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"本稿ほんこうでは，労働ろうどう市場いちばの均衡きんこう理論りろんに関連かんれんする前号ぜんごうの検討けんとうをふまえて，雇用こようの応用おうよう理論りろんとして，労働ろうどう市場いちばに関連かんれんする格差かくさ問題もんだいの解明かいめいと，貨幣かへい・資本しほん理論りろんへと発展はってんするヒックス経済けいざい学がくに関かんする学説がくせつ史し的てきな検討けんとうを試こころみる．\n労働ろうどう市場いちばの均衡きんこう条件じょうけんは，ヒックス理論りろんの解釈かいしゃくによれば，次つぎの3 つの条件じょうけんに要約ようやくされる．すなわち，（1）同おなじ種類しゅるいの労働ろうどうに対たいしてすべて同一どういつの賃金ちんぎんが支払しはらわれること，（2）賃金ちんぎんの大おおきさが労働ろうどうの限界げんかい純じゅん生産せいさん物ぶつの価値かちに等ひとしくされること，（3）賃金ちんぎんと利潤りじゅんの比率ひりつが労働ろうどうと資本しほんの限界げんかい純じゅん生産せいさん力りょくの比率ひりつに等ひとしくされること，すなわち労働ろうどうと資本しほんとの間あいだの代替だいたいの弾力だんりょく性せいが1 に等ひとしくされること，以上いじょうの3 つの条件じょうけんであった．\n本稿ほんこうでは，これらの3 つの条件じょうけんを外はずした場合ばあいに，どのような変化へんかが理論りろん的てきに想定そうていされるかということから研究けんきゅうを始はじめる．実際じっさいの労働ろうどう市場いちばに関かんして，3 つの均衡きんこう条件じょうけんがすべて整ととのっていることを想定そうていすることは，非ひ現実げんじつ的てきである．なぜなら，（1）人々ひとびとの労働ろうどう能力のうりょくには差異さいがあるために，同どう一いち労働ろうどう・同どう一いち賃金ちんぎんの原則げんそくを実現じつげんするためには，個々人ここじんの多様たよう性せいを無視むしするような分配ぶんぱいに関かんする何なんらかの強制きょうせいが働はたらかなくてはならない．さもなければ，個々人ここじんの間あいだに賃金ちんぎん格差かくさが成立せいりつするであろう．（2）自由じゆうな労働ろうどうの移動いどうや職業しょくぎょう選択せんたくに対たいしては，独占どくせんや移動いどう費用ひよう，不ふ確実かくじつ性せいなどの障害しょうがいがあるため，厳密げんみつに労働ろうどうの限界げんかい生産せいさん力りょくに等ひとしい賃金ちんぎん率りつが成立せいりつすることはめったにない．したがって，そこから労働ろうどうの「搾取さくしゅ」または失業しつぎょうが発生はっせいする．（3）資本しほん主義しゅぎ経済けいざいにおいては，科学かがく技術ぎじゅつの発展はってんに伴ともなう革新かくしんが絶たえず推進すいしんされてきたために，新あたらしい生産せいさん方法ほうほうに移行いこうする過程かていでは，資本しほんの労働ろうどうに対たいする代替だいたいの弾力だんりょく性せいは，1 よりも大おおきくされなければならない．これらは，すべて労働ろうどう市場いちばの特殊とくしゅ性せい（「労働ろうどう力りょく商品しょうひんの特殊とくしゅ性せい」）によるものであった．\nこのような労働ろうどう市場いちばの特殊とくしゅ性せいの理解りかいをふまえて，本稿ほんこうでは，そのような条件じょうけんの変化へんかが，①労働ろうどうの搾取さくしゅ，②失業しつぎょう，③技術ぎじゅつ革新かくしんが資本しほんと労働ろうどうとの間あいだの分配ぶんぱいに対たいして与あたえる影響えいきょうについて，実際じっさいの労働ろうどう市場いちばに即そくして検討けんとうする．そして，それらの変化へんか\nが労働ろうどう市場いちばに関連かんれんする所得しょとく格差かくさに対たいして如何いかなる効果こうかをもたらすかについて検討けんとうする．\nそのような検討けんとうの結果けっか，（1）と（2）の均衡きんこう条件じょうけんがないことが搾取さくしゅや失業しつぎょうの原因げんいんとなり，労働ろうどう市場いちばに関連かんれんする所得しょとく格差かくさの原因げんいんにもなっていることについて確認かくにんされるであろう．しかし，そのような原因げんいんが1980 年代ねんだい以降いこうに特別とくべつに大おおきく作用さようするようになってきたということはできない．これらに対たいして，技術ぎじゅつ進歩しんぽに伴ともなって，（3）の条件じょうけんが満みたされなくなっていることが，近年きんねんの先進せんしん国こく経済けいざいにおける所得しょとく格差かくさ拡大かくだいの有力ゆうりょくな要因よういんとなっていることが推論すいろんされる．すなわち，低てい成長せいちょう経済けいざい下かで産出さんしゅつ量りょうがさして大おおきくならないまま，労働ろうどう節約せつやく的てきな技術ぎじゅつ革新かくしんが進すすめられてきていることの中なかに，近年きんねんの一部いちぶの先進せんしん国こく経済けいざいにおいて所得しょとく格差かくさが再ふたたび広ひろがってきていることの基礎きそ的てきな要因よういんを求もとめるべきではないかという仮説かせつが，ヒックスの賃金ちんぎん理論りろんの応用おうようから引ひき出だされるのである．\nただし，このような仮説かせつは，労働ろうどう市場いちばに関かんする比較ひかく静せい学がく的てきな推測すいそくの結果けっかとして得えられたものである．科学かがく技術ぎじゅつの発展はってんに伴ともなう生産せいさん力りょくの増大ぞうだいによる労働ろうどう市場いちばに対たいする影響えいきょうについては，さらに時間じかん的てき要素ようそを取とり入いれた技術ぎじゅつ革新かくしん過程かていの動態どうたい的てき分析ぶんせきに\nよって明あきらかにされなければならない．このように理解りかいするならば，初期しょきの静せい学がく的てきな研究けんきゅうに対たいして，時間じかん的てきな要素ようそを尊重そんちょうする後期こうきヒックスの研究けんきゅうへと至いたる筋道すじみちは，すでに『賃金ちんぎんの理論りろん』によって準備じゅんびされていたという学説がくせつ史し的てきな解釈かいしゃくが成立せいりつする．", "subitem_description_type": "Abstract"}]}, "item_4_publisher_35": {"attribute_name": "出版しゅっぱん者しゃ", "attribute_value_mlt": [{"subitem_publisher": "立正大学りっしょうだいがく経済けいざい学会がっかい"}]}, 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