![「勇樹とはずっと『日本に帰ってきたら一緒にやろう』と…」《千葉ジェッツ入団決定》渡邊雄太と富樫勇樹 エース2人の“見えない絆”とは?](https://img.news.goo.ne.jp/image_proxy/compress/q_80/picture/numberweb/s_numberweb-862239.jpg)
「勇樹とはずっと『日本に帰ってきたら一緒にやろう』と…」《千葉ジェッツ入団決定》渡邊雄太と富樫勇樹 エース2人の“見えない絆”とは? photograph by (L)JIJI PRESS、(R)FIBA
(Number Web)
NBAで
活躍した
渡邊雄太のBリーグ・
千葉ジェッツへの
入団が
発表された。
同チームには
現在、Bリーグの
顔となる
選手のひとりでもある
富樫勇樹というアイコンがいる。かねてから
日本バスケを
牽引してきた
2人の
間にある“
隠れた
絆”とは。《
全2
回の2
回目/
最初から
読む》
渡邊雄太がBリーグ入りを宣言して以降、B1のほとんどのチームが獲得に名乗りを上げ、4億円とも6億円とも言われるような年俸でオファーを出したという。それがNBA選手の価値である。
そもそも、世界のアスリートのなかで、給料と広告収入などを含めた年間の総収入ランキングのトップ100にもっとも多くの選手を送りだしている競技はバスケットボールだ。NBAを例にとるとわかりやすいが、試合数が80試合以上ありながら、年間に抱える選手は1チームあたり15人程度。収入を得られる試合数がある程度担保されていながら、1チームあたりの選手数が少なくてすむ競技だから、1人あたりの収入が増えるのだ。
資本主義国家である以上、好待遇が用意された世界に優秀な人たちが集まるのは当然のこと。渡邊効果はすでに表れ始めている。
10月から千葉ジェッツは新アリーナも
千葉ジェッツは10月にスタートする新シーズンから、新設されたLaLa arena TOKYO-BAYの使用を開始する。新アリーナでは1万人以上を収容できるため、これまでよりも観客収容人数が5000人以上増える予定だ。
ホームゲームは年間、最低30試合。増えた分のチケット単価を平均で4000円と仮定すると、こんな計算が成り立つ。5000人×4000円×30試合=6億円だ。実際には、ビジネスラウンジなども備えているから、チケット単価はもっと高いはず。渡邊のグッズが売れ筋商品になるのは間違いないし、これを機にスポンサーになりたいと考える企業も多いだろう。
そう、仮に渡邊の年棒が6億円でもおつりがくるくらいなのだ。
経済効果はジェッツだけにとどまらず、Bリーグ全体に及ぶ。現在ジェッツの「顔」でもある富樫勇樹が高校3年生、渡邊が2年生で初めて代表入りしたとき、2人の世話役を買って出ていた公認会計士の資格を持つ岡田優介という選手がいる。
彼はバスケ界のご意見番として、Xのアカウントにこんな投稿をした。
<「渡邊雄太が観れますよ」というパワーワードを全ての人が無料で使えるという経済効果>
もっとも、渡邊がジェッツを選んだ理由はお金ではないだろう。
Bリーグ入りを表明した場で、過去の優勝経験や給料ではなく、「僕を本気で欲してくれるチーム」にこだわると彼は語っていた。今回、それを示せたのがジェッツだったということだろう。
「勇樹とは『日本に帰ってきたら一緒にやろう』と…」
昨年夏、富樫の所属する事務所が主催した富樫と渡邊によるオンライントークイベントで、こんなやり取りがあった。
ファンからの質問に答える形で口火を切ったのが富樫だった。
「どこの国に行っても、優勝ってやはり全然違うから。例えば、雄太が日本のチームにいるとなって、そこに入ったら優勝の確率が高いと思ったら、そして(自分がそのチームに)行けるんだったら、絶対に俺は行くからね(笑)。『雄太を倒してこそ……』みたいな感情の人も、もちろんいるだろうけど、やはり優勝したいから」
渡邊もこう応じていた。
「勇樹とはずっと、『日本に帰ってきたら一緒にやろう』という話はしとるもんな! どこになるか、場所はわからんけど……」
さらに、2人には第三者には見えない絆がある。
NBAでの昨シーズン終盤、渡邊がメンタル面で苦しんでいたとき、頻繁に連絡してきたのが富樫だったという。世間にはそういう素振りは見せず、人の目につかないところで気を使うのが富樫なのだ。
ただ、先のイベントで渡邊はこんな苦言を呈していた。
「勇樹とご飯に行っても、こいつは携帯しか触らんのよ、ホンマに、ずーーっと携帯触っとる。こっちが喋りかけても『うん』とかしか言わない(笑)」
そんな風に言われる富樫なのに、いや、目の前にいる相手とスマホの先にいる相手と2人同時にコミュニケーションを取れる富樫だからこそ、それだけ頻繁に渡邊に連絡を取れたのかもしれない。
目の前にはパリ五輪が控えているが、それが終われば、渡邊を見たいというファンが、ジェッツのホームゲームにもアウェーゲームにも殺到するだろう。チケット争奪戦がやってくるのは間違いない。ただ、そこまで注目されるのは、それだけ多くのものを渡邊が言葉と背中で表現したからに他ならない——。
「日本では長い時間出場することになるだろうから」
そういえば今年の5月30日、リーグも協力して、華々しく行なわれた元日本代表のニック・ファジーカスの引退試合でのこと。渡邊はそこにサプライズゲストとして参加したのだが、NBAでプレーした経験のあるファジーカスから、こう伝えられている。
「これからは相当疲れると思うよ。僕もそうだったけど、NBAではそれほど長い時間出場していなくても、日本では長い時間出場することになるだろうからね。大変だよ(笑)」
10月5日、ジェッツにとって2024−25シーズン初めての試合は、新アリーナでのホームゲームだ。迎える相手は田臥勇太や比江島慎の所属する宇都宮ブレックスである。
きっと世間は放っておかない。渡邊は10月13日には30歳になるが、日本中の期待と喜びを一心に受けながら、目の回るような30代をスタートさせることになる。
文=ミムラユウスケ
photograph by (L)JIJI PRESS、(R)FIBA