまっているさまざまな社会しゃかい的てきなカテゴリーにどのような意味いみが盛もられ、意味いみの“適切てきせつさ”などを「いま、ここ」で点検てんけんすることなくある人々ひとびとや現実げんじつにあてはめて、それ以上いじょう向むき合あっている対象たいしょうへの志向しこうが進すすんでいかない、つまり“わかったつもり”になっている状態じょうたいや実践じっせんに組くみ込こまれた様相ようそうなのである。
　たとえばアニメ「クレヨンしんちゃん」でギャグとして頻繁ひんぱんに登場とうじょうするしんちゃんの「おかま」のしぐさを笑わらいながら承認しょうにんしてしまい、それをもとにして男性だんせい同性愛どうせいあい者しゃや同性愛どうせいあいという現実げんじつ、そこで生起せいきするさまざまな問題もんだいに向むき合あおうとするとき、そこには同性愛どうせいあい者しゃに対たいする限かぎられたそして歪ゆがめられた「理解りかい」が生しょうじてしまうのである。
　さらに、日常にちじょう的てき排除はいじょとは、社会しゃかい的てきなカテゴリーの使用しようという次元じげんだけの問題もんだいではない。社会しゃかい問題もんだいの常識じょうしき的てき面めん的てきにしか、捉とらえることにはならないのだろうか。問題もんだいが自みずからの日常にちじょう生活せいかつにけっして降おりてくることはなく、その意味いみで“他人たにんごと”であるにもかかわらず、問題もんだいへの「同情どうじょう」や「共感きょうかん」「理解りかい」する姿勢しせいや語かたりだけが増殖ぞうしょくすることにならないのだろうか。
　身体しんたい的てきな暴力ぼうりょくや言葉ことばなどを用もちいて、ある特定とくていの存在そんざいや現実げんじつを鮮明せんめいに排除はいじょするのではない。あるカテゴリーで特定とくていの存在そんざいを理解りかいし、さらにその存在そんざいがどのように現実げんじつに生いきているのかなどについて理解りかいしようという志向しこうや発想はっそうが、そこで断たち切きれてしまうとすれば、なぜ、どのようにして、そうした日常にちじょう的てきな社会しゃかい問題もんだい「理解りかい」が成立せいりつしてしまうのだろうか。こうしたことを、私わたしは日常にちじょう的てき排除はいじょという現象げんしょうとして、読よみ解とくべき重要じゅうような社会しゃかい学がくのテーマだと考かんがえているのである。
　日常にちじょう的てき排除はいじょとして、注目ちゅうもくすべき人々ひとびとの営いとなみや語かたりは多様たようであり多層たそう的てきと言いえる。ただその核心かくしんにあるのが、まさに日々ひび刻々こくこくと変化へんかしている自みずからの恣意しい的てきな日常にちじょうを、あたかも一定いってい不変ふへんであるものとして、思おもい感かんじさせる力ちからであり、自みずからの日常にちじょう生活せいかつ世界せかいを「普通ふつうでない何なにか」「尋常じんじょうではない何なにか」から守まもろうとする力ちからであり、自分じぶんの世界せかいへ侵入しんにゅうしてこないように、そうした何なにかをなんとかして阻止そししようと

目次もくじ

序章じょしょう　日常にちじょう的てき排除はいじょの現象げんしょう学がくに向むけて
第だい１章しょう　いかにして「ふつう」の外見がいけんに駆かり立たてられるのか？―トランスジェンダーにおけるまなざしの力ちからを例れいに
第だい２章しょう　「クレイム申もうし立たて」としてのインタビュー―顔かおにあざのある女性じょせいの「問題もんだい経験けいけん」をめぐる語かたりから
第だい３章しょう　おびえる日本にっぽん社会しゃかい、凝固ぎょうこ化かする在日ざいにち朝鮮ちょうせん人じん問題もんだい―あるビデオドキュメンタリーを素材そざいとした“超ちょう・メディア社会しゃかい学がく”の試こころみ
第だい４章しょう　宿泊しゅくはく拒否きょひ事件じけんにみるハンセン病はんせんびょう者しゃ排除はいじょの論理ろんり―『差別さべつ文書ぶんしょ綴つづり』の内容ないよう分析ぶんせきから
第だい５章しょう　スポーツする日常にちじょうにある性せい差別さべつ―サーファー・コミュニティへのフィールドワークから
第だい６章しょう　「ひきこもり」に関かかわる人々ひとびとが“現場げんば”に居い続つづけるための実践じっせん
第だい７章しょう　“繋つながり”の再編さいへん―スティグマ論ろんを起点きてんとして

著者ちょしゃ等とう紹介しょうかい

好こう井い裕明ひろあき［ヨシイヒロアキ］
筑波大学つくばだいがく大学院だいがくいん人文じんぶん社会しゃかい科学かがく研究けんきゅう科か教授きょうじゅ。京都きょうと大学だいがく博士はかせ（文学ぶんがく）（本ほんデータはこの書籍しょせきが刊行かんこうされた当時とうじに掲載けいさいされていたものです）
※書籍しょせきに掲載けいさいされている著者ちょしゃ及および編者へんしゃ、訳者やくしゃ、監修かんしゅう者しゃ、イラストレーターなどの紹介しょうかい情報じょうほうです。