ポスター報告ほうこく 20

大岡おおおか 由佳ゆか (おおおか ゆうか)
武庫川女子大学むこがわじょしだいがく   
山田やまだ嘉則よしのり(やまだ よしのり)
クリニックちえのわ

#報告ほうこく題目だいもく

トラウマ・インフォームド・ケアの射程しゃていートラウマ理解りかいもとづくひと-地域ちいき-社会しゃかいとは?

#報告ほうこくキーワード

トラウマ・インフォームド・ケア(TIC) / トラウマ体験たいけん / 精神せいしん障害しょうがい

#報告ほうこく要旨ようし

 欧米おうべいでトラウマ・インフォームドケア(Trauma Informed Care ,TIC)が医療いりょう福祉ふくし教育きょういくなどの分野ぶんや注目ちゅうもくあつめている。日本にっぽんでも限定げんていてき文脈ぶんみゃくではあるが最近さいきんようやく言及げんきゅうされるようになってた。報告ほうこくしゃらは自身じしん実践じっせん教育きょういくでTICの実装じっそう目指めざしている。だがTICは「あたらしい精神せいしん保健ほけんサービス」ではなく、それをはるかにえる射程しゃていつ。とう報告ほうこくではTICを精神せいしん障害しょうがい社会しゃかいモデルと関係かんけいづけて考察こうさつし、その射程しゃてい一端いったんあきらかにすることを目指めざす。
 精神せいしん障害しょうがいしゃちゅう)のおおくが過去かこ現在げんざいのトラウマの影響えいきょうのもとにあることが近年きんねんあきらかになってきた。「トラウマをえてきるひと」をサバイバーとべるなら、精神せいしん障害しょうがいしゃもまたサバイバーである。それをまえ、すべての精神せいしん保健ほけんサービスはトラウマ理解りかいもとづいて構成こうせいされなければならない。TICはそれを言葉ことばである。従来じゅうらい支援しえんもとめるサバイバーは”What’s wrong with you?”とわれた。一方いっぽう、TICでは”What happened to you?”とう。
 ここにはつぎのようなTICの基本きほん思想しそうがある。
 「わるいこと」は「あなた」のうちではなくそとにある。その「わるいこと」はトラウマ体験たいけんとなった出来事できごとである、「わるい」のはあなたではない、「おかしい」のはあなたではなく(かりにそうえるなにかがあっても)大事だいじなことはあなたがなに体験たいけんしそれをどうびてきたかである。
 TICは障害しょうがい社会しゃかいモデルと親和しんわせいがある。問題もんだい個人こじんうちではなくそとにある、という理解りかいは、ナラティブ・セラピーでう「問題もんだい外部がいぶ」をえて「個人こじんでなく社会しゃかい問題もんだいである」とする社会しゃかいモデルに接近せっきんしている。以下いかのように、トラウマへの着目ちゃくもく精神せいしん障害しょうがい社会しゃかいモデルに寄与きよする。
 精神せいしん障害しょうがいしゃおおくにはACE(ども時代じだい有害ゆうがい体験たいけん)をはじめとするトラウマ体験たいけんがある。「症状しょうじょう」とわれるもののおおくは、「異常いじょうな」体験たいけんたいする「正常せいじょうな」反応はんのうである。それにくわえて、精神せいしん障害しょうがいしゃたいする社会しゃかいてき排除はいじょは、たとえば身体しんたい障害しょうがいしゃのそれとは異質いしつである。制度せいどてき差別さべつ(structural disablism)にくわえて心理しんり感情かんじょうてき差別さべつ(psycho-emotional disablism)が精神せいしん障害しょうがいしゃには作用さようする。これがトラウマとしてさらなる苦痛くつうをもたらす。ここでのインペアメントディスアビリティの関係かんけいはあたかも表裏ひょうりがつながるメビウスのおびのようである(Reeve 2012)。
 そして重要じゅうようなのはトラウマが社会しゃかいてき事象じしょうであることだ。トラウマとなる出来事できごと背景はいけいには圧倒的あっとうてきなパワーの均衡きんこうがある。自然しぜん災害さいがいでは自然しぜんたい人間にんげんであるが、対人たいじん暴力ぼうりょくによるトラウマの背景はいけいには支配しはい支配しはい関係かんけいがある。そして後者こうしゃ前者ぜんしゃより影響えいきょうおおきいとされる。 
TICでは、トラウマ理解りかいをもとに、支援しえんしゃとサバイバー、支援しえんしゃ相互そうご対等たいとう関係かんけい目指めざされる。現在げんざい精神せいしん医療いりょう存在そんざいする専門せんもんしょく専門せんもんしょく・サバイバーのヒエラルキーはさらなるdisablism、さらなるトラウマをもたらすが、TICでは、そのありかた根本こんぽんてき転換てんかんもとめられるのだ。
 さらに、文化ぶんか歴史れきし、ジェンダーの問題もんだいむことがTICの課題かだいとしてげられる(SAMHSA 2014)。すなわち、少数しょうすう民族みんぞく女性じょせいやLGBT、そして障害しょうがいしゃなどの抑圧よくあつされるマイノリティへの配慮はいりょである。支配しはい抑圧よくあつのあるところトラウマがある。そしてトラウマは連鎖れんさ世代せだいえてつたわる。この歴史れきしてきトラウマの視点してんつことで、TICは個人こじんあるいは個別こべつ障害しょうがいえ、支援しえんひろ社会しゃかいひらいていく。それが目指めざすのはトラウマ・インフォームドな社会しゃかいである。
 ほん報告ほうこくでは、文献ぶんけんとうですでに公表こうひょうされた事例じれいをTICの観点かんてんからさい分析ぶんせきする。すなわち、トラウマ体験たいけん焦点しょうてんて、それを理解りかいしたうえでどのような対応たいおう可能かのうであったか検証けんしょうする。そのうえで、トラウマインフォームドな社会しゃかいについて考察こうさつしたい。
倫理りんりてき配慮はいりょ
ほん研究けんきゅう日本にっぽん社会しゃかい福祉ふくし学会がっかい研究けんきゅう倫理りんり指針ししん参照さんしょうし、引用いんようなどについて、必要ひつよう倫理りんりてき配慮はいりょおこなっている。

ちゅう
文中ぶんちゅう精神せいしん障害しょうがい」「精神せいしん障害しょうがいしゃ」のかたりもちいているが、「心理しんり社会しゃかいてき障害しょうがい」「精神せいしん医療いりょうユーザー・サバイバー」などの呼称こしょう提起ていきされていること、ユーザーサバイバー運動うんどう一部いちぶには「障害しょうがい」(disalibity)というかたりこば当事とうじしゃ存在そんざいすることをしるしておく。

参考さんこう文献ぶんけん
Reeves,D. (2012) . Psycho-Emotional Disablism In The Lives Of People Experiencing Mental Distress