アメリカン・ゴシック

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
曖昧さ回避 この項目こうもくでは、絵画かいが作品さくひんについて説明せつめいしています。その他たの用法ようほうについては「アメリカン・ゴシック (曖昧あいまいさ回避かいひ)」をご覧らんください。
『アメリカン・ゴシック』
英語えいご: American Gothic
作者さくしゃグラント・ウッド
製作せいさく年ねん1930年ねん
種類しゅるい油彩ゆさい、ビーバーボード（英語えいご版ばん）
寸法すんぽう78 cm × 65.3 cm (31 in × 25.7 in)
所蔵しょぞうシカゴ美術館びじゅつかん、シカゴ

『アメリカン・ゴシック』（英えい: American Gothic）は、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの画家がかグラント・ウッドが1930年ねんに描えがいた油絵あぶらえである。シカゴ美術館びじゅつかんが所蔵しょぞうしている。

平屋ひらやの古風こふうな家いえの前まえに三叉みつまたのピッチフォークを手てにして立たっている農夫のうふと、その側がわに立たつ農夫のうふの娘むすめ（しばしば農夫のうふの妻つまと間違まちがわれる）が描えがかれている[1][2]。この家いえはアイオワ州しゅうエルドン（英語えいご版ばん）にある「ディブル邸てい」で、現在げんざいは「アメリカン・ゴシック・ハウス（英語えいご版ばん）」と呼よばれている。タイトルは、この家いえの建築けんちく様式ようしきであるカーペンター・ゴシック（英語えいご版ばん）にちなんだものである。

この作品さくひんは20世紀せいきのアメリカの絵画かいがの中なかで最もっとも有名ゆうめいなものの一ひとつであり、アメリカの大衆たいしゅう文化ぶんかにおいて様々さまざまなパロディ化かがなされている[1][3]。

製作せいさく[編集へんしゅう]

A portrait of a man
『グラント・ウッド 自画像じがぞう』（1932年ねん、フィゲ美術館びじゅつかん（英語えいご版ばん）蔵くら）
ディブル邸てい（英語えいご版ばん）（アイオワ州しゅうエルドン（英語えいご版ばん））

1930年ねん8月がつ、アイオワ州しゅうシーダーラピッズに住すむウッドは、地元じもとの画家がかジョン・シャープの案内あんないでアイオワ州しゅうエルドンをドライブしていた。絵えの題材だいざいを求もとめていたウッドは、「ディブル邸てい」と呼よばれるカーペンター・ゴシック様式ようしきの小ちいさな白しろい家いえに目めを留とめた[4]。シャープの弟おとうとによれば、ウッドはこのドライブ中ちゅうに封筒ふうとうの裏うらにこの家いえをスケッチした。ダレル・ガーウッドによるウッドの伝記でんきによれば、ウッドは「このような脆もろい骨組ほねぐみの家いえにゴシック様式ようしきの窓まどをつけるのは、取とってつけたような気取きどった形態けいたいだ」と思おもったという[5]。

当時とうじ、ウッドはこの家いえを「アイオワ州しゅうの農場のうじょうにあるボぼール紙るがみのような骨組ほねぐみの家いえ」の一ひとつとして分類ぶんるいし、「非常ひじょうに絵えに描えがきたくなる」と評ひょうしていた[6]。当時とうじのこの家いえの所有しょゆう者しゃであるセルマ・ジョーンズ＝ジョンストンとその家族かぞくの了承りょうしょうを得えて、ウッドは板紙いたがみに油彩ゆさいで前庭ぜんていからスケッチを描えがいた。スケッチでは、急きゅう勾配こうばいの屋根やねと長ながい窓まどが描えがかれ、これは最終さいしゅう的てきな作品さくひんにも特徴とくちょう的てきに描えがかれているが、窓まどは実際じっさいのものよりも顕著けんちょに先さきが尖とがって（英語えいご版ばん）描えがかれていた。

ウッドはこの家いえを、「その家いえにはこんな人じんたちが住すんでいるはずだ」と考かんがえた[1]農夫のうふとその娘むすめと一緒いっしょに描えがくことにした。娘むすめのモデルにはウッドの妹いもうとのナン・ウッド・グラハム（英語えいご版ばん）（1899年ねん - 1990年ねん）を起用きようし、20世紀せいきのアメリカーナを想起そうきさせるようなコロニアル柄がらのエプロンを着きせた。このエプロンは、ウッドがナンに作つくらせたものである。ウッドは、その時代じだいを反映はんえいさせて縁えんにリックラック（英語えいご版ばん）を入いれるよう求もとめたが、リックラックは既すでに店みせで買かうことができなかったため、母ははの古ふるいドレスから外はずしてエプロンにつけた[7]。農夫のうふのモデルには、ウッド家かの掛かかりつけ歯科しか医い[8]でシーダーラピッズ出身しゅっしんのバイロン・マッキービィ(Dr. Byron McKeeby、1867年ねん - 1950年ねん)を起用きようした[9][10]。マッキービィにはオーバーオールの上うえにジャケットを羽織はおらせ、右手みぎてにピッチフォークを持もたせた。ナンによれば、ウッドは2人ふたりを夫婦ふうふではなく親子おやことして想定そうていしており、ウッドが1941年ねんにネリー・サドゥース夫人ふじんに宛あてた手紙てがみでも「彼かれと一緒いっしょにいるすました女性じょせいは、成長せいちょうした彼かれの娘むすめです」と書かかれている[1][11]。

ウッドがスケッチに人物じんぶつを加くわえたのは、シーダーラピッズのアトリエに戻もどった後のちだった[12]。またウッドは、絵えを描えがいている途中とちゅうでこの家いえの写真しゃしんを送おくってもらっただけで、エルドンを再訪さいほうすることはなかった[4]。

この絵えの構成こうせい要素ようそは、ゴシック様式ようしきの家いえの垂直すいちょくの線せんを強調きょうちょうしている。農夫のうふのオーバーオールのシャツの縫ぬい目め、家いえの屋根やねの下したにある縦長たてながの窓まどの枠わく、面長おもながの農夫のうふの輪郭りんかくなどに、直立ちょくりつした三叉みつまたのピッチフォークと類似るいじの意匠いしょうが現あらわれている[13]。

家いえのポーチに置おかれた植物しょくぶつはサンセベリアとベゴニアであり、ウッドが1929年ねんに描えがいた自身じしんの母親ははおやの肖像しょうぞう画が『植物しょくぶつと女おんな』にも描えがかれている[14]。

公開こうかいと反響はんきょう[編集へんしゅう]

ウッドはこの作品さくひんをシカゴ美術館びじゅつかんの展覧てんらん会かいに出品しゅっぴんした。ある審査しんさ員いんは「コミカルなバレンタイン」と酷評こくひょうしたが、美術館びじゅつかんの後援こうえん者しゃがその審査しんさ員いんを説得せっとくして、ウッドに銅どうメダルと賞金しょうきん300ドルを授与じゅよした[15]。この後援こうえん者しゃは美術館びじゅつかんに対たいしてこの作品さくひんを購入こうにゅうするよう要請ようせいし、今いまもシカゴ美術館びじゅつかんの所蔵しょぞう品ひんとなっている[2]。

この作品さくひんは、発表はっぴょう直後ちょくごに『シカゴ・イブニング・ポスト（英語えいご版ばん）』で紹介しょうかいされ、その後ご、ニューヨーク、ボストン、カンザスシティ、インディアナポリスの新聞しんぶんにも掲載けいさいされた。しかし、シーダーラピッズの新聞しんぶん『ガゼット』で紹介しょうかいされると、住民じゅうみんたちから、自分じぶんたちが「やつれて、険けわしい表情ひょうじょうをした、清教徒せいきょうと的てきな聖書せいしょ崇拝すうはい者しゃ」として描えがかれているとして反発はんぱつが起おこった[16]。ウッドは、これはアイオワ州しゅうの住民じゅうみんを風刺ふうししたものではないと反論はんろんし、アイオワ州しゅうに対たいする感謝かんしゃの気持きもちを描えがいたのだと述のべた[8]。1941年ねんの手紙てがみの中なかでウッドは、「一般いっぱん的てきに、この絵えに憤慨ふんがいしている人々ひとびとは、自分じぶんがこの絵えに似にていると感かんじているのだということがわかった」と述のべている[17]。

ガートルード・スタインやクリストファー・モーリー（英語えいご版ばん）などの、この作品さくひんに好意こうい的てきだった美術びじゅつ批評ひひょう家かたちも、これは田舎いなかの小ちいさな町まちの生活せいかつを風刺ふうししたものだと考かんがえていた。当時とうじ、シャーウッド・アンダーソンの小説しょうせつ『ワインズバーグ・オハイオ』（1919年ねん）、シンクレア・ルイスの『本町通ほんまちどおり』（1920年ねん）、カール・ヴァン・ヴェクテンの『刺青しせいのある伯爵はくしゃく夫人ふじん（英語えいご版ばん）』（1924年ねん）などのように、アメリカの田舎いなかを批判ひはん的てきに描えがく傾向けいこうが強つよまる流ながれがあり、この作品さくひんもその一部いちぶとして理解りかいされたのである[1]。

しかし、この作品さくひんが描えがかれてからすぐに世界せかい恐慌きょうこうが深刻しんこく化かすると、この作品さくひんは西部せいぶ開拓かいたく時代じだいの揺ゆるぎない開拓かいたく者しゃ精神せいしんを描えがいたものだとみなされるようになった。当時とうじのウッドは、東海岸ひがしかいがんが支配しはいするアメリカ画壇がだんに反旗はんきを翻ひるがえしたジョン・スチュアート・カリーやトーマス・ハート・ベントンなどの中西部ちゅうせいぶの画家がかと行動こうどうを共ともにしており、このような解釈かいしゃくの転換てんかんを好意こうい的てきに受うけ止とめた。ウッドはこの時期じき、「私わたしが思おもいついた良よいアイデアは全すべて、牛うしの乳ちち搾しぼりをしているときに思おもいついたものだ」と述のべている[1]。ウッドは、農夫のうふとその娘むすめを「苦難くなんを乗のり越こえた人ひと」として描えがき、田舎いなかのコミュニティの強つよさに敬意けいいを表あらわし、経済けいざいが大おおきく動揺どうようする時代じだいに安心あんしんを与あたえることを意図いとしていた[18]。

パロディ化か[編集へんしゅう]

ゴードン・パークス『アメリカン・ゴシック（英語えいご版ばん）』

世界せかい恐慌きょうこう時代じだい、写真しゃしん家かのゴードン・パークスは、この絵えをパロディ化かして、星条旗せいじょうきの前まえで掃除そうじ婦ふのエラ・ワトソンが箒ほうきを持もって立たっている写真しゃしん『アメリカン・ゴシック（英語えいご版ばん）』を撮影さつえいした[1]。これがこの絵画かいがの最初さいしょのパロディ化かであり、『ザ・ミュージックマン』などのミュージカル、『ロッキー・ホラー・ショー』や『ナイトミュージアム2』などの映画えいが、『ザ・シンプソンズ』や『スポンジ・ボブ』などのテレビ番組ばんぐみのような大衆たいしゅう文化ぶんかで頻繁ひんぱんにパロディ化かされるようになった。2017年ねんに英国えいこくロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ (RA) が発表はっぴょうした「最もっともパロディ化かされた芸術げいじゅつ作品さくひん10選せん」の中なかに本ほん作さくも含ふくまれている[19]。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f g Fineman, Mia (June 8, 2005). "The Most Famous Farm Couple in the World: Why American Gothic still fascinates". Slate.
  2. ^ a b “About This Artwork: American Gothic”. The Art Institute of Chicago. 2010年ねん5月がつ28日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2010年ねん6月がつ20日はつか閲覧えつらん。
  3. ^ Güner, Fisun (2017年ねん2月がつ8日にち). “How American Gothic became an icon”. BBC. 2017年ねん3月がつ2日にち閲覧えつらん。
  4. ^ a b “American Gothic House Center”. Wapello County Conservation Board. 2009年ねん6月がつ18日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2009年ねん7月がつ14日にち閲覧えつらん。
  5. ^ Garwood, p. 119
  6. ^ Quoted in Hoving, p. 36
  7. ^ Taylor, Sue (2020) (English). Grant Wood's Secrets. Newark, Delaware: University of Delaware Press. pp. 10. ISBN 9781644531655 
  8. ^ a b Semuels, Alana (2012年ねん4月がつ30日にち). “At Home in a Piece of History”. Los Angeles Times. http://articles.latimes.com/2012/apr/30/business/la-fi-gothic-house-20120501 2013年ねん2月がつ25日にち閲覧えつらん。 
  9. ^ "Dr. Byron McKeeby's contribution to Grant Wood's 'American Gothic'"
  10. ^ “The models for American Gothic”. 2015年ねん1月がつ6日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2015年ねん1月がつ8日にち閲覧えつらん。
  11. ^ “Grant Wood's Letter Describing American Gothic”. Campsilos.org. 2018年ねん11月15日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2010年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
  12. ^ Quoted in Biel, p. 22
  13. ^ “Grant Wood's American Gothic”. Smarthistory at Khan Academy. 2012年ねん12月18日にち閲覧えつらん。
  14. ^ “The Painting”. American Gothic House. 2014年ねん11月29日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2015年ねん1月がつ8日にち閲覧えつらん。
  15. ^ Biel, Steven (2005). American Gothic: A Life of America's Most Famous Painting. W. W. Norton & Company. p. 28. ISBN 978-0-393-05912-0. https://archive.org/details/americangothicli00biel/page/28 
  16. ^ Andréa Fernandes. “mental_floss Blog » Iconic America: Grant Wood”. Mentalfloss.com. 2009年ねん2月がつ15日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2010年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
  17. ^ “Grant Wood's Letter Describing American Gothic”. www.campsilos.org. 2021年ねん5月がつ4日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2020年ねん6月がつ30日にち閲覧えつらん。
  18. ^ “American Gothic – The Story Behind Grant Wood's Iconic Painting”. Widewalls. 2023年ねん3月がつ6日にち閲覧えつらん。
  19. ^ Sheen, Annabel (2017年ねん3月がつ31日にち). “10 of the most parodied artworks of all time” [時代じだいを超こえて最もっともパロディ化かされた芸術げいじゅつ作品さくひん 10選せん] (英語えいご). ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ. 2020年ねん10月がつ13日にち閲覧えつらん。

情報じょうほう源げん[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

映像えいぞう外部がいぶリンク
Smarthistory: Grant Wood's American Gothic
American Gothic House
「https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=アメリカン・ゴシック&oldid=99561222」から取得しゅとく