「自作じさくPCに未来みらいはない」：5年ねん後ごの秋葉原あきはばらを歩あるく 第だい3回かい（1/3 ページ）

[古田ふるた雄介ゆうすけ，ITmedia]

　Windows 95発売はつばい前後ぜんこうから現在げんざいまで、PCパーツショップは10年ねん以上いじょうもアキバの看板かんばんを背負せおい続つづけている。最近さいきんはアニメやフィギュア、メイド喫茶きっさなどのサブカルチャーショップが台頭たいとうしているが、第だい2回かいのインタビュー（「“メイドさん”の現在げんざいと未来みらい」）を踏ふまえると、次代じだいを担になう産業さんぎょうと断定だんていするのはまだ早はやいと思おもわれる。ならば、PCパーツショップは今後こんごも“アキバの顔かお”であり続つづけるのか。第だい3回かいは、PCパーツショップにアキバの未来みらいを語かたってもらった。

　協力きょうりょくしていただいたのは、1993年ねんに設立せつりつしたアキバの老舗しにせショップ・USER'S SIDE。創業そうぎょう時じからのスタッフである小林こばやし氏しに、アキバの現状げんじょうから日本にっぽんの自作じさくPC市場いちばの問題もんだい点てんに至いたるまで、歯はに衣ころも着きせぬ率直そっちょくな意見いけんを伺うかがった。

日本にっぽんの自作じさくPC市場いちばに未来みらいはない

　「数すう万まん円えんのCPUを販売はんばいしても1000円えん以下いかの利益りえきにしかならない」とは、昔むかしからPCパーツショップの店員てんいんさんが口くちにする恒例こうれいの台詞せりふだ。Windows 95と98の登場とうじょうで大だいブレイクした自作じさくPC市場いちばは、一方いっぽうで当事とうじ者しゃから“儲もうからない”という愚痴ぐちがついて回まわる不思議ふしぎな業界ぎょうかいでもある。これが単たんなる悲観ひかん主義しゅぎでないことを、小林こばやし氏しは力説りきせつする。

――PCパーツの安売やすうり競争きょうそうが続つづいている感かんがありますが、自作じさくPCブームが去さった現在げんざい、いつかは流ながれが変かわるのでしょうか？

小林こばやし　この業界ぎょうかいがなくなるまで終おわらないでしょう。問題もんだいはこの業界ぎょうかいがブローカー（※1）とバッタ屋や（※2）で成立せいりつしていること。そもそもこの業界ぎょうかいは一種いっしゅのファイナンス商売しょうばい。PC業界ぎょうかいと思おもってはいけない。金儲かねもうけしか興味きょうみのない連中れんちゅうが、たまたま利益りえき率りつの高たかいPC関連かんれん商品しょうひんを扱あつかっているに過すぎません。そして何なんの規制きせいもないから、飲食いんしょく店てんやほかの品物しなものをあつかう業界ぎょうかいよりも好すき放題ほうだいできる。つまり、自分じぶんさえ儲もうかれば何なにやってもいいという風潮ふうちょうになっている。

※1　ここでは、メーカーと小売こうり店てんを取とり次つぐ卸業者おろしぎょうしゃを指さしている。

※2　ここでは、まがい物ものや不正ふせいな品物しなものを正規せいき品ひんのように販売はんばいする一部いちぶの小売こうり店てんを、多少たしょうの罵倒ばとうを含ふくめて指さしている。

注記ちゅうきを一部いちぶ訂正ていせいいたしました。

――普通ふつうに営業えいぎょうしては、小売こうり店てんが利益りえきを得える状態じょうたいではないということでしょうか？

小林こばやし　そうです。小売こうり店てんの中なかにはバッタ屋やがいる。あるショップは定てい格かく140ワットの電源でんげんに250ワットのラベルを貼はって売うっていた。こちらも忙いそがしいからいちいち突つっ込こまないけど、普通ふつうの業界ぎょうかいじゃ考かんがえられない行為こういじゃないですか。そこまでひどいのはめずらしいですが、現在げんざいならVista Premiumマシンなのにメモリ512Mバイトのラインアップを用意よういして“激げき安やすVistaマシン”を標榜ひょうぼうするショップはザラ。PCをあつかうことに誇ほこりがあれば、そんな売うり方かたできないでしょ。卸業者おろしぎょうしゃにしろ、小売こうり店てんにしろ、コンピューターのことをよく知しっている経営けいえい者しゃが少すくなすぎるのが問題もんだいだと思おもっています。

――そのような状況じょうきょうになってしまった原因げんいんは？

小林こばやし　Windows 95が登場とうじょうした前後ぜんご、「自作じさくは安やすい」と知しられ最初さいしょの自作じさくPCブームが起おこった頃ころ、あるPCパーツショップがアキバに進出しんしゅつして、安売やすうり攻勢こうせいを仕掛しかけたのがきっかけでしょうか。当時とうじは不合理ふごうりにPCパーツが高たかかったので、業界ぎょうかいに価格かかく破壊はかいを起おこしたそのショップの意義いぎは確たしかにありました。

　ただ、成功せいこうのあまり一線いっせんを越こえてしまったんです。まともな利益りえきを確保かくほできるラインを越こえて安売やすうりを続つづけてしまった。こうなると、周囲しゅういのショップも限度げんどを超こえた価格かかくに合あわせていくしかなくなります。すると、どこのショップも、卸おろし価格かかくに上乗うわのせする利益りえきがどんどん薄うすくなっていく。それでも安売やすうりは止とまりませんから、現在げんざいに至いたるまで業界ぎょうかい全体ぜんたいで苦くるしみ続つづけることになったんです。

　これは一般いっぱん論ろんだけど、“価格かかくを破壊はかいするとその産業さんぎょう自体じたいが壊こわれ”ます。自作じさくPC市場いちばはその典型てんけいになってしまいましたね。また、“ディスカウンター（安売やすうり業者ぎょうしゃ）が生いき残のこった歴史れきしはない”という定理ていりも、ぴったり当あてはまります。

――PC-Successが閉店へいてんしたのも、自然しぜんの流ながれということですか？

小林こばやし　PC-Successは安売やすうりの典型てんけい例れいだったからね。2年ねん前まえから倒産とうさんの噂うわさが立たっていましたが、一いち度どは盛もり返かえしたようです。業界ぎょうかい全体ぜんたいの不ふ況きょうもあって、結局けっきょく駄目だめになりましたが。正直しょうじき、安売やすうりに注力ちゅうりょくしているショップは他人事たにんごとではないでしょうね。

――ちなみに自作じさくPC市場いちばが「儲もうからない」「危機きき的てき状況じょうきょうにある」のは、世界せかい的てきな情勢じょうせいなのでしょうか？

小林こばやし　自作じさくPC市場いちばは世界せかい的てきにも縮小しゅくしょう傾向けいこうにありますが、急激きゅうげきに低下ていかしているのは日本にっぽんだけです。先さきに述のべた過度かどの安売やすうりが蔓延まんえんしたことが大おおきい。さらに、日本にっぽんは家電かでんやケータイが飛とび抜ぬけて優秀ゆうしゅうです。ネットブラウジングやTV視聴しちょう／録画ろくが程度ていどなら、PCよりも家電かでんやケータイを使つかったほうが便利べんりで分わかりやすい。つまり、日本にっぽんのPC業界ぎょうかいは、世界せかい的てきに見みても一般いっぱん層そうを取とり込こみにくい環境かんきょうにあるわけです。わざわざ自分じぶんでパーツを組くみ立たててまでPCを使つかう人ひとはさらに限かぎられる。それこそ趣味しゅみの世界せかいです。PCパーツショップに引ひっ張ぱられるように完成かんせい品ひんのPCも安やすくなり、「自作じさくPCは安やすい」の前提ぜんていが崩くずれたいま、ニーズが減へるのは自然しぜんでしょう。