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オリハルコン - Wikipedia

オリハルコン

古代こだいギリシア・ローマ世界せかい文献ぶんけん登場とうじょうする、どうけい合金ごうきんかんがえられる金属きんぞく

オリハルコン古希こき: ὀρείχαλκος, oreikhalkos, オレイカルコス: orichalcum, オリカルクム、えい: orichalcum, オリカルカム)は、古代こだいギリシアローマ世界せかい文献ぶんけん登場とうじょうする、どうけい合金ごうきんかんがえられる金属きんぞくである。もっと有名ゆうめいれいとしてプラトンが『クリティアス』のなか記述きじゅつした、アトランティス存在そんざいしたというまぼろし金属きんぞくげられる。古代こだいギリシア時代じだい文献ぶんけんでこの言葉ことば意味いみ多様たようではあるが、真鍮しんちゅう青銅せいどうなどのどうけい合金ごうきん意味いみするとおもわれる状況じょうきょうおおく、帝政ていせいローマ以降いこう考古学こうこがくてきにも明確めいかく真鍮しんちゅうす。

概要がいよう 編集へんしゅう

日本にっぽん特有とくゆうの「オリハルコン」という発音はつおんは、ギリシア単数たんすう対格たいかくがた ὀρείχαλκον (oreichalkon) の、現代げんだいギリシアみにちかいが、しもじゅつする経緯けいいから、それほどふか意味いみがあるわけではなく、たん英語えいごみの「オリカルカム」を日本人にっぽんじん発音はつおんしやすいように加工かこう(カをハに、語尾ごびのカムをコンに)した結果けっか、たまたまこういうかたちになっただけだとかんがえられる。

日本にっぽんではこの特殊とくしゅが、手塚てづか治虫おさむアニメはんうみのトリトン』(1972ねんあたりから使つかわれはじめ、その語呂ごろさから(「武器ぶき防具ぼうぐ素材そざいとなる神秘しんぴてきかた金属きんぞく」という設定せっていともに)様々さまざま漫画まんがアニメ日本にっぽんせいゲームでも採用さいようされて普及ふきゅう定着ていちゃくした。orihalcon, orichalcon などとつづられることもあるが、これは「オリハルコン」が登場とうじょうする日本にっぽんせいのゲームが国外こくがい輸出ゆしゅつされたさいまれたあたらしいつづりである。

原典げんてんであるプラトン『クリティアス』とう翻訳ほんやくにおいては、単数たんすう主格しゅかくがた ὀρείχαλκος (oreichalkos)古代こだいギリシアみで、「オレイカルコス」と表記ひょうきされることが一般いっぱんてきである。

語源ごげんは、オロス(ὄρος, orosさん)のカルコス(χαλκός, khalkosどう)。『ホメーロスふう讃歌さんか』や、ヘーシオドスの『ヘラクレスたて』などのはじめて登場とうじょうするが、これらの作品さくひんでは真鍮しんちゅう黄銅こうどうどう亜鉛あえん合金ごうきん)、青銅せいどうどうすず合金ごうきん)、赤銅しゃくどうどうきむ合金ごうきん)、天然てんねん産出さんしゅつする黄銅こうどうこうどうてつ混合こんごう硫化りゅうかぶつ)や、あるいはどうそのものと解釈かいしゃく翻訳ほんやくされている[1]ラテン語らてんごでは、オリカルクム(orichalcum)アウリカルクム(aurichalcumきんどう)とばれる。英語えいごではこれを英語えいごなまりでオリカルカムと発音はつおんする。

すくなくともローマ帝政ていせい以降いこう文献ぶんけんでは、アウリカルクムが「真鍮しんちゅう」を意味いみするようになったことは確実かくじつで、セステルティウスドゥポンディウスなどの真鍮しんちゅうせい銀貨ぎんか原料げんりょうとして言及げんきゅうされるようになる[2]現代げんだいギリシアのオリハルコス(ορείχαλκος , oreichalkos)やイタリアのオリカルコ(oricalco)は「真鍮しんちゅう」を意味いみする。

金属きんぞく希少きしょうであった時代じだいには、かね代用だいようとして祭祀さいしようかねいろ調合ちょうごうされた黄銅こうどう神秘しんぴてき金属きんぞくとしてもちいられていたれいおおい。時代じだいがってどう合金ごうきん生産せいさんりょうえてくると通貨つうかなどに使つかわれるようになり、神秘しんぴせいうすれていった。

ぎゃく神秘しんぴせいたかめて架空かくう金属きんぞくへと昇華しょうかしたのが、プラトンの『クリティアス』による記述きじゅつとそこから派生はせいした資料しりょう記述きじゅつされているものである。これらの記述きじゅつは、文献ぶんけんでの記述きじゅつとは隔絶かくぜつした存在そんざいとなっており、まったべつ架空かくう存在そんざいとみなせる。プラトンの『クリティアス』であつかわれる伝説でんせつじょうまぼろし金属きんぞくとしてのオレイカルコスは、いまでは名前なまえのみがつたわっているまぼろし金属きんぞくとして登場とうじょうしている。神秘しんぴせいった架空かくう存在そんざいであるがゆえに様々さまざま解釈かいしゃく想像そうぞうみ、ファンタジー小説しょうせつなどの創作そうさくぶつ登場とうじょうするにいたった。

古典こてん文献ぶんけんへの登場とうじょう 編集へんしゅう

初期しょき 編集へんしゅう

ヘシオドスがいたとつたえられている『ヘラクレスのたて』の断片だんぺんなかで、英雄えいゆうヘラクレスが「ヘーパイストスからの見事みごとおくものである、かがやけるオレイカルコスせいずねてを装着そうちゃくした」という一節いっせつがある(Hes.Scht.122)。これがオレイカルコスという単語たんご初出しょしゅつかんがえられている。

ホメロスいたとつたえられている『ホメロス賛歌さんか』のだい6しょうアプロディーテーへの賛歌さんかなかで、女神めがみアプロディテは「りょうみみよりオレイカルコスとたっとかね出来でき装飾そうしょくひんげている」とうたわれている(h.Hom.6.9)。『ホメロス賛歌さんか』は複数ふくすう詩人しじんによって時代じだいをおいてつくられた34へん集合しゅうごうたいであるが、こちらのほうが『ヘラクレスのたて』よりもふるいとするせつもある。

プラトンのクリティアス 編集へんしゅう

プラトンがアトランティス伝説でんせつふくむ『ティマイオス』と『クリティアス』をいたのは晩年ばんねん紀元前きげんぜん360ねん前後ぜんこう推測すいそくされており、『クリティアス』の作中さくちゅう4箇所かしょ5オレイカルコスという単語たんご登場とうじょうする。

(アトランティスとうではありとあらゆる必需ひつじゅひん産出さんしゅつし、)いまでは名前なまえのこすのみだが、当時とうじ名前なまえ以上いじょう存在そんざいであったものが、しまのいたるところで採掘さいくつすることができた。すなわちオレイカルコスで、そのころられていた金属きんぞくなかでは、かねのぞけばもっと価値かちのあるものであった。(114e)

(アトランティスとうの)いち番外ばんがいがわ環状かんじょうたいかこんでいる城壁じょうへきは、まるでりつぶしたかのようにどう(カルコス)でおおわれており、城壁じょうへき内側うちがわすずで、アクロポリス直接ちょくせつかこ城壁じょうへきほのおのようにかがやくオレイカルコスでおおわれていた。(116b–116c)

ポセイドーン神殿しんでんの)外側そとがわぎんおおわれていたが、尖塔せんとうべつで、かねおおわれていた。一方いっぽう内側うちがわは、天井てんじょうすべ象牙ぞうげされており、きむぎんおよびオレイカルコスでかざられていた。そしてのこりのかべはしらゆかはオレイカルコスがめられていた。(116d)

(アトランティスを支配しはいする10にんおうたちは)ポセイドンの戒律かいりつしたがっていたが、そのほうは、初代しょだいおうたちによってオレイカルコスのはしらきざまれた記録きろくとしてつたえられており、そのはしらしま中央ちゅうおうのポセイドンの神殿しんでん安置あんちされていた。(119c–119d)

このようにプラトンのアトランティス伝説でんせつにおけるオリハルコンは、武器ぶきとしては使つかわれておらず、かたさ・丈夫じょうぶさよりも、希少きしょう価値かちうたわれている。オリハルコンは、真鍮しんちゅう黄銅こうどう)・青銅せいどう赤銅しゃくどうなどのどうけい合金ごうきん黄銅こうどうこう青銅せいどうこうなどの天然てんねん鉱石こうせき、あるいはどうそのものと解釈かいしゃくするせつさい有力ゆうりょくであるが、てつ琥珀こはく石英せきえいダイヤモンド白金はっきんフレスコよう顔料がんりょうアルミニウムきぬなど、種々しゅじゅ解釈かいしゃくがある。またアトランティス伝説でんせつ同様どうよう架空かくう存在そんざいとするせつおお[3]

なお『クリティアス』の原文げんぶんちゅうに、カルコス(χαλκός)という単語たんご登場とうじょうするが、この単語たんご真鍮しんちゅう青銅せいどうなどのひろ意味いみでの「どうけい合金ごうきんをもふくむ。そのため、装飾そうしょくひんとしてのカルコスにたいしては、びやすいどうではなく「真鍮しんちゅう」「青銅せいどう」などの訳語やくごてはめることがおおい。そのためオリハルコンは真鍮しんちゅう青銅せいどうとはことなると解釈かいしゃくされることがある。

その 編集へんしゅう

アリストテレス は、『分析ぶんせきろん後書あとがき』のなか言葉ことば定義ていぎについて議論ぎろんしており、定義ていぎ曖昧あいまい言葉ことばれいとしてオレイカルコスをげている(Arist.APo.92b22)。また『異聞いぶんしゅうだい58せつによると、カルタゴひと支配しはいするデモネソスとうでは、キュアノス(κύανος, kyanos[4]孔雀石くじゃくせき採取さいしゅされ、さらしま沖合おきあいにはもともぐりで採掘さいくつできるどう鉱脈こうみゃくがある。シキュオンまちにあるアポローン銅像どうぞうは、ここで採掘さいくつされたどうつくられ、ペネオスにあるオレイカルコスのぞうも、このしま採掘さいくつされたものからつくられたという(Arist.Mir.834b25)。

ウェルギリウスの『アエネイス』に「しろいオリカルクム (alboque orichalcum)」という言葉ことば登場とうじょうするが(Ver.A.12,87)、マウルス・セルウィウス・ホノラトゥス注釈ちゅうしゃくほんによると、これはおうきん亜鉛あえん25%含有がんゆう黄銅こうどう)をす(Serv.A.12.87,12.210)。

ストラボンの『地理ちりだい13かんによると、トロイア近郊きんこうイダさん北西ほくせいふもと位置いちしたというアンデイラのまちでは、やすとてつになるいしれたが、これをあるしゅるい一緒いっしょ溶鉱炉ようこうろやすと、プセウダルギュロス(ψευδάργυρος, pseudargyros;「にせぎん」の。おそらく亜鉛あえんのこと)が精錬せいれんされる。このプセウダルギュロスはどう合金ごうきんつくり、オレイカルコスとばれるものになる。プセウダルギュロスはトゥモロスのやまでも産出さんしゅつした、としるされている(Strabo.xiii.1.56)。

だいプリニウスは『博物はくぶつ』のなか天然てんねん産出さんしゅつするどうけい鉱石こうせき一種いっしゅとしてアウリカルクム(auricalcum;きんどう)についてれており、かつては非常ひじょう価値かちがあり珍重ちんちょうされたものの、いまではうしなわれてしまっているとべている(Pli.H.N.34.2)。

フラウィウス・ヨセフスの『ユダヤ古代こだいだい11かんラテン語らてんご訳文やくぶんにおいて、ソロモン宮殿きゅうでんにアウリカルコムせいうつわ奉納ほうのうされていると記述きじゅつしているものがある。ただしギリシア原文げんぶんにおいては、「かねよりも価値かちのあるカルコス(どうるい)のうつわ[5]」と表記ひょうきされている(J.AJ.11.136)。同様どうようきよしヒエロニムスによってやくされたラテン語らてんごやく聖書せいしょウルガータ)の『れつおうじょう(1 Kings 7.45)や『黙示録もくしろく』(Apoc.1.15; Apoc.2.18)では、それぞれアウリカルクム、オリカルクムという単語たんごが、真鍮しんちゅうたいするラテン語らてんご訳語やくごとして使つかわれている。

このほかオレイカルコスが登場とうじょうする古典こてんギリシア文献ぶんけんとしては、以下いかのようなものがある。

10世紀せいきまつ完成かんせいした百科ひゃっか事典じてんてきギリシア辞典じてんであるスーダ辞典じてんによると、オレイカルコスは自然しぜんさんする金属きんぞくで、透明とうめいどうのようなものだったが、もはや採掘さいくつ不可能ふかのうとなったと解説かいせつしている。 これらの作品さくひんのオリハルコンがなにすかは正確せいかくにはからないが、楽器がっき装飾そうしょくひん材料ざいりょうとして登場とうじょうすることから、真鍮しんちゅう黄銅こうどうこう解釈かいしゃくされることがおおく、各国かっこく翻訳ほんやくされている。

また、ラテン語らてんごのアウリカルクムが登場とうじょうする作品さくひんとしては、以下いかのようなものがある。

  • プラウトゥス
    • 『クルクリオ』(Plaut.Cur.1,3,46)
    • 『ミレス・グロリオスス』(Plaut.Mil.3,1,61)
    • 『プセウドルス』 (Plaut.Ps.2,3,22)
  • スエトニウスの『ローマ皇帝こうていでん』のウィテリウスつて(Suet.Vit.5.1)などがある。

ラテン語らてんごのオリカルクムが登場とうじょうする作品さくひんとしては、以下いかのようなものがある。

皇帝こうていアウグストゥス貨幣かへい改革かいかくにより真鍮しんちゅうせいのコインがつくられるようになり、「オリカルクム」、「アウリカルクム」は明白めいはく真鍮しんちゅう意味いみするようになる。

近代きんだい以降いこう解釈かいしゃく 編集へんしゅう

コロンブスによる新大陸しんたいりく発見はっけん以降いこう哲学てつがくしゃ文筆ぶんぴつとしてられるフランシス・ベーコン の『ニュー・アトランティス』においてユートピアとして新大陸しんたいりく=アトランティスがえがかれ、アトランティス伝説でんせつへの興味きょうみ徐々じょじょたかまっていった。SFのちちわれるジュール・ヴェルヌの『海底かいていまん』の作中さくちゅうには海底かいていしずんだアトランティスの遺跡いせき登場とうじょうする。そしてアメリカの政治せいじイグネイシャス・ドネリー (Ignatius Donnellyが、『アトランティス』 (Atlantis: The Antediluvian World発表はっぴょうしたことにより、アトランティス伝説でんせつがブームとなった。

かみ智学ちがく創設そうせつしゃブラヴァツキー夫人ふじんは、みずからの所有しょゆうする『ジャーンのしょ』を注釈ちゅうしゃくしたという人類じんるい歴史れきしを『シークレット・ドクトリン』にまとめ、うしなわれた大陸たいりくアトランティスとそこにだいよん根源こんげん人種じんしゅ歴史れきし記述きじゅつした。また英国えいこく神智しんち学者がくしゃウィリアム・スコット=エリオット (William Scott-Elliotの『アトランティス物語ものがたり』によると、アトランティスには「しゅ白色はくしょく金属きんぞく一種いっしゅ赤色あかいろ金属きんぞくからなる、アルミニウムよりもかる合金ごうきん」でつくられた戦闘せんとうよう飛行船ひこうせん存在そんざいし、その動力どうりょくは「ヴリル (Vril)」[7]ばれるものだったという。スコット=エリオットはこれらの素材そざい動力どうりょくげんとオリハルコンをとくむすけていないが、 アトランティスじんまれわりをしょうする予言よげんしゃエドガー・エヴァンズ・ケイシーのリーディングによってオリハルコンが未知みちしん素材そざい動力どうりょくげん関連付かんれんづけられるようになった。ファンタジー小説しょうせつ・ゲームなどに、非常ひじょうかた武器ぶき原料げんりょう・ロケットの動力どうりょくげんなどのモチーフとともにオリハルコンが登場とうじょうするようになったのはこれ以降いこうであるが、これらのオリハルコンにまつわるモチーフは、古典こてん作品さくひんにはまった登場とうじょうしないものである。

登場とうじょうする作品さくひん 編集へんしゅう

おおくの娯楽ごらく作品さくひん登場とうじょうする。以下いかはそのいちれいである。

脚注きゃくちゅう 編集へんしゅう

  1. ^ William Smith, LLD, William Wayte, G. E. Marindin, Ed. "A Dictionary of Greek and Roman Antiquities", 1890.
  2. ^ Earle R. Caley, "Orichalcum and Related Ancient Alloys. Origin, Composition, and Manufacture with Special Reference to the Coinage of the Roman Empire", American Numismatic Society, 1965.
  3. ^ 金子かねこ史朗しろう『アトランティス大陸たいりくなぞ講談社こうだんしゃ、1973ねん
  4. ^ 正確せいかくには不明ふめいだが、シアンいろ青銅せいどうこう解釈かいしゃくされている
  5. ^ χかいαあるふぁλらむだκかっぱᾶ σκεύη χかいρろーυうぷしろんσしぐまοおみくろんῦ κρείττονα, khalkā skeue khrysū kreittona
  6. ^ Lav.Pall. = Lavacrum Palladis
  7. ^ エドワード・ブルワー=リットンのSF小説しょうせつたるべき人種じんしゅ』に登場とうじょうする単語たんご

関連かんれん項目こうもく 編集へんしゅう

外部がいぶリンク 編集へんしゅう

  • Perseus Digital Library -(『クリティアス』などのギリシア・ローマの古典こてん原文げんぶんめる。)